説明

ループアンテナ、およびRFIDタグ

【課題】従来のループアンテナにおいては、小型化を図った場合に、高い利得を得ることができないという課題があった。
【解決手段】RFIDタグ100用のループアンテナ1であって、誘電体基板2上に配置された蛇行形状部13、14を有する環状の線路10と、線路10に設けられた給電部11とを備え、環状の線路10は、ループアンテナ1に発生する定在波の腹となる位置近傍以外に、蛇行形状部13、14を有しているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID(Radio Frequency Identification)に用いられるループアンテナ等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、RFIDタグ用のアンテナとして、RFIDタグの基板の辺に沿って線路をループ状に配設したアンテナ、いわゆるループアンテナがあった。(例えば、特許文献1参照)。このようなループアンテナにおいては、線路全体の経路長を、RFIDタグの情報の読み書きに利用する電波の1波長に近づけることにより、半波長のダイポールアンテナを2つ並列に並べた構造と同様の構造として動作することとなる。その結果、ループ軸方向の指向性アンテナとして利用でき、半波長のダイポールアンテナよりも高い利得が得られる。
【特許文献1】特開2006−031473公報(第1頁、第1図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、近年、RFIDタグの小型化に伴い、ループアンテナも小型化が必要となってきている。
【0004】
例えば、UHF帯の周波数に対応したRFIDタグを用いたシステムが普及している米国においては、物流業界において、RFIDタグが、荷物のラベルとして利用されている。このようなラベルとしては、例えば、3×3インチ(約75mm×75mm)の小さなサイズのものがある。このような略正方形のラベルに利用できるRFIDタグの基板のサイズは、3×3インチ以下となり、この基板上に配設されるループアンテナの経路長は、UHF帯の電波の波長の約0.8波長となる。従って、小型化を図ると、ループアンテナの線路の経路長を、RFIDタグのUHF帯の電波の1波長に近づけることができず、電波の送受信の効率が落ち、高い利得が得られないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のループアンテナは、RFIDタグ用のループアンテナであって、1以上の蛇行形状部を有する環状の線路と、前記線路に設けられた給電部とを備え、前記環状の線路は、前記ループアンテナに発生する定在波の腹となる位置近傍以外に、前記蛇行形状部を有しているループアンテナである。
【0006】
かかる構成により、アンテナのサイズを大きくすることなく、アンテナ全体の経路長を長くして所定の波長に対応させた高利得なアンテナを得ることができ、また、蛇行形状部を、線路の腹となる位置近傍以外に設けるようにしたことにより、蛇行形状部を設けることによる利得への悪影響を抑えて、所定の波長に適応した、高利得なループアンテナを得ることができる。
【0007】
また、本発明のループアンテナは、前記ループアンテナにおいて、前記環状の線路は、前記ループアンテナに発生する定在波の節となる位置に、前記蛇行形状部の少なくとも1つを有しているループアンテナである。
【0008】
かかる構成により、蛇行形状部を線路の腹となる位置から十分に離して配置することとなり、蛇行形状部を設けることによる利得への悪影響をさらに抑えて、所定の波長に適応した、より高利得なループアンテナを得ることができる。
【0009】
また、本発明のループアンテナは、前記ループアンテナにおいて、RFIDタグ用のループアンテナであって、1以上の蛇行形状部を有する環状の線路と、前記線路に設けられた給電部とを備え、前記環状の線路は、当該環状の線路上の前記給電部が設けられている位置近傍と、前記給電部からの経路長が前記線路全体の経路長の半分となる位置近傍とを除いた位置に、前記蛇行形状部を有しているループアンテナである。
【0010】
かかる構成により、アンテナのサイズを大きくすることなく、アンテナ全体の経路長を長くして所定の波長に対応させた高利得なアンテナを得ることができ、また、蛇行形状部を、線路の腹となる位置近傍以外に設けることとなり、蛇行形状部を設けることによる利得への悪影響を抑えて、所定の波長に適応した、高利得なループアンテナを得ることができる。
【0011】
また、本発明のループアンテナは、前記ループアンテナにおいて、前記環状の線路は、前記環状の線路上の、前記給電部からの経路長が、前記線路の経路長の1/4となる位置に、前記蛇行形状部の少なくとも1つを有しているループアンテナである。
【0012】
かかる構成により、蛇行形状部を線路の腹となる位置から十分に離して配置することとなり、蛇行形状部を設けることによる利得への悪影響をさらに抑えて、所定の波長に適応した、より高利得なループアンテナを得ることができる。
【0013】
また、本発明のループアンテナは、前記ループアンテナにおいて、前記環状の線路は矩形形状であり、前記環状の線路は、前記給電部が配置されている辺および当該辺に対向する辺以外の辺に前記1以上の蛇行形状部を有しているループアンテナである。
【0014】
かかる構成により、蛇行形状部を線路の腹となる蛇行形状部を有していない辺に対する蛇行形状部の影響を抑えて、高利得なループアンテナを得ることができる。
【0015】
また、本発明のループアンテナは、前記ループアンテナにおいて、前記給電部に接続された整合回路をさらに備えたアンテナである。
【0016】
かかる構成により、高利得なループアンテナを得ることができる。
【0017】
また、本発明のループアンテナは、前記ループアンテナにおいて、前記ループアンテナと、前記給電部に接続された集積回路と、前記ループアンテナが配置された誘電体基板とを具備するRFIDタグである。
【0018】
かかる構成により、高利得なRFIDタグを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるループアンテナ等によれば、利得の高いループアンテナ等を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、ループアンテナ等の実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
【0021】
(実施の形態)
図1は本実施の形態にかかるRFIDタグの構成を示す平面図である。
【0022】
RFIDタグ100は、アンテナ1と、誘電体基板2と、集積回路3、ストラップ4とを具備する。アンテナ1は、線路10と、給電部11、整合回路12を備えている。また、線路10は、蛇行形状部13、14を有している。
【0023】
アンテナ1は、電波の送受信に利用される。アンテナ1は、具体的には、環状の形状を有しているいわゆるループアンテナである。アンテナ1の材料は、導体であればどのようなものであっても良い。通常は、アンテナ1としては、薄膜状の導体、例えば金属が用いられるが、厚さは問わない。ここでは、アンテナ1が、約15μmに圧延されたアルミニウムにより構成される場合を例に挙げて説明する。
【0024】
線路10は、1以上の蛇行形状部を有する環状の導体である。線路10は、例として、縦方向に伸びる辺、すなわち左右の辺上に2つの蛇行形状部13、14を有している。線路10は、ここでは例として、全体が、矩形形状である誘電体基板2の辺に沿った矩形形状の平面形状を有している。線路10の平面形状は問わないが、ループアンテナとして動作させるためには、正方形に近い形状であることが好ましい。ここでは、線路10のサイズは、横約68mm、縦約70mm、線幅は、蛇行形状部13、14が設けられている辺以外の辺は、約2〜4mm、蛇行形状部13、14が設けられている辺の、蛇行形状部13、14以外の部分の幅が、約1〜3mm、蛇行形状部13、14の蛇行している辺の幅が、約0.5mmから2mmであるが、線路10のサイズ等は、この値に限定されない。また、幅は均一な太さでなくてよい。線路10の折れ曲がっている部分は、図1に示すように角が丸められていてもよく、角が形成されていてもよく、その形状は問わない。なお、ここで述べる環状とは、必ずしも断点のない形状を指すものではない。例えば、線路10は環状ではあるが、後述する給電部11等において一部を切り欠いていても良い。線路10は、ここでは、一例として、約15μmに圧延されたアルミニウムにより構成されるが、厚さや材料等は問わない。線路10が有する蛇行形状部13、14については後述する。
【0025】
給電部11は、線路10に設けられている。給電部11は、導体により構成され、アンテナ1と他の素子等との間で、電流を入出力するための端子等として用いられる。ここでは、給電部11は、矩形形状の線路の1つの辺に設けられている。ここでは例として、矩形形状の線路10の1辺の中央に給電部11が設けられている。ただし、給電部11が、線路10のどの位置に配置されているようにしてもよい。この給電部11が、集積回路3と接続されることにより、アンテナ1と集積回路3との間で、電流の入出力が行われる。ここでは、給電部11の中心には、スリットが設けられており、このスリットを架橋するように、集積回路3等が接続される。ここでは、集積回路3が、ストラップ4を介して給電部11と接続されている。給電部11の形状は問わない。給電部11は、ここでは、一例として、約15μmに圧延されたアルミニウムにより構成されるが、厚さや材料等は問わない。
【0026】
整合回路12は、給電部11と接続され、アンテナ1と集積回路3とのインピーダンス整合をとるための回路である。ここでは、導体により構成されたいわゆるT字型整合回路を設けた場合を例としており、この整合回路12は、アンテナ1の他の部分と一体に形成されている。なお、T字型整合回路等の整合回路の構成については、公知技術であるので、ここでは説明を省略する。また、整合回路12は、インピーダンス整合をとる必要がない場合等には、省略してもよい。整合回路12は、ここでは、アンテナ1のサイズの小型化を図るために、線路10の内側に形成されている。
【0027】
蛇行形状部13、14は、線路10の、蛇行した形状を有する部分である。導体により構成され、給電部11と接続され、給電部11を中心として、給電部11の両側に伸びる、1対の蛇行した線状の部分である。蛇行形状部13、14は、環状の線路10の、ループアンテナ1に発生する定在波の腹となる位置近傍以外に形成される。腹とは、定在波の振幅の最も大きい部分である。すなわち、蛇行形状部13、14は、環状の線路10上の、給電部11が設けられている位置近傍と、給電部11からの経路長が線路10全体の経路長の半分となる位置近傍とを除いた位置に形成される。なお、この近傍とは、上記の各位置に少なくとも接しない位置を指す。蛇行形状部13、14の少なくとも一つ、好ましくは全部が、環状の線路10の、ループアンテナ1に発生する定在波の節となる位置に形成されることが好ましい。節とは、定在波の振幅の最も小さい部分である。すなわち、蛇行形状部13、14の少なくとも一つ、好ましくは全部が、環状の線路10上の、給電部11からの経路長が、線路10全体の経路長の1/4となる位置に形成されることが好ましい。ここでの、「節となる位置に」、「経路長の1/4となる位置に」とは、それぞれ、「節となる位置上に、その一部が位置するように、」、「経路長の1/4となる位置上に、その一部が位置するように」という意味である。また、ループアンテナ1が矩形形状を有する場合、蛇行形状部13、14は、給電部が形成されている辺、およびこれに対向する辺以外の辺に設けることが好ましい。ここでは、特に、蛇行形状部13、14が、それぞれ、線路10の左右の辺に、環状の線路10の、ループアンテナ1に発生する定在波の節となる位置に、蛇行形状部13、14の延びる方向の中心が位置するように配置されている。すなわち、蛇行形状部13、14が、それぞれ、線路10の左右の辺に、環状の線路10上の、給電部11からの経路長が、線路10全体の経路長の1/4となる位置に、蛇行形状部13、14の延びる方向の中心が位置するように配置されている。なお、ここでは、線路10が、蛇行形状部13、14を2つ有している場合について説明するが、蛇行形状部は一以上であればよく、例えば、蛇行形状部13、14よりも縦方向の長さ、すなわち蛇行形状部ののびる方向の長さが小さい蛇行形状部が、3以上も受けられていてもよい。ただし、蛇行形状部は、線路10の左右に対称に設けられていることが、好ましい。ここで述べる蛇行形状部13、14とは、いわゆるメアンダラインと呼ばれる構造も含む概念である。ここで述べる蛇行とは、左右に、交互に折れ曲がりながら伸びる状態を示す。蛇行形状部13、14の折れ曲がり開始の方向等は問わない。また、蛇行形状部13と蛇行形状部14とは、対象な形状であってもよいし、対象な形状でなくてもよい。蛇行形状部13、14の曲がっている部分は、角が丸まっていても良いし、角を有していても良く、その形状等は問わない。また、蛇行形状部13、14は、線状の導体が蛇行することによって構成される、蛇行形状部13、14ののびる方向に配列された複数の辺を備えている。また、蛇行形状部13、14における線路10の太さは問わず、また、太さは均一でなくても良い。ここでは、一例として、蛇行形状部13、14は、左右対称の形状を有しており、蛇行形状部13、14の上記の各辺は、線路10の左右の辺に対して、垂直な方向に伸びており、上記の各辺間の距離(以下、蛇行間隔と称す)Pは約3mm、蛇行形状部13、14において、線路10が蛇行することにより形成される複数の凹部20の、それぞれの横方向の長さ(以下、蛇行幅と称す)Wは、約12〜17mmであるとする。また、蛇行形状部13、14の折り返し回数、すなわち折り返しにより形成される折れ曲がり部分の数は、ここではそれぞれ11であるが、折り返し回数は問わない。この折り返し回数は、蛇行間隔や蛇行幅、蛇行形状部13、14における線路10の太さ、アンテナ1全体のサイズ等に応じて、線路10全体の経路長が、利用する電波の波長のほぼ1波長となるように、適宜設定される。蛇行形状部13、14は、線路10の左右の辺の蛇行形状部13、14を有さない部分から、線路10の内側に向かってのみ、突き出た形状を有している。これにより、アンテナ1のサイズを、蛇行形状部13、14を設けない場合の線路10のサイズと同じサイズに保って、アンテナ1のサイズの増大を防ぐことができる。
【0028】
誘電体基板2は、アンテナ1を配置して、固定するために用いられる。また、誘電体基板2は、集積回路3や、ストラップ4等を配置して、固定するためにも用いられる。例えば、ここでは、アンテナ1は接着剤等を用いて誘電体基板2の表面に貼り合わされている。また、ストラップ4は、ストラップ4の表面に配置された配線が、アンテナ1の給電部11に接続されるように、給電部11が配置される位置において誘電体基板2と圧着されている。誘電体基板2は、PET(PolyEthylene Terephthalate)や、エポキシ樹脂等の誘電体材料により構成される。誘電体基板2の厚さは問わない。ただし、誘電体基板2は、ICカードや荷物用のラベル等に利用されるというRFIDタグ100の用途等から考えると、厚さが薄く、また、柔軟性等を有するものであることが好ましい。ここでは、このような誘電体基板2の例として、透明な厚さ38μmのPETフィルムを用いている。通常は、誘電体基板2のサイズがRFIDタグのサイズとなる。ここでは、誘電体基板2は、矩形形状、具体的には略正方形形状を有しているが、誘電体基板2の平面形状は問わない。ここでは、例として、誘電体基板2のサイズは、米国の物流業界において汎用的に利用されているラベルのサイズ以下、すなわち、3×3インチ以下のサイズであるとする。ただし、誘電体基板2のサイズは問わない。
【0029】
集積回路3は、給電部11に接続されている。集積回路3は、識別情報等の情報の送受信機の構成を備えており、アンテナ1を介して識別情報等の情報の送受信を行う。また、集積回路3は、アンテナ1から給電部11を介して給電される電流により動作する。集積回路3としては、通常のRFIDタグの集積回路として利用可能なものであれば、どのような集積回路を利用しても良く、ここでの詳細な説明は省略する。集積回路3の厚みは問わない。本実施の形態においては、集積回路3は、給電部11に形成された隙間において、ストラップ4表面と誘電体基板2表面との間に挟み込まれるため、この空間内に配置できるサイズであればよい。ここでは、誘電体基板2やストラップの誘電体基板42が柔軟性を有しているため、アンテナ1の厚さよりも厚い集積回路3、例えば厚さ約150〜180μmの集積回路3を配置することも可能である。
【0030】
ストラップ4は、集積回路3をアンテナ1の給電部11に接続するとともに、集積回路3を誘電体基板2に固定するために用いられる部材である。このストラップ4は、サイズ等が異なることを除けば、アンテナ1および誘電体基板2と同様の構成を有しており、ストラップ用の誘電体基板42の表面に、薄膜状の配線41が設けられ、集積回路3が、この配線41と接続されるよう、ストラップ4の表面上に接合されている。誘電体基板42のサイズは、例えば、厚さ約25μm、縦約4mm、横約9mmである。配線は、ここでは、例として厚さ約35μmで、縦約3mm、横8mmであり、アンテナ1と同様の方法により作成される。例えば、集積回路3は、半田や、導電性を有する接着剤等で配線41に接着される。この接合方法は問わない。ストラップ4は、配線41と、誘電体基板2表面の給電部11とが接続されるよう、アンテナ1や誘電体基板2と接合されている。ここでは、ストラップ4の表面が、誘電体基板2の表面と向かい合うように、誘電体基板2の表面に取り付けられている。これにより、集積回路3は、給電部11に形成された隙間において、ストラップ4と誘電体基板2との間に挟み込まれた状態となっている。ストラップ4は、例えば、米国特許第6664645号明細書に示されているように、表面上に配線41に接続された電極(図示せず)を有しており、表面側を、熱溶融性の接着剤を塗布した誘電体基板2の表面、すなわちアンテナ1等が設けられている面と向かい合うようにして配置した上で、超音波を与えながら圧着することで、電極と誘電体基板2裏面の給電部11とが接続されるよう、アンテナ1や誘電体基板2と接合される。これにより、給電部11と集積回路3とが接続される。ただし、ストラップ4の接合方法は問わない。なお、集積回路3は、給電部11と電気的に接続されていれば、どのように給電部11と接続されていても良い。例えば、集積回路3は、図1に示すようにストラップ4を介して給電部11と接続されている必要はなく、ストラップ4を省略して、給電部11が、集積回路3に直接接続されていてもよい。
【0031】
このRFIDタグ100のアンテナ1は、例えば、圧延したアルミニウムを誘電体基板2の裏面等に貼り合わせる等により、誘電体基板2の裏面にアルミニウム層を形成後、マスクを、アルミニウム上にグラビア印刷やフォトリソグラフィー印刷で形成後、これをエッチング用のマスクとして酸やアルカリでエッチングすることで形成される。ただし、アンテナ1の形成方法は問わない。例えば、金属インク等を用いて、誘電体基板2上にアンテナ1の形状を印刷することにより、アンテナを形成するようにしても良い。なお、アンテナ1を形成する方法については、公知技術であるので、ここでは説明を省略する。
【0032】
次に、RFIDタグ100の動作について簡単に説明する。図示しないRFIDリーダライタから放射された搬送波が、アンテナ1に到達すると、この搬送波からアンテナにより得られた電力が、ストラップ4を介して、集積回路3に供給される。そして、集積回路3は、この供給された電力により、搬送波に含まれる信号に応じた動作、例えばメモリから識別情報を読み出す等、を行う。そして、動作結果として得られた情報を、RFIDリーダライタから受け取った搬送波を波源として用いて、アンテナ1を介して送信する。
【0033】
背景技術として上述したように、RFIDタグ100内において、単に誘電体基板の辺に沿って線路状のループアンテナを配置した場合、配置可能なループアンテナの経路長は誘電体基板のサイズによって限定されることとなる。このため、誘電体基板のサイズを小さくすると、所望の波長帯の電波に対応した経路長、具体的には電波の1波長に相当する経路長、を確保できず、所望の波長帯の電波をアンテナが効率よく放射、あるいは吸収できない。すなわち、利得を高くすることができなくなる。特に、3×3インチのRFIDタグをUHF帯に利用する場合、ループアンテナの経路長は、UHF帯の電波の波長の約0.8波長程度しか確保できないため、高い利得を得ることができない。
【0034】
このため、本実施の形態においては線路10上に、蛇行形状部13、14を設けるようにしている。蛇行形状部13、14においては、蛇行形状部13、14の伸びる方向の長さよりも電流の流れる経路長を長くすることができる。このため、このような蛇行形状部13、14を設けることにより、誘電体基板2上に配置する線路10全体の経路長を、単に誘電体基板の辺に沿って線路状のループアンテナを配置するよりも長くして、所望の波長帯、例えばUHF帯の電波に対応した経路長を確保することが可能となり、高利得化を図ることが可能となる。
【0035】
図2は、アンテナ1の経路長と定在波との関係を説明するための模式図である。図において、図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。ここでは、線路10に蛇行形状部13、14が設けられて、アンテナ1の経路長が、アンテナ1が受信する電波の1波長であるλと同じとなるよう調整されているものとする。位置Aは、給電部11が配置されている位置、位置Dは、線路10全体の経路の1/2である位置、位置G、Hは、線路10全体の経路の1/4である位置、位置B、C、E、およびFは、矩形形状の線路10の各角隅部の位置、位置G、Gは、蛇行形状部13の両端の位置、位置H、Hは、蛇行形状部14の両端の位置を、それぞれ示している。図2において、FB間およびCE間の経路長をx、BC間およびEF間の経路長をyとすると、線路10全体の経路長は、2x+2y=λとなり、x+y=λ/2となる。なお、ここでは、蛇行形状部13、14の経路長は同じであるとし、G、Hは、蛇行形状部13、14のそれぞれの経路長の中心であるとする。また、位置Aが、位置Bと位置Fとの中間に位置するとした場合、CD間の経路長は、λ−x/2−y=x/2となり、位置Dは、位置Cと位置Eとの中間に位置することとなる。なお、ここではFB間とは、位置Aを通過する位置Fと位置Bとの間の経路を指すものとする。
【0036】
図3は、アンテナ1の、経路長と定在波との関係を示す模式図である。図において、縦軸は、アンテナ1において発生する定在波の振幅を示し、横軸は、図2に示したアンテナ1の各位置を示しており、図4における各位置間の距離が、図2に示す各位置間の経路長に相当するものとする。なお、ここでは便宜上、図3の横軸の各位置間の経路長の比は、実際のアンテナ1の各位置間の経路長の比を正確に反映していない。
図3に示すように、アンテナ1の経路長が、アンテナ1が受信する電波の1波長λとほぼ同じである場合、給電部11の部分と、給電部11からの経路長が、全経路長の半分であるλ/2となる部分とが、定在波の腹の部分となる。定在波においては、腹の部分の電流が最も大きいことから、この部分近傍がアンテナとして最大効率で働くこととなる。
【0037】
一方、蛇行形状部13、14においては、線路10が蛇行しているため、折れ曲がって隣接する線路の辺同士の間で逆向きの電流が流れることにより静電的な結合等が生じ、電流のロスが生じることとなる。このような電流のロスの大きい蛇行形状部13、14を、電流の高い部分に持ってくると、電流のロスが大きいとともに、アンテナとして最大効率として働く部分の振幅が乱されることとなる結果、アンテナ1の利得が低下してしまう。
【0038】
このため、本実施の形態のアンテナ1においては、蛇行形状部13、14を、定在波の腹となる位置近傍以外の位置、すなわち線路10上の、給電部11が設けられている位置近傍と、給電部11からの経路長が線路10の経路長の半分となる位置近傍とを除いた位置に有しているようにしたことにより、アンテナ1の、最も電流が高く、アンテナとして最大効率として働く部分に与える蛇行形状部13、14の影響を抑えて、アンテナ1の利得を高く保つことができる。
【0039】
さらに、本実施の形態においては、アンテナ1における電流の最も小さい位置である定在波の節となる位置、すなわち、線路10上の、給電部11からの経路長が、線路10の経路長の1/4となる位置に、すなわち線路10の経路長の1/4となる位置を通過するように、蛇行形状部13、14を設けている。この結果、定在波の電力の最も小さい部分である節の近傍に蛇行形状部13、14が設けられることとなる。このような構造としたことにより、蛇行形状部13、14による電流のロスを小さくするとともに、アンテナとして効率よく働く部分、すなわち定在波の腹の近傍部分から離れた位置に蛇行形状部13、14を配置することによって、アンテナ1に対して蛇行形状部13、14が与える影響をより小さくして、アンテナ1の利得を高くすることができる。
【0040】
さらに、本実施の形態においては、アンテナ1における電流の最も小さい位置である定在波の節となる位置、すなわち、線路10上の、給電部11からの経路長が、線路10の経路長の1/4となる位置に、蛇行形状部13、14のそれぞれの経路長の中心G、Hが位置するように、蛇行形状部13、14を設けている。この結果、定在波の電力の最も小さい部分である節を中心として蛇行形状部13、14が設けられることとなり、蛇行形状部13、14による電流のロスを最も小さくするとともに、図3におけるAG間とDG間との距離が等しく、AH間とDH間との距離が等しくなるため、アンテナとして効率よく働く定在波の2つの腹が発生する位置である位置Aおよび位置Dのどちらからも最も離れた位置に蛇行形状部13、14を配置することによって、アンテナ1に対して蛇行形状部13、14が与える影響を最も小さくして、アンテナ1の利得をより高くすることができる。
【0041】
図4は、図2に示したアンテナ1の電流分布を示すための模式図である。図において斜線で示す部分が電流の分布であり、電流の分布を、線路10に沿って示したものであり、その振幅を線路10の辺に垂直な方向の高さとして表している。
【0042】
図4において、電流がアンテナ1を時計回りに流れていたとすると、CE間、FB間には、逆方向の電流が流れるが、FB間の電流の符号は負であるため、FB間の電流ベクトルは、CE間の電流ベクトルと等しくなる。
【0043】
一方、BC間と、EF間の電流は、それぞれの中央である位置G、Hにおいて電流の符号が反転し、さらに、BC間では電流が上向きに流れるのに対し、EF間では電流が下向きであるので、電流の流れる方向は、逆方向である。このため、これらの各辺の電流ベクトルは、上下は逆で、さらに、左右も逆となる。
【0044】
アンテナ1から放射される電界は主に振幅の大きな電流によって定まるため、このアンテナ1の放射電界は、横方向に伸びる平行なFB間の辺とCE間の辺からの放射によって定まり、同相給電の横方向に平行な2つのダイポールアンテナと同様の特性を示す。
【0045】
一方、縦方向に伸びる平行なBC間およびEF間の2つの辺の電流は、振幅も小さく、しかも互いに逆相であり、放射電界に与える影響も少ない。
【0046】
したがって、本実施の形態においては、特に、給電部11が設けられている辺に対して垂直な辺に蛇行形状部13を設けることにより、放射電界に影響が少ない位置に蛇行形状部13、14を設けることとなるため、蛇行形状部13、14によるアンテナ1の放射電界に対する影響を抑えることができ、高利得化を図ることができる。
【0047】
図5は、本実施の形態におけるアンテナ1の蛇行幅Wと、利得差との関係を示すシミュレーション結果を示す図である。ここで述べる利得差とは、蛇行幅Wを調整して最も高い利得が得られた場合のアンテナ1の絶対利得を0dBとした場合の、蛇行幅Wのアンテナ1の相対的な利得である。
【0048】
図5に示すように、アンテナ1の蛇行幅Wを変更すると、利得差が変化する。そして、この結果から、蛇行幅Wが、約12〜17mmである場合にアンテナ1の利得差が小さく、アンテナ1の放射効率が最も良いことがわかる。
【0049】
図6は、本実施の形態におけるアンテナ1の蛇行間隔Pと、利得差との関係を示すシミュレーション結果を示す図である。
【0050】
図6に示すように、アンテナ1の蛇行間隔Pを変更すると、利得差が変化する。そして、この結果から、蛇行間隔Pが、約3mmである場合にアンテナ1の利得差が小さく、アンテナ1の放射効率が最も良いことがわかる。
【0051】
この結果から、蛇行幅Wが、約12〜17mmで、蛇行間隔Pが、約3mmである蛇行形状部13、14を設けることが、利得の高い、放射効率に優れたループアンテナを得る上で好適であることがわかる。
【0052】
以上、本実施の形態によれば、線路10に蛇行形状部13、14を設けるようにしたことにより、アンテナ1のサイズを大きくすることなく、アンテナ1全体の経路長を長くして所定の波長に対応させた高利得なアンテナを得ることができる。また、蛇行形状部13、14を、線路10の腹となる位置近傍以外、特に、節となる位置に設けるようにしたことにより、蛇行形状部を設けることによる利得への悪影響を抑えて、所定の波長に適応した、高利得なアンテナを得ることができる。
【0053】
なお、本実施の形態においては、2つの蛇行形状部13、14が節の部分に位置するようにしたが、複数の蛇行形状部の少なくとも一つが、節に位置するようにしてもよい。このような構成とすることで、複数の蛇行形状部が全て節に位置しない場合に比べて、アンテナに対して蛇行形状部が与える悪影響を小さくして、アンテナ1の利得を高くすることができる。
【0054】
なお、上記実施の形態1においては、給電部11を矩形の線路10の1辺の中央に配置した場合について説明したが、上記実施の形態1に係るRFIDタグにおいては、給電部11は、線路10のどの位置に配置するようにしてもよい。
【0055】
例えば、図7に示す変形例1のように、給電部11を線路10の角隅部に設けるようにしても良い。このような場合においても、図7に示すように、蛇行形状部13、14を、線路10の腹となる位置近傍以外、特に、節となる位置に設けるようにすること、すなわち、蛇行形状部13、14を、線路10上の、給電部11が設けられている位置近傍と、給電部11からの経路長が線路10の経路長の半分となる位置近傍とを除いた位置、特に、線路10の経路長の1/4となる位置に設けることにより、蛇行形状部を設けることによる利得への悪影響を抑えて、所定の波長に適応した、高利得なアンテナを得ることができる。
【0056】
また、本実施の形態においては、2つの蛇行形状部13、14を設けた場合について説明したが、本発明においては、蛇行形状部の全てが、定在波の腹の位置近傍に配置されないようにすれば、蛇行形状部は1以上であればよい。
【0057】
例えば、図8に示す変形例2のように、線路10に、蛇行形状部13、14を設ける代わりに、4つの蛇行形状部15〜18を、アンテナ1の縦方向に伸びる辺上に設けるようにしても良い。このような構成により、アンテナ1のサイズを大きくすることなく経路長を長くできるとともに、蛇行形状部を設けることによる利得への悪影響を抑えて、所定の波長に適応した、高利得なアンテナを得ることができる。
【0058】
また、本実施の形態においては、2つの蛇行形状部13、14のそれぞれの折り返し回数が11回である場合について説明したが、本発明においては、各蛇行形状部の折り返し回数や、線路10の全ての蛇行形状部の折り返し回数の合計数は問わない。
【0059】
例えば、図1に示したアンテナ1において、蛇行形状部13、14の代わりに、図9に示すような折り返し回数が5である蛇行形状部19、20を設けるようにしても良く、また、図10に示すように、折り返し回数が1である蛇行形状部21、22を設けるようにしても良い。このような場合においても、図1と同様の高利得なアンテナを得ることができる。ただし、このとき、アンテナ1が利用する電波の波長に応じて、蛇行形状部19〜22の蛇行間隔Pや蛇行幅W、蛇行形状部における線路10の太さ等は適宜調整するようにする。
【0060】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明にかかるループアンテナ等は、小型のRFIDタグ用のアンテナ等として適しており、特に、UHF帯のRFIDタグのアンテナ等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施の形態1に係るRFIDタグの構造を示す平面図
【図2】同模式図
【図3】同ループアンテナと、定在波との関係を示す模式図
【図4】同電流分布を示す図
【図5】同シミュレーション結果を示す図
【図6】同シミュレーション結果を示す図
【図7】同変形例を示す図
【図8】同変形例を示す図
【図9】同変形例を示す図
【図10】同変形例を示す図
【符号の説明】
【0063】
1 アンテナ
2 誘電体基板
3 集積回路
4 ストラップ
10 線路
11 給電部
12 整合回路
13〜22 蛇行形状部
20 凹部
41 配線
42 誘電体基板
100 タグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFIDタグ用のループアンテナであって、
1以上の蛇行形状部を有する環状の線路と、
前記線路に設けられた給電部とを備え、
前記環状の線路は、前記ループアンテナに発生する定在波の腹となる位置近傍以外に、前記蛇行形状部を有しているループアンテナ。
【請求項2】
前記環状の線路は、前記ループアンテナに発生する定在波の節となる位置に、前記蛇行形状部の少なくとも1つを有している請求項1記載のループアンテナ。
【請求項3】
RFIDタグ用のループアンテナであって、
1以上の蛇行形状部を有する環状の線路と、
前記線路に設けられた給電部とを備え、
前記環状の線路は、当該環状の線路上の前記給電部が設けられている位置近傍と、前記給電部からの経路長が前記線路全体の経路長の半分となる位置近傍とを除いた位置に、前記蛇行形状部を有しているループアンテナ。
【請求項4】
前記環状の線路は、前記環状の線路上の、前記給電部からの経路長が、前記線路の経路長の1/4となる位置に、前記蛇行形状部の少なくとも1つを有している請求項3記載のループアンテナ。
【請求項5】
前記環状の線路は矩形形状であり、
前記環状の線路は、前記給電部が配置されている辺および当該辺に対向する辺以外の辺に前記1以上の蛇行形状部を有している請求項1から請求項4いずれか記載のループアンテナ。
【請求項6】
前記給電部に接続された整合回路をさらに備えた請求項1から請求項5いずれか記載のアンテナ。
【請求項7】
前記請求項1から請求項6いずれか記載のループアンテナと、前記給電部に接続された集積回路と、前記ループアンテナが配置された誘電体基板とを具備するRFIDタグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−228326(P2007−228326A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47868(P2006−47868)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月14日 インターネットアドレス「http://www.omronrfid.jp/news/060214.html」に発表
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】