説明

レンズアダプタ

【課題】撮像レンズ及びカメラ筺体の構造を変更することなく結像性能に影響を与えずに、かつ基線長を人間の平均的な瞳孔間隔程度に設定することを可能とする。
【解決手段】撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に第1のレンズアダプタ42が装着される。カメラ筺体の幅がdである第1及び第2カメラが並置され、基線長Δが両者の中心間隔δより短く設定されている。撮像レンズから出射される光束は、第1反射プリズム32に入射され、第1反射プリズムの後方、F1で示した位置に被写体の実像が形成される。この被写体の実像は、第2反射プリズム36を介してリレーレンズ38によって、フィルタ群14及び3色分解光学系16を介して受光素子18の受光面に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、平面画像を撮影する2台のカメラを並列に配置して立体画像を撮影する立体カメラにおいて、この平面画像を撮影するカメラを構成する撮像レンズとカメラ筺体との間に装着して使用するレンズアダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年テレビカメラのハイビジョン化が盛んに進められており、映像として現在主流の平面画像(以後、2D画像をいうこともある。)に止まらず立体画像(以後、3D画像ということもある。)についての関心が高まっている。
【0003】
現在主流の2D画像を撮影するテレビカメラ(以後、2Dカメラということもある。)を2台並列に配置して、それぞれの2Dカメラによって右目用と左目用の視差画像を撮影することによって、3D画像を生成する立体カメラ(以後、3Dカメラということもある。)が検討されている。
【0004】
人間の平均的な瞳孔間隔は65mm程度であり、右目用と左目用の視差画像を撮影する2台の2Dカメラの撮像レンズの光軸間距離(以後、基線長ということもある。)はこの瞳孔間隔に近いほど、人間の目で見た3D画像に近い画像が撮影できる。
【0005】
撮影現場で頻繁に使用される既存の2Dカメラとして、ショルダータイプ、ハンドヘルドタイプ、及びボックスタイプ等がある。これらの2Dカメラを用いて3Dカメラを構成する場合、2Dカメラ筺体の幅が広く、2台のカメラの基線長を65mmまで近づけて並列に並べることが困難である場合が多い。
【0006】
このため、既存の2Dカメラを2台並列に配置することによって3Dカメラを構成する代わりに、1台のカメラ筺体を用いた3Dカメラ専用の撮像レンズ光学系を開発することが試みられている(例えば、特許文献1及び2、あるいは非特許文献1及び2参照)。
【0007】
また、撮像レンズの前方にハーフミラーを配置して、このハーフミラーで被写体からの光束を平行な2光束に分割し、この2光束を2台並列に配置された既存の2Dカメラにそれぞれ入射させる構成とした3Dカメラが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-75201号公報
【特許文献2】特開2001-45521号公報
【特許文献3】特開2004-312545号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】"立体映像撮影用アダプタの試作による撮影法の検討"、[online][平成21年1月31日検索]インターネット〈URL:http://www.wul.waseda.ac.jp/gakui/honbun/3858/3858_04.pdf#search='LK-33〉
【非特許文献2】"立体映像システムの原理 (2007年5月8日更新)"作成: 大口孝之(映像クリエータ/ジャーナリスト)[online][平成21年1月31日検索]インターネット〈http://www.tcat.ne.jp/〜oguchi/3D%20system.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、3Dカメラ専用の撮像レンズ光学系を開発する、あるいは撮像レンズの前方にハーフミラーを配置することによって3Dカメラを構成すると、既存の優れた撮像機能を有する2Dカメラの技術を最大限有効に活かすことができない。そのため、3Dカメラとしての画質の向上等の新たな研究を行う必要があり、開発コストがかかる。
【0011】
そこで、既存の2Dカメラに何らの改造を施さずにレンズアダプタを装着するだけで、基線長が65mmに設定された3Dカメラが構成されれば、従来の2Dカメラのために研究されてきた技術蓄積を最大限有効に利用でき、低コストで高性能な3Dカメラが実現される。
【0012】
従って、この発明の目的は以上のことに鑑み、既存の2Dカメラである第1カメラ及び第2カメラによって被写体を撮像し立体視を可能とする立体撮像装置を構成するにあたり、これら第1及び第2カメラのそれぞれが具える撮像レンズ及びカメラ筺体の構造を変更することなく、2Dカメラの結像性能に影響を与えずに、かつ基線長を人間の平均的な瞳孔間隔程度に設定することを可能とする、撮像レンズとカメラ筺体との間に装着して利用するレンズアダプタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明者は、撮像レンズから出射された光束が入射されて、この光束の中心軸を平行に移す機能を有する反射手段と、撮像レンズによって形成される実像を受光面に伝達する機能を有するリレーレンズとを具えた構成とし、反射手段とリレーレンズの寸法及び両者を構成するガラス素材を適宜選択することによって、撮像レンズによって形成される実像と違うことのない実像を受光面に再現することが可能であるとの認識に至った。
【0014】
上述の理念に基づくこの発明の要旨によれば、以下のレンズアダプタが提供される。なお、この発明のレンズアダプタを装着する、以下の第1及び第2カメラは何れも2Dカメラである。
【0015】
この発明のレンズアダプタは、被写体を撮像し立体視を可能とする立体撮像装置の第1及び第2カメラのそれぞれが具える撮像レンズとカメラ筺体との間に装着され、第1及び第2カメラのそれぞれが具える撮像レンズ間の基線長に自由度を与えるためのレンズアダプタであって、反射手段とリレーレンズとを構成要素として具えている。
【0016】
反射手段は撮像レンズから出射された光束が入射されて、この光束の中心軸を平行に移す機能を有しており、リレーレンズは、撮像レンズによって形成される実像を、カメラ筺体に設置された受光面に伝達する機能を有している。そして、反射手段及びリレーレンズを伝播する光束に対する光路長、及び反射手段及びリレーレンズを構成するガラス材料の屈折率の波長分散特性が、実像が受光面に再現される範囲に設定されている。
【0017】
光路長とは幾何学的な長さ(経路長と呼ばれることもある。)に屈折率をかけた値であり光学的距離とも呼ばれる。以下の説明では、経路長に屈折率をかけた値を光路長と記載する。空気の屈折率はほぼ1であるので、空気中においては光路長と経路長とは一致する。
【0018】
この発明のレンズアダプタは、好ましくは、以下に示す第1〜第3のレンズアダプタとして形成することが可能である。
【0019】
第1のレンズアダプタは、上述の反射手段に特徴がある。この反射手段は、第1反射手段としての第1反射プリズムと第2反射手段としての第2反射プリズムとを具えて構成される。第1反射プリズムは、撮像レンズから出射された光束が入射されて第2反射プリズムに向けて反射する。第2反射プリズムは、第1反射プリズムから反射された光束が入射されて、撮像レンズから出射された光束の進行方向と平行な方向に反射する。なお、第1のレンズアダプタにおいて。反射手段を構成する第2反射プリズムに代えて反射鏡としてもよい。
【0020】
第1のレンズアダプタにおいて、好ましくは、撮像レンズから出射された光束と、第2反射プリズムから反射された光束との間隔を調整可能とするため、第1反射プリズムと第2反射プリズムとの相対位置を調整する可動部を具えるのがよい。
【0021】
第2のレンズアダプタも上述の反射手段に特徴があり、第1反射プリズムと第2反射プリズムとを具えて構成する代わりに、一個のポロプリズム(Porro prism)によって構成する。
【0022】
第2のレンズアダプタにおいて、撮像レンズとポロプリズムとの間に、実像が受光面に再現されるように光束に対する光路長を調整する機能を有するダミーガラスブロックを更に具えるのが好適である。
【0023】
第1及び第2のレンズアダプタにおいて、好ましくは、リレーレンズを構成するサブレンズがこのリレーレンズの光軸に平行な方向に微調整が可能とされているのがよい。
【0024】
また、第1及び第2のレンズアダプタにおいて、好ましくは、リレーレンズが入力される光束の光量を調整する絞りを具えているのがよい。
【0025】
第3のレンズアダプタは、撮像レンズから出射された光束が入射されて、この光束の中心軸を平行に移す機能を有する前段部と、撮像レンズによって形成される実像を、カメラ筺体に設置された受光面に伝達する機能を有する後段部とを具えて構成される。
【0026】
前段部は、第1反射手段と、第2反射手段と、第1リレーレンズとを具えており、後段部は、ダミーガラスブロックと、第2リレーレンズとを具えている。
【0027】
第1反射手段は、撮像レンズから出射された光束が入射されて第2反射手段に向けて反射し、第2反射手段は、第1反射手段から反射された光束が入射されて、撮像レンズから出射された光束の進行方向と平行な方向に反射する。
【0028】
第1リレーレンズは、撮像レンズによって形成される実像に対する中間像を形成し、第2リレーレンズは、中間像をカメラ筺体に設置された受光面に再現する。
【0029】
ダミーガラスブロックは、第1リレーレンズの後段であって中間像が形成される位置の手前に設置されて、光束に対する光路長を調整する。
【0030】
そして、第1及び第2反射手段及び第1及び第2リレーレンズを伝播する光束に対する光路長、及び第1及び第2反射手段及び第1及び第2リレーレンズを構成するガラス材料の屈折率の波長分散特性が、実像が受光面に再現される範囲に設定されている。
【0031】
第3のレンズアダプタにおいて、好ましくは、第1及び第2リレーレンズの少なくとも一方が、この第1及び第2リレーレンズを構成するサブレンズを光軸に平行な方向に微調整することが可能とされているのがよい。
【0032】
また、好ましくは、第1及び第2リレーレンズの少なくとも一方が、入力される光束の光量を調整する絞りを具えているのがよい。
【0033】
第3のレンズアダプタにおいて、好ましくは、撮像レンズから出射された光束と、第2反射手段から反射された光束との間隔を調整可能とするため、第1反射手段と第2反射手段との相対位置を調整する可動部を具えるのがよい。
【0034】
第3のレンズアダプタにおいて、第1反射手段を反射プリズムで、第2反射手段を反射鏡で構成してもよい。
【発明の効果】
【0035】
この発明のレンズアダプタによれば、反射手段及びリレーレンズを伝播する光束に対する光路長、及び反射手段及びリレーレンズを構成するガラス材料の屈折率の波長分散特性が、実像が受光面に再現される範囲に設定されている。このため、撮像レンズ及びカメラ筺体の構造を一切変更しないで、撮像レンズとカメラ筺体との間にこの発明のレンズアダプタを挿入しても第1及び第2カメラの結像性能に影響を与えることがない。
【0036】
以下の説明において、像そのものの画質(収差特性等)が変わらなければ、受光面に再現される実像が正立像となるかあるいは倒立像となるかは問題とせず、結像性能に影響を与えていないものとする。
【0037】
反射手段は撮像レンズから出射された光束が入射されて、この光束の中心軸を平行に移す機能を有しているので、第1及び第2カメラの幅が広く、3Dカメラとして構成した場合の基線長を人間の平均的な瞳孔間隔に近い値に設定することが困難である場合であっても、この反射手段が有する光束の中心軸を平行に移す機能に基づき、基線長を人間の平均的な瞳孔間隔程度に設定することが可能となる。
【0038】
第1のレンズアダプタの反射手段は、第1反射プリズムと第2反射プリズムとを具えて構成されるので、これによって撮像レンズから出射された光束の中心軸を平行に移す機能が実現される。
【0039】
第2のレンズアダプタの反射手段は、ポロプリズムによって構成される。ポロプリズムは、像の左右及び上下をそれぞれ反転させる機能、及び光束の中心軸を平行に移す機能を有している。そのため、このポロプリズムによって、撮像レンズから出射された光束の中心軸を平行に移す機能が実現されると共に、カメラ筺体が具える受光面に再現される実像が、この第2のレンズアダプタが装着されず撮像レンズが直接カメラ筺体に装着された場合に受光面に再現される実像と同一の倒立像となる。
【0040】
このため、第1及び第2カメラを通常の状態から天地を逆に設定する必要がなく、第1及び第2カメラを固定するための固定金具を新たに設けたり、受光面で受光した像を電気回路等によって天地を逆にしたりする必要がないという効果が得られる。
【0041】
しかしながら、反射手段をポロプリズムによって構成すると、撮像レンズから出射された光束の中心軸を平行に移す量がポロプリズムの寸法によって固定される。すなわち、反射手段が有する光束の中心軸を平行に移す機能に対する自由度が少なくなる。
【0042】
また、反射手段をポロプリズムによって構成すると、ポロプリズムを通過する光束の光路長が長くなるため、撮像レンズとポロプリズムとの間にダミーガラスブロックを更に具えることが必要となる場合がある。この場合、ダミーガラスブロックとポロプリズムの後段に設置するリレーレンズとによって、ポロプリズムを通過する光束の光路長が長くなったことに伴う光路長の補償を行う必要が生じ、リレーレンズの設計自由度がそれだけ低下する。
【0043】
そこで、撮像レンズから出射された光束が入射されてこの光束の中心軸を平行に移す機能を有する前段部と、撮像レンズによって形成される実像をカメラ筺体に設置された受光面に伝達する機能を有する後段部とを具えて構成される第3のレンズアダプタによれば、上述の第1のレンズアダプタ及び第2のレンズアダプタの持つ利点を併せ持ったレンズアダプタとなる。
【0044】
すなわち、前段部によって光束の中心軸を平行に移す量を可変にすることが可能であり、光束の中心軸を平行に移す機能に対する自由度を、第1のレンズアダプタと同様にすることができる。また、後段部が具える第2リレーレンズによって、第2のレンズアダプタと同様に天地の関係が再現された実像が受光面に再現される。従って、第1及び第2カメラを通常の状態から天地を逆に設定する必要がなく、第1及び第2カメラを固定するための固定金具を新たに設けたり、受光面で受光した像を電気回路等によって天地を逆にしたりする必要がないという第2のレンズアダプタと同様の効果が得られる。
【0045】
第1及び第2のレンズアダプタにおいて、リレーレンズを構成するサブレンズが、このリレーレンズの光軸に平行な方向に微調整が可能とされていると、第1及び第2カメラのそれぞれが受光面に形成する実像の大きさを等しく調整することが可能となる。これによって3D画像の品質の向上が図られる。
【0046】
また、第1及び第2のレンズアダプタにおいて、リレーレンズを、絞りを具えて構成することによって、第1及び第2カメラのそれぞれが受光面に形成する実像の明るさを等しく調整することが可能となる。これによって3D画像の品質の向上が図られる。
【0047】
同一の仕様の2Dカメラであっても多少の製造ばらつきがある場合があり、この場合は、リレーレンズによる受光面に形成する実像の大きさを調整する機能、及び実像の明るさを調整する機能は威力を発揮する。
【0048】
第3のレンズアダプタにおいて、第1反射手段を反射プリズムで、第2反射手段を反射鏡で構成すれば、第1リレーレンズと第2リレーレンズとを同一の構成とすることが可能となる。これによって、リレーレンズの設計が1通りで済むので開発コスト及び製造コストを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】既存の2Dカメラの概略的構成図である。
【図2】既存の2Dカメラを第1カメラ及び第2カメラとして並置した状態を示す図である。
【図3】フィルタ群、3色分解光学系及び受光素子の配置の関係及びそれらの構成の詳細を示す図である。
【図4】この発明の実施形態の第1のレンズアダプタが装着された2Dカメラを第1カメラ及び第2カメラとして並置した状態を示す図である。
【図5】この発明の実施形態の第2のレンズアダプタが装着された2Dカメラである第1カメラの状態を示す図である。
【図6】この発明の実施形態の第3のレンズアダプタが装着された2Dカメラである第1カメラの状態を示す図である。
【図7】この発明の実施形態の別構成の第3のレンズアダプタの光学素子の配置構成を示す図である。
【図8】リレーレンズの光軸を含み光軸の方向に平行な平面で切断した断面の概略図である。
【図9】受光面には倒立像が形成されるように設計されている既存の2Dカメラの受光面に再現される実像が、第1〜第3のレンズアダプタが撮像レンズとカメラ筺体との間に挿入されたことによりどのように変わるかについての説明に供する図であり、(A)は既存の2Dカメラにおいて受光面に形成される実像を説明する図、(B)〜(D)はそれぞれ、第1〜第3のレンズアダプタが挿入された場合の受光面に再現される実像を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明が理解できる程度に各構成部分を概略的に示してあるに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、各図において同じ構成要素については同一の番号を付して示し、これらの機能等に関して、その重複する説明を省略することもある。また、第1カメラを具える光学系と、第2カメラを具える光学系とは同一の構成であるので、後者の光学系においては、第1カメラを具える光学系が具える構成要素のそれぞれに同一の符号を付すことを省略してある。
【0051】
<2Dカメラ>
この発明のレンズアダプタの構成の理解に資するため、このレンズアダプタを装着する2Dカメラの基本構造について説明する。
【0052】
図1は既存の2Dカメラの概略的構成図である。撮像レンズ10がカメラ筺体20に装着部12を介して装着されている。図1では、見やすくするためにカメラ筺体20の内部が直接見えた状態で示してある。また、A-A'で示す一点破線は、撮像レンズ10の光軸を示している。
【0053】
装着部12は、撮像レンズ10をカメラ筺体20に装着するための金具類を指し、例えば撮像レンズ10側を回転させることによって着脱するためのバヨネットマウントのための装着金具、あるいはスクリューマウントのための装着金具等を指す。
【0054】
カメラ筺体20には、カラー画像を得るためフィルタ群14、3色分解光学系16、及びCCD(Charge Coupled Device)等の受光素子18が具えられている。フィルタ群14は、ND(Neutral Density)フィルタ、色温度フィルタ、赤外線遮断フィルタ、ローパスフィルタ等の各種フィルタを一組として重ねて構成されている。
【0055】
受光素子18は、平行平面ガラスであるシールガラスで受光面が保護されている。以後の説明において、カメラ筺体に設置された受光面とは受光素子18の受光面を指すものとする。
【0056】
撮像レンズ10から出射する光束は、フィルタ群14及び3色分解光学系16を通過して受光素子18に入射される。そして、撮像レンズ10から出射する光束の中心とカメラ筺体20の関係は固定されている。このため、既存の2Dカメラを第1カメラ及び第2カメラとして利用して3Dカメラを構成する場合、図2に示すように、2Dカメラ筺体の幅が広く、2台のカメラの基線長を65mmまで近づけて並列に並べることが困難となる場合がある。
【0057】
図2は、既存の2Dカメラを第1カメラ及び第2カメラとして並置した状態を示す図である。第1カメラを図2の上部に、第2カメラを図2の下部にそれぞれ並置して示してある。
【0058】
第1カメラのカメラ筺体の幅がd1であり、第2カメラのカメラ筺体の幅がd2である場合、基線長を(d1+d2)/2より短くすることができない。一般に3Dカメラを構成する場合、右目用と左目用の視差画像をそれぞれ撮影する第1及び第2カメラは、同一機種を選択するので、これらの2Dカメラのカメラ筺体の幅をd(=d1=d2)とした場合、dよりも短い基線長Δとなる3Dカメラを構成することができない。
【0059】
ここで、上述した反射手段及びリレーレンズを伝播する光束に対する光路長、及びこれらの構成素材であるガラス材料の屈折率の波長分散特性を決定する上で必要となるので、フィルタ群14、3色分解光学系16及び受光素子18について、その詳細な構成について図3を参照して説明する。
【0060】
図3は、フィルタ群14、3色分解光学系16及び受光素子18の配置の関係及びそれらの構成の詳細を示す図である。
【0061】
フィルタ群14として、3つの矩形によって3枚のフィルタが組み合わされて構成されている例を示しているが、これらのフィルタの数及び種類は2Dカメラの仕様によってそれぞれ異なる。一般に、撮像の対象物によって必要とされるフィルタの数及び種類が決められる。
【0062】
3色分解光学系16は、青色用プリズム134、赤色用プリズム136、及び緑色用プリズム138を具えて構成されている。
【0063】
撮像レンズから出力されフィルタ群14を透過して3色分解光学系16に入射される光束は、まず青色用プリズム134に入射しこの青色用プリズム134に形成されている青色成分を選択的に反射する反射膜140-1で反射される。反射膜140-1で反射された青色成分の光束は、青色用プリズム134の他の反射面134-1で反射されて、青色用の受光素子の受光面124Bに入射される。受光面124Bには、被写体の青色成分の実像が形成される。図3では、受光面124Bの前面に配置され、この受光面124Bを保護する平行平面ガラスであるシールガラス122Bを示してある。また図3では、結像面の中心位置を×印で示してある。後述する、赤色用の受光面132R及び緑色用の受光面128Gにおいても、同様に結像面の中心位置を×印で示してある。
【0064】
反射膜140-1を透過した光束は赤色用プリズム136に入射され、赤色用プリズム136に形成されている赤色成分を選択的に反射する反射膜136-1で反射され、赤色用プリズム136の他の反射面140-2に入射されて反射され、シールガラス130Rを通過して受光面132Rに結像される。受光面132Rには、被写体の赤色成分の実像が形成される。上述の青色成分を選択的に反射する反射膜140-1と赤色用プリズム136の他の反射面140-2とが一本の線分で示してあるが、実際は、反射膜140-1は青色用プリズム134の表面に形成されており、反射面140-2は赤色用プリズム136の表面に形成されている。そして、反射膜140-1と反射面140-2との間は、1μm以下の幅で空気層が存在している。すなわち、反射膜140-1と反射面140-2とは光学的なコンタクトがとられている。
【0065】
反射膜136-1を透過した光束は緑色用プリズム138に入射される。反射膜136-1を透過した光束は、撮像レンズ10から出射された光束から青色及び赤色の成分が除去されているため緑色成分のみが残されている。緑色成分の光束である反射膜136-1を透過した光束は緑色用プリズム138を通過してシールガラス126Gを通過し受光面128Gに結像される。受光面128Gには、被写体の緑色成分の実像が形成される。
【0066】
図1及び図2では、簡単のために、3色分解光学系16を長方形で簡略化して示してあり、また受光面124B、受光面132R及び受光面128Gをそれぞれ有する受光素子を一つにまとめて受光素子18として示してある。以下の説明においても、3色分解光学系16及び受光素子18は、図1及び図2と同様に簡略化して示す。
【0067】
撮像レンズ10から出射されて、青色成分の画像、赤色成分の画像及び緑色成分の画像が、それぞれ受光面124B、受光面132R及び受光面128Gに合同の画像として形成されるように、フィルタ群14及び3色分解光学系16を構成するフィルタあるいはプリズム等の光学素子の寸法及びこれらを構成するガラス材料の屈折率の波長分散特性が選択されて設計されている。
【0068】
従って、撮像レンズとカメラ筺体との間にこの発明のレンズアダプタを挿入しても、受光面124B、受光面132R及び受光面128Gに形成される画像に影響を与えない設計とする必要がある。この条件を満たすように、レンズアダプタを構成する、反射手段及びリレーレンズ伝播する光束に対する光路長、及びこれらの構成素材であるガラス材料の屈折率の波長分散特性を決定することになる。
【0069】
既存の2Dカメラにおいては、撮像レンズから出射されフィルタ群14を透過して3色分解光学系16に入射される光束が、最初に反射される反射膜140-1での反射点Pから、青色成分が到達する受光面124Bまでの光路長、赤色成分が到達する受光面132Rまでの光路長、及び緑色成分が到達する受光面128Gまでの光路長のそれぞれは、青色成分の画像、赤色成分の画像及び緑色成分の画像が、それぞれ受光面124B、受光面132R及び受光面128Gに互いに合同の関係となる画像として形成されるように、設定されている。
【0070】
従って、この発明のレンズアダプタが撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に挿入されることによって、上述の反射点Pにおいて入射される光束の青色成分、赤色成分及び緑色成分に対するそれぞれの光路長が変わらないようにする必要がある。また、受光面124B、受光面132R及び受光面128Gに結像される実像の収差の大きさも、この発明のレンズアダプタが挿入されることによって変わらないようにする必要がある。
【0071】
これらの条件は、レンズアダプタを構成する反射手段及びリレーレンズの構成素材であるガラス材料の屈折率の波長分散特性が、フィルタ群14及び3色分解光学系16の構成素材であるガラス材料の屈折率の波長分散特性と同一であれば満たされる。
【0072】
例えば、2Dカメラとして利用する既存のテレビカメラにあっては、フィルタ群14及び3色分解光学系16の構成素材であるガラス材料は、社団法人電波産業会の発行している技術資料「高精細度テレビジョン方式スタジオ機器の相互接続」(資料番号BTA S-1005B)によって規格が決められている。この場合、この規格に合致するガラス材料を使用してこの発明のレンズアダプタを構成する反射手段及びリレーレンズを構成すれば、上述の反射点Pにおいて入射される光束の青色成分、赤色成分及び緑色成分の到達時間差がないという条件が満たされる。
【0073】
以下の説明において、2Dカメラとして既存のテレビカメラを想定して説明するが、民生用のビデオカメラ等を2Dカメラとして利用する場合のレンズアダプタであっても、同様にこのビデオカメラに使われている光学素子の構成素材に合わせて、レンズアダプタを構成する反射手段及びリレーレンズを構成すればよい。
【0074】
以下の説明において、2Dカメラとして既存のテレビカメラを想定して説明するので、上述の技術資料によって決められた規格を満たすガラス材料を、便宜上規格化ガラス材料ということもある。
【0075】
<第1のレンズアダプタ>
図4を参照して、この発明の実施形態の第1のレンズアダプタの構成及びその機能について説明する。図4は、この発明の実施形態の第1のレンズアダプタが装着された2Dカメラを第1カメラ及び第2カメラとして並置した状態を示す図である。図4では、見やすくするために上述した図1と同様に、カメラ筺体20の内部が直接見えた状態で示してある。第1カメラを図4の上部に、第2カメラを図4の下部にそれぞれ並置して示してある。A-A'で示す一点破線は、第1カメラの撮像レンズ10の光軸及びこの撮像レンズ10から出射された光束の受光素子18に至るまでの光軸ないし光束の中心線を示している。また、B-B'で示す一点破線も同様に第2カメラの撮像レンズの光軸及びこの撮像レンズから出射された光束の受光素子に至るまでの中心線を示している。
【0076】
図4に示す第1及び第2カメラは、その構造が互いに同一であり、線対称になる配置で並置されている。従って、第2カメラについては、その構成要素が第1カメラと同一であるので構成要素を示す符号を省略してある。また、この発明の実施形態の第1のレンズアダプタ42については、第1カメラに装着される場合を想定して説明し、第2カメラに装着される場合については、同様であるので、その重複する説明を省略する。
【0077】
この発明の実施形態の第1のレンズアダプタ42は、撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に、図4に示すように装着される。第1及び第2カメラのカメラ筺体の幅がdであって、第1及び第2カメラのカメラ筺体の中心間隔がδとなるように配置されている。そして基線長がΔとなるようにそれぞれ第1のレンズアダプタ42が設置されている。図4に示すように第1のレンズアダプタ42が設置されているので、第1及び第2カメラのカメラ筺体の中心間隔δより基線長Δを短く設定する(δ>Δ)ことが可能となっている。
【0078】
反射手段は、第1反射プリズム32と第2反射プリズム36とのペアーによって実現されている。すなわち第1及び第2反射手段として、それぞれ第1反射プリズム32と第2反射プリズム36とが利用されている。なお、第2反射手段として第2反射プリズム36に代えて反射鏡を用いてもよい。
【0079】
第1反射プリズム32は、撮像レンズから出射された光束が入射されて第2反射プリズム36に向けて反射する。第2反射プリズム36は、第1反射プリズム32から反射された光束が入射されて、撮像レンズ10から出射された光束の進行方向と平行な方向に反射する。
【0080】
すなわち、図4に示すように、撮像レンズ10の光軸(撮像レンズから出射された光束の中心線)Kは、第1反射プリズム32によって90°曲げられて、中心線がLで与えられる光束となり、この光束が第2反射プリズム36に入射されて再度90°曲げられて中心線がMで与えられる光束となってカメラ筺体20に入射される。撮像レンズ10から出射された光束の中心線Kと中心線Mで与えられる光束とは平行であり、撮像レンズ10から出射された光束の中心軸である中心線Kが、カメラ筺体20に入射される光束の中心軸である中心線Mに移されている。
【0081】
反射手段を構成する第1反射プリズム32と第2反射プリズム36として、図4では直角全反射プリズムを利用する例を示したが、これらの反射プリズムは直角全反射プリズムに限定されることはない。図4に示す中心線Kを中心線Mに平行に移す構成とすることが可能であれば、如何なるプリズムを利用してもよい。例えば、全反射プリズムであっても直角の稜をもたないタイプのプリズムでもよく、また全反射プリズムでなくとも反射面を反射コーティング処理したプリズムを利用することも可能である。
【0082】
基線長Δは、第1反射プリズム32と第2反射プリズム36との間隔によって決まる。第1反射プリズム32と第2反射プリズム36との間隔を広く取ればとるほど、基線長Δの値を小さくすることが可能である。
【0083】
第1のレンズアダプタ42は、設置される第1及び第2カメラの機種が決まれば、その反射手段によって、撮像レンズから出射された光束の中心軸の平行移動量が決められるので、利用されるケースごとに第1反射プリズム32と第2反射プリズム36との間隔を設定すればよい。しかしながら、利用が想定される第1及び第2カメラの機種が一通りでなく、数通りの機種が想定されている場合は、第1反射プリズム32と第2反射プリズム36との間隔を可動にすることが望ましい。このような場合を想定して、第1反射プリズム32と第2反射プリズム36との相対位置を調整する可動部40を具えて構成してもよい。ただし、可動部40が構成要素として新たに加わるので、第1のレンズアダプタ42の構成がそれだけ複雑なものとなり、製造コストも高くなる。従って、可動部40を具えた構成とするか否かについての判断は、使用される第1及び第2カメラの機種如何にかかわり、設計的な事項に属する。
【0084】
撮像レンズ10から出射される光束は、第1反射プリズム32に入射され、第1反射プリズム32の後方、F1で示した位置に被写体の実像が形成される。この被写体の実像は、第2反射プリズム36を介してリレーレンズ38によって、フィルタ群14及び3色分解光学系16を介して受光素子18の受光面に伝達される。
【0085】
リレーレンズ38は絞り34が具えられており、この絞り34によって受光素子18の受光面に形成される実像の明るさを調整することが可能である。ただし、絞り34は必ず備えなければ成らない構成要素ではない。第1カメラと第2カメラの具える受光面に形成される実像の明るさが等しい場合、あるいは受光面に形成される実像の明るさを受光素子の後段に設けられる電気処理回路において電気的に調整可能である場合等、特段調整を必要とされない場合は、具えていなくともよい。
【0086】
F1で示した位置に形成された実像と、受光素子18の受光面に伝達されて結像された実像とが、収差の大きさ等画像の品質が同一であることが要請される。すなわち、F1で示した位置に形成された実像が受光素子18の受光面に再現されることが要請される。このためには、フィルタ群14及び3色分解光学系16を構成するガラス材料と、第1反射プリズム32、第2反射プリズム36及びリレーレンズ38を構成するガラス材料を同一にすればよい。すなわち、第1反射プリズム32、第2反射プリズム36及びリレーレンズ38を構成するガラス材料として規格化ガラス材料を用いればよい。
【0087】
<第2のレンズアダプタ>
図5を参照して、この発明の実施形態の第2のレンズアダプタの構成及びその機能について説明する。図5は、この発明の実施形態の第2のレンズアダプタが装着された2Dカメラである第1カメラの状態を示す図である。図5では、見やすくするために上述した図1と同様に、カメラ筺体20の内部が直接見えた状態で示してある。
【0088】
なお、図5では、同一構造である第2カメラの構成を示す図を省略してあるが、第2のレンズアダプタも、第1及び第2カメラを並列に配置して立体画像を撮影する立体カメラを構成するために、撮像レンズとカメラ筺体との間に設置して好適なレンズアダプタであることに変わりはない。
【0089】
図5において、A-A'で示す一点破線は、第1カメラの撮像レンズ10の光軸及びこの撮像レンズ10から出射された光束の受光素子18に至るまでの光軸ないし光束の中心線を示している。
【0090】
この発明の実施形態の第2のレンズアダプタ60は、撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に、図5に示すように装着される。
【0091】
反射手段はポロプリズム54によって構成される。このポロプリズム54は、撮像レンズ10から出射された光束が入射されて、この光束の中心軸Kを平行に中心軸Mに移す機能を有している。また、撮像レンズ10とポロプリズム54との間にダミーガラスブロック50が設置されている。
【0092】
撮像レンズ10から出射される光束(中心線K)は、ダミーガラスブロック50に入射され、ダミーガラスブロック50の後方、F1で示した位置に被写体の実像が形成される。この実像から出射する光束は、ポロプリズム54を通過してリレーレンズ56によってカメラ筺体20に入射され、この被写体の実像が受光素子18の受光面に伝達される。F1で示した位置に形成される被写体の実像は、ポロプリズム54を通過することによって左右及び上下が反転される。
【0093】
ダミーガラスブロック50は、F1で示した位置に形成される被写体の実像が受光素子18の受光面に再現されるように光束に対する光路長、すなわち、第2のレンズアダプタ60の入射端Xから第2のレンズアダプタ60の出射端Yまでの光路長を調整する機能を有する。
【0094】
リレーレンズ56には、絞り58が具えられており、この絞り58によって受光素子18の受光面に形成される実像の明るさを調整することが可能である。絞り58も、上述した通り必ず具えなければならないわけではない。
【0095】
ここでも、上述した第1のレンズアダプタにおける場合と同様に、F1で示した位置に形成された被写体の実像が受光素子18の受光面に再現されることが要請される。このためには、フィルタ群14及び3色分解光学系16を構成するガラス材料と、ダミーガラスブロック50、ポロプリズム54及びリレーレンズ56を構成するガラス材料とを同一にすればよい。すなわち、ダミーガラスブロック50、ポロプリズム54及びリレーレンズ56を構成するガラス材料として規格化ガラス材料を用いればよい。
【0096】
<第3のレンズアダプタ>
図6を参照して、この発明の実施形態の第3のレンズアダプタの構成及びその機能について説明する。図6は、この発明の実施形態の第3のレンズアダプタが装着された2Dカメラである第1カメラの状態を示す図である。図6では、見やすくするために上述した図1と同様に、カメラ筺体20の内部が直接見えた状態で示してある。
【0097】
なお、図6では、同一構造である第2カメラの構成を示す図を省略してあるが、第3のレンズアダプタも、第1及び第2カメラを並列に配置して立体画像を撮影する立体カメラを構成するために、撮像レンズとカメラ筺体との間に設置して好適なレンズアダプタであることに変わりはない。
【0098】
図6において、A-A'で示す一点破線は、第1カメラの撮像レンズ10の光軸及びこの撮像レンズ10から出射された光束の受光素子18に至るまでの光軸ないし光束の中心線を示している。
【0099】
この発明の実施形態の第3のレンズアダプタ94は、撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に、図6に示すように装着され、前段部90と後段部92とを具えて構成されている。
【0100】
前段部90は、第1反射手段である第1反射プリズム70と、第2反射手段である第2反射プリズム74と、第1リレーレンズ76とを具えている。また、後段部92は、ダミーガラスブロック80と、第2リレーレンズ84とを具えている。
【0101】
前段部90の構成は、上述の第1のレンズアダプタと同一の構造である。従って、第3のレンズアダプタ94は、第1のレンズアダプタの後段にダミーガラスブロック80と、第2リレーレンズ84とを具えた後段部92が増設された構造である。従って、後段部92が必要でない場合もあるので、前段部90と後段部92とは別々のユニットとして構成し、互いに着脱可能である構造とするのが便利である。
【0102】
図6に示す例では、前段部90と後段部92とが接続部材82で着脱可能である構成とされている。接続部材82は、バヨネットマウントあるいはスクリューマウント等が可能である構成とするのが好適である。以下では、第3のレンズアダプタ94を、前段部90と後段部92とが接続部材82で接合され、両者が一体として構成されているものとして、特に、接続部材82を境に前段部90と後段部92とが別々のユニットとして構成されていることを意識しないで説明する。
【0103】
第1反射プリズム70は、撮像レンズ10から出射された光束が入射されて第2反射プリズム74に向けて反射する。第2反射プリズム74は、第1反射プリズム70から反射された光束が入射されて、撮像レンズ10から出射された光束の進行方向と平行な方向に反射する。
【0104】
すなわち、図6に示すように、撮像レンズ10の光軸(撮像レンズから出射された光束の中心線K)は、第1反射プリズム70によって90°曲げられて、中心線がLで与えられる光束となり、この光束が第2反射プリズム74に入射されて再度90°曲げられて中心線がMで与えられる光束となってカメラ筺体20に入射される。撮像レンズから出射された光束の中心線Kと中心線Mで与えられる光束とは平行であり、撮像レンズから出射された光束の中心軸である中心線Kが、カメラ筺体20に入射される光束の中心軸である中心線Mに移されている。
【0105】
反射手段を構成する第1反射プリズム70と第2反射プリズム74として、図6では直角全反射プリズムを利用する例を示したが、これらの反射プリズムは直角全反射プリズムに限定されないことは、上述した第1のレンズアダプタの場合と同様である。
【0106】
また、第1反射プリズム70と第2反射プリズム74との相対位置を調整する可動部86を具えて構成してもよい点についても上述した第1のレンズアダプタの場合と同様である。
【0107】
撮像レンズ10から出射される光束は、第1反射プリズム70に入射され、第1反射プリズム70の後方、F1で示した位置に被写体の実像が形成される。第2反射プリズム74、第1リレーレンズ76、及びダミーガラスブロック80によって、F2で示した位置に、F1で示した位置に形成された被写体の実像の倒立実像(中間像)が形成される。F2で示した位置に形成される倒立実像が更に第2リレーレンズ84によって、フィルタ群14及び3色分解光学系16を介して受光素子18の受光面に伝達される。
【0108】
ダミーガラスブロック80は、第1リレーレンズ76の後段であって中間像が形成される位置(F2と示す位置)の手前に設置されて、光束に対する光路長を調整する。
【0109】
従って、受光素子18の受光面に伝達される実像は、上述の第1のレンズアダプタによって、受光素子18の受光面に伝達される実像とは倒立された関係となる。すなわち、上述の第2のレンズアダプタによって、受光素子18の受光面に伝達される実像と同一の向きの実像となる。
【0110】
これによって、第1及び第2カメラを通常の状態から天地を逆に設定する必要がなく、第1及び第2カメラを固定するための固定金具を新たに設けたり、受光面で受光した像を電気回路等によって天地を逆にしたりする必要がないという第2のレンズアダプタと同様の効果が得られる。
【0111】
第1リレーレンズ76及び第2リレーレンズ84には、それぞれ絞り78及び88が具えられており、この絞り78及び88によって受光素子18の受光面に形成される実像の明るさを調整することが可能である。なお、上述したように、特段実像の明るさ調整をする必要がない場合は、絞り78及び88は具えられていなくともよい。
【0112】
F1及びF2で示したそれぞれの位置に形成された実像と、受光素子18の受光面に伝達されて結像された実像とが、収差の大きさ等画像の品質が同一であることが要請される。すなわち、F1及びF2で示したそれぞれの位置に形成された実像が受光素子18の受光面に再現されることが要請される。このため、第1反射プリズム70、第2反射プリズム74、第1リレーレンズ76、ダミーガラスブロック80、及び第2リレーレンズ84を構成するガラス材料として規格化ガラス材料を用いればよい。
【0113】
図7を参照して、図6に示した第3のレンズアダプタとは別の構成の第3のレンズアダプタについて説明する。図7は、この発明の実施形態の別構成の第3のレンズアダプタの光学素子の配置構成を示す図である。図7では、光学素子の配置構成を示し、その他の筺体部分を省いて示してあるが、後述するように第2反射手段及び第1及び第2リレーレンズ以外は、図6に示した第3のレンズアダプタと同様の構造である。
【0114】
第3のレンズアダプタにおいて、図7に示すように、第1反射手段を第1反射プリズム70で、第2反射手段を反射鏡100で構成してもよい。反射鏡100は全反射鏡を用いてもあるいは半透鏡を用いてもよい。
【0115】
図7に示す構成のレンズアダプタによれば、第2反射手段を構成する第2反射プリズム74に代えて反射鏡100が使われるので、第2反射プリズム74のガラス部分が空気と置き換わる。これによって、F1の位置から第1リレーレンズ76の入射端Rまでの光路長と、F2の位置から第2リレーレンズ84の入射端Sまでの光路長とが等しくなる。そのため、第1リレーレンズ70と第2リレーレンズ84の光学的構造を同一とすることが可能となる。
【0116】
これに対して第2反射手段を第2反射プリズム74とした場合は、第2反射プリズム74のガラス部分の存在によって、F1の位置から第1リレーレンズ76の入射端Rまでの光路長と、F2の位置から第2リレーレンズ84の入射端Sまでの光路長とが完全に等しくはならない。このため、第1リレーレンズ70と第2リレーレンズ84の焦点距離等の光学的特性を同一にすることができない。
【0117】
<リレーレンズ>
図8を参照して、リレーレンズ38、リレーレンズ56、第1リレーレンズ76、及び第2リレーレンズ84として利用可能であるリレーレンズの代表例について説明する。図8は、リレーレンズの光軸を含み光軸の方向に平行な平面で切断した断面の概略図である。
【0118】
リレーレンズは、6枚5群構成の前段レンズ群22と、7枚6群構成の後段レンズ群24とを具えて構成されている。前段レンズ群22と後段レンズ群24との間に絞り26が設置されている。この絞り26によって、リレーレンズに入射される光束の強度を調整することによって、F1で示した位置に形成される被写体の実像の明るさを調整することが可能となる。また、F2で示した位置に形成される倒立実像(中間像)の明るさを調整することが可能となる。なお、絞り26は、上述したように必ずしも具える必要はない。
【0119】
更に、前段レンズ群22を構成する3枚2群構成の前段サブレンズ群28、あるいは後段レンズ群24を構成する4枚3群構成の後段サブレンズ群30を、リレーレンズの光軸に平行な方向に微調整が可能とされていると、リレーレンズによって形成される像の倍率を調整することが可能である。
【0120】
この特性を利用すれば、第1及び第2のレンズアダプタが具えるリレーレンズ、あるいは第3のレンズアダプタが具えるリレーレンズの倍率を調整することによって、第1及び第2カメラのそれぞれが受光面に形成する実像の大きさを等しく調整することが可能となる。これによって3D画像の品質の向上が図られる。
【0121】
上述の第1〜第3のレンズアダプタの構成に関する説明において、「リレーレンズを構成するサブレンズがこのリレーレンズの光軸に平行な方向に微調整が可能とされている」と記載されたサブレンズとは、具体的には、前段サブレンズ群28あるいは後段サブレンズ群30を意味する。
【0122】
<第1〜第3レンズアダプタによる受光面に再現される実像への効果>
図9(A)〜(D)を参照して、第1〜第3レンズアダプタが撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に挿入されたことによる、受光面に再現される実像が正立像となるか倒立像となるかにつき説明する。図9(A)〜(D)は、受光面には倒立像が形成されるように設計されている既存の2Dカメラの受光面に再現される実像が、第1〜第3レンズアダプタが撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に挿入されたことによりどのように変わるかについての説明に供する図である。図9(A)は既存の2Dカメラにおいて受光面に形成される実像を説明する図、図9(B)〜(D)はそれぞれ、第1〜第3のレンズアダプタが挿入された場合の受光面に再現される実像を説明する図である。
【0123】
図9(A)〜(D)において、被写体Pとして帆船をイメージした上下の関係が明確な対象を例にとって示してある。図9(A)に示すように、既存の2Dカメラにおいては被写体Pの帆船が受光面では倒立像として上下が反転した実像Qとして形成される。すなわち、既存の2Dカメラにおいては、受光面に図9(A)に示すように実像Qが形成されれば、被写体Pの正立像として認識されるように設計されている。
【0124】
従って、撮像レンズ10とカメラ筺体20との間にレンズアダプタを挿入した場合、受光面に図9(A)に示すように実像Qが形成されれば、被写体Pの正立像として認識される。
【0125】
図9(B)に示す第1のレンズアダプタ42を、撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に挿入した場合には、受光面には被写体Pの帆船の正立像が形成される。従って、既存の2Dカメラにおいては、画像が上下逆となって認識される。そのため、上述したように、第1及び第2カメラを通常の状態から天地を逆に設定する必要があり、第1及び第2カメラを固定するための固定金具を新たに設けたり、受光面で受光した像を電気回路等によって天地を逆にしたりする必要がある。
【0126】
これに対して、図9(C)及び(D)にそれぞれ示す第2のレンズアダプタ60及び第3のレンズアダプタ94を、撮像レンズ10とカメラ筺体20との間に挿入した場合には、受光面には被写体Pの帆船の倒立像が形成される。従って、既存の2Dカメラにおいて、被写体Pの正立像として認識されるように受光面に倒立像が形成されるので、第1及び第2カメラを固定するための固定金具を新たに設けたり、受光面で受光した像を電気回路等によって天地を逆にしたりする必要がない。
【符号の説明】
【0127】
10:撮像レンズ
12:装着部
14:フィルタ群
16:3色分解光学系
18:受光素子
20:カメラ筺体
22:前段レンズ群
24:後段レンズ群
26:絞り
28:前段サブレンズ群
30:後段サブレンズ群
32、70:第1反射プリズム
34、58、78、88:絞り
36、74:第2反射プリズム
38、56:リレーレンズ
40、86:可動部
42:第1のレンズアダプタ
50、80:ダミーガラスブロック
54:ポロプリズム
60:第2のレンズアダプタ
76:第1リレーレンズ
82:接続部材
84:第2リレーレンズ
90:前段部
92:後段部
94:第3のレンズアダプタ
100:反射鏡
122B、126G、130R:シールガラス
124B、128G、132R、:受光面
134:青色用プリズム
134-1、140-2:反射面
136:赤色用プリズム
138:緑色用プリズム
136-1、140-1:反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を撮像し立体視を可能とする立体撮像装置の第1及び第2カメラのそれぞれが具える撮像レンズとカメラ筺体との間に装着され、前記第1及び第2カメラのそれぞれが具える撮像レンズの光軸間隔である基線長に自由度を与えるためのレンズアダプタであって、
前記撮像レンズから出射された光束が入射されて、当該光束の中心軸を平行に移す機能を有する反射手段と、
前記撮像レンズによって形成される実像を、前記カメラ筺体に設置された受光面に伝達する機能を有するリレーレンズと
を具え、
前記反射手段及び前記リレーレンズを伝播する光束に対する光路長、及び前記反射手段及び前記リレーレンズを構成するガラス材料の屈折率の波長分散特性が、前記実像が前記受光面に再現される範囲に設定されていることを特徴とするレンズアダプタ。
【請求項2】
前記反射手段は、
前記撮像レンズから出射された光束が入射されて反射する第1反射手段としての第1反射プリズムと、
前記第1反射プリズムから反射された光束が入射されて、前記撮像レンズから出射された光束の進行方向と平行な方向に反射する第2反射手段としての第2反射プリズムと
を具えて構成されることを特徴とする請求項1に記載のレンズアダプタ。
【請求項3】
前記リレーレンズを構成するサブレンズが、当該リレーレンズの光軸に平行な方向に微調整が可能とされていることを特徴とする請求項2に記載のレンズアダプタ。
【請求項4】
前記リレーレンズが、入力される光束の光量を調整する絞りを具えていることを特徴とする請求項2に記載のレンズアダプタ。
【請求項5】
前記撮像レンズから出射された光束と、前記第2反射プリズムから反射された光束との間隔を調整可能とするため、前記第1反射プリズムと前記第2反射プリズムとの相対位置を調整する可動部を具えることを特徴とする請求項2に記載のレンズアダプタ。
【請求項6】
前記反射手段は、
前記撮像レンズから出射された光束が入射されて、当該光束の中心軸を平行に移す機能を有するポロプリズム(Porro prism)であることを特徴とする請求項1に記載のレンズアダプタ。
【請求項7】
前記撮像レンズと前記ポロプリズムとの間に挿入され、
前記実像が前記受光面に再現されるように、前記光束に対する光路長を調整するダミーガラスブロックを具えることを特徴とする請求項6に記載のレンズアダプタ。
【請求項8】
前記リレーレンズを構成するサブレンズが、当該リレーレンズの光軸に平行な方向に微調整が可能とされていることを特徴とする請求項6に記載のレンズアダプタ。
【請求項9】
前記リレーレンズが、入力される光束の光量を調整する絞りを具えていることを特徴とする請求項6に記載のレンズアダプタ。
【請求項10】
被写体を撮像し立体視を可能とする立体撮像装置の第1及び第2カメラのそれぞれが具える撮像レンズとカメラ筺体との間に装着され、前記第1及び第2カメラのそれぞれが具える撮像レンズの光軸間隔である基線長に自由度を与えるためのレンズアダプタであって、
前記撮像レンズから出射された光束が入射されて、当該光束の中心軸を平行に移す機能を有する前段部と、
前記撮像レンズによって形成される実像を、前記カメラ筺体に設置された受光面に伝達する機能を有する後段部と
を具え、
前記前段部は、第1反射手段と、第2反射手段と、第1リレーレンズとを具え、
前記後段部は、ダミーガラスブロックと、第2リレーレンズとを具え、
前記第1反射手段は、前記撮像レンズから出射された光束が入射されて前記第2反射手段に向けて反射し、
前記第2反射手段は、第1反射手段から反射された光束が入射されて、前記撮像レンズから出射された光束の進行方向と平行な方向に反射し、
前記第1リレーレンズは、前記撮像レンズによって形成される実像に対する中間像を形成し、
前記第2リレーレンズは、前記中間像を前記カメラ筺体に設置された受光面に再現し、
前記ダミーガラスブロックは、前記第1リレーレンズの後段であって前記中間像が形成される位置の手前に設置されて、前記光束に対する光路長を調整し、
前記第1及び第2反射手段及び前記第1及び第2リレーレンズを伝播する光束に対する光路長、及び前記第1及び第2反射手段及び前記第1及び第2リレーレンズを構成するガラス材料の屈折率の波長分散特性が、前記実像が前記受光面に再現される範囲に設定されていることを特徴とするレンズアダプタ。
【請求項11】
前記第1及び第2リレーレンズの少なくとも一方が、当該第1及び第2リレーレンズを構成するサブレンズを光軸に平行な方向に微調整することが可能とされていることを特徴とする請求項10に記載のレンズアダプタ。
【請求項12】
前記第1及び第2リレーレンズの少なくとも一方が、入力される光束の光量を調整する絞りを具えていることを特徴とする請求項10に記載のレンズアダプタ。
【請求項13】
前記撮像レンズから出射された光束と、前記第2反射手段から反射された光束との間隔を調整可能とするため、前記第1反射手段と前記第2反射手段との相対位置を調整する可動部を具えることを特徴とする請求項10に記載のレンズアダプタ。
【請求項14】
前記第1反射手段は反射プリズムであり、前記第2反射手段は反射鏡であることを特徴とする請求項2又は10に記載のレンズアダプタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−181699(P2010−181699A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25967(P2009−25967)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【特許番号】特許第4447651号(P4447651)
【特許公報発行日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(505433471)武蔵オプティカルシステム株式会社 (4)
【出願人】(594044646)株式会社エヌエイチケイメディアテクノロジー (20)
【Fターム(参考)】