説明

リハビリ教育用患者模擬ロボット並びにリハビリ教育方法

【課題】実際の生身の患者に類似した応答を示し、リハビリの訓練・教育に適したリハビリ教育用患者模擬ロボットを提供することを目的とする。
【解決手段】コンピュータに予め症例に応じたリハビリの標準施術モードを入力しておき、回動可能な2部材接合により構成される関節が所定のトレーニングにより受ける荷重の変化を測定し、上記標準施術モードと比較して評価するようにした。これにより、リハビリのトレーニングを反復して行なえると共に、高度のリハビリ技術を短期間で習得できるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や怪我人、病人の身体の機能回復に携わる理学療養士のトレーニングに適したリハビリ教育用患者模擬ロボット並びにリハビリ教育方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傷害や疾病によって身体に障害を受けた人が社会に復帰しその生活の質を向上させるには適切なリハビリテーションを受けることのできる医療システムの構築が必要である。これは特に超高齢化社会を迎える我が国にとって重要な課題である。このシステム中で重要な役割を担う理学療法士の数は人口比で欧米の7分の1と極めて少なく、その充実が強く望まれている。
【0003】
そして近年このような社会の要請を受けて各地にリハビリテーションの専門学校や大学が設置されている。これらの教育機関では治療手技を身につけるための実習が重視されているが、実際に障害を持つ患者に対して実習できる機会は極めて少ない。一番多く行われているのは、学生同士で一方が患者役になって実習を行うことであり、これは患者の立場を知るということで意味のあることであるが、実際に障害のある患者に接する経験はできない。また時には実際の患者に実習に協力してもらう湯合もあるが、各学生が十分に実習を行う機会はなく、経験のできる症状も限られる。
【0004】
傷害や病気により身体に障害を負った人たちの一日も早い社会復帰や生活の質(Quality of Life)の向上のためのリハビリテーションの人材の育成は、今後高齢化社会を迎える我か国にとって、火急の課題である。
【0005】
一方、近年、各種ロボットの開発が盛んであり、関節部分にセンサを配設して関節部分の可動臨界範囲に達したことと関節部分に加わる力の大きさを測定できるものが既に発表されているが、関節に加わる力がある一定の値(可動臨界範囲)に達することだけを判断するようにしているが、実際の生身の人間では、関節を同じ状態に曲げる場合でも、急激に曲げるのと、徐々に曲げるのでは感じ方、関節に対する負担に差が生ずることが殆ど無視されている。
【0006】
一般に下肢や上肢の関節のリハビリは筋肉が萎縮しているものに適度の刺激を与えて曲げ、延ばしができる範囲を徐々に拡大していくことにより、それまでできなかった範囲へ可動範囲を広げて行くことであって、どこまで延ばしたり曲げたりしたら痛いかという臨界状態を認識するだけではないので、今まで提供されている上記のような教育用患者模擬ロボットでは、第1に、評価の手法が実際のリハビリの訓練で習得したい状態と乖離し過ぎていること、第2に、模擬関節の応答が画一過ぎて、こちらの方の感触も人体の反応からは乖離しすぎていて、高度なトレーニングの患者模擬ロボットとしては物足りないのが実情であり、これらを解決しトレーニングに適した教育用患者模擬ロボットの出現が望まれていた。
【特許文献1】特許公開2004−309389
【特許文献2】特許公開2004−309916
【特許文献3】特許公開2004−309917
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況を鑑み、コンピュータによって制御・管理され、プログラムの切り替えにより、様々な機能不全の症状を模擬でき、しかも関節の状態を変化させる過程(変化の加速度)を評価し、実際の生身の人間の感じ方に即した評価をしてリハビリの練習台になり、しかも訓練生のトレーニングの動作に対して人間の関節に似た応答が可能なロボット(人体模型)を開発することによって、現状が少しでも改善され、リハビリに携わる人材の早期・高質な養成に寄与できると考え、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主たる特徴は、予め症例に応じたリハビリの標準施術モードが入力されたコンピュータに、回動可能な2部材の接合により構成された関節を、所定のトレーニングにより受ける荷重の変化が測定可能であり、かつ上記標準施術モードと比較して評価が可能に接続したことである。
【0009】
そして第2には、予め症例に応じたリハビリの標準施術モードが入力されたコンピュータに、回動可能な2部材の接合により構成されると共に接合部分の回動抵抗がその症例に対応して変化可能に構成された関節を、所定のトレーニングにより受ける荷重の変化が測定可能であり、かつ上記標準施術モードと比較して評価が可能に接続したことである。

【発明の効果】
【0010】
本発明にあっては上述のように、予め症例に応じたリハビリの標準施術モードが入力されたコンピュータに、回動可能な2部材の接合により構成された関節を、所定のトレーニングにより受ける荷重の変化が測定可能であり、かつ上記標準施術モードと比較して評価が可能に接続したものであり、この装置を用いたロボットでは、関節に加わる臨界点の大小のみを数値として評価するものではなく、その臨界点に至る過程を測定し、標準モードと比較して評価することができるものであって、訓練生がどのような力の入れ具合で臨界範囲にまで関節を曲げたり延ばしたりすれば患者に身体的苦痛や負担を与えることなくトレーニングができるかを習得することができる大きな利点がある。
【0011】
この場合、関節部分に例えばモータ等のアクチュエータを接続し、関節部分の回動や捩れの受動に対応して、その動きを検知し、刻々と変化する動きに対応するようにコンピュータで制御すること、例えば素早い動きに対しては運動時の抵抗が大きくなり、ゆっくりした動きの時は抵抗が小さくなる如く、人間の関節の受動時に酷似した運動抵抗を擬制することにより、実際の人間を相手にトレーニングを行なうような自然感を達成できるものである。即ち、人間の関節では、屈伸の負荷が加わった場合、その負荷の加わり方に応答して、自然と抵抗するように力が生じるものであるが、単に受動的な画一的な機械抵抗ではなく、外力に対して刻々と変化する動きを関節に持たせるものである。そして更には、同じ施術に対しても、健常人と障害患者とでは差異があることは勿論であるが、同じような症例、例えば膝が曲がり難いと云う症状でも、その程度に応じてリハビリ時の施術に対し、筋肉の応答には差が生じるもので、この差を予め標準施術モードに対応して関節の抵抗として変化するように、予めコンピュータに関節の対応モードを入力して、それを関節の応答抵抗の刻々の変化として発現させることにより、より生身の患者に近い応答感触を実現させようとするものである。
【0012】
また、更に所定のトレーニングの積重ねにより、上記標準モードが回復モードへ移行するようにすることで、関節に加わえられたトレーニングの過程を記憶させ、予めプリセットされた治癒過程を訓練生に習得させることができるので、訓練生の技法習得段階に応じた適切なトレーニングを行なうことができる。この場合、トレーニングの積重ねのインターバルに応じて、回復モードに変化を持たせることもできる。例えば毎日のトレーニングの積重ねに比して、数日を置いた積重ねの方の回復度が低くなる等の差を設定することができる。
【0013】
勿論、標準施術モードを症例に応じて複数設定して選択可能とすることにより、軽度の障害から重度の障害まで幅広く対応して訓練生のトレーニングを行なうことができるものである。
【0014】
また、コンピュータには、施術訓練生毎に各自の実績を記録し、その記録を呼び出して書き換え再記録が可能にしておけば、各訓練生を画一的にトレーニングするのではなく、訓練生の個々の技法の習得度に応じて適切なトレーニングを積重ねることが出来て、個々の個性に応じて柔軟に対応できる利点がある。
【0015】
過度の加圧の程度に応じて反応するようにしておけば、例えば力を入れ過ぎた時に生身の患者であれば、「痛い!」と言って顔をしかめたり、そっぽを向いて拒否するような態度を示す擬声、擬態を表現して、より人間に対する施術に近いリハビリの訓練を行なうことができる。
【0016】
荷重の変化の測定が関節の回転方向と捩れ方向の双方を含むようにしておけば、リハビリの訓練を、実際の関節に近い感触で訓練を行なうことができる。
【0017】
このように本発明ロボットを用いたリハビリ教育方法にあっては、単にロボットを人間の代用として用いるに止まるものではなく、実際の患者に対してと同レベルの反応を感じてリハビリの教育を遂行できて、より早くより高度のカリキュラムを実施し、訓練生に早期に高度の施術方法を習得させることができるものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
人体模型において、図1のように頭部1は首2と、上腕3は肩5と、下腕4は上腕3と、手6は下腕4と、上脚7は骨盤9と、下脚8は上脚7と、そして足10は下脚8と、それぞれ関節11で回転、捻転可能に接合される。そして関節11の一例は図2に示される。これらの骨格分部はそのままでも良いが、好ましくは発泡ゴムやウレタンフォーム等筋肉部材12で人体の感触、質感を持たせるのが良い。本発明はこれらのいずれの部位にも適用できる。
【0019】
関節11は図2のように、いずれも第1部位12と第2部位13を継手14、15で好ましくはユニバーサルジョイント的に互いにいずれの方向にも回転可能に接続すればよいが、一軸的に回転可能な単純接合でも構わない。継手14、15の近傍には回転や捻転の変化、大きさ、変化度等を検知するセンサ16が設けられ、継手14、15に加わる荷重の大きさ、変化の状態を認識できるようになっている。臨界点の認識は、センサ16の感度、位置を調整することにより、種々に変更が可能である。
【0020】
本発明は、上記のような関節11にコンピュータ17を連係させる。図3のように関節11に装備されたセンサ16からの測定データがコンピュータ17に送信され、解析されて、予めコンピュータ17にプリセットされた標準施術モードと対比、評価されるもので、ディスプレイ18に表示したり、プリンタ19により紙面20に印刷したりすることができる。
【0021】
コンピュータには施術の力を入れていく過程の標準パターンと許容範囲を予めプリセットしておき、施術者の実際の入力過程を測定してそれが許容範囲に含まれるかどうか判定する。早く力を知れすぎのパターン、力を入れるタイミングが遅い場合はクリアできずにはじき出される。若干外れた程度の場合はやり直しとなるが、余り外れの程度が大きすぎる場合は装置を停止させることになる。
【0022】
そして必要に応じて、適宜表示装置に反応させることができ、例えば状態に応じて色が変化するようにしても良いし、「適正です(或いは気持ちが良いです)」、「力を入れ過ぎです(痛いです)」、「力が入ってません(効いていません)」とか音声で表示するようにしても良い。
【0023】
更に、コンピュータには必要に応じて学習機能を持たせることができる。図6はその一例を示すもので、先ずコンピュータを起動させ、目的のパターンを選択する。膝であれば、5段階の中から選べるなど、自由に設定することができる。次に施術者の氏名を入力し、前回のデータに引き続き行うのであればそれを呼び出し、初めてであれば初期設定状態から訓練を開始する。
【0024】
そして訓練を開始し、関節11に力を加えて回動させる。関節11はX、Y、Z軸周りのいずれにも回動自在なユニバーサル継手を採用することができる。この場合はそれぞれの軸周りの回動を感知するセンサ16を設ける。図2は1軸周りの回動のみを感知するシンプルな例を示すもので、第1部位12、第2部位13を継手14、15で回動自在に接続し、一方にその回動に連動して回転するモータをセンサ16として配置されていて、その回動の過程に応じて発電される発電量をパラメータとして力の加わる状態を測定することができる。ここでは、関節部分の抵抗の有無、即ち受動的、自動制御によるもののいずれの場合でも、関節の回動の変化度合いは測定ができる。
【0025】
その施術のパターンが標準パターンの許容範囲に含まれておれば、1つのプロセスを終了して次のステップに移行する。ここで、標準パターンから少し外れている場合はもう一度やり直すことになり、大幅にずれている場合は即刻停止となる。これらの過程はコンピュータに登録されて終了する。
【0026】
一旦登録された施術者が2回目以降に施術の訓練を行なう時は、上記のような学習された後の状態から訓練を続けることになり、予め設定された過程を終えることで訓練を積重ねて終了することができる。
【0027】
関節11に自動回動機能を付加した場合は、設定した障害度に応じた範囲の屈伸を自動で行なえるものあるが、この場合、更に上記学習のプログラムを持たせると、施術者が関節11に抵抗を加える操作を繰り返すにつれて、膝等の伸展力が増す、或いは屈伸可能範囲が拡大される等、学習に基づく機能回復状態を表現することができる。
【0028】
(単一モードの訓練)
最もシンプルな訓練は、第1部位12と第2部位13を所定角度だけ屈伸させる訓練である。その場合の標準モードA曲線と、上限B曲線及び下限C曲線に囲まれた許容範囲が予めコンピュータ17にプリセットされている。コンピュータ17を起動し、第1部位12と第2部位13を屈伸させていくと、その変化の強さ、速さをセンサ16で測定してコンピュータ17にデータを送信する。その訓練生の屈伸動作に応じて測定されたデータは上記許容範囲からの外れの有無をチェックし、外れていなければ合格、外れておれば不合格と評価する。合格の場合でも、標準施術モードとの近い度合いに応じてランク評価をすることができ、不合格の場合でも、許容範囲からの外れ度に応じてランク評価をすることができる。そして、合格を何回か重ねれば次のステップに進めるというようにすることができる。ここで、許容範囲を外れた場合、「痛い!」と声を出したり、以後、関節部分にブレーキが掛かって動かなくなるようにできる。この場合は、リセット操作することにより復元する。
【0029】
(複数モードの訓練)
コンピュータ17にプリセットされる上記標準モードとその許容範囲を、複数の訓練対象症例分だけ対応させておき、そのモードを選択することにより、複数のリハビリの訓練に適用できる。勿論、各症例に応じた数だけ本発明のセットを用意して対応することもできる。
【0030】
(学習機能の付与)
コンピュータ17に、毎回の訓練結果を記憶し、その集積により、所定の合格回数に達すると、その症例に対する訓練を終了と評価する。
【0031】
(症状の緩和に対する対応)
通常、リハビリを受けると、その積重ねに対応して、障害のあった部位の可動範囲が拡大するなどの緩和状態になる。これに対応して、コンピュータ17に予め一つの症状、例えば膝が曲がらない場合を例にとると、膝は最初130度しか後に曲げられないが、リハビリを重ねることにより後に180度まで曲げられて正座ができるようになる過程を想定し、これを模擬して予めコンピュータ17に所定の訓練を受け、合格すると、順次その膝の屈伸角度が広がっていく状態をプリセットしておくことができる。このようにしておくと、適正な訓練を積重ねていくことにより、膝の屈伸機能が回復するのに対応した高度な訓練を行なえる。
【0032】
(複数の訓練生に対する対応)
次にコンピュータ17に複数の訓練生を一人一人別途に登録し、個々の訓練結果を記録することができるようにし、目的とするトレーニングの症状や、その進み具合にばらつきがあっても、単一のセットで多数の訓練生に対応する。
【0033】
(下肢リハビリ訓練ロボットの例)
図4、図5は臀部に下半身を連接したモデルの例を示すもので、股関節と膝関節を併せ持つ下肢リハビリ訓練ロボットを示す。ベース40の一端に骨盤部21を装着し、股関節部22を介して大腿部23が後方向へは約15度、前方向へは約125度の範囲で回動自在に接続され、大腿部23の先端には膝関節部24を介して下腿部25が伸ばした状態から後方向へ130度の範囲で回動自在に接続される。下腿部25には踝関節部26を介して足首部27が回動自在に接続される。これらの外方は軟質ウレタンフォームなどの材質の皮膚外皮部28で被われる。
【0034】
ベース40は机などに載せられるが、必要に応じて適宜ウエイト29を増減させ、安定性を調整することができる。また図示例では、股関節部22の両側にモータM1、M2を配置して、モータM1を股関節部22に直結して大腿部23を直接駆動すると共にベルト36を介して膝関節24にモータM2を接続して下腿部25を駆動する。また膝関節部24近傍には力センサ30が配設され、屈伸する際のトルクを検出できるようにし、膝関節部24の回動及び捩れの変化(加速度、強さ)を検出する。膝関節部24の曲げ角度の臨界点は、膝関節ストッパ調整ネジ35の操作により膝関節ストッパ30の設置角度を変更して調節できる。
【0035】
図中、32は下肢部固定ノブ、33は下肢部回転ロケートピン、34は股関節ストッパ調整ネジであって、股関節部22の曲げ角度の臨界点を股関節ストッパ調整ネジ34で変更できる。また下肢部回転ロケートピン33を外し下肢部固定ノブ32を緩めることにより、ベース40に対して骨盤部21が垂直面内で回動可能となり、骨盤部21及びそれに接続された部位の設置角度を必要に応じて任意に調整できるようにしてある。
【0036】
(下肢関節の詳細)
上記下肢リハビリ訓練ロボットの下肢関節に関し、以下に詳細を説明する。理学療法の中でも最も典型的で重要性の高い、膝関節に対する治療手技の実習に用いるために、様々な症状を模擬できる下肢模擬ロボットの例を説明する。人体の下肢を模擬した発泡樹脂と柔軟樹脂で形成されたモデルの中に、DD(Direct Drive)モータで股関節と膝関節を駆動するリンク機構を組み込む。また、下腿部には6軸力覚センサを内蔵する。モータやセンサは駆動回路やIOインタフエースを介してコンピュータに接続される。コンピュータではセンサの信号をフィードバックしてインピーダンス制御を行い、関節の粘弾性特性を模擬する。コンピュータ上のユーザインタフェイスによって様々な症状が選択でき、手技の記録と評価を行う。
【0037】
(膝関節の詳細)
説明を簡単にするためにここでは一軸関節(蝶番関節)により上腿部と下腿部をそれぞれ第1、第2部位12、13とする。関節11には、駆動モータを接続しておくと、自動屈伸(正座位から完全伸展まで等)を行なわせることができる。外見・外表は人の膝に似た外形、感触とする。ここで関節11に接続されたモータMはコンピュータ17により制御されており、関節11がリハビリ訓練を受けて屈伸されると、その動きの変化をセンサ16により検出し、予め症例に応じてコンピュータ17にプリセットされたプログラムにより関節11の回動位置及び回動加速度等を検出して応答する。
【0038】
例えば、関節11の回動に対してモータMを順方向に制御駆動すれば回動が軽く、逆方向に制御駆動すれば抵抗が増大して回動が重くなる。この位置・加速度等の検出とモータMの制御の連係は、例えば1秒間に1000回程度と高速に制御することにより、人体に酷似した感触を得るものである。尚、関節の受動時の抵抗の変化は、このようにDDモータを使うほか、トルクコンバータのような流体抵抗による制御系でも同様に達成可能である。
【0039】
(上記モータ制御系の概略説明)
人間の関節の特性を模擬するために、たとえば、トルク指令を受け付けることのできるモータの場合には、関節角度の計測値に基づいて以下の式で表されるような指令を毎回送る。
(式1)
【0040】

(式2)
【0041】

(式3)
【0042】

【0043】
また、上記モータの制御は強度やパターンを可変(徒手筋力テスト上で0−5というような複数段の強弱設定の切替えができる)とする。また、関節11にモータ制御が付与されているかどうかに拘らず、関節11は屈伸を可能(施術者が力を入れて曲げ伸ばしする)とするものであり、その際に可変抵抗力とスピードに対する抵抗の増減を感知し、予め接続されたコンピュータにプリセットされたモデルパーターンと比較(標準モデルパターンとのずれの大小による評価)することにより施術の良否の評価を行うものである。また予め設定された大きさや強さ以上のねじれ・引き出しの力が加わるとスピーカより警告音を発したり、関節部分の発熱、変色、ディスプレイの画像等で異常を知らせることができる。
【0044】
即ち、関節11には回転・捩れ等を感知してその変化の大きさや変化速度を検出できるセンサ16が配設される。このセンサ16は、漸増抵抗に対して屈伸力増幅の反応があるもので、例えば、施術者が素早く膝を曲げると抵抗が大きくなり、ゆっくり曲げると抵抗が少なくなる。この抵抗値の変化を感知することにより、力の入れ具合を関節11の回動速度の変化度合(加速度)として判断する。また関節11の屈曲度合、即ち変化度の大きさはストッパで感知しても良いし、回転角度の検出からストッパの機能を持たせても良い。この場合の回転角度の限界(臨界点)は任意に変更設定できるものであり、また学習機能により所定の過程の進行に応じて変更されるようにできる。
【0045】
(同上の使用方法1;膝を曲げられない場合のリハビリの訓練教育の場合)
膝を痛めて正座が困難な症例に対応するリハビリの教育の場合は、上記大腿部23の先端に膝関節部24を介して下腿部25が伸ばした状態から後方向へ180度の範囲で回動自在に接続し、特に後へ130度の角度を越えてからの曲げて行く過程でその曲げ角度の拡大を図ることになる。例えば10回の施術で曲げ可能角度を130度から180度へ拡大させる場合を想定してみる。
【0046】
図9は訓練開始初期の状態で、下腿部25は大腿部23に対して後に130度しか曲げられない状態である。即ち初期の臨界点は130度に設定されている。ここで図8のようなフローに沿って訓練を開始するもので、訓練生の訓練施術が許容範囲にある場合は、臨界点が一つ改善されて、135度まで下腿部25が曲げられるように設定され、それが記憶されて修了となる。訓練生の訓練が許容範囲を逸脱している場合は、臨界点は変更されず、前回と同じレベルで記憶されて終了となる。
【0047】
図10は上記訓練の半ば状態を示すもので、臨界点は155度に改善されており、図11では終期の状態で、臨界点が180度に達し、略正座が可能な状態まで回復している状態でのリハビリの訓練を行なうものである。
【0048】
尚、上記例では下肢を例に取ったが、肩や上肢、首、腰等他の部位も必要に応じて夫々の症例に応じたパターンを有するプログラムを入力して適応することができることは勿論である。

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明を例えば膝関節の治療手技の実習のために使用した場合は、能動的に膝を屈伸することができ、外力に抵抗する屈伸力は様々に変化させることができ、この機能によって例えば徒手筋力テストの練習(リハビリのトレーニング、教育)ができる。即ち受動的に外力にしたがって(施術者の曲げ伸ばしによって)屈伸することができ、その際の抵抗力を可変でき、また速度に応じた抵抗力の変化(粘性抵抗)も模擬できる。施術者が及ぼす力を計測し、不適切な捻じれや引き出しの力が加わると警告を発する。治療に応じた患者の人体の反応を模擬する。例えば施術者が膝の伸展に抵抗を加える操作を繰り返すにつれて伸展力が増加するといった反応を模擬的に実現させることができる。
【0050】
これにより、例えば理学療養士養成学校で現在生徒同士が被施術者になって施術者の施術の訓練を行なっているのに代え、本発明装置を用いることにより、単に可動許容範囲を察知するのみならず、設定された許容範囲に至る力の入れ具合の変化を感知、評価できるので、実際の人間に酷似した感触で訓練を行なうことができるという大きな利点がある。また生身の人間ではなくロボットであるから納得するまで繰り返し訓練を行なえるので、訓練効率向上が期待できる。
【0051】
また、コンピュータに組み込むプログラムに学習機能を持たせることにより、施術訓練に応じて関節の状態を変更させることができ、施術訓練の積重ねにより被施術者の機能が変化(改善)されることも体験でき、今までは実際の現場に拠って出なければ体験できなかったレベルの訓練も行なえる。そしてこれらが必要な時に必要なだけ体験できるので、多勢の訓練生に高度の技能を短期に修得させることができる利点は大きいものである。
【0052】
このような実状を改善するために、本発明者らは種々の研究を重ねた結果、人間の代わりにリハビリの練習台となる本発明教育用患者模擬ロボットを開発した。このロボットはコンピュータによって制御・管理されており、プログラムの切り換えによって、様々な機能不全の症状を模擬できる。また各種のセンサ信号に基づき治療手技に応じて人間を模擬したプラス(満足)もしくはマイナス(警告)の応答を示す。また、手技の定量的な評価(点数化)も可能にするものである。
【0053】
更に評価がその場で定量的に得られると、学生のモティべーションを引き出しやすい。また実際の医療現場に身を置くまでに様々な症状の患者に対する治療を模擬的に体験できる。したがって、本発明を導入することによって、能力の高い理学療法士を社会に送り出せることが期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例の概略概念図。
【図2】同上の関節部分の概略概念図。
【図3】同上のシステム全体の概略図。
【図4】同上の下肢リハビリ訓練ロボットの平面図。
【図5】同上の作用説明を兼ねた側面図。
【図6】同上を用いた装置のプロセスの一例を示すフローチャート。
【図7】同上の施術の評価の一例を示す概略図。
【図8】同上の訓練により症状が緩和する場合のフローチャート。
【図9】同上の訓練により症状が緩和する場合の評価の一例の初期の状態を示す概略図。
【図10】同上の訓練により症状が緩和する場合の評価の一例の中期の状態を示す概略図。
【図11】同上の訓練により症状が緩和する場合の評価の一例の終期の状態を示す概略図。
【符号の説明】
【0055】
11 関節
12 第1部材
13 第2部材
16 センサ
17 コンピュータ
M モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め症例に応じたリハビリの標準施術モードが入力されたコンピュータに、回動可能な2部材の接合により構成された関節を、所定のトレーニングにより受ける荷重の変化が測定可能であり、かつ上記標準施術モードと比較して評価が可能に接続して成ることを特徴とするリハビリ教育用患者模擬ロボット。
【請求項2】
予め症例に応じたリハビリの標準施術モードが入力されたコンピュータに、回動可能な2部材の接合により構成されると共に接合部分の回動抵抗がその症例に対応して変化可能に構成された関節を、所定のトレーニングにより受ける荷重の変化が測定可能であり、かつ上記標準施術モードと比較して評価が可能に接続して成ることを特徴とするリハビリ教育用患者模擬ロボット。
【請求項3】
所定のトレーニングの積重ねにより、標準施術モードが回復モードへ移行可能としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のリハビリ教育用患者模擬ロボット。
【請求項4】
標準施術モードを症例に応じて複数設定して選択可能としたことを特徴とする請求項1乃至3に記載のリハビリ教育用患者模擬ロボット。
【請求項5】
コンピュータが、施術訓練生毎に各自の施術訓練実績を記録し、その記録を呼び出して施術訓練を開始し、かつ書き換え再記録が可能であることを特徴とする請求項1乃至4に記載のリハビリ教育用患者模擬ロボット。
【請求項6】
過度の加圧の程度に応じて反応するようにしたことを特徴とする請求項1乃至5に記載のリハビリ教育用患者模擬ロボット。
【請求項7】
荷重の変化の測定が関節の回転方向と捩れ方向の双方を含むことを特徴とする請求項1乃至6に記載のリハビリ教育用患者模擬ロボット。
【請求項8】
回動可能な2部材の接合により構成された関節に対してリハビリトレーニングにより加わる荷重の変化の標準施術モードを予めコンピュータに入力しておき、訓練生のリハビリトレーニングにより関節が受ける荷重の変化を測定し上記標準施術モードと比較して評価することを特徴とするリハビリ教育方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−204832(P2006−204832A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24638(P2005−24638)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(391015616)株式会社アサヒ電子研究所 (14)
【出願人】(592228239)児島電機株式会社 (1)
【出願人】(000135081)株式会社ニッタモケイ (1)
【出願人】(305000921)
【出願人】(305002442)
【Fターム(参考)】