説明

レゾルバ付モータ

【課題】 小型のレゾルバ部でも巻線を所要の巻数だけ巻けて高放射線極限環境下で使用できるレゾルバ付モータを得る。
【解決手段】 モータ部にレゾルバ部2を接続してレゾルバ付モータを構成する。少なくともレゾルバ部2の巻線を、絶縁被覆材料がポリエーテルエーテルケトンにより形成されたポリエーテルエーテルケトン電線で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高放射線極限環境下で使用できるレゾルバ付モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
加速器や核融合炉、高速増殖炉等の高放射線極限環境下で使用される位置決め駆動機器において、ミクロン単位での精密位置制御が可能なレゾルバ付ステッピングモータの如きレゾルバ付ステッピングモータの使用が望まれている。既存のレゾルバ付ステッピングモータでは、電機子巻線の電気絶縁にフッ素樹脂やポリエチレン樹脂等を使っている。しかしながら、フッ素樹脂電線は耐放射線性が低く、比較的耐放射線性が高いとされる架橋ポリエチレン樹脂電線でも高々、1MGy程度である。このため、10MGy以上の耐放射線性が必要な加速器や核融合炉等の位置決め駆動機器に用いた場合には、定期点検時に点検、交換が必要となり、維持費用の増大が問題となっている。
【0003】
そこで、従来から、高放射線極限環境下で使用できる回転電機が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この回転電機では、使用する巻線の絶縁被覆としてポリベンゾイミダゾール樹脂を用いている。
【特許文献1】特開平11−140187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、絶縁被覆としてポリベンゾイミダゾール樹脂を用いた電線では、高放射線極限環境下で使用するためには絶縁被覆の厚みが厚くなる問題がある。また従来は、必ずコアに対して絶縁材を介して巻線を巻いているので、小型のレゾルバ付ステッピングモータの如きレゾルバ付モータおけるレゾルバ部の巻線に使用すると、巻線の外径が太いために、所要の巻数だけ巻こうとするとコイル外径が大きくなり過ぎて、レゾルバ部の外径が大きくなる問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、小形のレゾルバ部でも巻線を所要の巻数だけ巻けて高放射線極限環境下で使用できるレゾルバ付モータを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、巻線を巻くコアの表面の絶縁材を省略できるレゾルバ付モータを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、コア表面に巻線を直接巻き付けても巻線の絶縁被覆がコアのバリで突き破られるのを防止できるレゾルバ付モータを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、巻線を巻くコアの表面にバリが出ないコアを容易に製造して巻線を巻くことができるレゾルバ付モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、モータ部にレゾルバ部が接続されているレゾルバ付モータを改良の対象としている。本発明のレゾルバ付モータでは、少なくともレゾルバ部の巻線が、絶縁被覆材料がポリエーテルエーテルケトンにより形成されたポリエーテルエーテルケトン電線で形成されていることを特徴とする。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、例えば10MGy以上の線量の放射線に耐え得ることが、例えば「高分子系材料の耐放射線性とデータ集」(JAERI-DATA/Code, 2003-015, 日本原子力研究所)に報告されている。このようなポリエーテルエーテルケトンを被覆材として用いたポリエーテルエーテルケトン電線は、被覆の厚みが薄くても耐放射線特性を高く維持できる。このため電線外径が細くなり、小型のレゾルバ部でも必要なターン数だけ巻回することができる。モータ部の方は一般にレゾルバ部より外径が大きいので、ポリエーテルエーテルケトン電線,ポリベンゾイミダゾール電線等の適宜の耐放射線性を有する電線を使用できる。したがって本発明によれば、小型のレゾルバ部でも巻線を必要な巻数だけ巻くことができて、しかも高放射線極限環境下で使用できるレゾルバ付モータを得ることができる。
【0010】
この場合、ポリエーテルエーテルケトン電線は、コアに直接巻回されていることが好ましい。このようにすると、巻線を巻くコアとコイル部との間に絶縁材が存在しないため、その厚み分だけコアの表面に巻く巻線のターン数を増やすことができる。
【0011】
また、コアは鋼板を積層して構成した積層鉄心より構成されるのが好ましい。この場合において、ポリエーテルエーテルケトン電線に接するコアの積層方向の両端に位置する鋼板のそれぞれ表面の角部には丸みがつけられていることが好ましい。このようにすると、コアの積層方向の両端に位置する鋼板のそれぞれ表面の角部の丸みにより、ポリエーテルエーテルケトン電線の被覆が傷つくのを防止できる。そのため簡単にポリエーテルエーテルケトン電線を絶縁材を介さずに直接巻回するコアの形成を容易に行うことができる。
【0012】
また、コアが積層鉄心より構成される場合には、積層鉄心を構成する各鋼板としてプレス打ち抜き鋼板を用いる。この場合には、プレス打ち抜き鋼板は角部に丸みが形成される表面が同じ向きとなるように積層して構成した2組の積層体を、前記表面とは反対側に位置してバリが突出して面を互いに向かい合わるように積層してコアが構成する。このようにすると、プレス打ち抜き鋼板をそのまま用いて、コアの積層方向の両端に位置する鋼板のそれぞれ表面の角部に丸みを付けたコアを簡単に作ることができる。
【0013】
さらに、ポリエーテルエーテルケトン電線のポリエーテルエーテルケトンの被覆厚さは、20μm〜50μmとなっていることが好ましい。実験によると、20μmは絶縁性能が維持できる下限値である。50μmはレゾルバ部の性能が確保できる巻数が可能な上限値である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレゾルバ付モータでは、少なくともレゾルバ部の巻線をポリエーテルエーテルケトン電線で形成しているので、ポリエーテルエーテルケトンは耐放射線特性がよく、被覆厚みが薄くても耐放射線特性を高く維持することができる。そのため使用する電線外径が小さくなり、小型のレゾルバ部でも必要なターン数だけ巻回することができる利点が得られ、小形のレゾルバ部でも巻線を所要の巻数だけ巻くことができ、しかも高放射線極限環境下で使用できるレゾルバ付モータを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面の図1乃至図4を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態は、本発明に係るレゾルバ付モータをレゾルバ付ステッピングモータに適用した例である。
【0016】
図1及び図2は本例のレゾルバ付ステッピングモータの第1例を示したもので、図1は本例のレゾルバ付ステッピングモータの要部を縦断して示した側面図、図2は本例で用いているレゾルバ部の縦断面図である。
【0017】
本例のレゾルバ付ステッピングモータは、ステッピングモータ部1にレゾルバ部2が接続されて構成されている。ステッピングモータ部1は、ハイブリッド型のステッピングモータの構造を備えている。このハイブリッド型ステッピングモータ部1は、ハウジング3内にステータ4とロータ5tが同心状に配置されている。ステータ4は、ハウジング3の内周に固定された環状のステータ鉄心6の複数の磁極部に絶縁材7を介してステータ巻線8が巻回されて構成されている。ステータ巻線8は、ポリエーテルエーテルケトン電線,ポリベンゾイミダゾール電線等の適宜の耐放射線性を有する電線で構成すことができる。本実施の形態では、ポリエーテルエーテルケトン電線をステータ巻線として用いている。ロータ5は、ステータ4の内周に間隙を介して同心状に配置されている。このロータ5は、永久磁石9の両端にカップ状のロータヨーク10,11が嵌合され、これらの軸心に回転軸12が貫通された構造を有する。ロータヨーク10,11の外周にはそれぞれ周方向に間隔をあけて複数の極歯が設けられており、これら極歯の表面には永久磁石9からの磁束でN磁極とS磁極とが現れている。ハウジング3の両端はエンドプレート13,14で閉塞されている。回転軸12は、エンドプレート13,14に固定された軸受15,16を介して回転自在に支持されている。
【0018】
レゾルバ部2は、ハウジング17内にレゾルバステータ18とレゾルバロータ19が同心状に内蔵され、これらの隣にはロータリトランス20が配置された構造を有している。ロータリトランス20は、固定部21と可動部22が同心状に配置されて構成されている。レゾルバロータ19とロータリトランス20の可動部22は、ステッピングモータ部1から伸び出た回転軸12に共に支持されて回転するようになっている。
【0019】
レゾルバステータ18は、環状のステータ鉄心23に絶縁材24を介してステータ巻線25,26が巻回されて構成されている。ステータ巻線25,26は、機械的に90度ずれた位置に配置されている。ステータ巻線25はsin巻線として構成され、ステータ巻線26はcos巻線として構成されている。レゾルバロータ19はレゾルバステータ18の内周に間隙を介して同心状に配置されている。このレゾルバロータ19は、環状のステータ鉄心27に絶縁材28を介してロータ巻線29が巻回されて構成されている。ロータリトランス20の固定部21は、絶縁材30にステータ巻線31が巻回されて構成されている。ロータリトランス20の可動部22は、絶縁材32にロータ巻線33が巻回されて構成されている。ロータ巻線33はレゾルバロータ19のロータ巻線29に互いに接続されて閉ループを構成している。
【0020】
ハウジング17の両端はエンドプレート34,35で閉塞されている。回転軸12の端部は、エンドプレート34,35に支持された軸受36,37を介して回転自在に支持されている。
【0021】
このようなレゾルバ部2においては、総ての巻線、即ちステータ巻線25,26とロータ巻線29とステータ巻線31とロータ巻線33が、耐放射線性の良好なポリエーテルエーテルケトンからなる被覆材料で導線が被覆されたポリエーテルエーテルケトン電線で構成されている。ポリエーテルエーテルケトンは、耐放射線特性がよく、しかも被覆厚みが薄くても耐放射線特性を維持できる。そのため電線外径が小さくすることができ、小型のレゾルバ部2でも必要なターン数だけ巻回することが可能になる。モータ部1の方は一般にレゾルバ部2より外径が大きいので、ポリエーテルエーテルケトン電線,ポリベンゾイミダゾール電線等の適宜の耐放射線性を有する電線を使用できる。本実施の形態のように、モータ部の巻線もポリエーテルエーテルケトン電線で構成すれば、モータ部の巻線数も従来よりも増加させることができて、高出力化に対応することが可能になる。そのため本実施の形態によれば、レゾルバ部2を小形にして、しかもレゾルバ部1及びモータ部1の巻線の巻数数を従来よりも多くしても、高放射線極限環境下で使用できるレゾルバ付モータを提供することができる。
【0022】
図3及び図4は、本例のレゾルバ付ステッピングモータの第2例で使用するレゾルバ部及びモータ部で使用される巻線の巻回状態を示したものである。本実施の形態では、コアに対して絶縁材を介さずに巻線を巻回する点で図1の実施の形態とは異なる。図3は本実施の形態のレゾルバ付ステッピングモータで用いるコアの磁極部と巻線との関係を示す斜視図であり、図4は図3に示した巻線巻回部の構造を示した拡大横断面図である。なお、図1に示した部材と図2に示した部材で、対応する部分には、図1に付した符号と同じ符号を付してある。
【0023】
本例のレゾルバ付ステッピングモータでは、鉄心6,23の突極に巻線8,25,26が直接巻回されている。巻線8,25,26は、ポリエーテルエーテルケトン電線で形成されている。ポリエーテルエーテルケトン電線のポリエーテルエーテルケトンの被覆厚さは、少なくともレゾルバ部2の巻線25,26では20μm〜50μmとなっている。ポリエーテルエーテルケトン電線のポリエーテルエーテルケトンの被覆厚さが20μm以上あれば、絶縁性能が維持できることが実験で判っている。したがって20μmの厚みは、下限値である。またポリエーテルエーテルケトンの被覆厚さが50μmより大きくなると、被覆の存在が巻線の巻回半径(曲げられた巻線の最大曲率半径)が大きくなり過ぎて、小型化のためには実用的ではない。したがって50μmの厚みは、小型化したレゾルバ部の性能を確保できる巻数が可能な上限値である。
【0024】
コア6,23,27は積層鉄心より構成されている。巻線8,25,26としてのポリエーテルエーテルケトン電線に接する積層鉄心それぞれ表面の角部eには丸みがつけられている。積層鉄心は、複数枚の電磁鋼板38を積層して構成されている。この場合では、積層方向の両端に位置する鋼板38のそれぞれ表面の角部eには丸みがつけられている。
【0025】
このように積層方向の両端に位置する鋼板38のそれぞれ表面の角部eには丸みがつけられている積層鉄心の作成は、例えば次のようにして行う。即ち、積層鉄心を構成する各鋼板38はプレス打ち抜き鋼板によりそれぞれ形成する。これらプレス打ち抜き鋼板38は、プレスの方側に位置する表面の両端の角部eには、丸みが自動的に形成されている。そこでこの例では、角部に丸みが付いた表面が同じ向きとなるように鋼板38を積層して2組の積層体を形成する。そしてこれら2組の積層体を、丸みが追加角部を備えている表面とは反対側に突出するバリを備えた面を向かい合わせて積層してコアを構成する。このようにすると、プレス打ち抜きにより形成した鋼板をそのまま使用して角部に丸みを有するコアを簡単に構成することができる。
【0026】
なお、積層方向の両端に位置する鋼板38のそれぞれ表面の角部eには丸みがつけられている積層鉄心を作成する場合に、各プレス打ち抜き鋼板38のバリが突出されている角部のバリ取りを機械的に行ってバリが突出されていない鋼板38を作成し、これを積層して積層鉄心を構成してもよいのは勿論である。
【0027】
なお、本実施の形態のように、絶縁材を介さずにポリエーテルエーテルケトン電線を直接鉄心に巻回する構成は、少なくとも小型化が要求されるレゾルバ部2に対して行えばよい。
【0028】
本実施の形態のように、ポリエーテルエーテルケトン電線をコアに直接巻回すると、巻線を巻くコアの表面の絶縁材がないので、その分だけコアの表面に巻く巻線のターン数を増やすことができる。特に、ポリエーテルエーテルケトン電線に接するコアの積層方向の両端に位置する鋼板のそれぞれ表面の角部には丸みをつけているので、コアの積層方向の両端に位置する鋼板のそれぞれ表面の角部によって電線の被覆が傷つくのを有効に防止することができ、ポリエーテルエーテルケトン電線を絶縁材を介さずに直接巻回することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1例のレゾルバ付ステッピングモータの要部を縦断して示した側面図である。
【図2】第1例で用いているレゾルバ部の縦断面図である。
【図3】第2例のレゾルバ付ステッピングモータで鉄心と巻線との関係を示す斜視図である。
【図4】図3での巻線巻回部の構造を示した拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ステッピングモータ部
2 レゾルバ部
3 ハウジング
4 ステータ
5 ロータ
6 ステータ鉄心
7 絶縁材
8 ステータ巻線
9 永久磁石
10,11 ロータヨーク
12 回転軸
13,14 エンドプレート
15,16 軸受
17 ハウジング
18 レゾルバステータ
19 レゾルバロータ
20 ロータリトランス
21 固定部
22 可動部
23 ステータ鉄心
24 絶縁材
25,26 ステータ巻線
27 ロータ鉄心
28 絶縁材
29 ロータ巻線
30 絶縁材
31 ステータ巻線
32 絶縁材
33 ロータ巻線
34,35 エンドプレート
36,37 軸受
38 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ部にレゾルバ部が接続されているレゾルバ付モータにおいて、
少なくとも前記レゾルバ部の巻線が、絶縁被覆材料がポリエーテルエーテルケトンにより形成されたポリエーテルエーテルケトン電線で形成されていることを特徴とするレゾルバ付モータ。
【請求項2】
モータ部にレゾルバ部が接続されているレゾルバ付モータにおいて、
前記モータ部及び前記レゾルバ部の巻線が、それぞれ絶縁被覆材料がポリエーテルエーテルケトンにより形成されたポリエーテルエーテルケトン電線で形成されていることを特徴とするレゾルバ付モータ。
【請求項3】
前記ポリエーテルエーテルケトン電線は、コアに直接巻回されていることを特徴とする請求項1に記載のレゾルバ付モータ。
【請求項4】
前記コアは複数枚の鋼板を積層して構成した積層鉄心よりなり、前記ポリエーテルエーテルケトン電線に接する前記コアの積層方向の両端に位置する前記鋼板のそれぞれ表面の角部には丸みがつけられていることを特徴とする請求項2に記載のレゾルバ付モータ。
【請求項5】
前記コアは積層鉄心よりなり、前記積層鉄心を構成する各鋼板はプレス打ち抜き鋼板よりなり、前記プレス打ち抜き鋼板は角部に丸みが形成される表面が同じ向きとなるように積層されて構成された2組の積層体からなり、
前記2組の積層体が、前記表面とは反対側に位置してバリが突出して面を互いに向かい合わるように積層されて前記コアが構成されていることを特徴とする請求項4に記載のレゾルバ付モータ。
【請求項6】
前記ポリエーテルエーテルケトン電線の前記ポリエーテルエーテルケトンの被覆の厚さは、20μm〜50μmとなっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のレゾルバ付モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−238534(P2006−238534A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46147(P2005−46147)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000180025)山洋電気株式会社 (170)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000233745)入江工研株式会社 (5)
【Fターム(参考)】