説明

レジオネラ属菌の検出方法

【課題】レジオネラ属菌を、迅速、簡易、高感度かつ定量的に分離して検出する方法を提供する。
【解決手段】キャピラリー等電点電気泳動を用いることにより、レジオネラ属菌以外の微生物や夾雑物が存在する試料からレジオネラ属菌を良好に分離でき、迅速、簡易、高感度かつ定量的に検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ属菌の検出方法に関するものである。さらに詳しくは、キャピラリー等電点電気泳動を用いて、試料中に存在するレジオネラ属菌を、迅速、特異的、かつ高感度に、分離して検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌や淡水に生息するレジオネラ属菌は、冷却塔水、循環式浴槽水、温泉などの環境を広く汚染している。これらの汚染水やエアロゾルを吸入すると、レジオネラ肺炎を発症するため、その被害防止のために、環境中のレジオネラ属菌の検査は重要である。そこで、レジオネラ属菌の汚染源・感染源を迅速に突きとめ対処するために、レジオネラ属菌の迅速かつ特異的な検出方法が求められている。
【0003】
現在のレジオネラ属菌検査の公定法は、レジオネラ属菌を所定の培地を用いて培養することで検出する培養法である。また、培養法以外のレジオネラ属菌の試験法としては、レジオネラ属菌の細胞中の遺伝子を検出する、CycleavePCR法、ICAN法、LAMP法等を用いた遺伝子検出法や、イムノクロマト法等の免疫学的検出法も提案されている。
【0004】
なお、従来、微生物を迅速に、分離して検出する手法として、微細管内で微生物を含む試料を泳動させ、上記微細管内に仕込んだ抗体と、分離・検出対象である微生物とを反応させて検出する電気泳動技術が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、微細管内で微生物を泳動分離する際には、微生物細胞と細管内壁や、微生物細胞同士の相互作用が障害となる。これらの相互作用を防ぎ、微細管内で微生物を分離するため、泳動液にアルギン酸塩を含有させたキャピラリー電気泳動により、サルモネラ菌を検出する方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
さらに、アルギン酸塩はすべての微生物に対して、同様に分離効率を向上させる機能を有するものではないため、アルギン酸塩以外の添加剤として陰イオン性ポリマーを泳動液に配合した微細管電気泳動法による分離分析方法も提案されている(特許文献3)。その他にも、ポリエチレンオキサイドを泳動液に添加して、キャピラリー電気泳動を行なうことにより、酵母細胞を分離検出する方法が提案されている(非特許文献1)。
【0007】
また、上記特許文献1〜3及び非特許文献1に記載のキャピラリー電気泳動とは別原理の電気泳動として、キャピラリー等電点電気泳動がある。そして、このキャピラリー等電点電気泳動を用いて、微生物細胞を検出することが提案されている(非特許文献2)。実際に、キャピラリー等電点電気泳動を用いて、大腸菌、シュードモナス属菌、酵母細胞、HRVウィルスを検出する方法が提案されている(非特許文献3〜5)
【特許文献1】特開2002−345451(2002年12月3日公開)
【特許文献2】特開2002−181781(2002年6月26日公開)
【特許文献3】特開2006−170646(2006年6月29日公開)
【非特許文献1】Armstrong, D. W., and He, L., Determination of Cell Viability in Single or Mixed Samples Using Capillary Electrophoresis Laser-Induced Fluorescence Microfluidic Systems. Anal. Chem. 2001, 73, 4551-4557
【非特許文献2】鳥村政基,「キャピラリー電気泳動法による微生物の分離検出法」,月間フードケミカル,2005年2月,p.45−48
【非特許文献3】Armstrong, D. W., Schulte, G., Schneiderheinze, J. M., and Westenberg, D. J., Separating Microbes in the Manner of Molecules. 1. Capillary Electrokinetic Approaches. Anal. Chem. 1999, 71, 5465-5469
【非特許文献4】Shen, Y., Berger, S. J., and Smith, R. D., Capillary Isoelectric Focusing of Yeast Cells. Anal. Chem. 2000, 72, 4603-4607
【非特許文献5】Schnabel, U., Groiss, F., Blaas, D., and Kenndler, E., Determination of the pI of Human Rhinovirus Serotype 2 by Capillary Isoelectric Focusing. Anal. Chem. 1996, 68, 4300-4303
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来、種々のキャピラリー電気泳動やキャピラリー等電点電気泳動を用いた微生物の検出方法が提案されている。しかし、キャピラリーを用いた微生物の検出方法は、検出対象とする微生物の細胞壁の性質などに大きく左右される可能性があるため、同じ方法を異なる微生物に適用しても、常に良好な結果を得ることができるわけではない。
【0009】
また、上述した環境水中におけるレジオネラ属菌の汚染濃度は微量であるため、微量のレジオネラ属菌を高感度に検出する方法が求められる。
【0010】
そのため、キャピラリー電気泳動を用いて、高感度にレジオネラ属菌を検出するためには、サンプリングした試料を検出する際に何らかの手段で濃縮した後、レジオネラ属菌のみを分離して検出することが求められる。
【0011】
しかし、そもそも、特許文献1の方法は、微生物と微生物抗体とを反応させるための移動手段にすぎず、微生物細胞そのものを電気泳動的に分離するものではない。そのため、環境中の夾雑物の影響を受けやすい。
【0012】
特許文献2、3及び非特許文献1に記載の方法おいても、試料を濃縮する手段は用いていない。
【0013】
実際に、本願発明者らが検討した結果、上述したキャピラリー電気泳動を用いる細菌の検出方法では、レジオネラ属菌を十分に分離して検出することができなかった。
【0014】
非特許文献2では、キャピラリー等電点電気泳動を用いる方法が提唱されてはいるが、測定感度には課題があるとも指摘しており、具体的にキャピラリー等電点電気泳動を用いて微生物を検出する手段や、上記課題を解決する手段については、示唆も開示もされていない。非特許文献3及び4に開示されている技術は、レジオネラ属菌とは、全く異なる種類の細菌又は酵母の検出方法であり、環境中に微量に存在するレジオネラ属菌を高感度に検出する方法は示唆も開示もされていない。
【0015】
しかし、従来用いられているレジオネラ属菌検査方法の内、公定法である培養法は、検出までに7日間程度を要するため迅速性に欠ける。また、上述したPCR法、ICAN法、LAMP法等を用いた遺伝子検出方法では、遺伝子の増幅効率が反応条件の影響を受けるため定量性に欠け、イムノクロマト法では、当該検出方法に供する前に、検出対象の試料を2〜3日程度培養することが多いため迅速性に欠け、かつ、検出結果が色の変化等により定性的に表されるため定量性に欠ける。
【0016】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、レジオネラ属菌を、特異的、迅速、簡易、定量的かつ高感度に、濃縮、分離して検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、両性電解質溶液を用いたキャピラリー等電点電気泳動法を用いることにより、レジオネラ属菌を、その細胞壁が持つ等電点のpH領域に濃縮することで、良好に分離することができ、高感度に検出できることを見出した。これにより、レジオネラ属菌を単に定性的に検出できるだけでなく、特異的、迅速、簡易、定量的かつ高感度に測定できることを確認した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0018】
即ち、本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法は、上記課題を解決するために、試料中のレジオネラ属菌を検出する方法であって、キャピラリー等電点電気泳動を用いることを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法では、上記キャピラリー等電点電気泳動に用いるキャピラリー内の電気浸透流を防ぐために、キャピラリーの内壁表面が、当該内壁表面上に存在するイオン性解離基を遮蔽するコーティング材料で修飾されていることがより好ましい。
【0020】
また、本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法では、上記コーティング材料が、レジオネラ属菌の細胞壁と相互作用の無い化合物であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法では、上記コーティング材料がポリジメチルアクリルアミド又は直鎖ポリアクリルアミドであることがより好ましい。
【0022】
また、本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法では、試料中のレジオネラ属菌を特異的に蛍光標識する工程と、当該試料を用いてキャピラリー等電点電気泳動を行なう工程と、特異的に蛍光標識されたレジオネラ属菌に由来する蛍光を検出する工程とを含むことがより好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法は、以上のように、キャピラリー等電点電気泳動を用いるので、レジオネラ属菌を、その細胞壁が持つ等電点のpH領域に濃縮することで、試料中に存在するレジオネラ属菌以外の微生物や夾雑物から、レジオネラ属菌を良好に分離することができる。よって、高感度、かつ特異的によくレジオネラ属菌を検出することができるという効果を奏する。
【0024】
さらに、本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法は定量性を有するため、試料中に存在する菌体数を判別測定(定量分析)することも可能である。また、培養操作等の、レジオネラ属菌の増殖処理も不要であるため、迅速、かつ容易にレジオネラ属菌を検出できる。よって、迅速かつ高精度のレジオネラ属菌モニタリングシステムを確立することができるという効果を奏する。
【0025】
さらに、本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法を用いることにより、レジオネラ属菌によって汚染された環境水や食品を、早期に排除することが可能となるため、病気の発生を防止することができるという効果を奏する。また、患者の早期診断が可能になることから、レジオネラ属菌による被害の蔓延防止並びに早期治療を実現するという効果を奏する。さらには食品の衛生管理を厳格かつ効率的に行なうことができるため、品質管理期間を短縮することができ、賞味期限の延長も可能となり、ひいては食品流通の経済性に大きく向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法は、キャピラリー等電点電気泳動を用いるものであればよい。
【0028】
キャピラリー等電点電気泳動では、電解質溶液及び検出対象の試料をキャピラリーに充填した後、キャピラリー両端の陽極液と陰極液に電圧を印加すると、電解質溶液に含まれる両性電解質が、等電点の位置まで移動して停止する。このため、キャピラリー内には安定したpH勾配が形成される。注入された試料中のレジオネラ属菌は、その細胞表面の電荷成分による等電点に応じて、キャピラリー内のpH領域に濃縮される。一方、試料中に含まれるレジオネラ属菌以外の微生物は、同様に、その細胞表面の電荷成分による等電点に応じて、キャピラリー内における特定のpH領域に濃縮される。このようにレジオネラ属菌は濃縮され、他の微生物等から分離されることにより、高感度に検出される。
【0029】
本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法には、従来公知のキャピラリー等電点電気泳動装置、キャピラリー等電点電気泳動方法を好適に用いることができる。
【0030】
キャピラリー等電点電気泳動に用いるキャピラリーとしては、従来公知のキャピラリーを用いればよく、限定されるものではないが、例えば内径1〜150μm、長さ0.1〜100cmの中空管を挙げることができる。好ましくは内径20〜100μm、長さ1〜50cmの中空管をである。また、その材質としては特に制限されず、例えば、ガラス(ヒューズドシリカ)製やテフロン(登録商標)製等が挙げられる。
【0031】
また、上記キャピラリーは、その内壁表面のイオン性解離基を遮蔽するコーティング材料により、内壁表面が修飾されたキャピラリーを用いることが好ましい。これにより、イオン性解離基による電気浸透流の発生を防ぐことができるからである。
【0032】
ここで、「電気浸透流」とは、キャピラリー内壁表面に存在するイオン性解離基に由来する電荷が原因で、キャピラリー内の荷電した物質が、その電荷に応じてキャピラリー内壁表面付近とキャピラリー中心部とで偏在し、これに電圧が印加されることで、キャピラリー内壁付近と、中央とで逆方向の流れが生じることを言う。例えば、イオン性解離基は、通常マイナスに荷電しているため、キャピラリー内壁表面付近にプラスに荷電した物質が集まり、キャピラリー中心部にマイナスに荷電した物質が集まる。この状態でキャピラリーの両端に電圧が印加されると、キャピラリー内壁付近と、中央とで逆方向の流れが生じる。
【0033】
また、「イオン性解離基」とは荷電している官能基を言い、キャピラリーを構成する化合物が有するイオン性解離基であって、電気浸透流の原因となるイオン性解離基としては、例えば、シラノール基が挙げられる。
【0034】
即ち、「イオン性解離基を遮蔽する」とは、このイオン性解離基を覆い、その電荷の影響をキャピラリー内部に及ぼさないようにすることを言う。
【0035】
上記コーティング材料としては、キャピラリー内壁表面のイオン性解離基を遮蔽できる限り限定されるものではないが、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、あるいはポリジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0036】
上記コーティング材料は、さらに、レジオネラ属菌の細胞壁と相互作用の無い化合物であることが好ましい。これらの化合物を用いてキャピラリー内壁を修飾することにより、試料中に含まれるレジオネラ属菌を、再現性よく高い分離能をもって分離することが可能となる。このようなコーティング材料としては、例えば、上述したポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、あるいはポリジメチルアクリルアミド等が挙げられる。中でもポリジメチルアクリルアミドが好ましい。また、ポリアクリルアミドの中でも直鎖ポリアクリルアミドが好ましい。キャピラリーの内壁をポリジメチルアクリルアミド又は直鎖ポリアクリルアミドでコーティングしたキャピラリーを用いてキャピラリー等電点電気泳動を行なえば、後述の実施例で示すように、高感度にレジオネラ属菌を検出することができる。
【0037】
キャピラリー等電点電気泳動に用いる電解質溶液としては、両性電解質を溶かした水溶液である限り限定されるものではないが、pH3〜10の範囲に緩衝能を有するものが好ましく、pH4〜9の範囲に緩衝能を有するものがさらに好ましい。
【0038】
両性電解質として、一般的にはポリアミノポリスルホン酸混合物やポリアミノポリカルボン酸混合物、脂肪族ポリアミノポリカルボン酸の異性体等を用いる。バイオラッド社製、ファルマシア社製やベックマン社製等、試薬として市販されている電解質溶液を用いてもよい。
【0039】
陽極液としては、キャピラリーに充填した電解質溶液の中で、最も酸性の強い電解質溶液よりも低いpHを与える酸性の溶液である限り限定されるものではなく、また、陰極液としては、キャピラリーに充填した電解質溶液の中で最も塩基性の強い電解質溶液よりも高いpHを与えるアルカリ性の溶液を用いる限り、限定されるものではない。
【0040】
また、陽極液及び陰極液における電解質の濃度としては、目的とする検出精度や、用いる電解質溶液等に応じて適宜設定すればよいが、通常は、それぞれ1〜1000mMであり、2〜200mMの範囲の濃度にすることが好ましい。
【0041】
印加電圧は、求める測定速度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、キャピラリーの長さに対して、1kV/m〜500kV/mが例示でき、好ましくは2kV/m〜100kV/mであり、さらに好ましくは5kV/m〜20kV/mである。
【0042】
キャピラリー内への試料の注入方法は、特に制限されず、従来使用される重力法、加圧法及び減圧法のいずれも使用することができる。試料の注入量は、求める検出感度等に応じて適宜設定すればよく特に制限されるものではないが、通常、キャピラリー内全域に試料を満たすため、そのキャピラリーのサイズに依存する。例えば、0.1〜100μLが例示でき、好ましくは0.5〜100μLであり、さらに好ましくは0.5〜10μLである。0.1μLより少ない試料を注入する場合、極めて短いキャピラリーを必要とし、その結果、キャピラリー等電点電気泳動の持つ高分離能を発揮することが困難となり検出感度が低下する。また、100μLより多くの試料を注入する場合、極めて長いキャピラリーが必要となり、その結果、キャピラリーに十分かつ均一に電場をかけることが困難となり検出感度が低下する。
【0043】
ここで、キャピラリー等電点電気泳動と、キャピラリー電気泳動との検出感度について説明する。
【0044】
まず、キャピラリー電気泳動における試料の注入量について説明する。当該注入量は、以下の計算式(1)(Hargen-Poiseuille式)
注入量=(ΔPd4πt)/(128ηL)・・・(1)
(計算式(1)において、ΔP:キャピラリー両端間の圧力差、d:キャピラリー内径、t:時間、η:電解質溶液の粘度、L:キャピラリーの全長を示す。)
で示される。
【0045】
ここで、例えば、d=50μm、ΔP=50mbar、t=2sec、L=31.2cm、η=1(水の場合)、を上記計算式(1)に代入すると、注入量は約5nLとなる。
【0046】
また、キャピラリー等電点電気泳動における試料の注入量は、以下の計算式(2)
注入量=(d/2)2πL・・・(2)
で示され、これに、上記キャピラリー電気泳動と同じキャピラリーを用いて、キャピラリー全域に試料溶液を充填したと仮定して、d=50μm、L=31.2cmを代入すると、0.6μLとなる。
【0047】
つまり、キャピラリー電気泳動では試料注入量が数nLと少ないが、キャピラリー全域に試料溶液を注入できるキャピラリー等電点電気泳動では、試料注入量を数百nLとすることができるため、キャピラリー電気泳動に比べて数百倍の検出感度でレジオネラ属菌を検出することができる。
【0048】
次に、キャピラリー内で分離されたレジオネラ属菌を検出する方法について説明する。
【0049】
キャピラリー内で分離されたレジオネラ属菌の検出は、従来公知の分光学的、電気化学的、重量分析的方法のいずれの方法も使用することができるが、好ましくはUV−可視検出、蛍光検出、発光検出、光散乱検出等の光学検出法が挙げられる。中でも、検出の特異性と感度に優れていることから、蛍光検出法が好ましく、さらに好ましくはレーザー誘導蛍光検出法である。蛍光検出法としてレーザー誘導蛍光検出法を用いることで、レジオネラ属菌を高感度かつ特異的に検出することができる。具体的には、試料中のレジオネラ属菌を蛍光標識、又は、蛍光標識した抗体により標識することによって、蛍光的に検出することができる。よって、試料に対して、培養などの増殖処理を施すことなく、微量のレジオネラ属菌を精度よく分離検出することができる。
【0050】
なお、レーザー誘導蛍光検出法とは、レーザービームを蛍光物質に照射し、当該蛍光物質から発せられる蛍光を検出することで、蛍光物質を検出する方法であり、従来公知の方法、装置により実施することができる。
【0051】
レジオネラ属菌を蛍光標識する方法としては、例えば、免疫反応(抗原抗体反応)、細胞内酵素反応、核酸相補鎖形成反応等の反応を挙げることができるが、免疫反応が好ましい。試料に対して、特別な前処理をする必要が無く、特異性も優れているからである。
【0052】
免疫反応には、従来公知の蛍光色素標識抗体(単に蛍光抗体ともいう)を用いてレジオネラ属菌を蛍光標識すればよい。なお、酵素標識抗体(単に酵素抗体ともいう)を用いて酵素で標識してもよい。
【0053】
レジオネラ属菌を蛍光標識するために使用される蛍光試薬としては、特に制限されることなく従来公知若しくは将来知られうるものを広く挙げることができるが、具体的にはBODIPY FL(4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionic Acid, Succinimidyl Ester)(励起波長503nm、蛍光波長512nm、Invitrogen社製)、SYTO9(励起波長480nm、蛍光波長500nm、Invitrogen社製)、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)(励起波長490nm、蛍光波長520nm、Dojin社製)、TexasRed(励起波長596nm、蛍光波長620nm、Invitrogen社製)、TRITC(Tetramethylrhodamine Isothiocyanate)(励起波長541nm、蛍光波長572nm、Research Organics社製)、Cy3(N,N'-diethyl-indodicarbocyanine-5,5'-disulfonic acid)(励起波長552nm、蛍光波長565nm、Amersham Pharmacia Biotech社製)、Cy5(N,N'-di-carboxypentyl-indodicarbocyanine-5,5'-disulfonic acid)(励起波長650nm、蛍光波長667nm、Amersham Pharmacia Biotech社製)、Acridine Orange(励起波長490nm、蛍光波長530nm、640nm、Wako社製)、Ethidum Bromide(励起波長545nm、蛍光波長605nm、Dojin社製)、Propidum iodide(励起波長530nm、蛍光波長615nm、Dojin社製)、DAPI(4',6-Diamidino-2-phenylindole)、(励起波長358nm、蛍光波長461nm、Sigma社製)、Calcein(励起波長495nm、蛍光波長520nm、Dojin社製)、BCECF-AM 2',7'-Bis-(2-carboxyethyl)-5-(and-6)-carboxyfluorescein Acetoxymethyl Ester)(励起波長500nm、蛍光波長530nm、Invitrogen社製)、Evans blue(励起波長550nm、蛍光波長610nm、Wako社製)、Lucifer Yellow CH(励起波長430nm、蛍光波長535nm、ICN Pharmaceutical社製)、Dil(1,1'-dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethylindocarbocyanine perchlorate)(励起波長550nm、蛍光波長565nm、Invitrogen社製)、Dio(励起波長484nm、蛍光波長501nm、Invitrogen社製)、DioC6(3)(3,3'-Dihexyloxacarbocyanine Iodide)(励起波長480nm、蛍光波長501nm、Lambda Probe & Diagnostics社製)、Rhodamine123(励起波長500nm、蛍光波長540nm、Invitrogen社製)、Fluo-3(励起波長506nm、蛍光波長526nm、Dojin社製)、Calcium Green(励起波長506nm、蛍光波長526nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)350(励起波長346nm、蛍光波長 442nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)405(励起波長401nm、蛍光波長 421nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)430(励起波長433nm、蛍光波長 541nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)488(励起波長495nm、蛍光波長 519nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)532(励起波長532nm、蛍光波長 553nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)546(励起波長556nm、蛍光波長 573nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)555(励起波長555nm、蛍光波長 565nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)568(励起波長578nm、蛍光波長 603nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)594(励起波長590nm、蛍光波長 617nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)633(励起波長632nm、蛍光波長 647nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)647(励起波長650nm、蛍光波長 665nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)680(励起波長679nm、蛍光波長 702nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)700(励起波長702nm、蛍光波長 723nm、Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)750(励起波長749nm、蛍光波長 775nm、Invitrogen社製)、FDA(Fluorescein diacetate)(励起波長495nm、蛍光波長 520nm、Research Organics社製)、5-(and-6)-CFDA(5-(and-6)-Carboxyfluorescein diacetate)(励起波長495nm、蛍光波長 520nm、Biotium社製)、CTC(5-cyano-2,3-ditolyl tetrazolium chloride)(励起波長488nm、蛍光波長 602nm、DOJINDO LABORATORIES社製)、SYBR(登録商標)GreenI(励起波長494nm、蛍光波長 521nm、Cambrex社製)、SYBR(登録商標)GreenII(励起波長497nm、蛍光波長 513nm、Cambrex社製)、Flogen APC(励起波長561nm、蛍光波長 662nm、Far East Bio-Tec社製)、 Flogen B-PE(励起波長545nm、蛍光波長 575nm、Far East Bio-Tec社製)、Flogen C-PC(励起波長620nm、蛍光波長 642nm、Far East Bio-Tec社製)、Flogen R-PE(励起波長566nm、蛍光波長 575nm、Far East Bio-Tec社製)、Qdot(登録商標)525(励起UV波長領域、蛍光波長 525nm、Invitrogen社製)、Qdot(登録商標)565(励起UV波長領域、蛍光波長 565nm、Invitrogen社製)、Qdot(登録商標)585(励起UV波長領域、蛍光波長 585nm、Invitrogen社製)、Qdot(登録商標)605(励起UV波長領域、蛍光波長 605nm、Invitrogen社製)、Qdot(登録商標)655(励起UV波長領域、蛍光波長 655nm、Invitrogen社製)、Qdot(登録商標)705(励起UV波長領域、蛍光波長 705nm、Invitrogen社製)、Qdot(登録商標)800(励起UV波長領域、蛍光波長 800nm、Invitrogen社製)等を例示することができる。
【0054】
レジオネラ属菌を標識するために用いる蛍光抗体又は酵素抗体としては、レジオネラ属菌に特異的に結合する抗レジオネラ(Legionella pneumophila)抗体(以下、「抗体」には、特に断りの無い限り、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を包含するものとする)を用いればよい。
【0055】
本発明に係るレジオネラ属菌の検出方法が分析対象とする試料は、レジオネラ属菌による汚染が疑われる試料であればよく、特に限定されない。例えば、環境衛生分野では冷却塔水、循環式浴槽水、温泉、水道水、工場排水、浴場用水、下水道水、活性汚泥水を、医療分野では各種(疑)感染患者から採取される血液、尿、糞便、喀痰、髄液、膿、唾液などの生体試料を、また食品分野では食肉、卵、野菜、魚、飲料水などの原材料や種々の加工品を例示することができる。
【0056】
なお本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は当該実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1:蛍光標識したLegionella pneumophilaの検出〕
まず、BCYEa寒天培地(日研生物医学研究所製)で、36±1℃、5日間培養したLegionella pneumphila1白菌耳を、直径0.20μmの濾紙(Ministart(登録商標)、sartorius社製)を用いて濾過した純水2mLに、添加した。その後、ボルテックスミキサーにより懸濁したものをレジオネラ試料とした。
【0059】
次に、上記レジオネラ試料200μLと、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kits(Molecular Probes社製)200μLを混合することで、試料中のレジオネラ属菌を蛍光標識した。なお、上記LIVE/DEAD(登録商標)BacLight Bacterial Viability Kitsには、蛍光試薬としてSYTO9及びPropidum iodideが含まれている。
【0060】
次に、遮光して、25℃付近の室温で3分間静置した後、15,000rpmで5分間遠心して上清を取り除き純水200μLを加え、ボルテックスミキサーにより懸濁した。これに、4.0%Bio-Lyte(Bio-Rad社製)に0.7%のN,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)及び0.40%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む溶液200μLを添加して、キャピラリー等電点電気泳動に供するサンプルとした。
【0061】
キャピラリー等電点電気泳動及び蛍光の検出は以下のようにして行なった。
【0062】
キャピラリー等電点電気泳動装置として、BioFocus 3000 Capillary Electrophoresis System(Bio-Rad社製)を用いた。また、キャピラリーとして直鎖ポリアクリルアミド(LPA)コーティングキャピラリー(Bio-Rad社製;内径50μm、キャピラリー長24cm、有効長20cm)を用いた。印加電圧は20kVとした。具体的には、20kVの電圧を印加して4分間、等電点濃縮した後、陰極側の電解質溶液をCE-IEF Mobilizer(Bio-Rad社製)に交換して、引き続き26分間20kVの電圧を印加した。
【0063】
なお、サンプルは、100psiの圧力で20秒間導入した。また、電解質溶液には上記キャピラリー等電点電気泳動装置のメーカ推奨のものを用い、陽極液としては、20mM リン酸、陰極液としては、40mM NaOHを用いた。
【0064】
蛍光の検出は、レーザー励起蛍光λex/λem=488/520nm及びλex/λem=594/630nmの2波長同時測定で行なった。レーザー誘導蛍光検出器としては、本実施例で用いたキャピラリー等電点電気泳動装置に装備されていたものを用いた。
【0065】
キャピラリー等電点電気泳動の結果を図1に示す。
【0066】
なお、図1において、縦軸は蛍光強度(RFU)を、横軸は泳動時間(分)を示す。また、図1において破線で示すフェログラムは、生細胞を示し、左側の縦軸に対応しており、実線で示すフェログラムは、死細胞を示し、右側の縦軸に対応している。また、矢印aで示す領域は、上記等電点濃縮を行なった時間(4分)の範囲を示し、矢印bに示す領域は、上記等電点濃縮を行なった後の、電圧を印加した時間(26分間)を示している。なお、*印を付したピークがLegionella pneumophilaを示すピークである。
【0067】
図1に示すように、Legionella pneumophilaを示す極めてシャープなピークが確認された。また、生菌・死菌を識別して検出することが可能であることが確認された。
〔実施例2:蛍光標識したLegionella pneumophilaの検出及び定量性確認〕
まず、BCYEa寒天培地(日研生物医学研究所製)で、36±1℃、2日間培養したLegionella pneumphila 1白菌耳を、BCYEα液体培地(日研生物医学研究所製)10mLに添加し、36±1℃で1日間培養した。その培養液1mLを15,000rpmで5分間遠心して上清を取り除き、直径0.20μmの濾紙(Ministart(登録商標)、sartorius社製)を用いて濾過した後に、純水1mLを添加した。その後、ボルテックスミキサーを用いて懸濁したものを本実施例のレジオネラ試料とした。
【0068】
次に、レジオネラ試料180μLに、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kits(Molecular Probes社製)に含まれる試薬のうちSYTO9のみを180μL混合することで、レジオネラ試料中のレジオネラ属菌を蛍光標識した。
【0069】
次に、遮光して、25℃付近の室温で5分間静置した。その後、15,000rpmで5分間遠心して上清を取り除き、純水180μLを加えて、ボルテックスミキサーを用いて懸濁した。これに、4.0%Bio-Lyte(Bio-Rad社製)を180μL添加して、キャピラリー等電点電気泳動に供するサンプルとした。
【0070】
キャピラリー等電点電気泳動については、以下の実施例2−1〜2−4の各条件で行なった。
【0071】
〔実施例2−1〕LPAコーティングキャピラリーの使用、及びモビライザー(Bio-Rad社製)による移送
キャピラリー等電点電気泳動装置として、P/ACETMシステムMDQ(Beckman Coulter社製)を用いた。また、キャピラリーとして直鎖ポリアクリルアミド(LPA)コーティングキャピラリー(Bio-Rad社製;内径50μm、キャピラリー長31.2cm、有効長21cm)を用いた。
【0072】
上記レジオネラ試料の等電点濃縮については、20psiの圧力で60秒間導入後、20kVの電圧を10分間印加することで行なった。
【0073】
等電点濃縮後の上記レジオネラ試料の移送にはモビライザー(Bio-Rad社製、CE-IEF Mobilizer)を用いた。具体的には、電解質溶液として、陽極液に20mM リン酸、陰極液に40mM NaOHを用いて、等電点濃縮後に、陰極側の電解質溶液を当該モビライザーに交換して、引き続き約30分間、20kVの電圧を印加した。
【0074】
キャピラリー等電点電気泳動に供するサンプルとして、上記レジオネラ試料を1倍、2倍、5倍に希釈したものを用いた。
【0075】
キャピラリー等電点電気泳動の蛍光の検出については、レーザー励起蛍光λex/λem=488/520nmの波長を測定することで行なった。レーザー誘導蛍光検出器としては、本実施例で用いたキャピラリー等電点電気泳動装置に装備されていたものを用いた。
【0076】
〔実施例2−2〕LPAコーティングキャピラリーの使用、及び圧力による移送
電解質溶液には、上記キャピラリー等電点電気泳動装置のメーカ推奨のものを用いた。具体的には、陽極液としてeCAP cIEFゲル(Beckman Coulter社製)にリン酸を加えた91mMリン酸ゲル、陰極液として20mM NaOHを用いた。等電点濃縮後、引き続き10分間20kVの電圧を印加しながら、0.5psiの圧力でレジオネラ試料の移送を行なった。また、キャピラリー等電点電気泳動に供するサンプルは、レジオネラ試料を1倍、5倍、10倍に希釈したものを用いた。ここに記載の事項以外については実施例2−1と同じ方法で行なった。
【0077】
〔実施例2−3〕PDMAコーティングキャピラリーの使用、及び自製のモビライザーによる移送
キャピラリーとして、ヒューズドシリカキャピラリー(Polymicro technologies社製;内径50μm)の内壁を、ポリジメチルアクリルアミド(PDMA)でコーティングしたPDMAコーティングキャピラリー(自製;内径50μm、キャピラリー長31.2cm、有効長21cm)を用いた。
【0078】
ヒューズドシリカキャピラリーの内壁を、PDMAでコーティングする方法を以下に示す。
【0079】
ヒューズドシリカキャピラリーをアセトンで10分間洗浄後、1M NaOHで30分間洗浄し、さらに0.1M塩酸(和光純薬工業社製)で10分間洗浄後、純水で10分間洗浄した。次に、洗浄したヒューズドシリカキャピラリーに、3-Methacryloxypropyltrimethoxysilane、酢酸及びアセトンを体積比10:45:45で混合した溶液を充填し、両端をラバーセプタムで密栓した後、室温で一晩放置した。その後、アセトンで10分間洗浄し、脱気した純水で調製した2%(v/v)N,N-ジメチルアクリルアミドを含む溶液10mLに、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)50μL及び脱気した純水で調製した10%(w/v) ペルオキソ二硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)を含む溶液50μLを混合した溶液を充填した後、両端をラバーセプタムで密栓した。次に、50℃で2時間放置した後、約5℃で冷却した。次に、純水で10分間洗浄した。これによりPDMAコーティングキャピラリーを得た。
【0080】
等電点濃縮後のレジオネラ試料の移送については、次の方法で行なった。即ち、電解質溶液の陽極液として20mM リン酸、陰極液として40mM NaOHを用いて、等電点濃縮後、陰極側の電解質溶液を自製のモビライザーに交換して、引き続き15分間、20kVの電圧を印加した。自製のモビライザーとは13mM NaOH及び100mM NaClを混合したものである。なお、キャピラリー等電点電気泳動に供するサンプルには、レジオネラ試料を1倍、2倍、4倍に希釈したものを用いた。ここに記載の事項以外については実施例2−1と同じ方法で行なった。
【0081】
〔実施例2−4〕PVAコーティングキャピラリーの使用、及び圧力による移送
キャピラリーとして、ポリビニルアルコール(PVA)でコーティングされたキャピラリーであるeCAPTMニュートラルキャピラリー(Beckman Coulter社製;内径50μm、キャピラリー長31.2cm、有効長21cm)を用いた。また、ここに記載の事項以外については実施例2−2と同じ方法で行なった。
〔結果〕
実施例2−1で行なったキャピラリー等電点電気泳動の結果を図2に示し、当該キャピラリー等電点電気泳動に供したレジオネラ菌数と検出された蛍光のピーク高さとの関係を図3に示す。また、実施例2−2で行なったキャピラリー等電点電気泳動の結果を図4に示し、当該キャピラリー等電点電気泳動に供したレジオネラ菌数と検出された蛍光のピーク高さとの関係を図5に示す。実施例2−3で行なったキャピラリー等電点電気泳動の結果を図6に示し、当該キャピラリー等電点電気泳動に供したレジオネラ菌数と検出された蛍光のピーク高さとの関係を図7に示す。実施例2−4で行なったキャピラリー等電点電気泳動の結果を図8に示す。
【0082】
なお、図2、図4、図6、図8において、縦軸は蛍光強度(RFU)を示し、横軸は泳動時間(分)を示す。また、矢印aで示す領域は等電点濃縮を行なった時間の範囲を示し、矢印bに示す領域は等電点濃縮を行なった後の、電圧を印加した時間を示している。なお、*印を付したピークがLegionella pneumophilaを示すピークである。また、図2の(A)、(B)、(C)は、それぞれ、レジオネラ試料を1倍、2倍、5倍に希釈したサンプルを用いた結果を示す。図4の(A)、(B)、(C)は、それぞれ、レジオネラ試料を1倍、5倍、10倍に希釈したサンプルを用いた結果を示す。図6の(A)、(B)、(C)は、それぞれ、レジオネラ試料を1倍、2倍、4倍に希釈したサンプルを用いた結果を示す。
【0083】
また、図3、5、7において、縦軸は蛍光強度(RFU)を示し、横軸は菌濃度を示す。なお、図3及び図5の横軸の菌濃度は、各サンプルの濁度を島津ミルトン・ロイ分光光度計(型式:スペクトロニック20A、島津製作所製)により、OD620nmを測定することで算出したものである。図7の横軸の菌濃度は、上記レジオネラ試料の希釈率に対応している。つまり、図7に示す点は、横軸の0.25、0.5、1に対応する位置にプロットされており、それぞれ希釈率4倍、2倍、1倍に対応している。
【0084】
図2、図4、図6、図8に示すように、いずれの実施例においてもLegionella pneumophilaを検出できた。中でも、実施例2−1〜2−3において、Legionella pneumophilaを示す極めてシャープなピークが確認された。一方、実施例2−4の条件では、Legionella pneumophilaはブロードなピークとして確認された。以上のことから、キャピラリーのコーティング剤としてLPA又はPDMAが優れていることが示された。これは、LPA又はPDMAをコーティング剤とすることによる、Legionella pneumophilaの等電点濃縮の効率、及びキャピラリー内の電気浸透流の発生を防ぐ効果が、他のコーティング剤より優れていることを示している。この結果から、LPA又はPDMAをコーティング剤とすることで、より高効率にLegionella pneumophilaを分離することができることが示された。
【0085】
また、図3、図5、図7に示すように、実施例2−1〜2−3のいずれの条件においても、レジオネラ菌数は蛍光のピーク高さと比例関係にあることが示された。このことから、本発明に係る方法によって、試料中のレジオネラ菌を定量的に測定できることが示された。
【0086】
〔実施例3:蛍光標識したポリクローナル抗体を用いたLegionella pneumophilaの検出〕
実施例1と同様に調製したレジオネラ試料200μLに、10μLの抗Legionella pneumophilaポリクローナル抗体溶液(Anti-Legionella pneumophilla, FITC Conjugate 6053(ViroStat社製,免疫動物Rabbit)を10倍希釈した溶液)を添加して、試料中のLegionella pneumophilaを蛍光標識した。なお、当該ポリクローナル抗体は、FITCで蛍光標識されている。
【0087】
次に、遮光して25℃付近の室温で15分間静置した後、4.0%Bio-Lyte(Bio-Rad社製)に0.7%のN,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)及び0.40%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む溶液210μL添加して、キャピラリー等電点電気泳動に供するサンプルとした。
【0088】
キャピラリー等電点電気泳動及び蛍光の検出は、実施例1と同様の方法で行なった。この結果を図9に示す。
【0089】
なお、図9において、縦軸は蛍光強度(RFU)を、横軸は泳動時間(分)を示す。また、破線で示すフェログラムは、蛍光標識したポリクローナル抗体で標識したLegionella pneumophila試料をキャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示し、実線で示すフェログラムは、蛍光標識したポリクローナル抗体溶液をキャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す。また、矢印aで示す領域は、上記等電点濃縮を行なった時間(4分)の範囲を示し、矢印bに示す領域は、上記等電点濃縮を行なった後の、電圧を印加した時間(26分間)を示している。なお、*印を付したピークがLegionella pneumophilaを示すピークである。
【0090】
図9に示すように、Legionella pneumophilaを示す極めてシャープなピークが確認された。また、蛍光標識したポリクローナル抗体を用いても、Legionella pneumophilaが等電点濃縮され、これを良好に検出可能であることが確認された。
【0091】
〔実施例4:蛍光標識したモノクローナル抗体を用いたLegionella pneumophilaの検出〕
Fluorescein labeling kit(同仁化学社製)を用いて、手順書に従い抗Legionella pneumophilaモノクローナル抗体(Anti-Legionella pneumophilla LPS・ab8263(Abcam社製,免疫動物Mouse[2F10]))をFITCで蛍光標識した。このモノクローナル抗体を用い、上記実施例2に記載の方法と同様の方法でLegionella pneumophilaの蛍光標識を行った。
【0092】
キャピラリー等電点電気泳動及び蛍光の検出は実施例1と同様に行なった。この結果を図10に示す。なお、図10において、縦軸は蛍光強度(RFU)を、横軸は泳動時間(分)を示す。また、破線で示すフェログラムは、蛍光標識したモノクローナル抗体で標識したLegionella pneumophila試料をキャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示し、実線で示すフェログラムは、蛍光標識したモノクローナル抗体溶液をキャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す。また、矢印aで示す領域は、上記等電点濃縮を行なった時間(4分)の範囲を示し、矢印bに示す領域は、上記等電点濃縮を行なった後の、電圧を印加した時間(26分間)を示している。なお、*印を付したピークがLegionella pneumophilaを示すピークである。
【0093】
図10に示すように、Legionella pneumophilaを示す極めてシャープなピークが確認された。また、蛍光標識したモノクローナル抗体を用いても、Legionella pneumophilaが等電点濃縮され、これを良好に検出可能であることが確認された。
【0094】
このように、実施例1〜4の結果から、キャピラリー等電点電気泳動を用いることで、検出条件及び蛍光染色条件を様々な条件に変更してもLegionella pneumophilaは等電点濃縮され、これを良好に検出することが可能であることが確認された。
【0095】
〔実施例5:蛍光標識したLegionella pneumophila及びEscherichia coli(大腸菌)の検出〕
Escherichia coliはソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地で36±1℃、1日間培養した。その培養液1mLを15,000rpmで5分間遠心して上清を取り除き、直径0.20μmの濾紙(Ministart(登録商標)、sartorius社製)を用いて濾過した後、純水1mLを添加した。その後、ボルテックスミキサーにより懸濁したものを、大腸菌試料とした。大腸菌試料の蛍光標識については、実施例1に記載のLegionella pneumophilaの蛍光標識と同じ方法で行なった。
【0096】
レジオネラ試料については実施例2と同じ方法で調製した。
【0097】
また、キャピラリー等電点電気泳動及び蛍光の検出については、実施例2−2と同様に行なった。
【0098】
結果を図11に示す。図11において、縦軸は蛍光強度(RFU)を、横軸は泳動時間(分)を示す。また、矢印aで示す領域は、上記等電点濃縮を行なった時間の範囲を示し、矢印bに示す領域は、上記等電点濃縮後の電圧を印加した時間を示している。*印を付したピークがLegionella pneumophilaを示すピークであり、**印を付したピークがEscherichia coliを示すピークである。
【0099】
図11に示すようにEscherichia coliは11.5分付近に、Legionella pneumophilaは約14.3分付近に検出された。このピークの検出までの時間の差を利用することで、Legionella pneumophilaとEscherichia coliとを短時間で分離して検出できることが示された。
【0100】
〔比較例1〜5〕
種々の添加剤を電解質溶液へ添加したキャピラリー電気泳動を用いて、Legionella pneumophilaの検出を試みた。
【0101】
比較例1〜5に係る電解質溶液の組成を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1に示すアルギン酸ナトリウムは特許文献2で、ポリエチレンオキサイドは非特許文献1で、キャピラリー電気泳動に用いる電解質溶液への添加物であって、細菌の分離能に優れた添加物として開示されている化合物である。また、デキストラン硫酸ナトリウムは陰イオン性糖ポリマーの一種であり、陰イオン性糖ポリマーは特許文献3で、細菌の分離能に優れた添加物として開示されている化合物である。
【0104】
キャピラリー電気泳動は、装置として、Agilent Technologies社製キャピラリー電気泳動装置を用い、キャピラリーとして、ヒューズドシリカ管(Polymicro Technology社製;内径50μm、キャピラリー長47.5cm、有効長40cm)を用いて行なった。
【0105】
印加電圧は20KVとした。比較例1については紫外波長210nm、比較例2〜5については紫外波長235nmにおける吸光度を測定することによりピークの検出を行なった。
【0106】
結果を図12に示す。図12において、図12(A)〜(E)は、それぞれ、比較例1〜5の結果を示す。また、縦軸は、それぞれの紫外波長における吸光度(210nm/mAU又は235nm/mAU)を示し、横軸は泳動時間(min)を示す。なお、*印を付したピークは、Legionella pneumophilaを示す。
【0107】
図12(A)〜(D)に示されるように、比較例1〜4では、Legionella pneumophilaを示す良好なピークを得ることができなかった。また、図12(E)に示されるように、比較例5では、上記実施例1〜3に比べてLegionella pneumophilaを示すピークの幅が広く、また他のピークも多く現れ、特異的な検出を行なうことが不可能であることが確認された。このように、従来、微生物の分離検出に有効であるとされた種々の添加剤を用いてキャピラリー電気泳動を行なっても、Legionella pneumophilaを良好に検出することが不可能であること確認された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係るレジオネラ菌の検出方法は、レジオネラ属菌以外の微生物の影響を受けにくく、正確な検出が可能な方法として、冷却塔水や温泉水、循環風呂水等、レジオネラ属菌の検査が求められる分野で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】実施例1において、蛍光染色したLegionella pneumophilaを含む試料を、キャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す図である。
【図2】実施例2−1において、1倍、2倍、5倍に希釈して蛍光染色したレジオネラ試料を、キャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す図である。
【図3】実施例2−1において、キャピラリー等電点電気泳動に供した菌数と、当該キャピラリー等電点電気泳動によって分離されたLegionella pneumophilaに由来する蛍光ピーク高さと、の関係を示す図である。
【図4】実施例2−2において、1倍、5倍、10倍に希釈して蛍光染色したレジオネラ試料を、キャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す図である。
【図5】実施例2−2において、キャピラリー等電点電気泳動に供した菌数と、当該キャピラリー等電点電気泳動によって分離されたLegionella pneumophilaに由来する蛍光ピーク高さと、の関係を示す図である。
【図6】実施例2−3において、1倍、2倍、4倍に希釈して蛍光染色したレジオネラ試料を、キャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す図である。
【図7】実施例2−3において、キャピラリー等電点電気泳動に供した菌数と、当該キャピラリー等電点電気泳動によって分離されたLegionella pneumophilaに由来する蛍光ピーク高さと、の関係を示す図である。
【図8】実施例2−4において、蛍光染色したLegionella pneumophilaを含む試料を、キャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す図である。
【図9】実施例3において、蛍光標識したポリクローナル抗体を用いて蛍光標識したLegionella pneumophilaを含む試料を、キャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す図である。
【図10】実施例4において、蛍光標識したモノクローナル抗体を用いて蛍光標識したLegionella pneumophilaを含む試料を、キャピラリー等電点電気泳動に供した結果を示す図である。
【図11】実施例5において、キャピラリー等電点電気泳動に供した菌数と、当該キャピラリー等電点電気泳動によって分離されたLegionella pneumophilaに由来する蛍光ピーク高さと、の関係を示す図である。
【図12】比較例において、Legionella pneumophilaを含む試料を、各電解質溶液を用いたキャピラリー電気泳動に供した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のレジオネラ属菌を検出する方法であって、キャピラリー等電点電気泳動を用いることを特徴とするレジオネラ属菌の検出方法。
【請求項2】
上記キャピラリー等電点電気泳動に用いるキャピラリー内の電気浸透流を防ぐために、キャピラリーの内壁表面が、当該内壁表面上に存在するイオン性解離基を遮蔽するコーティング材料で修飾されていることを特徴とする請求項1に記載のレジオネラ属菌の検出方法。
【請求項3】
上記コーティング材料が、レジオネラ属菌の細胞壁と相互作用の無い化合物であることを特徴とする請求項2に記載のレジオネラ属菌の検出方法。
【請求項4】
上記コーティング材料が、ポリジメチルアクリルアミド又は直鎖ポリアクリルアミドであることを特徴とする請求項2に記載のレジオネラ属菌の検出方法。
【請求項5】
試料中のレジオネラ属菌を特異的に蛍光標識する工程と、
当該試料を用いてキャピラリー等電点電気泳動を行なう工程と、
特異的に蛍光標識されたレジオネラ属菌に由来する蛍光を検出する工程とを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレジオネラ属菌の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−109927(P2008−109927A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261881(P2007−261881)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】