説明

ルテニウム含有固体から金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を単離する方法

【課題】金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を固体から移動させ、かつ先に移動させたルテニウム化合物を回収する、単純かつ有効な方法を提供することである。
【解決手段】ハロゲン化水素および一酸化炭素、好ましくは塩化水素および一酸化炭素を含有するガスストリームによって、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を固体から移動させて、揮発性ルテニウム化合物を生成する方法、並びに、好ましくは、例えば比較的低温の領域における、特に比較的低温の表面における冷却による析出によって、適切な溶液における吸収によって、または適切な担体材料における吸着によって、先に移動させたルテニウム化合物を単離する方法である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2008年8月22日に提出された独国特許出願第102008039278.2号に対する利益を主張し、前記出願は、全ての有益な目的のために、その全体を参照することによって本願書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ハロゲン化水素および一酸化炭素、好ましくは塩化水素および一酸化炭素を含有するガスストリームによって、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を固体から移動させて、揮発性のルテニウム化合物を生成する方法、並びに、好ましくは、例えば比較的低温の領域、特に比較的低温の表面における冷却による析出によって、適切な溶液における吸収によって、または適切な担体材料における吸着によって、予め移動させたルテニウム化合物を単離する方法に関する。
【0003】
金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体の代表的な応用分野は、酸素による塩化水素の熱気相酸化によって塩素を製造するための触媒として使用することである:
【数1】

この反応は平衡反応である。平衡の位置は、温度が上昇するに従って、所望の最終生成物から遠ざかる方向にシフトする。従って、非常に高い活性を有し、低温における反応の進行を可能にする触媒を用いることが好都合である。
【0004】
塩化水素を酸化するための最初の触媒は、塩化銅または酸化銅を活性成分として含有し、早くも1868年にDeaconによって論じられた。しかしこれらは、低温(<400℃)において低い活性のみを有した。反応温度を上昇させることによってそれらの活性を増大させることが可能であったが、活性成分の揮発性によって速い失活が引き起こされることが不都合であった。
【0005】
この分野におけるおびただしい研究活動にも関わらず、1960年代まで著しい進歩を達成することができなかったので、発見者にちなんで名付けられたDeacon法は、クロロアルカリ電気分解によって目立たない地位に追い込まれた。1990年代までは、塩素製造の実質上全部を、塩化ナトリウム水溶液の電気分解によって行った(ウルマンの工業化学百科事典(Ullmann Encyclopedia of industrial chemistry)、第7公開、2006年)。しかし現在、塩素に対する世界規模の需要が、水酸化ナトリウムに対する需要よりも急速に増大しているので、Deacon法の魅力は残っている。なぜなら、このように、例えばアミンのホスゲン化における副生成物として大量に得られる塩化水素を、塩素を製造するために再使用することができるからである。
【0006】
触媒活性成分としてのルテニウム化合物の発見によって、塩化水素の酸化の分野における著しい進歩が達成された。それ以来、特に、適切な触媒担体の供給において、多大な進歩が達成された。特に有用な触媒担体は、二酸化チタン(その使用法は例えば欧州特許出願公開第743277号A1に記載されている)、および二酸化スズ(その使用法は例えば独国特許出願公開第102006024543号A1から公知である)である。
【0007】
触媒反応における、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体の用途の別の代表的分野は、一酸化炭素の(選択的)酸化および排気の浄化である。米国特許第7247592号B2には、一酸化炭素の選択的酸化のための、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する触媒が記載されている。排気処理の分野における二つの効果のための、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する触媒の使用が、米国特許第7318915号B2から公知である。ここで、記載された触媒は一酸化炭素および揮発性炭化水素を酸化し、その一方で窒素ガスが同時に減少する。
【0008】
金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体の用途の、別の代表的分野は、塩化ナトリウムおよび/または塩化水素を含む溶液を電気分解することによって塩素を製造するための電極である。電気分解による塩素の製造においては、寸法安定性のあるアノード(DSAs)を用いる(ウルマンの工業化学百科事典(2006年、Wiley−VCH−Verlag、Weinheim)第57〜62頁を参照のこと)。そのようなアノードは、ルテニウム含有コーティングで被覆されたチタンから成る。そのようなコーティングの別の代表的成分は、イリジウム、チタン、ジルコニウム、およびスズの酸化物である。
【0009】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体の別の用途は、電気分解による水素の製造である。電気分解による水素の製造は、ウルマンの工業化学百科事典(2006年、Wiley−VCH−Verlag、Weinheim)第62〜63頁に従って、水素過電圧を低下させるために、白金、ロジウム、ラネー(Raney)ニッケル等の他の金属だけでなく、ルテニウムをも用いて行う。そのようなカソードは、ルテニウム含有コーティングで被覆されたニッケルまたはステンレス鋼から成る。
【0010】
更に、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体に関する、多数の別の用途が公知である。
【0011】
固体からルテニウムを単離する種々の方法が、既に論じられてきた。
【0012】
特許第3733909号B2は、ルテニウム含有固体からルテニウムを単離するための温浸方法を開示しており、前記方法において、次亜塩素酸ナトリウムを添加することによってアルカリスラリーを酸化し、それによってルテニウムを選択的に浸出させる。その後、母液をアルコールによって還元し、その結果、水酸化ルテニウムの結晶が沈殿し、その後、後者は更なる精製工程に付される。
【0013】
国際公開第2008/062785号A1は、(i)還元ガスと接触させることによって、ルテニウム化合物を還元すること、(ii)非酸化性雰囲気において固体を250℃より低温に冷却すること、および(iii)固体を酸化溶液と混合してルテニウム化合物を溶液中に溶け込ませることによって、ルテニウム化合物を担持している固体からルテニウムを回収する3段階プロセスを開示している。
【0014】
独国特許出願公開第102005061954号A1は、鉱酸に難溶である担体材料上に酸化ルテニウムとしてルテニウムを含有する、使用済ルテニウム含有触媒から、(i)水素の流れにおける還元、(ii)還元された触媒を、酸素含有ガス存在下で塩酸によって処理して、塩化ルテニウム(III)を生成して溶液中に溶け込ませる処理、および(iii)適切である場合、更なる後処理によって、ルテニウムを回収する3段階プロセスを開示している。
【0015】
特開平03−013531号Aは、ルテニウムまたは酸化ルテニウムを含有する残余からルテニウムを回収する方法を開示している。これらは、高温において塩素ガスと反応して、塩化ルテニウムを生成する。その後、揮発性の塩化ルテニウムを、塩化バリウム溶液に通し、水溶性のBaRuCIとして捕集する。
【0016】
特開昭58−194745号Aは、耐食性担体上に存在する酸化ルテニウムが、まず、金属ルテニウムに還元され、その後、可溶性のアルカリ金属ルテニウム酸塩に転化される、ルテニウム回収方法を開示している。
【0017】
欧州特許第767243号B1は、塩化水素ガスによりルテニウム化合物を移動させることによって、使用済触媒からルテニウムを回収する方法を記載している。移動した金属塩化物は、分留によって互いに分離される。
【0018】
Applied Catalysis(J.G.Goodwin.Jr.等、1986年)第24巻第199頁は、ルテニウム化合物を含有する固体を一酸化炭素で処理することによって、ルテニウムカルボニルを追い出すことが可能であることを開示している。
【0019】
産業において、ルテニウムの回収は、電極の後処理においてしばしば省略される。少なくとも被覆されていない金属担体を回収するために、電極表面における、混合酸化物を含有する薄層を、サンドブラスティングによって回収する。砂中のルテニウムの割合が非常に小さいことが、この場合におけるルテニウムの回収を非経済的にしている。
【0020】
米国特許第5141563号は、多段階プロセスにおける、使用後のチタン電極からのルテニウムの回収を開示しており、前記回収においては、第1段階において、300〜450℃の温度で、水酸化カリウムおよび窒化カリウムを含む塩浴中で、ルテニウム含有電極コーティングをチタン担体から取り除く。チタン担体から取り除いた電極コーティングを、例えば濾過によって、塩浴から分離する。その後、分離した電極コーティングを、ルテニウムを回収するための更なる工程において後処理する。
【0021】
独国特許未公開第102007020142.9号明細書は、(i)触媒材料の化学的温浸、(ii)粗ルテニウム塩溶液の調製、(iii)前記粗ルテニウム塩溶液の精製、および(iv)塩化ルテニウムを単離するための更なる処理工程によって、ルテニウム含有担持触媒材料からルテニウムを回収する4段階プロセスを記載している。
【0022】
扱いが容易な気相プロセスであって、前記気相プロセスによって、穏やかな温度で、複雑な前処理をすることなく、固体スラリーを処理することなく(特に、固体の機械的前処理をすることなく)、固体(特に鉱酸に不溶である固体)から金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を移動させることが可能であり、先に移動させたルテニウム化合物を、単純な方法で回収することが可能である気相プロセスが未だ開発されていないことは、明らかである。従って、本発明の目的は、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を固体から移動させ、かつ先に移動させたルテニウム化合物を回収する、単純かつ有効な方法を提供することである。
【発明の概要】
【0023】
本発明の一の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体から、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を回収する方法であって、前記ガスストリームによって行う少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物の生成を行うために、反応領域において高温で、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有するガスストリームで前記固体を処理すること、並びに前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を含むガスストリームをその後冷却することを含む、方法である。
【0024】
本発明の別の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体が、固体触媒または電極材料である、上述の方法である。
【0025】
本発明の別の態様は、前記ハロゲン化水素が塩化水素である、上述の方法である。
【0026】
本発明の別の態様は、前記高温が少なくとも250℃である、上述の方法である。
【0027】
本発明の別の態様は、前記冷却が、前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を、前記反応領域よりも低温である析出領域において析出させること、および/または前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を溶液に吸収させること、および/または前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を担体材料に吸着させることによって行われる、上述の方法である。
【0028】
本発明の別の態様は、前記析出領域が、より低温の析出表面である、上述の方法である。
【0029】
本発明の別の態様は、反応領域に入る前記ガスストリームにおける、ハロゲン化水素と一酸化炭素の前記混合物中のハロゲン化水素含有量が、0.1〜99.9体積%の範囲である、上述の方法である。
【0030】
本発明の別の態様は、反応領域に入る前記ガスストリームにおける、ハロゲン化水素と一酸化炭素の前記混合物中の一酸化炭素含有量が、0.1〜99.9体積%の範囲である、上述の方法である。
【0031】
本発明の別の態様は、反応領域に入る前記ガスストリームにおける、ハロゲン化水素と一酸化炭素の前記混合物中の、ハロゲン化水素と一酸化炭素との合計が、少なくとも0.2体積%である、上述の方法である。
【0032】
本発明の別の態様は、反応領域に入る前記ガスストリームが、10体積%より少ない酸素を含む、上述の方法である。
【0033】
本発明の別の態様は、反応領域に入る前記ガスストリームの表面速度が、10cm/sより遅い、上述の方法である。
【0034】
本発明の別の態様は、前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を含有するガスストリームを、250℃より低い温度に冷却して、固体ルテニウム化合物を単離する、上述の方法である。
【0035】
本発明の別の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体を、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有する前記ガスストリームで処理する前に、酸化段階において酸素含有ガスストリームで処理する方法であって、前記酸素含有ガスストリームの酸素含有量が少なくとも0.1体積%であり、前記酸化段階を700℃までの温度で行う、上述の方法である。
【0036】
本発明の別の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体を、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有する前記ガスストリームで処理する前に、ハロゲン化段階において、ハロゲン化水素を含有するガスストリームで処理する方法であって、ハロゲン化水素を含有する前記ガスストリームのハロゲン化水素含有量が、少なくとも0.1体積%であり、前記ハロゲン化段階を700℃までの温度で行う、上述の方法である。
【0037】
本発明の別の態様は、ハロゲン化水素を含有する前記ガスストリームにおけるハロゲン化水素が塩化水素である、上述の方法である。
【0038】
本発明の別の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体を、前記ハロゲン化段階において、ハロゲン化水素を含有する前記ガスストリームで処理する前に、酸化段階において酸素含有ガスストリームで処理し、前記酸素含有ガスストリームの酸素含有量が少なくとも0.1体積%であり、前記酸化段階を700℃までの温度で行う、上述の方法である。
【0039】
本発明の別の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体の、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有する前記ガスストリームによる処理を、1回以上繰り返す、上述の方法である。
【0040】
本発明の別の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体の、前記酸素含有ガスストリームによる処理を、1回以上繰り返す、上述の方法である。
【0041】
本発明の別の態様は、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体の、ハロゲン化水素を含有する前記ガスストリームによる処理を、1回以上繰り返す、上述の方法である。
【0042】
本発明の更に別の態様は、上述の方法で製造した、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する触媒または電極コーティングである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
驚くべきことに、ハロゲン化水素および一酸化炭素、好ましくは塩化水素および一酸化炭素を含有するガスストリームによる目標とする処理によって、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を固体から移動させることが可能であること、並びに、好ましくは比較的低温の領域における、特に比較的低温の表面における析出による冷却によって、適切な溶液における吸収によって、または適切な担体材料における吸着によって、先に移動させたルテニウム化合物を回収することが可能であることが見出された。
【0044】
以下の節において、文言「金属ルテニウムまたはルテニウム化合物の、固体からの移動」は、「ルテニウム化合物の移動」、「移動」、または類似の文言のような省略形によっても表現される。これらの表現は、本発明の目的のために、反応条件において気体である揮発性ルテニウム化合物の生成を示す。明確に除外されていない限り、用語「ルテニウム化合物」は、常に「金属ルテニウム」をも包含する。
【0045】
本発明は、反応領域において、高温で、好ましくは少なくとも250℃で、少なくともハロゲン化水素および一酸化炭素、好ましくは塩化水素および一酸化炭素を含有するガスストリームで固体を処理して揮発性ルテニウム化合物を生成することによって、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体、特に固体触媒または電極材料から、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を回収する方法であって、前記処理が、ガスストリームによって、および含有ガスストリームをその後冷却することによって、好ましくは反応領域よりも低温である析出領域(特により低温の析出表面)における析出によって、および/または溶液における吸収および/または担体材料における吸着によって行う、方法を提供する。
【0046】
従って、本発明の方法は、固体からのルテニウム化合物の移動および回収に用いることが可能である。
【0047】
本発明の新規の方法は、好ましい変形において、3段階で行われ、第3段階(移動段階)が本発明の方法であるが、第1段階(酸化段階)および第2段階(ハロゲン化段階)において前処理(これらは適宜省略可能である)を行う。
【0048】
好ましい方法の酸化段階において、酸素含有ガスストリームを、ルテニウム化合物を含有する固体に通し、前記ガスストリームの酸素含有量は、特に、少なくとも0.1体積%、好ましくは10〜50体積%であり、空気を用いることが特に好ましい。酸化段階は、700℃まで、好ましくは200℃〜500℃、特に好ましくは300℃〜400℃の温度で行う。酸化段階の継続時間は好ましくは5時間までである。酸化段階は、特に、金属ルテニウムおよび有機ルテニウム化合物を(部分的に)酸化ルテニウムまたはルテニウム混合酸化物へと転化するために機能する。この手順は例えばルテニウム化合物がルテニウム金属として存在する場合に、特に好都合である。
【0049】
好ましい方法のハロゲン化段階において、ハロゲン化水素、好ましくは塩化水素を含有するガスストリームを、ルテニウム化合物を含有する固体に通し、前記ガスストリームのハロゲン化水素含有量は少なくとも0.1体積%、好ましくは少なくとも1体積%、極めて特に好ましくは少なくとも10体積%である。好ましい態様において、前記ガスストリームは、10体積%より少ない、特に好ましくは1体積%より少ない酸素を含有し、前記ガスストリームは、極めて特に好ましくは酸素を含まない。ハロゲン化段階は、特に、700℃までの、好ましくは500℃までの、特に好ましくは100℃〜400℃の温度で行う。ハロゲン化段階の継続時間は好ましくは1時間まであり、特に好ましくは少なくとも5分より長い。ハロゲン化段階は、ルテニウム化合物、特に酸化ルテニウムおよびルテニウム混合酸化物を転化させて、部分的にハロゲン化ルテニウムまたはハロゲン化酸化ルテニウム、好ましくは塩化ルテニウムまたは塩化酸化ルテニウムにするために特に機能する。
【0050】
移動段階において、ハロゲン化水素および一酸化炭素、好ましくは塩化水素および一酸化炭素を含有するガスストリームを、ルテニウム化合物を含有する固体に通す。ここで、反応領域に入る前記ガスストリームのハロゲン化水素/CO混合物の、ハロゲン化水素含有量は、特に、0.1〜99.9体積%、好ましくは1〜99体積%、特に好ましくは10〜90体積%、極めて特に好ましくは30〜70体積%である。
【0051】
反応領域に入るガスストリームのハロゲン化水素/CO混合物の、一酸化炭素含有量は、特に、0.1〜99.9体積%、好ましくは1〜99体積%、特に好ましくは10〜90体積%、極めて特に好ましくは30〜70体積%である。
【0052】
ハロゲン化水素とCOの二つの成分の合計は、特に、反応領域に入るガスストリームの少なくとも0.2体積%、好ましくは少なくとも2体積%、特に好ましくは少なくとも20体積%、極めて特に好ましくは少なくとも60体積%である。
【0053】
反応領域に入るガスストリームにおける、一酸化炭素に対するハロゲン化水素の体積比は、好ましくは0.1〜10、特に好ましくは0.3〜3、極めて特に好ましくは0.5〜2である。
【0054】
好ましい態様において、反応領域に入るガスストリームは、10体積%より少ない、特に好ましくは1体積%より少ない酸素を含有し、前記ガスストリームは、極めて特に好ましくは酸素を含まない。
【0055】
本方法の別の好ましい態様において、反応領域に入るガスストリームの表面速度は10cm/sより遅く、特に好ましくは2cm/sより遅い。
【0056】
新規の方法の移動段階は、高温で、特に少なくとも250℃で、好ましくは250℃〜400℃で、特に好ましくは250℃〜380℃で、極めて特に好ましくは300℃〜350℃で行う。温度が低すぎる場合、即ち250℃より著しく低い場合、移動速度が遅く、必要とされる継続時間が不必要に長くなる。温度が高すぎる場合、即ち400℃より著しく高い場合、固体の他の成分(例えばチタン担体材料)、および反応領域を出るガスストリーム中のそれらの化合物の割合が非常に大きくなり得る。このことは通常望ましくない。他の成分の部分的排出が許容可能であるか、または望ましい場合、400℃より高い温度に上昇させることが好都合であることもある。これには、例えば、混合酸化物(例えばチタン−ルテニウム混合酸化物)を電極コーティング中に分散させることが必要であることもある。
【0057】
移動段階の継続時間は、好ましくは10時間までである。最適な継続時間は、特に、固体のルテニウム含有量、固体中の固定されたルテニウムの調製のアクセス可能性、温度、ガスストリームのハロゲン化水素含有量および一酸化炭素含有量、並びに所望する回収の程度に特に依存する。移動段階は、固体からルテニウム化合物を移動させるために特に機能する。
【0058】
三つの段階(酸化段階、ハロゲン化段階、移動段階)の全てにおけるガスストリームの別の成分は、独立して、特に不活性ガス、例えば窒素またはアルゴンであってよい。使用可能なガスは、多くの場合、技術的な理由により、(<1000ppmのオーダーの)不純物であって、これらの濃度で存在することが本発明の用途に不利な影響を有しない不純物、例えば塩素および水を含むことが、経験により示されてきた。
【0059】
ハロゲン化段階または移動段階における、その状態のハロゲン化水素は、記載された処理条件下で、ハロゲン化水素(即ち、特に、塩化水素、フッ化水素、臭化水素、もしくはヨウ化水素)を遊離する物質もしくは混合物によって、または記載された処理条件下でその物質もしくは混合物の水素およびハロゲン機能が、それ自体でハロゲン化水素と同程度の効果を達成する、物質もしくは混合物によって、置き換えることも可能である。ここで言及する例は、ホスゲンである。
【0060】
移動段階における、その状態の一酸化炭素は、記載された処理条件下で一酸化炭素を遊離する物質もしくは混合物によって、または記載された処理条件下で、物質もしくは混合物のカルボニル機能が、それ自体で一酸化炭素と同程度の効果を有する、物質もしくは混合物によって、置き換えることも可能である。ここで言及する例は、ホスゲンである。
【0061】
好ましい態様において、各々の段階(酸化段階、ハロゲン化段階、移動段階)は、複数回連続して行う。このことは、ルテニウム化合物を覆う炭素または炭素含有化合物の沈殿物を固体表面から取り除くために機能し得る。
【0062】
本発明の使用に好ましい固体は、多孔性固体であって、それらの(内部の)表面領域に固定されたルテニウム化合物を有する多孔性固体である。ここで言及する例は、ルテニウム化合物を含有する触媒である。本発明の用途に関して、ハロゲン化ルテニウム、特に塩化ルテニウム、ハロゲン化酸化ルテニウム、特に塩化酸化ルテニウムまたは酸化ルテニウムが、個別に又は混合状態で、(内部の)表面領域に析出している多孔性固体が特に好ましい。同様に、孔を有しない又はほとんど有しない固体であって、その(外部の)表面に、本発明の用途のためにルテニウム化合物が固定されている固体が好ましい。ここで言及する例は、例えば塩化ナトリウムまたは塩化水素の電気分解のための、ルテニウム含有電極である。
【0063】
特に好ましい用途は、担体が主にルチル構造を有する触媒からの、ルテニウム化合物の移動である。別の特に好ましい用途は、担体が二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム若しくは二酸化スズまたはそれらの組み合わせを含有する触媒からの、ルテニウム化合物の移動である。別の特に好ましい用途は、担持触媒または全活性触媒からの、ルテニウム化合物の移動であって、担体がSiO、SiC、Si、ゼオライト、水熱的に製造されたリン酸塩、粘土、柱状粘土、ケイ酸塩、またはそれらの混合物を含有することを特徴とする、移動である。
【0064】
好ましい態様において、多孔性固体を、0.1mm〜50mm、特に好ましくは0.5mm〜20mmの範囲で、ふるい分級物で用いる。これらの多孔性固体を、機械的前処理を行うことなく本発明の方法に付すことが特に好ましい。ここで例として、結果として元の状態で適宜使用可能な、多数の考え得る触媒成形体について言及してよい。これの優れた利点は、固体の粉塵の形成を防止し、圧力損失を非常に小さく保持することである。
【0065】
好ましい態様において、孔を有しない又はほとんど有しない固体を、機械的前処理をすることなく本発明の方法に付す。例として、塩化ナトリウムまたは塩化水素の電気分解のためのルテニウム含有電極であって、本発明の方法を行った後に再び被覆し、再使用する電極について言及してよい。
【0066】
特に好ましい態様において、ルテニウム含有触媒固体は同じ反応器内にとどまり、前記反応器において、目標とする触媒反応であって当該反応のために前記固体を用いる触媒反応を、新規の方法を行う間の時間、または新規の方法を行う間の時間の少なくとも一部において、行う。目標とする反応として、例として、酸素による塩化水素の気相酸化のためのルテニウム触媒に基づく方法について言及してよい。
【0067】
本発明の方法は、好ましくは、ディーコン(Deacon)法として知られている気相触媒酸化プロセスのための触媒を再生するために用いる。ディーコン法においては、発熱的平衡反応において、酸素によって塩化水素が塩素へと酸化され、水蒸気が生成する。反応温度は通常150〜500℃であり、通常の反応圧力は1〜25barである。反応が平衡反応であるので、触媒がまだ十分な活性を有する、可能な限り最も低温で操作することが好都合である。さらに、塩化水素と比較して化学量論を超える(superstoichiometric)量で、酸素を用いることが好都合である。例えば、通常は2〜4倍過剰の酸素である。選択性の低下を恐れなくてよいので、比較的高圧で操作すること、およびそれに従って大気圧における滞留時間よりも長い滞留時間で操作することが、経済的に好都合であり得る。
【0068】
塩化水素の触媒酸化は、断熱的に又は好ましくは等温的もしくはほぼ等温的に、回分式で、しかし好ましくは移動床または固定床プロセスとして連続的に、好ましくは固定床プロセスとして、特に好ましくはシェルアンドチューブ型反応器において、不均一触によって、180〜500℃、好ましくは200〜400℃、特に好ましくは220〜350℃の反応器温度、および1〜25bar(1000〜25000hPa)、好ましくは1.2〜20bar、特に好ましくは1.5〜17bar、特に2.0〜15barの圧力で行うことが可能である。
【0069】
塩化水素の触媒酸化を行う通常の反応装置は、固定床または流動床反応器である。塩化水素の触媒酸化は、好ましくは多段階で行うことも可能である。
【0070】
単一経路での塩化水素の転化は、15〜90%、好ましくは40〜90%、特に好ましくは50〜90%に好ましくは制限することが可能である。未反応の塩化水素を分離して、一部または全部を、塩化水素の触媒酸化へ再循環させることが可能である。
【0071】
操作の断熱状態またはほぼ断熱の状態において、追加の中間冷却器と共に直列に接続された複数の反応器、即ち2〜10、好ましくは2〜6、特に好ましくは2〜5、特に2又は3の反応器を用いることも可能である。塩化水素は、第1反応器の上流において酸素と一緒に導入することが可能であり、あるいは前記塩化水素の導入を種々の反応器に分配することが可能である。個々の反応器の直列のこの配置は、一つの装置内に組み合わせることも可能である。
【0072】
ディーコン法に適した装置の別の好ましい態様は、触媒活性が流れの方向に増加する構造化触媒床を用いることを含む。触媒床のそのような構造化は、触媒担体に活性配合物を様々に含浸させること、および触媒を不活性材料で様々に希釈することによって行うことが可能である。不活性材料として、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、またはそれらの混合物、酸化アルミニウム、ステアタイト、セラミックス、ガラス、グラファイト、またはステンレス鋼から成るリング、シリンダー、または球体を用いることが可能である。成形触媒体を好ましく使用する場合において、不活性材料は好ましくは類似した外部寸法を有するべきである。
【0073】
ディーコン法に適した及び好ましい触媒には、酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、または他のルテニウム化合物が含まれる。適切な担体材料は、例えば二酸化ケイ素、グラファイト、ルチル構造またはアナターゼ型構造を有する二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、またはそれらの組み合わせ、好ましくは二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、またはそれらの組み合わせ、特に好ましくはγ−若しくはδ−酸化アルミニウムまたはそれらの組み合わせである。適切な触媒は、例えば、塩化ルテニウム(III)を担体に塗布し、その後乾燥することによって又は乾燥及び焼結することによって得ることが可能である。適切な触媒には、ルテニウム化合物に加えて、他の貴金属(例えば金、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀、銅、またはルテニウム)の化合物も含まれてよい。適切な触媒には、酸化クロム(III)も含まれてよい。
【0074】
触媒にドープするための適切な促進剤は、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウム等、好ましくはリチウム、ナトリウム、およびカリウム、特に好ましくはカリウム)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウム等、好ましくはマグネシウムおよびカルシウム、特に好ましくはマグネシウム)、希土類(スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム等、好ましくはスカンジウム、イットリウム、ランタン、およびセリウム、特に好ましくはランタンおよびセリウム)、並びにそれらの組み合わせである。
【0075】
触媒の成形は、担体材料の含浸の後または好ましくは前に行うことが可能である。適切な成形触媒体は、任意の形状を有する成形体であり、形状として好ましくはペレット、リング、シリンダー、星形、車輪型(wagon wheel)、または球体であり、形状として特に好ましくはリング、シリンダー、または星形押出し成型品である。その後、成形体を乾燥させることが可能であり、適切である場合、100〜400℃、好ましくは100〜300℃の温度で、例えば窒素、アルゴン、または空気雰囲気下で焼結することが可能である。好ましくは、成形体は、まず100〜150℃で乾燥させ、その後200〜400℃で焼結する。
【0076】
移動したルテニウム化合物の回収の好ましい態様は、冷却による、特に比較的低温の領域における及び/又は比較的低温の表面における冷却による、ルテニウム化合物の析出である。ここで例として冷却フィンガー(Cooling fingers)に言及してよい。移動したルテニウム化合物の回収に関する別の好ましい態様は、適切な吸収溶液における吸収である。ここで、例として吸収水溶液に言及する。適切である場合、酸化剤または還元剤を吸収溶液に加えることが可能である。移動したルテニウム化合物の回収に関する好ましい別の態様は、特に、250℃未満の温度に低下する温度と組み合わせた、多孔性担体材料における吸着である。移動したルテニウム化合物の回収に関する別の好ましい態様には、上述の析出方法の組み合わせが含まれる。
【0077】
上述の全ての参考文献は、それらの全体を参照することによって、全ての有用な目的のために組み込まれる。
【0078】
本発明を体現するいくつかの具体的な構造を示し、記述しているが、本発明の概念の根底にある精神および範囲から逸脱することなく、本発明の一部を種々に変更および再配列してよいこと、およびそれらが本明細書に示され、記述された個々の形態を限定するものでないことは、当業者に明らかであろう。
【実施例】
【0079】
[例1:ルテニウム化合物を含有する固体の製造]
本発明の説明を可能にするために、SnOまたはTiOに担持されたルテニウム化合物含有成形体を、まず生成させた。
【0080】
[例1a]
200gのSnO成形体(球状、径:約1.9mm、15重量%Alバインダー、Saint−Gobain)を、塩化ルテニウムn水和物99.9gを33.96mlのHOに溶解させた溶液に含浸させ、その後、1時間混合した。その後、湿った固体をマッフル炉(空気)において60℃で4時間乾燥させ、その後250℃で16時間焼結した。
【0081】
[例1b]
200gのTiOペレット(円柱形、径:約2mm、長さ:2〜10mm、Saint−Gobain)を、塩化ルテニウムn水和物12gを40.8mlのHOに溶解させた溶液に含浸させ、その後、1時間混合した。このようにして得られた湿った成形体を、60℃で一晩乾燥させ、乾燥状態で、窒素で洗い流しながらNaOHおよび25%ヒドラジン水和物の水溶液中に導入し、1時間静置した。その後、過剰な水を蒸発させた。湿った成形体を、60℃で2時間乾燥させ、その後、4×300gの水で洗浄した。このようにして得られた湿った成形体を、マッフル炉(空気)において120℃で20分間乾燥させ、その後、300℃で3時間焼結した。
【0082】
[例2:ルテニウム化合物の移動における一酸化炭素、塩化水素、および酸素の影響]
例1aからの4×1gの成形体を、溶融石英反応管(径:10mm)内に設置し、330℃に加熱し、1l/hの塩化水素、4l/hの酸素、5l/hの窒素から成るガス混合物1(10l/h)を、各々の場合において16時間まで通し(調整段階)、異なるガス混合物を200℃(2a〜b)または330℃(2c〜e)で通して、揮発性ルテニウム化合物を生成させた(移動段階)。移動段階に関するパラメーターを第2a表に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
移動段階の後に、成形体の脱色、および反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を、ルテニウム化合物の揮発性の指標として評価した(第2b表)。
【0085】
【表2】

【0086】
この処理の後に、成形体を反応器から取り出し、乳鉢ですりつぶして、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第2c表)。
【0087】
【表3】

【0088】
ルテニウム化合物は、明らかに、この温度範囲において塩化水素によって、用いた成形体から移動させることができない(脱色がなく、沈殿物の生成がなく、ルテニウム損失がない(XRFによる))。ルテニウム化合物は、この温度範囲において、一酸化炭素によって僅かだけ移動させることが可能である(脱色がほとんどなく、沈殿物の生成がない)。しかし、二つのガスを組み合わせると、特に高温において、良好に又は非常に良好にルテニウム化合物を移動させることが可能である(強い〜非常に強い脱色、多量の〜非常に多量の沈殿物生成、ルテニウムの除去(XRFによる))。
【0089】
[例3:塩化水素および一酸化炭素によるルテニウム化合物の移動における調整の影響]
例1aからの、8×1gの成形体を、溶融石英反応管(径:10mm)内に設置し、330℃に加熱した。その後、バッチを、三つまでの異なる調整段階(1〜3)にかけた。その後の移動段階において、全てのバッチに対して同一の条件を設定した。調整段階および移動段階に関するパラメーターを第3a表に示す。
【0090】
【表4】

【0091】
移動段階の後に、ルテニウム化合物の揮発性の指標として、成形体の脱色および反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を評価した(第3b表)。
【0092】
【表5】

【0093】
この処理の後に、成形体を反応器から取り出し、乳鉢ですりつぶし、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第3c表)。
【0094】
【表6】

【0095】
揮発性ルテニウム化合物の生成に対して、ディーコン法の下で調整した後にルテニウム含有成形体を未処理の形態で用いるか、または酸化条件下で調整した後にルテニウム含有成形体を未処理の形態で用いるかは、重要でないことが明らかである(調整段階1〜2)。塩化水素をバッチに最初に通すか、または一酸化炭素を最初に通すかは、明らかに重要である(調整段階3)。塩化水素を最初にバッチに通す場合、その後ルテニウム化合物を非常にうまく移動させることができるが、他方、一酸化炭素を最初にバッチに通す場合、その後の移動段階は非常に僅かな成功しか示さない。おそらく、非酸化状態下の一酸化炭素は、触媒上に存在するルテニウム化合物を、再酸化しなければうまく移動させることのできない金属ルテニウムへと還元する。塩化水素の添加は、明らかにこのプロセスを抑制し、それは、固体表面に固定化されたルテニウム化合物の(部分的な)塩素化によって可能である。反応器から取り出された試料3fおよび3gのアルミニウム含有量およびルテニウム含有量の増加は、スズの除去に起因することがある。
【0096】
成功した二つの実験における、反応器の下流のより低温の領域において得られた沈殿物は、更に詳細に測定していない化合物において、実質的にほぼ全てがルテニウムから成る(沈殿物中に98重量%より多くの金属)。
【0097】
[例4:塩化水素および一酸化炭素によるルテニウム化合物の移動における温度の影響]
例1aからの6×1gの成形体、および2×1gの含浸していない成形体(SnOを基本とする)を、溶融石英反応管(径:10mm)内に設置した。全てのバッチ(4a〜h)に、1l/hの塩化水素、4l/hの酸素、および5l/hの窒素から成るガス混合物1(10l/h)を330℃で16時間通すことによって、全てのバッチを調整した。
【0098】
この調整の後に、4l/hの酸素および5l/hの窒素から成るガス混合物(酸化段階)、その後、1l/hの塩化水素および7l/hの窒素から成るガス混合物(ハロゲン化段階)、そしてその後、1l/hの塩化水素、2l/hの一酸化炭素、および7l/hの窒素から成るガス混合物5(移動段階)を全てのバッチに通した。これらの三つの段階を全部で3回行い、酸化段階の間に、窒素のみ(7l/h)をいくつかのバッチ(4e〜4h)に通した。個々の段階に関するパラメーターを第4a表に示す。
【0099】
【表7】

【0100】
移動段階の後に、成形体の脱色および反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を、ルテニウム化合物の揮発性の指標として評価した(第4b表)。
【0101】
【表8】

【0102】
この処理の後に、成形体を反応器から取り出し、乳鉢ですりつぶして、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第4c表)。
【0103】
【表9】

【0104】
成形体の残存ルテニウム含有量は、340℃までは温度の上昇と共に減少し、従って移動度は温度と相関する。反応器の下流のより低温の領域において沈殿する沈殿物は、更に詳細に測定していない化合物において、実質的にほぼ全てがルテニウムから成る(金属含有量の98重量%より多い)。移動温度が380℃まで上昇すると、明らかに、ルテニウム化合物の移動が減少して、主にスズ化合物が除去される。
【0105】
個々の移動段階の間での再酸化は、選択した時間間隔において移動度の向上をもたらさない。しかし、移動段階の間に観察される触媒上への炭素の析出が、移動度を著しく制限する場合、再酸化は好都合であり得る。
【0106】
[例5:塩化水素および一酸化炭素によるルテニウム化合物におけるCO/HCl比の影響]
例1aからの4×1gの成形体を、4個の溶融石英反応管(径:10mm)内に設置した。全てのバッチ(5a〜d)に、1l/hの塩化水素、4l/hの酸素、および5l/hの窒素から成るガス混合物1(10l/h)を、330℃で16時間通すことによって、全てのバッチを調整した。その後、まず、1l/hの塩化水素および9l/hの窒素から成るガス混合物2をバッチに15分間通し(ハロゲン化段階)、その後、第5a表に示すガス混合物をバッチに3時間通して揮発性ルテニウム化合物を生成させた(移動段階)。
【0107】
【表10】

【0108】
移動段階の後に、成形体の脱色および反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を、ルテニウム化合物の揮発性の指標として評価した(第5b表)。
【0109】
【表11】

【0110】
この処理の後に、成形体を反応器から取り出し、乳鉢ですりつぶして、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第5c表)。
【0111】
【表12】

【0112】
プロセスガスにおける、一酸化炭素に対する塩化水素の中程度の体積比は、非常に高い体積比または非常に低い体積比よりも著しく高い移動度を明らかにもたらす。反応器の下流のより低温の領域において沈殿する沈殿物は、更に詳細に測定していない化合物において、実質的にほぼ全てがルテニウムから成る(金属含有量全体の95%より多い)。
【0113】
[例6:塩化水素および一酸化炭素によるルテニウム化合物の移動における、活性成分(CO+HCl)の比の影響]
例1aからの8×1gの成形体を、4個の溶融石英反応管(径:10mm)内に設置した。全ての試料(6a〜h)に、1l/hの塩化水素、4l/hの酸素、および5l/hの窒素から成るガス混合物1(10l/h)を、330℃で16時間通すことによって、全ての試料を調整した。その後、まず、1l/hの塩化水素および9l/hの窒素から成るガス混合物2を、バッチに15分間通し(ハロゲン化段階)、その後、第6a表に示すガス混合物をバッチに2時間通して、揮発性ルテニウム化合物を生成させた(移動段階)。
【0114】
【表13】

【0115】
移動段階の後に、成形体の脱色および反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を、ルテニウム化合物の揮発性の指標として評価した(第6b表)。
【0116】
【表14】

【0117】
この処理の後に、成形体を反応器から取り出し、乳鉢ですりつぶして、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第6c表)。
【0118】
【表15】

【0119】
移動度は、活性成分である塩化水素および一酸化炭素の分圧の増加と共に、明らかに増加する。反応器の下流のより低温の領域において沈殿する沈殿物は、更に詳細に測定していない化合物において、実質的にほぼ全てがルテニウムから成る(金属含有量全体の98%より多い)。
【0120】
[例7:塩化水素および一酸化炭素によるルテニウム化合物の移動における接触時間の影響]
例1aからの、4×1gの成形体を、4個の溶融石英反応管(径:10mm)内に設置した。全てのバッチ(7a〜d)を330℃に加熱し、それらに1l/hの塩化水素、4l/hの酸素、および5l/hの窒素から成るガス混合物1(10l/h)を16時間通すことによって調整した。その後、まず、10体積%の塩化水素および90体積%の窒素から成るガス混合物2をバッチに15分間通し(ハロゲン化段階)、その後、HCl/COガス混合物をバッチに2時間通して揮発性ルテニウム化合物を生成させた(移動段階)。個々のバッチを通った体積流を第7a表に示す。
【0121】
【表16】

【0122】
移動段階の後に、成形体の脱色および反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を、ルテニウム化合物の揮発性の指標として評価した(第7b表)。
【0123】
【表17】

【0124】
この処理の後に、成形体を反応器から取り出し、乳鉢ですりつぶして、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第7c表)。
【0125】
【表18】

【0126】
ルテニウム化合物の移動度において、総流量は明らかに、重要でない役割しか果たしていない。気相への物質移動は、明らかに、広範囲の表面速度にわたって制限されていない。反応器の下流のより低温の領域において沈殿する沈殿物は、更に詳細に測定していない化合物において、実質的にほぼ全てがルテニウムから成る(金属含有量全体の98%より多い)。
【0127】
[例8:塩化水素および一酸化炭素によるルテニウム化合物の移動における、担体成分の影響]
例1bからの、1gの成形体を、溶融石英反応管(径:10mm)内に設置した。バッチ(8a)を330℃に加熱した。その後、0.75l/hの塩化水素および9.25l/hの窒素から成るガス混合物1(10l/h)をまず、15分間このバッチに通した(ハロゲン化段階)。このハロゲン化段階の後に、0.75l/hの塩化水素、0.75l/hの一酸化炭素、および8.5体積%の窒素から成るガス混合物2をバッチに1.5時間通し、その後、0.75l/hの塩化水素、0.75l/hの一酸化炭素、および1.5体積%の窒素から成るガス混合物3をバッチに更に1.5時間通して、揮発性ルテニウム化合物を生成させた(移動段階)。
【0128】
移動段階の後に、成形体の脱色および反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を、ルテニウム化合物の揮発性の指標として評価した(第8a表)。
【0129】
【表19】

【0130】
この処理の後に、成形体を反応器から取り出し、乳鉢ですりつぶして、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第8b表)。
【0131】
【表20】

【0132】
主に二酸化チタンから成る固体からルテニウム化合物を取り除くこともまた、明らかに可能である。
【0133】
[例9:塩化水素および一酸化炭素による、チタン電極からのルテニウム化合物の移動]
30重量%のルテニウムおよび70重量%の酸化チタンから成る混合酸化物を、ディップコーティング法(ゾルーゲル法に基づくディップコーティング法であり、その後の500℃での焼結を伴う)によって、チタン電極(径:15mm、厚さ:2〜3mm)に塗布し、その結果、ルテニウムの具体的な充填量は33g/mであった。このようにして被覆された、これら5個のチタン電極を、溶融石英反応管(径:〜25mm)内に設置した。バッチ(9a)を330℃に加熱し、4l/hの酸素および6l/hの窒素から成るガス混合物1(10l/h)をこのバッチに2時間通した(ハロゲン化段階)。その後、まず、5l/hの塩化水素および5l/hの窒素から成るガス混合物2をバッチに15分通し(ハロゲン化段階)、その後、3l/hの塩化水素、3l/hの一酸化炭素、および4l/hの窒素から成るガス混合物3をバッチに3時間通して、揮発性ルテニウム化合物を生成させた(移動段階)。
【0134】
移動段階の後に、反応器の下流のより低温の領域における特有の沈殿物の形成を、ルテニウム化合物の移動の第1の指標として評価した(第9a表)。
【0135】
【表21】

【0136】
この処理の後に、チタン電極を反応器から取り出し、X線蛍光分析(XRF)によってルテニウム含有量を測定した。反応器の下流のより低温の領域における沈殿物を、塩酸(20重量%の濃度の塩化水素)によって洗浄した。この洗浄溶液の組成を、発光分光法(OES)によって測定した(第9表)。
【0137】
【表22】

【0138】
チタン電極表面からルテニウム化合物を取り除くこともまた、明らかに可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する固体から、金属ルテニウムまたはルテニウム化合物を回収する方法であって、前記ガスストリームによって行う少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物の生成を行うために、反応領域において高温で、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有するガスストリームで前記固体を処理すること、並びに前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を含むガスストリームをその後冷却することを含む、方法。
【請求項2】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体が、固体触媒または電極材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化水素が塩化水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高温が少なくとも250℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記冷却が、前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を、前記反応領域よりも低温である析出領域において析出させること、および/または前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を溶液に吸収させること、および/または前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を担体材料に吸着させることによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記析出領域が、より低温の析出表面である、請求項6に記載の方法。
【請求項7】
反応領域に入る前記ガスストリームにおける、ハロゲン化水素と一酸化炭素の前記混合物中のハロゲン化水素含有量が、0.1〜99.9体積%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
反応領域に入る前記ガスストリームにおける、ハロゲン化水素と一酸化炭素の前記混合物中の一酸化炭素含有量が、0.1〜99.9体積%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
反応領域に入る前記ガスストリームにおける、ハロゲン化水素と一酸化炭素の前記混合物中の、ハロゲン化水素と一酸化炭素との合計が、少なくとも0.2体積%である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
反応領域に入る前記ガスストリームが、10体積%より少ない酸素を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
反応領域に入る前記ガスストリームの表面速度が10cm/sより小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種類の揮発性ルテニウム化合物を含有するガスストリームを、250℃より低い温度に冷却して、固体ルテニウム化合物を単離する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体を、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有する前記ガスストリームで処理する前に、酸化段階において酸素含有ガスストリームで処理する方法であって、前記酸素含有ガスストリームの酸素含有量が少なくとも0.1体積%であり、前記酸化段階を700℃までの温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体を、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有する前記ガスストリームで処理する前に、ハロゲン化段階において、ハロゲン化水素を含有するガスストリームで処理する方法であって、ハロゲン化水素を含有する前記ガスストリームのハロゲン化水素含有量が、少なくとも0.1体積%であり、前記ハロゲン化段階を700℃までの温度で行う、請求項1に記載の方法である。
【請求項15】
前記ハロゲン化水素含有ガスストリーム中のハロゲン化水素が塩化水素である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体を、前記ハロゲン化段階において、ハロゲン化水素を含有する前記ガスストリームで処理する前に、酸化段階において、酸素含有ガスストリームで処理する方法であって、前記酸素含有ガスストリームの酸素含有量が少なくとも0.1体積%であり、前記酸化段階を700℃までの温度で行う、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体の、ハロゲン化水素と一酸化炭素の混合物を含有する前記ガスストリームによる処理を、1回以上繰り返す、請求項1に記載の方法である。
【請求項18】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体の、前記酸素含有ガスストリームによる処理を、1回以上繰り返す、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する前記固体の、ハロゲン化水素を含有する前記ガスストリームによる処理を、1回以上繰り返す、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法によって製造した、ルテニウムまたはルテニウム化合物を含有する、触媒または電極コーティング。

【公開番号】特開2010−47838(P2010−47838A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−192031(P2009−192031)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】