説明

レギュラーコーヒー香味感を保持したコーヒー飲料、その製造方法、及びその香味付与のための香料組成物

【課題】コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の流通、保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を提供すること。
【解決手段】コーヒー飲料の製造において、コーヒー抽出液に、(i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物、或いは、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物を添加することにより、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を製造する。
A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン;B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル;C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー飲料において、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の流通、保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料、該コーヒー飲料を製造する方法、及び、コーヒー飲料にレギュラーコーヒーの香味感を付与し、保持させるための香料組成物に関する。該コーヒー飲料は、抽出時の淹れたての香味感を失わない優れた香味の容器詰めコーヒー飲料等のコーヒー飲料を提供する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料は、コーヒー豆から抽出したそのままの状態の(一切の処理工程を経ない)コーヒー抽出液(以下「レギュラーコーヒー」という)を原料としながらも、抽出直後から始まる香気の散逸、酸化などによる香味劣化に晒され、また容器詰めされる場合には長期保存に耐えるための加熱殺菌処理や品質保持のための各種副原料などの使用により、レギュラーコーヒーとの香味差に大きな隔たりが生ずる。近年、製造手法の改良等が進み、コーヒー飲料とレギュラーコーヒーとの香味差は縮まりつつあるものの、依然としてその差は大きい。これらの原因が、上記の香味の劣化にあることは広く知られている。
【0003】
レギュラーコーヒーの香気は様々な要因で劣化する。特に容器詰めコーヒー飲料の製造においては、必須工程である殺菌による影響の大きいことが知られている。レギュラーコーヒーの香気として重要とされる香気成分(J. Agric. Food Chem., 44, 537-543, 1996)のうち、加熱殺菌で著しく減少するもの(日本食品科学工学会誌, 45(2), 108-113, 1998、J. Agric. Food Chem., 51, 2674-2678, 2003)には、フルフリルメルカプタン、3−メルカプト−3−メチルブチルホーメート、メチオナールなどがある。
【0004】
従来より、香味劣化に対して、加熱等により劣化する香気を香料(天然香料や合成香料)添加により補う試みがある。例えば、特開2003−204757号公報には、コーヒー抽出液の濃縮工程で得られる濃縮除去液を逆浸透膜で濃縮し、濃縮工程で損失する香気成分を回収して、濃縮液に混合する方法が、特開2007−20441号公報には、コーヒー抽出液から、2−フルフリルチオール、メチオナールのような含硫化合物からなる香気成分を回収し、該香気成分を加熱殺菌後の抽出液に混合する方法が開示されている。
【0005】
また、特開2005−137269号公報、特開2009−278957号公報、及び特開2009−296954号公報には、焙煎コーヒー豆、コーヒースラリー、或いは、アルカリ溶液処理したコーヒー原料を、水蒸気蒸留して得られた香気流出液をコーヒー抽出液に混合する方法が、特開2010−17126号公報には、コーヒーオイルをプロピレングリコール等で抽出した抽出液を、焙煎コーヒー豆抽出液に添加する方法が開示されている。しかしながら、コーヒーを原料として抽出、蒸留等により得られた天然香料を添加した場合には、香料由来の香気も、その後の殺菌や保存により、劣化したり、消失するため、必ずしも十分な効果が得られない。
【0006】
また、加熱殺菌で減少する香気成分を、天然物から抽出精製した或いは合成した香料を添加して補おうとする方法も提案されている。しかし、一般に、加熱殺菌で減少する香気成分を過量の合成香料を添加して補おうとすると加熱殺菌後にオフフレーバーを生じ却ってコーヒー本来の香味が損なわれる。
【0007】
例えば、特開2008−259472号公報には、(1)2−フルフリルメチルスルフィド、2−フルフリルメチルジスルフィド、メチル(5−メチル−2−フリル)スルフィドのようなフラン誘導体、(2)メチル(2−メチル−3−フリル)ジスルフィド、2−メチル−3−(メチルチオ)フラン、2,5−ジメチル−3−フリルメチルスルフィド、2,5−ジメチル−3−フリルメチルジスルフィドのようなフラン誘導体、及び(3)3−メルカプト−3−メチルブチルアセテート、4−メトキシ−2−メチル−2−ブタンチオールのようなチオール化合物をコーヒーの淹れたて感付与剤として用いて、コーヒー飲食物にコーヒーの淹れたて感を付与し、加熱殺菌や時間の経過によって該香気が失われることなく保持する方法が開示されている。この方法は、特定の含硫化合物の添加によりコーヒー飲料における淹れたて感を増強するものであるが、該香料組成物を添加したコーヒー飲料はロースト感が多少増強されるものの、コーヒー本来の香味には届かず、依然としてレギュラーコーヒーとの香味差は大きく満足できるものではない。
【0008】
また、コーヒー飲料の加熱殺菌時の香気成分の劣化そのものを抑えて、淹れたてのコーヒーの香りを維持しようとするアプローチも行なわれている。例えば、特開2004−73071号公報には、コーヒー抽出液をpH3.0〜5.5で加熱殺菌することにより、殺菌時の香気成分の劣化を抑制し、コーヒー特有の新鮮なロースト香を保持する方法が開示されている。この方法は、香気の劣化を抑えるべく酸性下で加熱殺菌するものであるが、コーヒー飲料の酸味が非常に強くなりコーヒー本来の香味が損なわれることによって、結果としてコーヒー飲料の香味向上が図れないという傾向がある。また、殺菌による香気劣化を抑えることができたとしても、レギュラーコーヒーの香気として重要とされる成分の一つであるフルフリルメルカプタンは、保存中にコーヒー溶液中の不揮発性物質やフェノール類と反応して急速に消失する(J. Agric. Food Chem., 50, 319-326, 2002、J.Agric.Food Chem., 55, 4095-4102, 2007、J.Agric.Food Chem., 53,4426-4433, 2005)ことがある。
【0009】
更に、特開2008−263902号公報には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸のような低級脂肪酸を含有する組成物をコーヒー飲料用香味料組成物として用いて、コーヒー香気を増強させたコーヒー飲料を提供する方法が開示されている。該方法は、軽やかで広がりのあるコーヒー香気を増強することを目的とするものであるが、特に、コーヒー飲料等の製造における加熱殺菌や、その後の保存に対して、コーヒー抽出時のコーヒーの香味を保持するというようなものではない。
【0010】
上記のように、コーヒー飲料等の製造において、その製造時の加熱殺菌処理や、その後の保存における香味の劣化に対して、香味の改善を行なう各種の方法が提案されているが、結局、長期保存を前提としているコーヒー飲料においては、レギュラーコーヒーの香気成分のうち加熱殺菌により著しく減少する成分を香料等で補う方法や、従前知られた加熱殺菌時の香気劣化を抑える方法では、レギュラーコーヒーの香りを製造後に再現し、その後も保持するという課題は、解決することはできない。
【0011】
一方、コーヒー飲料においては殺菌による香味劣化の一つとして、ぬめり感・塩味感などと称される、独特の異味が生じることが知られており、レギュラーコーヒーとの香味差の指標の一つともされている。この独特の異味が生じる現象に対し、イソ吉草酸エチルを添加してマスキングする方法(特開2010−75177公報)、pH調整剤として通常用いられる炭酸水素ナトリウムの代わりにリン酸オリゴ糖を用いる方法(特開2007−68428号公報)、水酸化ナトリウムを用いる方法(特開2009−268397号公報)などが開示されている。しかし、いずれの方法においても効果は十分でなく独特の異味が解消されるには至っていない。
【0012】
以上のとおり、コーヒー飲料等の製造において、飲料等の製造におけるコーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の流通・保存に対して、コーヒー飲料の香味を抽出直後のレギュラーコーヒーのレベルに保持できる方法は見い出されていないのが現状である。したがって、かかる技術の開発が望まれるところであるが、かかる要望は、特に、50℃以上の加温状態で販売されている加温販売において顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−204757号公報。
【特許文献2】特開2004−73071号公報。
【特許文献3】特開2005−137269号公報。
【特許文献4】特開2007−20441号公報。
【特許文献5】特開2007−68428号公報。
【特許文献6】特開2008−259472号公報。
【特許文献7】特開2008−263902号公報。
【特許文献8】特開2009−268397号公報。
【特許文献9】特開2009−278957号公報。
【特許文献10】特開2009−296954号公報。
【特許文献11】特開2010−17126号公報。
【特許文献12】特開2010−75177号公報。
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem., 44, 537-543, 1996.
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌,45(2), 108-113, 1998.
【非特許文献3】J. Agric. Food Chem., 51, 2674-2678, 2003.
【非特許文献4】J. Agric. Food Chem.,50, 319-326, 2002.
【非特許文献5】J.Agric.Food Chem.,55, 4095-4102, 2007.
【非特許文献6】J.Agric.Food Chem.,53, 4426-4433, 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、コーヒー飲料において、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の流通・保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料、及び、該コーヒー飲料の製造方法、更には、コーヒー飲料にレギュラーコーヒーの香味感を付与及び保持させるための香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
コーヒー抽出液から調製されるコーヒー飲料は、コーヒー豆から抽出したそのままの状態のコーヒー抽出液(レギュラーコーヒー)を原料としながらも、抽出直後から始まる香気の散逸、酸化などによる香味劣化に晒され、また容器詰めされる場合には長期保存に耐えるための加熱殺菌処理や品質保持のための各種副原料などの使用により、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味が失われる。本発明者は、コーヒー飲料において、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の流通・保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味を保持したコーヒー飲料を製造すべく鋭意検討する中で、本発明者が探索した、特定の香味付与化合物をコーヒー抽出液に添加することにより、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を付与し、しかも、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理や、その後の流通・保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、コーヒー飲料の製造において、コーヒー抽出後の加熱殺菌工程又は加熱殺菌工程前の工程において、コーヒー抽出液に、(i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加するか、或いは、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加することにより、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を製造する方法からなる。
(1)A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、
(2)B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、
(3)C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン。
【0018】
本発明における香料化合物の探索において、レギュラーコーヒーの特徴的香気に寄与する化合物のうち熱に不安定なものとしてフルフリルメルカプタンに着目し、口中での揮散挙動パターンを官能評価した。次に、フルフリルメルカプタンと同様の揮散挙動(口中で急激に減少するが残存)を示し、かつ熱安定性のよい化合物を香料認可物質の中から選抜し、コーヒー抽出液に添加して殺菌済コーヒー飲料を製造したところ、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートに、製造後や高温保存後のコーヒー飲料にレギュラーコーヒー感を体感させる効果のあることが見い出された。
【0019】
同様にして、フルフリルメルカプタン以外のレギュラーコーヒーの特徴的香気に寄与する化合物の口中揮散挙動についても検討し、2,4-ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び、酢酸ベンジルにも製造後や高温保存後のコーヒー飲料にレギュラーコーヒー感を体感させる効果のあることが確認された。また、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルには、上記の効果に加えて、殺菌により生じる、ぬめり感・塩味感などと称される、独特の異味を低減する効果をも見い出された。更に、上記香料化合物に、2−ペンタンチオール及び/又は5−メチルキノキサリンを組合せて用いることにより、香味付与の効果が飛躍的に増大することを見い出した。このようにして得られた化合物群を適宜添加して製造された殺菌済コーヒー飲料は、香味が格別に改善されており、レギュラーコーヒーの香味に比べても遜色のないものであることが見い出された。
【0020】
本発明により製造されるコーヒー飲料は、容器詰めコーヒー飲料等として調製され、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理に対しても、そのコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を失わず、更に、容器詰めコーヒー飲料調製後の流通・保存に対しても、そのコーヒー抽出時の香味感を失わずに保持することができる。本発明において、「コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感」とは、(1)全体的には、トップ〜ミドル〜ラストそれぞれにしっかりした香味の起伏があり、口腔内から鼻腔に抜ける香りが持続する、(2)香味の性質としては、香ばしいロースト香と軽やかでフルーティーな甘みが圧倒的に多く感じられる、という感覚で特定することができる。本発明の容器詰めコーヒー飲料は、容器詰めコーヒー飲料の加温状態(50℃以上)での販売に対しても、そのコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持することができる。
【0021】
本発明のコーヒー飲料の製造において、レギュラーコーヒーの香味感を付与する化合物は、コーヒー抽出後の加熱殺菌工程又は加熱殺菌工程前の工程において、コーヒー抽出液に、上記A群、B群、及びC群からなるグループの化合物を適宜選択して添加される。該化合物は、A群、B群、及びC群からなるグループから複数選択して添加することもできる。かかる複数の化合物を選択する場合には、A群、B群、及びC群からなるグループから任意に2以上の化合物を選択することもできるし、A群又はB群のそれぞれの群内の2以上の化合物を選択し、或いは、該化合物にC群の化合物を組合せて添加するか、或いは、A群及びB群のそれぞれの群から1以上の化合物を選択し、或いは、該化合物にC群の化合物を組合せて添加することができる。
【0022】
本発明の香味感を付与する化合物をコーヒー抽出液に添加し、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を製造するに際して、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合には、コーヒー飲料中のメチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、又は、2−メチル−1,3−ジチオランの濃度は、それぞれ0.01〜10ppm、0.2〜200ppb又は0.1〜100ppbであるように調整される。
【0023】
また、本発明の香味感を付与する化合物をコーヒー抽出液に添加し、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を製造するに際して、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合には、コーヒー飲料中の酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルの濃度は、それぞれ5〜60ppm、0.5〜30ppm又は1〜1000ppbであるように調整される。
【0024】
更に、本発明の香味感を付与する化合物をコーヒー抽出液に添加し、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を製造するに際して、2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合には、コーヒー飲料中の2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリンの濃度は、それぞれ0.1〜10ppb又は0.01〜1ppmであるように調整される。
【0025】
本発明は、本発明のコーヒー飲料の製造方法により、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持した容器詰めコーヒー飲料を製造する方法を包含する。
【0026】
また、本発明は、(i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物、又は、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物を有効成分として含有した、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物を包含する。
(1)A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、
(2)B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、
(3)C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン。
【0027】
本発明の香料組成物において、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、又は2−メチル−1,3−ジチオランを有効成分とする場合には、該成分を香料組成物中にそれぞれ1ppm〜10重量%、0.02ppm〜2000ppm、又は0.01ppm〜1000ppm配合した香料組成物として調製することができる。
【0028】
また、本発明の香料組成物において、酢酸エチル、酢酸プロピル、又は酢酸ベンジルを有効成分とする場合には、該成分を香料組成物中にそれぞれ0.05〜60重量%、0.005〜30重量%、又は0.1ppm〜1重量%配合した香料組成物として調製することができる。
【0029】
更に、本発明の香料組成物において、2−ペンタンチオール、又は5−メチルキノキサリンを有効成分とする場合には、該成分を香料組成物中にそれぞれ0.01ppm〜100ppm、又は1ppm〜1重量%、配合した香料組成物として調製することができる。本発明の香料組成物は、レギュラーコーヒー様香味を付与することに適した飲食品に適用して、レギュラーコーヒーの香味感を付与することができる。
【0030】
本発明は、本発明のコーヒー飲料の製造方法によって製造された、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を包含する。すなわち、コーヒー飲料製造時の加熱殺菌処理に対して、更に、その後の流通・保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料としても提供される。該コーヒー飲料は、容器詰めコーヒー飲料としても調製され、該容器詰めコーヒー飲料は、50℃以上のような加温販売に供されるものであっても、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持することができる。
【0031】
すなわち具体的には本発明は、[1]コーヒー飲料の製造において、コーヒー抽出液に、(i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加するか、或いは、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加することを特徴とする、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法;
(1)A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、
(2)B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、
(3)C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン、
や、[2]A群及びB群からなるグループから選択される2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物の添加が、A群又はB群のそれぞれの群内の2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物の添加であることを特徴とする前記[1]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法や、[3]A群及びB群からなるグループから選択される2以上の化合物又は該化合物の含有物の添加が、A群及びB群の両方の群からそれぞれ1以上選択される化合物又は該化合物を含有する香料組成物の添加であることを特徴とする前記[1]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法からなる。
【0032】
また本発明は、[4]メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合において、コーヒー飲料中のメチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、又は、2−メチル−1,3−ジチオランの濃度が、それぞれ0.01〜10ppm、0.2〜200ppb又は0.1〜100ppbであるように調整されることを特徴とする前記[1]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法や、[5]酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合において、コーヒー飲料中の酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルの濃度が、それぞれ5〜60ppm、0.5〜30ppm又は1〜1000ppbであるように調整されることを特徴とする前記[1]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法や、[6]2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合において、コーヒー飲料中の2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリンの濃度が、それぞれ0.1〜10ppb又は0.01〜1ppmであるように調整されることを特徴とする前記[1]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法や、[7]コーヒー飲料の製造が、容器詰めコーヒー飲料製造におけるコーヒー飲料の製造であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれか記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法からなる。
【0033】
さらに、本発明は、[8](i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物、又は、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物を香料成分として含有することを特徴とする、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物;
(1)A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、
(2)B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、
(3)C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン、
や、[9]メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、又は2−メチル−1,3−ジチオランを有効成分として、香料組成物中にそれぞれ1ppm〜10重量%、0.02ppm〜2000ppm、又は0.01ppm〜1000ppm配合したことを特徴とする前記[8]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物や、[10]酢酸エチル、酢酸プロピル、又は酢酸ベンジルを有効成分として、香料組成物中にそれぞれ0.05〜60重量%、0.005〜30重量%、又は0.1ppm〜1重量%配合したことを特徴とする前記[8]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物からなる。
【0034】
また本発明は、[11]2−ペンタンチオール、又は5−メチルキノキサリンを有効成分として、香料組成物中にそれぞれ0.01ppm〜100ppm、又は1ppm〜1重量%、配合したことを特徴とする前記[8]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物や、[12]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のコーヒー飲料の製造方法によって製造された、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料や、[13]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のコーヒー飲料の製造方法によって製造された、コーヒー飲料製造時の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持した容器詰めコーヒー飲料や、[14]容器詰めコーヒー飲料が、加温販売に供されるものであることを特徴とする前記[13]記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持した容器詰めコーヒー飲料からなる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、コーヒー飲料において、コーヒー飲料の製造時におけるコーヒー抽出後の加熱殺菌処理、及びその後の流通・保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を提供する。本発明のコーヒー飲料は、容器詰めコーヒー飲料として、例えば50℃以上のような加温販売に供しても、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持する容器詰めコーヒー飲料を提供する。本発明はまた、コーヒー飲料にレギュラーコーヒーの香味感を付与する香料組成物を提供する。該香料組成物は、レギュラーコーヒー様香味を付与することに適した飲食品に適用して、レギュラーコーヒーの香味感に優れた飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は、コーヒー飲料の製造において、コーヒー抽出後の加熱殺菌工程又は加熱殺菌工程前の工程において、コーヒー抽出液に、(i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加するか、或いは、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加することにより、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を製造する方法からなる。
(1)A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、
(2)B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、
(3)C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン。
【0037】
[A群の化合物]
本発明の香料組成物の有効成分であるA群の化合物において、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2−メチル−1,3−ジチオランは、これまでコーヒーの香気分析からは見出されておらず、また、2,4−ジチアペンタンも、チーズ(Dumont et al.,Lait,56,595,1976)やトリュフ(Di Cesare et al.,Sci.Aliments,9,161,1989)の香気等からの検出報告はあるものの、これまでコーヒーの香気分析からは見い出されていなかった。したがって、A群のいずれの3つの化合物もコーヒー飲料に添加することで殺菌後もレギュラーコーヒー様の香味を付与できることは全く知られていなかった化合物である。
【0038】
[B群の化合物]
本発明の香料組成物の有効成分であるB群の化合物において、酢酸エチルは、ぶどう、メロンなどのフルーツやラム酒などの酒類の香気中に多く存在する化合物で(日本香料協会編集,[食べ物]香りの百科事典,496-498,590-591,615-618,朝倉書店,2006)、一般にフルーツ系の香料に幅広く使用され、その香気特性は「エーテル、フルーツ香」とされている(印藤元一,<増補改訂版>合成香料 化学と商品知識,475,化学工業日報社,2005)。コーヒーの香気中にも極微量存在していることがわかっているが(J.Agric.Food Chem.,46,4011-4016,1998)、通常のコーヒー飲料中に存在している濃度よりもはるかに高濃度の酢酸エチルを添加したコーヒー飲料に殺菌後もレギュラーコーヒー様の香味を体感させうるという効果は全く知られていない。
【0039】
酢酸ベンジルはイランイラン精油やジャスミン精油などの香気から検出報告があるが(吉儀英記,香料入門,207-209,271-273,フレグランスジャーナル社,2002)、これまでコーヒーの香気分析からは見出されていない。酢酸ベンジルは一般的にフルーツ系の香料に幅広く使用され、その香気特性は「ジャスミン様の甘いフローラル香」とされている(印藤元一,<増補改訂版>合成香料 化学と商品知識, 514-515,化学工業日報社,2005)。
【0040】
酢酸ベンジルをコーヒーフレーバー組成物に配合することは知られている(特開2006−20526号公報)。すなわち、コーヒーフレーバー組成物に配合する成分として挙げられた、天然香料類、アルコール類、アルデヒド類及びアセタール類、ケトン類及びケタール類、フラン類、フェノール類、カルボン酸類、エステル類、ラクトン類、含窒素化合物類及び含硫化合物類等の多くの成分の1つとして酢酸ベンジルが挙げられている。しかし、該化合物のコーヒー飲料製造時の殺菌工程による香味劣化や製造後の高温保存時の香味劣化に対する作用等についてはまったく知られていない。また、コーヒーの香りを再現するための、香料起原物質から水蒸気蒸留によりリカバリーを回収する方法において、排気されるアロマガスを回収し香料組成物を製造する方法において、該組成物に酢酸エチルや酢酸ベンジルなどを添加する方法が知られている(特開2007−321017号公報)。しかし、酢酸エチルや酢酸ベンジルを添加する効果については、一切示されていない。
【0041】
酢酸プロピルは、洋ナシ、メロン、リンゴなどのフルーツやラム酒などの酒類の香気中に多く存在する化合物であるが(日本香料協会編集,[食べ物]香りの百科事典, 298-299, 590-591, 615-618, 626-628,朝倉書店,2006)、これまでコーヒーの香気分析からは見い出されていない。酢酸プロピルは一般にフルーツ系の香料に幅広く使用され、その香気特性は「新鮮で拡散性あるエーテル、フルーツ香」とされている(印藤元一,<増補改訂版>合成香料 化学と商品知識,475,化学工業日報社,2005)。酢酸プロピルをコーヒー飲料に添加することで、殺菌後もレギュラーコーヒー様の香味を体感させうるという効果は全く知られていない。
【0042】
[C群の化合物]
本発明の香料組成物の有効成分であるC群の化合物において、2−ペンタンチオールは極めて強い肉様の調理香、ガス様の硫黄臭を有する化合物で、グァバ(Idstein et al.,J.Agric.Food Chem.,33,138,1985)の香気等から検出報告があるほか、コーヒーの香気中にも極微量存在していることがわかっている(Ivon Flament, COFFEE FLAVOR CHEMISTRY,336-337,WILEY,2002)。また、5−メチルキノキサリンはヘーゼルナッツ様の香気を有する化合物で、コーヒーの香気中に極微量存在していることがわかっている(Stoll et al.,HELVETICA CHIMICA ACTA,50, 628,1967)。しかしながら、これらC群の化合物を、A群、B群の化合物に組み合わせて用いることによりレギュラーコーヒー様の香味付与の効果が飛躍的に増大することは知られていなかった。
【0043】
[香料化合物、香料組成物、コーヒー飲料]
本発明のコーヒー飲料の製造は、レギュラーコーヒーの香味感を付与する化合物を、コーヒー抽出後の加熱殺菌工程又は加熱殺菌工程前の工程において、コーヒー抽出液に、前記A群、B群、及びC群からなるグループの化合物を添加することによって行われる。かかる場合の香料化合物、及び、香料組成物或いはコーヒー飲料の調製は以下のとおりである。
【0044】
<A群>
(1)メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート:
メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートは、下記式(1)
【0045】
【化1】

【0046】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートは強いスパイシーな香気を有する化合物である。
【0047】
コーヒー飲料中の含量は任意であるが、0.01〜10ppm、好ましくは0.1〜10ppm、より好ましくは0.5〜5ppmの範囲で添加したコーヒー飲料は、レギュラーコーヒー様のロースト香(具体的には、飲用時に口腔内から鼻腔に抜けていく極めて良好な香ばしいロースト香)が付与できる。コーヒー飲料中における含有量が0.01ppm未満の場合にはレギュラーコーヒー様のロースト香は得られず、また、含有量が10ppmを超えるとメチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート自体の香味が強く感じられるようになりコーヒー本来の香味を損なってしまう。
【0048】
メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートを香料組成物に配合する場合、組成物中の配合量、およびコーヒー飲料中の組成物の添加量は任意であるが、たとえば、香料組成物としてコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができ、このときのメチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートの香料組成物中の含量は1ppm〜10重量%、好ましくは10ppm〜10重量%、より好ましくは50ppm〜5重量%とすることができる。
【0049】
(2)2,4−ジチアペンタン:
2,4−ジチアペンタンは、下記式(2)
【0050】
【化2】

【0051】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。2,4−ジチアペンタンは非常に強いガス様の硫黄臭を有する化合物で、多量では不快臭と感じる化合物である。
【0052】
コーヒー飲料中の含量は任意であるが、0.2〜200ppb、好ましくは1〜100ppb、より好ましくは5〜50ppbの範囲で添加したコーヒー飲料は、レギュラーコーヒー様のロースト香(具体的には、飲用時にミドル〜ラストにかけて厚みのある極めて良好なロースト香)が付与できる。コーヒー飲料中における含有量が0.2ppb未満の場合にはレギュラーコーヒー様のロースト香は得られず、また、含有量が200ppbを超えると不快臭が強くなりコーヒー本来の香味を損なってしまう。
【0053】
2,4−ジチアペンタンを香料組成物に配合する場合、組成物中の配合量、およびコーヒー飲料中の組成物の添加量は任意であるが、たとえば、香料組成物としてコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができる。このとき、2,4−ジチアペンタンの香料組成物中の含量は0.02ppm〜2000ppm、好ましくは0.1ppm〜1000ppm、より好ましくは0.5ppm〜500ppmとすることができる。
【0054】
(3)2−メチル−1,3−ジチオラン:
2−メチル−1,3−ジチオランは、下記式(3)
【0055】
【化3】

【0056】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。2−メチル−1,3−ジチオランは非常に強い焦げ様の香気を有する化合物で、多量では不快臭と感じる化合物である。
【0057】
コーヒー飲料中の含量は任意であるが、0.1〜100ppb、好ましくは0.5〜50ppb、より好ましくは2.5〜25ppbの範囲で添加したコーヒー飲料は、レギュラーコーヒー様のロースト香(具体的には、飲用時にトップからミドルにかけて拡散力のある極めて良好なロースト香)が付与できる。コーヒー飲料中における含有量が0.1ppb未満の場合にはレギュラーコーヒー様のロースト香は得られず、また、含有量が100ppbを超えると不快臭が強くなりコーヒー本来の香味を損なってしまう。
【0058】
2−メチル−1,3−ジチオランを香料組成物に配合する場合、配合量は任意であるが、たとえば、香料組成物としてコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができる。このとき、2−メチル−1,3−ジチオランの香料組成物中の含量は0.01ppm〜1000ppm、好ましくは0.05ppm〜500ppm、より好ましくは0.25ppm〜250ppmとすることができる。
【0059】
<B群>
酢酸エステル化合物とは、酢酸に任意のアルコールがエステル結合した化合物である。酢酸エステル化合物を添加したコーヒー飲料には、レギュラーコーヒー特有の甘さが付与され、また、殺菌により生じる、ぬめり感・塩味感などと称される、独特の異味を低減する効果が付与される。これら効果の発揮される化合物は、酢酸エステル化合物であり、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルが好ましい。
【0060】
(1)酢酸エチル:
酢酸エチルは、下記式(4)
【0061】
【化4】

【0062】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。酢酸エチルは、前述の通りコーヒーの香気中に極微量存在することがわかっているが、本願発明において、通常のコーヒー中に存在する濃度よりはるかに高い濃度を添加されたコーヒー飲料は良好なレギュラーコーヒー様の香味(具体的には、レギュラーコーヒー特有の軽やかな甘さ)を付与できることがわかった。
【0063】
コーヒー飲料への添加量は、コーヒー飲料中に存在する可能性のある濃度より高い濃度であればよいが、5〜60ppm、好ましくは5〜50ppm、より好ましくは10〜20ppmとすることができる。コーヒー飲料中における酢酸エチルの含有量が5ppm未満の場合には良好なレギュラーコーヒー様の香味は得られず、また、含有量が60ppmを超えると酢酸エチル自体の香味が目立ってしまいコーヒー本来の香味を損なってしまう。
【0064】
この効果は、A群の化合物、及び/又は上記C群の化合物や既存の香料と併用することでより一層顕著となる。酢酸エチルを香料組成物に配合する場合、組成物中の配合量、およびコーヒー飲料中の組成物の添加量は任意であるが、たとえば、香料組成物としてコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができ、このとき、酢酸エチルの香料組成物中の含有量は0.05〜60重量%、好ましくは0.05〜50重量%、より好ましくは0.1〜20重量%とすることができる。
【0065】
なお、コーヒー中の酢酸エチルの濃度は大変低く、検出限界以下であるか、検出されてもごく微量である。たとえば、J.Agric.Food Chem.,46,4011-4016,1998によれば、コーヒー抽出液からの液液抽出法では検出されていない。発明者らの分析では、コーヒー抽出液から液液抽出法により検出される場合もあったが検出されない場合もあった。検出された場合の概算値は0.02ppm程度であった。
【0066】
(2)酢酸プロピル:
酢酸プロピルは、下記式(5)
【0067】
【化5】

【0068】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。酢酸プロピルは、それ自体は軽いフルーティーな香気を有する化合物である。
【0069】
コーヒー飲料への添加量は任意であるが、0.5〜30ppm、好ましくは0.5〜20ppm、より好ましくは5〜20ppmとなるよう添加することにより、良好なレギュラーコーヒー様の香味(具体的には、レギュラーコーヒー特有の軽やかな甘さ)を付与できる。この効果は、A群の化合物、及び/又は上記C群の化合物や既存の香料と併用することでより一層顕著となる。コーヒー飲料中における酢酸プロピルの含有量が0.5ppm未満の場合には良好なレギュラーコーヒー様の香味は得られず、また、含有量が30ppmを超えると酢酸プロピル自体の香味が目立ってしまいコーヒー本来の香味を損なってしまう。
【0070】
酢酸プロピルを香料組成物に配合する場合、該香料組成物は一般にコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができ、この添加量において、酢酸プロピルは香料組成物の重量を基準にして一般に0.005〜30重量%、好ましくは0.005〜20重量%、より好ましくは0.05〜20重量%の範囲で配合するのが好適である。
【0071】
(3)酢酸ベンジル:
酢酸ベンジルは、下記式(6)
【0072】
【化6】

【0073】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。酢酸ベンジルは、それ自体は甘くフローラルな香気を有する化合物である。
【0074】
コーヒー飲料中の含有量は任意であるが、1〜1000ppb、好ましくは10〜500ppb、より好ましくは10〜200ppbとしたコーヒー飲料は、良好なレギュラーコーヒー様の香味(レギュラーコーヒー特有のフルーティーな甘さ)が付与される。コーヒー飲料中における酢酸ベンジルの含有量が1ppb未満の場合には良好なレギュラーコーヒー様の香味は得られず、また、含有量が1000ppbを超えると酢酸ベンジル自体の香味が目立ってしまいコーヒー本来の香味を損なってしまう。上記の効果は、A群及び/又はC群や既存の香料と併用することにより一層顕著となる。
【0075】
酢酸ベンジルを香料組成物に配合する場合、組成物中の配合量、およびコーヒー飲料中の組成物の添加量は任意であるが、たとえば、香料組成物としてコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができ、このとき、酢酸ベンジルの香料組成物の含有量は0.1ppm〜1重量%、好ましくは1ppm〜0.5重量%、より好ましくは1ppm〜0.2重量%とすることができる。
【0076】
<C群>
(1)2−ペンタンチオール:
2−ペンタンチオールは、下記式(7)
【0077】
【化7】

【0078】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。2−ペンタンチオールは極めて強い肉様の調理香、ガス様の硫黄臭を有する化合物で、香料として単独で添加されたコーヒー飲料はロースト感を増強できる可能性はあるが、この化合物のみを添加しただけではレギュラーコーヒー様の香味[(1)全体的には、トップ〜ミドル〜ラストそれぞれにしっかりした香味の起伏があり、口腔内から鼻腔に抜ける香りが持続する。(2)香味の性質としては、香ばしいロースト香と軽やかでフルーティーな甘みが圧倒的に多く感じられる。]を付与することは難しい。しかしながら、A群及び/又はB群の化合物と併用することにより、上述のレギュラーコーヒー様の香味が得られることがわかった。
【0079】
コーヒー飲料中の2−ペンタンチオールの含量は任意であるが、0.1〜10ppb、より好ましくは0.5〜5ppbの範囲で添加されたコーヒー飲料は、より一層良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与される。A群及びB群からなるグループの化合物と2−ペンタンチオールを併用したコーヒー飲料中における2−ペンタンチオールの含有量が0.1ppb未満の場合には良好なレギュラーコーヒー様の香味は得られず、また、含有量が10ppbを超えると不快臭が強くなりコーヒー本来の香味を損なってしまう。
【0080】
2−ペンタンチオールを上記A群及びB群からなるグループの化合物と併用してさらに香料組成物に配合する場合、配合量は任意であるが、たとえば、香料組成物としてコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができる。このとき、2−ペンタンチオールの香料組成物中の含有量は0.01ppm〜100ppm、より好ましくは0.05ppm〜50ppmとすることができる。
【0081】
(2)5−メチルキノキサリン:
5−メチルキノキサリンは、下記式(8)
【0082】
【化8】

【0083】
で示される化合物であり、天然物から抽出、蒸留等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。5−メチルキノキサリンはナッツ様の香気を有する化合物で、香料として単独でコーヒー飲料に添加するとナッツ感を多少増強することはできる可能性はあるが、この化合物のみを添加しただけではレギュラーコーヒー様の香味[(1)全体的には、トップ〜ミドル〜ラストそれぞれにしっかりした香味の起伏があり、口腔内から鼻腔に抜ける香りが持続する。(2)香味の性質としては、香ばしいロースト香と軽やかでフルーティーな甘みが圧倒的に多く感じられる。]を付与することは難しい。しかしながら、A群及び/又はB群の化合物と併用することにより、上述のレギュラーコーヒー様の香味が得られる。
【0084】
コーヒー飲料における5−メチルキノキサリンの含量は任意であるが、0.01〜1ppm、より好ましくは0.1〜0.5ppmとなるようA群及びB群からなるグループの化合物と併用して添加されたコーヒー飲料は、より一層良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与される。コーヒー飲料中における5−メチルキノキサリンの含有量が0.01ppm未満の場合には良好なレギュラーコーヒー様の香味は得られず、また、含有量が1ppmを超えると不快臭が強くなりコーヒー本来の香味を損なってしまう。
【0085】
5−メチルキノキサリンを上記A群及びB群からなるグループの化合物と併用して更に香料組成物に配合する場合、組成物中の配合量、及びコーヒー飲料中の組成物の添加量は任意であるが、たとえば、香料組成物としてコーヒー飲料に対して0.01〜1重量%の範囲内で添加することができる。このとき、5−メチルキノキサリンの香料組成物中の含有量は、1ppm〜1重量%、より好ましくは10ppm〜0.5重量%の範囲とすることができる。
【0086】
[A群香料化合物同士の組合わせ]
本発明において、香料化合物は、上記のとおり、A群の2以上の化合物を組み合わせて用いることができる。また、該香料化合物と、既存の香料とを併用することもできる。該化合物を併用する場合には、本発明のA群の香料化合物同士や、既存の香料を混合した香料組成物を調製してからその香料組成物を添加したコーヒー飲料とすることもできるが、本発明の香料化合物や、既存の香料とを別々に添加したコーヒー飲料とすることも可能である。
【0087】
(1)A群;2化合物の組合せ:
<(i)メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートと、2,4−ジチアペンタンの組合せ>
メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタンを共に用いた場合、単独で用いるよりも良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与できる。用いる化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、2,4−ジチアペンタン/メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートが、1/10000〜10/1、好ましくは1/1000〜1/10とすることができる。
【0088】
<(ii)メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2−メチル−1,3−ジチオランの組合せ>
メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2−メチル−1,3−ジチオランを共に用いた場合、単独で用いるよりも良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与できる。用いる化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、2−メチル−1,3−ジチオラン/メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートが、1/100000〜10/1、好ましくは1/10000〜1/10とすることができる。
【0089】
<(iii)A群;2,4−ジチアペンタンと、2−メチル−1,3−ジチオランの組合せ>
2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランを共に用いた場合、単独で用いるよりも良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与できる。用いる化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、2−メチル−1,3−ジチオラン/2,4−ジチアペンタンが1/1000〜100/1、好ましくは1/100〜10/1とすることができる。
【0090】
(2)A群;3化合物の組合せ:
<(i)メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン>
メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランを全て組み合わせて添加することにより、それぞれを単独で、または上述のようにA群3化合物中2化合物を共に用いた場合よりもさらに良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与できる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(2,4−ジチアペンタンと、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネートが、1/10000〜10/1、好ましくは1/1000〜1/10とすることができる。
【0091】
[B群香料化合物同士の組合わせ]
B群香料化合物は、単独で効果が認められるが、B群の2以上の化合物を組み合わせて用いることができる。また、既存の香料とともに用いてもよい。該化合物を併用する場合には、本発明のB群の香料化合物同士や、既存の香料を混合した香料組成物を調製してからその香料組成物を添加したコーヒー飲料とすることもできるが、本発明の香料化合物や、既存の香料とを別々に添加したコーヒー飲料とすることも可能である。
【0092】
(1)B群;2化合物の組合せ:
<(i)酢酸エチルと、酢酸プロピルの組合せ>
酢酸エチル、酢酸プロピルを共に用いた場合、単独で用いるよりも良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与でき、さらに、殺菌により生じる、ぬめり感・塩味感などの独特の異味をより低減する効果が付与される。用いる化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、酢酸プロピル/酢酸エチルが、1/100〜6/1、好ましくは1/40〜4/1とすることができる。
【0093】
<(ii)酢酸エチルと、酢酸ベンジルの組合せ>
酢酸エチル、酢酸ベンジルを共に用いた場合、単独で用いるよりも良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与でき、また、殺菌により生じる、ぬめり感・塩味感などの独特の異味をより低減する効果が付与される。用いる化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、酢酸ベンジル/酢酸エチルが、1/50000〜1/5、好ましくは1/2000〜1/10とすることができる。
【0094】
<(iii)酢酸プロピルと、酢酸ベンジルの組合せ>
酢酸プロピル、酢酸ベンジルを共に用いた場合、単独で用いるよりも良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与でき、また、殺菌により生じる、ぬめり感・塩味感などの独特の異味をより低減する効果が付与される。用いる化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、酢酸ベンジル/酢酸プロピルが、1/30000〜2/1、好ましくは1/2000〜1/1とすることができる。
【0095】
(2)B群;3化合物の組合せ:
<(i)酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル>
酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルを全て組み合わせて添加することにより、それぞれを単独で、または上述のようにB群3化合物中2化合物を併用して添加した場合よりも更に良好なレギュラーコーヒー様の香味を付与でき、更に、殺菌により生じる、ぬめり感・塩味感などの独特の異味をより低減する効果が付与される。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(酢酸エチル、酢酸プロピルの合計量)/酢酸ベンジルが、25000/1〜25000/1000、好ましくは25000/10〜25000/500とすることができ、更に好ましくは酢酸エチル/酢酸プロピル/酢酸ベンジルが、15000/10000/1〜15000/10000/1000、最も好ましくは15000/10000/10〜15000/10000/500とすることができる。
【0096】
[A群とB群の組合せ]
A群とB群の各化合物は、上記のとおり、それぞれ単独やA群同士、B群同士を組合せて添加することでより高い効果が認められるが、更に、A群とB群の化合物を組合せて添加しても、既存の香料とともに用いてもよい。該化合物を併用する場合にも、本発明の化合物同士や、既存の香料とを混合した香料組成物を調製してからその香料組成物を添加したコーヒー飲料とすることもできるが、本発明の香料化合物や、既存の香料とを別々に添加したコーヒー飲料とすることも可能である。
【0097】
(1)B群の酢酸エチルとA群化合物との組合せ:
酢酸エチルをA群化合物である、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランと組合せて用いる場合、その重量比は任意であり、1化合物又は複数化合物と組み合わせて用いることができる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/酢酸エチルが、102/500〜102/5000、好ましくは102/1000〜102/2000とすることができ、更に好ましくは、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン/2−メチル−1,3−ジチオラン/酢酸エチルが100/1/1/500〜100/1/1/5000、最も好ましくは100/1/1/1000〜100/1/1/2000とすることができる。
【0098】
(2)B群の酢酸プロピルとA群化合物との組合せ:
酢酸プロピルをA群化合物である、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランと組合せて用いる場合、その重量比は任意であり、1化合物又は複数化合物と組み合わせて用いることができる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/酢酸プロピルが、102/50〜102/3000、好ましくは102/500〜102/2000とすることができ、更に好ましくは、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン/2−メチル−1,3−ジチオラン/酢酸プロピルが100/1/1/50〜100/1/1/3000、最も好ましくは100/1/1/500〜100/1/1/2000とすることができる。
【0099】
(3)B群の酢酸ベンジルとA群化合物との組合せ
酢酸ベンジルをA群化合物である、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランと組合せて用いる場合、その重量比は任意であり、1化合物又は複数化合物と組み合わせて用いることができる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/酢酸ベンジルが、102/1〜102/100、好ましくは102/1〜102/20とすることができ、更に好ましくは、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン/2−メチル−1,3−ジチオラン/酢酸ベンジルが100/1/1/1〜100/1/1/100、最も好ましくは100/1/1/1〜100/1/1/20とすることができる。
【0100】
(4)B群の酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルと、A群化合物との組合せ:
上記のように、A群化合物と、B群1化合物を組合せて用いた場合に効果が認められるが、A群化合物とB群複数化合物を組合わせて用いるとより高い効果が認められる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルの合計量)が、102/551〜102/8100、好ましくは102/1501〜102/4020とすることができ、更に好ましくは、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン/2−メチル−1,3−ジチオラン/酢酸エチル/酢酸プロピル/酢酸ベンジルが100/1/1/500/50/1〜100/1/1/5000/3000/100、最も好ましくは100/1/1/1000/500/1〜100/1/1/2000/2000/20とすることができる。
【0101】
[A群とC群の組合せ]
C群(2−ペンタンチオール及び/又は5−メチルキノキサリン)の各化合物は上記のように、単独ではその効果を発揮することが難しく、本願発明の他の群の化合物との組合せによってその効果が得られる。また、既存の香料とともに用いることもできる。該化合物を併用する場合には、本発明のC群とA群の化合物や、既存の香料とを混合した香料組成物を調製してからその香料組成物を添加したコーヒー飲料とすることもできるが、本発明の香料化合物や、既存の香料とを別々に添加したコーヒー飲料とすることも可能である。
【0102】
(1)C群の2−ペンタンチオールと、A群化合物との組合せ:
2−ペンタンチオールをA群化合物である、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランと組合せて用いる場合、その重量比は任意であり、1化合物又は複数化合物と組み合わせて用いることができる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/2−ペンタンチオールが、10200/1〜10200/50、好ましくは10200/5〜10200/20とすることができ、更に好ましくは、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン/2−メチル−1,3−ジチオラン/2−ペンタンチオールが10000/100/100/1〜10000/100/100/50、最も好ましくは10000/100/100/5〜10000/100/100/20とすることができる。
【0103】
(2)C群の5−メチルキノキサリンと、A群化合物との組合せ:
5−メチルキノキサリンをA群化合物である、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランと組合せて用いる場合、その重量比は任意であり、1化合物又は複数化合物と組み合わせて用いることができる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/5−メチルキノキサリンが、102/1〜102/50、好ましくは102/10〜102/50とすることができ、更に好ましくは、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン/2−メチル−1,3−ジチオラン/5−メチルキノキサリンが100/1/1/1〜100/1/1/50、最も好ましくは100/1/1/10〜100/1/1/50とすることができる。
【0104】
(3)C群の2−ペンタンチオール及び5−メチルキノキサリンと、A群化合物との組合せ:
上記のように、A群化合物と、C群1化合物を組合せて用いた場合に効果が認められるが、A群化合物とC群2化合物を組合わせて用いるとより高い効果が認められる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオランの合計量)/(2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリンの合計量)が、10200/101〜10200/5050、好ましくは10200/1005〜10200/5020とすることができ、更に好ましくは、メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン/2−ペンタンチオール/5−メチルキノキサリンが10000/100/100/1/100〜10000/100/100/50/5000、最も好ましくは10000/100/100/5/1000〜10000/100/100/20/5000とすることができる。
【0105】
[B群とC群の組合せ]
C群(2−ペンタンチオール及び/又は5−メチルキノキサリン)の各化合物は上記のように、単独ではその効果を発揮することが難しく、本願発明の他の群の化合物との組合せによってその効果が得られる。また、既存の香料とともに用いることもできる。該化合物を併用する場合には、本発明の化合物や、既存の香料とを混合した香料組成物を調製してからその香料組成物を添加したコーヒー飲料とすることもできるが、本発明の香料化合物や、既存の香料とを別々に添加したコーヒー飲料とすることも可能である。
【0106】
(1)C群の2−ペンタンチオールとB群化合物との組合せ:
2−ペンタンチオールをB群化合物である、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルと組合せて用いる場合、その重量比は任意であり、1化合物又は複数化合物と組み合わせて用いることができる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、2−ペンタンチオール/(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルの合計量)が、1/55010〜1/8100、好ましくは5/55100〜50/405000とすることができ、更に好ましくは、2−ペンタンチオール/酢酸エチル/酢酸プロピル/酢酸ベンジルが1/50000/5000/10〜100/500000/300000/10000、最も好ましくは5/50000/5000/100〜50/200000/200000/5000とすることができる。
【0107】
(2)C群の5−メチルキノキサリンとB群化合物との組合せ:
5−メチルキノキサリンをB群化合物である、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルと組合せて用いる場合、その重量比は任意であり、1化合物又は複数化合物と組み合わせて用いることができる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、5−メチルキノキサリン/(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルの合計量)が、100/55010〜100/8100、好ましくは100/5510〜100/8100とすることができ、更に好ましくは、5−メチルキノキサリン/酢酸エチル/酢酸プロピル/酢酸ベンジルが100/50000/5000/10〜10000/500000/300000/10000、最も好ましくは1000/50000/5000/100〜5000/200000/200000/5000とすることができる。
【0108】
(3)2−ペンタンチオール及び5−メチルキノキサリンと、B群化合物との組合せ:
上記のように、B群化合物と、C群1化合物を組合せて用いた場合に効果が認められるが、B群化合物とC群複数を組合わせて用いるとより高い効果が認められる。各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、(2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリンの合計量)/(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルの合計量)が、101/55010〜10100/810000、好ましくは1005/55100〜5050/405000とすることができ、更に好ましくは、2−ペンタンチオール/5−メチルキノキサリン/酢酸エチル/酢酸プロピル/酢酸ベンジルが、1/100/50000/5000/10〜100/10000/500000/300000/10000、最も好ましくは5/1000/50000/5000/100〜50/5000/200000/200000/5000とすることができる。
【0109】
[A群、B群、C群の組合せ]
A群(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン)、B群(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル)、C群(2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン)の各化合物は上述のように、単独あるいは複数の組合せで効果が認められるが、A群、B群、C群すべてから1又は複数の化合物を選択して組合せると更に大きな効果が認められる。また、その組合せに更に既存の香料を組合わせてもよい。該化合物を併用する場合には、A群、B群、C群の組合せや既存の香料と混合した香料組成物を調製し、その香料組成物を添加したコーヒー飲料とすること、A群、B群、C群の化合物群を別々に添加したコーヒー飲料とすること、いずれの方法も可能である。
【0110】
各化合物の香料組成物又はコーヒー飲料中における重量比は任意だが、A群(メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン)の合計/B群(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル)の合計/C群(2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン)の合計が、10200/55010/101〜10200/810000/10100、好ましくは10200/55100/1005〜100200/405000/5050とすることができる。更に好ましくはメチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート/2,4−ジチアペンタン/2−メチル−1,3−ジチオラン/酢酸エチル/酢酸プロピル/酢酸ベンジル/2−ペンタンチオール/5−メチルキノキサリンが、10000/100/100/50000/5000/10/1/100〜10000/100/100/500000/300000/10000/100/10000、最も好ましくは10000/100/100/50000/5000/100/5/1000〜10000/100/100/200000/200000/5000/50/5000とすることができる。
【0111】
[香料組成物]
本発明は、上記A群、B群及びC群の化合物を有効成分として含有する香料組成物を提供する。
【0112】
(1)香料組成物の組成:
本願香料組成物に共に配合される付加的な香味料成分には特に制限はなく、公知の香料素材や呈味素材を任意の割合で混合することができる。かかる公知の香料素材や呈味素材としては、例えば、リモネン、β−ピネンなどの炭化水素類;ブタノール、フルフリルアルコール、リナロールなどのアルコール類;ヘキサナール、2−フェニル−2−ブテナール、フルフラール、バニリンなどのアルデヒド類およびそれらのアセタール類;ジアセチル、マルトール、シクロテンなどのケトン類およびそれらのケタール類;酢酸、イソ吉草酸、カプリン酸などの酸類;エチルブチレート、エチルアクリレート、α−テルピニルアセテートなどのエステル類;テアスピラン、ローズオキサイドなどのエーテル類;グアヤコール、チモール、p−クレゾールなどのフェノール類;γ−ヘキサラクトン、δ−デカラクトン、ジャスミンラクトンなどのラクトン類;メチルメルカプタン、フルフリルメチルスルフィド、チオフェン、チアゾール、2−アセチル−2−チアゾリン、γ―チオブチロラクトンなどの含硫化合物;2,5−ジメチルピラジン、2−アセチルピリジン、2−アセチルピロール、2−アセチル−1−ピロリンなどの含窒素化合物などの合成香料化合物;天然物の溶剤抽出、水蒸気蒸留品;リパーゼ、プロテアーゼ、ラクターゼ等による酵素処理を利用した香料素材;アミノ酸・タンパク質と糖の加熱反応を利用した香料素材などを例示することができる。
【0113】
(2)香料組成物の使用方法:
本願発明の香料組成物が添加される飲食品としては、レギュラーコーヒー様香気を付与することに適した飲食品であれば制限はない。たとえばコーヒー飲料、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類、ゼリー、プリン、羊羹等のデザート類、クッキー、ケーキ、チョコレート、チューイングガム、饅頭等の菓子類、菓子パン、食パン等のパン類、ジャム類、ラムネ、タブレット、錠菓類などがあげられるが、好ましくはコーヒー飲料、より好ましくは50℃以上の高温販売のなされるコーヒー飲料、最も好ましくは高温販売のされる容器詰めコーヒー飲料である。
【0114】
[コーヒー飲料]
本発明は、コーヒー飲料において、コーヒー飲料の製造時におけるコーヒー抽出後の加熱殺菌処理、及びその後の流通・保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を提供する。ここで、「コーヒー飲料」とは、容器詰めコーヒーにおいては、公正競争規約上表示が許される「コーヒー」(内容量100gあたり生豆換算5g以上)、「コーヒー飲料」(同2.5g以上5g未満)、「コーヒー入り清涼飲料」(同1g以上2.5未満)に該当するもの、いずれをも含み、容器詰め飲料以外では、例えば、各種飲食品原料とするコーヒーエキスや、カップディスペンサー用のコーヒー濃縮原液を含む。
【0115】
本発明に用いるコーヒー抽出液の原料となるコーヒー豆は、一般にコーヒー豆と呼ばれるものであれば、アラビカ種、ロブスタ種に限らず、また産地、等級、焙煎度、粉砕粒度などに限定されず、いずれも使用可能である。このコーヒー豆に対して、従来からコーヒー飲料製造用途等に用いられている方法又は今後開発される方法を用いて抽出をおこなえばよい。抽出条件やコーヒー豆の使用率についても特に限定はない。得られたコーヒー抽出液は調合工程にて、pHを製品とするのに適した、例えばpH6程度に調整するとともに香料組成物を添加する。必要に応じ砂糖などの糖類や、スクラロース、アセスルファムK、ステビアなどの高甘味度甘味料を配合してもよいし、牛乳や粉乳などの乳類、油脂などそのほかの原料も配合できる。なお、香料組成物の添加タイミングは上記に限定されず任意である。また、コーヒー抽出液の代替としてインスタントコーヒーから得たコーヒー液や、エキスから得られたコーヒー液を使用してもよく、これらとコーヒー抽出液を混合して用いてもよい。
【0116】
コーヒー飲料製造工程における殺菌工程においては、UHT殺菌やレトルト殺菌などの従来法や、その他、コーヒー飲料の製造において用いられる殺菌工程を適用することができる。本発明の効果は加熱殺菌強度が強い方が顕著であるので、レトルト殺菌を行う缶入りのコーヒー飲料に対して、特に効果的に適用することができる。
【0117】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0118】
[実施例1−13;比較例1−3:コーヒー飲料中での各化合物の添加効果]
<試験方法>
(1)中煎りのコロンビア豆をカッティングミルで中挽きにしたもの100gを、焙煎豆の10倍量の90℃の熱水1000gでペーパードリップし、コーヒー抽出液を得、これに、溶解した炭酸水素ナトリウムを適量添加した。これに表1(化合物の区分)に記載した化合物並びに既存香料をそれぞれ表2(殺菌済みコーヒー飲料中での化合物の添加効果;試験サンプル)の組み合わせで添加し、最終的にBrix.1.5の調合液とした。調合液をスチール缶に充填した後レトルト殺菌(121℃、10分間)を行った。
(2)評価は専門パネル8人による官能評価にて行った。比較例1を5点、比較例2を0点とし、下記評価基準に従い、その相対スコアの平均値を官能評価値とした。試験サンプルの詳細は表2のとおりである。表中、化合物及び既存香料の添加量は、コーヒー調合液に対する重量%で示した。
【0119】
<官能評価基準>
5点;レギュラーコーヒーに極めて近い香味である。
4点;総合的にレギュラーコーヒーの特徴的香味と非常によく似ている。
3点;総合的にレギュラーコーヒーの特徴的香味とよく似ている。
2点;部分的にレギュラーコーヒーの特徴的香味と非常によく似た要素が感じられる。
1点;部分的にレギュラーコーヒーの特徴的香味とよく似た要素が感じられる。
0点;加熱殺菌後のコーヒーの香味(レギュラーコーヒーの特徴的香味がない)。
【0120】
(3)実施例及び比較例2〜3は、容器充填後、殺菌し、1週間常温保存してから評価に供した。
(4)上記と完全に同一の条件で調製されたコーヒー抽出液に、何も加えないまま容器充填したものを比較例1とした(殺菌なし)。比較例1の調製は評価直前に行った。
(5)香料を一切添加しないが、他の条件はすべて(1)、(2)、(3)の方法で製造・評価したものを比較例2とした。
(6)既存コーヒー香料を添加し、他の条件はすべて(1)、(2)、(3)の方法で製造・評価したものを比較例3とした。
(7)既存のコーヒー香料は、高田香料社製コーヒーフレーバーAZ-03221を用いた。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
<試験結果>
結果は表3(殺菌済みコーヒー飲料中での化合物の添加効果;結果)のとおりである:
(1)実施例1〜3の官能評価値:1〜1.5は、香料を添加しない場合(比較例2:0)及び既存香料のみ添加した場合(比較例3:0.5)より高く、A群化合物を1点ずつ添加したそれぞれの場合の方が香味良好であり、レギュラーコーヒーの特徴が付与されていることが確認された。
(2)実施例4の官能評価値:2.5は、比較例2、3より高く、また、実施例1〜3よりも高かったことから、A群化合物を複数添加した方が1点ずつ添加するより香味良好であり、レギュラーコーヒーの特徴がより付与されていることが確認された。
(3)実施例5の官能評価値:1は比較例2、3より高く、B群化合物を添加すると香味良好であり、レギュラーコーヒーの特徴が付与されていることが確認された。
(4)実施例6〜7の官能評価値:3は実施例4:2.5より高く、A群化合物にC群化合物を1点ずつ添加したそれぞれの場合の方が香味良好であり、レギュラーコーヒーの特徴がより付与されていることが確認された。すなわち、C群化合物の他香料への追加効果が確認された。
【0124】
(5)実施例6〜7の官能評価値:3より、実施例9:4の方が高く、A〜C群の3群を含む方が、A群、C群のみを含むより香味良好であり、レギュラーコーヒーの特徴がより付与されていることが確認された。
(6)実施例4の官能評価値:2.5より、実施例10:3の方が高く、A群化合物は既存香料に追加するとさらに効果が高いこと、すなわち、レギュラーコーヒーの特徴がより付与されることが確認された。
(7)実施例9の官能評価値:4と実施例12:4.5、すなわちA〜C群の3群を添加したものについても同様であった。
(8)官能評価値は、比較例3:0.5<実施例10:3<実施例11:3.5<実施例12〜13:4.5であり、既存香料のみ<既存香料+A群<既存香料+A群+C群<既存香料+A群+B群+C群の順に香味が良好となりレギュラーコーヒーの特徴が強く付与されることが確認された。
【0125】
【表3】

【0126】
[実施例14−32;比較例4−13:酢酸エステル化合物の添加効果]
試験条件、試験結果は表4(コーヒー飲料における酢酸エチルの添加効果)、表5(コーヒー飲料における酢酸プロピルの添加効果)、表6(コーヒー飲料における酢酸ベンジルの添加効果)、及び、表7(コーヒー飲料における酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルの効果)のとおりである。なお、表中の化合物添加量は調合液中の濃度(重量%)である。
【0127】
<試験方法>
(1)前記試験と同様に抽出したコーヒー抽出液に炭酸水素ナトリウムを適量添加溶解した後、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルをそれぞれ加え調合液とした。調合液はスチール缶に充填した後レトルト殺菌(121℃、10分間)を行った。
(2)実施例及び比較例5〜11は、容器充填後、殺菌し、1週間常温保存してから評価に供した。
【0128】
(3)上記と完全に同一の条件で調製されたコーヒー抽出液に、何も加えないまま容器充填したものを比較例4とした(殺菌なし)。比較例4の調製は評価直前に行った。
(4)香料を一切添加しないが、他の条件はすべて(1)、(2)の方法で製造、評価したものを比較例5とした。
(5)評価は、専門パネルの官能による定性評価とした。
(6)また上記と同様の製造法及び評価法を用いているが、添加溶解する炭酸水素ナトリウムの量を一定とした容器詰コーヒーについても評価を行った。ここで用いられた酢酸エステルは、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルであった。(実施例16、18、20,21,24、比較例12、13)。
【0129】
<試験結果>
(1)酢酸エチルは添加量0.5ppmでは添加しないものに比した香味改善効果がなく、100ppmではコーヒー本来の風味を損なっていた。香味改善効果は添加量5ppm以上60ppm以下で認められレギュラーコーヒー様の軽やかな甘さが付与されることがわかった。付与される香りの強さは5ppmで若干弱く、60ppmでは若干強かったことから、5〜50ppmでより好ましい効果が得られると判断された。
(2)酢酸プロピルは、添加量0.1ppmでは添加しないものに比した香味改善効果がなく、50ppmではコーヒー本来の風味を損なっていた。香味改善効果は添加量0.5ppm以上30ppm以下で認められレギュラーコーヒー様の軽やかな甘さが付与されることがわかった。付与される香りの強さは30ppmでは若干強い傾向が認められたことから、0.5〜20ppmでより好ましい効果が得られると判断された。
【0130】
(3)酢酸ベンジルは添加量0.1ppbでは添加しないものに比した香味改善効果がなく、10000ppbではコーヒー本来の風味を損なっていた。香味改善効果は添加量1ppb以上1000ppb以下で認められ、レギュラーコーヒー様のフルーティーな甘さが付与されることがわかった。しかし、1ppbではフルーティーな甘さが少し弱く、1000ppbでは酢酸ベンジル由来の香味が若干強い傾向が認められたため、10〜500ppbでより好ましい効果が得られると判断された。
(4)酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルをそれぞれ添加してもレギュラーコーヒー様の甘みは感じられず、異味も低減されなかった。
【0131】
【表4】

【0132】
【表5】

【0133】
【表6】

【0134】
【表7】

【0135】
[実施例33;比較例14:殺菌方法の影響]
<試験方法>
実施例12と同様の香料を添加したコーヒー調合液をUHT殺菌(135℃×30秒)しPETボトルに充填し、1週後に評価した(実施例33)。香料を一切添加しないものも同時に製造し比較例14とした。評価は専門パネルによる官能評価とした。すなわち、同様の方法で抽出されたコーヒー抽出液のスコアを5、比較例14のスコアを0としたときの各パネルの相対スコアについて、パネル全員の平均値を官能評価値とした。
【0136】
<試験結果>
実施例33は、比較例14より香味がよく、トップ〜ミドル〜ラストそれぞれにしっかりした香りが広がり、口腔内から鼻腔に抜ける香りが持続し、レギュラーコーヒーらしいロースト香と軽やかでフルーティーな甘みが感じられた。
官能評価値とコメントは表8(殺菌方法の影響)に示した。
【0137】
【表8】

【0138】
[実施例34;比較例15:殺菌後、及び高温保存時における化合物のコーヒー飲料中での安定性の評価]
<試験方法>
実施例13(既存香料+A群+B群+C群を添加)と同様に製造した容器詰めコーヒー飲料から香気成分を回収、定量し、各化合物の殺菌前の量に対する殺菌後0日、1週、2週、3週の残存率を算出した(実施例34)。比較例として、レギュラーコーヒーに特徴的な香気成分でありながら加熱殺菌により失われるとされる化合物である内在の、フルフリルメルカプタン、3−メルカプト−3−メチルブチルホーメート、フルフリルアセテートについても、同様にして残存率を算出した(比較例15:何も添加しない)。殺菌後の保存は高温販売時の温度を想定し、60℃で行った。
【0139】
(1)香気成分採取条件
レトルト殺菌前のコーヒー飲料180mlを減圧蒸留し、香気成分を含む留出液を回収した。回収した留出液に塩化メチレン80mlを添加し、香気成分を抽出した。香気抽出液を0.2gまで濃縮し、分析用試料とした。同様の方法によりレトルト殺菌後のコーヒー飲料からも分析用試料を調製した。
【0140】
(2)分離定量条件
ガスクロマトグラフ装置;Agilent 6890N(Agilent Technologies社製)
検出器; Agilent 5973 inert MSD(Agilent Technologies社製)、PFPD(OI Analytical社製)。
昇温条件;40℃(2分保持)、2℃/分で200℃まで昇温(48分保持)
カラム;DB−Wax 60m×内径0.25mm×膜厚0.25μm(J&W Scientific社製)
導入サンプル量;1.0μl
内部標準物質;トリデカン(和光純薬工業社製)
【0141】
<試験結果>
結果は表9(各化合物のレトルト殺菌後、高温保存後の残存率)のとおりである。殺菌後0日において、レギュラーコーヒーに特徴的な香気成分でありながら加熱殺菌により失われるとされる化合物の残存率が0.3〜10.9%であった(比較例15)。A群、B群、C群の化合物では残存率73.5〜98.1%であった(実施例34)。殺菌後1〜3週においては、前者が0.2〜9.6%、後者が40.0〜100.5%であった。以上より、レギュラーコーヒーに特徴的な香気成分でありながら加熱殺菌により失われるとされる化合物(比較例15)と比較して、A群、B群、C群の化合物は殺菌後の残存率が高いことが確認された。また、その後の高温保存においてもA群、B群、C群の化合物の残存率が高いことが確認された。
【0142】
【表9】

【0143】
[実施例35;比較例16:高温保存試験;官能評価]
<試験方法>
実施例13(既存香料+A群+B群+C群)、比較例2(香料を一切添加しない)と同じ容器詰めコーヒー飲料を製造し、それぞれ、実施例35、比較例16とした。この容器詰めコーヒー飲料を60℃で一定期間保存し官能評価に供した。官能評価は専門パネルによる定性評価とした。
【0144】
<試験結果>
結果は表10(高温保存試験における官能評価結果)のとおりである。実施例35においては60℃保存においてもそのレギュラーコーヒー様の香りの広がり、鼻腔に抜ける香りの持続性、ロースト香と軽やかでフルーティーな香味が維持された。比較例16では、保存1週時点でレギュラーコーヒー様の香りは感じられず、保存日数の増加とともに香りが弱くなった。
【0145】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、コーヒー飲料等において、コーヒー飲料の製造時におけるコーヒー抽出後の加熱殺菌処理、及びその後の流通、保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料を提供する。本発明のコーヒー飲料は、容器詰めコーヒー飲料として、例えば50℃以上のような加温販売に供しても、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持する容器詰めコーヒー飲料を提供する。本発明は、また、コーヒー抽出液やコーヒー飲料にレギュラーコーヒーの香味感を付与する香料組成物を提供する。該香料組成物は、レギュラーコーヒー様香味を付与することに適した飲食品に適用して、レギュラーコーヒーの香味感に優れた飲食品を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー飲料の製造において、コーヒー抽出液に、(i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加するか、或いは、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物又は該化合物を含有する香料組成物を添加することを特徴とする、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法。
(1)A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、
(2)B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、
(3)C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン。
【請求項2】
A群及びB群からなるグループから選択される2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物の添加が、A群又はB群のそれぞれの群内の2以上の化合物又は該化合物を含有する香料組成物の添加であることを特徴とする請求項1記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法。
【請求項3】
A群及びB群からなるグループから選択される2以上の化合物又は該化合物の含有物の添加が、A群及びB群の両方の群からそれぞれ1以上選択される化合物又は該化合物を含有する香料組成物の添加であることを特徴とする請求項1記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法。
【請求項4】
メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合において、コーヒー飲料中のメチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、又は、2−メチル−1,3−ジチオランの濃度が、それぞれ0.01〜10ppm、0.2〜200ppb又は0.1〜100ppbであるように調整されることを特徴とする請求項1記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法。
【請求項5】
酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合において、コーヒー飲料中の酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジルの濃度が、それぞれ5〜60ppm、0.5〜30ppm又は1〜1000ppbであるように調整されることを特徴とする請求項1記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法。
【請求項6】
2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン、又は該化合物を含有する香料組成物をコーヒー抽出液に添加する場合において、コーヒー飲料中の2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリンの濃度が、それぞれ0.1〜10ppb又は0.01〜1ppmであるように調整されることを特徴とする請求項1記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法。
【請求項7】
コーヒー飲料の製造が、容器詰めコーヒー飲料製造におけるコーヒー飲料の製造であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料の製造方法。
【請求項8】
(i)下記A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物、又は、(ii)該A群及びB群からなるグループから選択される1又は2以上の化合物に、C群の1又は2の化合物を組合せた化合物を香料成分として含有することを特徴とする、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物。
(1)A群:メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、2−メチル−1,3−ジチオラン、
(2)B群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、
(3)C群:2−ペンタンチオール、5−メチルキノキサリン。
【請求項9】
メチル3−(フルフリルチオ)プロピオネート、2,4−ジチアペンタン、又は2−メチル−1,3−ジチオランを有効成分として、香料組成物中にそれぞれ1ppm〜10重量%、0.02ppm〜2000ppm、又は0.01ppm〜1000ppm配合したことを特徴とする請求項8記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物。
【請求項10】
酢酸エチル、酢酸プロピル、又は酢酸ベンジルを有効成分として、香料組成物中にそれぞれ0.05〜60重量%、0.005〜30重量%、又は0.1ppm〜1重量%配合したことを特徴とする請求項8記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物。
【請求項11】
2−ペンタンチオール、又は5−メチルキノキサリンを有効成分として、香料組成物中にそれぞれ0.01ppm〜100ppm、又は1ppm〜1重量%、配合したことを特徴とする請求項8記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持するためのコーヒー飲料用香料組成物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載のコーヒー飲料の製造方法によって製造された、コーヒー抽出後の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持したコーヒー飲料。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載のコーヒー飲料の製造方法によって製造された、コーヒー飲料製造時の加熱殺菌処理及びその後の保存に対して、コーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持した容器詰めコーヒー飲料。
【請求項14】
容器詰めコーヒー飲料が、加温販売に供されるものであることを特徴とする請求項13記載のコーヒー抽出時のレギュラーコーヒーの香味感を保持した容器詰めコーヒー飲料。

【公開番号】特開2012−135215(P2012−135215A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287799(P2010−287799)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【出願人】(596072586)高田香料株式会社 (1)
【Fターム(参考)】