説明

リング照明装置およびリング照明装置を用いた表面検査装置

【課題】地合ノイズによって誤検出を生じることのない、リング照明装置およびリング照明装置を用いた表面検査装置を提供することを課題とする。
【解決手段】対象物を照射するリング照明装置であって、リング状の光出射部と対象物の中間に、前記光出射部と同心円状で、かつ、前記光出射部より径の小さい光学的な開口部を有する遮光板を備え、対象物に前記光出射部からの直接光が照射されないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の表面検査を行うのに好適な照明装置に関するものであり、特に、鋼板など金属対象物表面にある微小点状欠陥を検査するのに適した照明装置に関するものである。
【0002】
また、本発明は、上記照明装置を用いた表面検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
対象物の表面を検査あるいは観測するときに用いる照明として、対象物表面をムラなく照射するために、リング照明が広く用いられている。しかしながら、このリング照明を用いて対象物を照射すると、特に対象物表面の鏡面性が高い場合には、リング照明の光出射部が対象物表面に映り込んで照明ムラが生じ、微小な表面異質部が見えにくくなるという問題がある。
【0004】
この対策として、たとえば、特許文献1には、リング照明における光照射部と対象物の間に、光拡散板を挿入する技術が開示されている。また、特許文献2には、光出射部から出射される光を円周外向きに所定の角度を付けて配置し、内面を拡散反射面とした拡散反射フードをリング照明端面部に設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−57421号公報
【特許文献2】特開平6−235821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に開示された技術では、ハレーションを抑止する効果はあるものの、対象物表面状態および検査対象によっては、地合ノイズによって誤検出を生じる問題があった。
【0007】
たとえば、鋼板のような、表面に微細な凹凸構造を有する表面上の微小な点状欠陥を検査するような場合には、高解像度のカメラで鋼板表面を観測すると、鋼板表面の地合部分(欠陥のない部分)において細かい明暗点から成る輝度パターンが観測され、微小な欠陥がこの中に埋もれてしまって検出できなくなってしまう。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、地合ノイズによって誤検出を生じることのない、リング照明装置およびリング照明装置を用いた表面検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、対象物を照射するリング照明装置であって、リング状の光出射部と対象物の中間に、前記光出射部と同心円状で、かつ、前記光出射部より径の小さい光学的な開口部を有する遮光板を備え、対象物に前記光出射部からの直接光が照射されないようにしたことを特徴とするリング照明装置である。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のリング照明装置において、対象物の表面上の観測領域全体が、前記遮光板によって形成される暗い遮光部の中に含まれるようにしたことを特徴とすることを特徴とするリング照明装置である。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のリング照明装置を用いた表面検査装置であって、前記リング照明装置の中心線上に配置し、前記リング照明装置の中央開口部から対象物を撮影するカメラと、該カメラで撮影した画像から対象物の表面異質部を抽出・判定する画像処理装置とを備えることを特徴とする表面検査装置である。
【0012】
さらに、本発明の請求項4に係る発明は、請求項3に記載の表面検査装置において、検査対象は、鋼板表面の微小点状欠陥であることを特徴とする表面検査装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リング照明装置として、リング状の光出射部と対象物の中間に、光出射部と同心円状で、かつ、光出射部より径の小さい光学的な開口部を有する遮光板を備え、対象物に直接光が照射されないようにしたので、対象物表面からの明暗点の輝度パターンの発生を防止出来るようになった。
【0014】
また、上記リング照明装置と、リング照明装置の中心線上に配置し、リング照明装置の中央開口部から対象物を撮影するカメラと、カメラで撮影した画像から対象物の表面欠陥を判定する画像処理装置を備えるようにしたので、たとえば、鋼板表面の微小点状欠陥を検査するような場合でも、地合ノイズを抑止して、微小欠陥を精度よく検査出来るようになった。
【0015】
さらに、本発明のリング照明装置や表面検査装置は、汎用的なリング照明、カメラ、画像処理装置と、リング状の遮光板によって構成することが出来るので、装置構成が容易であり、かつ安価であるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のリング照明装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明のリング照明装置における光線経路を模式的に示す図である。
【図3】鋼板表面の光反射パターンを模式的に示す図である。
【図4】本発明のリング照明装置を用いた表面検査装置の構成例を示す図である。
【図5】従来のリング照明装置の構成例を説明する図である。
【図6】従来のリング照明装置における光線経路を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係わるリング照明装置およびリング照明装置を用いた表面検査装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
先ず、従来のリング照明装置について説明を行う。図5は、従来のリング照明装置の構成例を説明する図である。図中、上に示す図はリング照明装置の側面図、下に示す図は対象物表面上の光照射状態を示す平面図であり、図中の符号はそれぞれ、2は光出射部、4は対象物、5は観測領域、6は直接光照射部、11は従来のリング照明装置、および13は拡散板を表す。
【0019】
ドーナッツ状に配した光出射部2から対象物4に向けて、光が照射される。光出射部2は、対象物4までの作動距離が短くても照射光がラップするよう、図5に示すように、通常内向きにある角度だけ傾けて配置される。また、光出射部2の前面にリング状の拡散板13を置き、ハレーションを回避するとともに照明ムラを抑止する。
【0020】
このとき、従来のリング照明装置11の中央開口部の上側から対象物4をカメラで撮影したり、目視で観測したときの視野範囲である観測領域5は、照明ムラが抑止された明るい円状の領域(直接光照射部6)に覆われる。
【0021】
しかしながら、図5で示した従来のリング照明装置11では、鋼板などのように表面に微細な凹凸構造を有した対象物4を検査する場合、解像度の高いカメラを用いると、欠陥の無い地合部分において、細かい明暗点から成る輝度パターンが観測される。このため、たとえば微小な点状欠陥を検査する場合、欠陥がこの明暗点パターンに埋もれてしまい、欠陥が検査不能となる。
【0022】
この原因について、図6および図3を参照して説明する。図6は、従来のリング照明装置における光線経路を模式的に示す図である。また、図3は、鋼板表面の光反射パターンを模式的に示す図である。
【0023】
光出射部2から出た光は、拡散板13で拡散されて対象物4に照射され、その反射光がレンズ9を通してカメラ8に結像される。この反射光には、図6に示すように、正反射光7aや、前方拡散反射光7b、および後方拡散反射光7cなどが含まれる。特に、正反射光や正反射近傍の反射光は、図3に示すように、わずかな角度変動によって反射強度が大きく変動するため、金属のような微細凹凸構造を有する表面では明暗点の輝度パターンが発生してしまう。
【0024】
図1は、本発明のリング照明装置の構成例を示す図である。光出射部2は、図5に示した従来のリング照明装置11と同様に、内向きにある角度だけ傾けて配置される。また、光出射部2としては、従来のリング照明装置と同様に、LEDをドーナッツ状に配置したり、あるいは、照明光源に連結した光ファイバー束をドーナッツ状に分配したりすればよい。
【0025】
本発明に係るリング照明装置1では図1に示すように、光出射部2と対象物4の中間に遮光板3を設ける。この遮光板3は、前記光出射部2と同心円状で、かつ、前記光出射部より径の小さい光学的なリング状の開口部を有するものである。このようにすると、対象物4の表面には、明るいリング状の照光部6の内側に暗い遮光部12が形成される。
【0026】
遮光板の開口部の大きさは、図1に示すように、観測領域5全体が、この暗い遮光部12に入るように設定する。遮光板3としては、光学的に不透明なものであれば材質を問わないが、たとえば表面を黒アルマイト処理したアルミ材などを用いる事が出来る。なお、照明光の透過率が十分小さいものであれば、完全な遮光板でなくても使用可能である。
【0027】
図1に示す構成としたリング照明装置の場合には、照明からの直接的な反射光はカメラに入らない。図2は、本発明のリング照明装置における光線経路を模式的に示す図である。回折光7dが、後方拡散反射してレンズ9を経由してカメラ8に入ることになる。この後方拡散反射光は、図3から分るように対象物表面の微細な角度変化があっても反射強度はほぼ一定のため、従来のリング照明装置で問題となった明暗点の輝度パターンが生じなくなり、微小な点状欠陥の検査も精度良く行うことができる。
【0028】
図4は、本発明のリング照明装置を用いた表面検査装置の構成例を示す図である。リング照明装置は図1で説明したものを用いており、本発明に係るリング照明装置1の中央の開口部からレンズ9を経由してカメラ8で対象物4の表面を撮影する。撮影した画像は、画像処理装置10で、対象物4の表面異質部を判定する。
【0029】
画像処理装置10での処理内容は、公知のものを使用することができる。たとえば、シェーディング補正などの前処理後に、2値化あるいは多値化処理により、所定しきい値レベルを超える画素を抽出し、画素連結処理、孤立点除去、ラベリング処理後、画像特徴量を計算して欠陥を抽出・判定する。
【0030】
以上の説明では、主として鋼板を対象物として記述したが、本発明の対象物は鋼板に限定されず、アルミなどの金属板やその他の材質のものにも適用可能である。また、対象物の形状も、板状のものに限定されるものではない。さらに、遮光板3の配置場所は、図1に示したように観測領域5を遮光部12が覆うようにできれば、光出射部2の近傍でなくてもよいのは言うまでもない。
【実施例】
【0031】
本実施例は、前述の図4に示した構成で、ステンレス酸洗鋼板の微小点状スケール残り欠陥を検査したものである。
【0032】
図4に示した装置構成において、光源として、キセノンストロボ発振器に連結したファイバーライトガイドの一端に、半径40mmの光出射部2を有するリング照明を用いた。光出射部2は、内向きに約15°傾けて配置した。遮光板3として、表面を黒アルマイト処理したアルミ板を用い、上記光出射部2と一体化して固定した。
【0033】
カメラ8として、1392画素×1040画素の高解像度カメラを用い、レンズ9と組合わせて、その分解能を30×30μmとした。カメラの出力は画像キャプチャーボードに接続し、この画像キャプチャーボードを収納したパソコンにより画像処理装置10を構成し、画像処理を行った。本検査装置によって、従来のリング照明では検査不能であった、直径100μm前後の微小点状スケール残り欠陥の検査がSN比3以上で可能になった。
【符号の説明】
【0034】
1 本発明に係るリング照明装置
2 光出射部
3 遮光板
4 対象物
5 観測領域
6 直接光照射部
7a 正反射光
7b 前方拡散反射光
7c 後方拡散反射光
7d 回折光
8 カメラ
9 レンズ
10 画像処理装置
11 従来のリング照明装置
12 遮光部
13 拡散板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を照射するリング照明装置であって、
リング状の光出射部と対象物の中間に、前記光出射部と同心円状で、かつ、前記光出射部より径の小さい光学的な開口部を有する遮光板を備え、
対象物に前記光出射部からの直接光が照射されないようにしたことを特徴とするリング照明装置。
【請求項2】
請求項1に記載のリング照明装置において、
対象物の表面上の観測領域全体が、前記遮光板によって形成される暗い遮光部の中に含まれるようにしたことを特徴とすることを特徴とするリング照明装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリング照明装置を用いた表面検査装置であって、
前記リング照明装置の中心線上に配置し、前記リング照明装置の中央開口部から対象物を撮影するカメラと、
該カメラで撮影した画像から対象物の表面異質部を抽出・判定する画像処理装置とを備えることを特徴とする表面検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の表面検査装置において、
検査対象は、鋼板表面の微小点状欠陥であることを特徴とする表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−47837(P2011−47837A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197533(P2009−197533)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】