説明

リポソームシチコリン注射薬

硫酸アンモニウムリポソーム内に封入されたシチコリンを含む、脳内取込率の向上に有用な安定リポソーム注射薬について開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳内取込量を向上させるのに有用であるリポソームに封入されたシチコリンを含有したリポソーム注射調合剤に関する。さらに特定するならば、本発明は薬物と脂質との比率が高い(薬物量が多い)状態で硫酸アンモニウムリポソームに封入されたシチコリンを含有したリポソーム注射薬に関する。このリポソームは、膜透過(貫通)イオン勾配(好適には膜透過pH勾配)を利用した能動(活性)作用によって薬物を配合するプロセスにより調製される。
【背景技術】
【0002】
シチコリンは大抵の生命形態で発見される天然物質である。シチコリンはホスファチジルコリンの合成のための主要経路における中間代謝物である。ホスファチジルコリンは細胞膜の主要構成要素であるリン脂質である。ホスファチジルコリンは全細胞の構造と機能に必要であり、生命の維持に必須なものである。
【0003】
シチコリンはヌクレオチドシチジントリホスフェート(三リン酸)(CTP)のホスフォコリンとの反応によって細胞内で合成される。この反応を触媒する酵素はCTP:ホスフォコリンシチジルトランスフェラーゼと称される。この反応はホスファチジルコリンの合成における律速段階である。
【0004】
ホスフォコリンはコリンから合成され、ホスファチジルコリンの合成のためCITI−コリンがジアシルグリセリドと反応し、酵素シチコリン:1,2−ジアシルグリセロールコリンホスフォトランスフェラーゼによって触媒される。
【0005】
シチコリンは、脳内代謝とエネルギー全体を改善するアセチルコリンのレベル(活性量)を増加させ、神経伝達物質、ノルアドレナリンおよびドーパミンのレベルを増加させる。シチコリンは神経虚血状態の神経細胞を保護し、脳卒中や外傷性脳損傷からの回復を促進すると考えられている。シチコリンは脳内血液循環を促進させ、神経変性に関わる興奮性アミノ酸を排除する。シチコリンはまた脳虚血症、神経性発作、アルツハイマー病および異なる原因の認知障害等の様々な神経疾患における機能再生をも促進させる。シチコリンは毒性試験で証明されているように安全な薬物であり、重大な全身性コリン作用の影響を有せず、耐性が強い。マウス等(げっ歯類)においてはシチコリンの経口投与は“シチジン”および“コリン”の血漿レベルを増加させ、ヒトにおいては肝臓並びに腸管経路による全身吸収に先立つシチコリンの急速分解のため、外生投与後に“シチジン”の代わりに“ウリジン”の血漿レベルが増加する。この急速分解はシチコリンの持続性送達(デリバリ)における解決困難な事象である。
【0006】
シチコリンはコリンとシチジンの伝達形態でもある。コリンはアセチルコリンとベタインの前駆物質である。アセチルコリンは神経伝達物質であり、脳の特定部位におけるその欠乏は、アルツハイマー病等の特定痴呆症候群の病因であると考えられている。ベタインは必須アミノ酸L−メチオニンへのアミノ酸ホモシステインの変換に関与する。L−メチオニンは蛋白性アミノ酸である。シチジントリホスフェート(三リン酸)への変換に続いてシチジンはシチコリンおよび核酸の形成を含んだいくつかの反応に関与する。
【0007】
シチコリンは脳卒中および脳障害の治療に有効である。シチコリンは遅発性運動障害、パーキンソン病、アルツハイマー病並びに記憶喪失等の損なわれた認知機能を特徴とする他の症状に対して幾分かは有効である。弱視者の視力を補助する作用もあると考えられる。シチコリンは虚血症状に続く梗塞程度の低減のために開発されている他の薬剤よりも効果的であり、いくつかの利点を有している。内生化合物であるシチコリンは本来的に安全である。シチコリンは非常に低毒性であり、非常に幅広い治療指数を有する。
【0008】
シチコリンの無数の研究では脳虚血症と外傷性頭部損傷において好ましい結果が得られた。これらの研究では、シチコリンの効能は脳内でのホスファチジルコリンの合成を増加させるシチコリンの能力によるものと考えられている。動物を使った研究では、細胞膜形成と損傷修復を増進し、細胞内酵素機能を回復させ、神経損傷を抑制し、浮腫を減少させることが示された。
【0009】
一般的には同様な作用がパーキンソン病、アルツハイマー病および加齢に伴う記憶障害等の様々な認知障害の治療において報告されているシチコリンの好ましい効果によるものであると考えられる。
【0010】
リポソームは完全に閉じた脂質の二重層膜であり、封入された水性容積を含んでいる。リポソームはユニラメラ小胞(単膜二重層を有す)またはマルチラメラ小胞(多重膜二重層であり、それぞれ水性層により分離されている玉葱型構造)である。この二重層は疎水性“尾部”領域と親水性“頭部”領域を有している2つの脂質単層で成る。膜の二重層は、脂質単層の疎水性(無極性)“尾部”が二重層の中央方向に配向され、親水性の“頭部”が水性相の方向に配向されている構造である。
【0011】
バンガム他のオリジナルリポソーム調製(J. Mol. Biol., 1965, 13:238-252)では有機溶媒中にてリン脂質が懸濁され、その後に乾燥するまで蒸発(揮発)され、反応容器にリン脂質膜を残す。続いて適量の水性相が加えられて混合物は“膨張”され、得られたマルチラメラ小胞(MLV)で成るリポソームは機械手段で分散される。この調製はパハジョポウロス他により解説される超音波処理された小型ユニラメラ小胞の開発(Biochim. Biophys, Acta., 1967, 135:624-638)と大型ユニラメラ小胞の開発の基礎を提供する。
【0012】
この分類のリポソームはレンク他の米国特許4522803で定義されている安定プルリラメラ小胞(SPLV)と呼称され、ファンテン他の米国特許4588578で解説された単相小胞および凍結されて解凍されたマルチラメラ小胞(FATMLV)を含む。
【0013】
リポソーム−薬物デリバリーシステムにおいては、薬物である生物活性剤がリポソーム内に封入され、その後に治療対象患者に投与される。例えばラーマン他の米国特許3993754、シアズの米国特許4145410、パハジョポウロス他の米国特許4235871、シュナイダの米国特許4224179、レンク他の米国特許4522803およびファンテン他の米国特許4588578において紹介されている。あるいは、生物活性剤が親脂質性であれば脂質二重層と関与するであろう。
【0014】
一般的には弱酸性および弱アルカリ性薬物の配合のために遠隔配合が行われてきた(ハランG他、1993年)。この方法の基本的な概念は、脂質膜の内側と外側の異なるpHにおける変動荷電作用並びに中性分子と最小荷電分子の相互反応に依存するものである。よって電荷を得た後(リポソーム内の変動pHに基づく)薬物分子はリポソーム内に閉じ込められ、リポソーム二重層から拡散速度は遅い。
【0015】
幾つかの研究でリポソーム内へのシチコリン封入がシチコリンの肝臓での分解を抑制することで治療効果が高まることが証明された。シチコリンは+1の電荷を有し、膜透過pH勾配法によって改善されたリポソーム内シチコリン封入のため、その構造内に“アミノ”基も有する。
【0016】
本発明で使用する用語“封入”とはリポソームの水性容積内の薬物と、脂質二重層が関与する薬物との両方を含む概念である。
【0017】
大型マルチラメラ小胞(MLV)(ガビゾン他、1982年、supra.)、大型ユニラメラ小胞(LUV)および小型(超音波処理)ユニラメラ小胞(SUV)(ガビゾン他、1983年、supra.;シノザワ他、1981年、Acta. Med.オカヤマ、35:395)がホスファチジルコリン(PC)およびコレステロールに加えて、様々な量の正荷電脂質および負荷電脂質を取り込んだ脂質組成物と共に利用されてきた。
【0018】
立体的に安定したステルスリポソームは、リポソームの長距離循環のために効果的であると証明されている高親水性特性により肝臓代謝を回避することでリポソーム膜に利点を提供する。
【0019】
シチコリンは本質的に強力な極性を備え、高度に親水性である。よってシチコリンは容易に血液脳関門(BBB)を越えない。動物実験によれば経口経路と静脈経路に続いて、それぞれたった0.5%と2%のシチコリン脳内取込率が観察されただけであった。従って微小球とリポソーム内の薬物封入はBBBを越えて脳への薬物デリバリを改善すると期待される。
【0020】
活性成分としてのシチコリンまたはその塩は通常は注射薬の形態で非経口的に投与されるか、あるいは錠剤やカプセルの形態で経口的に投与される。高い脳内シチコリン取込率を有するリポソームシチコリン注射薬は従来技術では報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許4522803
【特許文献2】米国特許4588578
【特許文献3】米国特許3993754
【特許文献4】米国特許4145410
【特許文献5】米国特許4235871
【特許文献6】米国特許4224179
【特許文献7】米国特許4522803
【特許文献8】米国特許4588578
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】J. Mol. Biol., 1965, 13:238-252
【非特許文献2】Biochim. Biophys, Acta., 1967, 135:624-638
【非特許文献3】ガビゾン他、1982年、supra.
【非特許文献4】ガビゾン他、1983年、supra.
【非特許文献5】シノザワ他、1981年、Acta. Med.オカヤマ、35:395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
発明の目的
本発明の主な目的は、脳での取込効率を向上させるのに有用であり、血液脳関門(BBB)を越えて脳内への薬物デリバリ能力を改善させるシチコリンを含有した安定リポソーム注射薬と、その調製方法とを提供することである。
【0024】
本発明の別な目的は、薄膜加水法(TFH)と、それに続くpH勾配法によるリポソーム内へのシチコリン配合による硫酸アンモニウムリポソームの調製である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明の概要
前述の目的に沿い、本発明は脳での取込効率を向上させるのに有用な硫酸アンモニウムリポソームに封入されたシチコリンを含有する安定したリポソーム注射薬を提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は薄膜加水法(TFH)技術により調製される硫酸アンモニウムのマルチラメラ小胞を提供する。このリポソームは水素添加された大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、負荷電脂質ジステロイルホスファチジルグルセロール(DSPG)およびコレステロール(CHOL)をモル比7:1:2で含む。オプションでは、リポソームにステルス特性を付与するためにDSPE−mPEG2000が全脂質分の3モル%(0.0015mM)加えられる。
【0027】
さらに別な態様によれば、溶媒系、回転速度、真空度、溶媒気化温度、膜形成時間、加水時間、超音波処理サイクル、アニーリング時間、培養時間、加水媒質濃度、等々の処理パラメータ並びにHSPC、DSPGおよびCHOL等の脂質配合比率のごとき組成変数が、硫酸アンモニウムと全脂質の比率並びに加水量を当初最良化実験のために一定に保持することで最良化される。最良化された条件は続く研究全般で使用された。MLVからSUVへの変換のために、プローブソニケータ(超音波処理装置)が5サイクル、60%Amp、0.6秒、2分、温度55±3℃で使用され、あるいはオプションで一連のポリカーボネートフィルタを通して押し出された。
【0028】
外部(非封入)硫酸アンモニウムを、透析嚢を使用して10%のスクロース(糖)溶液に対して置換することで硫酸アンモニウムリポソームの内部と外部の区画間にpH勾配が発生した。
【0029】
透析プロセスは18時間以上実施される。この新規な技術は異なる内部と外部のpH(pH勾配)を備えたリポソーム製剤を開発することでシチコリンの封入を増強させる。最後に、シチコリン配合はリポソーム懸濁液を最良時間(1時間、55±3℃)100mMのモル濃度の硫酸アンモニウム内でインキュベーション(放置)することで行われる。
【0030】
遊離薬物からの分離後に硫酸アンモニウムリポソームに封入されたシチコリンはバッファー内に懸濁され、マンニトール等の抗凍結剤の追加後に凍結乾燥できる。この処理によって乾燥粉末が提供され、利用の前に加水して注射薬を準備できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1はリポソームの透過電子顕微鏡画像である。
【図2】図2はシチコリンリポソームと注射薬との比較血液プロフィールである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明のさらなる理解のため、いくつかの好適実施例およびオプションの実施例を利用して本発明の様々な態様を詳細に説明する。
【0033】
本発明は脳への取込みを向上させるのに有効であるリポソームに封入されたシチコリンを含有する安定リポソーム注射薬を提供する。このリポソーム注射薬は高い薬物配合量を達成するためpH勾配法で調製される。
【0034】
好適な実施例では本発明は硫酸アンモニウムリポソームに封入されたシチコリンを含有した安定した長時間放出性リポソーム注射薬を提供する。この硫酸アンモニウムリポソームは薄膜加水(TFH)技術と、それに続くpH勾配法によるリポソーム内へのシチコリンの配合により調製される。
【0035】
本発明の硫酸アンモニウムリポソームはMLVを形成するため、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)およびコレステロール(CHOL)のごとき脂質を含む。これら脂質は7:1:2のモル比で存在する。
【0036】
別実施例では本発明の硫酸アンモニウムリポソームはMLVを形成するため、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、コレステロール(CHOL)およびDSPE−mPEG2000のごとき脂質を含む。これら脂質は7:1:2:0.0015のモル比で存在する。
【0037】
そのように形成されたMLVは、5サイクル、60%Amp、0.6秒、2分、温度55±3℃のプローブソニケーターを使用したリポソーム懸濁液の超音波処理によって、あるいはオプションにて高圧(50から800psi)の純粋窒素ガスを利用し、一連のポリカーボネートフィルターを通して押出器(MOC:SS−316)で押し出すことでSUVに変換される。
【0038】
硫酸アンモニウムリポソームのMLVは薄膜加水技術で処理し、その後に膜透過pH勾配を活用した連続的シチコリン配合により調製される。硫酸アンモニウムリポソームへの40%シチコリン配合はpH勾配法を利用することで達成される。このように調製されたシチコリンリポソームは球状であり、115.5nmから124nmの範囲の粒径を有する。従来の配合法と比較してpH勾配法によれば封入効率が向上することが発見された。
【0039】
硫酸アンモニウムリポソームに封入されたシチコリンを含有する本発明の安定リポソーム注射薬は薬物の長時間放出を可能にする。薬物と脂質の比は1:3から1:10の範囲である。遊離状態の薬物から分離された後に硫酸アンモニウムリポソームに封入された薬物はバッファ内で懸濁され、マンニトール等の抗凍結剤の追加後に凍結乾燥される。
【0040】
別実施例では本発明は以下のステップを含んだシチコリンのリポソーム注射薬の調製方法を提供する。
1)HSPC、DSPGおよびCHOLおよびオプションでDSPE−mPEG2000のごとき脂質をクロロホルムとメタノールの混合液中にて溶解させるステップ;
2)乾燥薄膜を得るために真空下で回転フラスコエバポレータ内の溶媒を気化(蒸発)させるステップ;
3)硫酸アンモニウム水溶液を使用してステップ2の乾燥薄膜に加水し、リポソームに封入された硫酸アンモニウムを含有したMLVリポソーム懸濁液を得るステップ;
4)そのMLVを超音波処理し、あるいはオプションで一連のポリカーボネートフィルタを通して押し出すことでステップ3のMLVをSUVに変換するステップ;
5)ステップ4の懸濁液を60分間放置してアニーリングさせるステップ;
6)10%のスクロース水溶液に対する透析置換によって膜透過硫酸アンモニウム勾配を確立させるステップ;
7)硫酸アンモニウムSUVを、所定の時間と温度で0.01Mの[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルフォン酸](HEPES)(pH7.5)内でシチコリンによりインキュベーションするステップ;
8)0.15Mの塩化ナトリウムで予備平衡されたセファデックスG−50カラムを使用して遊離薬物とリポソームを分離させるステップ;
9)リポソームに封入されたシチコリンを含有するリポソーム懸濁液を得るためにPESフィルタを使用して濾過することでリポソームを殺菌するステップ;
10)抗凍結剤としてマンニトールを使用してステップ9のリポソーム懸濁液を凍結乾燥するか、あるいはそれを患者に静脈注射によって直接的に注射するステップ。
【0041】
膜透過pH勾配を確立するため、10%のスクロース溶液に対して外部の非封入硫酸アンモニウムを十分に交換させるように18時間以上にわたって透析が実行された。ここで使用されるクロロホルムとメタノールの混合液は3:1v/vの割合で存在する。
【0042】
リポソームの特徴化
シチコリン封入リポソームがリポソームの形態、粒径、ゼータ電位、内部pHおよび薬物包含率に関して評価された。光学顕微鏡で得られた顕微鏡写真および透過型電子顕微鏡(TEM)は、リポソームの球状形態を備えた非超音波処理リポソームのマルチラメラの特徴をそれぞれにおいて確認させる。TEM写真は100nmから150nm(図1)の範囲の粒子サイズを示す。シチコリン配合前および配合後の最良化バッチの平均粒径はそれぞれ115.5nmと124nmであった。最良化バッチのゼータ電位は−25.8mVと記録された。薬剤配合処理前および処理後のリポソームの内部pHはそれぞれ5.52と7.33であった。最良バッチ内の封入薬物量は39.88%であった。
【0043】
生体外薬物拡散研究
透析嚢(dialysis sac)を使用した生体外薬物拡散研究が実施された。この研究では薬物放出がリン酸バッファー含塩物(PBS)pH7.4で観測された。身体状態を擬似するため外部媒体の温度は37±2℃に保持された。外部媒体量は100mlであった。純粋な薬物とリポソームの製剤が拡散セル内に直接的に取り込まれ、拡散媒体を入れたビーカー内に入れられた。
【0044】
純粋な(混ざり物の存在しない)薬物の薬物放出量は8時間で約93.25%であった。一方、リポソーム製剤からの薬物放出量は24時間でたった89.54%であった。異なるモデルの薬物放出動力学を適用して放出動力学が研究された。得られたデータは、シチコリンの純粋な薬物が“ファーストオーダ放出(R0.978)”に従い、シチコリンリポソーム製剤が薬物放出(R0.993)の‘ヒグチ拡散制御’モデルに従うことを示している。
【0045】
放射線標識による生体内分布研究
ニューデリー核医学連合科学研究所(INMAS)において放射線標識技術により生体内分布研究が実施された。シチコリン注射薬とシチコリンリポソームの放射線標識は、前述した直接標識法によって99mTcで実行され、最大標識効率を得るために塩化第1スズ濃度やインキュベーション時間のごときパラメータが最良化された。最大標識効果に必要な塩化第1スズの最良濃度はシチコリンリポソームのためには100μgであり、シチコリン注射薬のためには150μgであった。他のパラメータが一定に保たれていれば、シチコリン注射薬とシチコリンリポソームの両方のための高標識効果に必要なインキュベーション時間は15分であった。前述の方法に従った標識化の程度と標識効果を評価する品質管理試験も実施された(セオボルドA.E.1990年)。
【0046】
生体内分布研究のため、0.1mlの標識されたシチコリン注射薬とシチコリンリポソームが健康なBALB/cマウスに尻尾静脈から投与され、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後および24時間後に組織分布が研究された。この動物達は犠牲にされ、血液サンプルが回収され、脳、肝臓、脾臓、肺臓、胃および膵臓のごとき異なる内臓器官における放射線活性がガンマ線スペクトロフォトメータにより記録され、注射量(%)/器官重量(g)で表記された。AUC、Cmax、Tmax、t1/2のごとき薬物動態学パラメータがキネチカ4.4PK/PD分析ソフトウェアで計算された。
【0047】
計算結果は、注射24時間後に全血液の放射活性がシチコリンとシチコリンリポソームでそれぞれ0.85%と2.01%であることを示した。脳内のリポソーム製剤のCmaxは0.3%ID/gであり、シチコリン注射剤ではCmaxはたった0.11%ID/gであった。このことは純粋な薬物の場合よりもさらに高い割合のリポソーム製剤が脳内に吸収されていることを示す。シチコリンとシチコリンリポソームのAUC0−24はそれぞれ38.38h*%ID/gと56.35h*ID/gであった。静脈注射後のシチコリンとシチコリンリポソームのt1/2はそれぞれ29.53hと114.34hであった。
【0048】
生体内分布研究から、シチコリンリポソーム製剤は図2で示すように曲線の下側にさらに大きな面積を有しており、よってシチコリン注射薬と比較して体内に長時間滞在することが結論された。
【0049】
安定性データは、抗凍結剤と共に調整された凍結乾燥製剤として保管されたときのリポソーム安定性を示す。2ヶ月程度まで異なる温度と異なる湿気条件にて保管後、加水した凍結乾燥リポソーム製剤の薬物保持率は室温の場合(98%以上)よりも冷蔵状態で保存すると高い薬物保持率(99%以上)を示し、リポソーム製剤の冷凍乾燥は冷蔵条件でさらに長い期間にわたって薬物を安定状態に保つことが確認された。
【実施例1】
【0050】
TFH及び続くpH勾配法を利用したシチコリン配合による硫酸アンモニウムリポソームの調製
封入された硫酸アンモニウムを含んだHSPC、DSPGおよびCHOLを含有するマルチラメラ小胞が薄膜加水(TFH)技術により調製された(新R.R.C.1990年)。簡単に説明すれば、これら脂質は以下で示すような異なるモル比で250mlの丸底フラスコ内のクロロホルムとメタノール混合液(3:1v/v)内にて溶解された。
【表1】

【0051】
溶媒はロータリーフラスコエバポレーター内にて真空下で揮発された。このように形成された薄い乾燥脂質膜は、60±3℃、すなわち上記の脂質の相転移温度(Tg)以上で加水媒質としての異なるモル量(80mM、100mM、120mM、等々)の硫酸アンモニウム水溶液を使用して加水された。形成されたリポソーム分散液はプローブソニケーター内で超音波処理された(5サイクル、60%Amp、0.6秒、2分、温度55±3℃)。超音波処理されたリポソームはアニーリングために約60分間放置された。得られたリポソームはレミ型遠心分離機を使用して3000rpm、4℃で10分間遠心分離され、存在している非加水脂質が除去された。膜透過硫酸アンモニウム勾配を確立するため、10%のスクロース水溶液に対して透析交換が実行された(ハラン他、1993年)。簡単に説明すれば、透析管の4cm部分が折り曲げられ、管の一端を紐で縛ることで透析嚢に加工された。この際、透析嚢からの中身の漏洩がないことが確認された。透析嚢は蒸留水での10%スクロース溶液内に一晩浸された。
【0052】
この湿潤嚢は注意深く開かれ、多量の10%スクロース溶液で洗浄された。その後、嚢には硫酸アンモニウムリポソーム調剤(2mlから4ml)が満たされた。嚢は再び漏洩がチェックされ、100mlの10%スクロース溶液が入ったガラスビーカー(受容部として機能)内に懸濁された。ビーカの中身はテフロン(登録商標)コーティングされた棒磁石(長さ=2.5cm、径=0.5cm)により撹拌され、その後にビーカはアルミホイルで蓋をされ、実験中の蒸発が防止された。10%スクロース溶液に対する外部(非封入)硫酸アンモニウムの十分な交換のため、18時間以上の透析が実施され、膜透過pH勾配が確立された。
【0053】
勾配の創出後にリポソームは薬物溶液(15mg/ml)と共に0.01MのHEPES(pH7.5)バッファーで所定時間55±3℃(前記のTg)にてインキュベーションされた。遊離薬物とリポソームの分離のために文献(新R.R.C.1990年)で報告されたように“ゲル除去”クロマトグラフィーが実施された。簡単に説明すれば、セファデックスG−50カラムがセファデックスG−50を0.15Mの塩化ナトリウム内に一晩浸すことで準備された。0.15Mの塩化ナトリウムは遊離シチコリンとの置換のために最適化された。続いて2cmのカラムがセファデックスG−50スラリを2ml注射器内に注入することで準備された。注射器は10mlの遠心分離管に入れられ、1000rpmで10分間遠心分離され、レミ型冷却遠心分離機内の余分な溶媒が取り除かれた。このカラムは3回の連続通過によって0.15Mの塩化ナトリウムにより予備平衡処理され、毎回、遠心分離処理されて余分の0.15Mの塩化ナトリウムが除去された。次に1mlのリポソーム懸濁液がカラムの上部に適用され、1000rpmで10分間遠心分離された。溶出物は回収された。溶出物はシチコリンリポソームを含有しており、遊離薬物はカラム内に封入された。
【0054】
このように形成されたリポソーム懸濁液の小胞サイズ、ゼータ電位および薬物封入量量(PDE)が計測された。
【実施例2】
【0055】
封入された硫酸アンモニウムを含有したHSPC、DSPGおよびCHOLを含むマルチラメラ小胞が薄膜加水(TFH)技術で調製された(新R.R.C.1990年)。簡単に説明すれば、脂質は異なるモル比で250mlの丸底フラスコ内のクロロホルムとメタノールの混合液(3:1v/v)に溶解された。溶媒はロータリーフラスコエバポレーター内にて真空下で揮発された。このように形成された薄い乾燥脂質膜は、60±3℃、すなわち前記脂質の相転移温度(Tg)以上にて加水媒質としての異なるモル量(80mM、100mM、120mM、等々)の硫酸アンモニウム水溶液を使用して加水処理された。
【0056】
リポソームは押出器(MOC:SS−316)を使用し、純粋窒素ガスの高圧(50から800psi)条件下にて一連のポリカーボネートフィルター(ポール採用)を通して押し出された。押し出しは脂質のガラス転移温度(60±3℃)以上で実施された。重ねられた2つのフィルターホルダー(ダブルスタックシステム)にリポソームを通過させた。リポソームは粒径が100nm未満となり、粒子分布指数(PDI)が0.1未満となるまで押し出し処理された。リポソーム懸濁液を室温にまで冷却し、さらに処理が継続された。
【0057】
膜透過硫酸アンモニウム勾配を確立するため、10%スクロース水溶液に対して透析交換が実行された(ハラン他、1993年)。簡単に説明すれば、透析管の4cm部分が折り曲げられて、管の一端を紐で縛ることで透析嚢が準備され、嚢から中身の漏洩がないことを注意深く確認した。その後に嚢は蒸留水の10%スクロース溶液内に一晩浸された。
【0058】
湿潤嚢は注意深く開かれ、大量の10%スクロース溶液で洗浄された。その後、嚢には硫酸アンモニウムリポソーム調剤(2mlから4ml)が満たされた。嚢は再び漏洩がチェックされ、100mlの10%スクロース溶液が入ったガラスビーカー(受領部として機能)内に懸濁された。ビーカーの中身はテフロン(登録商標)コーティングされた棒磁石(長さ=2.5cm、径=0.5cm)により撹拌され、ビーカーはアルミホイルで蓋がされ、実験中の中身の蒸発が防止された。10%スクロース溶液に対する外部(非封入)硫酸アンモニウムの十分な交換のため、透析は18時間以上実行され、膜透過pH勾配が確立された。勾配の創出後にリポソームは薬物溶液(15mg/ml)と共に0.01MのHEPES(pH7.5)バッファー内で所定の時間55±3℃(前記のTg以上)で培養された。
【0059】
最後に、このように形成されたリポソーム懸濁液は濾過法で殺菌された。リポソームは0.2/0.45μmのポリエーテルスルホン(PES)膜を通された。濾過されたリポソームは患者に静脈注射できる。
【実施例3】
【0060】
飽和したホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロールおよびコレステロールをモル比7:1:2でクロロホルムとメタノールの混合液(3:1%v/v)内で溶解し、60℃で蒸発させ、薄い脂質膜を形成した。脂質膜の完全加水処理のためにさらに膜が60℃で100mMの硫酸アンモニウム水溶液により加水処理された。調製されたリポソームは加圧窒素ガスを利用して一連のポリカーボネート膜を通して押し出された。余剰の硫酸アンモニウムリポソームは10%スクロース溶液に対する透析により除去された。サイズが減少したリポソームは薬物溶液と共に薬物と脂質の比1:5(予備実験)にて60℃で1.5時間インキュベーションされた。調製されたリポソーム内の遊離薬物はイオン交換クロマトグラフィ技術を利用して除去された。
【実施例4】
【0061】
飽和したホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、DSPE−mPEG2000およびコレステロールをモル比7:1:0.0015:2にてクロロホルムとメタノールの混合液(3:1%v/v)内で溶解し、60℃で蒸発させ、薄い脂質膜を形成した。脂質膜の完全加水処理のためにさらに膜が60℃で100mMの硫酸アンモニウム水溶液により加水処理された。調製されたリポソームは加圧窒素ガスにより一連のポリカーボネート膜を通して押し出された。余剰の硫酸アンモニウムリポソームは10%スクロース溶液に対する透析により除去された。サイズが減少したリポソームは薬物溶液でインキュベーションされた。これは薬物と脂質の混合液(1:3.33から1:10)における60℃、1.5時間のインキュベーションであった。調製されたリポソーム内の遊離薬物はイオン交換クロマトグラフィー技術により除去された。
【実施例5】
【0062】
飽和したホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロールおよびコレステロールをモル比5.25:1.75:3にてクロロホルムとメタノールの混合液(3:1%v/v)内で溶解し、60℃で蒸発させ、薄い脂質膜を形成させた。脂質膜の完全加水処理のためにさらに膜が60℃にて100mMの硫酸アンモニウム水溶液で加水処理された。調製されたリポソームは加圧窒素ガスにより一連のポリカーボネート膜を通して押し出された。余剰の硫酸アンモニウムリポソームは10%スクロース溶液に対する透析を介して除去された。サイズが減少したリポソームは薬物溶液と共にインキュベーションされた。この薬物と脂質の比は5であり、60℃で1.5時間のインキュベーションであった。調整されたリポソーム内の遊離薬物はイオン交換クロマトグラフィー技術により除去された。
【実施例6】
【0063】
飽和したホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、DSPE−mPEG2000およびコレステロールをモル比7:1:0.0015:2でクロロホルムとメタノールの混合液(3:1%v/v)内で溶解させ、60℃で蒸発させ、薄い脂質膜を形成した。脂質膜の完全加水処理のためにさらに膜が60℃で80mMから120mMの硫酸アンモニウム水溶液にて加水処理された。調製されたリポソームは加圧窒素ガスにより一連のポリカーボネート膜を通して押し出された。余剰の硫酸アンモニウムリポソームは10%スクロース溶液に対する透析によって除去された。サイズが減少したリポソームは薬物溶液と共にインキュベーションされた。この透析は薬物と脂質の比が5であり、60℃で1.5時間であった。調製されたリポソーム内の遊離薬物はイオン交換クロマトグラフィー技術により除去された。
【実施例7】
【0064】
実施例1で調製された薬物が調合されたリポソームが0.45μmのプレフィルタを備えた孔サイズ0.2μmのポリエーテルスルホン膜で濾過された。必要な投与量を含有した濾過されたリポソームは抗凍結剤としてのマンニトールを使用して凍結乾燥された。リン脂質の濃度に関しては1.0%w/wから3.0%w/wの抗凍結剤が使用された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸アンモニウムリポソームに封入されたシチコリンを含有し、脳内取込率の向上に有効であることを特徴とする安定持続放出性リポソーム注射薬。
【請求項2】
薬物と脂質の配合比は1:3から1:10の範囲である、請求項1記載のリポソーム注射薬。
【請求項3】
硫酸アンモニウムリポソームに封入された前記シチコリンが115.5nmから124nmの範囲の粒径を有する、請求項1記載のリポソーム注射薬。
【請求項4】
前記硫酸アンモニウムリポソームが、水素添加された大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)およびコレステロール(CHOL)のような脂質類を含んでいる、請求項1記載のリポソーム注射薬。
【請求項5】
前記脂質類がモル比7:1:2でそれぞれ含まれる、請求項4記載のリポソーム注射薬。
【請求項6】
前記硫酸アンモニウムリポソームが全含有脂質類の3モル%のDSPE−mPEG2000をさらに含んでいる、請求項4記載のリポソーム注射薬。
【請求項7】
前記脂質類はモル比7:1:2:0.0015でそれぞれ含まれる、請求項6記載のリポソーム注射薬。
【請求項8】
pH勾配法により調製することにより、多量の薬物配合を達成することを特徴とする、請求項1記載のリポソーム注射薬。
【請求項9】
前記硫酸アンモニウムリポソームは薄膜加水技術とそれに引き続く膜透過pH勾配によるシチコリン配合により調製されることを特徴とする、請求項1記載のリポソーム注射薬。
【請求項10】
シチコリンを含有したリポソーム注射薬の調製方法であって、
(a)HSPC、DSPGおよびCHOL、並びにオプションでDSPE−mPEG2000のごとき脂質類をクロロホルムとメタノールの混合液内に溶解させるステップと、
(b)真空下でロータリーフラスコエバポレーター内の溶媒を気化させ、乾燥薄膜を得るステップと、
(c)硫酸アンモニウム水溶液を使用してステップ2の乾燥薄膜に加水し、MLVリポソーム懸濁液を得るステップと、
(d)前記MLVを超音波処理し、あるいはオプションで一連のポリカーボネートフィルターを通して押し出すことによって、ステップ3のMLVをSUVに変換するステップと、
(e)ステップ4の懸濁液を60分間放置するステップと、
(f)10%のスクロース水溶液に対する透析置換によって膜透過硫酸アンモニウム勾配を確立させるステップと、
(g)硫酸アンモニウムSUVを、所定の時間と温度で0.01Mの[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸](HEPES)(pH7.5)内でシチコリンと共にインキュベーションするステップと、
(h)0.15Mの塩化ナトリウムで予備平衡されたセファデックスG−50カラムを使用して遊離薬物とリポソームを分離させるステップと、
(i)PESフィルタを使用して濾過することでリポソームを殺菌消毒し、リポソームに封入されたシチコリンを含有するリポソーム懸濁液を得るステップと、
(j)抗凍結剤としてマンニトールを使用してステップ11のリポソーム懸濁液を凍結乾燥するか、あるいはそれを患者に静脈注射によって直接的に注射するステップと、
を含むことを特徴とする、リポソーム注射薬の調製方法。
【請求項11】
MLVは、押出器(MOC:SS−316)を使用し、高圧の純粋窒素ガスを利用して一連のポリカーボネートフィルターを通して押し出されることでSUVに変換される、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−517421(P2012−517421A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548849(P2011−548849)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000074
【国際公開番号】WO2010/092597
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511194452)ライカ ラブズ リミテッド (1)
【出願人】(511194463)
【Fターム(参考)】