説明

レーザーマーキング用添加剤

【課題】より精細且つ視認性に優れる新規レーザーマーキング用添加材を提供することにあり、特に、従来の添加剤では十分なマーキング品質を得がたい、厚みが十分でない樹脂成形物に対しても良好なマーキング特性を与えることの出来るレーザーマーキング用の添加剤を提供する。
【解決手段】レーザーマーキング用添加剤は、必須成分としてCuとMoを含む複合水酸化物をベースとして構成され、かつBET比表面積が2m2/g以上であることを特徴とするものである。複合水酸化物は、下記一般式で表されるLindgrenite構造を含むものであることが好ましい。Cu(MoO4)(OH)(式中、x、yおよびzは1<x/y<3、1<x/Z<3の関係にある。)CuとMoの原子比は、1<Cu/Mo<3であることが好ましい。特に好ましい複合水酸化物は、Cu(MoO4)2(OH)2で表されるLindgrenite構造を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を利用して樹脂成形物等にバーコードやロット番号等の管理情報をマーキングする(即ちレーザーマーキングを行う)為に樹脂成形物に含有せしめる添加剤に関する。
【0002】
本発明は、より詳しくは、従来のレーザーマーキング用添加剤では十分なコントラストや精度を得ることのできないフィルムや、例えば塗料のようなコーティング組成物から形成した薄膜形態の基材に対しても、鮮明且つ高精細なレーザーマーキングを可能にするレーザーマーキング用添加剤、およびその製造方法、さらにそれをレーザーマーキング用添加剤として含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
種々の産業において製品に製造日、賞味期限、バーコード、ロゴマーク、製品番号等の情報をマーキングする事が求められて来ており、現在、主として印刷、エンボッシング、刻印のような方法でなされている。
【0004】
レーザーマーキングは、レーザー光を利用して基材に直接、文字、数字、商標、バーコード等の印字や、或いは画像を施すマーキング゛である。レーザーマーキングの原理は基材の表面がレーザー光を吸収して物理・化学的変化を誘起されることで非照射部との光学的な差異を形成することによる。
【0005】
レーザーマーカを用いたレーザーマーキングは、非接触方式のインクを使用しないマーキング方法である為、以下のような特徴を持つ。即ち、
・ 任意の形状の基材へ、耐摩耗性に優れたマーキングを施すことが出来る。
【0006】
・ マーキング速度が速く、自動化や工程管理が容易である。
【0007】
・ 複雑な付帯設備を必要とせず、有機溶剤等の揮発がないため低環境負荷である。
【0008】
その為、金属やカ゛ラスに加え、近年では特に樹脂成形物へレーザーマーキングを適用しようとする試みが増えてきており、これまでに電子部品等への製造、ロット番号の印字等に一部実用化されている。
【0009】
しかしながら、ほとんどの主要な樹脂成形材料はレーザー光(典型的にはYAG:Ndによる波長1064nmの近赤外光)の吸収が乏しい。その為、視認性や精細度において十分な品質のマーキングが得られない場合が多く、全く印字できない樹脂も少なくはない。このことはレーザーマーキングを用途拡大していく上で障害となる。
【0010】
樹脂成形材料におけるレーザーマーキングの視認性を改善する為の公知技術としては、同材料にレーザー光を吸収する種々の添加剤を配合することが知られている。例えば、
特許文献1には、粒径10〜70nmの錫およびアンチモンの混合酸化物の粒子をレーザーマーキング用添加剤として成形材料(基材)に添加することが開示されている。マーキングの原理は、樹脂成形物中の上記粒子がYAG:Ndのレーザー光を吸収すると、これが熱に変換され、添加剤を取り囲む部分が炭化することでレーザー非照射部分とのコントラストを形成するというものである。
【0011】
特許文献2には、雲母薄片やSiO2フレーク等の薄片状基質に、アンチモン、砒素、ビスマス、銅、ガリウム、ゲルマニウムまたはそれらの酸化物をドープした酸化錫を被覆した顔料をレーザーマーキング用の添加剤として含む熱可塑性プラスチックが、レーザーマーキング可能であると記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1および2の添加剤はいずれもレーザー光の吸収剤として作用するものであり、レーザー非照射部分とのコントラストは、基材中の添加剤周辺部の炭化によるもののみである。従って基材が炭化しにくいものである場合には良好な視認性を有するマーキングが得られない。また、塗料やフィルムのように薄膜状の樹脂成形物にマーキングを施す場合には、炭化させるべき部分の厚みが不足する為、レーザー光の照射部分が熱によりこれを貫通してしまうか、貫通させない為に弱いレーザー出力で印字を施した場合には、黒度が不足し良好な視認性を有するマーキングが得られない問題が生じる。
【0013】
特許文献3には、水酸化銅一燐酸塩または酸化モリブデンを添加した高分子物質がレーザーマーキング可能であると記載され、レーザー光により上記添加剤が有色の生成物に変わることでマーキングを施すと記載されている。このように添加剤そのものがレーザー光により有色の生成物に変化する場合、上記の問題点は回避しうる可能性がある。しかしながら精細な印字はできず、印字の黒度も満足なレベルではない。
【0014】
一方、発明者らは、特許文献4において、銅とモリブデンからなる複合酸化物がレーザー光の照射により黒度の高い色調に変色することを見出し開示している。この複合酸化物はレーザー光を良く吸収すると同時に、粒子自身も淡黄色から黒色に変色する為、これを添加剤として含む樹脂成形物はマーキングの黒度、精細性に優れたレーザーマーキングを可能にする。この複合酸化物は実質的に全ての樹脂成形物に対して良好なレーザーマーキングを可能にする。
【0015】
しかしながら、同複合酸化物は製造するには焼成工程を必須とするため微粒子化は困難である。その為、イ)基材へ添加すると、基材中で光を散乱するため外観が変化してしまう。ロ)薄膜状の基材に対しては、黒度の良いマーキングは得られるものの、精細な印字を得にくい、等の問題点がある。これは、添加剤の粒子径が薄膜に対して十分に小さくないことに起因すると考えられる。更に、添加剤粒子自体は淡黄色に呈色しているため、これを樹脂成形物に含有せしめることで成形物そのものを若干ではあるが着色してしまう問題がある。
【特許文献1】特表2007-512215号公報
【特許文献2】特表平10-500149号公報
【特許文献3】特許2947878号公報
【特許文献4】特開2005-75674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、上記実情に鑑み、より精細且つ視認性に優れる新規レーザーマーキング用添加材を提供することにあり、特に、従来の添加剤では十分なマーキング品質を得がたい、厚みが十分でない樹脂成形物に対しても良好なマーキング特性を与えることの出来るレーザーマーキング用の添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によるレーザーマーキング用添加剤は、必須成分としてCuとMoを含む複合水酸化物をベースとして構成され、かつBET比表面積が2m2/g以上であることを特徴とするものである。
【0018】
必須成分としてCuとMoを含む複合水酸化物は、下記一般式で表されるLindgrenite構造を含むものであることが好ましい。
【0019】
Cu(MoO4)(OH)
(式中、x、yおよびzは1<x/y<3、1<x/Z<3の関係にある。)
CuとMoの原子比は、1<Cu/Mo<3であることが好ましい。CuとMoの原子比がCu/Mo<1である場合は、下記の製造方法において、実用上十分な収率が得られず、Cu/Mo>3の場合は、基材への着色が強く且つマーキング性能も低下することがある。特に好ましいCuとMoの原子比は、1.2<Cu/Mo<2であり、最も好ましいCuとMoの原子比は、1.4<Cu/Mo<1.7である。
【0020】
特に好ましい複合水酸化物は、下記式で表されるLindgrenite構造を含むものである。
【0021】
Cu(MoO4)2(OH)2
レーザーマーキング用添加剤のBET比表面積は2m2/g以上、望ましくは10m2/g以上である。
【0022】
本発明によるレーザーマーキング用添加剤を製造するには、Cu化合物の水溶液とMo化合物の水溶液を混合して沈殿物を形成する工程と、得られた沈殿物を洗浄する工程を含む製造方法が好ましい。
【0023】
上記沈殿物形成工程において、Cu化合物の水溶液にMo化合物の水溶液を攪拌下に滴下して沈殿物を形成するか、または、Mo化合物の水溶液にCu化合物の水溶液を攪拌下に滴下して沈殿物を形成することが好ましい。
【0024】
本発明によるレーザーマーキング用添加剤は、雲母薄片、金属酸化物で被覆された雲母薄片、SiO2フレーク、およびガラスフィラーからなる群から選ばれた基質に被覆せしめた複合材料とし、これをレーザーマーキング用複合材料として使用しても良い。
【0025】
本発明によるレーザーマーキング用添加剤を含むレーザーマーキング可能な樹脂成形材料は、膜厚0.5mm以下のフィルムないしは薄膜の形態のものでも良い。
【0026】
レーザーマーキング用のレーザーとしては、たとえば固体パルス・レーザー、エキシマ・レーザー、YAG:Ndレーザー、およびCO2レーザー等が挙げられ、一般的にはYAG:Ndレーザー、およびCO2レーザーが使用されている。
【0027】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0028】
まず、本発明によるレーザーマーキング用添加剤を構成する複合水酸化物について、説明をする。
【0029】
CuとMoを必須とする複合水酸化物は、望ましくは一般式Cu3(MoO4)2(OH)2で表されるLindgrenite構造を有し、且つ比表面積が2m2/g以上、更に望ましくは10m2/g以上である微粒子である。Cu3(MoO4)2(OH)2は水系の液相合成により比較的容易に得ることが出来、その色調は白に近い非常に淡い緑色である。Lindgrenite構造を有するCu3(MoO4)2(OH)2はYAGレーザーやCO2レーザーのレーザー光の波長である近赤外線領域に吸収を有し、且つ近赤外線波長域のレーザー光を吸収することで、淡い緑色から黒度の高い黒色に変色する。後述するように反応条件を選定することでCuとMoの比率の異なる複合水酸化物からなる沈殿物も同様のレーザー光による黒色への変色性を有するが、発色の黒さや粉末色の色調の淡さの面からCu3(MoO4)2(OH)2がより好適に用いることが出来る。基材へ添加した際における基材中での添加剤による光の散乱を減少させ、添加剤の添加による基材の外観の変化を最低限に抑制する為には、比表面積は大きい方が好ましく2m2/g以上、より望ましくは10m2/g以上である。
【0030】
本発明による複合水酸化物はCuとMoを必須として含むものであれば、その他の元素を含むものであっても良く、例えばLindgrenite構造を有するCu3(MoO4)2(OH)2中、Cuの一部を他の置換可能な陽イオンで置換したり、Moの一部を他の置換可能な陽イオンで置換しても良い。
【0031】
本発明によるCuとMoを必須として含む複合水酸化物は、水系の液相合成によって得ることが出来る。合成の際に薄片状の基質、例えば雲母、タルク、カオリン、SiO2フレーク等の酸化物、あるいはアルミニウム薄片等の金属等を同時に添加することで、これら薄片状の基質にCuとMoを必須とする複合水酸化物を被覆し、それをレーザーマーキング用添加剤として使用することも可能である。
【0032】
本発明のCuとMoを必須とする複合水酸化物微粒子は、それぞれ所望の濃度に調整したCu水溶液とMo水溶液を攪拌下に混合し、生じた固体生成物を濾取、洗浄、乾燥することで得られる。
【0033】
Cuの原料は水溶性であれば特に限定されない。例えば塩化銅、硝酸銅、硫酸銅、および酢酸銅等が好適に使用可能である。
【0034】
Moの原料も水溶性であれば特に限定されない。例えばモリブデン酸ナトリウム等が好適に使用可能である。
【0035】
これらCu水溶液とMo水溶液を別々に調製し、CuとMoが所定の比率となるよう、上記水溶液を混合する。Cu水溶液とMo水溶液の濃度は溶解度以下であれば特に限定されないが、比表面積を大きくする為には、水溶液の濃度は低い方が良い。濃度の下限は好ましくは0.01Mであり、これよりも低濃度では生産効率の観点から不利である。混合は攪拌機のような攪拌装置を用いて一方の溶液を攪拌しながら、もう一方の溶液をこれに添加すれば良い。Mo水溶液を攪拌しながら、これにCu水溶液を添加しても、その逆であっても良い。添加は、一括で添加しても良いが、例えば定量ホ゜ンフ゜等を用いて滴下しながら少量ずつ添加しても良い。
【0036】
攪拌・混合時の水溶液の温度は任意であって良いが、コスト面と比表面積の観点から室温近辺で反応させるのが望ましい。高温で攪拌・混合することは、加熱コストが高くなるだけでなく、Lindgreniteが結晶成長し比表面積の減少につながる。
【0037】
このようにして得られた反応生成物を、遠心分離やフィルタープレス等、公知の濾過、洗浄工程を経た後に乾燥することで、CuとMoを必須として含む複合水酸化物を得ることが出来る。
【0038】
本発明の添加剤は樹脂への分散を良くする為に、例えばシランカップリング材や脂肪酸、シリコーン、およびポリオール等の既知の表面処理材を用いて、表面処理を施しても良い。
【0039】
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に本発明による添加剤を0.01%以上添加することで、添加剤が加工中に有意なほどに劣化されるような高い加工温度を必要としない、実質的に全ての樹脂組成物に良好なレーザーマーキング特性を付与することができる。
【0040】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリアクリルメタクリレート、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリイミド、およびこれらの混合物およびこれらをベースとした共重合体等が挙げられる。
【0041】
熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0042】
本発明による添加剤は、シリコーン等の珪素骨格ポリマーにも適用することが可能である。
【0043】
本発明による添加剤は、任意の形状または大きさに成形された樹脂に適用できる。例えば部材や容器、包装品、電子部品、カード、およびコーティング組成物等が一例として挙げられる。このようにマーキングするべき基材の形状に関する制限は無いが、特に塗料やフィルムのような薄膜形態の基材に対して、既知の添加剤では得られない、精細で黒度に優れたマーキングを施すことを可能にする。
【0044】
本発明による添加剤は、基材への着色を目的として、無機ないしは有機顔料および染料との併用の形態で基材に添加することが可能である。
【0045】
無機顔料の例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫化亜鉛等の白色顔料;酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の体質顔料;酸化鉄、群青、紺青、カーボンブラック;チタンイエローやコバルトブルー等の複合酸化物顔料等の着色顔料;オキシ塩化ビスマス、酸化チタン等で被覆された雲母顔料のような高輝性顔料が挙げられる。
【0046】
有機顔料の例としては、アゾ、アゾメチン、メチン、アントラキノン、フタロシアニン、ペリレン、チオインジゴ、キナクリドン、およびキノフタロン顔料等が挙げられる。
【0047】
染料の例としては、アントラキノン系、アゾ染料の金属錯体、更にクマリン、ナフタルイミド、キサンテン、チアジン等の蛍光染料が挙げられる。
【0048】
また、光安定剤や酸化防止剤、難燃化剤、ガラス繊維など樹脂の加工に汎用されている添加剤を用途に応じ併用しても良い。さらに紫外線吸収剤、帯電防止剤、電磁波遮断用添加剤等の既知の添加剤との併用も可能である。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、より精細且つ視認性に優れる新規レーザーマーキング用添加材を提供することができる。特に、本発明によるレーザーマーキング用添加剤は、従来の添加剤では十分なマーキング品質を得がたい、厚みが十分でない樹脂成形物、たとえば、塗膜を初め様々な薄膜型の基材に対しても良好なマーキング特性を与えることができ、塗膜への初期着色が低く、且つレーザー印字後の黒度、印字精度も良好なレーザーマーキングを形成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下文中の「部」および「%」は特に断りのない限り重量基準である。
【0051】
<実施例1>
レーザーマーキング用添加剤の作成
モリブデン酸ソーダ二水和物27.3部を蒸留水1000部に加えて溶解した。得られた水溶液に、無水塩化第二銅22.7部と蒸留水1000部からなる水溶液を、室温で攪拌機の回転数500rpmにて攪拌しながら50分間かけて加えた。添加完了後、更に15分間攪拌を行った。得られた懸濁液のpHは4.0であった。その後、懸濁液の濾過を行い、ろ液の電導度が50マイクロシーメンス(μS/cm)となるまでろ物を水洗した。洗浄後のろ物は110℃で12時間乾燥した後、乳鉢にて解砕して、わずかに緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0052】
レーザーマーキング用添加剤の分析
上記の方法で得られた粉末試料の結晶構造を確認するため、粉末X線回折測定装置(理学電機株式会社製、RINT2000 )を用いて測定を行ったところ、同試料は一般式Cu3(MoO4)2(OH)2で表記されるLindgrenite構造を有すると同定された。
【0053】
更に、この粉末試料を走査電子顕微鏡(日立製作所、S-3000N)に付属するエネルギー分散型X線分析装置(堀場製作所社製、EMAX モデル7021-H)を用いた分析によりCuとMoの原子比を見積もったところ、Cu:Mo=3.4:2.0であった。
【0054】
粉末試料の比表面積は比表面積測定計(ユアサアイオニクス株式会社製、モノソーブ)にて測定した。比表面積は32.8m2/gであった。
【0055】
<実施例2>
モリブデン酸ソーダ二水和物24.2部を蒸留水1000部に加えて溶解した。得られた水溶液に、無水塩化第二銅17.1部と蒸留水1000部からなる水溶液を、室温で攪拌機の回転数500rpmにて攪拌しながら50分間かけて加えた。添加完了後、更に15分間攪拌を行った。
【0056】
以下の懸濁液の濾過、洗浄および洗浄後のろ物の乾燥、解砕操作は実施例1と同様の手順で行い、わずかに緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0057】
表1に実施例1と同様の手法で得た、この粉末試料の粉末X線回折測定結果、エネルギー分散型X線分析により見積もったCuとMoの原子比、及び比表面積測定結果を示す。
【0058】
<実施例3>
モリブデン酸ソーダ二水和物27.3部を蒸留水1000部に加えて溶解した。得られた水溶液に、無水塩化第二銅22.7部、硝酸亜鉛1.0部、蒸留水1000部からなる水溶液を、室温で攪拌機の回転数500rpmにて攪拌しながら50分間かけて加えた。添加完了後、更に15分間攪拌を行った。得られた懸濁液のpHは4.0であった。
【0059】
以下の懸濁液の濾過、洗浄および洗浄後のろ物の乾燥、解砕操作は実施例1と同様の手順で行い、わずかに緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0060】
表1に実施例1と同様の手法で得た、この粉末試料の粉末X線回折測定結果、エネルギー分散型X線分析により見積もったCuとMoの原子比、及び比表面積測定結果を示す。
【0061】
<実施例4>
モリブデン酸ソーダ二水和物27.3部を蒸留水1000部に加えて溶解した。得られた水溶液に、無水塩化第二銅22.7部と蒸留水1000部からなる水溶液を、室温で攪拌機の回転数500rpmにて攪拌しながら1分間かけて加えた。以降は実施例1と同様の手法を行い、わずかに緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0062】
表1に実施例1と同様の手法で得た、この粉末試料の粉末X線回折測定結果、エネルギー分散型X線分析により見積もったCuとMoの原子比、及び比表面積測定結果を示す。
【0063】
<実施例5>
無水塩化第二銅22.7部を蒸留水1000部に加えて溶解した。得られた水溶液に、モリブデン酸ソーダ二水和物27.3部と蒸留水1000部からなる水溶液を、室温で攪拌機の回転数500rpmにて攪拌しながら50分間かけて加えた。以降は実施例1と同様の手法を行い、わずかに緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0064】
表1に実施例1と同様の手法で得た、この粉末試料の粉末X線回折測定結果、エネルギー分散型X線分析により見積もったCuとMoの原子比、及び比表面積測定結果を示す。
【0065】
<実施例6>
モリブデン酸ソーダ二水和物13.8部を1500部の蒸留水に加えて溶解した。得られた水溶液に、1〜15μm(平均粒子径6.4μm)の微粒子雲母粉120部を懸濁させた。この懸濁液を攪拌機の回転数500rpmにて攪拌しながら、無水塩化第二銅8.6部と蒸留水1000部からなる水溶液を、25分間かけて加えた。添加完了後、更に15分間攪拌を行った。得られた懸濁液のpHは4.6であった。以降は実施例1と同様の手法を行い、ごくわずかに緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0066】
表1に実施例1と同様の手法で得た、この粉末試料の粉末X線回折測定結果、エネルギー分散型X線分析により見積もったCuとMoの原子比、及び比表面積測定結果を示す。
【0067】
<比較例1>
モリブデン酸ソーダ二水和物27.3部を蒸留水1000部に加えて溶解し、この水溶液を金属塩水溶液1とした。別途、無水塩化第二銅22.7部と蒸留水1000部からなる水溶液(これを金属塩水溶液2とした)を調製し、また苛性ソーダ100部と蒸留水500部からなる水溶液(アルカリ水溶液)を調製した。
【0068】
次いで、金属塩水溶液1に金属塩水溶液2およびアルカリ水溶液を金属塩水溶液1のpHを8に保ったまま、同時に滴下した。この操作を、攪拌機の回転数500rpmにて液を攪拌しながら、50分間かけて行った。添加完了後、更に15分間攪拌を行った。以降は実施例1と同様の手法を行い、青緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0069】
表1に実施例1と同様の手法で得た、この粉末試料の粉末X線回折測定結果、エネルギー分散型X線分析により見積もったCuとMoの原子比、及び比表面積測定結果を示す。
【0070】
<比較例2>
モリブデン酸ソーダ二水和物27.3部を蒸留水1000部に加えて溶解した。得られた水溶液に、無水塩化第二銅22.7部と蒸留水1000部からなる水溶液を、攪拌機の回転数500rpmにて攪拌しながら50分間かけて加えた。添加完了後、この懸濁液を80℃に加熱し、8時間攪拌を保持した。得られた懸濁液のpHは4.0であった。以降は実施例1と同様の手法を行い、緑色に呈色した粉末試料を得た。
【0071】
表1に実施例1と同様の手法で得た、この粉末試料の粉末X線回折測定結果、エネルギー分散型X線分析により見積もったCuとMoの原子比、及び比表面積測定結果を示す。
【0072】
性能評価試験
実施例および比較例で得られた粉末試料並びに参考例の既存レーザーマーキング用添加剤に対し、下記の方法で、顔料特性およびレーザーマーキング特性を評価した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0073】

(1)基材への着色(着色力)
アクリル樹脂に、酸化チタン:上記粉末試料=10:1(重量比)の配合物を11PHR(樹脂100部に対する添加剤の部数)で分散させた。この組成物をOHPフィルム上に、アプリケーターにて150μmの厚みで展色し、着色力を分光光度計(大日精化工業社製、カラコムC)にて測色した。
【0074】
基材への着色:塗膜作製時の着色度合いを下記の基準で評価した。
【0075】
×非常に濃い着色、
△薄い着色、
○ほとんど着色なし

(2)レーザーマーキング特性
(1)にて作成した塗膜に対して、YAG:Ndレーザー(日本電気社製、SL475K)を照射し、白色の塗膜を約20mm×20mmの黒く塗りつぶされた正方形が得られるようにマーキングした。レーザー照射条件は、レーザー励起電流11A、送り速度800mm/秒、Q―sw周波数5kHzとした。
【0076】
マーキング部分を分光光度計により測色し、その際のL*値より黒度を得た。
【0077】
また、同様のレーザー照射条件により、黒色の文字をマーキングし、マーキング箇所を顕微鏡により観察して印字の精細性およびマーキング箇所の塗膜の透け(マーキングによる塗膜の劣化や飛散の状況)を下記の基準で評価した。
【0078】
印字の精細性
×印字不可、
△印字かすれ、
○印字良、
◎繊細な印字
塗膜の透け:マーキングによる塗膜の劣化や飛散の状況
×透けあり、
○透けなし
【表1】

注)参考例1の添加剤は、一般的に印字黒度が高いCu-Mo系レーザーマーキング用添加剤(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製42-903A)である。
【0079】
黒度は、参考例1の黒度を100とする指数で表記した。
【0080】
以上の結果からわかるように、実施例1〜6で得た粉末試料は、既存添加剤(参考例1)と比較して、塗膜への着色性が低く、且つレーザー印字後の黒度、印字精度も良好であった。従って本発明の目的とするレーザーマーキング用添加剤として、好適に使用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分としてCuとMoを含む複合水酸化物をベースとして構成され、かつBET比表面積が2m2/g以上であることを特徴とする、樹脂成形物のレーザーマーキング用添加剤。
【請求項2】
複合水酸化物が、下記一般式で表されるLindgrenite構造を含むものであることを特徴とする、請求項1記載のレーザーマーキング用添加剤。
Cu(MoO4)(OH)
(式中、x、yおよびzは1<x/y<3、1<x/Z<3の関係にある。)
【請求項3】
複合水酸化物が、下記式で表されるLindgrenite構造を含むものであることを特徴とする、請求項2記載のレーザーマーキング用添加剤。
Cu3(MoO4)2(OH)2
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のレーザーマーキング用添加剤が、雲母薄片、金属酸化物で被覆された雲母薄片、SiO2フレーク、およびガラスフィラーからなる群から選ばれた基質に被覆されていることを特徴とするレーザーマーキング用複合材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のレーザーマーキング用添加剤を製造する方法であって、Cu化合物の水溶液とMo化合物の水溶液を混合して沈殿物を形成する工程と、得られた沈殿物を洗浄する工程を含むことを特徴とする、樹脂成形物のレーザーマーキング用添加剤の製造方法。
【請求項6】
沈殿物形成工程において、Cu化合物の水溶液にMo化合物の水溶液を攪拌条件下で滴下して沈殿物を形成するか、または、Mo化合物の水溶液にCu化合物の水溶液を攪拌条件下で滴下して沈殿物を形成することを特徴とする請求項5記載の樹脂成形物のレーザーマーキング用添加剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のレーザーマーキング用添加剤、または請求項4記載のレーザーマーキング用複合材料を含むレーザーマーキング可能な樹脂成形材料。
【請求項8】
形態が膜厚0.5mm以下のフィルムないしは薄膜であることを特徴とすることを特徴とする、請求項7記載の樹脂成形材料。

【公開番号】特開2009−102541(P2009−102541A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276631(P2007−276631)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】