説明

レジン歯用コーティング材キット

【課題】レジン歯に対する密着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有するハードコート層が形成できるレジン歯用コーティング材キットを提供すること。
【解決手段】(a)ポリウレタン樹脂、および(b)溶媒もしくは分散媒を含むプライマーと、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒、および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、を少なくとも含むレジン歯用コーティング材キットとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジン歯用コーティング材キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の歯科治療の分野において、一般的な生体歯牙組織の修復物・充填物と義歯・義歯床の材料としては、有機系の歯科用レジンが多用されている。この歯科用レジン材料を用いて歯科治療が行われるとき、少なくとも一部の歯科用レジン材料の表面が口腔内に露出する。このため、その歯科用レジン材料の表面が規定の仕上げ条件になるように研磨作業が必要となる。しかし、歯科用レジンは仕上げ研磨が難しい材料であり、これまでに、その研磨作業の効率化を達成するために、歯科用レジンの表面をコーティング材料にて処理する種々の技術が提案されてきた。
【0003】
そこで、有機系の樹脂コーティング材料、たとえば、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂などを用いて歯科用レジンの表面にコーティング層を設ける案が実用化されている。この方法は簡便操作で良好な光沢性が得られるが、上述のような樹脂のみからなるコーティング層では硬度が不十分であるため、磨耗性に劣るという問題がある。
【0004】
上述の問題を解決するために、種々の無機系材料からなるハードコート層が形成できる技術が開発されてきている。その一例として、歯科用レジンからなる人工歯の表面にダイヤモンドに近い性質を有する非晶質炭素からなるハードコート層を形成する技術が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−168936号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示される無機系の非晶質炭素のハードコート層に覆われる歯科用レジンからなる人工歯には、次のような問題がある。かかる無機系の非晶質炭素のハードコート層に覆われる歯科用レジンからなる人工歯は、有機系の樹脂コーティング層に覆われるレジン製の人工歯と比べて、ある程度磨耗性が向上する。しかし、無機系のハードコート層を形成する材料が硬くて脆い性質を有する点から、ハードコート層のレジン歯表面に対する密着性が低い。このため、ハードコート層が容易に剥離してしまう。その結果、レジン歯表面の耐摩耗性を抜本的に改善することは困難である。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、レジン歯に対する密着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有するハードコート層が形成できるレジン歯用コーティング材キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明のレジン歯用コーティング材キットは、(a)ポリウレタン樹脂、および(b)溶媒もしくは分散媒を含むプライマーと、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒、および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のレジン歯用コーティング材キットの一実施態様は、(a)前記ポリウレタン樹脂のガラス転移点が、37℃未満であることが好ましい。
【0010】
本発明のレジン歯用コーティング材キットの他の実施態様は、(a)前記ポリウレタン樹脂がハードセグメントとソフトセグメントから構成され、上記ソフトセグメントが、ポリカーボネート骨格由来であることが好ましい。
【0011】
本発明のレジン歯用コーティング材キットの他の実施態様は、(a)前記ポリウレタン樹脂が、アニオン性水分散ポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0012】
本発明のレジン歯用コーティング材キットの他の実施態様は、(i)前記有機ケイ素化合物が、反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、および、グリシドキシ基から選択される少なくとも1つの反応性有機官能基を含むことが好ましい。
【0013】
本発明のレジン歯用コーティング材キットの他の実施態様は、無機フィラー含有レジン歯に用いられるレジン歯用コーティング材キットであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レジン歯に対する密着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有するハードコート層が形成できるレジン歯用コーティング材キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るレジン歯用コーティング材キットの好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
(レジン歯用コーティング材キット)
本実施形態のレジン歯用コーティング材キットは、(a)ポリウレタン樹脂、(b)溶媒もしくは分散媒を含むプライマーと、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒、および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0017】
ここで、本実施形態のレジン歯用コーティング材キットを用いて、レジン歯の表面にコーティング処理する場合、コーティング処理は以下の手順で実施される。まず、レジン歯の表面にプライマーを塗布・硬化してプライマー層を形成する(プライマー層形成工程)。次に、このプライマー層上にコーティング材を塗布・硬化してハードコート層を形成する(ハードコート層形成工程)。レジン歯の表面に上記のような順にプライマー層とハードコート層が積層され、コーティング処理が完了する。
【0018】
上記によりコーティング処理されたレジン歯の最表面は、コーティング材の主成分である有機ケイ素化合物の重縮合によってマトリックス中にポリシロキサン結合が形成されたハードコート層で覆われる。それゆえ、コーティング処理されたレジン歯は優れた耐摩耗性を有する。
【0019】
さらに、コーティング処理されたレジン歯については、以下に説明するメリットがある。すなわち、この場合、ハードコート層と、レジン歯表面との間には、ポリウレタン樹脂を主成分とするプライマー層が存在する。そして、レジン歯表面とプライマー層とは、いずれも実質的に樹脂成分から構成されるため、親和性が高い。したがって、プライマー層が密着性向上および緩衝材の働きをするため、ハードコート層は、プライマー層を介して、レジン歯表面に対して高い密着性を有する。よって、本実施形態のレジン歯用コーティング材キットを用いて、レジン歯表面にコーティング処理すれば、レジン歯に対する密着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有するハードコート層が形成できる。
【0020】
なお、本実施形態のレジン歯用コーティング材キットによりコーティング処理されるレジン歯とは、レジン系材料で作成された歯冠修復・充填用材料、義歯用材料である。具体的には、たとえば、アクリルレジン歯もしくは無機質微粉末が20〜50wt%程度配合されている硬質レジン歯などの既成人工歯、あるいは無機粒子を50〜70wt%程度含む硬質レジン、硬質レジンよりも更に無機粒子含有量を高めるハイブリッド型硬質レジンもしくはコンポジットレジンなどの歯冠修復材料が挙げられ、公知のレジン歯であれば、特に限定されていない。
【0021】
本実施形態のレジン歯用コーティング材キットは、特に無機粒子を含有する硬質レジンおよびハイブリッド型硬質レジンに対して、優れた密着性および耐摩耗を示す。これは、レジンの表面から露出した親水性が高い無機粒子に対して、ウレタン結合などの極性基が水素結合の効果によって高い親和性を示すためであると考えられる。すなわち、歯科材料用の無機粒子としては、一般的にシリカが用いられ、そのシリカの表面に存在するシラノール基は、ウレタン結合と親和性が高い。また、シリカの表面は、通常シランカップリング材で表面処理されて用いられるが、完全に表面処理することは難しく、シラノール表面が残存していたり、過剰のシランカップリング材がオリゴマーとなって表面に吸着していたりすることで密着性には有利に働くと考えられる。
【0022】
本実施形態のレジン歯用コーティング材キットをレジン歯に施用するに際しては、その施用前に、密着性を向上させる目的でレジン歯の表面を適当な方法で前処理することが好ましい。前処理は、レジン歯の表面とプライマー層とを接着する阻害因子の排除、レジン歯の表面を粗面化することによる嵌合力の強化、レジン歯の表面に官能基の生成などの目的を達成するために行われる。前処理法としては、公知の前処理法であれば、特に限定されず、具体的な例としては、(1)有機溶剤による脱脂処理、(2)水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液など塩基性水溶液または、硫酸、塩酸酸性水溶液による化学的処理、(3)研磨剤を用いた研磨処理、(4)大気圧プラズマおよび低圧プラズマなどを用いたプラズマ処理、(5)コロナ放電処理、(6)火炎処理または(7)UVオゾン処理などを挙げることができる。これら前処理の中でもレジンの表面とプライマー層の密着性の観点から、有機溶剤による脱脂処理、アルカリによる化学的処理、プラズマ処理、またはコロナ放電処理、あるいはこれらを組合せた処理を行なうのが好適である。
【0023】
次に、本実施形態のレジン歯用コーティング材キットに含まれるプライマーおよびコーティング材を構成する各成分の詳細について説明する。
【0024】
<プライマー>
プライマーには、(a)ポリウレタン樹脂、(b)溶媒もしくは分散媒が含まれる。以下に各成分の詳細について説明する。
【0025】
(a)ポリウレタン樹脂
本実施の形態において、ポリウレタン樹脂とは、主鎖に複数のウレタン結合を有するポリマーの総称であり、通常、分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物とポリオールとの反応によって得られる。また、分子中には上記ウレタン結合の他に、ウレア、カルバミン酸、アミン、アミド、アロファネート、ビウレット、カルボジイミド、ウレトンイミン、ウレトジオンまたはイソシアヌレートなどの構造を有していても良い。
【0026】
ポリウレタン樹脂の原料として好適に使用できるイソシアネート基を有する化合物を例示すると、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4−ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート化合物;トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシナネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート化合物;これら芳香族イソシアネート化合物および/または肪族イソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で種々の方法で結合させたポリイソシアネート化合物またはポリイソシアネートオリゴマー化合物などが挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、分子中にイオウ原子またはハロゲン原子等を1または2以上含むものであっても良く、さらには上記ポリイソシアネートの変性体、ビュウレット、イソシアヌレート、アロファネート、カルボジイミドなどであっても良い。
【0027】
また、ポリウレタン樹脂の原料として好適に使用できる上記ポリオールとしては、低分子量ポリオールであっても良いが、イソシアネート基との反応速度を考えると、特に高分子ポリオールが好ましい。ここで、高分子ポリオールとは、重量平均分子量が500以上、より好適には500〜3000のものが該当する。また、ポリオールが有する水酸基の数は、プライマー膜の物性を良好に保つという点から、2〜6が好ましく、2〜4が特に好ましい。また、上記ポリオールの他に、水酸基と同様に活性水素基である、アミノ基、メルカプト基を有する化合物も、上記イソシアネート基を有する化合物と反応させるポリウレタン樹脂の原料として、一部使用しても良い。
【0028】
高分子ポリオールとしては、たとえば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシアルカン、ポリウレタンポリオールまたはそれらの混合物、あるいはシリコーンポリオールなどが挙げられる。
【0029】
ポリエステルポリオールの具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸などの二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのグリコール類もしくはそれらの混合物とを反応させて得られるポリエステルポリオール、たとえばポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)などのラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0030】
ポリエーテルポリオールの具体例としては、たとえば水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの低分子量ポリオールを開始剤として用いて、たとえばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなどのオキシラン化合物を重合させることにより得られるポリエーテルポリオールなどが挙げられる。
【0031】
ポリエーテルエステルポリオールの具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸などの二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、上記ポリエーテルポリオールとを反応させて得られるポリエーテルエステルポリオールなどが挙げられる。
【0032】
ポリエステルアミドポリオールの具体例としては、上記ポリエステル化反応に際し、たとえばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアミノ基を有する脂肪族ジアミンを原料として前記ポリエステル化反応物の原料に追加して反応させることによって得られるものなどが挙げられる。
【0033】
アクリルポリオールの具体例としては、1分子中に1個以上のヒドロキシル基を有する重合性モノマー、たとえばアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチルなどあるいはこれらの対応するメタクリル酸誘導体などと、たとえばアクリル酸、メタクリル酸またはそのエステルとを共重合させることによって得られるものなどが挙げられる。
【0034】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール−Aおよび水添ビスフェノール−Aからなる群から選ばれた1種または2種以上のグリコールとジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲンなどとを反応させることにより得られるものなどが挙げられる。
【0035】
ポリヒドロキシアルカンの具体例としては、イソプレン、ブタジエン、またはブタジエンとアクリルアミドなどとを共重合させて得られる液状ゴムなどが挙げられる。
【0036】
ポリウレタンポリオールの具体例としては、たとえば1分子中にウレタン結合を有するポリオールが挙げられる。
【0037】
さらに上記高分子ポリオール以外に、低分子量ポリオールを混合しても良い。これら低分子量ポリオールの具体例としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのポリエステルポリオールの製造に使用されるグリコール類や、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。さらに、メタノール、エタノール、プロパノール類、ブタノール類、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコールなどのモノオールも併用することができる。
【0038】
本実施の形態における(a)ポリウレタン樹脂は、好ましくは熱可塑性ポリウレタンエラストマーである。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、JISK7311に準拠して測定した伸び率が100%以上、より好適には350〜800%のものが用いられる。こうした熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、通常は、ウレタン結合を含んで構成された結晶性の凝集性成分であるハードセグメントと上述の高分子ポリオールからなる非晶性成分であるソフトセグメントとから構成されている。こうした熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントとのセグメント化のバランスにより諸物性を変化させることができる。このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とするプライマー層が存在することによって、後述のコーティング材への密着性をより優れたものに高めることができる。
【0039】
また、本実施の形態において、そのガラス転移点(Tg)が37度未満の(a)ポリウレタン樹脂を採用するのは好ましい。このようなポリウレタン樹脂から形成されているプライマー層は、レジン歯の基材に対する密着性が高いだけでなく、口腔内環境において柔軟性を有し、外部からの衝撃を緩衝する作用を高めることができる。また、低すぎるガラス転移点(Tg)は、耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。このため、ガラス転移点(Tg)が−50〜10度の範囲内の(a)ポリウレタン樹脂はより好ましく、ガラス転移点(Tg)が−30〜−20度の範囲内の(a)ポリウレタン樹脂は最も好ましい。ガラス転移点(Tg)は、動的粘弾性測定におけるtanδピーク温度から得ることができる。
【0040】
また、本実施の形態において、(a)ポリウレタン樹脂を構成するソフトセグメントは、ポリカーボネートポリオール骨格由来であることが好ましい。このようなポリウレタン樹脂を採用する場合、水素結合に関与する官能基が多いことに起因して、後述のコーティング材への密着性を高めることができる共に、形成されているプライマー層の耐加水分解性を向上することもできる。さらに、(a)ポリウレタン樹脂がポリカーボネートポリオール由来の骨格を有する場合には、ガラス転移点(Tg)を容易に上記範囲内とすることができる。
【0041】
(a)ポリウレタン樹脂は、それ自体が高粘度の樹脂であるため、通常、操作性の観点から、溶媒に溶解させるか、もしくは分散媒に分散させて使用する。しかし、環境保全および安全性の観点から、水に(a)ポリウレタン樹脂を均一に分散させる水分散系が好ましい。また、水分散系の場合、均一な塗膜を行うことができることから、分散粒径が小さいほど好ましく、具体的には分散粒の平均粒径が0.1μm以下が好ましく、0.05μm以下が特に好ましい。また、プライマー中における、(a)ポリウレタン樹脂の含有量は、特に制限されるものではないが、溶媒もしくは分散媒100質量部に対して2〜100質量部、より好ましくは10〜45質量部が好ましい。
【0042】
水への分散方法としては、強制乳化型、自己乳化型、水溶性化型が挙げられるが、塗膜性のよさ(分散粒径の小ささ)、塗布厚み制御の容易さ(薄膜塗布が可能)、および耐水性(口腔内での長期耐久性)の観点から、自己乳化型が好ましい。
【0043】
(a)ポリウレタン樹脂を自己乳化型として使用するためには、該ポリウレタン樹脂は、界面活性作用を有する基または原子団を導入し、その乳化性を高めたものであるのが好ましい。ここで、界面活性作用を有する基または原子団とは、水に対して親和性の高い基または原子団であり、水中で(a)ポリウレタン樹脂をエマルジョン化できる基または原子団であれば特に限定されるものではないが、好適な基または原子団としては、スルホニル基、カルボキシル基、またはそれらがアルカリ金属塩、アルキルアミン塩、またはアミン塩となった構造(原子団)などのアニオン性の界面活性作用を有する基または原子団;水酸基、ポリアルキレングリコール基などのノニオン性の界面活性作用を有する基;アミノ基またはアルキルアミノ基、またはそれらがスルホン酸塩あるいはアルキルスルホン酸塩となった構造(原子団)などのカチオン性の界面活性作用を有する基または原子団を挙げることができる。その中でも、分散粒径の小さくしやすさ、親水性の高さ、エマルジョンの安定性の高さおよび最終的に得られる製品の耐久性が良好であるという理由から、アニオン性の界面活性作用を有する基または原子団、特にカルボン酸のアルキルアミン塩を(a)ポリウレタン樹脂構造中に導入したものが好適である。
【0044】
(b)溶媒もしくは分散媒
プライマーには、通常、(a)ポリウレタン樹脂を均一に溶解または分散させるための溶媒もしくは分散媒として、水または有機溶媒が用いられる。ここで、水としては、貯蔵安定性および医療用成分に有害な不純物を実質的に含まない蒸留水や脱イオン水が好適に使用される。また、有機溶媒としては揮発性のものが好ましい。揮発性有機溶媒とは、常温で揮発性を有する有機溶媒を意味する。ここで当該「揮発性」とは、760mmHg(101.32KPa)での沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。なお、プライマーを調整するとき、水が含まれる場合に、溶媒もしくは分散媒として揮発性有機溶媒を用いるとき、当該揮発性有機溶媒は水溶性を示すものであることが好適である。これにより水との相溶性が確保できるためである。ここで、「水溶性」とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。揮発性有機溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら揮発性有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、揮発性有機溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコールおよびアセトンが好ましい。なお、溶媒もしくは分散媒の配合量としては、プライマーを調整する際に、(a)ポリウレタン樹脂の均一性を確保できれば、特に限定されない。
【0045】
また、本発明のプライマーには、本発明の効果を大きく阻害しない範囲でその他の成分を含んでも良い。その他成分の例としては、無機微粒子などのフィラー、ポリウレタン樹脂以外の樹脂、界面活性剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0046】
<コーティング材>
コーティング材には、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒、および、(iii)有機溶媒が少なくとも含まれる。なお、これら成分以外に、必要に応じて(i’)反応性有機官能基を有さない重縮合可能な有機ケイ素化合物や、(iv)無機酸化物ゾルなどの(v)その他の成分が含まれていても良い。
【0047】
(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物
コーティング材には、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物がかならず用いられるが、必要に応じて(i’)反応性有機官能基を有さない重縮合可能な有機ケイ素化合物も併用することができる。(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物と(i’)反応性有機官能基を有さない重縮合可能な有機ケイ素化合物の双方を(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物と総称する。ここで、ハードコート層の硬度確保の点から、コーティング材中に含まれる(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物の配合割合(すなわち、成分(i)と(i’)との総和)は、最終的に形成されるハードコート層100質量部に対し、30質量部以上が好ましく、30〜80質量部の範囲がより好ましく、35〜65質量部の範囲がさらに好ましい。重縮合が可能な有機ケイ素化合物の配合量を30質量部以上とすることで、ハードコート層のクラック発生を確実に抑制できるようになる。
【0048】
また、コーティング材に含まれる(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物の配合割合は、最終的に形成されるハードコート層100質量部に対し、30質量部以上が好ましく、30〜80質量部の範囲が好ましく、30〜60質量部の範囲がより好ましい。配合割合を30質量部以上とすることにより、反応性有機官能基と、有機ケイ素化合物が有するシラノール基あるいは有機ケイ素化合物を加水分解して生成するシラノール基が反応することで、ハードコート層の架橋密度を高めることができる。また、反応性有機官能基の存在は、有機ケイ素化合物の重縮合による剛直化を適度に緩和してハードコート層に適度な弾力性を付与し、硬化したハードコート層のクラック発生も抑制できる。また、配合割合を79.5質量部以下とすることにより、ハードコート層の硬度を低下させる反応性有機官能基の含有割合を適度に抑制できるため、優れた耐磨耗性を確保できる。
【0049】
コーティング材に用いられる(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物としては、ハードコート層、特に耐摩耗性や耐傷性の確保を目的としたハードコート層の形成に利用される公知の有機ケイ素化合物が制限なく利用できる。このような有機ケイ素化合物としては、通常は、シラノール基を有する有機ケイ素化合物や、加水分解してシラノール基を生成する各種のアルコキシシラン類が利用できる。
【0050】
本明細書において、「反応性有機官能基」としては、シラノール基と化学結合を生じせしめる反応性基を好適に採用できる。具体的には、エポキシ基、グリシドキシ基、オキセタン基など、イソシアネート基などの求電子性官能基;アミノ基、4級アンモニウム塩などの塩基性官能基;(メタ)アクリロイルオキシ基、アリル基、エチニル基、ビニル基、スチリル基、アリロキシ基などの、付加反応により形成する不飽和炭化水素基を有する官能基などが挙げられる。これらの中でも、シラノール基との反応性、保存安定性の観点から、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、およびグリシドキシ基が好ましい。さらには、上記反応性有機官能基のうち、脱水縮合を起こし、結合力の高いアミド結合を形成することから、アミノ基が最も好ましい。また、反応性有機官能基が、上記不飽和炭化水素基の場合には、不飽和炭化水素基の重合反応も行うため、ハードコート層の架橋密度をより高めることができる。
【0051】
このような(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物としては、たとえば、下記一般式(1)に示す化合物、ならびに、これらの化合物において一部もしくは全部を加水分解したもの、または、一部縮合したものが好ましく用いられる。
【0052】
一般式:(1)RSi(OR(3−a)
【0053】
式中RおよびRは、各々独立に置換基を有しても良い、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、または炭素数
5〜20のアリール基であり、RおよびRの少なくとも1つは置換基として反応性有機官能基を有するものであり、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、aおよびbは0または1の整数である。
【0054】
なお、一般式(1)中のRおよびRは、各々独立に置換基を有しても良い、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、または炭素数5〜20のアリール基であり、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、オクテニル基、ドコセニル基などのアルキル基;シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などのシクロアルキル基;プロペニル基、1−ブテニル基などのアルケニル基;フェニル基、ベンジル基、ナフチル基などのアリール基を挙げることができる。これらの置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基などのアルキル基;メトキシ基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、シアノ基、メルカプト基、前述の反応性有機官能基を挙げることができる。
【0055】
一般式(1)中のRは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、該アルキル基を具体的に例示すれば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などを挙げることができる。
【0056】
一般式(1)中、aは、それぞれ0または1の整数であるが、高硬度のハードコート層を得るという観点から、aは0であることが好ましい。
【0057】
一般式(1)で示される有機ケイ素化合物の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランおよびこれらが一部あるいは全部加水分解したものまたは一部縮合したものなどが挙げられる。
【0058】
プライマー層に対する密着性、耐歪性、または架橋密度向上と言う観点からは、RおよびRの少なくとも1つが、反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、およびグリシドキシ基から選択される基を有する有機ケイ素化合物が好適である。なお、これらの有機ケイ素化合物は、1種のみを使用しても2種類以上を組み合わせて併用しても良い。
【0059】
また、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物としては、上述した一般式(1)に示す化合物やその誘導体以外にも、下記一般式(2)で示される化合物、ならびに、これらの化合物において、一部もしくは全部を加水分解したもの、または、一部縮合したものを用いることも好適である。
【0060】
一般式:(2)X{SiR(OR3−c}
【0061】
式中Rは、各々独立に置換基を有しても良い、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、または炭素数
5〜20のアリール基であり、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは2価の有機残基または酸素原子であり、RおよびXから選ばれる少なくとも1つは置換基として反応性有機官能基を有するものであり、cは0〜2の整数である。
【0062】
一般式(2)中のRは、前記一般式(1)でRおよびRとして説明した基と同様のものが好適に使用できる。また、一般式(2)中のRも、前記一般式(1)でRとして説明した基と同様のものが好適に使用できる。
【0063】
一般式(2)中のXは2価の有機残基または酸素原子である。当該有機残基の構造は特に限定されるものではなく、1つ以上のアルコキシ基を有するケイ素原子が2個結合可能な基であれば何ら制限無く用いることができる。その構造中に、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、アミノ結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホニル結合などの炭素―炭素結合以外の結合を有していてもよく、さらにはオキサ基(ケトン炭素)が含まれていても良い。
【0064】
Xで示される2価の有機残基を具体的に挙げれば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基などの炭素数1〜15のアルキレン基;あるいは以下の化学式として示す基(ただし、下記化学式中、m、nおよびlは、それぞれ0〜10の整数である)、ならびに、これらの基に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基などのアルキル基;メトキシ基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、シアノ基、メルカプト基、前述の反応性有機官能基などが置換した基を挙げることができる。
【0065】
【化1】

【0066】
なお、一般式(2)中のcは0〜2の整数であるが、高硬度のハードコート層を得るという観点から0もしくは1であることが好ましい。
【0067】
本実施形態のレジン歯用コーティング材キットにおいては、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物以外にも、(i’)反応性有機官能基を有しない有機ケイ素化合物を添加することができる。具体例を例示すれば、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルメチルジメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−オクチルメチルジメトキシシラン、n−オクチルジメチルメトキシシラン、n−オクチルメチルジエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルメチルジメトキシシラン、n−オクタデシルメチルジエトキシシラン、n−オクタデシルジメチルメトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、トリエトキシシリルウンデカナル、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランおよびこれらが一部あるいは全部加水分解したものまたは一部縮合したものなどが挙げられる。
【0068】
なお、本実施形態のレジン歯用コーティング材キットにおいては、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物の該反応性有機官能基として、エポキシ基、およびグリシドキシ基を有するものを用いる場合は、ハードコート層の架橋密度を高める観点から、他のエポキシ化合物を併用しても良い。こうしたエポキシ化合物としては、公知のエポキシ化合物を何ら制限なく使用することができる。ここで言うエポキシ化合物とは、反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物とは異なり、シラノール基やアルコキシル基などを有さずエポキシ基を有する化合物のことを指す。エポキシ化合物の具体例として、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらエポキシ化合物は、2種以上混合して用いてもかまわない。
【0069】
また、本実施形態のレジン歯用コーティング材キットにおいては、(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物の該反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アリル基、エチニル基、ビニル基、スチリル基などの不飽和炭化水素を有する官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物を用いる場合も、ハードコート層の架橋密度を高める観点から、他のラジカル重合性単量体を併用しても良い。こうしたラジカル重合性単量体としては、公知のものが何ら制限なく使用することができるが、(メタ)アクリレート系のものが好適である。
【0070】
(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒
本実施形態のレジン歯用コーティング材キットでは、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物の重合を促進する目的で、コーティング材中に有機ケイ素化合物の重縮合用触媒を配合させる。この触媒としては、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物中に含まれるアルコキシシリル基を加水分解、縮合させる機能を有するアルカリ金属アルコキシド、酸、塩基性化合物、過塩素酸塩、アセチルアセトネート錯体、有機金属塩などの公知のものが何ら制限無く使用できる。
【0071】
アルカリ金属アルコキシド
ここで、アルカリ金属アルコキシドとしては、下記一般式(3)で示されるものが好適に用いられる。
【0072】
一般式:(3)MOR
(M:アルカリ金属、R:アルキル基)
【0073】
ここで、一般式(3)中、Mとしては公知のアルカリ金属が利用できるが、特にリチウム、ナトリウムが好ましい。また、Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜10の範囲のアルキル基が好ましく、特にメトキシド、エトキシドが好ましい。一般式(4)で示されるアルカリ金属アルコキシドの具体例としては、リチウムメトキシド、リチウムエトキシドなどが挙げられる。一般式(3)で示されるアルカリ金属アルコキシドは固体であるため、コーティング材の調製の際には、メタノールなどのアルカリ金属アルコキシドを溶解可能な溶媒に溶解させて用いると良い。このとき、溶媒は共溶媒となるものであれば適宜選択可能である。
【0074】

酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、プロピオン酸などのカルボキシル基を有する有機酸、あるいは、塩化第二銅、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化アンチモンなどのルイス酸が挙げられる。これらの中でも、コーティング材の保存安定性、加水分解性の観点から、塩酸や硫酸などが好適に使用される。なお、コーティング材の調整に際して、これら触媒を溶解させた溶液を用いる場合、その濃度は0.01〜5mol/l程度の範囲内とすることが好ましい。
【0075】
塩基性化合物
塩基性化合物としては、アンモニア、メチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが上げられる。これらの中でも、コーティング材の保存安定性、加水分解性の観点から、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好適に使用される。なお、コーティング材の調整に際して、これら触媒を溶解させた溶液を用いる場合、その濃度は0.01〜5mol/l程度の範囲内とすることが好ましい
【0076】
過塩素酸塩
過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アンモニウムなどが挙げられる。硬化性の観点から、過塩素酸アンモニウムが好ましい。
【0077】
アセチルアセトネート錯体
アセチルアセトナート錯体は、公知の化合物から、コーティング材への溶解性、コーティング材の保存安定性やコート膜の硬度などの物性を考慮して適宜に請託すれば良い。その具体例を示せば、Li(I)、Cu(II),Zn(II),Co(II),Ni(II),Be(II),Ce(III),Ta(III),Ti(III),Mn(III),La(III),Cr(III),V(III),Co(III),Fe(III),Al(III),Ce(IV),Zr(IV),V(IV)などを中心金属原子とするアセチルアセトナート錯体を挙げることができる。硬化性の観点から、Al(III)、Fe(III)、Li(I)を中心金属とするアセチルアセトネート錯体などが特に好ましい。またこれらアセチルアセトナート錯体は、単独で使用しても2種以上を混合して使用しても何ら問題はない。
【0078】
有機金属塩
有機金属塩としては、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、後述するような二価のカルボン酸塩などの有機金属塩をあげることができる。有機酸の金属塩としては、2価のカルボン酸ズズ塩を用いることもできる。この2価のカルボン酸スズ塩を構成するカルボン酸を具体的に例示すると、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸などの直鎖飽和脂肪酸類;ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸などのモノエン不飽和脂肪酸類;リノール酸、リノレン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、4,8,12,15,18−エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などなどのポリエン不飽和脂肪酸類;イソ酸、アンテイソ酸などの枝分れ脂肪酸類;タリリン酸、ステアロール酸などの三重結合をもつ脂肪酸類;炭素数11以上のナフテン酸、マルバリン酸などの脂環式カルボン酸類;サビニン酸、2−ヒドロキシテトラデカン酸などの含酸素脂肪酸類;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類などが挙げられる。
【0079】
また、2価のカルボン酸スズ塩の触媒活性をより高める触媒活性促進剤として、アミン化合物を併用しても良い。
【0080】
このアミン化合物の具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミンなどの脂肪族第一アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミンなどの脂肪族第二アミン類;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−エチルジアリルアミン、N−エチルジベンジルアミン、トリエタノールアミン、トリ(イソプロパノール)アミン、トリ(2−ヒドロキシブチル)アミン、トリアリルアミン、トリベンジルアミントリヘキシルアミン、などの脂肪族第三アミン類;トリアリルアミン、オレイルアミン、などの脂肪族不飽和アミン類;アニリン、ラウリルアニリン、トルイジンなどの芳香族第1級アミン化合物;N−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジンなどの芳香族第2級アミン化合物;N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルなどの第3級アミン化合物などの芳香族アミン類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのアミン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上併用しても良い。
【0081】
上記の重合触媒は、その効果が発揮される範囲において、2種以上併用しても良い。また、上記重合触媒の配合量は特に制限されないが、最終的に形成されるハードコート層100質量部に対して、0.01質量部〜5.0質量部の範囲内が好ましく、0.1〜3.0質量部の範囲内がより好ましい。
【0082】
(iii)有機溶媒
本実施形態のレジン歯用コーティング材キットに使用する(iii)有機溶媒は、(I)に示す重縮合可能な有機ケイ素化合物や、必要に応じ配合されるエポキシ化合物、また、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒を溶解し、かつ、揮発性を有するものであれば公知の有機溶媒を何ら制限なく使用することができる。このような有機溶媒を例示すれば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチルなどのエステル類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類が挙げられる。これら有機溶媒は、単独で使用してもかまわないが、コーティング材の物性を制御する目的のために2種以上を混合して用いるのが好ましい。なお、メチレンクロライドなどのハロゲン化炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類などの水との相溶性の低い有機溶媒も、上記したような水との相溶性の高い有機溶媒と混合することにより、全体として水を相溶する混合溶媒として用いるのであれば使用可能である。
【0083】
これら有機溶媒の中でも、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物および(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒に対する溶解性の良好さや、ハードコート層形成時の揮発性の容易さ、更にはハードコート層形成時の平滑性という観点から、アルコール類、エーテル類、ケトン類を用いるのが好ましく、特に、メタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルなどを使用するのが好適である。
【0084】
(iii)有機溶媒の配合量は特に限定されないが、通常、コーティング材の固形分100質量部に対し、100〜2000質量部の範囲が好ましく、150〜1000質量部の範囲がより好ましい。
【0085】
(iv)無機酸化物ゾル
ハードコート層の硬度や固結性をより高めるために、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物に加えて、シリカゾルや、シリカゾルをベースとした組成に他の金属酸化物成分を含むシリカ系ゾルなどの無機酸化物ゾルを併用しても良い。コーティング材中に含まれる無機酸化物ゾルの配合量は、最終的に得られるコーティング層の目的に応じ所望の物性などにより適宜決定すれば良い。具体的には、配合量は、あまり多すぎても(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物の配合量が少なくなり、クラックを生じる原因になるため、最終的に形成されるハードコート層100質量部に対し70.5質量部以下にするのが好適である。無機酸化物ゾルを全く用いない場合と比べて、十分な硬度向上や固結性向上効果が得られる観点からは、最終的に形成されるハードコート層100質量部に対し20.5〜70質量部の範囲がより好ましく、35〜65質量部の範囲が特に好ましい。
【0086】
(v)その他の成分
コーティング材の調整には、その他の成分として、水を用いることができる。ここで、コーティング材として利用する(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物が、アルコキシシランであり、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒として酸触媒を用いる場合は、コーティング材中に含まれるアルコキシ基に対して、モル比で0.1倍〜3倍程度となるように配合するのが好適である。
【0087】
<包装形態>
本実施形態のレジン歯用コーティング材キットを構成するプライマーおよびコーティング材の包装形態は特に限定されるものでは無いが、たとえば、プライマーは、各成分を一包装に混合した形態であっても良く、この場合、使用時に調合操作が不要になり効率的である。
【0088】
一方、コーティング材は、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物と(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒とを共存させた包装形態では経時劣化するため、通常は、これら両成分を分けて2つ以上の包装で保存し、コーティング処理の直前に1液に混合して使用する形態にすることが特に好適である。具体的には、(I)重縮合可能な有機ケイ素化合物、および必要に応じて配合する触媒以外の成分の包装と、(ii)有機ケイ素化合物の重縮合用触媒の包装であり、後者は通常、水に溶解した溶液とするのが好ましい。これらプライマーやコーティング材を2つ以上の包装とする場合、各部材を、膜などで仕切られた2室を有する1つの容器に分別収容し、使用の前に該仕切りを取り除き、容器内でこれらの部材を1液に混合する形態とするのも大変効率的である。
【0089】
<レジン歯のコーティング処理方法>
以上に説明した本実施形態のレジン歯用コーティング材キットを用いれば、各種のレジン歯の表面に対してコーティング処理を実施することができる。この場合、レジン歯の表面部分については、コーティング処理に際して、そのままコーティング処理を行っても良いが、レジン歯の表面部分については研磨処理などの前処理を実施してから、コーティング処理を行うことは好ましい。これにより、レジン歯の表面とプライマー層とを接着する阻害因子の排除、レジンの表面を粗雑化することによる嵌合力の強化、レジンの表面に官能基の生成などの目的を達成できるためレジン歯の表面に対して確実に密着性よくプライマー層を形成することができる。
【0090】
そして、これらレジン歯の表面にプライマーを塗布・硬化してプライマー層を形成するプライマー層形成工程と、硬化のプライマー層上にコーティング材を塗布・硬化してハードコート層を形成するハードコート層形成工程とを順に経て、レジン歯の表面にコーティング処理を施すことができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0092】
まず、実施例および比較例で使用した被着体とその略称、プライマーとその略称、コーティング材の調製方法とその略称、コーティング処理後の外観評価方法、および歯ブラシ磨耗試験の方法について説明する。
【0093】
(1)被着体とその略称
<被着体>
R1(無機フィラー非含有レジン歯):アクリルレジン歯SR ANTARIS(Ivoclar Vivadent)
R2(無機フィラー含有レジン歯):2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン70重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート15重量部、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2−4−トリメチルヘキサン15重量部、カンファーキノン0.4重量部、ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル0.4重量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1重量部、球状シリカジルコニア(平均粒子径0.4μm)240重量部、微粒子シリカチタニア(平均粒子径0.07μm)160重量部を混合、解砕したものをγ−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシランにて表面処理を行ったフィラーを乳鉢でよく混練し、脱泡を行うことでハイブリッド型硬質レジン組成物を作製した。10×10×2mmのテフロン(登録商標)型に充填し、光重合2分(光照射器パールキュアライト、トクヤマデンタル製)、加熱重合100℃15分(加熱重合器パールキュアヒート、トクヤマデンタル製)を行うことで重合硬化体を得た。
【0094】
(2)プライマーとその略称
<プライマー>
P1〜P7は実施例に用いられ、ポリウレタン樹脂を主成分とし、該ポリウレタン樹脂が、水を主成分とし有機溶媒が一部併用された分散媒に分散されたプライマーである。いずれのポリウレタン樹脂も、ウレタン結合を含んで構成された結晶性の凝集性成分であるハードセグメントと、高分子ポリオールからなる非晶性成分であるソフトセグメントとから構成されている熱可塑性ポリウレタンエラストマーである。
P1:スーパーフレックス420(第一工業製薬製)、ポリウレタン樹脂のポリオール骨格(カーボネート系)、アニオン性、平均粒径0.01μm、ガラス転移点(Tg)=−10℃、伸び率290%、不揮発分32質量%
P2:スーパーフレックス150(第一工業製薬製)、ポリウレタン樹脂のポリオール骨格(エステル・エーテル系)、アニオン性、平均粒径0.07μm、ガラス転移点(Tg)=40℃、伸び率330%、不揮発分30質量%
P3:エバファノールHA−50C(日華化学製)、ポリウレタン樹脂のポリオール骨格(カーボネート系)、アニオン性、平均粒径0.09μm、ガラス転移点(Tg)=−25℃、伸び率450%、不揮発分35質量%
P4:スーパーフレックス650(第一工業製薬製)、ポリウレタン樹脂のポリオール骨格(カーボネート系)、カチオン性、平均粒径0.01μm、ガラス転移点(Tg)=−17℃、伸び率340%、不揮発分26質量%
P5:ハイドランWLS−213(DIC製)、ポリウレタン樹脂のポリオール骨格(カーボネート系)、アニオン性、平均粒径0.05μm、ガラス転移点(Tg)=−15℃、伸び率400%、不揮発分35質量%
P6:アデカボンタイターHUX401(ADEKA製)、ポリウレタン樹脂のポリオール骨格(エステル・アクリル系)、アニオン性、平均粒径0.2μm、ガラス転移点(Tg)=7℃、伸び率220%、不揮発分37質量%
P7:スーパーフレックスE2500(第一工業製薬製)、ポリウレタン樹脂のポリオール骨格(エステル系)、ノニオン性、平均粒径0.96μm、ガラス転移点(Tg)=42℃、伸び率360%、不揮発分45質量%

P8は、比較例に用いられるプライマーである。
P8:トクソーセラミックスプライマー(トクヤマデンタル製)
【0095】
(3)コーティング材の調製方法とその略称
<コーティング材>
C1:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン220g、テトラエトキシシラン467gを混合した。この液を十分に撹拌しながら、0.05Nの塩酸水溶液200gを添加し、添加終了後から5時間撹拌を継続した。次いで、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−70001)1.5g、Al(III)アセチルアセトナート6.0g、t−ブチルアルコール540g、ジオキサン590g、メタノール分散シリカゾル(日産化学工業(株)製、固形分濃度30wt%)1000gを混合し、5時間撹拌後一昼夜熟成させてコーティング材を得た。
C2:γ−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン220g、テトラエトキシシラン467gを混合した。この液を十分に撹拌しながら、0.05Nの塩酸水溶液200gを添加し、添加終了後から5時間撹拌を継続した。次いで、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−70001)1.5g、Al(III)アセチルアセトナート6.0g、t−ブチルアルコール540g、ジオキサン590g、メタノール分散シリカゾル(日産化学工業(株)製、固形分濃度30wt%)1000gを混合し、5時間撹拌後一昼夜熟成させてコーティング材を得た。
C3:樹脂コーティング材〔ウレタンアクリレートEbecryl230(ダイセルサイテック製)30重量部、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン25重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート15重量部、メチルメタクリレート30重量部、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド1重量部の混合物〕
【0096】
(4)コーティング処理後の外観評価方法
コーティング処理を行った後、得られたサンプルの表面性状を目視で観察し、均一で艶のあるコーティング層(プライマー層とハードコート層を含む)が形成されているものをA、一部均一ではないが艶のあるものをB、艶がなく外観不良なものをCとした。
【0097】
(5)歯ブラシ磨耗試験の方法
並列に14個並べた歯ブラシを歯磨きペースト(ホワイトアンドホワイト、ライオン製)の50%水スラリーで満たし、その上から400g荷重で得られたサンプルを押し付けることが可能な歯ブラシ摩耗試験機にサンプルを取り付け、ストローク10cm、10000回サイクルの条件で歯ブラシ摩耗試験を行った。試験後のハードコート層の残存率(0〜100%)を目視評価した。
【0098】
【表1】

【0099】
(実施例1)
前処理:表1に示す被着体R1の表面を#1500耐水研磨紙で研磨した後、蒸留水で5分間超音波洗浄した。トクヤマエッチングゲル(トクヤマデンタル製)で20秒間リン酸エッチングし、蒸留水で20秒洗浄した。
【0100】
コーティング処理:まず、被着体R1の表面をエアブローでよく乾燥した。続いて、被着体R1を表1に示すプライマーP1に浸漬して引き上げた後、エアブローで乾燥し、さらに、パールキュアヒートを用いて100℃5分間加熱処理した。次に、被着体R1を表1に示すコーティング材C1に浸漬して引き上げた後、エアブローで乾燥し、パールキュアヒートを用いて110℃2時間加熱した。これを、外観および耐摩耗性評価用サンプルとした。
【0101】
(実施例2〜12)
表1に示すプライマーとコーティング材との組み合わせからなるレジン歯用コーティング材キットをそれぞれ準備した。続いて、これらのレジン歯用コーティング材キットを用いて、実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
【0102】
(比較例1,2)
前処理:表1に示すそれぞれの被着体R1、R2の表面を#1500耐水研磨紙で研磨した後、蒸留水で5分間超音波洗浄した。トクヤマエッチングゲル(トクヤマデンタル製)で20秒間リン酸エッチングし、蒸留水で20秒洗浄した。
【0103】
コーティング処理:それぞれの被着体R1、R2を表1に示すコーティング材C1に浸漬して引き上げた後、エアブローで乾燥し、パールキュアヒートを用いて110℃2時間加熱した。これを、外観および耐摩耗性評価用サンプルとした。
【0104】
(比較例3)
表1に示すプライマーP8とコーティング材C1との組み合わせからなるレジン歯用コーティング材キットをそれぞれ準備した。続いて、これらのレジン歯用コーティング材キットを用いて、実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
【0105】
(比較例4)
コーティング材として樹脂コーティング材C3を用いて、プライマーを用いない態様で実施例1と同様にして各種評価用サンプルを作製した。
【0106】
上述の各実施例および比較例でコーティング処理に用いたプライマーおよびコーティング材の種類とその組み合わせを表1に示す。また、各実施例および比較例で得られたコーティング処理されたサンプルについて、外観および耐摩耗性を評価した。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例5)
被着体R2の表面を#1500耐水研磨紙で研磨した後、研磨材Soflex Superfine(3M−ESPE社製)にて1分間注水下で研磨を行うことで、コーティングを行わず艶のある表面性状とした。次いで、これを耐摩耗性評価用サンプルとして歯ブラシ摩耗試験を行なったところ、表面があれて艶がなくなり外観不良になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリウレタン樹脂、および(b)溶媒もしくは分散媒を含むプライマーと、
(i)反応性有機官能基を有する重縮合可能な有機ケイ素化合物、(ii)該有機ケイ素化合物の重縮合用触媒、および(iii)有機溶媒を含むコーティング材と、
を少なくとも含むことを特徴とするレジン歯用コーティング材キット。
【請求項2】
請求項1記載のレジン歯用コーティング材キットにおいて、(a)前記ポリウレタン樹脂のガラス転移点が、37℃未満であることを特徴とするレジン歯用コーティング材キット。
【請求項3】
請求項1または2記載のレジン歯用コーティング材キットにおいて、(a)前記ポリウレタン樹脂がハードセグメントとソフトセグメントから構成され、上記ソフトセグメントが、ポリカーボネート骨格由来であることを特徴とするレジン歯用コーティング材キット。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレジン歯用コーティング材キットにおいて、(a)前記ポリウレタン樹脂が、アニオン性水分散ポリウレタン樹脂であることを特徴とするレジン歯用コーティング材キット。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレジン歯用コーティング材キットにおいて、(i)前記有機ケイ素化合物が、反応性有機官能基として、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、および、グリシドキシ基から選択される少なくとも1つの反応性有機官能基を含むことを特徴とするレジン歯用コーティング材キット。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の、無機フィラー含有レジン歯に用いられるレジン歯用コーティング材キット。

【公開番号】特開2012−12333(P2012−12333A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150306(P2010−150306)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】