説明

レーザーマーキング可能な高分子組成物

本発明は、レーザーマーキング特性を有する改善された高分子組成物に関し、ここで、該高分子組成物は、高分子物質、雲母又は雲母状物質、好ましくは、金属酸化物でコーティングされている雲母又は雲母状物質及び金属硫化物、好ましくは、硫化カドミウム、硫化鉄、硫化亜鉛、及び、金属の1種としてカドミウム、鉄又は亜鉛を含んでいる混合硫化物からなる群から選択される金属硫化物を含んでいる。これらの組成物を加工することにより得ることができる物品、例えば、家畜の耳タグも、同様に、特許請求の範囲に記載されており、また、そのような物品を使用するレーザーマーキング法及びマーキングされた物品も特許請求の範囲に記載されている。本発明の方法では、レーザー光線で照射された領域に暗色のマーキングを示し、マーキングは、桃色、赤色、黄色、橙色、黄緑色、ライラック色、ミッドブルーからライトブルー又は碧青色の物品上で、特に優れた品質を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキング特性を有する改善された高分子組成物に関する。
【0002】
消すことのできない方法で高分子物質にマーキング及び印刷することは、多くの異なった用途で必要とされている。家庭用品、自動車のエンジン部品、コンピューターキーボードのキートップ及び同様の他の製品には、多くの場合、文字、記号又は他のマーキングが施されている。そのようなマーキングは、硬化性インクを用いて施すことができる。しかしながら、硬化性インクを適用し、硬化させるには、多くの分離したステップが必要であることから、そのようなインクの使用には、一般に、高い製造コストが伴う。
【0003】
代替的な方法は、レーザーマーキングである。レーザーマーキングでは、適切なレーザーマーキング性化合物が組み込まれている高分子物質と一緒にレーザーを使用する。レーザー光線の波長は、該高分子物質が焼けて、製品上の照射された領域と残りの部分の間に明瞭なコントラストが生じるように、該化合物に応じて調節する。
【0004】
一例は、EP−A−0867466であり、これは、100重量部のポリオレフィン樹脂と0.01〜20重量部の黒色顔料(ここで、黒色顔料は、主として、金属酸化物を含んでいる)を含んでいるポリオレフィン樹脂組成物について教示している。その樹脂にレーザー光線が適用されると、照射された領域内の黒色顔料が分解して、完全に遊離される。その結果、成形物品上のマーキングされていない領域の黒色と対比して、淡い色のマーキングが得られる。
【0005】
しかしながら、多くの場合では、明るい色に着色されている高分子製品にマーキングすることが望ましい。EP−A−0867466に記載されているポリエステル樹脂組成物は、黒色の背景に対して白色のバーコードマーキングしか提供することができず、従って、背景領域が淡い色の場合、有用ではない。
【0006】
JP−A−2001/071645には、熱可塑性樹脂、硫化物及び顔料(有色顔料及び黒色ステイン顔料、特に、10〜90nmの平均粒径を有するカーボンブラックを含む)を含んでいる樹脂組成物について記述されている。354nm〜1064nmの波長のレーザー光線が該樹脂に適用された場合、カーボンブラックがそのレーザー光線を吸収して熱エネルギーに変換し、「黒の度合いが極めて高い」マーキングが得られる。この先行特許明細書には、レーザーマーキングを用いて黒色のバーコードを作製することが記載されている。このバーコードは、成形物品の照射されていない領域と対照を成しているといわれている。しかしながら、JP−A−2001/071 645に記載されている組成物は、背景が桃色又は黄色などの明るい色である場合は有効に機能しないことが分かった。
【0007】
着色された樹脂を使用する特定の一分野は、耳タグなどの家畜用品の製造分野である。耳タグは、家畜を追跡し、容易に確認するための手段として、農業従事者により伝統的に使用されている。タグは、典型的には、熱可塑性樹脂で製造され、文字、数字、模様、バーコード、ポイントコード又は記号が付けられ、また、純粋に装飾的な図案や商標なども付けられる。多くの場合、明るい色で、場合により、異なった色の(及び、望ましい場合は、異なった形態の)タグ又はひとそろいのタグを用いるのが好ましい。例えば、家畜の取扱いとの関連では、黄色又は桃色などの色を使用することにより、取扱者は、容易に、家畜を分離してグループ化することができる。この用途にはニーズが存在し、また、もちろん、明るい色に着色されている高分子組成物のレーザーマーキングが望ましい多くの他の用途においてもニーズが存在している。従って、本発明の目的は、レーザーマーキングプロセスを用いて暗色のマーキングを生成させることが可能な改善された高分子組成物を提供することであり、特に、該高分子組成物が明るい色に着色されている場合に、レーザーマーキングプロセスを用いて暗色のマーキングを生成させることが可能な改善された高分子組成物を提供することである。
【0008】
本発明の一態様において、レーザーマーキング特性を有する組成物が提供され、ここで、該組成物は、高分子物質、雲母又は雲母状物質、及び、金属硫化物を含んでいる。
【0009】
驚くべきことに、そのような高分子組成物から形成された物品の表面にレーザー光線を適用したときに、たとえ、そのような高分子樹脂が明るい色に着色されていたとしても、照射された領域に、際だった、明瞭な輪郭を有する鮮やかな暗色のマーキングが形成されるということが見いだされた。より詳細には、本発明の組成物を使用した場合、精巧で解像度が高い暗色のマーキングを生成させることが可能であり、それにより、高分子生成物が白色であろうと何らかの色に着色されていようと、そのような高分子生成物上に、バーコードなどの詳細な図形を描くことができる。雲母及び雲母状物質は、これまでも、高分子物質にレーザーマーキングを施すのに使用されてきたが、本出願人らは、驚くべきことに、金属硫化物を添加することにより、そのようなマーキングの質が著しく改善されることになることを見いだした。金属硫化物を単独で使用した場合、レーザーを照射しても暗色のマーキングは生成されず、相乗効果は予期されなかった。
【0010】
本発明の第二の態様において、高分子物質、雲母又は雲母状物質及び金属硫化物を含んでいる組成物から形成された物品が提供され、ここで、そのような組成物から形成された物品は、レーザー光線を照射された領域に暗色のマーキングを表示するように適合している。
【0011】
本発明の第三の態様において、レーザーでマーキングされた表面部分を有する物品の製造方法が提供され、ここで、該方法は、
(a)高分子物質を提供すること;
(b)該高分子物質に雲母又は雲母状物質及び金属硫化物を配合して、高分子組成物を提供すること;
(c)該高分子組成物を用いて物品を形成させること;
及び
(d)該物品にレーザー光線を照射して、該物品上にレーザーでマーキングされた表面部分を生成させること;
を含む。
【0012】
本明細書で使用される場合、用語「マーキング」は、レーザーによる任意のマーキングを意味し、それは、どのようなものあってもよく、文字に限定されない。それには、模様、バーコード、記号及び絵図などを適用することが包含される。
【0013】
本発明で使用する高分子物質は特に限定はされず、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ゴム改質モノビニリデン、芳香族樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルイミドエステル、ポリアリレート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ゴム改質耐衝撃性ポリスチレン、ポリオキシメチレン、スチレン無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリルスチレンアクリレート共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、塩素化ポリマー、フッ素化ポリマー及び液晶ポリマーなどを包含する広い範囲の樹脂から選択することができる。さらに好ましい態様では、該高分子物質は、ポリウレタン、ポリアミド、ABS、ポリカーボネート及びゴム改質モノビニリデン芳香族樹脂並びにそれらのブレンドからなる群から選択される。最も好ましい高分子物質は、熱可塑性ポリウレタン樹脂である。
【0014】
本発明で使用する雲母又は雲母状物質は、高分子樹脂と組み合わせてレーザー光線を照射したときに暗色のマーキングを生じさせることになる任意の物質であり得る。天然雲母又は合成雲母を用いることができる。好ましくは、該雲母又は雲母状物質は、1種類以上の金属化合物で処理するか又は1種類以上の金属化合物をドープする。そのような金属化合物は、該雲母又は雲母状物質の表面上の有色又は無色の1以上の薄い層として存在しても又は不連続領域中に存在してもよい。各層又は不連続領域における各アレイは、光干渉性であっても、又は、光非干渉性であってもよい。好ましくは、該金属化合物は、1種類以上の金属酸化物(例えば、アンチモン及び/若しくはチタン及び/若しくはスズの酸化物、又は、鉄及び/若しくはアルミニウム及び/若しくはケイ素の酸化物)を含んでおり、好ましくは、そのような1種類以上の金属酸化物からなる。代わりに、オキシ塩化ビスマスでコーティングされているか又はオキシ塩化ビスマスで処理された雲母又は雲母状物質を使用し得る。該雲母又は雲母状物質は、好ましくは、2.8〜4.0g/cm3の密度を有する。好ましくは、それのモース硬度は、2.5〜4であり、吸油価(oil absorption value)は、粉末100g当たり35〜70.0グラムである。好ましくは、雲母の量は、該組成物の総重量に基づいて、0.05〜2重量%の範囲である。さらに好ましくは、雲母の存在量は、該組成物の総重量に基づいて、約0.1〜約0.5重量%である。
【0015】
前記金属硫化物は、既知化学量論のいずれかを有する任意の金属の硫化物であることができ、例えば、MeS、MeS、Me又はMe(ここで、Meは、周期系の1族〜14族の金属、特に、周期系の9族〜12族の遷移金属である)、例えば、硫化カドミウム(II)、硫化コバルト(II)、硫化コバルト(II,III)(リンネ鉱(linnet))、硫化コバルト(III)、硫化コバルト(IV)(カチエル鉱)、硫化銅(I)(輝銅鉱(chalkosite))、硫化銅(II)(銅藍)、硫化鉄(II)、硫化鉄(III)、硫化鉄(IV)(黄鉄鉱,白鉄鉱(markasite))、硫化ニッケル(II)(針ニッケル鉱)又は硫化亜鉛(II)などであることができる。2種類以上の金属の混合硫化物も適している。該金属硫化物は、不純物や結晶水などの他の成分を含有していてもよい。
【0016】
前記金属硫化物は、好ましくは、硫化カドミウム、硫化鉄、硫化亜鉛、及び、金属の1種としてカドミウム、鉄又は亜鉛を含んでいる混合硫化物からなる群から選択する。硫化鉄のなかでは、黄色みを帯びた外観を有するか又は金色の外観を有する種類のものが特に適している。最も好ましくは、該金属硫化物は、アルバリス(albalith)、純閃亜鉛鉱、マルトライト(maltraite)、サクトリス、閃亜鉛鉱又は繊維亜鉛鉱などの硫化亜鉛である。本発明の組成物が明るい色で着色されている場合、好ましくは、白色の金属硫化物(例えば、硫化亜鉛)を用いるか、又は、該組成物の色に類似した色の金属硫化物(例えば、該組成物が黄赤色の場合は、硫化カドミウム)を用いて、金属硫化物を添加しても該組成物が有意に変色することのないようにする。
【0017】
前記金属硫化物は、好ましくは、小さな粒径(例えば、約50μm未満、特に、約20μm未満)を有するものであり、最も好ましくは、顔料グレード(例えば、約5μm未満)のもの、例えば、C.I.ピグメントイエロー35、C.I.ピグメントイエロー37、又は、特に、C.I.ピグメントホワイト7などである。
【0018】
前記高分子組成物中の前記金属硫化物の存在量は、好ましくは、500〜2100nmの範囲内で、周波数1〜100kHz、放射線レベル5〜50Aのレーザー光線を成形物品に照射したときにその成形物品上に暗色のマーキングを生成させるのに充分な量である。さらに好ましくは、前記高分子組成物中の金属硫化物の存在量は、前記組成物の総重量に基づいて、0.05〜3重量%の範囲である。さらに好ましくは、金属硫化物は、前記組成物の総重量に基づいて、1.0〜2.5重量%の量で存在させる。
【0019】
所望される色に応じて、追加の顔料、染料及び/又は不活性増量剤を本発明の高分子組成物に添加することができる。これらの添加剤の種類及び量は、最終用途に従って、適切に決定する。特に好ましい組成物では、顔料を使用することにより、該組成物を用いて成形した製品の色が、桃色、赤色、黄色、橙色、黄緑色、ライラック色、ミッドブルーからライトブルー又は碧青色であるようにする。そのような顔料は、好ましくは、有機又は無機の非黒色顔料である。該顔料は、該組成物の総重量に基づいて、0.01〜10.0重量%の量で存在させるのが最良である。
【0020】
樹脂の成形特性又は得られた成形物品の環境適応性を改善するために、該組成物にさらなる添加剤を組み入れることができる。有用な添加剤としては、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、錆止め剤、滑沢剤、難燃剤、造核剤、分散剤、加工安定剤及び流動性向上剤などがある。これら添加剤の種類及び量は、当業者にはよく知られており、最終用途に従って適切に決定される。
【0021】
本発明の高分子組成物は、上記高分子物質、金属硫化物及び雲母又は雲母状物質を混合し、必要に応じて、さらなる添加剤を混合することにより、調製することができる。配合方法に制限はなく、任意の既知技術を採用することができる。好ましくは、該配合方法は、強剪断Zブレード混合により実施するか、又は、押出し(単軸スクリュー押出、又は、二軸逆回転スクリュー押出若しくは二軸共回転スクリュー押出)により実施する。しかしながら、特にその後の加工段階において充分に均質化されることが保証されている場合は、単に成分を混合又はブレンドすることも可能である。
【0022】
前記組成物から物品を形成させる方法には、特に制限はない。製品は、例えば、押出し法によるか、成形によるか、又は、当技術分野で既知の類似した他の任意の方法などにより、製造することができる。圧縮成型法、射出成形法及びブロー成型法は、特に、適用可能である。本発明の効果は、該高分子組成物を射出成形した場合に顕著に現れる。それは、射出成形により得られた物品は、光沢及び一様性などの表面外観が優れているからである。
【0023】
本発明は、特に、家畜の耳タグに関連するが、決して、そのような物品に限定されるものではない。さらにまた、他の物品、例えば、自動車部品、瓶及び瓶のキャップ、管、パイプ、容器、カバー、キーボード、ラベル、チップ、セキュリティー文書(例えば、身分証明書又はクレジットカード)、事務用品、家庭用品、学校用品、軍事用品、玩具、及び、当業者により明白に認識されるさらに多くの物品などでも、同様に良好な結果が得られる。レーザーマーキングは、そのような物品を確認し、個人化し、装飾し、フォローアップし、又は、防御するために使用することができる。このマーキングには、例えば、該物品自体、その内容物、価格、寸法、用途、製造年月日若しくは耐久性、ホルダー、所有者、製造業者、販売業者又は原産地などについての情報を含ませ得る。
【0024】
得られた物品を連続性又は不連続性のレーザー光線で走査することにより、該物品に、文字、数字、模様、バーコード、ポイントコード、記号、絵図などを容易に付けることができる。マーキングに用いられるレーザーに制限はなく、用いられるレーザーには、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー及びアルゴンレーザーなどのガスレーザーや、ルビーレーザー、半導体レーザー及びYAGレーザーなどの固体レーザーなどがある。使用される1種の好ましいレーザーは、532nm又は1064nmのいずれかの波長で作動するNd:YAGレーザーである。一実施形態では、パルス周波数6200Hz、走査速度1600mm/秒及びレーザー出力26.5AのNd:YAGレーザーを用いて、製品にマーキングを施す。
【0025】
注目すべきことは、該高分子物質自体は上記波長のレーザー照射を殆ど吸収しないので、該成形物品の実用性能は、レーザーマーキングの有意な影響を受けないということである。
【0026】
以下の実施例を参照して本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものと解釈されるべきではないということは理解されるべきである。パーセンテージについて言及されている場合、特に別段の断りがない限り、それは、全て、該組成物の総重量に基づいた重量基準である。
【0027】
実施例1:以下の成分を一緒にブレンドする:
【表1】

【0028】
実施例2:以下の成分を一緒にブレンドする:
【表2】

【0029】
実施例3:以下の成分を一緒にブレンドする:
【表3】

【0030】
実施例4:以下の成分を一緒にブレンドする:
【表4】

【0031】
上記記載において、「CAS」番号が記載されているそれぞれの場合、それは、Chemical Abstracts Serviceの登録番号である(詳細については、以下で得ることができる:www.nicnas.gov.au/obligations/aics/search.asp.)。「C.I.」は、Colour Index International(編集:Society of Dyers and Colourists and the American Association of Textile Chemists and Colorists (www.colour-index.org)を言う。
【0032】
MeconTM MP 105は、PolyOne Denmarkの製品であり、エチレンコポリマーアルキド相容剤(compatibiliser)である。IriodinTM LS820及びLS825は、Merck, Inc. の製品である。いずれも、50%を超える量の雲母を有する処理済雲母であり、金属酸化物で表面処理されている。ElastollanTM WY01388は、BASF製の熱可塑性ポリウレタン樹脂である。FT-3000TMは、Ishihara Sangyo Kaisha Ltdの製品であり、酸化スズをドープしたSb及びTiOである。TU20464イエローは、相容剤及び蝋を含有しているCiba Spec.Chem.Pty.Inc.製の黄色/橙色熱可塑性マスターバッチである。
【0033】
いずれの場合も、上記物質を、溶融後、Zブレード混合機中で190℃で約20秒間配合した。次いで、それぞれのサンプルを、200℃、1379kPa[200psi]で、2〜3分間圧縮成型し、その後、冷却した。次に、その板状物を配置し、1064nmの波長で作動するNd:YAGレーザーを用いて、レーザーマーキングを施した。
【0034】
実施例1〜実施例4のそれぞれにおいて、得られたレーザーマーキングは、優れた解像度を示した。当該生成物上に付けたバーコードは、赤色レーザーを用いるバーコードスキャナーを使用して可視的に読み取ることができた。広い範囲のさまざまな色の上に、マーキングを首尾よく施すことが可能であった。この明細書に記載されている本発明は、さまざまな異なった色で着色されている高分子物質を用いても適用可能である。好ましくは、使用する金属硫化物は、意図されている生成物の色と同じ色若しくは類似した色であるか、又は、硫化亜鉛などの場合には、白色である。
【0035】
適切な顔料を利用して、本出願人らは、本発明の組成物を用いて、以下に示してある色及び関連する明度及び彩度の値を有する成形製品を製造した(C.I.E. 1976 L*C*h 色空間)。
【0036】
【表5】

【0037】
種々の色についての明度及び彩度の上記値が、本発明の組成物及び方法を用いて代表的に期待されるであろう値であることは認められるであろう。最良の結果は、約40〜100の明度L、好ましくは、50〜98、最も好ましくは、60〜95の明度Lを示す色で得られる。しかしながら、本発明は、そのような色や明度値又は彩度値に限定されることは全くない。
【0038】
一般に、マーキングされた領域は、できる限り暗い色で、明度L及び彩度Cが、それぞれ、0〜20、好ましくは、0〜10であるのが望ましいと思われる。しかしながら、この目標は、常に達成される必要はない。明度Lが、少なくとも5低下すれば、好ましくは、少なくとも10、最も好ましくは、少なくとも20低下すれば、色を評価するのに慣れていない人であっても容易に認知可能であり、殆どの場合、充分である。
【0039】
本発明のレーザーマーキングされた成形物品は、そのような印が肉眼で見えることが必要とされる任意の用途に使用することができる。一例として、本発明の高分子組成物を配合して耳タグなどの家畜用製品を形成させ、その後、レーザー加工法を用いてマーキングを施して、それにより、家畜取扱者が家畜を追跡し、容易に確認することが可能となるということが予期される。
【0040】
本明細書の記載及び特許請求の範囲の全体にわたり、単語「含む(comprise)」及びその変形(例えば、「含んでいる(comprising)」及び「含む(comprises)」など)が使用されている場合、それは、他の任意の添加剤、成分、整数又はステップなどを排除するものではない。
【0041】
本発明について、詳細に、また、特定の実施例を参照して、説明してきたが、「特許請求の範囲」で定義されている本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、さまざまな変更及び修正を加えることが可能であることは、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子物質、雲母又は雲母状物質、及び、金属硫化物を含んでいる、レーザーマーキング特性を有する組成物。
【請求項2】
前記雲母又は雲母状物質の表面上の一部又は全体に、金属酸化物を含んでいるコーティングが存在している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物が、酸化アンチモン、酸化チタン及び/又は酸化スズを含んでいる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記金属硫化物が、硫化カドミウム、硫化鉄、硫化亜鉛、及び、金属の1種としてカドミウム、鉄又は亜鉛を含んでいる混合硫化物からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記金属硫化物が硫化亜鉛である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記雲母又は雲母状物質が、前記組成物の総重量に基づいて、0.05〜2重量%の範囲の量、好ましくは、0.1〜0.5重量%の範囲の量、最も好ましくは、0.3±0.1重量%の範囲の量で存在している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記高分子物質が、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ゴム改質モノビニリデン、芳香族樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルイミドエステル、ポリアリレート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ゴム改質耐衝撃性ポリスチレン、ポリオキシメチレン、スチレン無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリルスチレンアクリレート共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、塩素化ポリマー、フッ素化ポリマー及び液晶ポリマーからなる群から選択される樹脂、好ましくは、ポリウレタン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリアミド、ABS、ポリカーボネート及びゴム改質モノビニリデン芳香族樹脂並びにそれらのブレンドからなる群から選択される樹脂、最も好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物中の金属硫化物の量が、500〜2100nmの範囲内で、周波数1〜100kHz、放射線レベル5〜50Aのレーザー光線を該組成物から成形した物品に照射したときにその物品上に暗色のマーキングを生成させるのに充分な量である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
金属硫化物の量が、前記組成物の総重量に基づいて、0.05〜3重量%の範囲、好ましくは、1.0〜2.5重量%の範囲である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
有機又は無機の1種類以上の非黒色顔料を、好ましくは前記組成物の総重量に基づいて0.01〜10.0重量%の量で、さらに含んでいる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
物品を製造するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
レーザー光線を照射された領域に暗色のマーキングを表示するように適合させた物品であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物を含んでいる、前記物品。
【請求項13】
桃色、赤色、黄色、橙色、黄緑色、ライラック色、ミッドブルーからライトブルー、又は、碧青色の内のいずれか一色に色づけされている、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
家畜の耳タグである、請求項12又は13に記載の物品。
【請求項15】
暗色のマーキングが肉眼で見えるものである、請求項12〜14のいずれか1項に記載の物品。
【請求項16】
レーザーマーキングプロセスにおける、好ましくは、532nm又は1064nmのいずれかの波長で作動するNd:YAGレーザーを用いて実施するレーザーマーキングプロセスにおける、請求項12〜15のいずれか1項に記載の物品の使用。
【請求項17】
レーザーを用いて物品にマーキングする方法であって、レーザー光線、好ましくは、Nd:YAGレーザーからの532nm又は1064nmのいずれかの波長のレーザー光線を、請求項12〜15のいずれか1項に記載の物品に照射することにより該物品上に肉眼で見えるマーキングを形成させる、前記方法。
【請求項18】
レーザーでマーキングされた表面部分を有する物品の製造方法であって、
(a)高分子物質を提供すること;
(b)該高分子物質に雲母又は雲母状物質及び金属硫化物を配合して、高分子組成物を提供すること;
(c)該高分子組成物を用いて物品を形成させること;
及び
(d)該物品にレーザー光線を照射して、該物品上にレーザーでマーキングされた表面部分を生成させること;
を含む、前記方法。
【請求項19】
前記雲母又は雲母状物質の表面上の一部又は全体に、金属酸化物を含んでいるコーティングが存在している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記金属酸化物が、酸化アンチモン、酸化チタン及び/又は酸化スズを含んでいる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記金属硫化物が、硫化カドミウム、硫化鉄、硫化亜鉛、及び、金属の1種としてカドミウム、鉄又は亜鉛を含んでいる混合硫化物からなる群から選択される、請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記金属硫化物が硫化亜鉛である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記雲母又は雲母状物質が、前記物品の総重量に基づいて、0.05〜2重量%の範囲の量、好ましくは、0.1〜0.5重量%の範囲の量、最も好ましくは、0.3±0.1重量%の範囲の量で存在している、請求項18〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記高分子物質が、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ゴム改質モノビニリデン、芳香族樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルイミドエステル、ポリアリレート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ゴム改質耐衝撃性ポリスチレン、ポリオキシメチレン、スチレン無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリルスチレンアクリレート共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、塩素化ポリマー、フッ素化ポリマー及び液晶ポリマーからなる群から選択される樹脂、好ましくは、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、耐衝撃性ポリスチレン、ABS及びゴム改質モノビニリデン芳香族樹脂並びにそれらのブレンドからなる群から選択される樹脂、最も好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂である、請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物中の金属硫化物の量が、500〜2100nmの範囲内で、周波数1〜100kHz、放射線レベル5〜50Aのレーザー光線を該組成物から成形した物品に照射したときにその物品上に暗色のマーキングを生成させるのに充分な量である、請求項18〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
金属硫化物の量が、前記組成物の総重量に基づいて、0.05〜3重量%の範囲、好ましくは、1.0〜2.5重量%の範囲である、請求項18〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記高分子物質に、有機又は無機の1種類以上の非黒色顔料も、好ましくは前記組成物の総重量に基づいて0.01〜10.0重量%の量で、混合して組成物を提供する、請求項18〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記ステップ(c)で形成された物品が家畜の耳タグである、請求項18〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ステップ(c)で形成された物品が、桃色、赤色、黄色、橙色、黄緑色、ライラック色、ミッドブルーからライトブルー又は碧青色に色づけされている、請求項27又は28に記載の方法。

【公表番号】特表2007−505959(P2007−505959A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526631(P2006−526631)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052079
【国際公開番号】WO2005/026247
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(396023948)チバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Holding Inc.
【Fターム(参考)】