説明

レーザーマーキング用熱可塑性樹脂多層シート。

【課題】 IDカード、クレジットカード、キャッシュカード、認証プレート等で広く用いられている熱可塑性樹脂多層シートであって、外観の損傷が無く、コントラスト良好で、表面平滑性の優れたレーザーマーキングが可能な多層シートを提供する。
【解決手段】 少なくとも表層(A)、コア層(B)及び反射層(C)を有する多層シートであり、表層(A)が透明の熱可塑性樹脂からなり、コア層(B)が熱可塑性樹脂100質量部に対し、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体(a)0.01〜1.0質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、表層(A)とコア層(B)の厚み構成が1:9〜5:5であり、反射層(C)が熱可塑性樹脂100質量部に対し、着色剤(b)0.5〜7質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなるレーザー印刷に適した多層プラスチックシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキングに適した熱可塑性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、IDカード、クレジットカード、キャッシュカード、認証プレートなどの基材として、熱可塑性樹脂からなるシートが用いられている。そしてこの熱可塑性樹脂シート基材にタンポ印刷、シルク印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷等の方法で個人名、認証番号、文字、写真等の印刷をする方法が一般的に行われている。しかしながら、この方法では印刷インキに有機溶剤を含有するものを使用するため、環境衛生上の問題、印刷部の耐久性、耐候性の問題、複雑な形状では印刷できないという問題がある。また、個人名、認証番号、文字、写真等を付す場合、工程が煩雑で生産性に劣るという問題もある。
【0003】
一方で、印刷インキを使用しない印刷方法として、レーザー光線を照射してプラスチック成形品に印刷するレーザーマーキング法が提案されている(例えば、特許文献1〜6)。
【0004】
そして、このようなレーザーマーキングに用いるシートとして、特許文献6には、熱可塑性樹脂からなる表層と、10重量%を超えない量のレーザーマーキング助剤が配合された熱可塑性樹脂からなる内層で構成される多層構成物が記載されている。そして、このような多層構成を得る方法としては、透明熱可塑性樹脂のシート、フィルムの裏にエラストマーをラミネートしてからヒートシールする方法が例示されている。
しかしながら、この多層構成物では、レーザー光線のエネルギー吸収体を含む内層へのレーザーマーキングの条件によっては、マーキング時に発生するガスにより透明表皮層が膨れたり、破れる等の問題がある。このように、従来の熱可塑性樹脂多層構成物では、コントラスト良好で、且つ表面平滑性のあるレーザーマーキングが得られず、更なる改良が望まれていた。
【特許文献1】特公昭61−11771号公報
【特許文献2】特公昭62−59663号公報
【特許文献3】特公昭61−41320号公報
【特許文献4】特開昭61−192737号公報
【特許文献5】特公平2−47314号公報
【特許文献6】特開平7−276575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、IDカード、クレジットカード、キャッシュカード、認証プレート等で広く用いられている熱可塑性樹脂多層シートであって、外観の損傷が無く、コントラスト良好で、表面平滑性の優れたレーザーマーキングが可能な多層シートを提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
少なくとも表層(A)、コア層(B)及び反射層(C)を有する多層シートであり、表層(A)が透明の熱可塑性樹脂からなり、コア層(B)が熱可塑性樹脂100質量部に対し、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体(a)0.01〜1.0質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、表層(A)とコア層(B)の厚み構成が1:9〜5:5であり、反射層(C)が熱可塑性樹脂100質量部に対し、着色剤(b)0.5〜7質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物からなるレーザー印刷に適した多層プラスチックシートである。ここで、エネルギー吸収体(a)としては、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、炭酸塩、及び金属珪酸塩から選ばれた少なくとも1種が好ましい。また、本発明のレーザーマーキング用多層プラスチックシートは溶融押出しもしくはプレス成形により形成され、総厚みは0.2〜2mmが好ましい。さらに、表層(A)とコア層(B)を積層したレーザー発色層と、反射層(C)の厚み構成比は1:9〜7:3が好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のレーザーマーキング用多層シートにより、レーザーマーキング性に優れ、その表面にレーザーで線描等を容易且つ美麗に描く事が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の表層(A)を形成する透明の熱可塑性樹脂としては、例として、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリシクロヘキサン1,4−ジメチルフタレート(PCT)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などが挙げられ、表面硬度特性の点から、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン1,4−ジメチルフタレート、ポリメチルメタアクリレートが好ましい。更に好ましくは、ポリカーボネート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレートである。
【0009】
一方で、コア層(B)を形成する熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体(a)を0.01〜5質量部含有する。この熱可塑性樹脂としては、例えばABS樹脂、ASA樹脂、HIPS樹脂などのゴム強化スチレン系樹脂、PC樹脂、PBT樹脂、PET樹脂、などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中で、特にPC樹脂が好ましい。
【0010】
また、コア層(B)を形成する熱可塑性樹脂組成物に用いられるエネルギー吸収体(a)としては、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、炭酸塩、及び金属珪酸塩の中から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。この中で、エネルギー吸収体(a)に用いられるカーボンブラックは、平均粒径が12〜25nmで、ジブチルフタレート吸油量60〜170ml/100grのカーボンブラックが好ましい。また、金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、酸化珪素、三酸化アンチモンなどが挙げられる。さらに、金属硫化物としては、硫化亜鉛、硫化カドミウムなどが挙げられる。さらに、炭酸塩としては炭酸カルシウムなどが、金属珪酸塩としては珪酸アルミナ、鉄を含む珪酸アルミナ(マイカ)、含水珪酸アルミナ(カオリン)、珪酸マグネシウム(タルク)、珪酸カルシウムなどが挙げられ、これら(b−2)エネルギー吸収体は単独で使用する事も2種以上併用する事も可能である。
【0011】
本発明に用いられるエネルギー吸収体(a)の添加量は、上記熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01〜5質量部である。0.01質量部未満では十分なコントラストが得られず、5質量部を超えるとエネルギー吸収機能が過剰となりコントラストが低下する。
【0012】
一方で、本発明で反射層(C)を形成する熱可塑性樹脂組成物は、プラスチックシートとしての隠蔽性及び反射層としての効果を得る為熱可塑性樹脂100質量部に対し、着色剤(b)0.5〜7質量部含有する。上記熱可塑性樹脂としては、例えばABS樹脂、ASA樹脂、HIPS樹脂などのゴム強化スチレン系樹脂、PC樹脂、PBT樹脂、PET樹脂、などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中で、特にPC樹脂が好ましい。
【0013】
また、着色剤(b)としては、無機顔料、有機顔料、染料が用いられる。無機顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、黄鉛、チタンイエロー、ベンガラ、酸化クロム、コバルトブルー、コバルトバイオレッド、酸化鉄、カーボンブラック等が挙げられる。また、有機顔料としては、不溶性アゾ系、溶性アゾレーキ系、染色レーキ系、スレン系、ニトロソ系、フタロシアニン系、ジオキサジン系等が挙げられる。さらに、染料としては、アゾ系、アンスキラノン系、インジゴイド系、キノンイミン系、油溶出系、蛍光染料等が挙げられる。
【0014】
本発明で反射層(C)を形成する熱可塑性樹脂組成物中の着色剤(b)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5〜7質量部、更に好ましくは4〜6質量部である。0.5質量部未満だと、プラスチックシートとしての隠蔽性が劣り、反射層としての効果が得られなくなり、7質量部を超えると、衝撃強度等物性低下が起こる。
【0015】
なお、本発明のレーザーマーキング用多層シートを構成する各層には、必要に応じて、その特性を損なわない範囲で、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シリコンオイルやアルキルエステル等の離型剤、クレイ、シリカ等の粒状滑剤、スルホン金属酸塩、ポリアルキレングリコール等の帯電防止剤等を添加することができる。
【0016】
本発明の表層(A)及びコア層(B)を積層したレーザー発色層の厚みは0.05〜0.3mmが好ましく、更に好ましくは0.1〜0.2mmである。0.05mm未満ではレーザーマーキング時に発生するガスにより表面が膨れたり破れたりする事により表面平滑性が得られなくなる恐れがある。又経済性の観点から、一般的には0.3mm以下である。
【0017】
本発明の多層シートの厚みは、好ましくは0.2〜2mmであり、更に好ましくは0.2〜0.8mmである。0.2mm未満ではレーザーマーキング時に表面が膨れたり、破れたりする事により表面平滑性が得られなくなる可能性があり、2mmを超えると、レーザーマーキング性は問題無いが、各種カード等に用いる際、断裁加工で綺麗に切断できなくなる可能性がある。
【0018】
本発明の表層(A)及びコア層(B)の厚み構成は1:9〜5:5である。表層(A)の厚み構成が1未満ではレーザーマーキング時に表層(A)とコア層(B)の間に発生するガスによって表面が膨れたり破れたりする事により表面平滑性が得られなくなり、表層(A)の厚み構成が5を超えると、相対的にコア層(B)の厚みが薄くなり、レーザーマーキング時に十分なコントラストが得られなくなる。
【0019】
本発明の表層(A)とコア層(B)を積層したレーザー発色層と、反射層(C)の厚み構成は好ましくは1:9〜7:3である。反射層(C)の厚み構成が9を超えると、相対的にレーザー発色層の厚みが薄くなり、レーザーマーキング時に十分なコントラストが得られなくなる可能性があり、反射層(C)の厚み構成が3未満ではカード素材用プラスチックシートとしての隠蔽性及び反射層としての効果が得られなくなる可能性がある。
【0020】
次に本発明のシートを製造する方法について述べる。本発明において、コア層(B)及び反射層(C)を形成する熱可塑性樹脂組成物は一般的な方法で調整できるが、例として、前述の熱可塑性樹脂と、それぞれエネルギー吸収体(a)、着色剤(b)成分をヘンシェルミキサーなどで混合し、一般の押出機にて溶融混合してペレット化する等の手段により得られる。このようにして得られた樹脂組成物を原料として多層シートを成形するには、一般的な方法を用いる事ができ特に限定されるものではないが、例えば3台の押出機でそれぞれ(A)〜(C)層の原料樹脂を押出し、フィードブロックとTダイにより積層シートを得る方法や、マルチマニホールドダイを使用し積層シートを得る方法が挙げられる。また、(A)〜(C)層の単層のシートを成形しておいて、これらのシートをプレス成形等で積層する方法で得る事もできる。
【0021】
本発明のレーザーマーキング用多層シートを用いて、レーザーマーキングするには、例えば、本発明の多層シートに、レーザー発振波長が532〜1,064nm、レーザー媒質がネオジウム変性イットリウムー四酸化バナジウムであり、レーザービームがシングルモードで、ビーム径が20〜40μmであるレーザーマーカーを照射して印字し、印字発色部と下地部のコントラストを3以上とする方法が挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
本発明において、シート用原料として以下に示した樹脂を用いた。
表層(A) (透明熱可塑性樹脂)
PETG樹脂 商品名 PETG6763 イーストマン社製
PC樹脂 商品名 パンライトL1250 帝人化成社製(以下パンライトと略記)
コア層(B)
PC樹脂(1): パンライト100質量部に対し、カーボンブラック0.05質量部
PC樹脂(2): パンライト100質量部に対し、カーボンブラック0.05質量部+硫化亜鉛4質量部
反射層(C)
PC樹脂(3): パンライト100質量部に対し、着色剤酸化チタン0.3質量部
PC樹脂(4): パンライト100質量部に対し、着色剤酸化チタン6質量部
【0023】
前記原料樹脂を用いて溶融押出し成形にて各単層シートを製膜し、プレス成形により積層し表1の多層シートを得た。
【0024】
各実施例及び比較例の多層シートについて、レーザーマーキング性評価をNd:YVOレーザー(ロフィンシナール社製RSM103D)レーザーマーカーを使用し、以下の基準で評価した。
優良: コントラスト3.5以上
良好: コントラスト2以上3.5未満
不良: コントラスト2未満
【0025】
各実施例及び比較例の多層シートについて、レーザーマーキング後の印字面の表面破損を目視による観察で行い、以下の基準で評価した。
良好: 表面破損無し
不良: 表面の膨れ、破れ等の破損あり
【0026】
各実施例及び比較例の多層シートの全光線透過率はJIS K7105に準拠して評価を実施した。これらの評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のレーザーマーキング用多層シートにより、レーザーマーク性に優れ、その表面にレーザーで線描等を容易かつ美麗に描く事が可能である。よって、本発明のレーザーマーキング用多層シートは、電気部品、電子部品、自動車部品、各種記録媒体ケース、各種表示板等の印字に好適に用いる事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層(A)、コア層(B)及び反射層(C)を有する多層シートであって、下記の(1)〜(4)の要件を具備するレーザーマーキング用熱可塑性樹脂多層シート。
(1) 表層(A)が透明な熱可塑性樹脂からなる。
(2) コア層(B)が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体(a)を0.01〜5質量部含有する熱可塑性樹脂組成物からなる。
(3) 表層(A)とコア層(B)の厚み構成が1:9〜5:5である。
(4) 反射層(C)が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、着色剤(b)を0.5〜7質量部含有する熱可塑性樹脂組成物からなる。
【請求項2】
総厚みが0.2〜2mmである請求項1に記載の熱可塑性樹脂多層シート。
【請求項3】
表層(A)とコア層(B)を積層したレーザー発色層と、反射層(C)の厚み構成が1:9〜7:3である、請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂多層シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂多層シートの表面にレーザーマーキングを施したレーザーマーキング用熱可塑性樹脂多層シート。

【公開番号】特開2006−213009(P2006−213009A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30312(P2005−30312)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】