説明

レブリン酸エステルの製造方法

【課題】炭水化物とアルコールを原料とする触媒反応によりレブリン酸エステルを製造するに当たり、触媒として揮発性が無くかつ温和な条件で触媒活性を示すものを用いる方法を提供する。
【解決手段】炭水化物とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法において、触媒としてヘテロポリ酸を用いる。ヘテロポリ酸としてはタングステンをポリ原子とするタングステンヘテロポリ酸が好ましく、このタングステンヘテロポリ酸としてはケイ素をヘテロ原子とするものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭水化物、例えば糖、でんぷん、セルロースあるいはそれらを含有する混合物、あるいはバイオマス由来のこれらのもの等とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レブリン酸は高分子可塑剤、生理活性物質などの合成中間体として有用なものであって、糖やでんぷん、グルコースなどの炭水化物を原料として製造され、例えば糖を酸触媒の存在下で加熱分解することによる製造法は古くから知られており、その中に触媒として臭化水素酸や塩酸を用いる方法があるが(非特許文献1参照)、これらの酸は揮発性があり、工業的製法においては装置の防食方法が問題となる。
一方、揮発性の無い硫酸を触媒として用いるレブリン酸製造法も知られているが(特許文献1〜3参照)、硫酸触媒では低温での反応速度が遅く、良好な収率でレブリン酸を得るためには160℃以上の高い反応温度が必要である。
【0003】
【非特許文献1】T.R.Frost and F.F.Kruth,TAPPI, 34,80(1951)
【特許文献1】特許第1166813号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】米国特許第6,064,611号明細書(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】米国特許第5,608,105号明細書(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、このような事情の下、炭水化物とアルコールを原料とする触媒反応によりレブリン酸エステルを製造するに当たり、触媒として揮発性が無くかつ温和な条件で触媒活性を示すものを用いる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の優れた特性を有する、触媒反応によるレブリン酸エステルの製造法における触媒について鋭意研究した結果、ヘテロポリ酸を触媒に用いると温和な条件で効率よくレブリン酸エステルが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1)炭水化物とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法において、触媒としてヘテロポリ酸を用いることを特徴とするレブリン酸エステルの製造方法。
(2)ヘテロポリ酸がタングステンをポリ原子とするタングステンヘテロポリ酸である前記(1)記載の製造方法。
(3)タングステンヘテロポリ酸がケイ素をヘテロ原子とするものである前記(2)記載の製造方法。
【0007】
本発明方法において原料として用いられる炭水化物については特に制限されず、例えば単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、それらの混合物、さらにはバイオマス由来のこれらのものなどが挙げられ、これらのうち、単糖類としては、例えばグルコース、フルクトース等が、また、多糖類としては、例えばでんぷん、セルロース等が挙げられ、好ましくはグルコース、フルクトース等のヘキソース、中でもフルクトースが用いられる。これらの原料は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、原料自体が混合物の場合にはそれより単離することなく混合物のまま用いてもよい。
【0008】
炭水化物とともに反応に供されるアルコールについては、脂肪族あるいは芳香族の1級、2級あるいは3級アルコールのうち、目的とするエステル基に応じて任意のものを用いることができる。融点が反応温度以上のアルコールについては、他の有機溶媒を用いて液化させて用いてもよい。
アルコールは溶媒としても用いることができる。
【0009】
本発明方法において触媒として用いられるヘテロポリ酸は、一般式

(式中、Bはポリ酸の骨格となるポリ原子、Aはヘテロ原子、wは水素原子の組成比、xはヘテロ原子の組成比、yはポリ原子の組成比、zは酸素原子の組成比を示す)
で表わされる。
ポリ原子Bとしてはポリ酸を形成することが知られている原子(例えばW、Mo、V、Nbなど)の中から任意に選ぶことができる。ポリ原子Bは単一原子でもよいし、また、一部を他の原子と置換してもよい。
ヘテロ原子Aとしては、ヘテロポリ酸を形成することが知られている原子(例えばSi、P、Ge、B、Asなど)の中から任意に選ぶことができる。ヘテロ原子Aは単一原子でもよいし、また、一部を他の原子と置換してもよい。
ヘテロポリ酸は溶媒に可溶な塩の状態で用いてもよいし、また、溶媒に不溶な塩の状態で用いてもよく、さらにシリカゲルやアルミナなどの担体に固定化した状態で用いてもよい。
ヘテロポリ酸として好ましくは、タングステンをポリ原子とするヘテロポリ酸、例えばHPW1240、HSiW1240、HGeW1240、HBW1240などが挙げられ、中でも特にHSiW1240が用いられる。
ヘテロポリ酸の使用量は、炭水化物に対して0.1〜10モル%の範囲とするのが好ましい。
【0010】
本発明方法として好ましくは、触媒量のヘテロポリ酸を含むアルコール中に炭水化物を加え、加熱反応させる方法が挙げられ、反応温度は80℃〜180℃、中でも100℃〜160℃の範囲とするのがよい。反応温度がこれより低いと反応速度が遅くなるし、また、これより高いと反応が過剰に進み、黒色の不溶物が生じる。また、反応は一般的には常圧で行われるが、沸点が好ましい反応温度域よりも低いアルコールが用いられる場合には、オートクレーブなどの耐圧反応容器を用い、加圧下で反応させてもよい。
本発明方法においては、溶媒として上記アルコールを併用してもよいし、本発明を損なわない範囲で、必要に応じ他の適当な溶媒、例えば水や、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテルや、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素などを用いてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、糖、でんぷん、セルロース等の炭水化物を原料として、従来の触媒よりも温和な条件で効率よくレブリン酸エステルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
内容積25mlのナス型フラスコにブタノール8.0ml、フルクトース2.5mmolおよびHSiW1240・26HOのヘテロポリ酸触媒0.05mmolを加え、還流下5時間加熱反応させた。反応後室温まで冷却し、反応溶液をガスクロマトグラフにより分析した結果、レブリン酸ブチルが収率60モル%で得られていることが確認された。
【実施例2】
【0014】
ヘテロポリ酸触媒をHGeW1240・7HOに代えた以外は実施例1と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸ブチルが収率55モル%で得られていることが確認された。
【実施例3】
【0015】
ヘテロポリ酸触媒をHPW1240・4HOに代えた以外は実施例1と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸ブチルが収率51モル%で得られていることが確認された。
【実施例4】
【0016】
ヘテロポリ酸触媒をHBW1240・33HOに代えた以外は実施例1と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸ブチルが収率43モル%で得られていることが確認された。
【実施例5】
【0017】
ヘテロポリ酸触媒をHPMo1240・4HOに代えた以外は実施例1と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸ブチルが収率39モル%で得られていることが確認された。
【0018】
これらの実施例より、同じポリ酸で比較すると、ケイ素をヘテロ元素とするヘテロポリ酸が好ましく(実施例1〜4参照)、同じヘテロ元素で比較すると、タングステン酸が好ましい(実施例3,5参照)ことが分る。
【実施例6】
【0019】
内容積50mlのステンレス製オートクレーブにメタノール8.0ml、フルクトース2.5mmolおよびHSiW1240・26HOのヘテロポリ酸触媒0.05mmolを加え、アルゴンで1MPaに加圧し、140℃で15時間加熱反応させた。反応後室温まで冷却し、反応溶液をガスクロマトグラフにより分析した結果、レブリン酸メチルが収率80モル%で得られていることが確認された。
【実施例7】
【0020】
反応時間を5時間、反応温度を120℃に代えた以外は実施例6と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸メチルが収率78モル%で得られていることが確認された。
【実施例8】
【0021】
フルクトースに代えてグルコースを用いた以外は実施例6と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸メチルが収率60モル%で得られていることが確認された。
【実施例9】
【0022】
フルクトースに代えてでんぷん(とうもろこし由来、純正化学社製)を用いた以外は実施例6と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸メチルが収率40モル%で得られていることが確認された。
【実施例10】
【0023】
フルクトースに代えてセルロース(ナカライタスク社製)を用いた以外は実施例6と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸メチルが収率40モル%で得られていることが確認された。
【0024】
比較例1
ヘテロポリ酸触媒を市販の濃硫酸(97質量%濃度)に代えた以外は実施例1と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸ブチルが収率34モル%で得られていることが確認された。
【0025】
比較例2
ヘテロポリ酸触媒をHWOに代えた以外は実施例1と同様にして反応させ分析した結果、レブリン酸ブチルは収率0モル%で全く得られていないことが確認された。
【0026】
これら比較例より、従来用いられている硫酸触媒では収率が低く、またヘテロ元素を持たないイソポリ酸では反応が進行しないことが分る。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、糖、でんぷん、セルロース等の炭水化物を原料として、従来の触媒よりも温和な条件で効率よくレブリン酸エステルを製造するのに有用であり、原料となる炭水化物としては資源作物から得られる糖やでんぷんの他に、廃棄物から得られる糖やでんぷん、セルロースの利用も可能であるし、また、得られたレブリン酸エステルは、香料、高分子可塑剤、生理活性物質など従来の用途のほかに生分解性高分子モノマーや医薬品中間体としての利用も可能であることから、化学産業の化石資源への依存性を低減させるのに資する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物とアルコールとを触媒の存在下で反応させてレブリン酸エステルを製造する方法において、触媒としてヘテロポリ酸を用いることを特徴とするレブリン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
ヘテロポリ酸がタングステンをポリ原子とするタングステンヘテロポリ酸である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
タングステンヘテロポリ酸がケイ素をヘテロ原子とするものである請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−206579(P2006−206579A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359705(P2005−359705)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】