説明

レンズ駆動装置およびレンズ駆動装置の製造方法

【課題】レンズを保持する可動体が停止しているときの撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを従来以上に抑制することが可能なレンズ駆動装置を提供する。
【解決手段】レンズ駆動装置1は、レンズを保持しレンズの光軸方向へ移動可能な可動体3と、可動体3を光軸方向へ移動可能に保持する固定体4と、可動体3を光軸方向へ駆動するための駆動機構5と、撮像素子2が実装される基板6とを備えている。基板6は、固定体4の反被写体側に固定されている。固定体4の反被写体側端面13cには、基板6の、撮像素子2が実装される実装面6aに当接するとともに、撮像素子2に対するレンズの光軸Lの傾きを補正するための複数の突起13dが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等に搭載される比較的小型のカメラで使用されるレンズ駆動装置、および、このレンズ駆動装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話等に搭載されるカメラの撮影用レンズを駆動するレンズ駆動装置として、複数のレンズを保持して光軸方向に移動するレンズホルダと、レンズホルダを光軸方向へ移動可能に保持するケース体とを備えるレンズ駆動装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のレンズ駆動装置では、ケース体の反被写体側の端面に、撮像素子が実装された回路基板が固定されている。
【0003】
レンズ駆動装置では、一般に、撮影された画像の片ボケを防止するために、レンズホルダが停止しているときの撮像素子に対するレンズの光軸の傾き(初期チルト)を抑制する必要がある。従来、レンズ駆動装置では、一般に、レンズ駆動装置を構成する部品の精度によって、初期チルトを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−165210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯電話等に搭載されるカメラの市場では、カメラの高画素化の要求が高まっている。カメラを高画素化する場合には、撮影された画像の片ボケを防止するために、初期チルトをさらに抑制する必要がある。しかしながら、レンズ駆動装置を構成する部品の精度のみによって、初期チルトをさらに抑制することが困難な状況が生じつつある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、レンズを保持する可動体が停止しているときの撮像素子に対するレンズの光軸の傾き(初期チルト)を従来以上に抑制することが可能なレンズ駆動装置を提供することにある。また、本発明の課題は、かかるレンズ駆動装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のレンズ駆動装置は、レンズを保持しレンズの光軸方向へ移動可能な可動体と、可動体を光軸方向へ移動可能に保持する固定体と、可動体を光軸方向へ駆動するための駆動機構と、撮像素子が実装されるとともに固定体の反被写体側に固定される基板とを備え、固定体の反被写体側の端面である反被写体側端面には、基板の、撮像素子が実装される実装面に当接するとともに、撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを補正するための複数の突起が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のレンズ駆動装置では、固定体の反被写体側端面に、撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを補正するための複数の突起が形成されている。そのため、複数の突起のいくつかを潰すことで、撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを補正して、可動体が停止しているときの撮像素子に対するレンズの光軸の傾き(初期チルト)を従来以上に抑制することが可能になる。なお、たとえば、可動体と固定体とを繋ぐバネ部材を補正することで、撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを補正することも可能であるが、初期チルトを抑制するために、バネ部材を補正すると、可動体の移動速度や移動量等の可動体の移動特性等に悪影響を及ぼすおそれがある。これに対して、本発明では、レンズ駆動装置の内部の構成を変えることなく、固定体に形成される複数の突起を利用して基板等を除くレンズ駆動装置の全体を傾けることで、撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを補正している。そのため、撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを補正しても、可動体の移動特性等に悪影響を及ぼすおそれはない。
【0009】
本発明において、レンズ駆動装置は、反被写体側端面と実装面との間に、接着剤が固化することで形成された接着層を備え、光軸方向における突起の高さは、光軸方向における接着層の厚さと略等しくなっている、または、光軸方向における接着層の厚さ以下となっていることが好ましい。このように構成すると、固定体の反被写体側端面に突起が形成されていても、固定体の反被写体側端面と基板の実装面との間を接着層で埋めることが可能になる。したがって、固定体の反被写体側端面と基板の実装面との間からレンズ駆動装置の内部へ塵埃が入り込むのを防止することが可能になる。
【0010】
本発明において、たとえば、反被写体側端面には、4個の突起が形成され、光軸方向から見たときに、4個の突起によって形成される四角形の対角線の交点とレンズの光軸とが略一致している。
【0011】
本発明において、たとえば、反被写体側端面は、光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、突起は、反被写体側端面の四隅のそれぞれに形成されている。この場合には、いくつかの突起を潰すことで、略四角形の枠状に形成される反被写体側端面の各辺を回転中心にしてレンズの光軸を傾けて光軸の傾き補正を行うこと、および、反被写体側端面の各対角線を回転中心にしてレンズの光軸を傾けて光軸の傾き補正を行うことが可能になる。すなわち、8方向へのレンズの光軸の傾き補正を行うことが可能になる。また、略四角形の枠状に形成される反被写体側端面の四隅では、反被写体側端面の四辺に比べて、光軸方向に直交する方向での肉厚を確保しやすい。そのため、四辺に突起が形成される場合と比較して、突起を形成しやすくなる。
【0012】
また、本発明において、反被写体側端面は、光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、反被写体側端面には、8個の突起が形成され、突起は、反被写体側端面の四隅のそれぞれと、反被写体側端面の四辺のそれぞれの略中心位置とに形成されていても良い。この場合であっても、いくつかの突起を潰すことで、8方向へのレンズの光軸の傾き補正を行うことが可能になる。
【0013】
本発明のレンズ駆動装置は、たとえば、撮像素子に対するレンズの光軸の傾き角度と傾き方向とを検査するための検査工程と、検査工程で検査されたレンズの光軸の傾き角度が所定の基準値を超える場合に、検査工程でのレンズの光軸の傾き方向の検査結果に基づいて突起を潰して、撮像素子に対するレンズの光軸の傾きを補正する傾き補正工程とを備えるレンズ駆動装置の製造方法によって製造される。この製造方法で製造されたレンズ駆動装置では、初期チルトを従来以上に抑制することが可能になる。
【0014】
本発明において、検査工程では、検査用の基板を突起に当接させて、レンズの光軸の傾き角度と傾き方向とを検査することが好ましい。このように構成すると、検査工程で、製品用の基板を取り扱う必要がなくなるため、レンズ駆動装置の製造工程における基板の損傷等を防止することが可能になる。
【0015】
本発明において、たとえば、反被写体側端面は、光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、反被写体側端面には、4個の突起が形成され、突起は、反被写体側端面の四隅のそれぞれに形成され、傾き補正工程では、反被写体側端面の周方向で隣接する2個の突起、または、1個の突起を潰して、レンズの光軸の傾きを補正する。この場合には、略四角形の枠状に形成される反被写体側端面の各辺を回転中心にしてレンズの光軸を傾けて光軸の傾き補正を行うこと、および、反被写体側端面の各対角線を回転中心にしてレンズの光軸を傾けて光軸の傾き補正を行うことが可能になる。すなわち、8方向へのレンズの光軸の傾き補正を行うことが可能になる。また、この場合には、反被写体側端面の各対角線を回転中心とするレンズの光軸の傾きの補正角度(補正量)を大きくすることが可能になる。
【0016】
本発明において、たとえば、反被写体側端面は、光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、反被写体側端面には、8個の突起が形成され、突起は、反被写体側端面の四隅のそれぞれと、反被写体側端面の四辺のそれぞれの略中心位置とに形成され、傾き補正工程では、反被写体側端面の周方向で隣接するとともに反被写体側端面の一辺上に形成される3個の突起を除く5個の突起、または、反被写体側端面の四隅の1つに配置される突起と反被写体側端面の周方向においてこの突起の両隣りに配置される2個の突起とを除く5個の突起を潰して、レンズの光軸の傾きを補正する。この場合には、8方向へのレンズの光軸の傾き補正を行うことが可能になる。また、この場合には、8方向のそれぞれへのレンズの光軸の傾き補正角度をほぼ等しくすることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明のレンズ駆動装置では、初期チルトを従来以上に抑制することが可能になる。また、本発明のレンズ駆動装置の製造方法で製造されたレンズ駆動装置では、初期チルトを従来以上に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態にかかるレンズ駆動装置の斜視図である。
【図2】図1のE−E断面の断面図である。
【図3】図1に示すレンズ駆動装置の分解斜視図である。
【図4】図1に示すベース部材の底面図である。
【図5】本発明の実施の形態にかかるレンズの傾き補正方法でレンズの光軸の傾き補正を行った場合のレンズの光軸の傾きの補正方向と補正角度との関係を説明するためのグラフである。
【図6】本発明の他の実施の形態にかかるレンズの傾き補正方法でレンズの光軸の傾き補正を行った場合のレンズの光軸の傾きの補正方向と補正角度との関係を説明するためのグラフである。
【図7】本発明の他の実施の形態にかかるベース部材の底面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態にかかるレンズ駆動装置でレンズの光軸の傾き補正を行った場合のレンズの光軸の傾きの補正方向と補正角度との関係を説明するためのグラフである。
【図9】本発明の他の実施の形態にかかるレンズ駆動装置でレンズの光軸の傾き補正を行った場合のレンズの光軸の傾きの補正方向と補正角度との関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
(レンズ駆動装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかるレンズ駆動装置1の斜視図である。図2は、図1のE−E断面の断面図である。図3は、図1に示すレンズ駆動装置1の分解斜視図である。図4は、図1に示すベース部材13の底面図である。なお、以下の説明では、図1等に示すように、互いに直交する3方向のそれぞれをX方向、Y方向およびZ方向とし、X方向を左右方向、Y方向を前後方向、Z方向を上下方向とする。また、図1等のZ1方向側を「上」側、Z2方向側を「下」側とする。
【0021】
本形態のレンズ駆動装置1は、携帯電話、ドライブレコーダあるいは監視カメラシステム等で使用される比較的小型のカメラに搭載されるものであり、図1に示すように、全体として略四角柱状に形成されている。具体的には、レンズ駆動装置1は、撮影用のレンズの光軸Lの方向(光軸方向)から見たときの形状が略正方形状となるように形成されている。また、レンズ駆動装置1の4つの側面は、左右方向または前後方向と略平行になっている。
【0022】
本形態では、Z方向(上下方向)が光軸方向とほぼ一致している。また、本形態のレンズ駆動装置1は、装置の下端側に撮像素子2が配置されており、上側に配置される被写体が撮影される。すなわち、本形態では、上側(Z1方向側)は被写体側(物体側)であり、下側(Z2方向側)は反被写体側(撮像素子側、像側)である。
【0023】
レンズ駆動装置1は、図1、図2に示すように、撮影用のレンズを保持し光軸方向へ移動可能な可動体3と、可動体3を光軸方向へ移動可能に保持する固定体4と、可動体3を光軸方向へ駆動するための駆動機構5と、撮像素子2が実装される基板6とを備えている。また、レンズ駆動装置1は、図2、図3に示すように、可動体3と固定体4とを繋ぐ板バネ8、9を備えている。すなわち、可動体3は、板バネ8、9を介して固定体4に移動可能に保持されている。
【0024】
可動体3は、複数のレンズが固定されたレンズホルダ10を保持するスリーブ11を備えている。固定体4は、レンズ駆動装置1の側面を構成するカバー部材12と、レンズ駆動装置1の反被写体側部分を構成するベース部材13と、板バネ8の一部が固定されるスペーサ14とを備えている。
【0025】
レンズホルダ10は、略円筒状に形成されている。このレンズホルダ10の内周側には、複数のレンズが固定されている。スリーブ11は、たとえば、樹脂材料で形成されるとともに、略筒状に形成されている。スリーブ11の内周面には、レンズホルダ10の外周面が固定されている。スリーブ11の外周側の2箇所には、後述の駆動用コイル17が巻回される巻回凹部11aが形成されている(図2参照)。巻回凹部11aは、スリーブ11の外周面から窪むように形成されている。
【0026】
カバー部材12は、磁性材料で形成されている。また、カバー部材12は、底部12aと筒部12bとを有する底付きの略四角筒状に形成されている。上側に配置される底部12aの中心には、貫通孔12cが形成されている。
【0027】
ベース部材13は、絶縁性を有する樹脂材料で形成されている。また、ベース部材13は、光軸方向から見たときの形状が略正方形となるブロック状に形成されている。このベース部材13は、カバー部材12の下端側に取り付けられている。ベース部材13の中心には、貫通孔13aが形成されている。ベース部材13の上面には、光軸方向における可動体3の基準位置を決めるための基準面13bが光軸方向と略直交するように形成されている。ベース部材13の下面13cは、光軸方向から見たときの形状が略正方形の枠状となるように形成されている。本形態の下面13cは、固定体4の反被写体側の端面である反被写体側端面となっている。
【0028】
下面13cには、撮像素子2に対するレンズの光軸Lの傾きを補正するための複数の突起13dが下方向へ突出するように形成されている。本形態では、下面13cに4個の突起13dが形成されている。また、突起13dは、図4に示すように、略正方形の枠状に形成される下面13cの四隅のそれぞれに形成されている。本形態では、ベース部材13の中心を光軸Lが通過するようにベース部材13が配置されており、下面13cの対角線上に配置される突起13dを結ぶ対角線D1、D2の交点は、光軸方向から見たときに、光軸Lと略一致している。
【0029】
突起13dは、扁平な円柱状に形成されている。突起13dの外径は小さく、かつ、その高さ(光軸方向における高さ)は薄くなっている。たとえば、突起13dの外径は、0.3mm程度であり、突起13dの高さは、0.03mm程度となっている。なお、以下の説明では、4個の突起13dを区別して表す場合には、4個の突起13dのそれぞれを突起13e、突起13f、突起13g、突起13hとする。突起13e〜13hは、枠状に形成される下面13cの周方向にこの順番で形成されている。
【0030】
スペーサ14は、たとえば、樹脂材料で形成されるとともに、略正方形の扁平なブロック状に形成されている。また、スペーサ14は、枠状に形成されており、その中心には、貫通孔14aが形成されている。このスペーサ14は、カバー部材12の底部12aの下面に固定されている。
【0031】
撮像素子2は、基板6の上面6aに実装されている。すなわち、基板6の上面6aは、撮像素子2が実装される実装面である。基板6は、ベース部材13の下端に固定されている。具体的には、基板6は、上面6aを突起13dの下端に当接させた状態で、接着によって、ベース部材13の下面13cに固定されている。撮像素子2は、光軸Lが通過する位置に配置されるとともに、ベース部材13の内部に配置されている。
【0032】
基板6の上面6aとベース部材13の下面13cとの間には、上面6aと下面13cとの間に塗布された接着剤が固化することで形成された接着層15が形成されている。光軸方向における接着層15の厚さは、突起13dの高さと略等しくなっており、上面6aと下面13cとの隙間は、接着層15によって埋められている。なお、4個の突起13dのうちの1個または2個の突起13dは、後述のレンズ駆動装置1の製造過程で、潰されてなくなることもある。その場合には、基板6の上面6aの一部は、ベース部材13の下面13cに当接している。
【0033】
板バネ8は、スリーブ11の上端側に固定される円環状の可動体固定部と、スペーサ14に固定される固定体固定部と、可動体固定部と固定体固定部とを繋ぐ腕部とを備えている。板バネ9は、スリーブ11の下端側に固定される可動体固定部と、ベース部材13に固定される固定体固定部と、可動体固定部と固定体固定部とを繋ぐ腕部とを備えている。
【0034】
駆動機構5は、スリーブ11の外周側に巻回される2個の駆動用コイル17と、レンズ駆動装置1の4つの側面のそれぞれに沿って配置される駆動用磁石18とを備えている。2個の駆動用コイル17は、光軸方向に所定の間隔をあけた状態で配置されている。駆動用磁石18は、光軸方向から見たときの形状が扁平な長方形状となる略矩形の板状に形成されている。駆動用磁石18は、駆動用コイル17の外周面に対向するようにカバー部材12の筒部12bの内側面に固定されている。
【0035】
(撮像素子に対するレンズの光軸の傾き補正方法)
図5は、本発明の実施の形態にかかるレンズの傾き補正方法でレンズの光軸Lの傾き補正を行った場合のレンズの光軸Lの傾きの補正方向と補正角度との関係を説明するためのグラフである。
【0036】
以上のように構成されたレンズ駆動装置1を製造する製造過程では、ベース部材13の下面13cおよび突起13dに基板6が接着固定される前のレンズ駆動装置1を用いて、撮像素子2に対するレンズの光軸Lの傾き角度(傾き量)と傾き方向とを検査する(検査工程)。すなわち、撮像素子2の軸に対する光軸Lの傾き角度と傾き方向とを検査する。具体的には、検査用の撮像素子が実装された検査用の基板(図示省略)をベース部材13の4個の突起13dに当接させて、撮像素子2に対する光軸Lの傾き角度および傾き方向の代用として、検査用の撮像素子に対する光軸Lの傾き角度および傾き方向を検査する。
【0037】
検査工程で検査された光軸Lの傾き角度が所定の基準値を超えている場合には、検査工程での光軸Lの傾き方向の検査結果に基づいて、突起13dを潰して、撮像素子2に対する光軸Lの傾きを補正する(傾き補正工程)。すなわち、検査工程で検査された光軸Lの傾き角度が所定の基準値を超えている場合には、光軸Lの傾き角度が基準値内に収まるように、突起13dを潰して、光軸Lの傾きを補正する。本形態の傾き補正工程では、下面13cの周方向で隣接する2個の突起13d、または、1個の突起13dを潰して光軸Lの傾きを補正する。
【0038】
たとえば、検査工程での光軸Lの傾き方向の検査結果に基づいて、略正方形の枠状に形成される下面13cを構成する4つの辺E1〜E4のうち、突起13e、13fが形成される角部を結ぶ辺E1を回転中心にして左右方向へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13g、13hを潰す。同様に、検査工程での光軸Lの傾き方向の検査結果に基づいて、突起13f、13gが形成される角部を結ぶ辺E2を回転中心にして前後方向へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13h、13eを潰し、突起13g、13hが形成される角部を結ぶ辺E3を回転中心にして左右方向へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13e、13fを潰し、突起13h、13eが形成される角部を結ぶ辺E4を回転中心にして前後方向へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13f、13gを潰す。
【0039】
また、たとえば、検査工程での光軸Lの傾き方向の検査結果に基づいて、突起13e、13gを結ぶ対角線D1を回転中心にして、左右方向に対して−45°傾いた方向へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13fあるいは突起13hを潰し、突起13f、13hを結ぶ対角線D2を回転中心にして、左右方向に対して45°傾いた方向へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13eあるいは突起13gを潰す。
【0040】
本形態の傾き補正工程では、突起13dの潰し量は、どの突起13dを潰す場合でも同じである。光軸Lの各傾き補正方向に対する傾き補正角度をまとめると図5のようになる。なお、図5において、補正方向1は、辺E4が下がる補正方向であり、補正方向2は、突起13eが形成される角部が下がる補正方向であり、補正方向3は、辺E1が下がる補正方向であり、補正方向4は、突起13fが形成される角部が下がる補正方向であり、補正方向5は、辺E2が下がる補正方向であり、補正方向6は、突起13gが形成される角部が下がる補正方向であり、補正方向7は、辺E3が下がる補正方向であり、補正方向8は、突起13hが形成される角部が下がる補正方向である。また、図5においては、原点Oから離れるにしたがって、傾き補正角度が大きくなる。
【0041】
図5に示すように、補正方向1、3、5、7への傾き補正角度は互いに等しく、補正方向2、4、6、8への傾き補正角度は互いに等しい。また、左右方向における辺E1と辺E3との距離、および、前後方向における辺E2と辺E4との距離は、左右方向に対して−45°傾いた方向における対角線D1と突起13fまたは突起13hとの距離、および、左右方向に対して45°傾いた方向における対角線D2と突起13eまたは突起13gとの距離よりも短いため、補正方向1、3、5、7への傾き補正角度よりも補正方向2、4、6、8への傾き補正角度の方が大きくなる。
【0042】
なお、傾き補正工程では、突起13dに熱を加えながら圧力をかけて突起13dを潰しても良いし、突起13dに熱を加えずに圧力をかけて突起13dを潰しても良い。
【0043】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のレンズ駆動装置1では、ベース部材13の下面13cに撮像素子2に対するレンズの光軸Lの傾きを補正するための4個の突起13dが形成されている。また、本形態では、検査工程において、撮像素子2に対する光軸Lの傾き角度と傾き方向とを検査し、検査工程で検査された光軸Lの傾き角度が所定の基準値を超えている場合には、傾き補正工程で、検査工程での光軸Lの傾き方向の検査結果に基づいて、突起13dを潰して、撮像素子2に対する光軸Lの傾きを補正している。そのため、本形態では、4個の突起13dを利用して、光軸Lの傾きを補正することで、初期チルトを従来以上に抑制することが可能になる。
【0044】
なお、板バネ8、9を変形させることで、光軸Lの傾きを補正して、初期チルトを従来以上に抑制することも可能であるが、板バネ8、9を変形させると、可動体3の移動速度や移動量等の可動体3の移動特性等に悪影響を及ぼすおそれがある。これに対して、本形態では、レンズ駆動装置1の内部の構成を変えることなく、4個の突起13dを利用して、撮像素子2や基板6等を除くレンズ駆動装置1の全体を傾けることで、光軸Lの傾きを補正している。そのため、光軸Lの傾きを補正しても、可動体3の移動特性等のレンズ駆動装置1の他の特性に悪影響を及ぼすおそれはない。
【0045】
本形態では、光軸方向における接着層15の厚さは、突起13dの高さと略等しくなっており、基板6の上面6aとベース部材13の下面13cとの隙間は、接着層15によって埋められている。そのため、本形態では、ベース部材13の下面13cに突起13dが形成されていても、上面6aと下面13cとの隙間からレンズ駆動装置1の内部へ塵埃が入り込むのを防止することが可能になる。
【0046】
本形態では、略正方形の枠状に形成される下面13cの四隅のそれぞれに突起13dが形成されている。そのため、本形態では、上述のように、補正方向1〜8の8方向への光軸Lの傾き補正を行うことができる。また、略正方形の枠状に形成される下面13cの四隅では、下面13cの4つの辺E1〜E4に比べて、光軸方向に直交する方向での肉厚を確保しやすい。そのため、辺E1〜E4に突起13dが形成される場合と比較して、突起13dを形成しやすくなる。
【0047】
本形態では、検査工程において、検査用の基板を4個の突起13dに当接させて、光軸Lの傾き角度と傾き方向とを検査している。そのため、検査工程で、製品用の基板6を取り扱う必要がなくなる。したがって、本形態では、レンズ駆動装置1の製造過程における基板6の損傷等を防止することが可能になる。
【0048】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0049】
上述した形態では、傾き補正工程において、下面13cの周方向で隣接する2個の突起13d、または、1個の突起13dを潰して光軸Lの傾きを補正している。この他にもたとえば、傾き補正工程において、1個の突起13dを潰す代わりに、3個の突起13dを潰して光軸Lの傾きを補正しても良い。すなわち、補正方向2へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13e、13f、13hを潰し、補正方向4へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13e、13f、13gを潰し、補正方向6へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13f、13g、13hを潰し、補正方向8へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13e、13g、13hを潰しても良い。この場合の各傾き補正方向に対する補正角度をまとめると図6のようになり、補正方向2、4、6、8への傾き補正角度は、1個の突起13dを潰す場合よりも3個の突起13dを潰す場合の方が小さくなる。すなわち、補正方向2、4、6、8へ光軸Lの傾きを補正する場合には、1個の突起13dを潰した方が傾き補正角度を大きくすることができる。
【0050】
上述した形態では、突起13dは、略正方形の枠状に形成される下面13cの四隅のそれぞれに形成されている。この他にもたとえば、図7に示すように、下面13cの四隅に形成される突起13dに加えて、下面13cを構成する4つの辺E1〜E4のそれぞれの略中心位置に突起13dが形成されても良い。すなわち、下面13cに8個の突起13dが形成されても良い。以下の説明では、辺E1〜E4のそれぞれの略中心位置に形成される4個の突起13dを区別して表す場合には、4個の突起13dのそれぞれを突起13r、突起13s、突起13t、突起13uとする。突起13rは辺E1に形成され、突起13sは辺E2に形成され、突起13tは辺E3に形成され、突起13uは辺E4に形成されている。
【0051】
この場合には、たとえば、傾き補正工程において、下面13cの周方向で隣接するとともに辺E1〜E4のいずれかの一辺上に形成される3個の突起13dを除く5個の突起13d、または、下面13cの四隅の1つに配置される突起13dと下面13cの周方向においてこの突起13dの両隣りに配置される2個の突起13dとを除く5個の突起13dを潰して、光軸Lの傾きを補正する。
【0052】
すなわち、補正方向1へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13f、13g、13sを除く5個の突起13dを潰し、補正方向2へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13g、13s、13tを除く5個の突起13dを潰し、補正方向3へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13g、13h、13tを除く5個の突起13dを潰し、補正方向4へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13h、13t、13uを除く5個の突起13dを潰す。また、補正方向5へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13e、13h、13uを除く5個の突起13dを潰し、補正方向6へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13e、13r、13uを除く5個の突起13dを潰し、補正方向7へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13e、13f、13rを除く5個の突起13dを潰し、補正方向8へ光軸Lの傾きを補正する場合には、突起13f、13r、13sを除く5個の突起13dを潰す。
【0053】
この場合であっても、補正方向1〜8の8方向への光軸Lの傾き補正を行うことができる。また、この場合の各補正方向に対する傾き補正角度をまとめると図8のようになる。すなわち、この場合には、補正方向1〜8の各方向への傾き補正角度をほぼ等しくすることができる。
【0054】
また、上述した形態では、突起13dは、略正方形の枠状に形成される下面13cの四隅のそれぞれに形成されているが、下面13cに4個の突起13dが形成される場合には、下面13cの任意の箇所に突起13dが形成されても良い。同様に、図7に示す変形例では、下面13cの四隅のそれぞれと、下面13cを構成する4つの辺E1〜E4のそれぞれの略中心位置とに突起13dが形成されているが、下面13cに8個の突起13dが形成される場合には、下面13cの任意の箇所に突起13dが形成されても良い。
【0055】
上述した形態では、ベース部材13の下面13cは、光軸方向から見たときの形状が略正方形の枠状となるように形成されている。この他にもたとえば、下面13cは、光軸方向から見たときの形状が略長方形の枠状となるように形成されても良い。なお、光軸方向から見たときの形状が左右方向を長辺方向とする略長方形の枠状となるように下面13cが形成される場合であって、下面13cの四隅のそれぞれに突起13dが形成されるとともに、傾き補正工程において、下面13cの周方向で隣接する2個の突起13d、または、3個の突起13dを潰して光軸Lの傾きを補正する場合の補正方向1〜8の8方向への光軸Lの傾き補正角度は、たとえば、図9のようになる。
【0056】
また、ベース部材13の下面13cは、光軸方向から見たときの形状が四角形以外の多角形の枠状となるように形成されても良いし、光軸方向から見たときの形状が略円形または略楕円形の枠状となるように形成されても良い。また、上述した形態では、レンズ駆動装置1は、光軸方向から見たときの形状が略四角形状となるように形成されているが、レンズ駆動装置1は、光軸方向から見たときの形状が略四角形状以外の略多角形状となるように形成されても良いし、光軸方向から見たときの形状が略円形状あるいは略楕円形状となるように形成されても良い。
【0057】
上述した形態では、ベース部材13の下面13cに4個の突起13dが形成され、図7に示す変形例では、下面13cに8個の突起13dが形成されている。この他にもたとえば、2個、3個あるいは5個〜7個の突起13dが下面13cに形成されても良いし、9個以上の突起13dが下面13cに形成されても良い。また、上述した形態では、突起13dは、扁平な円柱状に形成されているが、突起13dは、扁平な多角柱状に形成されても良いし、扁平な楕円柱状に形成されても良い。また、突起13dは、球状に形成されても良い。
【0058】
上述した形態では、光軸方向における突起13dの高さは、光軸方向における接着層15の厚さはと略等しくなっている。この他にもたとえば、光軸方向における突起13dの高さは、光軸方向における接着層15の厚さ以下となっていても良い。また、上述した形態では、傾き補正工程において、突起13dの潰し量は、どの突起13dを潰す場合でも同じとなっているが、検査工程での光軸Lの傾き角度の検査結果に基づいて、傾き補正工程での突起13dの潰し量を変えても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 レンズ駆動装置
2 撮像素子
3 可動体
4 固定体
5 駆動機構
6 基板
6a 上面(実装面)
13c 下面(反被写体側端面)
13d(13e〜13h、13r〜13u) 突起
15 接着層
D1、D2 対角線
E1〜E4 下面の辺(反被写体側端面の辺)
L 光軸
Z 光軸方向
Z2 反被写体側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを保持し前記レンズの光軸方向へ移動可能な可動体と、前記可動体を前記光軸方向へ移動可能に保持する固定体と、前記可動体を前記光軸方向へ駆動するための駆動機構と、撮像素子が実装されるとともに前記固定体の反被写体側に固定される基板とを備え、
前記固定体の前記反被写体側の端面である反被写体側端面には、前記基板の、前記撮像素子が実装される実装面に当接するとともに、前記撮像素子に対する前記レンズの光軸の傾きを補正するための複数の突起が形成されていることを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項2】
前記反被写体側端面と前記実装面との間に、接着剤が固化することで形成された接着層を備え、
前記光軸方向における前記突起の高さは、前記光軸方向における前記接着層の厚さと略等しくなっている、または、前記光軸方向における前記接着層の厚さ以下となっていることを特徴とする請求項1記載のレンズ駆動装置。
【請求項3】
前記反被写体側端面には、4個の前記突起が形成され、
前記光軸方向から見たときに、4個の前記突起によって形成される四角形の対角線の交点と前記レンズの光軸とが略一致していることを特徴とする請求項1または2記載のレンズ駆動装置。
【請求項4】
前記反被写体側端面は、前記光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、
前記突起は、前記反被写体側端面の四隅のそれぞれに形成されていることを特徴とする請求項3記載のレンズ駆動装置。
【請求項5】
前記反被写体側端面は、前記光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、
前記反被写体側端面には、8個の前記突起が形成され、
前記突起は、前記反被写体側端面の四隅のそれぞれと、前記反被写体側端面の四辺のそれぞれの略中心位置とに形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のレンズ駆動装置。
【請求項6】
請求項1または2記載のレンズ駆動装置を製造するためのレンズ駆動装置の製造方法であって、
前記撮像素子に対する前記レンズの光軸の傾き角度と傾き方向とを検査するための検査工程と、前記検査工程で検査された前記レンズの光軸の傾き角度が所定の基準値を超える場合に、前記検査工程での前記レンズの光軸の傾き方向の検査結果に基づいて前記突起を潰して、前記撮像素子に対する前記レンズの光軸の傾きを補正する傾き補正工程とを備えることを特徴とするレンズ駆動装置の製造方法。
【請求項7】
前記検査工程では、検査用の基板を前記突起に当接させて、前記レンズの光軸の傾き角度と傾き方向とを検査することを特徴とする請求項6記載のレンズ駆動装置の製造方法。
【請求項8】
前記反被写体側端面は、前記光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、
前記反被写体側端面には、4個の前記突起が形成され、
前記突起は、前記反被写体側端面の四隅のそれぞれに形成され、
前記傾き補正工程では、前記反被写体側端面の周方向で隣接する2個の前記突起、または、1個の前記突起を潰して、前記レンズの光軸の傾きを補正することを特徴とする請求項6または7記載のレンズ駆動装置の製造方法。
【請求項9】
前記反被写体側端面は、前記光軸方向から見たときの形状が略四角形の枠状となるように形成され、
前記反被写体側端面には、8個の前記突起が形成され、
前記突起は、前記反被写体側端面の四隅のそれぞれと、前記反被写体側端面の四辺のそれぞれの略中心位置とに形成され、
前記傾き補正工程では、前記反被写体側端面の周方向で隣接するとともに前記反被写体側端面の一辺上に形成される3個の前記突起を除く5個の前記突起、または、前記反被写体側端面の四隅の1つに配置される前記突起と前記反被写体側端面の周方向においてこの突起の両隣りに配置される2個の前記突起とを除く5個の前記突起を潰して、前記レンズの光軸の傾きを補正することを特徴とする請求項6または7記載のレンズ駆動装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−194293(P2012−194293A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57323(P2011−57323)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】