説明

レーザーイオン化質量分析装置およびレーザーイオン化質量分析方法

【課題】検出感度を向上させたレーザーイオン化質量分析装置およびレーザーイオン化質量分析方法を提供することにある。
【解決手段】真空チャンバー2と、真空チャンバー2内に試料分子線を放射する分子線発生装置1と、真空チャンバー2内に配置された1対の平面鏡4,5と、真空チャンバー2内にレーザー光6を入射するレーザー光発生装置7と、真空チャンバー2内に配置される、イオン化されたイオンを加速する1対の電極8,9と、加速されたイオンを検出するイオン検出器12とを備え、レーザー光6が平面鏡4,5間で反射を繰り返しながら平面鏡4,5における反射位置を移動する光路において前記試料分子線をイオン化することを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーイオン化質量分析装置およびレーザーイオン化質量分析方法に係わり、特に、環境計測、大気中の微量物質(揮発性芳香族化合物)等をその場で観測することのできるレーザーイオン化質量分析装置およびレーザーイオン化質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、キャリヤーガス中のサンプル分子の検出方法と装置について記載されている。また、特許文献2には、多面鏡システムについて記載されている。
【特許文献1】特許第2807201号
【特許文献2】特許第3252125号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般にレーザーイオン化には、多光子過程の効率を高めるため、レーザー光を集光して用いるが、イオン化領域が集光された非常に小さな空間に限られてしまうため、数pptオーダーの低濃度の試料の検出は難しい。またレーザー強度が大きすぎるとさらに高い多光子吸収過程や、生成した親イオンの光分解が起こり、イオンのフラグメント化が進んでしまう。
本発明の目的は、レーザー光を集光しないで平行光とすると共に、イオン化領域を大きくするために、1対の平面鏡の間でレーザー光を複数反射させるように光学系を構成することにより、検出感度を向上させたレーザーイオン化質量分析装置およびレーザーイオン化質量分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、真空チャンバーと、該真空チャンバー内に試料分子線を放射する分子線発生装置と、前記真空チャンバー内または真空チャンバー外に配置された1対の平面鏡と、前記真空チャンバー内にレーザー光を入射するレーザー光発生装置と、前記真空チャンバー内に配置される、イオン化されたイオンを加速する1対の電極と、加速されたイオンを検出するイオン検出器とを備え、前記入射されたレーザー光が前記1対の平面鏡間で反射を繰り返しながら該平面鏡における反射位置を移動する光路において前記試料分子線をイオン化することを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置である。
第2の手段は、第1の手段において、前記真空チャンバーに入射されるレーザー光は、前記試料分子線を二光子以下のエネルギーでイオン化できる波長であって、平行光からなることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置である。
第3の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記1対の平面鏡は、前記1対の電極の外側に、相互に向き合うように配置されていることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置である。
第4の手段は、第1の手段ないし第3の手段のいずれか1つの手段において、前記1対の平面鏡は、互いに平行な位置から対向する側にそれぞれ傾斜角α傾斜して配置され、前記レーザー光が前記1対の電極間を通過後に最初に反射する平面鏡への入射角をθとするとき、反射回数を2n回とするため、θ−2nα=0の関係を満たすように設定したことを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置である。
第5の手段は、真空チャンバー内に試料分子線を入射する工程と、前記真空チャンバー内にレーザー光を入射し、入射したレーザー光が1対の平面鏡間で反射を繰り返しながら該平面鏡における反射位置を移動する光路において前記試料分子線をイオン化する工程と、前記イオン化されたイオンを電場により加速する工程と、加速されたイオンを検出する工程とからなることを特徴とするレーザーイオン化質量分析方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、1対の平面鏡によるレーザー光路の増幅により、イオン化空間領域を広げることができ、レーザーイオン化による飛行時間型のレーザーイオン化質量分析装置およびレーザーイオン化質量分析方法の検出感度を向上させることができる。
また、本発明によれば、レーザー光が1対の平面鏡間を反射する回数2nとした場合、イオン化領域の空間は、短光路の2n+1倍に増幅され、この領域で生成したイオンが全てイオン検出器によって検出されることにより、イオン信号強度を約2n+1倍に増幅することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の一実施形態を図1ないし図4を用いて説明する。
図1は、本実施形態の発明に係るレーザーイオン化質量分析装置の概略構成を示す斜視図である。なお、同図において、平面鏡4,5、電極8,9、分子線3、レーザー光6、およびイオン10は真空チャンバー2内にあるが、理解を容易にするために明示されている。
図2は、図1に示されたレーザーイオン化質量分析装置の平面鏡4,5間で反射するレーザー光路と同一面で切断して見たレーザーイオン化質量分析装置の断面図である。
【0007】
これらの図において、1はナフタレン等の試料ガスを流入し、真空チャンバー2内に試料分子線として噴出させる分子線発生装置、2は真空チャンバー、3は真空チャンバー2内に噴出された試料分子線、4,5は真空チャンバー2内に収納された(または真空チャンバー2外)に対向配置された平面鏡、6は真空チャンバー2内に入射されて平面鏡4,5間で反射を繰り返しながら平面鏡4,5における反射位置を移動する光路において分子線3をイオン化するレーザー光、7は真空チャンバー2外に設けられ真空チャンバー2内にレーザー光を入射するためのレーザー光発生装置、8、9は平面鏡4,5間で反射を繰り返しながら平面鏡4,5間で反射位置を移動するレーザー光路を挟んで対向配置され、イオン化されたイオンを電場によりイオン検出器12方向に加速するための電極、10はイオン化されたイオン、11は飛行管、12は電極8,9間に印加された電場により加速されたイオン10を検出するイオン検出器である。
【0008】
図1に示すように、本実施形態の発明に係るレーザーイオン化質量分析装置によれば、イオン化質量分析による検出を目的とした分子が微量に含まれる大気、あるいはその分子をヘリウム等のバッファーガスで希釈した試料ガスを、パルスバルブ等からなる分子線発生装置1により、真空チャンバー2内に噴出させることにより試料分子線3が得られる。分子線3中の試料は、レーザー光6によりイオン化され、イオン化されたイオン10は、飛行時間型質量分析計のイオン引き込み電場発生用の2枚の電極間8,9の電場によりイオン検出器12方向に加速され、それぞれの質量に特有の速度で飛行管11を飛行後、イオン検出器12に到達する。
【0009】
また、図2に示すように、1対の電極8,9間をレーザー光6が複数回往復するように、1対の平面鏡4,5(反射率99%以上)を1対の電極8,9の前後に向かい合うように配置される。レーザー光6の反射の回数を増やすことにより実効的な光路長を伸ばすことができる。最大反射回数は、平面鏡4,5間の距離、電極8,9間の距離、およびレーザービーム径により規定される。
【0010】
図3は図2に示した反射鏡4,5、電極8,9、およびレーザー光6を拡大して示した図である。
同図において、Lは平面鏡4,5間の距離、Bはレーザー光路の最大幅、Dは電極8,9間の距離、αは平面鏡4,5が互いに平行する位置から対向する側にそれぞれ傾斜する角度、θはレーザー光6の初期入射角、2nはレーザー光の平面鏡4,5間における反射回数である。
ここでは、反射回数2n=10の場合のレーザー光路を例示した。レーザー光6の初期入射角θ0とした場合、平面鏡4,5の角度αをθ−2nα=0となるように設定することによりレーザー光6は平面鏡4,5間を2n回反射する。レーザー光6が反射を繰り返す光路の最大の幅Bは、平面鏡4,5間の距離Lより近似的にLθ(n+1)/2となり、これが電極間隔D以下になる最大の反射回数は4D/Lθ−2である。従って初期入射角θを小さくするほど反射回数は多くなり、増幅効果は大きくなる。
【0011】
図4は、本実施形態の発明に係るレーザーイオン化質量分析装置によって測定されたナフタレン分子の質量スペクトルの例を示す図である。横軸は飛行時間、縦軸はイオン強度を示す。
本装置において、レーザー光発生装置7から入射されるレーザー光6には、YAGレーザーの4倍波(266nm)を用い、二光子イオン化による検出を行った。同図において、増幅後のスペクトル(点線)は、平面鏡4,5を入れたことにより、実効的な光路長を11倍に増幅して得られたものである。スペクトルピークの面積強度を測定すると、その比は増幅前のスペクトル(実線)に対して約8倍になった。理想的には11倍に増加するはずであるが、必ずしもそうならなかったのは、平面鏡4,5を真空チャンバー2の外部に設置したため、レーザー入射窓の表面で反射による強度の減衰が生じたためである。表面反射ロスはなくすために真空チャンバー2内部に平面鏡4,5を設置すると平面鏡4,5間の距離も短縮されるので、反射回数も増やすことが可能となり、大幅な感度向上が期待できる。
【0012】
本装置によれば、ナフタレン分子の検出感度は700pptにまで向上させることができた。さらなる高感度化、装置のコンパクト化により、大気環境などのオンサイト・リアルタイム高感度分析への展開が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るレーザーイオン化質量分析装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示されたレーザーイオン化質量分析装置の平面鏡4,5間で反射するレーザー光路と同一面で切断して見たレーザーイオン化質量分析装置の断面図である。
【図3】図2に示した反射鏡4,5、電極8,9、およびレーザー光6を拡大して示した図である。
【図4】本発明に係るレーザーイオン化質量分析装置によって測定されたナフタレン分子の質量スペクトルの例を示す図である。
【符号の説明】
【0014】
1 分子線発生装置
2 真空チャンバー
3 試料分子線
4,5 平面鏡
6 レーザー光
7 レーザー光発生装置
8,9 電極
10 イオン
11 飛行管
12 イオン検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバーと、該真空チャンバー内に試料分子線を放射する分子線発生装置と、前記真空チャンバー内または真空チャンバー外に配置された1対の平面鏡と、前記真空チャンバー内にレーザー光を入射するレーザー光発生装置と、前記真空チャンバー内に配置される、イオン化されたイオンを加速する1対の電極と、加速されたイオンを検出するイオン検出器とを備え、前記入射されたレーザー光が前記1対の平面鏡間で反射を繰り返しながら該平面鏡における反射位置を移動する光路において前記試料分子線をイオン化することを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項2】
前記真空チャンバーに入射されるレーザー光は、前記試料分子線を二光子以下のエネルギーでイオン化できる波長であって、平行光からなることを特徴とする請求項1に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項3】
前記1対の平面鏡は、前記1対の電極の外側に、相互に向き合うように配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項4】
前記1対の平面鏡は、互いに平行な位置から対向する側にそれぞれ傾斜角α傾斜して配置され、前記レーザー光が前記1対の電極間を通過後に最初に反射する平面鏡への入射角をθとするとき、反射回数を2n回とするため、θ−2nα=0の関係を満たすように設定したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つの請求項に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項5】
真空チャンバー内に試料分子線を入射する工程と、前記真空チャンバー内にレーザー光を入射し、入射したレーザー光が1対の平面鏡間で反射を繰り返しながら該平面鏡における反射位置を移動する光路において前記試料分子線をイオン化する工程と、前記イオン化されたイオンを電場により加速する工程と、加速されたイオンを検出する工程とからなることを特徴とするレーザーイオン化質量分析方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−170354(P2009−170354A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9363(P2008−9363)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】