説明

ルチル(TiO2)単結晶の製造方法、及びルチル(TiO2)単結晶、並びにこれを用いた宝飾製品

【課題】 ルチル(TiO)単結晶の光透過率を制御することにより、透明感があり、かつ着色されたルチル(TiO)単結晶、特に青色のルチル(TiO)単結晶の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 所定の育成雰囲気中でルチル原料棒とルチル種結晶との接合部分を融解させ溶融帯を形成し、前記溶融帯を移動させながらルチル(TiO)単結晶を育成するルチル(TiO)単結晶の製造方法において、前記溶融帯にチタン原子価+4よりも低原子価の異種金属イオンの添加により、育成される前記ルチル(TiO)単結晶の光透過率を変化させ、前記ルチル(TiO)単結晶の色彩を調節する。前記溶融帯に前記異種金属イオン濃度が全金属イオン中の0.005at%から1.0at%の割合となるように異種金属イオンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ルチル(TiO)単結晶を赤外線集中加熱炉を用いたフローティングゾー
ン(Floating Zone、以下FZ)法によって製造する方法に関し、特に透明感のある青色ルチル(TiO)単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ルチル(TiO)単結晶は一般的にFZ法やベルヌーイ(Verneuil)法により育成されているが、育成結晶には酸素欠損や小傾角粒界などの結晶欠陥が発生する。
無色透明のルチル(TiO)単結晶は、その屈折率の高さから光学材料に用いられているが、酸素欠損や小傾角粒界は光透過率の低下や屈折率変動を招くため、いずれもルチル(TiO)単結晶を光学材料として利用するには酸素欠損や小傾角粒界の抑制が極めて重要である。一方、酸素欠損や小傾角粒界がもたらす光透過率はルチル(TiO)単結晶の色彩と密接に関係するため、光透過率を自在に制御できれば、ルチル(TiO)単結晶を所望の色彩に着色することができる。
【0003】
従来、透明水晶や茶水晶などは、地中で成長していく過程においてさまざまな鉱物がその中に入り込み、針状の結晶が水晶の中に形成されたものは「針水晶(ルチル)」と呼ばれている。その中でも、特に針が青色のルチルは、ブルールチルクォーツ(藍針水晶)と呼ばれ、研磨、加工され宝飾品として販売されている。
【0004】
従来、人工的にルチル(TiO)単結晶を製造する方法については、炭酸ガス中などの低酸素分圧下や高圧酸素加圧下で育成する方法(特許文献1)、あるいは、Al3+などの金属イオンを原料に添加する方法(特許文献2)が報告されている。
これらの文献1、文献2においては、酸素分圧3×10-2気圧以下の結晶育成では、育成結晶中に酸素欠損を生じて、濃青色、あるいは白濁した結晶となることが報告されている。また、この酸素欠損を低減させ、透過率の高いルチル(TiO)単結晶とするために1000℃以上で数十時間以上の長時間にわたって酸素熱処理を施すことが報告されている(特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開昭61-101495
【特許文献2】特開平6-48894
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸素欠損や小傾角粒界を含むルチル(TiO)単結晶は、濃青色、あるいは白濁し、かつ透明感もないため、ダイヤモンドよりも高い屈折率を有するにも係わらず、宝飾品の材料として用いることができないという問題があった。
そこで本発明の目的は、透明感があり、かつ所望の色に着色されたルチル(TiO)単結晶の製造方法、特に青色のルチル(TiO)単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)所定の育成雰囲気中でルチル原料棒とルチル種結晶との接合部分を融解させ溶融帯を形成し、前記溶融帯を移動させながらルチル(TiO)単結晶を製造する方法において、前記溶融帯にチタン原子価+4よりも低原子価の異種金属イオンの添加した条件で育成することにより、前記ルチル(TiO)単結晶の光透過率を変化させ、前記ルチル(TiO)単結晶の色彩を調節することを特徴とする。
(2)前記溶融帯に全金属イオン中の前記異種金属イオン濃度が0.005at%から1.0at%の割合となるように異種金属イオンを添加した条件で育成することは前記ルチル(TiO)単結晶の色彩の調節に好適である。特に、前記異種金属イオン濃度が0.005at%から0.5at%の割合となる条件で育成することが好ましい。
(3)前記異種金属イオンが、イットリウムイオン(Y3+)又はガリウムイオン(Ga3+)であることは好適である。
(4)前記育成雰囲気が酸素分圧20kPa以上であることは好ましい。
(5)育成されるルチル(TiO)単結晶の色彩が青色であることは好ましい。
(6)本発明は(1)から(5)のいずれかに記載のルチル(TiO)単結晶の製造方法により製造されるルチル(TiO)単結晶であることを特徴とする。
(7)本発明は(7)に記載のルチル(TiO)単結晶を用いた宝飾製品であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1はこの発明のルチル単結晶の製造方法に使用する四楕円型赤外線集中加熱装置1の説明図である。
図1に示す四楕円型赤外線集中加熱装置1は、4個の回転楕円面鏡11a,11b…を、そ
れらの各焦点Fは一致するように構成されている。各回転楕円面鏡11a,11b…の他方の
焦点Fa,Fb…には赤外線ランプ(例えばハロゲンランプ)12a,12b…を配置する。
【0008】
前記中央の焦点Fの位置には、相互に逆方向に回転する原料棒18と種結晶20との間に形成される溶融帯19が配置される。これらは石英ガラス等からなる赤外線透過性の円筒体13内に位置し、原料棒18と種結晶20は、それぞれ回転駆動機構で駆動される上回転軸14および下回転軸15に固定されている。
なお、上記原料棒18は、TiO粉末をゴムチューブに詰め、冷間等方圧プレス機(C
IP)により300MPaの静水圧プレスで加圧成型し、1200℃で12時間空気中で焼結させて得た焼結体からなっている。
【0009】
上記円筒体13内にはその上部にガス排出口16が、またその下部にガス導入口17が連通させてあり、円筒体13内の育成雰囲気として空気、酸素、アルゴンといった任意のガスをガス導入口17から導入し、円筒体13内において一定のガス圧を保持させるようになっている。
ルチル(TiO)単結晶の製造に際しては、ガス導入口17から酸素を含むガスを供給し、20kPa以上の酸素圧中でルチル原料棒18の下端とルチル(TiO)種結晶20の上端を融解して溶融帯19を形成した後、種結晶20と加熱位置を毎時3mm以上の速度で相対的に移動させることによって溶融帯19を移動させて種結晶20にルチルを結晶化させて単結晶を得る。
【0010】
図2は本発明のルチル単結晶の育成方法である、溶媒原料とルチル(TiO)原料との接合(溶媒付け)、及びルチル(TiO)単結晶の育成方法を示した図である。本明細書においては、かかるルチル(TiO)単結晶の育成方法を溶媒移動浮遊帯域溶融(Traveling Solvent Floating Zone、以下TSFZ)法という。
【0011】
この方法は、原料棒には異種金属イオンを添加せず、無添加の高純度の酸化チタン焼結棒を用い、融液には例えば鉄イオン(Fe2+、Fe3+)やアルミニウムイオン(Al3+)など育成結晶に固溶しにくい異種金属イオンを添加したものを用いて単結晶を育成する方法である。
【0012】
図2(a)に示すように、原料棒を例えば白金線でアルミナ管に固定し、原料棒先端に溶媒原料を載せ、雰囲気は例えば空気中で約1時間半かけてランプにより溶媒を融かし原料棒先端に溶媒原料を付着させる。
ルチル単結晶の育成条件は、例えば5mm/hで酸素1気圧又は5気圧、ルチル種結晶20は方位[001]で直径3mmとすることが好適である。
【0013】
図2(b)に示すように、溶媒付着済みの原料棒を白金線で上シャフトのフックに引っ掛け、下シャフトにはルチル種結晶20を設置する。石英管を装着したのち酸素圧を任意の値まで加圧し、上下シャフトを互いに逆方向に回転させ、先ず溶融帯19を形成するために原料棒18の先端が溶融するまで約1時間半かけてランプ出力を上昇させる(図2(b)溶融)。その後、種結晶20を加熱帯まで上方に移動させ種結晶20を加熱した後、原料棒18に接合させて溶融帯19を形成する(図2(b)種付け)。溶融帯を相対的に上向きに移動させ、ルチル種結晶20の方位[001]に成長させれば良い。
【0014】
ここで、溶融帯の相対的な移動は、加熱炉を上方に移動させる方法と原料棒18と種結晶20を同時に下方に移動させる方法があるが、どちらを用いてもよい。育成中は溶融帯19の状況を見て、ランプ出力を調整し(図2(b)育成)、育成終了時にはランプ電圧を徐々に低下させ、約20分間で育成結晶と原料棒18を切り離す(図2(b)溶融帯の切り離し)。
【実施例】
【0015】
原料棒の出発原料として純度99.99%の酸化チタン粉末(東邦チタニウム製)を用いた。この出発原料を細長いゴムチューブに入れ、300 MPaの静水圧で加圧することで丸棒状に成型した。この成型体を空気中で1200℃、12時間の条件で焼結することで単結晶育成の原料棒に用いる焼結体を得た。
【0016】
溶媒については、2通りの方法で用意した。一つは固相反応に基づくものである。99.99%の酸化チタン粉末(東邦チタニウム製)と99.99%の酸化イットリウム粉末(レアメタリック製)または99.99%の酸化ガリウム粉末(レアメタリック製)を所定の割合となるように秤量・混合した。
1000℃で仮焼後、再粉砕した。その加圧成型体0.3gを焼結棒先端にのせ、加熱溶融することでつけた。
もう一つは、 イットリウム溶液を用いる方法である。60℃に加熱した塩酸に酸化イットリウムを溶解させ、アンモニア水を加えて中性に近づけた後、常温に冷却した。メスフラスコに移した後、イットリウム濃度が7.067mg/mlとなるように純水で希釈した。
【0017】
この溶液を30μl焼結棒先端に塗布・乾燥することで、溶融帯部分を0.3gと仮定した場合に0.005at%のイットリウム濃度となるようにイットリウムを原料棒先端につけた。
表1は各試料の単結晶育成条件をまとめたものである。
【0018】
【表1】

【0019】
育成速度、育成方向は表1に示す通り、それぞれ5mm/h, [001]、育成時の酸素分圧は100kPa(酸素気流中)とした。異種金属イオンを添加した溶媒を用いるTSFZ育成とは別に比較として工業的製法(溶媒無添加でかつ二酸化炭素雰囲気下でのFZ育成)でも単結晶育成を行った。
【0020】
育成結晶が呈する色については室温で光透過率を測定することで評価した。工業的製法で育成した結晶(a)と0.5 at%Y溶媒を用いて育成した結晶(c)、0.05 at%Y溶媒を用いて育成した結晶(e)、0.005 at%Y溶媒を用いて育成した結晶(f)について育成開始位置から23-25mm位置で測定用の試料を[001]に対して平行に切り出した。試料厚が1.5mmとなるようにその両面を鏡面研磨し、透過率測定に用いた。
光透過率測定には、UV-Spectrophotometer (日本分光製: V-550)を用い、200-900 nmの波長域で光透過率を測定した。直径2mmの穴の試料ホルダーにセットして育成結晶中心付近の透過率を測定した。
【0021】
図3に育成結晶の写真を示す。工業的製法で育成した結晶は、透明感のない濃青色を呈していた。これに対して0.005 〜0.5 at%Yあるいは0.002 at%Gaを添加した溶媒を用いてTSFZ法で育成した結晶は、As-grown状態で透明感のある青色を呈していた。
また、偏光顕微鏡による結晶断面の観察から、育成したどの結晶にも小傾角粒界が存在しないことが確認できた。
【0022】
図4に透過率測定の結果を示した。透過率は育成時の溶媒中へのY添加量が増えるに従って系統的に高くなった。
透明感のある青色のルチル結晶の透過率の特徴を濃青色で透明感のないルチル結晶と比較すると以下のようになる。
410nm以下の光に対する透過率が試料厚1.5mm以下で0.3%以下であると同時に425nm以上900nm以下の光に対する透過率が、試料厚1.5mm以上で15%以上であり、試料厚1.5mm以下で60%以下であることを特徴とする透明感のある青色ルチル単結晶である。
【0023】
以上のことより、イットリウム添加溶媒を用いてTSFZ育成により育成したルチル単結晶の透過率は溶媒に添加したイットリウム濃度に依存し、その濃度が高いほど、高かった。またイットリウム添加溶媒を用いたTSFZ育成には小傾角粒界の抑制にも効果があった。
【0024】
適当な濃度のイットリウムイオン(Y3+)やガリウムイオン(Ga3+)といった異種金属イオンを溶媒としてのみ添加するTSFZ法によって酸素アニールなどの熱処理を施さなくても青色でかつ透明であるルチル単結晶を育成することができた。また、添加濃度を制御することで系統的に透過率を制御できることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ルチル単結晶の製造方法に使用する四楕円型赤外線集中加熱炉の説明図である。
【図2】ルチル単結晶の育成手順の説明図である。
【図3】育成したルチル単結晶の写真である。
【図4】透過率測定の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 四楕円型赤外線集中加熱装置
11a,11b 両回転楕円面鏡
12a,12b 赤外線ランプ
13 石英管
14 上回転軸
15 下回転軸
16 ガス排出口
17 ガス導入口
18 原料棒
19 溶融帯
20 ルチル(TiO)種結晶
21 スクリーン
22 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の育成雰囲気中でルチル原料棒とルチル種結晶との接合部分を融解させ溶融帯を形成
し、前記溶融帯を移動させながらルチル(TiO)単結晶を育成するルチル(TiO)単
結晶の製造方法において、
前記溶融帯にチタン原子価+4よりも低原子価の異種金属イオンの添加により、育成される前記ルチル(TiO)単結晶の光透過率を変化させ、前記ルチル(TiO)単結晶の色彩を調節することを特徴とするルチル(TiO)単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記溶融帯に前記異種金属イオン濃度が全金属イオン中の0.005at%から1.0at%の割合となるように異種金属イオンを添加した条件で育成することを特徴とする請求項1または2に記載のルチル(TiO)単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記異種金属イオンが、イットリウムイオン(Y3+)又はガリウムイオン(Ga3+)であることを特徴とする請求項2に記載のルチル(TiO)単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記育成雰囲気が酸素分圧200kPa以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のルチル(TiO)単結晶の製造方法。
【請求項5】
育成されるルチル(TiO)単結晶の色彩が青色であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のルチル(TiO)単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかのルチル(TiO)単結晶の製造方法により製造されることを特徴とするルチル(TiO)単結晶。
【請求項7】
請求項6に記載のルチル(TiO)単結晶を用いたことを特徴とする宝飾製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−254938(P2008−254938A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95768(P2007−95768)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】