説明

レーザろう付け装置及び方法

【課題】 溶接不良の発生を防止すること。
【解決手段】 レーザ発振器10と、ろう材供給機構12と、レーザビームLBの光軸AX及びろう材22の供給方向FDを三次元空間にて調節するレーザ加工ヘッド14と、レーザビームLB及びろう材22に対して部材20を進行方向MDに相対移動させる部材保持機構16とを備え、レーザ加工ヘッド14は、前記供給方向FDについて、所定の進行方向面MDPと所定の供給方向面FDPとの成す角であるねじり角TAを予め定められた0度を超える角度範囲とし、そして、進行方向面MDPが、進行方向MDとレーザビームLBの光軸AXとを含む平面に属し、供給方向面FDPが、進行方向面内の直線であってレーザビームLBの光軸AXと部材20とが交わる照射点IPを通り進行方向MDと直交する基本軸BXと、供給方向FDとを含む平面に属し、当該レーザ加工ヘッド14が、ねじり角TAの前記角度範囲内で供給方向FDからろう材22を供給する供給部18を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付けによる接合技術に関し、特に、ろう材の溶融をレーザビームの照射によって行う接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部材等のろう付けにおける熱源のひとつとして、レーザビームが用いられている。レーザろう付けの際、部材に表面処理被膜や、油分や、ゴミ等が存在していると、ろう付け時にそれらが蒸発し、ブローホールやピットなどの溶接欠陥が発生してしまう。
ブローホールは、蒸気が溶融池中に気泡となって残留したものであり、ポロシティーともいう。ピットは表面の小さなくぼみであり、発生原因は様々であるが、残留気泡が溶接ビードの表面や近傍に現れることによっても発生する。
【0003】
特許文献1には、ろう材の軸線とレーザビームの軸線との成す角度を調整することで、レーザビームの入熱効率を高める手法(段落0053,0054、図4,図10)が開示されている。また、予熱用のレーザビームを用意し、部材を予熱することで、ろう材のぬれ性を向上させようとする手法(段落0031、図6)が開示されている。
特許文献2には、ピットの抑制を図ることを目的として、ろう付け加工点のエネルギー密度をろう付け前方が大となるように調整する手法(段落0013,0014,0019、図2)が開示されている。
特許文献3には、車体用パネルのような長い部材の加工について、欠落、部分ふくれ、熱量不足等の欠陥がなく、熱歪みの少ない良好な状態でろう付け加工すること(段落0010)を目的として、ろう材の供給軸線とレーザビームの光軸とが成す傾き角を調整し、ろう材の先端を照射スポット内とする手法(段落0032、図3(a))が開示されている。また、特許文献3には、被加工物を直交する二軸回りにて回転又は揺動させる手法(段落0039)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-130534号公報
【特許文献2】特開2006-346725号公報
【特許文献3】特開2008-814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、部材の表面を粗面処理し、レーザビームを乱反射させることで入熱効率を向上させ、さらに、レーザビームをろう材の軸線に対して傾斜させることで、レーザビームの乱反射を促し、入熱効率を向上させることが図られている(段落0012,0013)が、この傾斜等の手法は、ブローホールやピットの抑制への寄与とはなっていない。
上記特許文献2では、レーザビームのエネルギー密度を進行方向前方側で高くするとともに、レーザビームの幅をろう材の幅よりも広く設定することにより、進行方向前方側の亜鉛メッキの蒸発を促進して、ろう材の溶融後に溶融池に侵入する蒸気を少なくしている。
しかしながら、ろう材の影になる領域では亜鉛メッキの蒸発が不十分となるため、ブローホール及びピットの抑制または防止が十分になされないと想定される。
特許文献3では、ろう材の供給軸線の進行方向への傾き角や、部材の回転又は揺動等の可能性について記載されているが、具体的な方向や数値範囲等と、その効果が開示されておらず、ブローホール及びピットを抑制するために具体的にどうすべきかについては、何ら開示されていない。
【0006】
[課題1]このように、上記従来例では、レーザろう付けに際して、ブローホール及びピット等の溶接欠陥の発生を十分には防止することができない、という不都合があった。
【0007】
[発明の目的]本発明の目的は、レーザろう付けにおいて比較的単純な構成で、ブローホール及びピット等の溶接欠陥の発生を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[着眼点]本発明の発明者は、レーザビームを部材の表面に十分に照射し、その直後に接合すると、蒸気等が溶融池に入ることを有効に防止できて良い、という点に着目した。そして、ろう材(ワイヤ)の供給方向を工夫することで、上記課題を解決できるのではないか、との着想に至った。
【0009】
[課題解決手段1]実施例1に対応する本発明は、装置の発明として、レーザビームを発振するレーザ発振器と、ろう材を供給するろう材供給機構と、前記レーザビームの光軸及び前記ろう材の供給方向を三次元空間にて調節するレーザ加工ヘッドと、このレーザ加工ヘッドと協調して前記レーザビーム及び前記ろう材に対して前記部材を進行方向に相対移動させる部材保持機構とを備えている。
そして、レーザ加工ヘッドは、前記供給方向について、所定の進行方向面と所定の供給方向面との成す角であるねじり角を予め定められた0度を超える角度範囲としている。ここで、前記進行方向面は、前記進行方向と前記レーザビームの前記光軸とを含む平面に属している。前記供給方向面は、前記レーザビームの前記光軸と前記部材とが交わる照射点を通り前記進行方向と直交する基本軸と、前記供給方向とを含む平面に属している。
さらに、当該レーザ加工ヘッドが、前記ねじり角の前記角度範囲内で前記供給方向から前記ろう材を前記部材に向けて供給する供給部を備えた、という構成を採っている。
これにより、上記課題1を解決した。
[課題解決手段2]また、実施例1に対応する本発明は、方法の発明として、レーザビームを発振する工程と、このレーザビームを部材に向けて集光する工程と、この集光と並行して、ろう材を前記部材に向けて所定の供給方向にて供給する工程と、この集光及び供給と並行して、前記レーザビーム及び前記ろう材に対して前記部材を進行方向に連続的に相対移動させることで、前記部材を接合する工程とを備えている。
ここで、進行方向面を、前記進行方向と前記レーザビームの光軸とを含む平面に属させて、供給方向面を、前記進行方向面内の直線であって、前記レーザビームの前記光軸と前記部材とが交わる照射点を通り前記進行方向と直交する基本軸と、前記供給方向とを含む平面に属させる。
そして、前記ろう材の前記供給方向を、前記進行方向面と前記供給方向面との成す角であるねじり角を予め定められた0度を超える角度範囲内とした方向とする。
さらに、ろう材を供給する工程は、前記ねじり角の角度範囲内で前記供給方向から前記ろう材を前記部材に向けて供給する、という構成を採っている。
これによっても、上記課題1を解決した。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、本明細書の記載及び図面を考慮して各請求項記載の用語の意義を解釈し、各請求項に係る発明を認定すると、各請求項に係る発明は、上記背景技術等との関連において次の有利な効果を奏する。
【0011】
[発明の作用効果1] 課題解決手段1のレーザろう付け装置又は方法は、供給部又は供給工程が、ねじり角の前記角度範囲内で供給方向からろう材を部材に向けて供給し、このねじり角は、進行方向面と供給方向面との成す角であって、進行方向面を、進行方向と前記レーザビームの光軸とを含む平面とし、供給方向面を、基本軸と供給方向とを含む平面としたため、供給部は、照射点を含む部材の平面にて、進行方向とは重ならない方向からろう材(ワイヤ)を供給する。
すなわち、供給部は、ろう材の影となる方向がろう付けの進行方向と一致しなくなるような方向から、ろう材(ワイヤ)を供給する。
これにより、部材のろう付け進行方向前方の領域に対し、接合前にレーザビームが直接照射されるようになり、ろう材の溶融に先立って表面処理皮膜、油等の蒸発が行われるため、溶融池内に侵入する蒸気が少なくなると考えられる。
このため、本発明は、ブローホール及びピット等の溶接欠陥の発生を抑制または防止できるものと期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の構成例を示す説明図である。(実施例1)
【図2】レーザ加工ヘッドの構成例を示す正面図である。(実施例1)
【図3】前進角を0度とした状態の配置関係例を示す斜視図である。(実施例1)
【図4】前進角を0度より大きくした状態の配置関係例を示す斜視図である。(実施例1)
【図5】後退角を0度より大きくした状態の配置関係例を示す斜視図である。(実施例1)
【図6】レーザ照射領域の幅とろう材の直径との関係例を示す平面図である。(実施例1)
【図7】レーザ照射領域の軌跡とろう材の直径との関係例を示す平面図である(実施例1)
【図8】レーザ照射領域での溶融池等の状態の一例を示す正面図である。(実施例1)
【図9】図9(A)及び(B)はろう材の接触角の一例を示す説明図である。(実施例1)
【図10】図10(A)及び(B)はろう材の接触角の他の例を示す説明図である。(実施例1)
【図11】ねじり角毎とブローホールの個数との関係例を示すグラフ図である。(実施例1)
【図12】トランクリッドをろう付けした一例を示す説明図である(実施例1)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明を実施するための形態として、1つの実施例を開示する。実施例1はレーザろう付け装置及びレーザろう付け方法である。
【実施例1】
【0014】
<1 レーザろう付け装置及び方法>
<1.1 ねじり角>
本実施形態の実施例1を開示する。実施例1は、ブローホール等の溶接欠陥の発生を防止するために、ろう材22の供給方向FDを工夫したものである。
【0015】
レーザろう付け装置は、その主要な要素として、レーザ発振器10と、ろう材供給機構12と、レーザ加工ヘッド14と、部材保持機構16と、供給部18とを備えている。
図1に示す例では、さらに、レーザ照射部19と、制御部24とを備えている。
【0016】
レーザ発振器10は、レーザビームLBを発振する。レーザ発振器10はYAGレーザやCO2レーザのほか、半導体レーザとしても良い。ろう材供給機構12は、部材20のレーザ照射領域PPに向けてろう材22を供給する。ろう材22はどのような種類の物でも良い。レーザ加工ヘッド14は、レーザビームLBの照射点IP及び前記ろう材22の供給方向FDを三次元空間にて調節する。
【0017】
レーザ加工ヘッド14は、図2に示すように、ろう材22の供給方向FDを調節しつつろう材22を供給する供給部18と、レーザビームLBを照射するレーザ照射部19とを備えている。レーザ加工ヘッド14は、制御部24からの指令に応じてレーザ照射部19の位置を駆動すると共に、供給部18による供給方向FDを変化させる図示しないロボットを備えると良い。
レーザ照射部19は、図1及び図2に示すように、レーザビームLBを集光し、部材20に照射する。集光点CPは、レーザ照射部19の集光レンズによりレーザビームLBのスポット径SDが最も小さくなる点である。照射点IPは、レーザビームLBの光軸AXと部材20(の表面)との交点である。レーザ照射領域PPは、照射点IPを含み当該照射点IPの近傍にてレーザビームLBが照射される部材表面の領域である。レーザ照射部19は、照射点IPにレーザビームLBを照射して、供給されたろう材22を溶融させ、部材20を接合する。
【0018】
部材保持機構16は、レーザ加工ヘッド14と協調して、前記レーザビームLB及び前記ろう材22に対して前記部材20を進行方向MDに相対移動させる。進行方向MDは、ろう付けの軌道である。一般的には、部材保持機構16が部材20を静止状態で保持し、レーザ加工ヘッド14が照射点IPを三次元空間内の1点に調節して、ろう付けを開始する。続いて、レーザ加工ヘッド14及びレーザ照射部19を移動させることで、照射点IPをろう付けの進行方向MDに進行させる。
また、レーザ加工ヘッド14を静止状態として、部材保持機構16が部材20を進行方向MDの逆方向に移動させることで、照射点IPを進行方向MDに進行させるようにしても良い。さらに、部材保持機構16とレーザ照射部19との双方を同時に移動させることで、部材20の相対移動を実現するようにしても良い。
このレーザ加工ヘッド14及び部材保持機構16の作用により、前記レーザビームLB及び前記ろう材22に対して前記部材20を進行方向MDに相対移動させることができる。
【0019】
前記レーザ加工ヘッド14は、前記供給方向FDについて、所定の進行方向面MDPと所定の供給方向面FDPとの成す角であるねじり角TAを予め定められた0度を超える角度範囲とする。すなわち、供給部18は、ねじり角TAを有する方向からろう材22を供給する。ねじり角TAは、図1に示すように、進行方向面MDPと、供給方向面FDPとの成す角である。
【0020】
前記進行方向面MDPは、前記進行方向MDと、前記レーザビームLBの光軸AXとを含む平面に属する。
そして、前記供給方向面FDPは、基本軸BXと、前記供給方向FDとを含む平面に属する。基本軸BXは、進行方向面MDPにて、前記照射点IPを通り前記進行方向MDと直交する軸である。図1に示す例では、基本軸BXと光軸AXとは同一直線上にある。
そして、ろう材22の供給方向FDは、ねじり角TAを例えば5度以上90度以内とすると良い。5度未満では、レーザ照射領域PPにてろう材22の影となる部分が大きく、溶接不良の抑制が十分とならない。また、ねじり角TAの最大角度は、例えば、90度としても良い。ねじり角は、より好ましくは、10度以上15度以内とすると良い。
供給方向面FDPにて、部材20(の表面)とろう材の供給方向FDとの成す角を供給角SAとする。この供給角SAは、部材20と供給部18との干渉を避けるために、20度以上とすると良く、ろう材22(ワイヤ)が部材20に突き刺さる供給不良の発生を防止するために70度以下とすると良い。
【0021】
制御部24は、レーザ発振器10のレーザ発振のパワー(出力)と、そのオン・オフとを制御する。また、制御部24は、ろう材供給機構12でのろう材22の供給速度を制御する。制御部24は、レーザ加工ヘッド14のレーザ照射部19の位置決めと、集光レンズの位置の駆動制御により集光点CP等を位置決めする。また、レーザ照射部19の姿勢を制御することで、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢を調整する。制御部24は、さらに、供給部18の姿勢を制御することで、供給方向FDを制御する。また、制御部24は、レーザ加工ヘッド14及び部材保持機構16を制御することで、レーザ照射領域PPを進行方向MDに進行させる。
【0022】
図3から図5を参照すると、レーザビームLBは、進行方向面MDP内にて、前進角AAや後退角BAを有することがある。
図3は、レーザビームLBの光軸AXと、基本軸BXとが同一の直線に属する例である。この例では、供給方向面FDPを、ろう材22の中心軸(供給方向FD)と、レーザビームLBの中心軸(光軸AX)とを含む面と定義することができる。そして、進行方向面MDPを、ろう付けの進行方向MDとレーザビームLBの中心軸(光軸AX)とを含む面と定義することができる。そして、ねじり角TAは、供給方向面FDPと、進行方向面MDPとの成す角である。
【0023】
図4に示す例では、進行方向面MDPと、供給方向面FDPとは、図3に示す例と同様である。しかし、レーザビームLBの光軸AXが、進行方向面MDP内で、照射点IPを中心として、進行方向MD側に傾いている。この傾きを前進角AAという。この例でも、進行方向面MDPは、進行方向MDと、レーザビームLBの光軸AXとを含む平面に属すると定義できる。一方、供給方向面FDPは、図4に示す基本軸BXと、供給方向FDとを含む平面に属すると定義することができる。すなわち、ねじり角TA及び供給方向面FDPは、光軸AXの前進角AA(及び後退角BA)に依存して傾斜することはない。また、進行方向面MDPと供給方向面FDPとは基本軸BXで交わる。
【0024】
図5に示す例では、図4とは逆に、レーザビームLBの光軸AXが、進行方向面MDP内で、照射点IPを中心として、進行方向MDの逆側に傾いている。この傾きを後退角BAという。後退角BAが0度より大きい際には、前進角AAが0度より大きい場合と同様に、供給方向面FDPは基本軸BXと供給方向FDとを含む平面に属し、当該平面は、光軸AXを含まない。
【0025】
図3から図5に示す例では、進行方向MDをX軸、基本軸BXをZ軸とすると、照射点IPはZ軸上にある。この三次元空間では、進行方向面MDPはX軸とZ軸からなる平面(Y = 0)であり、供給方向面FDPは進行方向面MDPをZ軸周りにねじり角TA分回転させた平面となる。
【0026】
図6を参照すると、本実施例の構成によれば、部材20の接合部分26となるろう付けビード形成領域のほとんどに、ろう材22の溶融前にレーザビームLBが到達する。特に、図6の符号21Aで示す領域のように、レーザビームLBの進行方向MDにて、ろう材22の影とならずに部材20にレーザビームLBが直接照射される。また、符号21Bで示す領域にように、ろう材22の影となった部分についても、その直後にレーザビームLBが直接照射される。
【0027】
すると、ろう材22の溶融に先立って、部材20の表面処理層31(例えば、亜鉛めっき層)、油・ゴミ30等が蒸発し、溶融池32内に進入する蒸気28が少なくなる。このため、ブローホール及びピットを効果的に減少させることができる。
【0028】
また、図6及び図7に示すように、レーザ照射領域PPの軌跡34の幅PPWは、ろう材22の幅(直径DI)に対して2倍以上から3倍以内に設定すると良い。ねじり角TAを有する方向からろう材22を供給し、かつ、レーザ照射領域PPの軌跡34の幅PPWをろう材22の直径DIの2倍以上3倍以内とすることによって、接合前の時点にて部材20にレーザビームLBを直接照射する領域をより拡大することができる。
【0029】
図3から図7に示す例では、ねじり角TAについいて、進行方向MDを正面とした際の右側とし、当該右側(図6中下側)からろう材22を供給しているが、左側(図6中上側)としても良い。
また、ねじり角TAを確保しようとすると、部材20とろう材22とが干渉するような際には、進行方向面MDPをX軸中心として傾けると良い。この場合、基本軸BXも同一角度で傾き、進行方向面MDPと供給方向面FDPとの成す角を維持することができる。
【0030】
例えば、自動車部材等の連続的なレーザろう付けでは、ろう付け軌道が直線ではなく、折れ曲がりが含まれることがある。折れ曲がりの方向は、デザインや機能の要件を満たすべく任意に設定されうる。
このような折れ曲がり部分では、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢を一定に維持するのが困難であるが、本実施例では、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢にかかわらず、溶融池32が形成される領域にレーザビームLBを直接到達させて、溶融池32に侵入する蒸気を少なくすることができるため、折れ曲がり部分においてもブローホールやピット等の溶接欠陥の発生を防止できる。
【0031】
図8に示すように、レーザビームLBは、ろう材22の溶融に先立って、部材20の油・ゴミ30や、表面処理層31を直接照射する。これにより、表面処理層31等が蒸発し、溶融池32内に進入する蒸気28が少なくなる。このため、ブローホール及びピットが減少する。図9では、説明のために溶融池32内に蒸気28を含ませているが、レーザ照射領域PPにて、表面処理層31と溶融池32との間にレーザビームLBが直接照射され、十分に蒸発するため、実際には、溶接欠陥に直結するような溶融池32への蒸気28の進入を有効に防止することができる。溶融池32は、凝固することで、接合部分26となる。
【0032】
図9を参照すると、図9(A)に示す比較例と比較して、本実施例によれば、部材20の予熱効果が高まるため、図9(B)に示すように、ろう材22の接触角CA(濡れ角)が小さくなる。ろう材22の接触角CAが小さくなると、脚長FL(ぬれ長さ)が向上し、フィレット直径も拡大するため、疲労強度を向上させることができる。そして、この接触角CAを小さくさせるために、ヒーターや予熱用のレーザなどを特別に追加する必要はなく、ねじり角TAを有する方向からろう材22を供給することで実現可能である。
図10を参照すると、同様に、本実施例によれば、部材20の予熱効果が高まるため、図10(A)に示す比較例と比較して、図10(B)に示す本実施例では、ろう材22の接触角CAが小さくなり、脚長FLが向上し、疲労強度を向上させることができる。
【0033】
さらに、本実施例では、部材20の表面に対するレーザビームLBの光軸AXの相対姿勢を一定としなくても、ろう材22溶融に先立って表面処理層31等を蒸発させるという効果を得ることができるため、ろう付け軌道の折れ曲がり部に対しても、ブローホール及びピットの防止を期待することができる。
【0034】
再度図1を参照して、本実施例によるレーザろう付け方法を説明する。まず、レーザ発振器10は、レーザビームLBを発振する(レーザ発振工程)。レーザ加工ヘッド14のレーザ照射部19は、このレーザビームLBを部材20に向けて集光する(集光工程)。集光工程では、集光点CPの位置を調整し、上述のように、レーザ照射領域PPの軌跡34の幅PPWが、ろう材22の幅(直径DI)に対して2倍以上から3倍以内になるように設定すると良い。そして、集光工程では、レーザ照射部19の姿勢を制御することで、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢を調整する。この相対姿勢の調整により、前進角AA又は後退角BAや、進行方向MD(X軸)周りの回転を定めることができる。
レーザ加工ヘッド14の供給部18は、この集光工程と並行して、ろう材22を前記部材20に向けて所定の供給方向FDにて供給する(ろう材供給工程)。レーザ加工ヘッド14及び部材保持機構16が、この集光工程及びろう材供給工程と並行して、前記レーザビームLB及び前記ろう材22に対して前記部材20を進行方向MDに連続的に相対移動させる。これにより、前記部材20を接合する(接合工程)。
【0035】
そして、本実施例では、まず、進行方向面MDPを、前記進行方向MDと前記レーザビームLBの光軸AXとを含む平面に属させる。そして、供給方向面FDPを、前記進行方向面MDP面内の直線であって、前記レーザビームLBの前記光軸AXと前記部材20とが交わる照射点IPを通り前記進行方向MDと直交する基本軸BXと、前記供給方向FDとを含む平面に属させる。
そして、ろう材22の供給方向FDを、前記進行方向面MDPと前記供給方向面FDPとの成す角であるねじり角TAを予め定められた0度を超える角度範囲内とした方向とする。
さらに、前記ろう材供給工程が、前記ねじり角TAの角度範囲内で前記供給方向FDから前記ろう材22を前記部材20に向けて供給する。この角度範囲は、10度以上90度以内とすると良く、より好ましくは、10度以上15度以内とすると良い。
図6及び図7に示すように、レーザ照射領域PPおよびレーザ照射領域PPの軌跡34にて、進行方向MD側にてろう材22が部材20を隠さず、レーザビームLBが直接に部材20に照射される。これにより、図8に示すように、部材20の接合前に油・ゴミ30や表面処理層31を十分に蒸発させ、溶融池32に蒸気28が進入することを有効に防止することができる。このため、溶融池32内の蒸気28を原因とするブローホールやピット等の溶接欠陥の発生を有効に防止することができる。
その他、レーザろう付け装置に関する開示は、レーザろう付け方法についての開示として援用し、重複説明を省略する。
【0036】
・1.1 ねじり角の効果
上述のように、ろう材22の供給方向FDについて、ねじり角TAを設定したため、部材20のろう付けの軌道にレーザが直接到達する。このため、ろう材22(ワイヤ)の溶融に先立って、部材20の表面処理層31等が蒸発し、溶融池32内に進入する蒸気28が少なくなり、ブローホール及びピットの発生を減少させることができる。
さらに、本実施例では、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢にかかわらず、レーザビームLBがろう付けの進行方向MDの前方の領域に直接到達するため、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢にかかわらず、ブローホール及びピットの発生を抑制または防止できるものと期待できる。
そして、部材20のろう付けの進行方向MDの前方領域が十分に予熱されるために、溶融したろう材22の接触角CA(濡れ角)が減少し、ぬれ長さが拡大すると考えられる。このため、外観上の盛り上がりが発生しなくなるうえ、疲労強度の向上を期待することができる。
さらに、ねじり角TAを設定するのみであるため、ろう付けの進行方向MD(軌道)に折れ曲がり部があっても、ブローホール及びピットの発生を効果的に抑止することができる。
【0037】
<1.2 ねじり角を10度から15度>
図11に、亜鉛めっき鋼板を、本実施例の手法(装置及び方法)でろう付けした結果を示す。図11に示す例では、ねじり角TAを0度から15度まで5度間隔とし、また、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢について、前進角AAを0度(図3)、前進角AAを10度(図4)及び後退角BAを10度(図5)として、それぞれのブローホールの個数(個/50 [mm])を計数した。
図11に示した元のデータを表1(A)に示す。このデータは、2回の測定の平均値である。また、図11に示した測定の溶接条件を表1(B)に開示する。
【0038】
【表1】

【0039】
図11に示すように、ろう材22(ワイヤ)を供給する際のねじり角TAを10度以上付与すると、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢にかかわらず、ブローホールが減少することを確認した。このため、本実施例では、任意にレーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢を定めることができる。
また、図11に示す結果から、本実施例での装置及び方法では、前記ねじり角TAの角度範囲を、前記進行方向MDを0度として10度以上15度以内とすることが望ましい。
【0040】
・1.2 ねじり角を10度から15度の効果
上述のように、ねじり角TAを10度以上15度以内とすることで、ブローホールの個数を減少させることができ、そして、レーザビームLBの光軸AXの部材20に対する相対姿勢に依存せずブローホールの個数を減少させることができる。
【0041】
<1.3 折れ曲がり部分>
図12に、接合の軌道に折れ曲がり部分のあるトランクリッドを本実施例の手法(装置及び方法)によりろう付けした結果を示す。ねじり角TAを10度以上から15度以内とした。
【0042】
・1.3 折れ曲がり部分の効果
ねじり角0度に設定した場合は、ろう付けの軌道の折れ曲がり部におけるピット発生率は10%以上であったが、ねじり角10度以上15度以内に設定した場合は、ろう付けの軌道の折れ曲がり部におけるピット発生率は1%以下であった。
【符号の説明】
【0043】
10 レーザ発振器
12 ろう材供給機構
14 レーザ加工ヘッド
16 部材保持機構
18 供給部
19 レーザ照射部
20 部材
22 ろう材
24 制御部
26 接合部分
28 蒸気
30 油・ゴミ
31 表面処理層
32 溶融池
34 部材表面のレーザ照射領域の軌跡
LB レーザビーム
IP 照射点
PP 部材表面のレーザ照射領域
PPW 部材表面のレーザ照射領域の軌跡の幅
CP 集光点
FD 供給方向
MD 進行方向
AX 光軸
BX 基本軸
TA ねじり角
MDP 進行方向面
FDP 供給方向面
SD スポット径
DI 直径
AA 前進角
BA 後退角
CA 接触角
FL 脚長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを発振するレーザ発振器と、
ろう材を供給するろう材供給機構と、
前記レーザビームの光軸及び前記ろう材の供給方向を三次元空間にて調節するレーザ加工ヘッドと、
このレーザ加工ヘッドと協調して前記レーザビーム及び前記ろう材に対して部材を進行方向に相対移動させる部材保持機構とを備え、
前記レーザ加工ヘッドは、前記供給方向について、所定の進行方向面と所定の供給方向面との成す角であるねじり角を予め定められた0度を超える角度範囲とし、
前記進行方向面が、前記進行方向と前記レーザビームの前記光軸とを含む平面に属し、
前記供給方向面が、前記進行方向面内の直線であって、前記レーザビームの前記光軸と前記部材とが交わる照射点を通り前記進行方向と直交する基本軸と、前記供給方向とを含む平面に属し、
当該レーザ加工ヘッドが、前記ねじり角の前記角度範囲内で前記供給方向から前記ろう材を前記部材に向けて供給する供給部を備えた、
ことを特徴とするレーザろう付け装置。
【請求項2】
前記ねじり角の角度範囲を、前記進行方向を0度として10度以上15度以内とした、
ことを特徴とする請求項1記載のレーザろう付け装置。
【請求項3】
レーザビームを発振する工程と、
このレーザビームを部材に向けて集光する工程と、
この集光と並行して、ろう材を前記部材に向けて所定の供給方向にて供給する工程と、
この集光及び供給と並行して、前記レーザビーム及び前記ろう材に対して前記部材を進行方向に連続的に相対移動させることで、前記部材を接合する工程とを備え、
前記ろう材を供給する工程が、
進行方向面を、前記進行方向と前記レーザビームの光軸とを含む平面に属させて、
供給方向面を、前記進行方向面内の直線であって、前記レーザビームの前記光軸と前記部材とが交わる照射点を通り前記進行方向と直交する基本軸と、前記供給方向とを含む平面に属させるとした際に、
前記ろう材の前記供給方向を、前記進行方向面と前記供給方向面との成す角であるねじり角を予め定められた0度を超える角度範囲内とした方向として、
前記ねじり角の角度範囲内で前記供給方向から前記ろう材を前記部材に向けて供給する、
ことを特徴とするレーザろう付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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