説明

ルテニウムが付着した金属の洗浄方法

【課題】金属に付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を、容易に除去することができ、金属を腐食することなく、かつ特殊な設備を必要としない洗浄方法を提供する。
【解決手段】金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物が付着したステンレス製容器と、0.01重量%〜20重量%の硝酸水溶液とを接触させ、超音波を0.1〜480分間かけることにより、付着物を除去し容器を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属の洗浄方法に関し、更に詳しくは、金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物が金属に付着した場合でも、容易に除去することができる金属の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ルテニウム化合物は、半導体素子を高集積化することが可能なルテニウム薄膜もしくは酸化ルテニウム薄膜の原料物質として注目されている。
【0003】
高集積化したメモリー素子におけるルテニウム含有薄膜の製造方法として、段差被覆性に優れる化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition 以下、CVD法)や原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition 以下、ALD法)が挙げられる。ここで用いられる有機ルテニウム化合物には、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムなどが知られている。(例えば特許文献1、非特許文献1−8参照)。一般的に、これらの有機ルテニウム化合物は、金属製容器に収容された状態で保存、運搬、使用される。有機ルテニウム化合物をCVD法やALD法による薄膜形成に使用した後、それが収容されていた容器を再利用するためには洗浄する必要がある。しかし容器の使用状況によっては、収納されていた有機ルテニウム化合物ばかりでなく、それから生成した金属ルテニウムまたは酸化ルテニウムも金属容器に強く付着してしまう。
【0004】
金属製容器に付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を除去するための洗浄方法としては、例えば揮発性の有機溶剤を使用して、ブラッシングや払拭等による手作業を挙げる事ができるが、金属容器が傷つく可能性があるために好ましくない。また、有機溶剤を使用した機械洗浄を行うと洗浄効率は向上するが、防爆装置等の大型かつ特殊な設備が不可欠であり、コスト的に不利であるとともに、洗浄により生じた廃液の処理が困難であるといった問題を生じる。このため、金属を腐食することなく、十分な洗浄効果を得ることができ、かつ特殊な設備を必要としない洗浄方法を開発する必要性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−342286号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】東ソー研究・技術報告、第47巻、61−64頁、2003年
【非特許文献2】APPLIED PHISICS LETTERS,VOLUME83,NUMBER 26,p.5506−5508,29 DECEMBER 2003
【非特許文献3】Electrochemical and Solid−State Letters,6(9) C117−C119(2003)
【非特許文献4】Electrochemical and Solid−State Letters,9(7) C107−C109(2006)
【非特許文献5】Electrochemical and Solid−State Letters,9(11) C175−C177(2006)
【非特許文献6】Electrochemical and Solid−State Letters,10(6) D60−D62(2007)
【非特許文献7】Journal of The Electrochemical Society,154(2) D95−C101(2007)
【非特許文献8】Mat.Res.Soc.Symp.Proc.Vol.748 p.111−116,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物が金属に付着した場合でも、容易に除去することが可能であるとともに、金属を腐食することなく、かつ特殊な設備を必要としない洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、酸水溶液を使用することにより、金属の腐食やそれに伴う汚染なしに、付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を除去することができる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物が付着した金属と酸水溶液とを接触させ、超音波をかけることにより、付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を除去することを特徴とする、金属の洗浄方法。
(2)酸水溶液が硝酸水溶液である、(1)に記載の方法。
(3)酸水溶液が0.01重量%〜20重量%の硝酸水溶液である、(1)または(2)に記載の方法
(4)金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物が付着したステンレス製容器と、0.01重量%〜20重量%の硝酸水溶液とを接触させ、超音波をかけることにより、付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を除去することを特徴とする、容器の洗浄方法。
(5)超音波を0.1〜480分間かける、(4)に記載の方法。
以下、本発明について詳しく述べる。
【0010】
本発明において洗浄対象となる金属の形状は特に限定されず、例えば、平板、インゴット、管状、容器、曲板、棒状、曲棒、球状、円板などであってもよい。例えば容器の場合、一斗缶、ドラム缶、ペール缶、キャニスター缶等が挙げられ、更に具体的な金属容器の例として、有機金属化合物を入れるためのキャニスター缶が挙げられる。また、洗浄対象となる金属の種類も特に限定されないが、例えば、ステンレス、アルミニウム、カーボン鋼などが挙げられ、それらの中でもステンレスが好ましく、耐久性や耐酸性に優れるステンレスが特に好ましい。
【0011】
本発明において、金属に付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物とは特に限定されるものではないが、例えば有機ルテニウム化合物として、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム、(2,4−ジメチルペンタジエニル)(メチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム、(η−1,3−シクロヘキサジエン)(η−エチルベンゼン)ルテニウム、(η−エチルベンゼン)(η−5−エチル−1,3−シクロヘキサジエン)ルテニウム、カルボニルビス(2−メチル−1,3−ペンタジエン)ルテニウムなどがあげられる。
【0012】
本発明においては、まず洗浄対象の金属と酸水溶液とを接触させる。ここで酸とは、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸や、クエン酸、シュウ酸、酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられ、洗浄効果の面から特に硝酸が好ましい。酸水溶液の濃度は特に限定されるものではないが、0.01重量%〜50重量%が好ましく、0.01重量%〜20重量%の濃度に調整すると洗浄効果の面から更に好ましい。
【0013】
洗浄対象の金属と酸水溶液との接触させ方には特に限定はなく、例えば、酸水溶液中に金属を浸漬したり、金属が容器である場合には、その中に酸水溶液を入れたりしても良い。
【0014】
金属と酸水溶液とを接触させた後、超音波をかける。超音波をかける時間は、0.1〜480分間行うことが好ましく、5〜120分間行うことが更に好ましい。また、超音波洗浄の時間が480分超であると、洗浄効果は十分に発揮される一方で、エネルギーコストの面で不利になる場合がある。超音波の周波数には特に限定はなく、通常15〜400kHzが用いられ、周波数が高いほど洗浄能力が高まるが、洗浄対象の金属への影響との兼合いで適宜設定すればよい。
【0015】
超音波をかけるときの酸水溶液の液温は特に限定されるものではないが、0〜80℃であることが好ましく、20〜50℃であることが更に好ましい。また、酸水溶液の液温が80℃超であると、洗浄効果は十分に発揮される一方で、エネルギーコストの面で不利になる場合がある。
【0016】
このようにして金属に付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を効果的に分解・除去することができる。本発明では水溶液系の洗浄液を用いることから、洗浄に際して防爆設備等の大型かつ特殊な設備が不要である。従って、本発明における金属製容器の洗浄方法は、簡易な設備・施設内で実施できるといった利点がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、洗浄対象の金属を、腐食やそれに伴う汚染なしに、付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を除去することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない、
(実施例1)
ステンレス製のキャニスター缶(容量2リットル)を用意し、その缶に(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(以下、DERとする)を満たした後、缶を傾けて中のDERを取り出した。そのまま缶を60℃で14日間、空気中で放置したところ、缶の内部に付着したDERが一部変色し、金属ルテニウムおよび酸化ルテニウムが生成していることを確認した。この缶を5重量%の硝酸水溶液に浸漬し、液温30℃で、36kHzの超音波を480分かけることにより、洗浄を行った。
【0019】
(実施例2)
実施例1と同様にして、但し、10重量%の硝酸水溶液を用いて、120分超音波をかけることにより、洗浄を行った。
【0020】
(比較例1)
実施例1と同様にして、但し、純水を用いて洗浄を行った。
【0021】
(比較例2)
実施例1と同様にして、但し、ヘキサンを用いて洗浄を行った。
【0022】
(比較例3)
実施例1と同様にして、但し、10重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて、240分超音波をかけることにより、洗浄を行った。
【0023】
(洗浄効果の視認方法)
以下に示す基準に従って、付着物の残存を目視観察することにより、洗浄効果を3段階に評価した。評価結果を表1に示す。
○:残存物の視認不可(概ね99%以上(面積率)洗浄可能)
△:残存物の視認可能(概ね50%以上〜99%未満(面積率)洗浄可能)
×:残存物の視認可能(概ね50%未満(面積率)洗浄可能)
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物が付着した金属と酸水溶液とを接触させ、超音波をかけることにより、付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を除去することを特徴とする、金属の洗浄方法。
【請求項2】
酸水溶液が硝酸水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸水溶液が0.01重量%〜20重量%の硝酸水溶液である、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物が付着したステンレス製容器と、0.01重量%〜20重量%の硝酸水溶液とを接触させ、超音波をかけることにより、付着した金属ルテニウム、酸化ルテニウムまたは有機ルテニウム化合物を除去することを特徴とする、容器の洗浄方法。
【請求項5】
超音波を0.1〜480分間かける、請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2012−197484(P2012−197484A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62375(P2011−62375)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】