説明

レシプロエンジン

【課題】ピストンの構造を変えることにより、ノッキングを抑制してノッキングによる排気ガスの清浄度の低下を防止した、レシプロエンジンを提供する。
【解決手段】シリンダ2と、シリンダ2とともに燃焼室3を形成する頂面4aを有するピストン4と、を備えたレシプロエンジン1である。ピストン4の頂面4a側に設けられて燃焼室3に連通する凹部9と、凹部9内の、頂面4a側と凹部9の底面9a側との間に気密に配設され、かつ、頂面4a側と底面9a側との間を摺動可能に設けられて、頂面4a側に燃焼室3に連通する容積可変室17を形成し、底面9a側に副室18を形成する稼働部12と、ピストン4の、凹部9の外側に設けられて燃焼室3と副室18とを連通させる流路19と、流路19に設けられて、燃焼室3が予め設定した設定圧以上になると流路19を閉じ、燃焼室3が設定圧未満になると流路19を開くバルブ23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどのレシプロエンジンでは、例えば空気及び燃料の圧縮比が高すぎるとノッキングを起こし、排気ガスの清浄度が低くなる。そこで、従来ではノッキングを起こす圧縮比の領域を避けて運転を行い、排気ガスの清浄度を保つようにしていた。
しかし、近年ではエンジン効率を高めるべく、ノッキングを抑制して圧縮比の高い領域でも運転を行えるようにすることが望まれている。
このような背景のもとに、ノッキングを抑制する技術として、例えば特許文献1〜3に開示された技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−274314号公報
【特許文献2】特開2001−336421号公報
【特許文献3】特開2004−116315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3の技術は、燃焼後の排気ガスを吸気に混ぜて用いる、排気再循環(EGR)と呼ばれる技術など、主に排気や吸気等に関する制御によってノッキングを抑制するものである。したがって、制御系の構成が複雑になり、エンジンのシステム全体の構成が複雑化するといった課題がある。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、制御系の構成については複雑化することなく、単にピストンの構造を変えることにより、ノッキングを抑制してノッキングによる排気ガスの清浄度の低下を防止した、レシプロエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレシプロエンジンは、シリンダと、該シリンダとともに燃焼室を形成する頂面を有するピストンと、を備えたレシプロエンジンであって、
前記ピストンの頂面側に設けられて前記燃焼室に連通する凹部と、
前記凹部内の、前記頂面側と該凹部の底面側との間に気密に配設され、かつ、前記頂面側と前記底面側との間を摺動可能に設けられて、前記頂面側に前記燃焼室に連通する容積可変室を形成し、前記底面側に副室を形成する稼働部と、
前記ピストンの、前記凹部の外側に設けられて前記燃焼室と前記副室とを連通させる流路と、
前記流路に設けられて、前記燃焼室が予め設定した設定圧以上になると前記流路を閉じ、前記燃焼室が前記設定圧未満になると前記流路を開くバルブと、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記レシプロエンジンにおいては、前記流路の、前記バルブと前記副室との間には、前記副室が予め設定した第1基準圧以上になると開いて排気し、前記副室が予め設定した第2基準圧未満になると閉じるリリーフ弁を有することが好ましい。
【0008】
また、前記レシプロエンジンにおいて、前記バルブは、バネの付勢力によって前記流路の開閉を行うよう構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレシプロエンジンによれば、燃焼によって燃焼室が予め設定した設定圧以上になると、バルブが流路を閉じる。また、燃焼がノッキングを起こすような高温燃焼になると、燃焼室側と副室との間の圧力差によって稼働部が凹部の底面側に移動する。すると、容積可変室の容積が大きくなるため、これに連通する燃焼室内の圧力が下がり、定常燃焼に戻る。これにより、制御系による複雑な制御を行うことなく、ピストンの構造によって高温燃焼によるノッキングを抑制し、排気ガスの清浄度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のレシプロエンジンの一実施形態を示す要部側断面図である。
【図2】本発明のレシプロエンジンの一実施形態を示す要部側断面図である。
【図3】本発明のレシプロエンジンの一実施形態を示す要部側断面図である。
【図4】本発明のレシプロエンジンの一実施形態を示す要部側断面図である。
【図5】バネ定数の設定方法を説明するための参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のレシプロエンジンを詳しく説明する。
図1〜図4は、本発明のレシプロエンジンの一実施形態を示す要部側断面図であり、これらの図において符号1は、ディーゼルエンジンや天然ガスを燃料とするエンジンなどとしての、レシプロエンジンである。なお、図2〜図4においては、図1に示したクランク軸5等を省略して示している。
レシプロエンジン1は、シリンダ2と、該シリンダ2とともに燃焼室3を形成するピストン4と、ピストン4をシリンダ2内にて往復運動させるためのクランク軸5と、を備えて構成されている。
【0012】
すなわち、このレシプロエンジン1は、吸入工程・ 圧縮工程・ 膨張工程・ 排気工程を順次繰り返す4サイクルエンジンであって、燃焼室3内にて燃料と空気(燃焼用酸素含有ガス)との混合気を断熱圧縮して自着火燃焼させることにより、シリンダ2内のピストン4を作動させ、連結棒6を介してクランク軸5を回転駆動するように構成されている。前記混合気の断熱圧縮による自着火燃焼は、例えば多数の点で着火する多点着火である。
【0013】
なお、燃料と空気とは別に供給されるようになっており、シリンダ2の天蓋部2aに設けられた吸気弁7より空気が供給され、図示しないノズルから燃料が供給されるようになっている。または、燃料と空気との混合気は、予混合された後に、前記吸気弁7より燃焼室3内に供給されるように構成されていてもよい。また、燃焼後の排気ガスは、シリンダ2の天蓋部2aに設けられた排気弁8より排出されるようになっている。
【0014】
ピストン4は、図1〜図4に示すようにシリンダ2の天蓋部2a側に頂面4aを有し、この頂面4aとシリンダ2とによって燃焼室3を形成するものである。このピストン4には、その頂面4a側に凹部9が形成されている。凹部9は、ピストン4の頂面4aに開口して燃焼室3に連通する横断面円形状のもので、その底部側に段部10を有し、この段部10よりさらに底部側に大径部11を有したものである。
【0015】
この凹部9内には、円柱状の稼働部12が、前記頂面4a側と凹部9の底面9aとの間を摺動可能に収容されている。稼働部12は、凹部9の前記段部10より頂面4a側の小径部13に側面が気密に嵌合する稼働上部14と、前記大径部11に側面が気密に嵌合する稼働下部15と、からなっている。したがって、これら稼働上部14と稼働下部15との間、すなわち稼働上部14の外側に露出する稼働下部15の円環状の上面は、前記段部10に接離可能に当接する当接面16となっている。なお、このような構成の稼働部12は、例えば稼働上部14側と稼働下部15側とを別に形成し、ピストン4の組み立て時に、稼働下部15を大径部11に嵌合し、かつ稼働上部14を小径部13に嵌合した状態で、これらをピン等によって連結し、一体化してもよい。
【0016】
このようにして凹部9内に稼働部12が収容されていることにより、凹部9内は稼働部12によって頂面4a側と底面9a側とが気密に隔てられ、それぞれ独立した空間となる。すなわち、稼働部12より頂面4a側は燃焼室3に連通する容積可変室17となり、稼働部12より底面9a側は副室18となる。なお、稼働部12は燃焼室3側(容積可変室17側)と副室18側との圧力差によって凹部9内を前記頂面4a側と凹部9の底面9aとの間で摺動するようになっている。したがって、容積可変室17と副室18とは、いずれもその容積が可変になっている。副室18は、図3、図4に示すように稼働部12が底面9aに近接することで、その容積が非常に小さく(ゼロに近く)なることもある。
【0017】
なお、図1〜図4では凹部9の底面9aにテーパ部を形成し、図3、図4に示すように稼働部12は底面9aに当接しないようにしたが、テーパ部を形成しないことにより、稼働部12が底面9aに当接するようにしてもよい。一方、容積可変室17は、図1、図2に示すように稼働部12の当接面16が段部10に当接してここに係止することにより、それ以上頂面4a側に移動せず、したがって一定以上の容積が確保されるようになっている。
【0018】
また、ピストン4には、凹部9の外側に、燃焼室3と副室18とを連通する流路19が形成されている。流路19は、一端が頂面4aに開口し、他端が凹部9の底面9aに開口する第1の孔20と、この第1の孔20の中間部の2点に連通する第2の孔21とによって形成されている。第1の孔20にはバルブ収容室22が設けられ、バルブ収容室22内にはバルブ23が昇降可能に配設されている。バルブ収容室22は、第1の孔20より大径の第3の孔22aと、この第3の孔22aの径と前記第1の孔20の径との間の大きさの径の第4の孔22bとからなっており、第3の孔22aが頂面4a側に形成され、第4の孔22bがその下方に形成されている。
【0019】
バルブ23は、第3の孔22aの径(内径)とほぼ同じ寸法の外径に形成されて、該第3の孔22aに気密に嵌合し、その状態で第3の孔22a内を摺動するバルブ大径部23aと、第4の孔22bの径(内径)とほぼ同じ寸法の外径に形成されて、該第4の孔22bに気密に嵌合し、その状態で第4の孔22b内を摺動するバルブ小径部23bと、からなっている。このような構成により、バルブ収容部22の上側(頂面4a側)の第1の孔20を通ってきたガスは、バルブ収容室22がバルブ23によって気密に塞がれているため、バルブ収容室22を通り抜けられないようになっている。
【0020】
また、バルブ収容室22の下方、すなわち第4の孔22bに連通して下方に延びる第1の孔20には、付勢手段としてのバネ(コイルバネ)24が収容されている。バネ24は、第1の孔20が第4の孔22bに連通して下方に延びた後、横方向に折曲していることにより、この折曲部25上に保持されている。このバネ24は、バルブ23を上方(頂面4a側)に付勢するもので、後述するようにそのバネ定数が予め設定された値に形成されたものである。
【0021】
前記第2の孔21は、一端がバルブ収容室22の上側(頂面4a側)の第1の孔20に連通し、他端がバルブ収容室22の第4の孔22bに連通している。このような構成によって第2の孔21は、図1、図4に示すようにバルブ23がバネ24の付勢力によって上昇しているときには、バルブ23によって遮断されることなく第4の孔22bに連通し、さらにバネ24が収容されている第1の孔20に連通する。したがって、このバネ24が収容されている側の第1の孔20を通じて副室18に連通するようになる。一方、図2、図3に示すようにバルブ23がバネ24の付勢力に抗して下降しているときには、第2の孔21はバルブ23によって遮断され、したがって第4の孔22bに連通しないようになり、副室18にも連通しないようになる。
【0022】
すなわち、バルブ23は、燃焼室3が予め設定した設定圧以上に高くなるとバネ24の付勢力に抗して下降し、第2の孔21(流路19)を閉じ、燃焼室3が前記設定圧未満に低くなると、第2の孔21(流路19)を開くようになっている。
【0023】
第4の孔22bと副室18との間の第1の孔20には、これに連通した状態で第5の孔26が分岐しており、第5の孔26にはリリーフ弁27が設けられている。リリーフ弁27は、前記稼働部12やバルブ23の動作によって副室18が予め設定した第1基準圧以上に高くなると開いて排気し、前記副室18が予め設定した第2基準圧未満に低くなると閉じる、公知の構成のものである。なお、リリーフ弁27を設けた第5の孔26はブローバイ(図示せず)に連通しており、リリーフ弁27が開くことで排出されたガスはブローバイを通じて吸気管(図示せず)に排出されるようになっている。
【0024】
なお、このような構成からなるピストン4は、組立て前には例えば凹部9の大径部11を横切る面(図1〜図4中二点鎖線で示す)等で上下に分けて作製されており、稼働部12やバネ24、バルブ23がそれぞれ所定位置に配設された後、気密に接合され、一体化されるようになっている。また、このピストン4の側周面には周方向に沿って溝が形成され、該溝内にはピストンリング28が嵌め込まれている。なお、ピストンリング28の一つは、前記の、凹部9の大径部11を横切る面に対応する接合部上を、覆うように配設されている。
【0025】
次に、このような構成からなるレシプロエンジン1の動作について説明する。
まず、吸入工程時では、図1に示すようにピストン4を下降させて吸気弁7を開き、空気を吸入する。すると、燃焼室3の圧力、すなわち燃焼室3と容積可変室17とを合わせた燃焼室3側の圧力がほぼ大気圧となり、したがって予め設定した設定圧未満になるため、バネ24の付勢力によってバルブ23が上昇し、第2の孔21が開通する。これにより、副室18側にも空気が流入するため、燃焼室3側と副室18とは同じ圧力となる。なお、前記設定圧については、バネ24のバネ定数とともに後述する。
【0026】
次に、圧縮工程時では、図2中矢印Y1で示すようにピストン4がシリンダ2の天蓋部2a側に移動することにより、燃焼室3側およびこれに連通する副室18の圧力が高まる。そして、燃焼室3側のバルブ23を押圧する加圧力が、バルブ23を付勢するバネ24の付勢力より大きくなると、図2に示すようにバルブ23は下降して第2の孔21を閉塞する。これにより、燃焼室3側と副室18とは連通せずにそれぞれ独立した空間となる。
【0027】
続いて、燃焼室3内に燃料を供給することにより、燃焼(爆発)を起こさせる。すると、燃焼室3側ではガスが膨張する(膨張工程)ことにより、ピストン4が図2中矢印Y2で示すように下降し、図1に示した連結棒6を介してクランク軸5を回転駆動させる。
次いで、排気工程では、排気弁8を開き、再度ピストン4を上昇させることにより、燃焼室3側の排気ガスを排出する。
そして、排気工程の後、吸入工程として再度ピストン4を下降させ、吸気弁7を開いて空気を吸入する。以下、順次各工程を繰り返す。
【0028】
また、例えば圧縮比を高めて運転することで、図2に示した圧縮工程に続いて燃焼(爆発)を起こさせた際、ノッキングの原因となる異常燃焼(高温燃焼)が起こることがある。すなわち、このような異常燃焼によって燃焼室3側の圧力(σ1)は予め設定した設定圧(σ)より高い圧になることがある。すると、図2、図3に示したようにバルブ23が下降して第2の孔21(流路19)が閉塞され、燃焼室3側と副室18とが遮断されることにより、燃焼室3側と副室18側とは一時的に大きな圧力差が生じる。このようにして大きな圧力差が生じ、燃焼室3側の圧力が副室18側の圧力に比べて非常に大きくなると、この圧力差によって稼働部12が図3に示すように凹部9の底面9a側に下降する。
【0029】
すると、燃焼室3側は容積可変室17が拡がってその容積が大きくなることで圧力が低下し、ノッキングが回避(抑制)される。一方、副室18は稼働部12に押されて容積が小さくなり、圧力が高まる。しかし、副室18側の圧力が所定圧、すなわち予め設定されている第1基準圧以上に高くなると、リリーフ弁27が開き、副室18側のガスが排気されてブローバイを通じて吸気管(図示せず)に排出される。このようにして副室18側が排気され、副室18側の圧が第2基準圧未満に低くなると、リリーフ弁27が閉じ、副室18側は所定圧に保持される。
【0030】
そして、圧縮工程後、前記の異常燃焼を経て膨張工程になり、図4に示すようにピストン4が下降する。すると、燃焼室3側の圧力が低下し、予め設定した設定圧未満になることにより、バルブ23はバネ24の付勢力によって再度上昇し、第2の孔21が開通する。これにより、燃焼室3側と副室18側とが連通するため、燃焼室3側と副室18とは同じ圧力となる。そして、燃焼室3側の圧力と副室18側の圧力とが同じになることにより、副室18側から稼働部12を押し戻す力が強くなり、稼働部12が燃焼室3側に移動(上昇)する。これにより、稼働部12は図1に示した状態となる。
その後、排気工程を経て再度吸入工程となり、以下、順次各工程を繰り返す。
【0031】
以上説明したように、ノッキングを起こすような異常燃焼(高温燃焼)が生じない場合には、図1、図2の工程を図1→図2→図1→図2のように順次繰り返す。また、ノッキングを起こすような異常燃焼を生じた場合には、図1〜図4の工程を、図1→図2→図3→図4→図1のように辿ることになる。
なお、流路19には燃焼室3内に新たに吸入された空気しか流入せず、排気工程時には流路19内から空気が排出されるため、流路19の入口やその内部にすすや未燃物質が付着し、流路19が詰まることはない。
【0032】
次に、バネ24のバネ定数について、図5を参照して説明する。
バネ24は、前記したようにバルブ23を上方(頂面4a側)に付勢するものであり、そのバネ定数は以下のようにして設定される。
なお、以下の説明に使用する記号の意味と単位を、次に示す。
【0033】
・A ;容積可変室の底面の面積 ;m
・A ;副室の上面の面積 ;m
・V ;容積可変室の容積 ;m
・V ;副室の容積 ;m
・σ ;副室膨張後の燃焼室圧力 ;MPa
・σ ;副室膨張後の副室圧力 ;MPa
・σmax ;副室作動開始圧力 ;MPa
・σ ;バルブ閉じ圧力 ;MPa
・A ;燃焼室側のバルブの面積 ;m
・A ;副室側のバルブの面積 ;m
・k ;バネ定数 ;N/m
・P ;副室作動後のバルブにかかる力(燃焼室側);N
・P ;副室作動後のバルブにかかる力(副室側) ;N
・L ;稼働部作動時の変位量 ;m
【0034】
なお、副室膨張後とは、図5に示すように、稼働部12が上昇して副室18が最大の容積になった状態をいう。
また、副室作動開始圧力(σmax)とは、稼働部12が下降して副室18の容積が小さくなるとき、すなわち稼働部12が下降(作動)するときの、容積可変室17(燃焼室3側)の圧力である。
【0035】
バネ24は、燃焼室3と容積可変室17とを合わせた燃焼室3側の圧力が所定の圧力σmax[MPa]に達したときに、稼働部12が下降して燃焼室3側、すなわち容積可変室17が拡大するように、値を求める。
【0036】
まず、稼働部12が作動(下降)して欲しい圧力(σmax)より、バルブ23が閉じるタイミングの圧縮圧力(バルブ閉じ圧力σ)、すなわち予め設定した設定圧(σ)を求める。
σ=(σmax×A)/A [MPa] …(1)
求めた、圧縮圧力および燃焼室3側のバルブ面積より、バネ定数(バネの力)を求めることができる。
k=σ×A [N/m] …(2)
【0037】
次に、稼働部12の、副室18側の面積、すなわち副室18の上面の面積(A)と、燃焼室3側の面積、すなわち容積可変室の底面の面積(A)、およびσmaxから、燃焼室3側のバルブ23の面積Aと、副室18側のバルブ23の面積Aを求める。
なお、以下の計算式では、稼働部12の作動(下降)中に、エンジンの回転による容積可変室17の容積の変化が無いと仮定している。
まず、燃焼により、副室18側が作動(稼働部12が下降)した際の、燃焼室圧力σおよび副室圧力σを求める。
σ=(σ×V)/(A×L) [MPa] …(3)
σ=(σmax×V)/(A×L) [MPa] …(4)
【0038】
次に、副室18作動後(稼働部12が下降後)のバルブ23の燃焼室3側および副室18側に生じる力PおよびPを求める。
=σ×A [N] …(5)
=σ×A [N] …(6)
このとき、P>Pでなければならない。P<Pの場合は、バルブ23が開いてしまい、副室18側の空気が燃焼室3側に流出し、その結果、燃焼室3側の圧力を高めてしまうからである。
以上の計算のもとに、バネ24のバネ定数を設定することができる。
【0039】
以上に説明したように、本実施形態のレシプロエンジン1にあっては、燃焼によって燃焼室3が予め設定した設定圧以上になると、バルブ23が流路19(第2の孔21)を閉じる。また、燃焼がノッキングを起こすような高温燃焼になると、燃焼室3側と副室18との間の圧力差によって稼働部12が凹部9の底面9a側に移動する。すると、容積可変室17の容積が大きくなるため、これに連通する燃焼室3内の圧力が下がり、定常燃焼に戻る。これにより、制御系による複雑な制御を行うことなく、ピストンの構造によって高温燃焼によるノッキングを抑制し、排気ガスの清浄度の低下を防止することができる。
【0040】
また、流路19の、バルブ23と副室18との間にリリーフ弁27を設けたので、ノッキングを起こすような高温燃焼が生じ、稼働部12が下降して副室18の容積が縮小した際、上昇した圧をリリーフ弁27で容易に逃がすことができる。
また、バルブ23が、バネ24の付勢力によって流路19の開閉を行うよう構成されているので、バネ24のバネ定数を前記計算に基づいて設定することにより、高温燃焼によるノッキングを確実に抑制することができる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、流路の形成位置やその構成、さらには流路へのバルブの設置等については、前記実施形態に限定されることなく、種々の形態に設計することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…レシプロエンジン、3…燃焼室、4…ピストン、4a…頂面、9…凹部、9a…底面、12…稼働部、17…容積可変室、18…副室、19…流路、23…バルブ、24…バネ、27…リリーフ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、該シリンダとともに燃焼室を形成する頂面を有するピストンと、を備えたレシプロエンジンであって、
前記ピストンの頂面側に設けられて前記燃焼室に連通する凹部と、
前記凹部内の、前記頂面側と該凹部の底面側との間に気密に配設され、かつ、前記頂面側と前記底面側との間を摺動可能に設けられて、前記頂面側に前記燃焼室に連通する容積可変室を形成し、前記底面側に副室を形成する稼働部と、
前記ピストンの、前記凹部の外側に設けられて前記燃焼室と前記副室とを連通させる流路と、
前記流路に設けられて、前記燃焼室が予め設定した設定圧以上になると前記流路を閉じ、前記燃焼室が前記設定圧未満になると前記流路を開くバルブと、を備えることを特徴とするレシプロエンジン。
【請求項2】
前記流路の、前記バルブと前記副室との間には、前記副室が予め設定した第1基準圧以上になると開いて排気し、前記副室が予め設定した第2基準圧未満になると閉じるリリーフ弁を有することを特徴とする請求項1記載のレシプロエンジン。
【請求項3】
前記バルブは、バネの付勢力によって前記流路の開閉を行うよう構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレシプロエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−44278(P2013−44278A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182414(P2011−182414)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】