説明

リニューアル用のエレベータ乗りかご

【課題】エレベータのリニューアルに当り、その新規の乗りかごの構成を小さくすることなく、かつ操作盤の配置の位置を変えることなく、乗客にとってのその操作盤に対する操作性および視認性を良好に保つことができるリニューアル用の乗りかごを提供する。
【解決手段】エレベータの乗りかごをリニューアルにより取り替える場合であって、乗りかご1の入口柱9,10の乗客通路面9a,9bと、乗りかご1の側板7a,7bとの間のクリアランスに関し、新規のエレベータでの前記クリアランスH1が、既存のエレベータでの前記クリアランスh1に対し、前記かごドア装置3の戸開側ではLmmだけ小さく、戸当たり側ではLmmだけ大きく、かつかごドア装置3の戸開側の前記入口柱9から側板7aに渡って傾斜して設けられるかごドア側内壁構成材15の前記傾斜角度が30〜45°に設定され、このかごドア側内壁構成材15に操作盤16が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータのリニューアルに際し、既存のエレベータの乗りかごと取り替えるためのリニューアル用のエレベータ乗りかごに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのリニューアルに当っては、既存のエレベータの乗りかごを新規のリニューアル用の乗りかごと取り替えるわけであるが、その新規の乗りかごを既存の乗りかごと同じ寸法取りとすることができないことがある。
【0003】
図5(A)には既存のエレベータを示してあり、この既存のエレベータは乗りかご1を油圧ジャッキ2で駆動する油圧ジャッキ式となっている。なお、3は乗りかご1の出入口を開閉するかご側ドア装置、4は建物のエレベータ出入口を開閉する建物側ドア装置である。
【0004】
この油圧ジャッキ式の既存のエレベータを図5(B)に示すように巻上機5を用いて乗りかご1を駆動する巻上機式のエレベータにリニューアルする場合がある。油圧ジャッキ式を巻上機式にリニューアルする理由としては、巻上機式では油を使用しないため、臭い、危険、不衛生ということがなくなり、またランニングコスト(電気代)も1/2以下に削減できるなどのメリットがあるからである。
【0005】
油圧ジャッキ式ではその駆動系が乗りかご1の背面側や側面側に配置され、巻上機式ではその駆動系を配置させる空間が油圧ジャッキ式のものより広くなり、このようなことから油圧ジャッキ式から巻上機式にリニューアルする場合には乗りかご1の寸法取りも変えることが必要となる。
【0006】
ただ、乗りかご1の寸法取りを変える場合であっても、建物管理側の経済上の要望等で、建物側ドア装置4は既存のままとすることがあり、この場合、乗りかご1はかご側ドア装置3に関する寸法は既存のままとし、そのかご側ドア装置3を基準にして乗りかご1の本体の寸法取りすなわち側板の位置を変えることになる。
【0007】
乗りかご1は、その前面の出入口の両側に入口柱を有し、その出入口の前部に片開き式のかご側ドア装置3が設けられている。前記一方の入口柱から乗りかご1の奥方側に渡っては、かご側ドア装置3のドアパネルの移動方向に対して傾斜して乗りかご1の側板にまで延びるかごドア側内壁構成材が設けられ、この内壁構成材に操作盤が設けられている。
【0008】
操作盤には、乗客が操作する行先階登録ボタンやかご側ドア装置3を開閉操作するための開閉ボタンが設けられている。操作盤は内壁構成材と共にかご側ドア装置3のドアパネルの移動方向に対して傾斜しており、この傾斜により乗りかご1に乗り込む乗客がその向きを大きく変えることなく行先階登録ボタンや開閉ボタンをスムーズに操作することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上述のような状況のもとでのリニューアルに際し、かご側ドア装置3に関する寸法を既存のままに保つために、前記入口柱の位置は既存のままの位置とし、その入口柱に前記内壁構成材を介して連なる側板の位置をその内側に移動する位置に変えて新規のリニューアル用の乗りかごとする場合、前記内壁構成材の傾斜の角度を既存の乗りかごの場合と同じ角度とすると、その内壁構成材の幅が小さくなり、操作盤を取り付けることができなくなる。
【0010】
したがってこの場合には、操作盤を既存の乗りかごのときの位置とは異なる乗りかごの横側部分に取り付けることになるが、操作盤の位置が変わると、長年使ってきたエレベータの使い勝手が悪くなる。特に弱視者に対しては、使い慣れたエレベータの操作盤の位置が変わると、不安や戸惑いを与えてしまう懸念があり、できるかぎり操作盤の位置は変えるべきではない。
【0011】
これについて本発明者は人間工学的見地から検討を加えた。この検討の内容を図3および図4を参照して述べる。図3および図4には、既存のエレベータの乗りかごに取り替えるリニューアル用の乗りかご1の出入口部分の構成を示してあり、乗りかご1は側板7a,7bを有し、これら側板7a,7bの前部側が出入口8となっており、この出入口8の両側に入口柱9,10が設けられ、また出入口8の前部に片開き式のかご側ドア装置3が設けられている。
【0012】
片開き式のかご側ドア装置3は、敷居11に沿って乗りかご1の左右方向に移動する一対のドアパネル3a,3bを備え、その一対のドアパネル3a,3bが段違い状に位置をずらして配置することにより出入口8が閉鎖され、この状態から一対のドアパネル3a,3bが出入口8の一側方の戸袋部12に向かって移動し、この移動で出入口8が開放される。
【0013】
前記戸袋部12側に配置する一方の入口柱9から乗りかご1の奥方側に渡っては、かご側ドア装置3のドアパネル3a,3bの移動方向に対して傾斜して乗りかご1の側板7aにまで延びるかごドア側内壁構成材15が設けられ、この内壁構成材15に操作盤16が設けられている。
【0014】
操作盤16には、乗客が操作する行先階登録ボタンやかご側ドア装置3を開閉操作するための開閉ボタンが設けられている。操作盤16は内壁構成材15と共にかご側ドア装置3のドアパネル3a,3bの移動方向に対して傾斜しており、この傾斜により乗りかご1に乗り込む乗客がその向きを大きく変えることなく行先階登録ボタンや開閉ボタンをスムーズに操作することができる。
【0015】
図2に示す鎖線Sは、既存のエレベータにおける乗りかごの側板の位置を示してあり、リニューアル用の乗りかご1の側板7a,7bはその既存のエレベータの乗りかごの側板の位置Sより図の左側にそれぞれLmmだけずれた位置に配置されている。
【0016】
なお、この検討には、参考資料として、「人間工学資料集−使いやすいユーザー・インターフェース開発のために−」発行者:商品試験センター、発行:平成6年9月を参照した。図に表わした人のサイズは成人男子であり、女性および子供はこのサイズの範囲内に含まれる。
【0017】
検討した点は以下の点である。
【0018】
(イ)乗客(弱視者)21が操作盤16を覗いたときのかごドア側内壁構成材15(操作盤16を含む)の傾斜角度αについて。
【0019】
(ロ)前記傾斜角度αと乗りかご1内の乗客21の視認性について。
【0020】
まず(イ)について述べる。乗客である弱視者21が操作盤16で行先階を操作する上で顔を操作盤16に近づけることが想定される。傾斜角度αは、既に提案されている技術では24°が好ましいとされているが、この発明ではリニューアルのために乗りかご1の側板7a,7bが既存の乗りかごの場合より戸袋部12の反対側にLmmだけ移動した構成の場合を対象としており、このため傾斜角度αが24°では図3(A)に示すように弱視者21の肩が側板7aに当り、操作をする上での使い勝手が悪い。
【0021】
そこで、傾斜角度αを図3(B),(C)に示すように、30°以上とすると、弱視者21の肩が側板7aに僅かに触れる場合があるが、弱視者21と人の視野範囲を考慮すると、問題にはならないと考えられる。
【0022】
次に、(ロ)について図4を参照して述べる。乗りかご1を前方側から見たときにおいて、乗客21が乗りかご1内の左奥と右手前に配置するときに操作盤16に対する視認性を考える。
【0023】
人の視野角は90°を越えると、遠近のひずみと視差による誤差を生じ、情報の誤認率と確認のための時間が増加する。これを考慮とすると、かごドア側内壁構成材15の傾斜角度αは45°がよい。
【0024】
この発明はこのような点を踏まえてなされたもので、既存のエレベータの乗りかごを新規の乗りかごに取り替える場合において、その新規の乗りかごの構成を小さくすることなく、かつ操作盤の配置の位置を変えることなく、乗客にとってのその操作盤に対する操作性および視認性を良好に保つことができるリニューアル用の乗りかごを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この発明は、片開き式のかごドア装置を備えるエレベータの乗りかごをリニューアルにより取り替える場合であって、乗りかごの出入口に前記ドア装置に隣接して設けられる入口柱の乗客通路面と、乗りかごの側部の側板との間のクリアランスに関し、新規のエレベータの乗りかごにおける前記クリアランスが、既存のエレベータの乗りかごにおける前記クリアランスに対し、前記入口柱の位置が新規と既存とで同じである状態において、前記かごドア装置の戸開側ではLmmだけ小さく、戸当たり側ではLmmだけ大きい関係にあり、かつかごドア装置の戸開側の前記入口柱から側板に渡って傾斜して設けられるかごドア側内壁構成材の前記傾斜角度が30〜45°に設定され、このかごドア側内壁構成材に操作盤が設けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、既存のエレベータの乗りかごを新規の乗りかごに取り替える場合において、その新規の乗りかごの構成を小さくすることなく、かつ操作盤の配置の位置を変えることなく、乗客にとってのその操作盤に対する操作性および視認性を良好に保つことができるリニューアル用の乗りかごを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態について図1および図2を参照して説明する。なお、図3および図4示す構成部分と同一の部分には同一の符号を付してその重複する説明を省略する。
【0028】
図1は、乗りかご1をその内部後方から前方側を見たときの外観構成図で、図2は乗りかご1の前部の平面構成図である。乗りかご1の出入口8に設けられた入口柱9,10の出入口8に向く面がそれぞれ乗客通路面9a,10aとなっている。
【0029】
出入口8に設けられたかご側ドア装置3のドアパネル3a,3bは、入口柱9,10に隣接して配置され、戸閉時にはドアパネル3aが入口柱10の戸当たり部10aに当り、戸開時にはドアパネル3a,3bが戸袋部12に向く戸開側に移動する。
【0030】
この乗りかご1は、既存のエレベータの乗りかごと取り替えるリニューアル用の乗りかごであり、入口柱9,10の位置は図5に示す建物側ドア装置4との対応の関係で既存のエレベータにおける乗りかごの入口柱の位置と同じとなっている。
【0031】
図2に示す鎖線Sの位置は、既存のエレベータにおける乗りかごの側板の位置であり、リニューアル用の乗りかご1の側板7a,7bは実線で示してある。リニューアル用の乗りかご1の側板7a,7bの位置は、既存のエレベータの乗りかごの鎖線で示す側板の位置Sよりかご側ドア装置3の戸当たり側にそれぞれLmmだけずれた位置となっている。
【0032】
すなわち、リニューアル用の乗りかご1の戸開側における入口柱9の乗客通路面9aと側板7aとの間のクリアランスH1は、既存のエレベータの乗りかごの戸開側における入口柱の乗客通路面とその乗りかごの側板Sとの間のクリアランスh1に対してLmmだけ小さい関係あり、またリニューアル用の乗りかご1の戸当たり側における入口柱10の乗客通路面10aと側板7bとの間のクリアランスH2は、既存のエレベータの乗りかごの戸当たり側における入口柱の乗客通路面とその乗りかごの側板Sとの間のクリアランスh2に対してLmmだけ大きい関係ある。したがって、リニューアル用の乗りかご1の床面積は既存のエレベータの乗りかごの床面積と同じで、既存のエレベータの乗りかごと同じ容量を確保することができる。
【0033】
そして、リニューアル用の乗りかご1の戸開側の入口柱9から側板7aに渡ってかごドア側内壁構成材15が傾斜して設けられ、この内壁構成材15に操作盤16が設けられ、この内壁構成材15の傾斜の角度αが30〜45°の範囲内の角度となっている。
【0034】
このようにこのリニューアル用の乗りかご1においては、操作盤16を備えるかごドア側内壁構成材15の配置の位置が変わらず、その傾斜の角度が30〜45°の範囲となっており、したがって前述の検討の結果の通り、乗客にとってのその操作盤16に対する操作性および視認性を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の一実施形態に係るリニューアル用の乗りかごの内部構造を示す外観構成図。
【図2】その乗りかごの前部の平面構成図。
【図3】乗りかごの操作盤に対する操作性についての説明図。
【図4】乗りかごの操作盤に対する操作性についての説明図。
【図5】エレベータのリニューアルの一例を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0036】
1…乗りかご
2…油圧ジャッキ
3…かご側ドア装置
3a.3b…ドアパネル
4…建物側ドア装置
5…巻上機
7a.7b…側板
8…出入口
9.10…入口柱
9a.10a…乗客通路面
11…敷居
12…戸袋部
15…ドア側内壁構成材
16…操作盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片開き式のかごドア装置を備えるエレベータの乗りかごをリニューアルにより取り替える場合であって、乗りかごの出入口に前記ドア装置に隣接して設けられる入口柱の乗客通路面と、乗りかごの側部の側板との間のクリアランスに関し、新規のエレベータの乗りかごにおける前記クリアランスが、既存のエレベータの乗りかごにおける前記クリアランスに対し、前記入口柱の位置が新規と既存とで同じである状態において、前記かごドア装置の戸開側ではLmmだけ小さく、戸当たり側ではLmmだけ大きい関係にあり、かつかごドア装置の戸開側の前記入口柱から側板に渡って傾斜して設けられるかごドア側内壁構成材の前記傾斜角度が30〜45°に設定され、このかごドア側内壁構成材に操作盤が設けられることを特徴とするリニューアル用のエレベータ乗りかご。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate