説明

リポポリマーコンジュゲート

以下の式Iのコンジュゲートは、生物医学用途、例えば、薬物の送達又は標識化部分で或いはリポソーム又はミセルの要素として有用である。式Iにおいて、Aは親水性ポリマーであり、L及びL’のそれぞれは、独立にリンカー基であり、Bは脂質部分であり、Zは、診断用リガンド、生物学的に関連のあるリガンド、又は反応性結合部分であり、これは一般に、Z中の窒素、酸素又は硫黄原子を介してコンジュゲートのリン原子に結合している(FI)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性ポリマーが、ホスホルアミド酸塩、リン酸トリエステル又はリン酸チオエステル基を介して脂質部分にコンジュゲートされ、これに、リガンド又はこのようなリガンドをコンジュゲーションするための反応性部分がさらにコンジュゲートされているリポポリマーコンジュゲートに関する。このリガンドは治療用分子又は診断上関連のある分子である。
【0002】
参考文献
Ghosh,S.S.et al.,Bioconjugate Chem.1:71−76(1990)。
Gryaznov,S.M.and Letsinger,R.L.、「アミノデオキシチミジン単位を含むオリゴヌクレオチドの合成及び特性(Synthesis and properties of oligonucleotides containing aminodeoxythymidine units)」,Nucleic Acid Res.20:3403−9(1992)。
Kirpotin,D.,Hong,K.,Mullah,N.,Papahadjopoulos,D.,and Zalipsky.S.、「離脱可能なポリマーコーティングを有するリポソーム:表面グラフト化ポリ(エチレングリコール)の開裂によって誘起されるジオレオイルホスファチジルエタノールアミン小胞体の不安定化及び融合(Liposomes with detachable polymer coating:destabilization and fusion of dioleoyl phosphatidylethanolamine vesicles triggered by cleavage of surface−grafted poly(ethylene glycol))」,FEBS Lett.388(2−3):115−8(1996)。
Lindh,I.and Stawinski,J.、「H−ホスホン酸塩中間体を介したグリセロリン脂質及びその類似体を合成する一般的な方法(A general method for the synthesis of glycerophospholipids and their analogs via H−phosphonate intermediates)」,J.Org.Chem.54:1338−42(1989)。
Lukyanov,A.N.et al.、「難溶性薬物のための送達系としての水溶性ポリマーの脂質誘導体からのミセル(Micelles from lipid derivatives of water−soluble polymers as delivery systems for poorly soluble drugs)」,Adv.Drug Deliv.Rev.56:1273−89(2004)。
Mlotkowska,B.and Markowska,A.、「炭素−硫黄−リン結合を有するチオホスファチジルコリンの新規な合成(A new synthesis of thiophosphatidylcholine with carbon−sulfur−phosphorus bond)」,Liebigs Annalen der Chemie 2:191−3(1988)。
Solodin,I.et al.、「リン酸トリエステルカチオン性リン脂質の合成(Synthesis of phosphotriester cationic phospholipids)」,Synlett.457−8(1996)。
Woodle,MC.、「ポリ(エチレングリコール)グラフト化リポソーム療法(Poly(ethylene glycol)−grafted liposome therapeutics)」,POLY(ETHYLENE GLYCOL)CHEMISTRY AND BIOLOGICAL APPLICATIONS,J.M.Harris and S.Zalipsky,Eds.,ACS Symp.Series 680、pp60−81、American Chemical Soc.,Washington,DC.(1997)。
Zalipsky,S.、「ポリマーグラフト化リポソームの製造のための末端基官能化ポリエチレングリコール−脂質コンジュゲートの合成(Synthesis of an end−group functionalized polyethylene glycol−lipid conjugate for preparation of polymer−grafted liposomes)」,Bioconjug Chem.4(4):296−9(1993)。
Zalipsky,S.,Mullah,N.,Harding,J.A.,Gittelman,J.,Guo,L.,and DeFrees,S.A.、「ポリマー鎖の末端に付加されたオリゴペプチド又はオリゴ糖リガンドを有するポリ(エチレングリコール)グラフト化リポソーム(Poly(ethylene glycol)−grafted liposomes with oligopeptide or oligosaccharide ligands appended to the termini of the polymer chains)」,Bioconjug Chem.8(2):111−8(1997)。
Zalipsky,S.,Mullah,N.,and Qazen,M.、「ポリマー鎖の末端にリガンドを有するポリ(エチレングリコール)グラフト化リポソームの製造(Preparation of poly(ethylene glycol)−grafted liposomes with ligands at the extremities of polymer chains)」,Meth.Enzymol.387:50−69(2004)。
【背景技術】
【0003】
リポポリマー、特にmPEG−PE(ポリエチレングリコール−ホスファチジルエタノールアミン)コンジュゲートは、種々のリポソーム及びミセル薬物送達製剤(例えば、それぞれ、Woodleら、1997、及びLukyanovら、2004参照)に広範に使用されている。従来、PEG−脂質コンジュゲートは、ポリエチレングリコール、例えばmPEGをジアシルホスファチジルエタノールアミン(PE)のアミノ基に結合することによって調製される。いくつかのこのようなmPEG−PEコンジュゲートは、市販されており、例えば、ジステアロイルPEから誘導されたmPEG2K−DSPEは、STEALTH(登録商標)リポソーム製剤中の主要な賦形剤として広範に使用されている。リガンドがPEG鎖の遊離の末端に結合している、リガンド−PEG−脂質コンジュゲートは、リポソームの標的化送達に使用するために開発されてきた(Zalipskyら、2004)。
【0004】
その他のコンジュゲートが、例えば米国特許第5,359,030号(Ekwuribe、1994)に記載されており、これは、ペプチドの非イオン性洗剤(PEG−疎水性物質付加物)とのコンジュゲートを主として対象としている。コンジュゲートのこの開示された構造は、上記の脂質−疎水性物質−リガンド構造を含み、この場合、脂質が親水性部分(非イオン性洗剤)に結合し、親水性部分がその他の末端でリガンド(ペプチド)と結合している。或いは、リガンドが脂質及び、2つの疎水性部分(その一方が他の脂質にさらに結合している)に結合したより複雑な構造が開示されている。これらのコンジュゲート中の非イオン性洗剤は、不均一組成物である傾向にある合成材料である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明は、式Iの化合物
【化1】


[式中、
Aは親水性ポリマーであり、
L及びL’のそれぞれは、独立にリンカー基であり、
Bは脂質部分であり、
Zは、診断用リガンド、生物学的に関連のあるリガンド、及び反応性結合部分からなる群から選択され、前記反応性結合部分は、ヒドロキシ(−OH)、酸化物(−O-)、又は2−アミノエトキシ(−OCHCHNH)ではない]を提供する。
【0006】
選択された実施形態では、脂質部分Bは、脂肪酸、ステロール、ジエーテル脂質、及びジアシル脂質から選択される。Bがジアシル脂質の場合は、この化合物は、好ましくは式II
【化2】


[式中、R及びRのそれぞれは、独立に4〜24個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニルである]である。一実施形態では、R及びRのそれぞれはC1735(ジステアロイル脂質)である。
【0007】
リガンド又は反応性結合部分Zは、好ましくは、Z中の窒素、酸素又は硫黄原子を介してリン原子に結合している。上記のように、この反応性結合部分は、ヒドロキシ(−OH)、酸化物(−O-)、又は2−アミノエトキシ(−OCHCHNH)ではない;好ましくは、アミノアルコキシ基(その一例は、2−アミノエトキシである)ではない。好ましい実施形態では、Zは、Z中の窒素原子を介してPに結合して、ホスホルアミド酸塩結合を形成する。
【0008】
Zが反応性結合部分の場合は、−NH−(CH−Xの形(nは2〜6であり、Xは、コンジュゲーションしやすい官能基、例えばアミノ、メルカプト、ヒドロキシ、ジスルフィド、アルデヒド、ケトン、マレイミド、ヒドラジド、スクシンイミジル(NHS)エステルなどの、活性化エステルを含むその他のカルボン酸誘導体、又は脱離基を含む)であり得る。例示的な脱離基としては、塩化物、臭化物、アルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、及びニトロフェニルカルボン酸塩がある。選択された実施形態では、Xは、アミノ、マレイミド、ヒドラジド、及びスクシンイミジル(NHS)エステルから選択される。一実施形態では、nは3であり、Xは−NHである。他の実施形態では、nは3であり、Xはスクシンイミジルエステルである。
【0009】
Zは、診断用リガンド、例えば、フルオレセイン又はクマリンなどの蛍光化合物、或いは生物学的に関連のあるリガンド、例えば、治療薬(薬物)又は標的部分を含んでもよい。構造的には、このリガンドは、ポリペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、及び小分子化合物から選択することができる。一実施形態では、このリガンドは、治療用ポリペプチド又はタンパク質であり、他の実施形態では、治療用小分子化合物である。
【0010】
一実施形態では、親水性ポリマーAは、ポリエチレングリコール(PEG)であり、好ましくは2〜約120個のエチレングリコール繰返し単位を有する。このPEGポリマーは、代表的には、メトキシなどのアルコキシ基又はXに対する上記のものなどの反応性基、例えば、ヒドラジド(HN−NH−(CO)−)、アミノ、ジスルフィド、マレイミド、ニトロフェニルカルボン酸塩、又はNHSエステルを末端としている。
【0011】
選択された実施形態では、結合L及びL’のそれぞれは、独立に、アルキル、アリール、又はアラルキル部分であり、その一方又は両側に基Yが隣接しており、但し、Yは、
(i)−W−(C=O)−Q−、(ii)−W−(C=O)−、(iii)−W−、及び(iv)ジスルフィド(W及びQは、独立に、酸素、NH、及び直接結合から選択される)である。好ましくは、アルキルは低級アルキルであり、アリールは単環式基又は二環式基、より好ましくは単環式基である。
【0012】
他の態様では、本発明は、上記式I又はIIの化合物を、好ましくはリポソームの総脂質含有量の1〜約50モルパーセントの量で含むリポソームを提供する。
【0013】
本発明はまた、Zが治療薬を含む、上記の式I又はIIのコンジュゲートを対象に経口投与することによって、治療薬を経口的に送達する方法を提供する。この態様では、部分A及びB(親水性ポリマー及び脂質)の相対サイズを、経口的送達に有利なHLB(親水親油バランス)を得るために調整することができる。好ましくは、Zは、in vivoで開裂可能な、コンジュゲートのリン原子への結合をさらに含む。さらに、好ましい実施形態では、Bは、コンジュゲートが式IIを有し、Aがポリエチレングリコールであるようなジアシル脂質である。
【0014】
本発明の上記及びその他の目的及び特徴は、付随する図面と共に以下の本発明の詳細な説明を読めば十分に理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.定義
「アルキル」とは、直鎖か又は分枝であってよい、炭素及び水素を含む一価の残基を意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−ブチル、t−ブチル、n−ヘプチル、及びイソプロピルがある。「シクロアルキル」とは、炭素及び水素を含有し、好ましくは3〜7個、より好ましくは5〜6個の環炭素原子を有する、完全に飽和の環式一価の基を意味し、アルキルでさらに置換されてよい。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、メチルシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、エチルシクロペンチル、及びシクロヘキシルがある。
【0016】
「低級アルキル」とは、メチル、エチル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、イソアミル、n−ペンチル、及びイソペンチルで例示される、1〜6個の炭素原子のアルキル基を意味する。選択された実施形態では、「低級アルキル」基は、1〜4個の炭素原子を有する。
【0017】
「アシル」基とは、カルボン酸のヒドロキシル基の除去によって、有機酸から誘導された有機基である。例えば、カルボン酸から誘導されたアシル基は、R−(C=O)−の形(但し、Rはアルキル基であり、低級アルキル基であってよい)を有する。他のアシル基には、R−X(C=O)−の形(但し、XはO、S、又はNHである)が含まれる。
【0018】
「ヒドロカルビル」とは、炭素及び水素からなる基、すなわち、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、及び非複素環式アリールを包含する。
【0019】
「アリール」とは、単環(例えば、フェニル)、2個の縮合環(例えば、ナフチル)又は3個の縮合環(例えば、アントラシル又はフェナントリル)を有する、置換か又は非置換の一価芳香族基を意味する。一般的には、単環基(単核式とも称される)が好ましい。この用語には、環中に1個又は複数の窒素、酸素、又は硫黄原子を有する芳香環の基、例えばフリル、ピロール、ピリジル、及びインドールであるヘテロアリール基も含まれる。「置換された」とは、アリール基中の1つ又は複数の環水素が、ハロゲン化物、例えば、フッ素、塩素、又は臭素で;1又は2個の炭素原子を含む低級アルキル基で;又はニトロ、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、メトキシ、ハロメトキシ、ハロメチル、又はハロエチルで置換されていることを意味する。存在する場合は、好ましい置換基としては、フッ素、塩素、メチル、エチル、及びメトキシがある。
【0020】
「PEG」とは、ポリエチレングリコール、繰返し単位(CHCHO)(但し、nが好ましくは約10〜約2300であり、これは分子量約440〜約100,000ダルトンに対応する)を有するポリマーを意味する。このポリマーは、代表的には、実質的にすべての分子量範囲にわたり水溶性である。ポリペプチドとのコンジュゲーションでは、PEG分子量の好ましい範囲は、約2,000〜約50,000ダルトン、より好ましくは約2,000〜約40,000ダルトンである。このPEGは、本明細書に記載のコンジュゲーション反応を妨害しない任意の基、例えば、ヒドロキシル、エステル、アミド、チオエーテル、アルコキシ、又は適当な保護部分でブロックされた種々の反応性基でエンドキャップされてよい。一般的なエンドキャップされたPEGはメトキシPEG(mPEG)である。PEGホモポリマーが好ましいが、この用語は、PEGと他のモノマーのコポリマーも含んでよい。これは、例えば、プロピレングリコールなどの他のエーテルを形成するモノマーであり得る。
【0021】
「ホスホルアミド酸塩」結合とは、−O−P(=O)(NRR’)−O−の形(但し、R及びR’のそれぞれは、水素か、又は炭素原子を介してNに結合した置換基を表す)の結合を意味する。「リン酸チオエステル」結合とは、本明細書では「チオ燐酸塩」とも称され、−O−P(=O)(SR)−O−の形(但し、Rは、炭素原子を介してSに結合する置換基を表す)の結合を意味する。
【0022】
分子上の「コンジュゲーションしやすい」又は「反応性」官能基とは、合成有機化学の通常の条件下で、他の分子上の官能基と共有結合を形成するのに有効なものである。このような条件とは、例えば、どちらの分子の非反応性部分にも悪影響を及ぼさないものである。
【0023】
「小胞体形成性脂質」とは、疎水性及び極性の頭部基部分を有する両親媒性脂質を意味し、これは、リン脂質によって例示されるように、水中で自発的に二重層小胞体を形成することができるか、或いは、脂質二重層中に、疎水性部分を二重層膜の内部の疎水性領域に接触させ、且つ、極性頭部基部分を膜の外部の極性表面に向けて配向して安定して取り込まれている。このような小胞体形成性脂質は、代表的には1個又は2個の疎水性アシル炭化水素鎖又はステロイド基を含み、且つ、極性頭部基に化学的に反応性の基、例えば、アミン、酸、エステル、アルデヒド又はアルコールを含むことができる。例としては、リン脂質、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、及びスフィンゴミエリン(SM)があり、但し、2個の炭化水素鎖は、代表的には約14〜22個の間の炭素原子の長さであり、様々な不飽和度を有する。その他の小胞体形成性脂質としては、セレブロシド及びガングリオシドなどの糖脂質、及びコレステロールなどのステロールがある。
【0024】
「薬剤として許容される塩」という用語は、例えば、有機又は無機対イオン、例えば、アルカリ又はアルカリ土類金属カチオン(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム又はカルシウム);アンモニウム;或いは有機カチオン、例えば、ジベンジルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、2−ヒドロキシエチルアンモニウム、ビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、フェニルエチルベンジルアンモニウム、等を有するカルボン酸塩を包含する。その他のカチオンとしては、塩基性アミノ酸、例えばグリシン、オルニチン、ヒスチジン、フェニルグリシン、リシン、及びアルギニンのプロトン化の形態がある。
【0025】
この用語にはまた、有機又は無機酸から誘導された対イオンを有する、アミンなどの塩基性基の塩が含まれる。このような対イオンとしては、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、パルミチン酸塩、コール酸塩、グルタミン酸塩、グルタル酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩、サリチル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ソルビン酸塩、ピクリン酸塩、安息香酸塩、桂皮酸塩等がある。
【0026】
「薬剤として許容される担体」とは、ヒト対象を含む対象にコンジュゲートを薬剤配合物として投与するのに適した担体である。この担体は、代表的には、生理食塩水溶液などの水性ビヒクル、デキストロース、グリセロール、又はエタノールである。不活性成分、例えば緩衝剤、安定剤、等を製剤中に含めてよい。本明細書では、「水性ビヒクル」とは、その主たる成分として水を含むが、丁度説明した溶質を含めてよい。共溶剤、例えばアルコール又はグリセロールが存在してもよい。
【0027】
固体製剤も使用してよく、代表的には不活性な賦形剤、例えばマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース又はセルロースエーテル、グルコース、ゼラチン、スクロース、炭酸マグネシウム、等が含まれる。このコンジュゲートは、当技術分野で既知の方法に従って、脂質又はリン脂質中の懸濁液中、リポソーム製剤中、或いは、経皮製剤又は吸入可能製剤中に配合することもできる。
【0028】
II.リポポリマーコンジュゲート
A.構造及び特性
一態様では、本発明は、構造Iの
【化3】


[式中、
Aは親水性ポリマーであり、
L及びL’のそれぞれは、独立にリンカーであり、
Bは脂質部分であり、
Zは、治療薬、診断薬、及び反応性結合部分からなる群から選択される]リポポリマーコンジュゲートを対象とする。
【0029】
反応性結合部分が、ヒドロキシ(−OH)、酸化物(−O-)、又は2−アミノエトキシ(−OCHCHNH)である化合物は含めない。好ましくは、これはアミノアルコキシ基(その一例は2−アミノエトキシである)ではない。
【0030】
例示的な親水性ポリマー(A)としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピル−メタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルトアミド、上に列挙されたポリマーのコポリマー、及びポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドコポリマーがある。体温で完全に水溶性であり、十分に生体適合性のあるポリマーが好ましい。多くのこれらのポリマーの特性及び反応が、米国特許第5,395,619号及び同第5,631,018号に記載されている。
【0031】
好ましい実施形態では、親水性ポリマー(A)は、ポリ(アルキレンオキシド)、より好ましくは上記に定義したPEG(ポリエチレングリコール)ポリマーである。好ましくは、このPEGポリマーは、2〜約120個のエチレングリコール繰返し単位を有する。その離れた末端は、代表的には、アルコキシ基又は反応性基、例えば、基Xに対して以下に記載の基などでキャップされている。
【0032】
脂質部分(B)は、少なくとも約8個の炭素原子、好ましくは約8〜24個の炭素原子を含む、少なくとも1つのアルキル鎖又はアシル鎖、或いはステロイド核を有する水不溶性分子である。小胞体形成性脂質が好ましい。例示的な脂質には、単一炭化水素鎖又は、好ましくは2個の炭化水素鎖を有するリン脂質であって、炭化水素鎖は、長さが代表的には約4〜24、好ましくは約8〜24、より好ましくは約12〜24個の炭素原子であり、様々な不飽和度を有するリン脂質が含まれる。その他の適当な脂質には、糖脂質、例えば、セレブロシド及びガングリオシド、及びステロイド、例えば、コレステロール、又はコレステリルアミンが含まれる。
【0033】
選択された実施形態では、脂質部分Bは、脂肪酸、ステロール、ジエーテルグリセリル脂質(2個のエーテル結合炭化水素鎖を有する)、及びジアシルグリセリル脂質(2個のアシル結合炭化水素鎖を有する)から選択される。一実施形態では、脂質部分Bはジアシルグリセリル脂質であり、リポポリマーコンジュゲートが、式II
【化4】


[式中、R及びRのそれぞれは、独立に、4〜約24個の炭素原子、好ましくは約6〜24個の炭素原子、より好ましくは約12〜24個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニルである]を有している。一実施形態では、R及びRのそれぞれは、C1735(ジステアロイル)である。
【0034】
リン原子基に結合した基Zには、治療用又は診断用リガンド、例えば、薬物或いは標的部分、結合部分又は標識化部分が含まれる。代表的には、Zはまた、例えば、タンパク質、多糖類、核酸、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド類似体、又は小分子化合物であり得るリガンド部分をリン原子に結合する短いリンカー基(L及びL’に対して以下に記載のものなど)を含む。
【0035】
標的部分又は結合部分の例としては、ビオチン、葉酸塩、ピリドキサール、血管内皮成長因子(VEGF)、表皮成長因子(EGF)、及び線維芽細胞成長因子(FGF)などの成長因子、サイトカイン、CD4、及びDTPAなどのキレート剤がある。その他の標的部分としては、米国特許第6,660,525号及び同第6,043,094号に記載のものがあり、これらを参照により本明細書に援用する。好ましい標識化部分としては、蛍光化合物、例えば、クマリン及びその誘導体、フルオレセイン及びその誘導体、及び当技術分野で既知のその他なのものがある。
【0036】
構造的には、このリガンドは、ポリマー又はオリゴマーの生体分子、例えば、タンパク質、多糖類、核酸、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド類似体、又は小分子化合物から選択し得る。「小分子」化合物とは、ポリマー又はオリゴマーでない、有機、無機、又は有機金属化合物として広範に定義することができる。代表的には、このような化合物は、1000未満、又は一実施形態では500Da未満の分子量を有する。
【0037】
好ましくは、基Zは、Z中の窒素、酸素又は硫黄原子を介してリン原子に結合し、それぞれ、ホスホルアミド酸塩、リン酸トリエステル、又はリン酸チオエステル結合を生じる。好ましくは、基Zは、Z中の窒素原子を介してリン原子に結合して、ホスホルアミド酸塩結合を生じる。
【0038】
Zが反応性結合部分の場合は、Zは好ましくは、反応性基Xが末端をなす、短鎖の原子(すなわち、長さ1〜約8個の原子、好ましくは長さ2〜6個の原子)を含み、但し、Xは、例えば、治療用部分又は診断用部分上の他の基と反応して共有結合を形成するのに有効な求核基又は求電子基である。一実施形態では、Zは、−NH−(CH−Xの形(但し、nは2〜約6、好ましくは2〜4であり、Xはコンジュゲーションしやすい官能基、例えば、アミノ、メルカプト、ジスルフィド、アルデヒド、ケトン、マレイミド、ヒドラジド、その他のカルボン酸誘導体、等である)の反応性部分である。基Xは、脱離基、例えば、塩化物、臭化物、アルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、スクシンイミジルエステル、又はニトロフェニルカルボン酸塩を含んでよい。一実施形態では、nは3であり、Xは−NHであって、Zは3−アミノプロピルアミンである。
【0039】
このリガンド又は結合基Zは、以下にさらに論じるように、in vivoでコンジュゲートからリガンドを放出するのに有効な、in vivoで開裂可能な部分、例えば、エステル、カルバミン酸塩、炭酸塩、又はジスルフィドを含むことができる。
【0040】
リンカーL及びL’(構造II参照)は、一般的には、リン酸塩(或いは、場合に応じてホスホルアミド酸塩又はリン酸チオエステル)の酸素原子(複数)と、それぞれ親水性ポリマー及び脂質基の間の貯蔵で安定な結合である。好ましくは、L及びL’のそれぞれは、独立に、アルキル、アリール、又はアラルキル部分であり、その一方又は両側に基Yが隣接しており、但し、Yは、(i)−W−(C=O)−Q−、(ii)−W−(C=O)−、(iii)−W−及び(iv)ジスルフィド(W及びQは、独立に、酸素、NH、及び直接結合から選択される)である。したがって、L及び/又はL’の種々の実施形態には、直接結合、アルキル基、エーテル、エステル、アミド、カルバミン酸塩、炭酸塩、ジスルフィド、及びこれらの任意のものとアルキル又はアリール基の組合せが含まれる。このアルキル基は、好ましくは低級アルキルであり、このアリール基は、好ましくは単核式又は二核式、より好ましくは単核式である。好ましいリンカーとしては、長さ2〜4個の原子のアルキル基と組み合わせた、エーテル、エステル、アミド、カルバミン酸塩、炭酸塩、又はジスルフィドがある。また、好ましいものには、例えば米国特許第6,342,244号に記載のジチオベンジルリンカーが含まれる。
【0041】
選択された実施形態では、L及びL’の少なくとも1つが、in vivoで開裂可能である。このような開裂可能な結合には、酵素的に又は加水分解で開裂可能なエステル及び炭酸塩、並びに還元性化学種、例えばシスティン又はグルタチオンによってin vivoで開裂することが可能なジスルフィドが含まれる。
【0042】
本明細書に記載のリポポリマーコンジュゲートは、結合したリガンド用送達ビヒクルとしてこれらを有用にする種々の特性を有する。このリガンド(例えば、治療薬)は、そのコンジュゲート中の脂質と親水性ポリマー鎖の結合部の近傍に結合しているので、このリガンドは、リガンドが通常PEG鎖の末端に結合している従来技術のコンジュゲートに比べて、親水性ポリマー(例えば、PEG)によってより遮蔽され易い。このような遮蔽の利点としては、循環時間がより長くなり、リガンドの分解が減少することである。
【0043】
このリガンドが検出可能な基の場合は、リガンドの脂質頭部基近傍への位置決めは、リポソームの脂質挿入の研究に有用な試薬も提供する。
【0044】
さらに、リポポリマーコンジュゲートの親水親油バランス(HLB)は、脂肪酸(脂質)及び/又は親水性ポリマー(例えばPEG)の鎖長を変えることによって調整可能である。例えば、HLBは膜浸透を改良するために改変することができ、これは結合した薬物の経口及びCNS送達に有益である。
【0045】
したがって、本発明はまた、上記式I又はIIの担体(但し、Zは薬物であり、A及びBの相対サイズは、担体に所望のHLBを与えるのに有効である)を提供することによって、薬物用担体の親水親油バランスを調整する方法を提供する。この担体では、Aは好ましくはPEGポリマーである。
【0046】
B.リポポリマーコンジュゲートの調製
本発明のコンジュゲートは、一般形A−L−O−P(=O)OR−O−L’−B(A、B、L、及びL’は、上記に定義した通りであり、ORは、酸化物、ヒドロキシ又は低級アルコキシ、例えばメトキシである)の中間体、リン酸ジエステル又はリン酸トリエステルリポポリマー構造から調製することができる。
【0047】
脂質Bがジアシルグリセリル脂質、例えば上記構造IIの場合は、このような中間体は、ジアシルグリセリルリン脂質から調製することができ、その多くは天然起源であるか、市販されているか、及び/又は既知の方法によって容易に調製される。親水性ポリマー、特にPEGポリマーをリン脂質に結合するための種々の方法が、当技術分野で報告されている。例えば、Zalipsky、1993;Kirpotinら、1996;Zalipskyら、1997を参照。このようなPEG−リン脂質化合物は、市販もされており、例えば、mPEG−DSPE(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)などの種々のPEG化ホスファチジルエタノールアミンが、Avanti Polar Lipids(Alabaster、アラバマ州)から入手可能である。
【0048】
Bがリン脂質、リン酸ジエステル(又はORがアルコキシの場合はリン酸トリエステル)由来でない場合は、A−L−O−P(=O)OR−O−L’−Bは、例えば、オリゴヌクレオチド合成に一般に使用されるホスホアミダイト中間体を使用し得る従来の方法によって調製することができる。したがって、この手順の一実施形態では、部分B−L’−OH(ヒドロキシル官能基を有する脂質部分)を試薬P(NR)(OMe)Cl(但し、Rは代表的にはイソプロピルである)と反応させて、ホスホアミダイトP(NR)(OMe)−O−L’−Bを形成する。次いでこの中間体を部分A−L−OH(ヒドロキシル官能基を有する親水性ポリマー)と反応させて、亜リン酸トリエステルA−LO−P(OMe)−O−L’−Bを形成し、これをリン酸トリエステルに酸化することができる。必要に応じて、塩基又は酸で処理して、それぞれリン酸塩又はリン酸を得る。
【0049】
一実施形態では、基Zは、Z中の窒素原子を介してコンジュゲート中のリン原子に結合して、ホスホルアミド酸塩結合を形成する。下記の実施例1には、一方のアミン末端とリン酸塩頭部基の間のホスホルアミド酸塩結合の形成を介して、ジアミンのmPEG−DSPEに結合し、さらなる誘導体化又はコンジュゲーションを他のアミン末端が利用可能なようにしておくことが記載されている(図1参照)。この手順では、出発リン酸ジエステルを塩化オキサリルで活性化して、塩化ホスホリル中間体を生成し、これを単離することなしにアミン試薬(この実施例では、1−Boc保護 1,3−ジアミノプロパン)と反応させる。このリン酸ジエステルは、アミンとの反応のために他の試薬、例えばイミダゾールの存在下でカルボジイミドによっても活性化される(Ghoshら、1990)。このアミノ誘導体化リポポリマーコンジュゲートは、Boc保護基を除去することによって生成される。
【0050】
リン酸ジエステル脂質に他の1級又は2級アミンを結合して、安定なホスホルアミドジエステルコンジュゲートを形成するために同様の手順を使用することができる。このリンカー基Zは、その遊離の末端に種々の官能基を有してよい。例えば、実施例2に記載し、図2に示すように、酸分解的脱保護の後に遊離カルボン酸を提供するために、アミノ酸エステル、例えば、β−アラニンtert−ブチルエステルを使用することができる。次いで、この末端官能基は、当技術分野で既知の合成方法を用いて種々のリガンド、上記のように例えば、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、糖類、標的基、キレート剤等を結合させるために利用することができる。
【0051】
図1に図示する例示的な手順では、アミノプロパンホスホルアミド酸塩のアミノ基を脱保護し、7−ヒドロキシクマリン−4−酢酸のスクシンイミジルエステルと結合して、蛍光標識したリポポリマー(mPEG−7HC−DSPamと呼ばれる)を生じる。図2に図示した手順では、上記のようにβ−アラニンとの反応を介して結合した末端カルボン酸塩は、NHSエステルとして活性化され、続いてタンパク質のアミノ基にコンジュゲーションされる。
【0052】
本発明のリン酸トリエステル結合リポポリマーは、例えば、mPEG−DSPEなどのリン酸ジエステルをR−OHと縮合させることによって得ることができる。この反応は、例えばSolodinら(1996)によって報告されたように、2、6−ルチジン中で塩化メタンスルホニル又は塩化トルエンスルホニルを介在させることができる。R−OHのR残基は、さらに誘導体化が可能なマスキング基を含むことができる。
【0053】
Mlotkowska及びMarkowska(1998)は、メトキシ基を有する亜リン酸トリエステル(すなわち、RO−P(OMe)−OR’)とN−チオール化スクシンイミド(すなわち、環窒素が−SR”で置換された)の反応により、チオ燐酸塩、RO−PO(SR”)−OR’が生成することを報告している。
【0054】
本発明のコンジュゲートはまた、一般形A−L−O−P(=O)H−O−L’−B(但し、A、B、L、及びL’は上記に定義した通りである)のH−ホスホン酸ジエステル中間体を介して容易に得ることができる。このような中間体は、Lindh及びStawinski(1989)によって報告された方法を用いて調製することができる。例えば、ジアシルグリセロールを三塩化リン/イミダゾールで処理し、続いて水性後処理により、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−H−ホスホン酸塩が高収率で生成する。このH−ホスホン酸塩は、塩化ピバロイルを用いて、親水性ポリマー、例えばmPEG−OHに結合して、H−ホスホン酸塩ジエステル結合mPEG−脂質を生成することができる。
【0055】
このH−ホスホン酸塩基は、CCl/トリエチルアミン中で適当なアミンと結合することによって、ホスホルアミド酸塩に容易に変換することができる(例えば、Gryaznov及びLetsinger、1992参照)。この反応は、任意のアミノ含有レポーター又は薬物部分を結合するために使用することができる。
【0056】
H−ホスホン酸塩基はまた、硫黄による単純な処理によってチオ燐酸塩に容易に変換可能である(Lindh及びStawinski、1998)。このチオ燐酸塩を、さらに官能化し、直接S−アルキル化によって種々のレポーター基で標識することが可能である。
【0057】
上記のように、この分子の脂質−親水性ポリマー部分は、脂質、親水性ポリマー、又は両方が、循環中の一定の時間後に分子から放出されるような、1つ又は複数のin vivoで開裂可能な結合(代表的にはL又はL’部分で)を有して調製し得る。例えば、リポソーム中のPEG−DSPEからPEGのin vivo開裂を記述している、Kirpotinら、1996参照。
【0058】
この基Zは、さらなる結合部分を提供するのに有効な基であってよく、或いは診断薬又は治療薬であってよい。一実施形態では、結合基Zは、結合している薬剤が、循環中の一定の時間後、好ましくは標的部位に送達後に分子のリポポリマー部分から放出されるような、in vivo開裂可能な結合を含むことが可能である。
【0059】
C.開裂可能な結合
上記のように、本明細書に記載のリポポリマー−リガンドコンジュゲートは、脂質、親水性ポリマー、及びリガンド(例えば薬物)の1種又は複数が、循環中の一定時間後にコンジュゲートから放出されるようなin vivo開裂可能な1種又は複数の結合を有して調製し得る。このような開裂可能な結合には、酵素的に又は加水分解で開裂可能なエステル及び炭酸塩、並びに還元性化学種、例えばシスティン又はグルタチオンによってin vivoで開裂可能なジスルフィドが含まれる。結合は、結合の選択、分子内開裂の使用、及び/又は開裂部位又は近傍における立体的又は電子的特性の変更を含む、当技術分野で既知の方法に従ってより速い開裂又は遅延した開裂のために設計することができる。例えば、開裂部位における立体的効果による開裂速度の調節が記載されている米国特許第6,342,244号(参照により本明細書に援用する)参照。
【0060】
in vivoにおけるコンジュゲートの構造の所望の変化に応じて、コンジュゲートの異なる部分を開裂可能な結合により調製することができる。例えば、リポソーム中のPEG−DSPEからのPEGのin vivo開裂が記載されている、Kirpotinら、1996参照。この場合、PEGポリマーの開裂により、リポソームの表面上のPEGのコーティングが分断されて、リポソームが不安定化及び破壊され、これによってその含有物を放出する。
【0061】
本明細書に記載のコンジュゲートからの親水性ポリマー又は脂質の開裂は、in vivoでのコンジュゲートのHLBの変更にも使用することが可能である。例えば、一般的には、経口又はCNS送達のため及び膜浸透のためには、より親油性の化合物がはじめに有利である。関門通過後の脂質部分の開裂は、親水性及びこれによる化合物のサイトゾル溶解度を増大するために使用することができる。
【0062】
このリガンド又は結合基Zはまた、in vivoでコンジュゲートからリガンドを放出するのに有効なin vivo開裂可能部分、例えばエステル、カルバミン酸塩、炭酸塩、又はジスルフィドを含んでよい。これは、標的部位における薬物送達に特に有用である。
【0063】
D.ミセル又はリポソーム組成物
本明細書に記載のリポポリマーは、非経口送達に有用なミセル又はリポソーム製剤に使用することができる。さらに、これらは血液脳関門透過性、並びに経口送達に潜在的に有用である。
【0064】
リポソームは、種々の治療目的、特に全身投与によって標的領域又は細胞に治療薬を運ぶために使用される閉鎖された脂質小胞体である。特に、親水性ポリマー鎖、例えばポリエチレングリコール(PEG)の表面コーティングを有するリポソームは、ポリマーコーティングのないリポソームより長い血中循環寿命を提供するので、薬物担体として望ましい。このポリマーは、血中タンパク質へのバリアとして作用して、タンパク質の結合、並びにマクロファージ及び細網内皮系の他の細胞が取込み及び除去するためにリポソームを認識するのを阻止する。
【0065】
脂質成分からリポソームを形成する方法は、当技術分野でよく知られている。本発明のリポポリマーを取り込んだリポソームは、脂質二重層成分(例えば、リン脂質及び/又はその他の小胞体形成性脂質)の混合物中に、約1〜約50モルパーセント、好ましくは約1〜約20モルパーセントの、上記式Iの脂質−ポリマーコンジュゲート(但し、Zは標的部分又は治療用部分である)に含めることによって調製することができる。他の実施形態では、Zは標識化部分である。好ましくは、脂質−ポリマーコンジュゲートは、上記式II(すなわち、脂質はジアシルグリセリルリン脂質である)である。
【0066】
このリポソームは、カプセル化された化合物を含むことができる。一実施形態では、このリポポリマーコンジュゲートI又はIIは、親水性ポリマーが、好ましくは標的部位に到達した後にリポポリマーコンジュゲートから放出されるようにin vivoで開裂可能な親水性ポリマー(A)への結合を含んでいる。Kirpotinら、1996に記載されたように、このようなリポソームの脂質組成物は、リポソームが親水性ポリマーを失うことによって不安定化し、これによって、ポリマーがin vivo開裂したときに、その含有物を放出するように設計することができる。
【実施例】
【0067】
以下の実施例は、本明細書に記載の本発明さらに例示し、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【0068】
(実施例1)
7−ヒドロキシクマリン及びmPEG−DSPEのホスホルアミド酸塩に結合したコンジュゲートの合成(図1)
A.mPEG−DSPE−N−1−Boc 1,3−ジアミノプロパンの合成
mPEG−DSPE(0.5g、0.189ミリモル)をジクロロメタン(5ml)中に溶解し、窒素雰囲気下で0℃に冷却した。この溶液に無水DMF(50μL、0.646ミリモル)及び塩化オキサリル(150μL、1.72ミリモル)を添加し、反応混合物を室温で24時間撹拌した。この溶媒を減圧下で蒸発し、生成物をジクロロメタン(10ml)に溶解し、窒素雰囲気下で0℃に冷却した。トリエチルアミン(200μL、1.442ミリモル)及びN−1−Boc 1,3−ジアミノプロパン(76.45mg、0.3628ミリモル)を0℃の上記の溶液に添加した。この反応を氷浴中で15分間及び室温で15分間撹拌した。TLC(CHCl:MeOH:HO、90:18:2)により、反応が完了まで進行していることを示した(mPEG−DSPEのRfは0.533であり、生成物は0.733であった)。溶媒を減圧下で蒸発し、粗製混合物を溶離液としてCHCl:MeOH(95:5)を用いるクロマトグラフィーにかけた。得られた生成物をイソプロパノールを用いてさらに沈殿させ、ろ過し、五酸化リンにより乾燥して、生成物0.422g(76%)を得た。
【0069】
【化5】


Maldi(使用マトリックス:2,5−ジヒドロキシベンジル酸+TFA(0.1%)+5メトキシサリチル酸(1mg/ml):m/z2958に分布。
【0070】
B.mPEG−DSPE−7−ヒドロキシクマリン−1,3−ジアミノプロパンの合成
上記に調製したmPEG−DSPE−N−1−Boc−1,3−ジアミノプロパン(0.1g、0.0337ミリモル)を冷却したジオキサン(3ml)中の4N HClに溶解し、混合物を室温で50分間撹拌した。次いで、ジオキサンを凍結乾燥によって除去した。脱保護された生成物の形成が、TLCによって(mPEG−DSPE−N−1−Boc 1,3−ジアミノプロパンのRfは0.733であり、脱保護された生成物は0.533であった)、及び31P−NMR(13.28ppm)によって確認された。脱保護された生成物をジクロロメタン(2ml)に溶解し、0℃に冷却した。この溶液に最小量のDMF中のN−スクシンイミジル−7−ヒドロキシクマリニルアセテート(21.99mg、0.069ミリモル)及びトリエチルアミン(23.99μL、0.172ミリモル)を添加した、反応混合物を窒素雰囲気下室温で3時間撹拌した。TLC(CHCl:MeOH:HO、90:18:2)により、出発材料と共に非極性生成物スポット(Rf:0.733)の存在が示された。溶媒を減圧下で蒸発し、粗生成物を溶離液としてCHCl:MeOH(95:5)を用いるクロマトグラフィーにかけた。所望の生成物をt−ブタノールを用いて凍結乾燥して、収率40%を得た。
【0071】
【化6】


Maldi(使用マトリックス:2,5−ジヒドロキシベンジル酸+TFA(0.1%)+5メトキシサリチル酸(1mg/ml):m/z3060に分布、スプレー(epray)1082(3+)、I480(2+)。H及びCOSYスペクトルは、図1に示した提案された構造と一致した。
【0072】
(実施例2)
ホスホルアミド酸塩に結合したmPEG−タンパク質−リン脂質コンジュゲートの合成(図2)
mPEG−DSPEのジクロロメタン溶液を塩化オキサリル及び触媒量のDMFで処理した。この溶液を蒸発によって濃縮し、残渣をジクロロメタン中に再溶解し、氷により冷却し、トリエチルアミン及びβ−アラニンtert−ブチルエステルで処理した。15分後に反応が完了した。溶液を蒸発によって濃縮し、β−Ala−OBuホスホルアミド酸塩生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール95:5)によって精製した。
【0073】
tert−ブチルエステル基の除去をジオキサン中で4M HClで6時間処理することによって実施した。この溶媒及びHClを真空下で除去し、次いで、得られたmPEG−DSPEのカルボキシル含有ホスホルアミド酸塩をジクロロメタン中に溶解し、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)及びDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)との反応によって、そのスクシンイミジルエステルに変換した。形成されたジシクロヘキシル尿素をろ過し、溶液を濃縮した。この生成物、mPEG−(β−Ala−OSu)DSPamをイソプロパノール中に沈殿させ、NMR及びMSによって特性決定した。mPEG−DSPEからの全体的収率はほぼ50%であった。
【0074】
リン酸塩緩衝剤(pH7.5)中のリゾチーム(2mg/ml)を5倍モル過剰なmPEG−(β−Ala−OSu)DSPamと1時間反応させた。この修飾されたタンパク質をRP−HPLCによって精製し、SDS−PAGE及びMALDIによって特性決定し、リゾチームとリポポリマーの1:1及び1:2コンジュゲートの存在を確認した。1:1コンジュゲートをカチオン交換クロマトグラフィーによって単離した。
【0075】
本発明を特定の実施形態に関して説明してきたが、当業者であれば、本発明から逸脱することなく種々の変更形態及び修正形態を加えることができることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態による、検出可能なリガンド、7−ヒドロキシクマリンを含む、mPEG−DSPEから誘導されたリポポリマーコンジュゲートの調製を示す合成スキームである。
【図2】本発明の他の実施形態による、タンパク質リガンドを含むリポポリマーコンジュゲートの調製を示す合成スキームである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式の化合物
【化1】


[式中、
Aは親水性ポリマーであり、
L及びL’のそれぞれは、独立にリンカー基であり、
Bは脂質部分であり、
Zは、診断用リガンド、生物学的に関連のあるリガンド、及び反応性結合部分からなる群から選択され、前記反応性結合部分は、ヒドロキシ(−OH)、酸化物(−O-)、又は2−アミノエトキシではない]。
【請求項2】
Bが、脂肪酸、ステロール、ジエーテル脂質、及びジアシル脂質から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Bがジアシル脂質であって、次式を有する、請求項2に記載の化合物
【化2】


[式中、R及びRのそれぞれは、独立に4〜24個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニルである]。
【請求項4】
及びRのそれぞれがC1735である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
Zが、Z中の窒素、酸素又は硫黄原子を介してPに結合している、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
Zが、Z中の窒素原子を介してPに結合している、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
Zが、−NH−(CH−Xの形(nは2〜8であり、Xは、アミノ、メルカプト、ヒドロキシ、ジスルフィド、アルデヒド、ケトン、マレイミド、ヒドラジド、活性化エステル、他のカルボン酸誘導体、及び脱離基から選択される)の反応性結合部分である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
nが3であり、Xが−NHである、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
nが3であり、Xがスクシンイミジルエステルである、請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
Zが診断用リガンドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
Zが、ポリペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、及び小分子化合物から選択される生物学的に関連のあるリガンドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
Aが、2〜120個のエチレングリコール繰返し単位を有するポリエチレングリコールである、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
L及びL’のそれぞれが、独立に、アルキル、アリール、又はアラルキル部分であり、その一方又は両側に基Yが隣接しており、但し、Yは、(i)−W−(C=O)−Q−、(ii)−W−(C=O)−、(iii)−W−、及び(iv)ジスルフィド(W及びQは、独立に、酸素、NH、及び直接結合から選択される)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
L及びL’の少なくとも1つが、in vivoで開裂可能である、請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
請求項1に記載の化合物を含むリポソーム。
【請求項16】
請求項3に記載の化合物を含む、請求項15に記載のリポソーム。
【請求項17】
請求項1に記載の化合物を1〜約50モルパーセント含む、請求項15に記載のリポソーム。
【請求項18】
薬物用担体の親水親油バランスを調整する方法であって、
次式の担体
【化3】


[式中、
Aは親水性ポリマーであり、
L及びL’のそれぞれは、独立にリンカー基であり、
Bは脂質部分であり、
Zは、前記薬物であるか、又は前記薬物にコンジュゲートするのに有効な反応性部分であり、前記反応性部分は、ヒドロキシ(−OH)、酸化物(−O-)、又は2−アミノエトキシではなく、
AとBの相対的サイズは、前記担体に所望のHLBを与えるのに有効である]
を提供することを含む上記方法。
【請求項19】
Bがジアシル脂質であり、前記化合物が、次式
【化4】


[式中、R及びRのそれぞれは、独立に4〜24個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニルである]
を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
Aがポリエチレングリコールである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
治療薬を経口送達する方法であって、
式I
【化5】


[式中、
Aは親水性ポリマーであり、
L及びL’のそれぞれは、独立にリンカー基であり、
Bは脂質部分であり、
Zは前記治療薬を含む]
のコンジュゲートを対象に経口投与することを含む方法。
【請求項22】
Zが、in vivoで開裂可能な式Iのリン原子への結合をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
Bがジアシル脂質であり、前記コンジュゲートが、式II
【化6】


[式中、R及びRのそれぞれは、独立に4〜24個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニルである]
を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
Aがポリエチレングリコールである、請求項23に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−516056(P2008−516056A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535912(P2007−535912)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/036645
【国際公開番号】WO2006/042269
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(506353677)アルザ コーポレイション (23)
【Fターム(参考)】