リン脂質及び糖脂質の吸着分離方法
【課題】複数種類の脂質等を含む細胞や生体組織等の試料から試料の前処理工程を必要とせず、リン脂質及び糖脂質を分離でき、簡便な操作によりリン脂質及び糖脂質を高純度に分離し、精製する方法を提案する。
【解決手段】リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、ヒドロキシカルボン酸の存在下に酸化チタンに接触させ、リン脂質及び糖脂質を同時に吸着させる。次いで、リン脂質及び糖脂質を夫々別箇に分離させる。この際、リン脂質におけるリン酸基の吸着を阻害せずに、糖脂質を溶出する。
【解決手段】リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、ヒドロキシカルボン酸の存在下に酸化チタンに接触させ、リン脂質及び糖脂質を同時に吸着させる。次いで、リン脂質及び糖脂質を夫々別箇に分離させる。この際、リン脂質におけるリン酸基の吸着を阻害せずに、糖脂質を溶出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の脂質などを含む試料から、リン脂質や糖脂質を分離することが出来るリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜を構成する脂質は、単純脂質、複合脂質から成り、後者にはリン脂質、糖脂質が含まれる。リン脂質、糖脂質には、グリセロール骨格を持つグリセロ脂質と、スフィンゴイド塩基を持つスフィンゴ脂質から成り、グリセロ脂質には、フォスファチジールコリン、フォスファチジールエタノラミン、フォスファチジールセリン等の主要なリン脂質(グリセロリン脂質)が含まれる。
【0003】
一方、スフィンゴ脂質には、モノグリコシールセラミド、ジグリコシールセラミド、トリグリコシールセラミド(例えばGb3),テトラグリコシールセラミド(例えばGb4)、或いは更に、糖鎖が5つ以上付いた糖鎖を持ったものや、シアル酸を持ったガングリオシドや、硫酸を持ったスルファチド等のスフィンゴ糖脂質と、スフィンゴミエリン等のリンを持ったスフィンゴミエリン等のようなスフィンゴリン脂質から成る。
【0004】
これらの脂質は、生体の活性脂質として重要な機能を担っている。特に、最近の研究から、これらの脂質のうちスフィンゴ脂質は、細胞膜上でマイクロドメインを形成し、細胞のシグナル伝達に重要な働きをなしていることが知られている。それ故、その微量、簡便、ハイスループット対応可能な精製分析方法の確立は急務である。
【0005】
しかしながら、これらの脂質は互いにその物理化学的な性格が近似しているため、これらの網羅的精製分析は困難であった。
【0006】
細胞や生体組織をホモジナイズし、Bligh−Dyer法やFolch法で総脂質を抽出した後、陰イオン交換クロマトグラフィーなどで中性脂質、酸性脂質に分画し、リン脂質や糖脂質、単純脂質を得て、分析を行なうプロセスがある。
又、順相クロマトグラフィーでも行なうことが出来る。糖脂質を分析する際には、グリセロリン脂質を弱アルカリ加水分解させる必要があり、リン脂質を分析する際には、糖脂質は阻害物質となる。
【0007】
リン脂質と糖脂質は、性質が類似したものが存在するため、分離が困難な場合が多い。糖脂質は、細胞のがん化やアポトーシスなど重要な化合物であり、臨床分野においても糖脂質の分析は注目されている。実試料を繰り返し、HPLCや質量分析装置へ注入すると、試料由来のコンタミネーションによる分離能低下やカラムの劣化等の様々な悪影響を引き起こすため、試料の前処理は不可欠であった。
【0008】
例えば、スフィンゴ脂質を精製する方法として、アルカリ加水分解法が良く用いられているが、これでは、ほとんどのグリセロ脂質が壊れてしまうため、スフィンゴ脂質は濃縮できるものの、グリセロ脂質、特にフォスファチジールコリン、フォスファチジールエタノラミン、フォスファチジールセリン等の主要なリン脂質を回収することは困難であった。
【0009】
又、濃縮されたスフィンゴ脂質は、濃縮はされるものの、アルカリ加水分解で壊れたグリセロ脂質から生じた脂肪酸乃至その誘導体は残るため、これを除くには更にカラムクロマトグラフィー等の処置が必要となった。
【0010】
更に、残ったスフィンゴ脂質では、例えばスフィンゴミエリンとテトラグリコシールセラミドは、極めて物理化学的な性格が似ているため、従来はこれらの脂質をアセチル化し、カラムクロマトグラフィーで一旦分離し、再度脱アセチル化すると言った作業などが必要となっていた。
【0011】
従来、このようにリン脂質と糖脂質を分離する際には、順相カラムや陰イオン交換カラムを用いたクロマトグラフィーを用いるが、これらのカラムはリン脂質や糖脂質に対して、特異的ではないため、多くの複数種類の脂質も混入する問題がある。又、サンプルが希釈されてしまうといった問題がある。これを解決するために、二酸化チタンを用いたリン脂質特異的な精製方法が試みられている(非特許文献1)。
【0012】
しかしながら、ここで用いているチタニアの表面積がほとんどないため、リン脂質の回収率が低く、また精製方法でもリン脂質以外のオレイン酸やコレステロールの除去率は低い。又、この方法では、糖脂質の吸着・溶出は考慮されておらず、リン脂質と糖脂質の分離についても考えられてはいない。
又、対象物質は異なるが、ペプチドにリン酸基が結合したリン酸化ペプチドの精製の分野において、チタニアカラムを用いた方法がある。非特許文献2においては、リン酸化ペプチドの精製の際にもヒドロキシカルボン酸が使用されている。しかし、ここでのヒドロキシカルボン酸を使用する目的は、リン酸化ペプチド以外の非特異的な物質の吸着を減少させるために使用しており、本発明の目的である糖を含む物質の分離に関しては、考慮されていない(非特許文献2)。
【0013】
【非特許文献1】Yoshihiko IKEGUCHI et al.,ANALYTICAL SCIENCES 16,p541-543,2000
【非特許文献2】Martin R.Larsen et al.,Molecular & Cellular Proteomics 4(7),873-86,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は上述した実情に鑑み、手数のかかる各種の操作工程を用いず、一度の操作で特異的にリン脂質、糖脂質を高純度で分離し、精製することが出来る方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決し目的を達成するため、本発明者が検討した結果、酸化金属を用いた手法により、リン脂質と三糖以上の糖を持った糖脂質を同時に吸着させ、その後、リン脂質におけるリン酸基の吸着を阻害せずに三糖以上の糖を持った糖脂質のみを溶出させることができ、また、三糖以上の糖を持つ糖脂質の吸着を阻害せずにリン脂質のみを溶出できることを発見した。
ここで挙げる糖脂質を構成する糖は、「水酸基を2個以上持ったアルデヒド乃至ケトン」として定義される糖のほかに、環状構造をとるヘキソースや(N−アセチル)グルコサミン、或いはシアル酸などを総称するものである。
【0016】
本発明は第一に、リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、吸着させることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0017】
又、第二に、リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、リン脂質及び糖脂質を同時に吸着させると共に、次いで塩基性溶媒によりリン脂質を溶出し、ヒドロキシカルボン酸含有溶媒により糖脂質を溶出することで、夫々別箇に分離させることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0018】
又、第三に、前記ヒドロキシカルボン酸は、アリファティックヒドロキシカルボン酸又はアロマティックヒドロキシカルボン酸であることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0019】
又、第四に、前記酸化金属は、酸化チタン、酸化ジルコニウムから成る群から選ばれる、少なくとも1種であることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0020】
又、第五に、前記酸化チタンは、二酸化チタン、一酸化チタン、三酸化二チタン、五酸化三チタン、七酸化四チタンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0021】
又、第六に、前記酸化金属は、表面積3m2/g以上、細孔径10Åから1000Åの範囲に於いて、表面積(単位:m2/g)と細孔径(単位:Å)の積の値が3000以上であることを特徴とする請求項1乃至2及び請求項4乃至5の何れかに記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0022】
又、第七に、前記酸化金属は、モノリス構造体に含有乃至付着させたことを特徴とするリン脂質及び糖脂質の分離方法を特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、試料に含まれるリン脂質または糖脂質を、特異的に精製することが出来る新規なリン脂質または糖脂質の分離方法を提供することが出来る。本発明に係るリン脂質または糖脂質を高い選択性で精製することが出来る。
又、本発明に係るリン脂質または糖脂質の精製方法では、より不純物の少ないリン脂質、糖脂質を得ることが可能であり、脱塩操作後に得られた上記試料を、高速液体クロマトグラフィーや質量分析装置へ直接供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法は、試料中に含まれるリン脂質及び糖脂質を、他の成分から分離して濃縮する方法である。ここで試料とは、リン脂質または糖脂質を含む組成であれば特に限定されないが、例えば複数種類の脂質を含む溶液である。
【0025】
又、本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法において、リン脂質、糖脂質としては何ら限定されず、いかなる細胞由来のリン脂質、糖脂質をも分離対象とすることが出来る。
【0026】
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法において、リン脂質及び糖脂質を含む試料を、酸化金属を用いた分離手段に供給し吸着させる際には、酸性条件下とする。
次いで、吸着された三糖以上の糖を持つ糖脂質を選択的に溶出させる場合は、アロマティックヒドロキシカルボン酸やアリファティックヒドロキシカルボン酸などのヒドロキシカルボン酸類を含有する有機溶媒を添加する。又、吸着されたリン脂質を選択的に溶出させる際は、塩基性有機溶媒を添加する。
リン脂質のみを得たい場合は、ヒドロキシカルボン酸類を、予め当該試料に添加しても良いし、当該試料を分離手段に供給する前に、当該分離手段に予め単独で供給されていても良い。これにより、分離手段への糖脂質の吸着は阻害され、リン脂質が選択的に吸着・溶出される。糖脂質が必要な場合は、ヒドロキシカルボン酸類を予め当該試料もしくは分離手段に添加してはならない。
【0027】
ここで、アリファティックヒドロキシカルボン酸とは、脂肪族系の骨格を有するヒドロキシカルボン酸を指し、アロマティックヒドロキシカルボン酸とは骨格に芳香族環を有しているものを指すが、骨格に脂肪族、芳香族環の両方を有していても良い。
具体的には、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸およびクエン酸といったαヒドロキシカルボン酸または、2,5−DHB(ジヒドロキシ安息香酸)といったアロマティックカルボン酸を挙げることが出来る。上記で例示した具体的な化合物を単独で使用しても良いし、複数種類を混合して使用しても良い。
【0028】
ヒドロキシカルボン酸による糖脂質溶出の理由について考える。
酸化金属類(酸化チタン、酸化ジルコニアなど)は、ルイス(Lewis)酸として働くことが知られている。ルイス酸とは、OHや孤立電子対を有する化学種から電子対を受け入れることが出来る物質のことを指し、この種は配位子交換能を有する。
【0029】
これにより、物質の持つ水酸基は、酸化金属イオン(チタンイオンやジルコニウムイオン)と錯体を形成し、吸着・保持されることが知られている。この吸着・保持力は、分子内における水酸基の立体的な位置により左右される。
【0030】
このことから、水酸基を持つ糖脂質の一部は、立体的な構造により酸化金属表面に吸着・保持されると考えられる。又、ヒドロキシカルボン酸類も、酸化金属類と錯体を形成可能な構造である。
【0031】
このため、糖脂質が酸化金属に吸着・保持されている状態に、ヒドロキシカルボン酸を添加すると、ヒドロキシカルボン酸が錯体を形成するため、糖脂質は酸化金属への吸着・保持が解かれ溶出されるといった現象が起きると考えられる。
【0032】
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法について、図1により説明する。
これは一例であり、物質、物質の入れる順序等はこれに限定されるものではない。処理の対象となる脂質類は、常法に従い、細胞や組織から有機溶媒にて抽出を行ない、これを容器内に入れ、溶媒は蒸発乾固しておく。
【0033】
この容器内に、適宜処理したチタニア粉末が懸濁された吸着用溶媒(穏やかな酸性有機溶媒、例えばHIPWHCl)を加え、脂質類とチタニア粉末をよく混和する。この行程により、リン脂質および三糖以上の糖脂質(単純脂質、ニ糖までの糖脂質以外)は、チタニアに吸着される。
チタニア粒子を含む溶液を遠心などの方法により、チタニア粒子と上清に分離し、上清を回収する。この上清には、単純脂質、ニ糖までの糖を持った糖脂質が含まれる。必要に応じて、洗浄用溶媒(HIPWないしHIPWHCl)を分離したチタニア粒子に加え、洗浄を行ない、遠心などの方法によりチタニア粒子を回収する。
吸着用溶媒として使用される溶媒は、脂質類を溶解できる有機溶媒を含み、且、酸性を示す必要がある。この要件を満たす溶媒の例としては、ヘキサン、イソプロパノール、水、塩酸を適意混合した溶媒(HIPWHCl)が使用可能である。例えば、ヘキサン:イソプロパノール:水:塩酸=120:80:5:1で調整した溶媒が使用できる。
洗浄用溶媒としては、吸着用溶媒と同一組成の混合溶媒もしくは、ヘキサン、イソプロパノール、水を混合した溶媒が使用可能である。
【0034】
回収したチタニアに、リン脂質溶出用溶媒A(例えば0.1Mol/Lのアンモニウムメタノール)を加え、よく混和する。この行程により、チタニア粒子に吸着していたリン脂質のみが溶媒中に溶出される。この溶液を遠心などの方法により、チタニア粒子に吸着していたリン脂質のみが溶媒中に溶出される。この溶液を遠心などの方法により、チタニアと上清を分離し、上清を回収・除去する。この上清には、リン脂質が含まれる。必要に応じて、洗浄用溶媒(例えばHIPWないしリン脂質溶出用溶媒)で沈殿したチタニアを洗浄し、遠心などの方法によりチタニアを回収する。
リン脂質溶出溶媒Aとして使用される溶媒は、アンモニウムメタノールには限られず、脂質を溶解することのできる有機溶媒で、かつ塩基性の特性を持つ溶媒であれば、リン脂質の選択的な溶出が可能である。
【0035】
上記の回収したチタニアに、糖脂質溶出用溶媒B(例えば10mg/mlのDHB in MeOH)を加え、よく混和する。この行程により、チタニア粒子に吸着していた三糖以上の糖脂質が溶媒中に溶出される。この溶液を、遠心などの方法でチタニアと上清を分離し、その上清を回収する。この上清には、三糖以上の糖を持った糖脂質が含まれる。
糖脂質溶出用溶媒Bとして使用される溶媒は、脂質を溶解することのできる溶媒を含み、かつヒドロキシカルボン酸類を含む溶媒であれば、糖脂質を選択的に溶出することが可能である。
【0036】
ここで、分離手段に使用する酸化金属とは、リン脂質及び糖脂質の一方、または両方に対して、親和性を有することが知られているあらゆる物質を含む意味である。中でも、酸化金属としては、酸化チタン、酸化ジルコニウムを挙げることが出来る。
【0037】
酸化チタンとしては、二酸化チタン(チタニア、TiO2)のほかに、一酸化チタン(TiO),三酸化ニチタン(Ti2O3)、五酸化三チタン(Ti3O5)、七酸化四チタン(Ti4O7)が挙げられる。
【0038】
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法においては、これら酸化金属を単独で用いても良いし、複数種類を混合して用いても良い。特に、酸化金属としては、リン脂質及び糖脂質に対する親和性の高さから、酸化チタニウム及び酸化ジルコニウムを単独または混合して使用することが好ましい。
【0039】
本発明方法において、リン脂質および糖脂質の分離に関わるのは、担体(分離媒体)そのものの表面の金属(チタニアやジルコニアなど)である。ちなみに、逆相法での分離などでは、分離に関わるものは分離媒体上に結合させた「官能基の量」になる。
つまり、今回の方法では、「分離性能」=「担体上に結合した官能基量」ではなく、「分離性能」=「単体の表面積」となる。
【0040】
以下、細孔径と表面積の違いによる回収率の相違の理由について考える。
前提として、吸着・溶出の原理は酸化金属の種類によって大きな相違はないと考えられるので、その他の要因である細孔径および表面積について考える。
【0041】
先ず、細孔径に関しては、分離しようとする物質の分子サイズが重要となる。
分離対象となるリン脂質や糖脂質(分離対象物質)の分子サイズは、約40〜60Åであるのに対して、分離対象物質ではない単純脂質で生体内に多く存在するオレイン酸やコレステロールなど(非分離対象物質)は、20〜30Å程度の分子サイズである。
【0042】
分離対象物質の分子サイズの2倍(約100Å)以上の細孔径であれば、分離対象物質、非分離対象物質共に細孔内への出入りが互いに阻害なく行えるため、吸着されない物質が細孔内に入った場合は、そのまま細孔から出て行き、吸着される物質が細孔に入った場合は細孔内で吸着されるような反応(交換反応)が発生するため、非分離対象物質の吸着阻害が発生しづらいと考えられる。
そのため、実施例1で使用したジルコニア粒子のように表面積が少なくとも、細孔径の大きなものは十分な回収率(分離能)が得られる。
【0043】
対して、細孔径が60から70Å程度の場合、分離対象物質と細孔径が近似しているため、小さな非分離対象物質が共存する場合、細孔内への進入に関して競合が発生し、小さな非分離対象物質の方が先に細孔内に入りやすくなってしまう。
【0044】
更に、細孔径が小さなため細孔の出入りにおける交換反応が発生しづらく、分子サイズの大きな分離対象物質が細孔内で吸着される確率が減少する。
このような現象が発生するため、表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Åのチタニア粒子では、十分な回収率・分離能が得られなかったと考えられる(実施例3参照)。
【0045】
この考え方によると、細孔径の大きいほうが有用であるといえるが、細孔径の大きさと表面積は一般的に反比例するため、大きすぎる細孔径は表面積を減少させてしまい、吸着・分離能の低下を引き起こす。又、細孔径を大きくすると、粒子の強度の低下を招くため、粒子の破損などが発生する。破損した粒子は遠心などの方法で分離しづらくなり、操作が煩雑になってしまう。
【0046】
細孔を持つ物質を作成する場合、一般的に細孔径を制御することにより作成される。しかし、細孔径を制御し作成された物質においては、細孔径と表面積との関係が反比例になってしまう。つまり、細孔径を大きくすると表面は小さくなり、細孔径を小さくすると表面積は大きくなる。本発明では、細孔が小さい場合は分離対象物質の出入りに影響を及ぼし、実施困難になり、細孔径を大きくすると吸着・保持に関わる表面積が小さくなり、十分な吸着・保持が実現出来なくなる。
【0047】
つまり、細孔径と表面積が一定の大きさを持つ範囲でなければ、実施困難となる。この実施可能範囲を設定するにあたり、「表面積(単位:m2/g)」と「細孔径(単位:Å)」の積が3000以上となる範囲を実施可能範囲と考えられる。
但し、細孔径が1000Å以上となるものに関しては、実際の使用において分離担体の強度が著しく低下してしまうため、実施困難である。
【0048】
表面積は、対象物質の吸着可能量(負荷量)と関連し、試料中の対象物質濃度に依存するため、一概に決定することは出来ないが、表面積3m2/g以上であるものに関しては、作成上、表面積測定上実施可能である。
又、細孔径10Å以下となるようなものに関しても、細孔径が小さすぎ細孔内面がほとんど吸着・分離に係らなくなってしまうため、実施可能範囲には含まない。この結果、表面積は3m2/g以上でなければならない。
【0049】
以下、細孔径が60〜70Åの場合の表面積に関して考える。
細孔径が60〜70Åの場合、細孔内への出入りにおいて競合が発生し、交換反応が発生しづらいため、予め分離対象物質であるリン脂質・糖脂質だけではなく、非分離対象物質も含めてすべての脂質が分離担体の表面に接触できるだけの表面積を有する必要がある。
【0050】
本発明を血液などの実試料において実施する場合、リン脂質・糖脂質以外の脂質を含む試料中から、選択的にリン脂質及び糖脂質を吸着・保持する必要がある。選択的に吸着する場合、リン脂質・糖脂質に関わらず、すべての脂質が吸着・保持できるだけの能力を有する分離担体が必要となる。
【0051】
例えば、血液試料の場合、ヒトの総脂質の標準値は400〜800mg/100mLである。分析試料の採取のための採血は、対象動物やヒトへの負担となるため、1mL以下としたい。更に、通常、採取された試料はリン脂質・糖脂質以外の種々の検討にも使うので、この分析に実際に取り扱う事の可能な血液量は、100μL程度になると考えられる。又、採取する試料量は、少ないほうが好ましいが、分離の目的とするリン脂質・糖脂質量も少なくなってしまう。
【0052】
特に、糖脂質に於いては、本発明に於いては三糖以上の糖鎖を有する糖脂質の分離を行なうため、その含有量は総脂質の数%と考えられ、各成分量は1μg以下となり、検出が難しくなる可能性が高い。即ち、現状の検出方法で考えられるトータル血液試料量としては、100μL前後が理想的となる。
【0053】
血液試料100μLを処理対象とした場合、試料中に含まれる総脂質量は、標準値として0.4から0.8mgとなるが、この値は標準値であるため、実質1mg程度の脂質を処理できることが望まれる。即ち、約1mgの脂質すべてと接触可能な能力を持つ分離担体が本方法に於いては有効となる。
本発明は、リン脂質及び糖脂質が担体(ゲル)表面に存在するチラノール基などの酸化金属とのインターラクションにより分離されるので、前処理ゲルへの要求としては、最小でも1mgを保持できる表面積を持つことが推奨される。脂質の分子量は、幅広く分布しているが、グリセロール骨格を持つ脂質を考えると、分子量が約200程度となる。この物質を1mg保持するためには、1×10−3÷250=4×10−6mol=4μmol以上保持する必要がある。
【0054】
一方、100μLの試料を取り扱う場合、試料溶液中に前処理固相としてのゲルを分散させ、混合する形態をとるため、ゲルの量は溶液の1/10以下の10mg以下にする必要がある。
これ以上のゲルを加えると、溶液とゲルの混合が不十分になり、接触効率が低下する。又、試料を希釈する方法もあるが、この方法に於いても、試料中の目的成分濃度の低下により、ゲルとの接触効率は低下し、分離効率の低下となってしまう。
【0055】
このことから、試料100μL中に含まれる脂質約4μmol(1mg)を確実に保持・吸着するためには、4μmol/10mg=400μmol/1g以上のチラノール基(酸化金属基)を持つ分離担体が必要となる。
【0056】
チタニア表面のチラノール基は、シラノールと同様に1m2あたり、8μmol(8μmol/m2)と考えられるため、400μmol/1g以上のチラノール基を有するためには、表面積は400μmol/1g÷8μmol/m2=50m2/gが必要となる。
【0057】
以上のことから、細孔径60Åから70Åの酸化金属を使用する場合では、表面積が少なくとも50m2/g以上でなければ使用に堪えないと考えられる。つまりは、「表面積(単位:m2/g)」と「細孔径(単位:Å)」の積が3000以上でなければ、使用に堪えないと考えられる。
【0058】
酸化金属を付着させる、又は含有させるモノリス構造体について説明する。
モノリス構造体は、主に、ゾルーゲル法で作成される。即ち、金属アルコキシドや反応性有機モノマーなどを単独または、混合して用いて、部分的に加水分解して、重縮合してコロイド状オリゴマーを作り(ゾルの生成)、更に加水分解して重合と架橋を促進させ、三次元網目状の骨格構造を作る(ゲルの生成)ことで合成される。
【0059】
これにより、モノリス構造体は骨格構造の間に、一方の端部からもう一方の端部に連続した連続孔(スルーポア)を持つ構造をとる。又、骨格表面にも任意の孔径の細孔(メソポア)も形成することが可能である。このことから、モノリス構造体は、液体試料の通り道である連続孔を確保しながら、分離に関わる表面積を増大させるための細孔も有する構造となる。
【0060】
モノリス構造体の作成に用いる原料である金属アルコキシドとして、チタン・アルコキシド、ジルコニウム・アルコキシドなどを用いることにより、酸化チタン、酸化ジルコニウムを骨格とするモノリス構造体の作成が可能となる。
又、シラン・アルコキシドなどを用いて作成したモノリス構造体の表面に、チタン・アルコキシド、ジルコニウム・アルコキシドなどを反応させることにより、表面に酸化金属を持つモノリス構造体の作成も可能である。
【0061】
以下、実施例を用いて、本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
酸化金属と液の接触は、液体内に分離担体を分散し、混和する方法のほかに、両端開放の筒内に径を横切るように分離担体を設置し、圧力差(吸引などによる陰圧、吐出などによる陽圧)、遠心力、重力(自然落下)により液を移動させ、酸化金属と接触させることも可能である。モノリス構造体を使用した場合は、この方法により構造体内部に液体を通過させることが可能である。
【実施例1】
【0062】
実施例1では、リン脂質であるスフィンゴミエリン(Sph)および単糖を持った糖脂質であるガラクトセレブロシド(GalCer)、単純脂質であるコレステロール(CHO)を含む脂質混合サンプルからのリン脂質であるスフィンゴミエリンの精製を行なった。まず、スフィンゴミエリン(Sph)、ガラクトセレブロシド(GalCer)、コレステロール(CHO)、各々25μgをHIPWHCl(ヘキサン/2−プロパノール/水/HCl、120/80/5/1)300μLで溶解した。
又、チタニア粉末(表面積100m2/g、細孔径60Å、粒径5μm)100mgおよびジルコニア粉末(表面積30m2/g、細孔径300Å、粒径5μm)100mgを、メタノール/水 4/6、1mlで、それぞれ懸濁させ、10分間転倒混和後、遠心して上清を捨て、更に、HIPWHCl(ヘキサン/2−プロパノール/水/HCl、120/80/5/1)1mlをそれぞれに加え、懸濁させ10分間転倒混和した。
【0063】
次に、上記脂質混合サンプルと、上記チタニア粒子懸濁液およびジルコニア粒子懸濁液を混合し、10分間よく転倒混和後、遠心して上清を非吸着画分として収集した。
更に、非吸着画分を除いた沈渣(チタニア粒子、ジルコニア粒子)にHIPW(ヘキサン/2−プロパノール/水、60/40/3)を約300μL加え、よく混和後、遠心して上清を集め、先に収集した非吸着画分に加えた。
【0064】
非吸着画分を除いた沈渣(チタニア粒子、ジルコニア粒子)に、300μLの0.1mol/Lのアンモニウムメタノールを入れ、20分よく転倒混和することにより、チタニア粒子およびジルコニア粒子に吸着された物質を溶出し、遠心して収集した上清を溶出画分とした。
【0065】
非吸着画分および溶出画分の各々を蒸発乾固後、展開溶媒:クロロフォルム:メタノール:水=65:25:4を用い、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて展開後、硫酸銅による炭化発色させ検出した。
【0066】
図2は、非吸着画分のTLC分析による展開像であり、図3は溶出画分のTLC分析による展開像である。
図2,3における「レーンstd」には、展開パターンを同定するための標準混合試料、「レーン1」には、処理前の脂質混合サンプル(CHO,GalCer Sph 各2μg)を展開した。
図2における「レーン2」「レーン3」には、チタニア粒子を使用した非吸着画分を、「レーン4」「レーン5」には、ジルコニア粒子を使用した非吸着画分を展開した。
図3に於いても、図2と同様に「レーン1」には脂質混合サンプルを展開した。「レーン2」「レーン3」には、チタニア粒子を使用した溶出画分を、「レーン4」「レーン5」にはジルコニア粒子を使用した溶出画分を展開した。
【0067】
図2,3とも、脂質混合サンプルを展開したレーン1においては、最上部にコレステロール(CHO)のバンドが見られ、次いでガラクトセレブロシド(GalCer)のバンドが2本、原点に近い位置(最下部)には、スフィンゴミエリン(Sph)のバンドが2本見られる。
【0068】
チタニア粒子およびジルコニア粒子を使用した非吸着画分を展開した図2のレーン2〜5においては、コレステロールとガラクトセレブロシドに相当するバンドは確認されるが、スフィンゴミエリンに相当するバンドは確認されなかった。
【0069】
一方、溶出画分を展開した図3のレーン2〜5においては、図2で見られたコレステロールとガラクトセレブロシドに相当するバンドは確認されず、スフィンゴミエリンに相当するバンドのみが確認された。
【0070】
このことにより、上記の方法を用いると、リン脂質であるスフィンゴミエリン以外の単純脂質(コレステロール)および単糖を持つ糖脂質(ガラクトセレブロシド)は、チタニア粒子およびジルコニア粒子に吸着されないため、非吸着画分として現れ、リン脂質であるスフィンゴミエリンは、チタニア粒子およびジルコニア粒子に吸着されるため非吸着画分には現れず、特異的な溶出を行なうことによってのみ、溶出画分内に溶出されることが分かる。
この方法によれば、チタニア粒子、ジルコニア粒子を用いて簡便な操作でリン脂質と非リン脂質を分離することが可能である。
【実施例2】
【0071】
実施例2では、チタニア粒子による糖脂質とリン脂質の分離検討を行なった。分離検討のサンプルとして下記の混合物を使用した。
モノヘキソシルセラミド(CMH):単糖を持った糖脂質
ジヘキソシルセラミド(CDH):二糖を持った糖脂質
トリヘキソシルセラミド(Gb3):三糖を持った糖脂質
グロボシド(Gb4):四糖を持った糖脂質
スフィンゴミエリン(Sph):リン脂質
【0072】
分離に使用するチタニア粒子(表面積100m2/g、細孔径60Å、粒径5μm、100mg)は、まず、メタノール/水 4/6、1mlで懸濁させ、10分間転倒混和後、遠心して上清を捨て、HIPWHCl(ヘキサン/2−プロパノール/水/HCl、120/80/5/1)1mlを加えて、チタニア粉末を再懸濁し、10分間転倒混和した。
【0073】
このチタニア粉末懸濁液約300μLを上記のサンプルに加え、10分間、よく転倒混和した後、遠心により上清を除いた。更に、遠心後の沈渣(チタニア粉末)にHIPW(ヘキサン/2−プロパノール/水、60/40/3)を約300μL入れ、よく混和後、上清を遠心して除いた。
【0074】
次に、遠心後の沈渣(チタニア)に300μLの0.1Mol/Lのアンモニウムメタノールを入れ、20分よく転倒混和し、遠心した上清を溶出画分1として収集した。
再度、上記の行程を行ない、溶出画分2を収集した。
【0075】
次に、DHB/メタノール(10mg/mL)を300μL入れ、混和した後、遠心し上清を溶出画分3として収集した。溶出画分1、溶出画分2、溶出画分3の各々を蒸発乾固後、展開溶媒:クロロフォルム:メタノール:水=65:25:4を用い、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて展開後、硫酸銅による炭化発色とオルシノールによる糖発色による検出を行なった。
【0076】
硫酸銅による炭化発色においては、炭化水素が存在する物質はすべて発色するため、サンプルとして用いた混合物はすべて発色する。一方、オルシノールによる糖発色では、糖を含むもののみが発色するため、サンプル混合物中では、スフィンゴミエリン(Sph):リン脂質以外の物質が発色する。
【0077】
上記のTLCの展開条件による分離では、スフィンゴミエリンとGb4は重なって検出されてしまうため区別は困難である。そのため、糖発色を使用することにより、糖脂質であるGb4か否かを判断した。
【0078】
図4は、炭化発色を用いたものであり、図5は糖発色を用いたものである。
図4,5において、「レーンstd」は、展開パターンを同定するための標準混合試料、「レーン1」には処理前のグロボシド(Gb4)とスフィンゴミエリン(Sph)の混合物、「レーン2」は、0.1mol/L アンモニウムメタノールによる1回目の溶出画分である溶出画分1、「レーン3」は、0.1mol/L アンモニウムメタノールによる2回目の溶出画分である溶出画分2、「レーン4」は、DHB/メタノールによる3回目の溶出画分である溶出画分3を展開した。
【0079】
炭化発色を用いた図4においては、レーン2,3,4において、グロボシド(Gb4)もしくはスフィンゴミエリン(Sph)に相当する位置にバンドが観察される。
【0080】
一方、糖発色を用いた図5においては、レーン4にのみ図4と同一の位置にバンドが検出される。アンモニウムメタノールによる溶出画分である溶出画分1(レーン2)、溶出画分2(レーン3)においては、炭化発色ではバンドが検出されるが、糖発色ではバンドが検出されないことから、糖を含まない脂質、つまりスフィンゴミエリン(Sph):リン脂質が特異的に溶出されたことが分かる。
【0081】
又、糖発色により、溶出画分3(レーン4)で初めてバンドが検出されることから、DHB/メタノールによる溶出で初めて糖を含む脂質(グロボシド(Gb4))が溶出されることが分かる。
【0082】
このことから、リン脂質は0.1mol/L アンモニウムメタノールでは溶出されるが、DHBでは溶出されず、糖脂質は0.1mol/L アンモニウムメタノールでは溶出されないが、DHBにより選択的にチタニア粒子から溶出できることが示された。
【0083】
レーンstd:スタンダード、レーン1:スフィンゴミエリン+Gb4、レーン2:0.5Mアンモニアメタノール(1回目)、レーン3:アンモニウムメタノール(2回目)、レーン4:10mg/mL DHB/メタノール
【0084】
レーンstd:スタンダード
レーン1:スフィンゴミエリン+Gb4
レーン2:0.1mol/L アンモニウムメタノールによる溶出(1回目):溶出画分1
レーン3:0.1mol/L アンモニウムメタノールによる溶出(2回目):溶出画分2
レーン4:DHB/メタノール:溶出画分3
【実施例3】
【0085】
実施例1と同一の操作で、表面積の異なるチタニア粒子を用いてリン脂質であるスフィんゴミエリン(Sph)の回収率の検討を行なった。使用したチタニア粒子は、表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Åと表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Åである。
【0086】
図6に非吸着画分と溶出画分のTLC展開像を示す。
レーン1:処理前の脂質混合サンプル(CHO,GalCer,Sph)
レーン2,3:チタニア粒子 表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å
レーン4,5:チタニア粒子 表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Å
【0087】
実施例1において、ジルコニア粒子(表面積30m2/g 粒径5μm 細孔径300Å)を用いた結果である図2レーン4,5と、図3レーン4,5の結果を合わせて粒子形状に関して考察する。
【0088】
非吸着画分のTLC展開像において、ジルコニア粒子(表面積30m2/g 粒径3〜5μm 細孔径300Å)を使用した場合(図2レーン4,5)、チタニア粒子(表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Å)を使用した場合(図6非吸着画分レーン4,5)においては、非吸着画分にはスフィンゴミエリンが検出されなかった。
一方、チタニア粒子(表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å)を使用した場合(図6レーン1,2)では、スフィンゴミエリンが検出されている。これは、十分な吸着性能がないために、吸着されないスフィンゴミエリンが非吸着画分に残存したことを示す。
【0089】
溶出画分のTLC展開像においては、ジルコニア粒子(表面積30m2/g 粒径3〜5μm 細孔径300Å)を使用した場合(図3レーン4,5)、チタニア粒子(表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Å)を使用した場合(図6溶出画分レーン4,5)と比較して、チタニア粒子(表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å)を使用した場合(図6溶出画分レーン2,3)は、溶出画分の検出量が少ないという結果が得られた。
このことは、チタニア粒子(表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å)では、十分なリン脂質の吸着性能が得られず、吸着されずに残存したリン脂質が非吸着画分に検出されるため、溶出画分の検出量も減少してしまうことを示している。
【実施例4】
【0090】
実施例4では、チタニア(表面積100m2/g、粒子径5μm)を充填したカラム(10×4.0mm I.D.)であるTitansphere(登録商標)TiOを用いて、リン脂質の特異的選択的な分離を検討した。
【0091】
分析のために使用したサンプルは、非リン脂質であるD−erythro−Sphingosine(1.8mg/500μl MeOH)と、リン脂質であるSphingomyelin(1.8mg/500μl MeOH)を等量混合したものを使用した。
【0092】
分析は以下の方法で行なった。
まず、カラムにH2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH=8:82:10の混合溶液を流した状態で、上記の試料混合サンプルを注入し、カラムからでたものを素通り画分として分取する。図7は、分取画分の位置を示すクロマトグラムで、素通り画分は図7の1,2の部分である。
【0093】
次に、溶媒をH2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH:H3PO4=8:82:10:0.6に切り換え、カラムからの溶出画分を図7の3〜10に示す画分として分取する。
上記の画分を、D−erythro−SphingosineとSphingomyelinが、分離可能なカラムInertsil(登録商標)NH2(150×4.6mm I.D.)を用いて分析し、それぞれの物質の含有の有無を測定した(図8は分取した画分の分析結果を示し、各画分のクロマトグラム比較図)。
【0094】
測定条件は、以下の通りである。
カラム:Titansphere(登録商標) TiO(10×4.0mm I.D.)
溶離液:A:H2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH=8:82:10
B:H2O:CH3CN:MeOH:H3PO4=8:82:10:0.6
0〜2.9min A/B=100/0
3〜20min A/B=0/100
流速:1.0ml/min
カラム温度:室温
検出波長:UV210nm
サンプル:調整した脂質混合物を50μl
【0095】
図8の分取画分番号0(上段)に示すクロマトグラムは、チタニア粒子を充填したカラムを使用せずに、それぞれの物質の有無を確認した結果である。処理を行なっていないため、D−erythro−SphingosineとSphingomyelinが両方検出される。
図8の中段に示すクロマトグラムは、H2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH=8:82:10の条件下で、カラムを素通りした画分である画分1の分析結果である。D−erythro−Sphingosineに相当するピークは検出されるが、Sphingomyelinに相当するピークは検出されなかった。
【0096】
図8の下段に示すクロマトグラムは、H2O:CH3CN:MeOH:H3PO4=8:82:10:0.6の条件下で、カラムから溶出された画分8の分析結果である。素通りの画分である画分1とは逆に、D−erythro−Sphingosineに相当するピークは検出されないが、Sphingomyelinに相当するピークは検出された。
【0097】
分析条件は、次の通りである。
カラム:InertSil(登録商標) NH2(150×4.6mm I.D.)
溶離液:H2O:CH3CN:MeOH=8:87:5
流速:1.0ml/min
カラム温度:室温
検出波長:UV205nm
サンプル:0.調整した脂質混合物を溶離液で66倍希釈したものを50μl
1〜10.各分取画分 50μlずつ
【0098】
又、このように酸化金属粒子およびモノリス構造体を用いたカラムで前処理を行ない、次いで分析カラムに直接導入する方法、いわゆるカラムスイッチング方法においても、本発明を用いれば、リン脂質を選択的に分析可能である。
【実施例5】
【0099】
モノリス構造体を使用した実施例について説明する。
シリカモノリス構造体の表面にチタニアをコーティングすることによって作成した、チタニアモノリス1を使用してリン脂質及び糖脂質の分離を行なった。チタニアモノリス1は、ディスク状に形成したものを汎用のピペットチップ2内に固定し、ピペッター3に装着することによって、ピペッター3の吸引・吐出操作により試料溶液・溶媒とチタニアモノリス1を接触させることが出来る。
【0100】
使用したチタニアモノリス1は、以下のものである。
連続孔径(スルーポア)10μm、細孔径(メソポア)200Å、表面積200m2/g
【0101】
分離に用いた試料には、スフィンゴミエリン(Sph)、ガラクトセレブロシド(GalCer)、コレステロール(CHO)、クロボジド(Gb4)をHIPWHClで溶解した脂質混合液である。
【0102】
分離操作は以下の手順で行なった。
1.PBS(リン酸緩衝液)300μLを吸引・吐出し、チタニアモノリス1に通す。この操作を3回繰り返す。
2.メタノール:水=4:6の溶媒300μLを吸引・吐出により、チタニアモノリス1に通す。
3.HIPWHCl(ヘキサン:2−プロパノール:水:HCl=120:80:5:1)300μLを吸引・吐出によりチタニアモノリスに通す。この操作を二回繰り返す。
4.脂質混合液(コレステロール、ガラクトセレブロシド、スフィンゴミエリン、クロボジド)300μLの吸引・吐出を9回繰り返し、脂質混合液とチタニアモノリス1を接触させる。
5.4の操作をさらにもう一度繰り返すが、吐出液の回収は新しいチューブに行なう。これを「非吸着画分」とする。
6.HIPW(ヘキサン:2−プロパノール:水=60:40:3)300μLを吸引・吐出し、吐出した液を回収し、洗浄画分とする。
7.0.1Mol/L アンモニウムメタノールを300μL吸引・吐出し、吐出した液を回収し、「溶出画分1」とする。
8.DHB/メタノールを300μL吸引・吐出し、吐出した液を回収し、「溶出画分2」とする。
【0103】
得られた「非吸着画分」「洗浄画分」「溶出画分1」「溶出画分2」をTLCにより展開し、炭化発色及び糖発色を行なった。図9におけるレーン1には、分離操作前の脂質混合溶液、レーン2には「非吸着画分」、レーン3には「洗浄画分」、レーン4には「溶出画分1」、レーン5には「溶出画分2」を展開した。
【0104】
炭化発色では、レーン2(非吸着画分)においては、コレステロールと単糖を持つ糖脂質であるガラクトセレブロシドが検出され、リン脂質であるスフィンゴミエリンは検出されなかった。レーン4(溶出画分1)、5(溶出画分2)においては、スフィンゴミエリンもしくは四糖を持った糖脂質であるグロボジドが検出された。
糖発色においては、脂質混合試料中でガラクトセレブロシドとグロボジドのみが発色するため、レーン1では、ガラクトセレブロシドが検出され、レーン5では、グロボジドが検出された。
【0105】
このことにより、単純脂質であるコレステロールと単糖を持つ糖脂質であるがガラクトセレブロシドは、HIPWHClの条件下では、チタニアモノリスに吸着されず、リン脂質であるスフィンゴミエリンと四糖を持つ糖脂質であるグロボジドが吸着されることが分かる。更に、アンモニウムメタノール条件下では、スフィンゴミエリンが溶出され、DHB/メタノール条件下ではグロボジドが溶出されることが分かる。
【0106】
この結果は、粒子を用いた実施例2と同等である。
この方法によれば、モノリス構造体を嵌合したピペットチップを使用した場合でも、リン脂質および糖脂質を選択的に吸着分離することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明―実施例に基づく本発明分離法概略説明図
【図2】本発明―実施例に基づく非リン脂質のTLC展開像
【図3】本発明―実施例に基づくリン脂質のTLC展開像
【図4】本発明―実施例に基づくリン脂質溶出状態を示すTLC展開像
【図5】本発明―実施例に基づく糖脂質溶出状態を示すTLC展開像
【図6】チタニアゲルの表面積の差による回収の差を示すTLC展開像
【図7】本発明―実施例によるリン脂質の分取時のクロマトグラム
【図8】本発明―実施例によるチタニアの有無による分取画分のクロマトグラム
【図9】本発明一実施例に基づく糖脂質の溶出状態を示すTLC展開像
【図10】本発明一実施例に基づくリン脂質の溶出状態を示すTLC展開像
【図11】本発明一実施例に使用されるモノリスチップの説明図
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の脂質などを含む試料から、リン脂質や糖脂質を分離することが出来るリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜を構成する脂質は、単純脂質、複合脂質から成り、後者にはリン脂質、糖脂質が含まれる。リン脂質、糖脂質には、グリセロール骨格を持つグリセロ脂質と、スフィンゴイド塩基を持つスフィンゴ脂質から成り、グリセロ脂質には、フォスファチジールコリン、フォスファチジールエタノラミン、フォスファチジールセリン等の主要なリン脂質(グリセロリン脂質)が含まれる。
【0003】
一方、スフィンゴ脂質には、モノグリコシールセラミド、ジグリコシールセラミド、トリグリコシールセラミド(例えばGb3),テトラグリコシールセラミド(例えばGb4)、或いは更に、糖鎖が5つ以上付いた糖鎖を持ったものや、シアル酸を持ったガングリオシドや、硫酸を持ったスルファチド等のスフィンゴ糖脂質と、スフィンゴミエリン等のリンを持ったスフィンゴミエリン等のようなスフィンゴリン脂質から成る。
【0004】
これらの脂質は、生体の活性脂質として重要な機能を担っている。特に、最近の研究から、これらの脂質のうちスフィンゴ脂質は、細胞膜上でマイクロドメインを形成し、細胞のシグナル伝達に重要な働きをなしていることが知られている。それ故、その微量、簡便、ハイスループット対応可能な精製分析方法の確立は急務である。
【0005】
しかしながら、これらの脂質は互いにその物理化学的な性格が近似しているため、これらの網羅的精製分析は困難であった。
【0006】
細胞や生体組織をホモジナイズし、Bligh−Dyer法やFolch法で総脂質を抽出した後、陰イオン交換クロマトグラフィーなどで中性脂質、酸性脂質に分画し、リン脂質や糖脂質、単純脂質を得て、分析を行なうプロセスがある。
又、順相クロマトグラフィーでも行なうことが出来る。糖脂質を分析する際には、グリセロリン脂質を弱アルカリ加水分解させる必要があり、リン脂質を分析する際には、糖脂質は阻害物質となる。
【0007】
リン脂質と糖脂質は、性質が類似したものが存在するため、分離が困難な場合が多い。糖脂質は、細胞のがん化やアポトーシスなど重要な化合物であり、臨床分野においても糖脂質の分析は注目されている。実試料を繰り返し、HPLCや質量分析装置へ注入すると、試料由来のコンタミネーションによる分離能低下やカラムの劣化等の様々な悪影響を引き起こすため、試料の前処理は不可欠であった。
【0008】
例えば、スフィンゴ脂質を精製する方法として、アルカリ加水分解法が良く用いられているが、これでは、ほとんどのグリセロ脂質が壊れてしまうため、スフィンゴ脂質は濃縮できるものの、グリセロ脂質、特にフォスファチジールコリン、フォスファチジールエタノラミン、フォスファチジールセリン等の主要なリン脂質を回収することは困難であった。
【0009】
又、濃縮されたスフィンゴ脂質は、濃縮はされるものの、アルカリ加水分解で壊れたグリセロ脂質から生じた脂肪酸乃至その誘導体は残るため、これを除くには更にカラムクロマトグラフィー等の処置が必要となった。
【0010】
更に、残ったスフィンゴ脂質では、例えばスフィンゴミエリンとテトラグリコシールセラミドは、極めて物理化学的な性格が似ているため、従来はこれらの脂質をアセチル化し、カラムクロマトグラフィーで一旦分離し、再度脱アセチル化すると言った作業などが必要となっていた。
【0011】
従来、このようにリン脂質と糖脂質を分離する際には、順相カラムや陰イオン交換カラムを用いたクロマトグラフィーを用いるが、これらのカラムはリン脂質や糖脂質に対して、特異的ではないため、多くの複数種類の脂質も混入する問題がある。又、サンプルが希釈されてしまうといった問題がある。これを解決するために、二酸化チタンを用いたリン脂質特異的な精製方法が試みられている(非特許文献1)。
【0012】
しかしながら、ここで用いているチタニアの表面積がほとんどないため、リン脂質の回収率が低く、また精製方法でもリン脂質以外のオレイン酸やコレステロールの除去率は低い。又、この方法では、糖脂質の吸着・溶出は考慮されておらず、リン脂質と糖脂質の分離についても考えられてはいない。
又、対象物質は異なるが、ペプチドにリン酸基が結合したリン酸化ペプチドの精製の分野において、チタニアカラムを用いた方法がある。非特許文献2においては、リン酸化ペプチドの精製の際にもヒドロキシカルボン酸が使用されている。しかし、ここでのヒドロキシカルボン酸を使用する目的は、リン酸化ペプチド以外の非特異的な物質の吸着を減少させるために使用しており、本発明の目的である糖を含む物質の分離に関しては、考慮されていない(非特許文献2)。
【0013】
【非特許文献1】Yoshihiko IKEGUCHI et al.,ANALYTICAL SCIENCES 16,p541-543,2000
【非特許文献2】Martin R.Larsen et al.,Molecular & Cellular Proteomics 4(7),873-86,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は上述した実情に鑑み、手数のかかる各種の操作工程を用いず、一度の操作で特異的にリン脂質、糖脂質を高純度で分離し、精製することが出来る方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決し目的を達成するため、本発明者が検討した結果、酸化金属を用いた手法により、リン脂質と三糖以上の糖を持った糖脂質を同時に吸着させ、その後、リン脂質におけるリン酸基の吸着を阻害せずに三糖以上の糖を持った糖脂質のみを溶出させることができ、また、三糖以上の糖を持つ糖脂質の吸着を阻害せずにリン脂質のみを溶出できることを発見した。
ここで挙げる糖脂質を構成する糖は、「水酸基を2個以上持ったアルデヒド乃至ケトン」として定義される糖のほかに、環状構造をとるヘキソースや(N−アセチル)グルコサミン、或いはシアル酸などを総称するものである。
【0016】
本発明は第一に、リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、吸着させることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0017】
又、第二に、リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、リン脂質及び糖脂質を同時に吸着させると共に、次いで塩基性溶媒によりリン脂質を溶出し、ヒドロキシカルボン酸含有溶媒により糖脂質を溶出することで、夫々別箇に分離させることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0018】
又、第三に、前記ヒドロキシカルボン酸は、アリファティックヒドロキシカルボン酸又はアロマティックヒドロキシカルボン酸であることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0019】
又、第四に、前記酸化金属は、酸化チタン、酸化ジルコニウムから成る群から選ばれる、少なくとも1種であることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0020】
又、第五に、前記酸化チタンは、二酸化チタン、一酸化チタン、三酸化二チタン、五酸化三チタン、七酸化四チタンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0021】
又、第六に、前記酸化金属は、表面積3m2/g以上、細孔径10Åから1000Åの範囲に於いて、表面積(単位:m2/g)と細孔径(単位:Å)の積の値が3000以上であることを特徴とする請求項1乃至2及び請求項4乃至5の何れかに記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【0022】
又、第七に、前記酸化金属は、モノリス構造体に含有乃至付着させたことを特徴とするリン脂質及び糖脂質の分離方法を特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法を提案する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、試料に含まれるリン脂質または糖脂質を、特異的に精製することが出来る新規なリン脂質または糖脂質の分離方法を提供することが出来る。本発明に係るリン脂質または糖脂質を高い選択性で精製することが出来る。
又、本発明に係るリン脂質または糖脂質の精製方法では、より不純物の少ないリン脂質、糖脂質を得ることが可能であり、脱塩操作後に得られた上記試料を、高速液体クロマトグラフィーや質量分析装置へ直接供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法は、試料中に含まれるリン脂質及び糖脂質を、他の成分から分離して濃縮する方法である。ここで試料とは、リン脂質または糖脂質を含む組成であれば特に限定されないが、例えば複数種類の脂質を含む溶液である。
【0025】
又、本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法において、リン脂質、糖脂質としては何ら限定されず、いかなる細胞由来のリン脂質、糖脂質をも分離対象とすることが出来る。
【0026】
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法において、リン脂質及び糖脂質を含む試料を、酸化金属を用いた分離手段に供給し吸着させる際には、酸性条件下とする。
次いで、吸着された三糖以上の糖を持つ糖脂質を選択的に溶出させる場合は、アロマティックヒドロキシカルボン酸やアリファティックヒドロキシカルボン酸などのヒドロキシカルボン酸類を含有する有機溶媒を添加する。又、吸着されたリン脂質を選択的に溶出させる際は、塩基性有機溶媒を添加する。
リン脂質のみを得たい場合は、ヒドロキシカルボン酸類を、予め当該試料に添加しても良いし、当該試料を分離手段に供給する前に、当該分離手段に予め単独で供給されていても良い。これにより、分離手段への糖脂質の吸着は阻害され、リン脂質が選択的に吸着・溶出される。糖脂質が必要な場合は、ヒドロキシカルボン酸類を予め当該試料もしくは分離手段に添加してはならない。
【0027】
ここで、アリファティックヒドロキシカルボン酸とは、脂肪族系の骨格を有するヒドロキシカルボン酸を指し、アロマティックヒドロキシカルボン酸とは骨格に芳香族環を有しているものを指すが、骨格に脂肪族、芳香族環の両方を有していても良い。
具体的には、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸およびクエン酸といったαヒドロキシカルボン酸または、2,5−DHB(ジヒドロキシ安息香酸)といったアロマティックカルボン酸を挙げることが出来る。上記で例示した具体的な化合物を単独で使用しても良いし、複数種類を混合して使用しても良い。
【0028】
ヒドロキシカルボン酸による糖脂質溶出の理由について考える。
酸化金属類(酸化チタン、酸化ジルコニアなど)は、ルイス(Lewis)酸として働くことが知られている。ルイス酸とは、OHや孤立電子対を有する化学種から電子対を受け入れることが出来る物質のことを指し、この種は配位子交換能を有する。
【0029】
これにより、物質の持つ水酸基は、酸化金属イオン(チタンイオンやジルコニウムイオン)と錯体を形成し、吸着・保持されることが知られている。この吸着・保持力は、分子内における水酸基の立体的な位置により左右される。
【0030】
このことから、水酸基を持つ糖脂質の一部は、立体的な構造により酸化金属表面に吸着・保持されると考えられる。又、ヒドロキシカルボン酸類も、酸化金属類と錯体を形成可能な構造である。
【0031】
このため、糖脂質が酸化金属に吸着・保持されている状態に、ヒドロキシカルボン酸を添加すると、ヒドロキシカルボン酸が錯体を形成するため、糖脂質は酸化金属への吸着・保持が解かれ溶出されるといった現象が起きると考えられる。
【0032】
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法について、図1により説明する。
これは一例であり、物質、物質の入れる順序等はこれに限定されるものではない。処理の対象となる脂質類は、常法に従い、細胞や組織から有機溶媒にて抽出を行ない、これを容器内に入れ、溶媒は蒸発乾固しておく。
【0033】
この容器内に、適宜処理したチタニア粉末が懸濁された吸着用溶媒(穏やかな酸性有機溶媒、例えばHIPWHCl)を加え、脂質類とチタニア粉末をよく混和する。この行程により、リン脂質および三糖以上の糖脂質(単純脂質、ニ糖までの糖脂質以外)は、チタニアに吸着される。
チタニア粒子を含む溶液を遠心などの方法により、チタニア粒子と上清に分離し、上清を回収する。この上清には、単純脂質、ニ糖までの糖を持った糖脂質が含まれる。必要に応じて、洗浄用溶媒(HIPWないしHIPWHCl)を分離したチタニア粒子に加え、洗浄を行ない、遠心などの方法によりチタニア粒子を回収する。
吸着用溶媒として使用される溶媒は、脂質類を溶解できる有機溶媒を含み、且、酸性を示す必要がある。この要件を満たす溶媒の例としては、ヘキサン、イソプロパノール、水、塩酸を適意混合した溶媒(HIPWHCl)が使用可能である。例えば、ヘキサン:イソプロパノール:水:塩酸=120:80:5:1で調整した溶媒が使用できる。
洗浄用溶媒としては、吸着用溶媒と同一組成の混合溶媒もしくは、ヘキサン、イソプロパノール、水を混合した溶媒が使用可能である。
【0034】
回収したチタニアに、リン脂質溶出用溶媒A(例えば0.1Mol/Lのアンモニウムメタノール)を加え、よく混和する。この行程により、チタニア粒子に吸着していたリン脂質のみが溶媒中に溶出される。この溶液を遠心などの方法により、チタニア粒子に吸着していたリン脂質のみが溶媒中に溶出される。この溶液を遠心などの方法により、チタニアと上清を分離し、上清を回収・除去する。この上清には、リン脂質が含まれる。必要に応じて、洗浄用溶媒(例えばHIPWないしリン脂質溶出用溶媒)で沈殿したチタニアを洗浄し、遠心などの方法によりチタニアを回収する。
リン脂質溶出溶媒Aとして使用される溶媒は、アンモニウムメタノールには限られず、脂質を溶解することのできる有機溶媒で、かつ塩基性の特性を持つ溶媒であれば、リン脂質の選択的な溶出が可能である。
【0035】
上記の回収したチタニアに、糖脂質溶出用溶媒B(例えば10mg/mlのDHB in MeOH)を加え、よく混和する。この行程により、チタニア粒子に吸着していた三糖以上の糖脂質が溶媒中に溶出される。この溶液を、遠心などの方法でチタニアと上清を分離し、その上清を回収する。この上清には、三糖以上の糖を持った糖脂質が含まれる。
糖脂質溶出用溶媒Bとして使用される溶媒は、脂質を溶解することのできる溶媒を含み、かつヒドロキシカルボン酸類を含む溶媒であれば、糖脂質を選択的に溶出することが可能である。
【0036】
ここで、分離手段に使用する酸化金属とは、リン脂質及び糖脂質の一方、または両方に対して、親和性を有することが知られているあらゆる物質を含む意味である。中でも、酸化金属としては、酸化チタン、酸化ジルコニウムを挙げることが出来る。
【0037】
酸化チタンとしては、二酸化チタン(チタニア、TiO2)のほかに、一酸化チタン(TiO),三酸化ニチタン(Ti2O3)、五酸化三チタン(Ti3O5)、七酸化四チタン(Ti4O7)が挙げられる。
【0038】
本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法においては、これら酸化金属を単独で用いても良いし、複数種類を混合して用いても良い。特に、酸化金属としては、リン脂質及び糖脂質に対する親和性の高さから、酸化チタニウム及び酸化ジルコニウムを単独または混合して使用することが好ましい。
【0039】
本発明方法において、リン脂質および糖脂質の分離に関わるのは、担体(分離媒体)そのものの表面の金属(チタニアやジルコニアなど)である。ちなみに、逆相法での分離などでは、分離に関わるものは分離媒体上に結合させた「官能基の量」になる。
つまり、今回の方法では、「分離性能」=「担体上に結合した官能基量」ではなく、「分離性能」=「単体の表面積」となる。
【0040】
以下、細孔径と表面積の違いによる回収率の相違の理由について考える。
前提として、吸着・溶出の原理は酸化金属の種類によって大きな相違はないと考えられるので、その他の要因である細孔径および表面積について考える。
【0041】
先ず、細孔径に関しては、分離しようとする物質の分子サイズが重要となる。
分離対象となるリン脂質や糖脂質(分離対象物質)の分子サイズは、約40〜60Åであるのに対して、分離対象物質ではない単純脂質で生体内に多く存在するオレイン酸やコレステロールなど(非分離対象物質)は、20〜30Å程度の分子サイズである。
【0042】
分離対象物質の分子サイズの2倍(約100Å)以上の細孔径であれば、分離対象物質、非分離対象物質共に細孔内への出入りが互いに阻害なく行えるため、吸着されない物質が細孔内に入った場合は、そのまま細孔から出て行き、吸着される物質が細孔に入った場合は細孔内で吸着されるような反応(交換反応)が発生するため、非分離対象物質の吸着阻害が発生しづらいと考えられる。
そのため、実施例1で使用したジルコニア粒子のように表面積が少なくとも、細孔径の大きなものは十分な回収率(分離能)が得られる。
【0043】
対して、細孔径が60から70Å程度の場合、分離対象物質と細孔径が近似しているため、小さな非分離対象物質が共存する場合、細孔内への進入に関して競合が発生し、小さな非分離対象物質の方が先に細孔内に入りやすくなってしまう。
【0044】
更に、細孔径が小さなため細孔の出入りにおける交換反応が発生しづらく、分子サイズの大きな分離対象物質が細孔内で吸着される確率が減少する。
このような現象が発生するため、表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Åのチタニア粒子では、十分な回収率・分離能が得られなかったと考えられる(実施例3参照)。
【0045】
この考え方によると、細孔径の大きいほうが有用であるといえるが、細孔径の大きさと表面積は一般的に反比例するため、大きすぎる細孔径は表面積を減少させてしまい、吸着・分離能の低下を引き起こす。又、細孔径を大きくすると、粒子の強度の低下を招くため、粒子の破損などが発生する。破損した粒子は遠心などの方法で分離しづらくなり、操作が煩雑になってしまう。
【0046】
細孔を持つ物質を作成する場合、一般的に細孔径を制御することにより作成される。しかし、細孔径を制御し作成された物質においては、細孔径と表面積との関係が反比例になってしまう。つまり、細孔径を大きくすると表面は小さくなり、細孔径を小さくすると表面積は大きくなる。本発明では、細孔が小さい場合は分離対象物質の出入りに影響を及ぼし、実施困難になり、細孔径を大きくすると吸着・保持に関わる表面積が小さくなり、十分な吸着・保持が実現出来なくなる。
【0047】
つまり、細孔径と表面積が一定の大きさを持つ範囲でなければ、実施困難となる。この実施可能範囲を設定するにあたり、「表面積(単位:m2/g)」と「細孔径(単位:Å)」の積が3000以上となる範囲を実施可能範囲と考えられる。
但し、細孔径が1000Å以上となるものに関しては、実際の使用において分離担体の強度が著しく低下してしまうため、実施困難である。
【0048】
表面積は、対象物質の吸着可能量(負荷量)と関連し、試料中の対象物質濃度に依存するため、一概に決定することは出来ないが、表面積3m2/g以上であるものに関しては、作成上、表面積測定上実施可能である。
又、細孔径10Å以下となるようなものに関しても、細孔径が小さすぎ細孔内面がほとんど吸着・分離に係らなくなってしまうため、実施可能範囲には含まない。この結果、表面積は3m2/g以上でなければならない。
【0049】
以下、細孔径が60〜70Åの場合の表面積に関して考える。
細孔径が60〜70Åの場合、細孔内への出入りにおいて競合が発生し、交換反応が発生しづらいため、予め分離対象物質であるリン脂質・糖脂質だけではなく、非分離対象物質も含めてすべての脂質が分離担体の表面に接触できるだけの表面積を有する必要がある。
【0050】
本発明を血液などの実試料において実施する場合、リン脂質・糖脂質以外の脂質を含む試料中から、選択的にリン脂質及び糖脂質を吸着・保持する必要がある。選択的に吸着する場合、リン脂質・糖脂質に関わらず、すべての脂質が吸着・保持できるだけの能力を有する分離担体が必要となる。
【0051】
例えば、血液試料の場合、ヒトの総脂質の標準値は400〜800mg/100mLである。分析試料の採取のための採血は、対象動物やヒトへの負担となるため、1mL以下としたい。更に、通常、採取された試料はリン脂質・糖脂質以外の種々の検討にも使うので、この分析に実際に取り扱う事の可能な血液量は、100μL程度になると考えられる。又、採取する試料量は、少ないほうが好ましいが、分離の目的とするリン脂質・糖脂質量も少なくなってしまう。
【0052】
特に、糖脂質に於いては、本発明に於いては三糖以上の糖鎖を有する糖脂質の分離を行なうため、その含有量は総脂質の数%と考えられ、各成分量は1μg以下となり、検出が難しくなる可能性が高い。即ち、現状の検出方法で考えられるトータル血液試料量としては、100μL前後が理想的となる。
【0053】
血液試料100μLを処理対象とした場合、試料中に含まれる総脂質量は、標準値として0.4から0.8mgとなるが、この値は標準値であるため、実質1mg程度の脂質を処理できることが望まれる。即ち、約1mgの脂質すべてと接触可能な能力を持つ分離担体が本方法に於いては有効となる。
本発明は、リン脂質及び糖脂質が担体(ゲル)表面に存在するチラノール基などの酸化金属とのインターラクションにより分離されるので、前処理ゲルへの要求としては、最小でも1mgを保持できる表面積を持つことが推奨される。脂質の分子量は、幅広く分布しているが、グリセロール骨格を持つ脂質を考えると、分子量が約200程度となる。この物質を1mg保持するためには、1×10−3÷250=4×10−6mol=4μmol以上保持する必要がある。
【0054】
一方、100μLの試料を取り扱う場合、試料溶液中に前処理固相としてのゲルを分散させ、混合する形態をとるため、ゲルの量は溶液の1/10以下の10mg以下にする必要がある。
これ以上のゲルを加えると、溶液とゲルの混合が不十分になり、接触効率が低下する。又、試料を希釈する方法もあるが、この方法に於いても、試料中の目的成分濃度の低下により、ゲルとの接触効率は低下し、分離効率の低下となってしまう。
【0055】
このことから、試料100μL中に含まれる脂質約4μmol(1mg)を確実に保持・吸着するためには、4μmol/10mg=400μmol/1g以上のチラノール基(酸化金属基)を持つ分離担体が必要となる。
【0056】
チタニア表面のチラノール基は、シラノールと同様に1m2あたり、8μmol(8μmol/m2)と考えられるため、400μmol/1g以上のチラノール基を有するためには、表面積は400μmol/1g÷8μmol/m2=50m2/gが必要となる。
【0057】
以上のことから、細孔径60Åから70Åの酸化金属を使用する場合では、表面積が少なくとも50m2/g以上でなければ使用に堪えないと考えられる。つまりは、「表面積(単位:m2/g)」と「細孔径(単位:Å)」の積が3000以上でなければ、使用に堪えないと考えられる。
【0058】
酸化金属を付着させる、又は含有させるモノリス構造体について説明する。
モノリス構造体は、主に、ゾルーゲル法で作成される。即ち、金属アルコキシドや反応性有機モノマーなどを単独または、混合して用いて、部分的に加水分解して、重縮合してコロイド状オリゴマーを作り(ゾルの生成)、更に加水分解して重合と架橋を促進させ、三次元網目状の骨格構造を作る(ゲルの生成)ことで合成される。
【0059】
これにより、モノリス構造体は骨格構造の間に、一方の端部からもう一方の端部に連続した連続孔(スルーポア)を持つ構造をとる。又、骨格表面にも任意の孔径の細孔(メソポア)も形成することが可能である。このことから、モノリス構造体は、液体試料の通り道である連続孔を確保しながら、分離に関わる表面積を増大させるための細孔も有する構造となる。
【0060】
モノリス構造体の作成に用いる原料である金属アルコキシドとして、チタン・アルコキシド、ジルコニウム・アルコキシドなどを用いることにより、酸化チタン、酸化ジルコニウムを骨格とするモノリス構造体の作成が可能となる。
又、シラン・アルコキシドなどを用いて作成したモノリス構造体の表面に、チタン・アルコキシド、ジルコニウム・アルコキシドなどを反応させることにより、表面に酸化金属を持つモノリス構造体の作成も可能である。
【0061】
以下、実施例を用いて、本発明に係るリン脂質及び糖脂質の分離方法をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
酸化金属と液の接触は、液体内に分離担体を分散し、混和する方法のほかに、両端開放の筒内に径を横切るように分離担体を設置し、圧力差(吸引などによる陰圧、吐出などによる陽圧)、遠心力、重力(自然落下)により液を移動させ、酸化金属と接触させることも可能である。モノリス構造体を使用した場合は、この方法により構造体内部に液体を通過させることが可能である。
【実施例1】
【0062】
実施例1では、リン脂質であるスフィンゴミエリン(Sph)および単糖を持った糖脂質であるガラクトセレブロシド(GalCer)、単純脂質であるコレステロール(CHO)を含む脂質混合サンプルからのリン脂質であるスフィンゴミエリンの精製を行なった。まず、スフィンゴミエリン(Sph)、ガラクトセレブロシド(GalCer)、コレステロール(CHO)、各々25μgをHIPWHCl(ヘキサン/2−プロパノール/水/HCl、120/80/5/1)300μLで溶解した。
又、チタニア粉末(表面積100m2/g、細孔径60Å、粒径5μm)100mgおよびジルコニア粉末(表面積30m2/g、細孔径300Å、粒径5μm)100mgを、メタノール/水 4/6、1mlで、それぞれ懸濁させ、10分間転倒混和後、遠心して上清を捨て、更に、HIPWHCl(ヘキサン/2−プロパノール/水/HCl、120/80/5/1)1mlをそれぞれに加え、懸濁させ10分間転倒混和した。
【0063】
次に、上記脂質混合サンプルと、上記チタニア粒子懸濁液およびジルコニア粒子懸濁液を混合し、10分間よく転倒混和後、遠心して上清を非吸着画分として収集した。
更に、非吸着画分を除いた沈渣(チタニア粒子、ジルコニア粒子)にHIPW(ヘキサン/2−プロパノール/水、60/40/3)を約300μL加え、よく混和後、遠心して上清を集め、先に収集した非吸着画分に加えた。
【0064】
非吸着画分を除いた沈渣(チタニア粒子、ジルコニア粒子)に、300μLの0.1mol/Lのアンモニウムメタノールを入れ、20分よく転倒混和することにより、チタニア粒子およびジルコニア粒子に吸着された物質を溶出し、遠心して収集した上清を溶出画分とした。
【0065】
非吸着画分および溶出画分の各々を蒸発乾固後、展開溶媒:クロロフォルム:メタノール:水=65:25:4を用い、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて展開後、硫酸銅による炭化発色させ検出した。
【0066】
図2は、非吸着画分のTLC分析による展開像であり、図3は溶出画分のTLC分析による展開像である。
図2,3における「レーンstd」には、展開パターンを同定するための標準混合試料、「レーン1」には、処理前の脂質混合サンプル(CHO,GalCer Sph 各2μg)を展開した。
図2における「レーン2」「レーン3」には、チタニア粒子を使用した非吸着画分を、「レーン4」「レーン5」には、ジルコニア粒子を使用した非吸着画分を展開した。
図3に於いても、図2と同様に「レーン1」には脂質混合サンプルを展開した。「レーン2」「レーン3」には、チタニア粒子を使用した溶出画分を、「レーン4」「レーン5」にはジルコニア粒子を使用した溶出画分を展開した。
【0067】
図2,3とも、脂質混合サンプルを展開したレーン1においては、最上部にコレステロール(CHO)のバンドが見られ、次いでガラクトセレブロシド(GalCer)のバンドが2本、原点に近い位置(最下部)には、スフィンゴミエリン(Sph)のバンドが2本見られる。
【0068】
チタニア粒子およびジルコニア粒子を使用した非吸着画分を展開した図2のレーン2〜5においては、コレステロールとガラクトセレブロシドに相当するバンドは確認されるが、スフィンゴミエリンに相当するバンドは確認されなかった。
【0069】
一方、溶出画分を展開した図3のレーン2〜5においては、図2で見られたコレステロールとガラクトセレブロシドに相当するバンドは確認されず、スフィンゴミエリンに相当するバンドのみが確認された。
【0070】
このことにより、上記の方法を用いると、リン脂質であるスフィンゴミエリン以外の単純脂質(コレステロール)および単糖を持つ糖脂質(ガラクトセレブロシド)は、チタニア粒子およびジルコニア粒子に吸着されないため、非吸着画分として現れ、リン脂質であるスフィンゴミエリンは、チタニア粒子およびジルコニア粒子に吸着されるため非吸着画分には現れず、特異的な溶出を行なうことによってのみ、溶出画分内に溶出されることが分かる。
この方法によれば、チタニア粒子、ジルコニア粒子を用いて簡便な操作でリン脂質と非リン脂質を分離することが可能である。
【実施例2】
【0071】
実施例2では、チタニア粒子による糖脂質とリン脂質の分離検討を行なった。分離検討のサンプルとして下記の混合物を使用した。
モノヘキソシルセラミド(CMH):単糖を持った糖脂質
ジヘキソシルセラミド(CDH):二糖を持った糖脂質
トリヘキソシルセラミド(Gb3):三糖を持った糖脂質
グロボシド(Gb4):四糖を持った糖脂質
スフィンゴミエリン(Sph):リン脂質
【0072】
分離に使用するチタニア粒子(表面積100m2/g、細孔径60Å、粒径5μm、100mg)は、まず、メタノール/水 4/6、1mlで懸濁させ、10分間転倒混和後、遠心して上清を捨て、HIPWHCl(ヘキサン/2−プロパノール/水/HCl、120/80/5/1)1mlを加えて、チタニア粉末を再懸濁し、10分間転倒混和した。
【0073】
このチタニア粉末懸濁液約300μLを上記のサンプルに加え、10分間、よく転倒混和した後、遠心により上清を除いた。更に、遠心後の沈渣(チタニア粉末)にHIPW(ヘキサン/2−プロパノール/水、60/40/3)を約300μL入れ、よく混和後、上清を遠心して除いた。
【0074】
次に、遠心後の沈渣(チタニア)に300μLの0.1Mol/Lのアンモニウムメタノールを入れ、20分よく転倒混和し、遠心した上清を溶出画分1として収集した。
再度、上記の行程を行ない、溶出画分2を収集した。
【0075】
次に、DHB/メタノール(10mg/mL)を300μL入れ、混和した後、遠心し上清を溶出画分3として収集した。溶出画分1、溶出画分2、溶出画分3の各々を蒸発乾固後、展開溶媒:クロロフォルム:メタノール:水=65:25:4を用い、薄層クロマトグラフィー(TLC)にて展開後、硫酸銅による炭化発色とオルシノールによる糖発色による検出を行なった。
【0076】
硫酸銅による炭化発色においては、炭化水素が存在する物質はすべて発色するため、サンプルとして用いた混合物はすべて発色する。一方、オルシノールによる糖発色では、糖を含むもののみが発色するため、サンプル混合物中では、スフィンゴミエリン(Sph):リン脂質以外の物質が発色する。
【0077】
上記のTLCの展開条件による分離では、スフィンゴミエリンとGb4は重なって検出されてしまうため区別は困難である。そのため、糖発色を使用することにより、糖脂質であるGb4か否かを判断した。
【0078】
図4は、炭化発色を用いたものであり、図5は糖発色を用いたものである。
図4,5において、「レーンstd」は、展開パターンを同定するための標準混合試料、「レーン1」には処理前のグロボシド(Gb4)とスフィンゴミエリン(Sph)の混合物、「レーン2」は、0.1mol/L アンモニウムメタノールによる1回目の溶出画分である溶出画分1、「レーン3」は、0.1mol/L アンモニウムメタノールによる2回目の溶出画分である溶出画分2、「レーン4」は、DHB/メタノールによる3回目の溶出画分である溶出画分3を展開した。
【0079】
炭化発色を用いた図4においては、レーン2,3,4において、グロボシド(Gb4)もしくはスフィンゴミエリン(Sph)に相当する位置にバンドが観察される。
【0080】
一方、糖発色を用いた図5においては、レーン4にのみ図4と同一の位置にバンドが検出される。アンモニウムメタノールによる溶出画分である溶出画分1(レーン2)、溶出画分2(レーン3)においては、炭化発色ではバンドが検出されるが、糖発色ではバンドが検出されないことから、糖を含まない脂質、つまりスフィンゴミエリン(Sph):リン脂質が特異的に溶出されたことが分かる。
【0081】
又、糖発色により、溶出画分3(レーン4)で初めてバンドが検出されることから、DHB/メタノールによる溶出で初めて糖を含む脂質(グロボシド(Gb4))が溶出されることが分かる。
【0082】
このことから、リン脂質は0.1mol/L アンモニウムメタノールでは溶出されるが、DHBでは溶出されず、糖脂質は0.1mol/L アンモニウムメタノールでは溶出されないが、DHBにより選択的にチタニア粒子から溶出できることが示された。
【0083】
レーンstd:スタンダード、レーン1:スフィンゴミエリン+Gb4、レーン2:0.5Mアンモニアメタノール(1回目)、レーン3:アンモニウムメタノール(2回目)、レーン4:10mg/mL DHB/メタノール
【0084】
レーンstd:スタンダード
レーン1:スフィンゴミエリン+Gb4
レーン2:0.1mol/L アンモニウムメタノールによる溶出(1回目):溶出画分1
レーン3:0.1mol/L アンモニウムメタノールによる溶出(2回目):溶出画分2
レーン4:DHB/メタノール:溶出画分3
【実施例3】
【0085】
実施例1と同一の操作で、表面積の異なるチタニア粒子を用いてリン脂質であるスフィんゴミエリン(Sph)の回収率の検討を行なった。使用したチタニア粒子は、表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Åと表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Åである。
【0086】
図6に非吸着画分と溶出画分のTLC展開像を示す。
レーン1:処理前の脂質混合サンプル(CHO,GalCer,Sph)
レーン2,3:チタニア粒子 表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å
レーン4,5:チタニア粒子 表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Å
【0087】
実施例1において、ジルコニア粒子(表面積30m2/g 粒径5μm 細孔径300Å)を用いた結果である図2レーン4,5と、図3レーン4,5の結果を合わせて粒子形状に関して考察する。
【0088】
非吸着画分のTLC展開像において、ジルコニア粒子(表面積30m2/g 粒径3〜5μm 細孔径300Å)を使用した場合(図2レーン4,5)、チタニア粒子(表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Å)を使用した場合(図6非吸着画分レーン4,5)においては、非吸着画分にはスフィンゴミエリンが検出されなかった。
一方、チタニア粒子(表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å)を使用した場合(図6レーン1,2)では、スフィンゴミエリンが検出されている。これは、十分な吸着性能がないために、吸着されないスフィンゴミエリンが非吸着画分に残存したことを示す。
【0089】
溶出画分のTLC展開像においては、ジルコニア粒子(表面積30m2/g 粒径3〜5μm 細孔径300Å)を使用した場合(図3レーン4,5)、チタニア粒子(表面積100m2/g 粒径5μm 細孔径60Å)を使用した場合(図6溶出画分レーン4,5)と比較して、チタニア粒子(表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å)を使用した場合(図6溶出画分レーン2,3)は、溶出画分の検出量が少ないという結果が得られた。
このことは、チタニア粒子(表面積42m2/g 粒径5μm 細孔径70Å)では、十分なリン脂質の吸着性能が得られず、吸着されずに残存したリン脂質が非吸着画分に検出されるため、溶出画分の検出量も減少してしまうことを示している。
【実施例4】
【0090】
実施例4では、チタニア(表面積100m2/g、粒子径5μm)を充填したカラム(10×4.0mm I.D.)であるTitansphere(登録商標)TiOを用いて、リン脂質の特異的選択的な分離を検討した。
【0091】
分析のために使用したサンプルは、非リン脂質であるD−erythro−Sphingosine(1.8mg/500μl MeOH)と、リン脂質であるSphingomyelin(1.8mg/500μl MeOH)を等量混合したものを使用した。
【0092】
分析は以下の方法で行なった。
まず、カラムにH2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH=8:82:10の混合溶液を流した状態で、上記の試料混合サンプルを注入し、カラムからでたものを素通り画分として分取する。図7は、分取画分の位置を示すクロマトグラムで、素通り画分は図7の1,2の部分である。
【0093】
次に、溶媒をH2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH:H3PO4=8:82:10:0.6に切り換え、カラムからの溶出画分を図7の3〜10に示す画分として分取する。
上記の画分を、D−erythro−SphingosineとSphingomyelinが、分離可能なカラムInertsil(登録商標)NH2(150×4.6mm I.D.)を用いて分析し、それぞれの物質の含有の有無を測定した(図8は分取した画分の分析結果を示し、各画分のクロマトグラム比較図)。
【0094】
測定条件は、以下の通りである。
カラム:Titansphere(登録商標) TiO(10×4.0mm I.D.)
溶離液:A:H2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH=8:82:10
B:H2O:CH3CN:MeOH:H3PO4=8:82:10:0.6
0〜2.9min A/B=100/0
3〜20min A/B=0/100
流速:1.0ml/min
カラム温度:室温
検出波長:UV210nm
サンプル:調整した脂質混合物を50μl
【0095】
図8の分取画分番号0(上段)に示すクロマトグラムは、チタニア粒子を充填したカラムを使用せずに、それぞれの物質の有無を確認した結果である。処理を行なっていないため、D−erythro−SphingosineとSphingomyelinが両方検出される。
図8の中段に示すクロマトグラムは、H2O(0.1% TFA):CH3CN:MeOH=8:82:10の条件下で、カラムを素通りした画分である画分1の分析結果である。D−erythro−Sphingosineに相当するピークは検出されるが、Sphingomyelinに相当するピークは検出されなかった。
【0096】
図8の下段に示すクロマトグラムは、H2O:CH3CN:MeOH:H3PO4=8:82:10:0.6の条件下で、カラムから溶出された画分8の分析結果である。素通りの画分である画分1とは逆に、D−erythro−Sphingosineに相当するピークは検出されないが、Sphingomyelinに相当するピークは検出された。
【0097】
分析条件は、次の通りである。
カラム:InertSil(登録商標) NH2(150×4.6mm I.D.)
溶離液:H2O:CH3CN:MeOH=8:87:5
流速:1.0ml/min
カラム温度:室温
検出波長:UV205nm
サンプル:0.調整した脂質混合物を溶離液で66倍希釈したものを50μl
1〜10.各分取画分 50μlずつ
【0098】
又、このように酸化金属粒子およびモノリス構造体を用いたカラムで前処理を行ない、次いで分析カラムに直接導入する方法、いわゆるカラムスイッチング方法においても、本発明を用いれば、リン脂質を選択的に分析可能である。
【実施例5】
【0099】
モノリス構造体を使用した実施例について説明する。
シリカモノリス構造体の表面にチタニアをコーティングすることによって作成した、チタニアモノリス1を使用してリン脂質及び糖脂質の分離を行なった。チタニアモノリス1は、ディスク状に形成したものを汎用のピペットチップ2内に固定し、ピペッター3に装着することによって、ピペッター3の吸引・吐出操作により試料溶液・溶媒とチタニアモノリス1を接触させることが出来る。
【0100】
使用したチタニアモノリス1は、以下のものである。
連続孔径(スルーポア)10μm、細孔径(メソポア)200Å、表面積200m2/g
【0101】
分離に用いた試料には、スフィンゴミエリン(Sph)、ガラクトセレブロシド(GalCer)、コレステロール(CHO)、クロボジド(Gb4)をHIPWHClで溶解した脂質混合液である。
【0102】
分離操作は以下の手順で行なった。
1.PBS(リン酸緩衝液)300μLを吸引・吐出し、チタニアモノリス1に通す。この操作を3回繰り返す。
2.メタノール:水=4:6の溶媒300μLを吸引・吐出により、チタニアモノリス1に通す。
3.HIPWHCl(ヘキサン:2−プロパノール:水:HCl=120:80:5:1)300μLを吸引・吐出によりチタニアモノリスに通す。この操作を二回繰り返す。
4.脂質混合液(コレステロール、ガラクトセレブロシド、スフィンゴミエリン、クロボジド)300μLの吸引・吐出を9回繰り返し、脂質混合液とチタニアモノリス1を接触させる。
5.4の操作をさらにもう一度繰り返すが、吐出液の回収は新しいチューブに行なう。これを「非吸着画分」とする。
6.HIPW(ヘキサン:2−プロパノール:水=60:40:3)300μLを吸引・吐出し、吐出した液を回収し、洗浄画分とする。
7.0.1Mol/L アンモニウムメタノールを300μL吸引・吐出し、吐出した液を回収し、「溶出画分1」とする。
8.DHB/メタノールを300μL吸引・吐出し、吐出した液を回収し、「溶出画分2」とする。
【0103】
得られた「非吸着画分」「洗浄画分」「溶出画分1」「溶出画分2」をTLCにより展開し、炭化発色及び糖発色を行なった。図9におけるレーン1には、分離操作前の脂質混合溶液、レーン2には「非吸着画分」、レーン3には「洗浄画分」、レーン4には「溶出画分1」、レーン5には「溶出画分2」を展開した。
【0104】
炭化発色では、レーン2(非吸着画分)においては、コレステロールと単糖を持つ糖脂質であるガラクトセレブロシドが検出され、リン脂質であるスフィンゴミエリンは検出されなかった。レーン4(溶出画分1)、5(溶出画分2)においては、スフィンゴミエリンもしくは四糖を持った糖脂質であるグロボジドが検出された。
糖発色においては、脂質混合試料中でガラクトセレブロシドとグロボジドのみが発色するため、レーン1では、ガラクトセレブロシドが検出され、レーン5では、グロボジドが検出された。
【0105】
このことにより、単純脂質であるコレステロールと単糖を持つ糖脂質であるがガラクトセレブロシドは、HIPWHClの条件下では、チタニアモノリスに吸着されず、リン脂質であるスフィンゴミエリンと四糖を持つ糖脂質であるグロボジドが吸着されることが分かる。更に、アンモニウムメタノール条件下では、スフィンゴミエリンが溶出され、DHB/メタノール条件下ではグロボジドが溶出されることが分かる。
【0106】
この結果は、粒子を用いた実施例2と同等である。
この方法によれば、モノリス構造体を嵌合したピペットチップを使用した場合でも、リン脂質および糖脂質を選択的に吸着分離することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明―実施例に基づく本発明分離法概略説明図
【図2】本発明―実施例に基づく非リン脂質のTLC展開像
【図3】本発明―実施例に基づくリン脂質のTLC展開像
【図4】本発明―実施例に基づくリン脂質溶出状態を示すTLC展開像
【図5】本発明―実施例に基づく糖脂質溶出状態を示すTLC展開像
【図6】チタニアゲルの表面積の差による回収の差を示すTLC展開像
【図7】本発明―実施例によるリン脂質の分取時のクロマトグラム
【図8】本発明―実施例によるチタニアの有無による分取画分のクロマトグラム
【図9】本発明一実施例に基づく糖脂質の溶出状態を示すTLC展開像
【図10】本発明一実施例に基づくリン脂質の溶出状態を示すTLC展開像
【図11】本発明一実施例に使用されるモノリスチップの説明図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、吸着させることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項2】
リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、リン脂質及び糖脂質を同時に吸着させると共に、次いで塩基性溶媒によりリン脂質を溶出し、ヒドロキシカルボン酸含有溶媒により糖脂質を溶出することで、夫々別箇に分離させることを特徴とする請求項1記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシカルボン酸は、アリファティックヒドロキシカルボン酸又はアロマティックヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項4】
前記酸化金属は、酸化チタン、酸化ジルコニウムから成る群から選ばれる、少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項5】
前記酸化チタンは、二酸化チタン、一酸化チタン、三酸化二チタン、五酸化三チタン、七酸化四チタンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項4記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項6】
前記酸化金属は、表面積3m2/g以上、細孔径10Åから1000Åの範囲に於いて、表面積(単位:m2/g)と細孔径(単位:Å)の積の値が3000以上であることを特徴とする請求項1乃至2及び請求項4乃至5の何れかに記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項7】
前記酸化金属は、モノリス構造体に含有乃至付着させたことを特徴とする請求項1又は2記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項1】
リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、吸着させることを特徴とするリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項2】
リン脂質及び糖脂質を含む試料を酸性条件下で、酸化金属に接触させ、リン脂質及び糖脂質を同時に吸着させると共に、次いで塩基性溶媒によりリン脂質を溶出し、ヒドロキシカルボン酸含有溶媒により糖脂質を溶出することで、夫々別箇に分離させることを特徴とする請求項1記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシカルボン酸は、アリファティックヒドロキシカルボン酸又はアロマティックヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項4】
前記酸化金属は、酸化チタン、酸化ジルコニウムから成る群から選ばれる、少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項5】
前記酸化チタンは、二酸化チタン、一酸化チタン、三酸化二チタン、五酸化三チタン、七酸化四チタンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項4記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項6】
前記酸化金属は、表面積3m2/g以上、細孔径10Åから1000Åの範囲に於いて、表面積(単位:m2/g)と細孔径(単位:Å)の積の値が3000以上であることを特徴とする請求項1乃至2及び請求項4乃至5の何れかに記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【請求項7】
前記酸化金属は、モノリス構造体に含有乃至付着させたことを特徴とする請求項1又は2記載のリン脂質及び糖脂質の吸着分離方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−156571(P2008−156571A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350002(P2006−350002)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
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