説明

レンズ、撮像レンズ及び撮像装置

【課題】レンズ面に雨滴が付着しても、簡単な構成で雨滴が除去されるようにしたレンズ。
【解決手段】一方のレンズ面における所定の縁面に撥水処理を施し、前記一方のレンズ面における前記所定の縁面以外の面に親水処理を施したことを特徴とするレンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨に晒されてレンズ面に雨滴が付着する可能性があるレンズ、撮像レンズ及び撮像装置に関し、例えば車載用カメラや監視用カメラに用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
車の運転席からは前方、後方及び助手席側の下方等が死角となり易い。そこで、死角となる方向をデジタルカメラで撮像し、その画像を運手席に設置したモニタで視認できるようにした車載用カメラが市販されている。車載用カメラは雨に晒されても異常が生じないように防水構造に構成されているが、撮像レンズのレンズ面には雨滴が付着し易い。従って、その状態で撮像すると、画像が不鮮明になり、モニタで充分に視認することができない。また、屋外で用いられる監視用カメラについても同様な問題が生ずる。
【0003】
このような問題を解決することを目的とした種々の特許公報が開示されている。
【0004】
例えば、車載用カメラの近傍に圧縮空気発生ユニットを配置し、高圧の空気を車載用カメラのレンズ面に吹き付けるようにして、レンズ面に付着した雨滴を取り除くようにした車載カメラ装置が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、圧電素子によりレンズを振動させ、レンズに付着した雨滴を霧化させる水滴除去装置が開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、レンズに親水膜をコーティングすると共に、レンズを保持する鏡枠の下縁部に管状の孔を設けた光学装置が開示されている(特許文献3参照)。これによれば、レンズの表面に付着した雨滴が親水膜により留まらずに下方に流れ落ち、更に雨滴が毛管現象により管状の孔から排水されるというものである。
【特許文献1】特開2001−171491号公報
【特許文献2】特開2007−82062号公報
【特許文献3】特開2006−313312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、圧縮空気発生ユニットを配置するために、非常に大きなスペースを必要とし、且つ高価になる。従って、特殊な車でないと実用化は困難である。
【0008】
特許文献2においては、圧電素子の振動により、カメラにノイズが発生して画像が不鮮明になる虞がある。従って、圧電素子の振動中は撮像が困難である。
【0009】
特許文献3においては、雨滴がレンズの縁面と鏡枠に跨った状態になったときは、レンズの縁面に付着した状態が維持されて、流れ落ちない可能性がある。また、管状の孔の径が小さいと塵埃によって詰まり易く、逆に径が大きいと毛管現象が作用しないので、実用化が困難である。
【0010】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、レンズ面に雨滴が付着しても、簡単な構成で雨滴が除去されるようにしたレンズ、該レンズが配置された撮像レンズ、及び該撮像レンズを備えた撮像装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1.一方のレンズ面における所定の縁面に撥水処理を施し、前記一方のレンズ面における前記所定の縁面以外の面に親水処理を施したことを特徴とするレンズ。
【0012】
2.前記所定の縁面は、前記レンズを所定の物体に固定したときに下方に位置する縁面であることを特徴とする前記1に記載のレンズ。
【0013】
3.前記所定の縁面は、環状に形成されていることを特徴とする前記1に記載のレンズ。
【0014】
4.前記1〜3の何れか1項に記載のレンズが1番玉として配置され、且つ、前記一方のレンズ面が被写体側に位置するように配置されたことを特徴とする撮像レンズ。
【0015】
5.前記4に記載の撮像レンズを備え、防水構造に構成されたことを特徴とする撮像装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のレンズ、撮像レンズ及び撮像装置によれば、雨に晒されてレンズ面に雨滴が付着しても、簡単な構成で雨滴を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の撮像装置の一例を図1に示す撮像装置の断面図に基づいて説明する。
【0018】
本撮像装置は、撮像レンズと撮像素子とを有する撮像ユニットをカバーで被覆して、防水構造に構成している。
【0019】
先ず、撮像ユニット1について説明する。
【0020】
撮像ユニット1は撮像レンズL、撮像レンズLを保持する内鏡枠21及び外鏡枠31、撮像素子11、撮像素子11が実装されるプリント配線板12等から構成される。
【0021】
撮像レンズLは一番玉としての第1レンズL1、第2レンズL2及び第3レンズL3から構成されている。そして、被写体像は撮像レンズLによりCCDやCMOSから成る撮像素子11に結像する。
【0022】
第1レンズL1、第2レンズL2及び第3レンズL3は内鏡胴21に保持されている。また、第1レンズL1の背面には遮光板22が配置され、第2レンズL2の前面には遮光板23が配置され、第2レンズL2の背面には固定絞り24が配置され、第3レンズL3の背面には遮光板25が配置されている。
【0023】
なお、本明細書においては、前面及び前方を被写体が位置する側とし、背面及び後方をその逆側とする。
【0024】
そして、内鏡枠21に前方から固定絞り24、第2レンズL2及び遮光板23を挿入して、不図示の接着剤で遮光板23を内鏡枠21に固着することにより、固定絞り24及び第2レンズL2は内鏡枠21に固定される。続いて、内鏡枠21に前方から遮光板22を挿入し、Oリング26を第1レンズL1の後部外周面に挿着した状態で第1レンズL1を挿入して、内鏡枠21の先端部を内側にカシメ加工する。これにより、遮光板22及び第1レンズL1は内鏡枠21に固定される。更に、内鏡枠21に後方から第3レンズL3及び遮光板25を挿入し、不図示の接着剤で遮光板25を内鏡枠21に固着することにより、第3レンズL3は内鏡枠21に固定される。
【0025】
内鏡枠21の外周面には雄ネジ21aが螺設され、雄ネジ21aは内鏡枠21の外周側に位置する外鏡枠31に螺設された雌ネジ31aと螺合する。
【0026】
また、撮像素子11はプリント配線板12の前面に実装されている。そして、プリント配線板12の各配線はケーブル13によって撮像装置の外部に位置する外部機器と接続されている。
【0027】
プリント配線板12の側面は外鏡枠31に固定されている。従って、内鏡枠21を回転させれば、雄ネジ21aと雌ネジ31aの螺合により、内鏡枠21は外鏡枠31に対して進退する。従って、撮像レンズLと撮像素子11との距離が変化し、被写体像を撮像素子11に適切に合焦させることができる。即ち、雄ネジ21aと雌ネジ31aとによりピント調整を行うことができる。
【0028】
このようにして撮像ユニット1を組み立てた後、防水構造とするために撮像ユニット1を前カバー41と後カバー42とで被覆する。
【0029】
先ず、後カバー42の後部中央に空いた貫通孔にゴムから成るブッシュ43を挿入し、内面にゴムから成るリング状の弾性部材44を貼り付ける。この後カバー42を撮像ユニットの後方から挿入して、ケーブル13をブッシュ43に設けた貫通孔から引き出し、外鏡枠31の後端部を弾性部材44に当接させる。続いて、後カバー42の先端部に円周状に形成した長溝にOリング45を挿入する。この状態で、内鏡枠21の前部外周面にOリング46を挿着し、前カバー41を前方から挿入して、不図示の接着剤で前カバー41と後カバー42とを接合する。
【0030】
このように撮像ユニット1を前カバー41と後カバー42とで水密状態に被覆することにより、撮像ユニット1まで雨水が浸入することがない。即ち、撮像ユニット1の前部においては、雨水が内鏡枠21と前カバー41との間隙から浸入してもOリング46によって、それ以上浸入することが阻止される。また、撮像ユニットの側部における前カバー41と後カバー42との接合部においては、Oリング45により雨水が浸入すること阻止される。更に、撮像ユニットの後部においては、ブッシュ43がケーブル13に圧着しているので、互いの間隙から雨水が浸入することがない。
【0031】
また、ピント調整によって内鏡枠21の先端部と外鏡枠31の後端部との長さが若干変化するが、このような長さの変化は弾性部材44の圧縮で吸収される。また、本撮像装置を車載用カメラとして用いた場合には振動や衝撃が撮像ユニット1に加わるが、これを弾性部材44が吸収して撮像ユニット1に悪影響を及ぼすことを防止している。
【0032】
このように構成された撮像装置において、被写体の光像は撮像レンズLにより撮像素子11に結像し、その光像は光電変換されて画像信号となり、ケーブル13を介して外部機器に送信される。外部機器に送信された画像信号は所定の画像処理が行われる。この撮像装置が車載用カメラであるならば、画像信号に基づく画像を運転席に設置したモニタで視認し、この撮像装置が監視用カメラであるならば、画像信号が変換された画像を監視ルームに設置したモニタで視認する。
【0033】
また、この撮像装置は以上の如く防水構造に構成されているので、車外に設置される車載用カメラであっても、屋外に設置される監視用カメラであっても、雨に晒されたときに雨滴が浸入して故障することがない。
【0034】
しかし、雨天時には、撮像レンズLにおける最も被写体側に位置するレンズ面L1aには雨滴が付着する。従って、この状態で撮像すると、画像が不鮮明になり、モニタで充分に視認することができない。
【0035】
このようにレンズ面L1aに雨滴が付着することを防止する簡易な方法として、第1レンズL1の一方のレンズ面であるレンズ面L1aに撥水処理を施すことが考えられる。しかし、撥水処理HCは図2(A)に示す如く、雨滴が水玉となってレンズ面に留まり、充分な対策にはなり得ない。
【0036】
そこで、撥水処理に代えて、レンズ面L1aに親水処理を施すことが考えられる。親水処理を施すことにより雨滴を弾かないので、水玉はできず、雨滴は高い位置から低い位置に流れ落ちて行く。従って、撥水処理を施した場合より遙かに鮮明な画像が得られる。
【0037】
しかし、図2(B)に示す如く、親水処理SCにより流れ落ちた雨滴はレンズ面L1aの下部に溜まり、撮像画面の下部が不鮮明になる。車載用カメラとして用いた場合には、下方の物体の方が死角になり易いので、これは好ましくない。
【0038】
そこで、撮像レンズにおける最も被写体側に位置するレンズ面の所定の縁面に撥水処理HCを施し、レンズ面の所定の縁面以外に親水処理SCを施す。図1においては、撮像レンズLの第1レンズL1における被写体側のレンズ面L1aの下部に撥水処理HCを施し、他のレンズ面L1aに親水処理SCを施す。
【0039】
なお、施す撥水処理HCを施す形状が限定されるものではなく、例えば図3(A)、図3(B)若しくは図3(C)に示すような形状にすればよい。但し、撮像装置を所定の物体に固定するとき、撥水処理HCを施した縁部が下方に位置するように撮像装置を配置する。
【0040】
また、図4に示す如く、撥水処理HCを施す縁面を環状に形成してもよい。この場合には、第1レンズL1の姿勢による影響がないので、組立時の生産性が向上する。
【0041】
このように構成することにより、大部分の雨滴はレンズ面L1aの親水処理SCを施した面に当たるので、雨水は雨滴とならずに下方に流れ落ちる。ところが、レンズ面L1aの下部には撥水処理HCが施されているので、雨滴が溜まらずに弾かれて除去される。
【0042】
従って、この撮像装置によれば、雨の中でも全体として鮮明な撮像画像を得ることができる。
【0043】
具体的にはレンズ全面に反射防止コーティングを施した後、マスキングにより撥水コーティングと親水コーティングとを各々施す。また、反射防止コーティングを施した後、レンズ全面に親水コーティングを施し、その後に下部のみに撥水コーティングを施すようにしてもよい。
【0044】
コーティングの方法としては、真空蒸着を用いてもよいし、ゾルゲル法、スピンコート、インクジェット等により塗布してもよい。
【0045】
撥水コーティングの成分としては、シリコン樹脂(ジメチルシリコーンオイル)、フッ素樹脂、若しくはシリコン樹脂とフッ素樹脂のハイブリット型等を用いる。
【0046】
親水コーティングの成分としては、アルコキシシラン、ポリエチレングリコール、光触媒(TiO)、若しくはオルガノシロキサン等を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】撮像装置の断面図である。
【図2】レンズ面に撥水処理を施した図とレンズ面に親水処理を施した図である。
【図3】レンズ面に施した複数の撥水処理の形状の図である。
【図4】レンズ面に撥水処理を環状に形成した図である。
【符号の説明】
【0048】
1 撮像ユニット
11 撮像素子
L 撮像レンズ
L1 第1レンズ
L1a レンズ面
HC 撥水処理
SC 親水処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方のレンズ面における所定の縁面に撥水処理を施し、前記一方のレンズ面における前記所定の縁面以外の面に親水処理を施したことを特徴とするレンズ。
【請求項2】
前記所定の縁面は、前記レンズを所定の物体に固定したときに下方に位置する縁面であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記所定の縁面は、環状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のレンズが1番玉として配置され、且つ、前記一方のレンズ面が被写体側に位置するように配置されたことを特徴とする撮像レンズ。
【請求項5】
請求項4に記載の撮像レンズを備え、防水構造に構成されたことを特徴とする撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−265473(P2009−265473A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116889(P2008−116889)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】