説明

レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レーザー彫刻用樹脂組成物、レリーフ印刷版、およびレリーフ印刷版の製造方法

【課題】製膜したときの膜物性が良好で、またレリーフ形成層に適用した場合の形成された印刷版のインキ転移性および耐刷性に優れ、さらにレーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高いレーザー彫刻用樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】(A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を架橋させてなるレリーフ形成層を備えるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。Rは水素原子、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レーザー彫刻用樹脂組成物、レリーフ印刷版、およびレリーフ印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体表面に積層された感光性樹脂層に凹凸を形成して印刷版を形成する方法としては、感光性組成物を用いて形成したレリーフ形成層に、原画フィルムを介して紫外光により露光し、画像部分を選択的に硬化させて、未硬化部を現像液により除去する方法、いわゆる「アナログ製版」がよく知られている。
【0003】
レリーフ印刷版は、凹凸を有するレリーフ層を有する凸版印刷版であり、このような凹凸を有するレリーフ層は、主成分として、例えば、合成ゴムのようなエラストマー性ポリマー、熱可塑性樹脂などの樹脂、或いは、樹脂と可塑剤との混合物を含有する感光性組成物を含有するレリーフ形成層をパターニングし、凹凸を形成することにより得られる。このようなレリーフ印刷版うち、軟質なレリーフ層を有するものをフレキソ版と称することがある。
【0004】
レリーフ印刷版をアナログ製版により作製する場合、一般に銀塩材料を用いた原画フィルムを必要とするため、原画フィルムの製造時間及びコストを要する。更に、原画フィルムの現像に化学的な処理が必要で、かつ現像廃液の処理をも必要とすることから、更に簡易な版の作製方法、例えば、原画フィルムを用いない方法、現像処理を必要としない方法などが検討されている。
【0005】
近年は、原画フィルムを必要とせず、走査露光によりレリーフ形成層の製版を行う方法が検討されている。
原画フィルムを必要としない手法として、レリーフ形成層上に画像マスクを形成可能なレーザー感応式のマスク層要素を設けたレリーフ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。これらの原版の製版方法によれば、画像データに基づいたレーザー照射によりマスク層要素から原画フィルムと同様の機能を有する画像マスクが形成されるため、「マスクCTP方式」と称されており、原画フィルムは必要ではないが、その後の製版処理は、画像マスクを介して紫外光で露光し、未硬化部を現像除去する工程であり、現像処理を必要とする点でなお改良の余地がある。
【0006】
現像工程を必要としない製版方法として、レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。直彫りCTP方式は、文字通りレーザーで彫刻することにより、レリーフとなる凹凸を形成する方法で、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができるという利点がある。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、或いは、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をする、なども可能である。
【0007】
例えば、特許文献3〜5には、レーザー彫刻可能なフレキソ版原版、或いはレーザー彫刻によって得られたフレキソ版が開示されている。これら文献では、バインダーとしてエラストマー性のゴムにモノマーを混合し、熱重合機構或いは光重合機構によりこれら混合物を硬化させた後、レーザー彫刻を行い、フレキソ版を得ている。
しかしながら、所定の厚みを有するレリーフ形成層に印圧に耐える凹凸を有するレリーフを形成するには高エネルギーを要し、レーザー彫刻の速度が遅いため、マスクを介して画像形成するタイプに比較し、生産性が低いという問題がある。
【0008】
このため、レリーフ原版の感度を向上させることが試みられており、例えば、エラストマー発泡体を含むレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。この技術では、レリーフ形成層に密度の低い発泡体を用いることで、彫刻感度の向上を図っているが、低密度の材料であるため印刷版としての強度が不足し、耐刷性が著しく損なわれるという問題がある。
【0009】
また機械的、光化学的または熱化学的強化によって、強化されたエラストマーを有するレーザー彫刻可能なフレキソグラフ印刷版が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしこの技術では、充分な彫刻感度が得られていない。
【0010】
以上のように、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に好適に用いうる樹脂組成物に関しては、種々の技術が提案されているが、該樹脂組成物を製膜したときの膜物性が良好で、また該樹脂組成物をレリーフ形成層に適用した場合の形成された印刷版の耐刷性に優れ、さらにレーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高いものは、未だ提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2773847号公報
【特許文献2】特開平9−171247号公報
【特許文献3】特許第2846954号公報
【特許文献4】特開平11−338139号公報
【特許文献5】特開平11−170718号公報
【特許文献6】特開2002−357907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以下の目的を達成することを課題とする。
即ち本発明の目的は、耐刷性および彫刻感度が高いレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、および該レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製造方法、並びに該製造方法により得られたレリーフ印刷版を提供することにある。
また本発明の目的は、製膜したときの膜物性が良好で、またレリーフ形成層に適用した場合の形成された印刷版の耐刷性に優れ、さらにレーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高いレーザー彫刻用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> (A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を架橋させてなるレリーフ形成層を備えるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
(Rは水素原子、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基を表す。)
【0014】
<2> 前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物のガラス転移温度(Tg)が、20℃より高く、かつ200℃以下である<1>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
<3> 前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、アクリル樹脂およびポリビニルアセタールからなる群より選択される1種以上である<1>または<2>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【0015】
<4> 前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、ポリビニルブチラールである<1>〜<3>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
<5> 前記(A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物が、2個のイソシアナート基同士を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する<1>〜<4>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【0016】
<6> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、さらに(C)重合性化合物を含有する<1>〜<5>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
<7> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、さらに(D)重合開始剤を含有する<1>〜<6>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
<8> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、さらに(E)700nm〜1300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を含有する<1>〜<7>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【0017】
<9> (A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物。
(Rは水素原子、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基を表す。)
【0018】
<10> 前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物のガラス転移温度(Tg)が、20℃より高く、かつ200℃以下である<9>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
<11> 前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、アクリル樹脂およびポリビニルアセタールからなる群より選択される1種以上である<9>または<10>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【0019】
<12> 前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、ポリビニルブチラールである<11>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
<13> 前記(A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物が、2個のイソシアナート基同士を連結する部位に炭素―硫黄結合を有する<9>〜<12>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【0020】
<14> <1>〜<8>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程、を含むレリーフ印刷版の製造方法。
<15> 前記(1)工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である<14>に記載のレリーフ印刷版の製造方法。
【0021】
<16> <14>または<15>に記載のレリーフ印刷版の製造方法により製造された、レリーフ層を有するレリーフ印刷版。
<17> 前記レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である<16>に記載のレリーフ印刷版。
<18> 前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である<16>または<17>に記載のレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐刷性および彫刻感度が高いレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、および該レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製造方法、並びに該製造方法により得られたレリーフ印刷版を提供することができる。
また本発明によれば、製膜したときの膜物性が良好で、またレリーフ形成層に適用した場合の形成された印刷版の耐刷性に優れ、さらにレーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高いレーザー彫刻用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レーザー彫刻用樹脂組成物、レリーフ印刷版、及びレリーフ印刷版の製造方法について詳細に説明する。
【0024】
[レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版]
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、(A)分子内に少なくとも2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を架橋させてなるレリーフ形成層を備えることを特徴とする。(Rは水素原子、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基を表す。)
つまり本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、後述する本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物の架橋物、詳細には、少なくとも(A)分子内に少なくとも2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、の架橋物、を含んで構成されるレリーフ形成層を備えることを特徴とする。
はじめに、レリーフ形成層の形成に用いられる、本発明に係るレーザー彫刻用樹脂組成物の各構成成分について説明する。
【0025】
[レーザー彫刻用樹脂組成物]
本発明に係るレーザー彫刻用樹脂組成物は、(A)分子内に少なくとも2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、を含有することを特徴とする。
【0026】
<(A)分子内に少なくとも2個以上のイソシアナート基を有する化合物(以下適宜、「多官能イソシアナート」と称する。)>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(A)分子内に少なくとも2個以上のイソシアナート基を有する化合物(多官能イソシアナート)を含有する。
【0027】
本発明で用いる(A)多官能イソシアナートの分子内に有するイソシアナート基の数は2個以上であり、三次元架橋構造を形成する観点から、2〜10個が好ましく、2〜6個がより好ましく、2〜4個が更に好ましい。
【0028】
以下多官能イソシアナートについて説明する。
分子内に2個のイソシアナート基を有する化合物としては例えば、m−フェニレンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナート、2,6イソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、ナフタレン−1,4−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、3,3’−ジメトキシ−ビフェニルジイソシアナート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、キシリレン−1,4−ジイソシアナート、キシリレン−1,3−ジイソシアナート、4−クロロキシリレン−1,3−ジイソシアナート、2−メチルキシリレン−1,3−ジイソシアナート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアナート、
【0029】
4,4’−ジフェニルヘキサフルオロプロパンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、プロピレン−1,2イソシアナート、ブチレン−1,2−ジイソシアナート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアナート、シクロヘキシレン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンおよび1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアナート、またはリジンジイソシアナート等が挙げられる。更にこれらの2官能イソシアナート化合物とエチレングリコール類、ビスフェノール類等の2官能アルコール、フェノール類との付加反応物も利用できる。
【0030】
更に多官能のイソシアナート化合物も利用することができる。この様な化合物の例としては前述の2官能イソシアナート化合物を主原料とし、これらの3量体(ビューレットあるいはイソシアヌレート)、トリメチロールプロパンなどのポリオールと2官能イソシアナート化合物の付加体として多官能としたもの、ベンゼンイソシアナートのホルマリン縮合物、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート等の重合性基を有するイソシアナート化合物の重合体、またはリジントリイソシアナートなどが挙げられる。
【0031】
特に、キシレンジイソシアナートおよびその水添物、イソシアナート、トリレンジイソシアナートおよびその水添物を主原料としこれらの3量体(ビューレットあるいはイソシヌレート)の他、トリメチロールプロパンとのアダクト体として多官能としたものが好ましい。これらの化合物については「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(岩田敬治編、日刊工業新聞社発行(1987))に記載されている。
【0032】
またこれらの中で、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、キシリレン−1,4−ジイソシアナート、キシリレン−1,3−ジイソシアナート、トリメチロールプロパンとキシリレン−1,4−ジイソシアナートまたはキシリレン−1,3−ジイソシアナートとの付加物が好ましく、特にキシリレン−1,4−ジイソシアナートおよびキシリレン−1,3−ジイソシアナート、トリメチロールプロパンとキシリレン−1,4−ジイソシアナートまたはキシリレン−1,3−ジイソシアナートとの付加物が好ましい。
【0033】
また(A)多官能イソシアナートは、2個のイソシアナート基を連結する部位に、彫刻感度の観点から、窒素、酸素、または硫黄等のヘテロ原子を有することが好ましく、炭素―硫黄結合を有することがより好ましい。
【0034】
このような炭素―硫黄結合を有する連結基として、より具体的には、−C−S−、−C−SS−、−NH(C=S)O−、−NH(C=O)S−、−NH(C=S)S−、及び−C−SO−から選択される少なくとも1つのユニットであることが好ましく、中でも、彫刻感度をより高めるといった観点から、−C−SS−、−NH(C=S)O−、−NH(C=O)S−、−NH(C=S)S−が好ましく、−C−SS−、−NH(C=O)S−が最も好ましい。
【0035】
(A)多官能イソシアナートは、2個のイソシアナート基同士を連結する部位に炭素―硫黄結合を有するのが好ましい態様であるが、分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1個〜10個が好ましく、1個〜5個がより好ましく、1個〜2個が更に好ましい。
【0036】
このような分子内に硫黄原子を含む含硫黄イソシアナートは、含硫黄多官能アルコール、含硫黄多官能アミン、または多官能チオールと多官能イソシアナートとの付加反応により合成することができる。
また、多官能イソシアナート中にポリオキシアルキレン鎖を有するものが好ましい。ポリオキシアルキレン鎖としては、ポリオキシエチレン鎖、およびポリオキシプロピレン鎖が好ましい。
【0037】
(A)多官能イソシアナートの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
上記(A)多官能イソシアナートの具体例の中でも、彫刻感度向上の観点から、化合物I−7〜化合物I−15が好ましく、化合物I−7、I−8、I−10、I−11、I−12、およびI−13がより好ましく、化合物I−7、I−10、およびI−11が更に好ましい。
【0044】
(A)多官能イソシアナートの分子量は、形成される膜の柔軟性の観点から、好ましくは100〜5000であり、より好ましくは150〜3000である。
【0045】
(A)多官能イソシアナートの添加量は、レーザー彫刻用樹脂組成物全固形分中、0.1質量%〜80質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1質量%〜40質量%の範囲であり、更に好ましくは5質量%〜30質量%である。
【0046】
<(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を一種以上有する高分子化合物(以下適宜、特定高分子化合物と称する。)>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を一種以上有する高分子化合物(特定高分子化合物)を含有する。ここで、Rは水素原子、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基を表す。
【0047】
置換基−NHRにおけるRが表す直鎖状または分岐状のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が挙げられ、アルケニル基としては炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられ、アルキニル基としては炭素数2〜20のアルキニル基が挙げられる。
【0048】
置換基−NHRにおけるRが表すシクロアルキル基としては、炭素数2〜7のシクロアルキル基が挙げられ、アルコキシ基としては炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられ、アリール基としては炭素数2〜14のアリール基が挙げられる。
【0049】
置換基−NHRにおけるRとしては、水素原子、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数3〜6のアリール基が好ましい。
【0050】
(B)特定高分子化合物のポリマー骨格としては特に限定されないが、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリシロキサン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルモノマーの重合体(以下、適宜「ビニル重合体」と称する)等が挙げられる。なお、本発明においてアクリル樹脂とは、(メタ)アクリル系モノマーを重合成分として少なくとも1種有するポリマーを指す。
【0051】
(B)特定高分子化合物におけるヒドロキシ基および−NHRの置換位置は特に限定されず、(B)特定高分子化合物の主鎖末端または側鎖に有している態様が挙げられる。反応性・合成容易性などの観点から、(B)特定高分子化合物の側鎖に、これらの基を有するポリマーが好ましい。
前記例示した如き主鎖骨格の主鎖末端又は側鎖に、ヒドロキシ基及び−NHRのうち少なくとも1つを有するものを、本発明における(B)特定高分子化合物として使用することができる。特にヒドロキシ基を有する特定高分子化合物が好ましい。
【0052】
また(B)特定高分子化合物としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリオレフィンのようなポリマーの末端がヒドロキシ化されているものも好ましく用いられる。このようなポリマーは商業的に入手可能であり、例えば、出光興産(株)のPoly bd(登録商標)、Poly ip(登録商標)、エポール(登録商標)、KRASOLシリーズなどを用いることができる。
【0053】
ポリマーの側鎖にヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を一種以上有する(B)特定高分子化合物としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含むビニル重合体、ポリエステル、またはポリウレタンが好ましく、レリーフ形成層としたときのリンス性および耐刷性の観点で、アクリル樹脂およびポリビニルアセタールからなる群より選択される1種以上であることがより好ましく、ポリビニルブチラールが更に好ましい。
【0054】
本発明に係る(B)特定高分子化合物のうち、ポリマーの側鎖にヒドロキシ基を有する高分子化合物について説明する。
ポリマーの側鎖にヒドロキシ基を有する高分子化合物としては、側鎖にヒドロキシ基を有するアクリル樹脂、側鎖にヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂、側鎖にヒドロキシ基を有するポリエステル、側鎖にヒドロキシ基を有するビニル重合体が好ましく挙げられる。
【0055】
側鎖にヒドロキシ基を有するアクリル樹脂の合成に用いられるアクリル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類(メタ)アクリルアミド類であって分子内にヒドロキシ基を有するものが好ましい。この様な単量体の具体例としては例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらと公知の(メタ)アクリル系モノマーやビニル系モノマーとを重合させた共重合体を好ましく用いることができる。
【0056】
また、アクリル樹脂としては、上記ヒドロキシ基を有するアクリル単量体以外のアクリル単量体を共重合成分として含むこともできる。このようなアクリル単量体としては、
(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アセトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体のモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
さらに、ウレタン基やウレア基を有するアクリル単量体を含んで構成される変性アクリル樹脂も好ましく使用することができる。
これらのなかでも、水性インキ耐性の観点で、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレートなど脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレート類が特に好ましい。
【0057】
また側鎖にヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂としては具体的に例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの付加物を原料モノマーとして重合して得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000で、数平均分子量が400〜60,000のものが好ましい。
【0058】
ポリエステルとしては、ポリ乳酸などのヒドロキシカルボン酸ユニットからなるポリエステルを好ましく用いることができる。このようなポリエステルとしては、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンコハク酸)、これらの誘導体又は混合物から成る群から選択されるものが好ましい。
【0059】
さらに、ヒドロキシエチレン単位を有するビニル重合体としては、ポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体が好ましく用いられる。
【0060】
PVA誘導体の例として、ヒドロキシエチレン単位の水酸基の少なくとも一部をカルボキシ基等の酸基に変性した酸変性PVA、当該水酸基の一部を(メタ)アクリロイル基に変性した変性PVA、当該水酸基の少なくとも一部をアミノ基に変性した変性PVA、当該水酸基の少なくとも一部にエチレングリコールやプロピレングリコール及びこれらの複量体を導入した変性PVA、ポリビニルアルコールをアルデヒド類で処理することによって得られるポリビニルアセタール等が挙げられる。
これらの中でも、特にポリビニルアセタールが好ましく用いられる。
【0061】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルを鹸化して得られる)を環状アセタール化することにより得られる化合物である。
ポリビニルアセタール中のアセタール含量(原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数を100%とし、アセタール化されるビニルアルコール単位のモル%)は、30%〜90%が好ましく、50%〜85%がより好ましく、55%〜78%が特に好ましい。
ポリビニルアセタール中のビニルアルコール単位としては、原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数に対して、10モル%〜70モル%が好ましく、15モル%〜50モル%がより好ましく、22モル%〜45モル%が特に好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、その他の成分として、酢酸ビニル単位を有していてもよく、その含量としては0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%がさらに好ましい。ポリビニルアセタールは、さらに、その他の共重合単位を有していてもよい。
ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルプロピラール、ポリビニルエチラール、ポリビニルメチラールなどが挙げられる。なかでもポリビニルブチラールは好ましく用いられるPVA誘導体である。
【0062】
アセタール処理に用いるアルデヒド類としては、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒドは、取り扱いが容易であるため好ましく用いられる。
【0063】
以下、ポリビニルアセタールの特に好ましい例として、ポリビニルブチラールを挙げて説明するが、これに限定されない。
ポリビニルブチラール誘導体の構造は、以下に示す通りであり、これらの構造単位を含んで構成される。
【0064】
【化6】

【0065】
ポリビニルブチラールの誘導体としては、市販品としても入手可能であり、その好ましい具体例としては、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で、積水化学製の「エスレックB」シリーズ、「エスレックK(KS)」シリーズ、デンカ製の「デンカブチラール」が好ましい。さらに好ましくは、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で積水化学製の「エスレックB」シリーズとデンカ製の「デンカブチラール」である。これらのうち、特に好ましい市販品を、上記式中の、l、m、及びnの値と、分子量とともに以下に示す。積水化学製の「エスレックB」シリーズでは、「BL−1」(l=61、m=3、n=36 重量平均分子量 1.9万)、「BL−1H」(l=67、m=3、n=30 重量平均分子量 2.0万)、「BL−2」(l=61、m=3、n=36 重量平均分子量 約2.7万)、「BL−5」(l=75、m=4、n=21 重量平均分子量 3.2万)、「BL−S」(l=74、m=4、n=22 重量平均分子量 2.3万)、「BM−S」(l=73、m=5、n=22 重量平均分子量 5.3万)、「BH−S」(l=73、m=5、n=22 重量平均分子量 6.6万)が、また、デンカ製の「デンカブチラール」シリーズでは「#3000−1」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 7.4万)、「#3000−2」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 9.0万)、「#3000−4」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 11.7万)、「#4000−2」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 15.2万)、「#6000−C」(l=64、m=1、n=35 重量平均分子量 30.8万)、「#6000−EP」(l=56、m=15、n=29 重量平均分子量 38.1万)、「#6000−CS」(l=74、m=1、n=25 重量平均分子量 32.2万)、「#6000−AS」(l=73、m=1、n=26 重量平均分子量 24.2万)が、それぞれ挙げられる。
【0066】
また、ヒドロキシ基を側鎖に有する(B)特定高分子化合物として、フェノール類とアルデヒド類を酸性条件下で縮合させた樹脂であるノボラック樹脂を用いることができる。
好ましいノボラック樹脂としては、例えばフェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、p−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、o−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、オクチルフェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,o−またはm−/p−,m−/o−,o−/p−混合のいずれでもよい)の混合物とホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂などが挙げられる。
これらのノボラック樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000で、数平均分子量が400〜60,000のものが好ましい。
【0067】
本発明における(B)特定高分子化合物に含まれるヒドロキシ基の含有量は、前記いずれの態様のポリマーにおいても、0.1〜15mmol/gであることが好ましく、0.5〜7mmol/gであることがより好ましい。
【0068】
次に(B)特定高分子化合物のうち、ポリマーの側鎖に−NHRを有するポリマーについて説明する。
ポリマーの側鎖に−NHRを有する高分子化合物としては、アクリル樹脂が好ましく用いられ、例えば、アクリルアミドを重合成分として有する重合体、アクリル酸コポリマーのカルボキシ基がアミノアルキル化されたポリマー、などが好ましく用いられる。このようなポリマーは商業的に入手可能であり、例えば、日本触媒(株)のポリメント(登録商標)シリーズなどがあげられる。
本発明における(B)特定高分子化合物に含まれる−NHR基の含有量は、前記いずれの態様のポリマーにおいても、0.1〜15mmol/gであることが好ましく、0.5〜7mmol/gであることがより好ましい。
【0069】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物では、(A)多官能イソシアナートにおける多官能イソシアナート基が、(B)特定高分子化合物におけるヒドロキシ基、−NHR基と、反応し、(B)特定高分子化合物の分子同士が多官能イソシアナート基によって三次元的に架橋されることから、製膜した際の膜物性に優れる。また該樹脂組成物をレリーフ形成層に適用した場合に形成された印刷版は、インク転移性、耐刷性に優れたものとなる。
また(A)多官能イソシアナートにおける多官能イソシアナート基と、(B)特定高分子化合物におけるヒドロキシ基、−NHR基と、の反応による三次元架橋構造に寄与するウレタン結合は、比較的結合力が弱く、レーザー彫刻によって容易に開裂するため、彫刻感度が高くなるものと考えられる。
【0070】
本発明に用いうる(B)特定高分子化合物は、本発明においてレリーフ形成層を構成するレーザー彫刻用樹脂組成物の好ましい併用成分である、後述する(E)700〜1300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤と組み合わせた場合に、ガラス転移温度(Tg)が20℃超のものとすることで、彫刻感度が向上するため、特に好ましい。このようなガラス転移温度を有するバインダーポリマーを以下、非エラストマーと称する。即ち、エラストマーとは、一般的に、ガラス転移温度が常温以下のポリマーであるとして学術的に定義されている(科学大辞典 第2版、編者 国際科学振興財団、発行 丸善株式会社、P154参照)。従って、非エラストマーとはガラス転移温度が常温を超える温度であるポリマーを指す。
【0071】
(B)特定高分子化合物のガラス転移温度の上限には制限はないが、200℃以下であることが取り扱い性の観点から好ましく、20℃以上200℃以下であることがより好ましく、25℃以上120℃以下であることが更に好ましい。
【0072】
(B)特定高分子化合物としてガラス転移温度が、20℃超のポリマーを用いる場合、(B)特定高分子化合物は常温ではガラス状態をとるが、このためゴム状態をとる場合に比較して、熱的な分子運動はかなり抑制された状態にある。レーザー彫刻においては、レーザー照射時に、レーザーが付与する熱に加え、所望により併用される(E)光熱変換剤の機能により発生した熱が、周囲に存在する(B)特定高分子化合物に伝達され、これが熱分解、消散して、結果的に彫刻されて凹部が形成される。
本発明の好ましい態様では、(B)特定高分子化合物の熱的な分子運動が抑制された状態の中に(E)光熱変換剤が存在すると(B)特定高分子化合物への熱伝達と熱分解が効果的に起こるものと考えられ、このような効果によって彫刻感度がさらに増大したものと推定される。
【0073】
本発明における(B)特定高分子化合物の重量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算)は、0.5万〜50万が好ましく、より好ましくは1万〜40万、更に好ましくは1.5万〜30万である。重量平均分子量が0.5万以上であれば、単体樹脂としての形態保持性に優れ、50万以下であれば、水など溶媒に溶解しやすくレーザー彫刻用樹脂組成物を調製するのに好都合である。
【0074】
このように、レーザー彫刻用樹脂組成物の適用用途に応じた物性を考慮し、目的に応じたバインダーポリマーを選択し、当該(B)特定高分子化合物の1種を、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
本発明に係る(B)特定高分子化合物の含有量は、レーザー彫刻用樹脂組成物全固形分中、5質量%〜80質量%が好ましく、15質量%〜75質量%が好ましく、20質量%〜65質量%がより好ましい。
例えば、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した場合、バインダーポリマーの含有量を15質量%以上とすることで、得られたレリーフ印刷版を印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、また、75質量%以下とすることで、他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版をフレキソ印刷版とした際においても印刷版として使用するに足る柔軟性を得ることができる
【0076】
<溶剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製する際に用いる溶媒は、(A)多官能イソシアナートと(B)特定高分子化合物との反応を速やかに進行させる観点で、主として非プロトン性の有機溶媒を用いることが好ましい。より具体的には、非プロトン性の有機溶媒/プロトン性有機溶媒=100/0〜50/50(質量比)で用いることが好ましい。より好ましくは100/0〜70/30、特に好ましくは100/0〜90/10である。
非プロトン性の有機溶媒の好ましい具体例は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドである。
【0077】
プロトン性有機溶媒の好ましい具体例は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールである。
【0078】
<触媒>
また(A)多官能イソシアナート化合物を、(B)特定高分子化合物におけるヒドロキシ基、−NHR等に付加させる反応は、有機溶媒中、反応温度を20〜100℃で数時間〜数十時間反応させることにより行うことができる。また、反応を促進させる観点から、触媒のもと反応を行うことが好ましい。
【0079】
触媒としては、一般に使用されるウレタン化触媒であれば限定なく使用することが可能であり、塩基性触媒、有機金属触媒、酸触媒が挙げられ、触媒活性の点から塩基性触媒、有機金属触媒が好ましい。
【0080】
塩基性触媒の具体例としてはトリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジプロピレントリアミン、トリエチレンジアミン、N−メチル−N’−(2−ジメチルアミノエチル)ピペラジン、N−エチルモルホリン、1,2−ジメチルイミダゾール、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテルが挙げられる。
【0081】
有機金属触媒として利用される触媒の金属種としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属、スズ、鉛等の第14族、Bi、P等の第15族やその他遷移金属類が用いられる。具体例としては酢酸カリウム、2−エチルヘキサン酸カリウム、酢酸カルシウム、スタナスオクトエート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、オクチル酸鉛、ビスマス−2−エチルヘキサノエート、ビスマスネオデカノエート、ビスマスオキシカーボネート、等が挙げられる。
【0082】
本発明において、ガラス転移温度(Tg)は以下のように測定される。
まず、測定用の樹脂を製膜して、ガラス転移温度測定用の樹脂膜(5mm×30mm)を作製する。
測定用樹脂膜を、25℃、60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン、DVA−225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ(把持点)間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃から200℃、周波数1Hzで粘弾性を測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)を取ってプロットする。
その時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を検知し、この温度を境にして、固体領域におけるプロットにより直線1を引き、ガラス転移領域におけるプロットで直線2を引き、直線1と直線2の交点を求める。この温度が、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、これを架橋物のガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0083】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物において、前記(A)多官能イソシアナートと、(B)特定高分子化合物と、を併用することにおける作用機構は定かではないが以下のように推定される。
レーザー彫刻用樹脂組成物中で、(A)多官能イソシアナートのイソシアナート基が、共存する(B)特定高分子化合物中のヒドロキシ基(−OH)、−NHRと反応を起こし、結果的に(B)特定高分子化合物の分子同士が多官能イソシアナートにより3次元的に架橋される。その結果、(I)レーザー彫刻用樹脂組成物を製膜したときの膜物性が向上し、塑性変形しにくくなるという効果が得られる。(I)膜物性の向上は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ形成層に適用した場合、形成された印刷版の耐刷性が向上するという効果をもたらす。また、本発明の好ましい態様において、多官能イソシアナートのイソシアナート基同士を連結する連結部位にヘテロ原子を有する場合は、このヘテロ原子に起因して(II)彫刻感度が向上するという効果も得られ、感度向上効果は、特にヘテロ原子として硫黄原子を含む場合に著しい。
【0084】
詳細には、(B)特定高分子化合物同士が(A)多官能イソシアナートを介して直接架橋されることで、分子内に三次元架橋構造が形成されて(I)膜物性向上効果が得られるものと考えられる。従って、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を製膜してレリーフ形成層を作製した場合、それにより得られるレリーフ層の膜物性が向上し、長期間にわたる印刷において繰り返し印圧がかかった状態にでも、塑性変形が抑制されて耐刷性が良化したものと推定される。
また(A)多官能イソシアナートにおける多官能イソシアナート基と、(B)特定高分子化合物におけるヒドロキシ基、−NHR基と、の反応による三次元架橋構造に寄与するウレタン結合は、比較的結合力が弱く、レーザー彫刻によって容易に開裂するため、彫刻感度が向上するものと考えられる。
さらに、この(A)多官能イソシアナートが、分子内に炭素と結合するヘテロ原子を有する連結基を持つ場合、ヘテロ原子と隣接する炭素原子は、共有結合電子がヘテロ原子に偏った電子状態をとっており、エネルギー的に解裂しやすい。その結果、レーザー彫刻で熱分解されやすくなり(II)彫刻感度がさらに向上するものと考えられる。
【0085】
このように、(A)多官能イソシアナートと(B)特定高分子化合物とを含有する本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、組成物の調整及び製膜時に、(A)多官能イソシアナートと(B)特定高分子化合物中のヒドロキシ基、−NHRが反応して架橋構造を形成することで種々の優れた物性を発現する。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物において(A)多官能イソシアナートと(B)特定高分子化合物との反応が進行し、架橋構造が形成されたことの確認は、通常、膜物性の変化から容易に確認可能であるが、詳細は以下の方法で行うことができる。
架橋後の膜について“固体13C−NMR”を用いて同定可能である。
(B)特定高分子化合物中のOH基又は−NHRに直接結合した炭素原子は、(A)多官能イソシアナートとの反応前後で電子的な環境が変化するので、これに伴いピークの位置が変化する。未反応のOH基又は−NHRに直接結合した炭素原子由来のピークと、(A)多官能イソシアナートと反応したOH基又は−NHRに直接結合した炭素原子のピーク同士の強度を、架橋前後で比較することで、実際にアルコール交換反応が進行していること及びおおよその反応率を知ることができる。なお、ピークの位置の変化の程度は、用いる(B)特定高分子化合物の構造により異なるため、この変化は相対的な指標である。
【0086】
また、他の方法として、架橋前後の膜を溶剤に浸漬して膜の外観の変化を目視観察する方法が挙げられ、この方法によっても架橋の進行を知ることが可能である。
具体的には、樹脂組成物を製膜して、該膜をアセトン中に室温で24時間浸漬し外観を目視観察すると、架橋構造が形成されてない場合や、架橋構造が形成されてもわずかな場合は膜がアセトンに溶解し、外観を留めない程度に変形するか、又は、溶解して目視で固形物が確認できない状態になるが、架橋構造を有する場合には、膜が不溶化して膜の外観がアセトン浸漬前の状態を留めたままとなる。
【0087】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、上記必須成分である(A)成分、(B)成分、および溶媒に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて目的に応じて種々の化合物を併用することができる。
<(B−2)併用バインダーポリマー>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、上記(B)特定高分子化合物に加え、ヒドロキシ基、−NHRを有しないバインダーポリマーなど(B)特定高分子化合物に包含されない公知のバインダーポリマーを併用することができる。以下、このようなバインダーポリマーを(B−2)併用バインダーポリマーと称する。
(B−2)併用バインダーポリマーは、前記(B)特定高分子化合物とともに、レーザー彫刻用樹脂組成物に含有される主成分を構成するものであり、(B)特定高分子化合物に包含されない一般的な高分子化合物を適宜選択し、1種又は2種以上を併用して用いることができる。特に、レーザー彫刻用樹脂組成物を印刷版原版に用いる際は、レーザー彫刻性、インキ受与性、彫刻カス分散性などの種々の性能を考慮して選択することが必要である。
【0088】
併用バインダーポリマーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択して用いることができる。
【0089】
例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光或いは加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。このようなポリマーは、特開2008−163081号公報〔0038〕に記載されているものが好ましく挙げられる。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂や熱可塑性エラストマーが選択される。特開2008−163081号公報〔0039〕〜〔0040〕に詳述されている。更に、レーザー彫刻用樹脂組成物を、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層に適用する場合であれば、レリーフ形成層用組成物の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。親水性ポリマーとしては、特開2008−163081号公報〔0041〕に詳述されているものを使用することができる。
【0090】
また、ポリ乳酸などのヒドロキシカルボン酸ユニットからなるポリエステルを好ましく用いることができる。このようなポリエステルとしては、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンコハク酸)、これらの誘導体又は混合物から成る群から選択されるものが好ましい。
【0091】
加えて、加熱や露光により硬化させ、強度を向上させる目的に使用する場合には、分子内に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーが好ましく用いられる。
このようなポリマーとして、主鎖に炭素−炭素不飽和結合を含むポリマーとしては、例えば、SB(ポリスチレン−ポリブタジエン)、SBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等が挙げられる。
【0092】
側鎖に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーとしては、前記の本発明で適用可能なバインダーポリマーの骨格に、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基のような炭素−炭素不飽和結合を側鎖に導入することで得られる。バインダーポリマー側鎖に炭素−炭素不飽和結合を導入する方法は、(i)重合性基に保護基を結合させてなる重合性基前駆体を有する構造単位をポリマーに共重合させ、保護基を脱離させて重合性基とする方法、(ii)水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシ基などの反応性基を複数有する高分子化合物を作製し、これらの反応性基と反応する基及び炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を高分子反応させて導入する方法など、公知の方法をとることができる。これらの方法によれば、高分子化合物中への不飽和結合、重合性基の導入量を制御することができる。
このように、レリーフ印刷版の適用用途に応じた物性を考慮し、目的に応じたバインダーポリマーを選択し、当該バインダーポリマーの1種を、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0093】
バインダーポリマーの総含有量〔(B)特定高分子化合物と(B−2)併用バインダーポリマーとの合計含有量〕は、レーザー彫刻用樹脂組成物の固形分全質量に対し、5質量%〜95質量%が好ましく、15質量%〜80質量%が好ましく、20質量%〜65質量%がより好ましい。
例えば、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した場合、バインダーポリマーの含有量を5質量%以上とすることで、得られたレリーフ印刷版を印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、また、80質量%以下とすることで、他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版をフレキソ印刷版とした際においても印刷版として使用するに足る柔軟性を得ることができる。
【0094】
本発明に係るレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に用いるレーザー彫刻用樹脂組成物には、上述した必須成分である(A)多官能イソシアナートおよび(B)特定高分子化合物と共に、(C)重合性化合物、(D)重合開始剤、(E)光熱変換剤、可塑剤等の任意成分を含むことが好ましい。以下、これらの各成分について詳述する。
【0095】
<(C)重合性化合物>
本発明においては、レリーフ形成層中に架橋構造を形成する観点から、これを形成するために、レーザー彫刻用樹脂組成物には、(C)重合性化合物を含有することが好ましい。
ここで用いうる重合性化合物は、エチレン性不飽和二重結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個有する化合物の中から任意に選択することができる。
【0096】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、さらに種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等の重合性化合物が挙げられる。
なお、前記(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを表し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタアクリルアミドを表す。
【0097】
以下、(C)重合性化合物として用いられる、エチレン性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単官能モノマー、及び、同結合を分子内に2個以上有する多官能モノマーについて説明する。
【0098】
単官能モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート等のメタクリル誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のN−ビニル化合物類、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられる。
【0099】
多官能モノマーとしては、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラマレート、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド等の多価アルコール化合物又は多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物又はアミド化合物や、特開昭51−37193号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号の各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。更に、日本接着協会誌Vol.20、No.7、300〜308頁(1984年);山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年、大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー社);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知のラジカル重合性又は架橋性のモノマー、オリゴマーを用いることができる。
【0100】
本発明におけるレリーフ形成層の形成に用いるレーザー彫刻用樹脂組成物は、膜中に架橋構造を形成する態様であることから、多官能モノマーが好ましく使用される。これらの多官能モノマーの分子量は、200〜2,000であることが好ましい。
【0101】
本発明においては、(C)重合性化合物として、彫刻感度向上の観点から、分子内に硫黄原子を有する化合物を用いることが好ましい。
このように分子内に硫黄原子を有する重合性化合物としては、彫刻感度向上の観点から、特に、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有し、そのうち2つのエチレン性不飽和結合間を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する重合性化合物(以下、適宜、「含硫黄多官能モノマー」と称する。)を用いることが好ましい。
【0102】
本発明における含硫黄多官能モノマー中の炭素−硫黄結合を含んだ官能基としては、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホニル、スルホンアミド、チオカルボニル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸、スルファミン酸、チオアミド、チオカルバメート、ジチオカルバメート、又はチオ尿素を含む官能基が挙げられる。
【0103】
また、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1個〜10個が好ましく、1個〜5個がより好ましく、1個〜2個が更に好ましい。
一方、分子内に含まれるエチレン性不飽和部位の数は2つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、架橋膜の柔軟性の観点で、2個〜10個が好ましく、2個〜6個がより好ましく、2個〜4個が更に好ましい。
【0104】
本発明における含硫黄多官能モノマーは、硫黄原子含有ジカルボン酸とエポキシ基含有(メタ)アクリレートとの反応、硫黄原子含有ジオールとイソシアナート含有(メタ)アクリレートとの反応、ジチオールとイソシアナート含有(メタ)アクリレートとの反応、ジイソチオシアネートとヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとの反応、公知のエステル化反応などを用いて合成することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0105】
また、本発明における含硫黄多官能モノマーは単独で用いてもよいが、分子内に硫黄原子を持たない多官能モノマーや単官能モオマーとの混合物として用いてもよい。
彫刻感度の観点からは、含硫黄多官能モノマー単独で用いる、若しくは、含硫黄多官能モノマーと単官能エチレン性モノマーとの混合物として用いる態様が好ましく、より好ましくは、含硫黄多官能モノマーと単官能エチレン性モノマーとの混合物として用いる態様である。
【0106】
レリーフ形成層中の含硫黄多官能モノマーをはじめとする(C)重合性化合物の総含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、不揮発性成分に対して、10質量%〜60質量%が好ましく、15質量%〜45質量%の範囲がより好ましい。
なお、含硫黄多官能モノマーと他の重合性化合物とを併用する場合、全重合性化合物中の含硫黄多官能モノマーの量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0107】
<(D)重合開始剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、さらに(D)重合開始剤を含有することが好ましい。
重合開始剤は当業者間で公知のものを制限なく使用することができる。以下、好ましい重合開始剤であるラジカル重合開始剤について詳述するが、本発明はこれらの記述により制限を受けるものではない。
【0108】
本発明において、好ましいラジカル重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(l)アゾ系化合物等が挙げられる。以下に、上記(a)〜(l)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
本発明においては、彫刻感度と、レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物がより好ましく、(c)有機過酸化物が特に好ましい。
【0110】
前記(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、及び(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物としては、特開2008−63554号公報の段落〔0074〕〜〔0118〕に挙げられている化合物を好ましく用いることができる。
また、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物としては、以下に示す化合物が好ましい。
【0111】
(c)有機過酸化物
本発明に用いうるラジカル重合開始剤として好ましい(c)有機過酸化物としては、3,3’4,4’−テトラ−(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(tert−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(tert−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(tert−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−tert−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0112】
(l)アゾ系化合物
本発明に用いうるラジカル重合開始剤として好ましい(l)アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロピオニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0113】
本発明における(D)重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
(D)重合開始剤は、レリーフ形成層の全固形分に対し、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜3質量%の割合で添加することができる。
【0114】
<(E)光熱変換剤>
本発明に係るレーザー彫刻用樹脂組成物には、さらに(E)光熱変換剤を含有することが好ましい。光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。ゆえに、彫刻に用いるレーザー波長の光を吸収する光熱変換剤を選択することが好ましい。
【0115】
本発明に係るレーザー彫刻用レリーフ形成層を、波長700nm〜1300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合に、光熱変換剤としては、700nm〜1300nmに極大吸収波長を有する化合物を用いることが好ましい。
本発明における光熱変換剤としては、種々の染料又は顔料が用いられる。
【0116】
光熱変換剤のうち、染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、700nm〜1300nmに極大吸収波長を有するものが挙げられ、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、ジインモニウム化合物、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。特に、ヘプタメチンシアニン色素等のシアニン系色素、ペンタメチンオキソノール色素等のオキソノール系色素、フタロシアニン系色素が好ましく用いられ、例えば、特開2008−63554号公報の段落〔0124〕〜〔0137〕に記載の染料を挙げることができる。
【0117】
本発明において使用される光熱変換剤のうち、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0118】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0119】
カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途(例えば、カラー用、ゴム用、乾電池用など)の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。
【0120】
本発明においては、比較的低い比表面積及び比較的低いDBP吸収を有するカーボンブラックや比表面積の大きい微細化されたカーボンブラックまでを使用することも可能である。好適なカーボンブラックの例は、Printex(登録商標)U、Printex(登録商標)A、又はSpezialschwarz(登録商標)4(Degussaより)を含む。
【0121】
本発明に適用しうるカーボンブラックとしては、光熱変換により発生した熱を周囲のポリマー等に効率よく伝えることで彫刻感度が向上するという観点で、比表面積が少なくとも150m/g及びDBP数が少なくとも150ml/100gである、伝導性カーボンブラックが好ましい。
【0122】
この比表面積は好ましくは、少なくとも250、特に好ましくは少なくとも500m/gである。DBP数は好ましくは少なくとも200、特に好ましくは少なくとも250ml/100gである。上述したカーボンブラックは酸性の又は塩基性のカーボンブラックであってよい。カーボンブラックは、好ましくは塩基性のカーボンブラックである。異なるバインダーの混合物も当然に、使用され得る。
【0123】
約1500m/gにまで及ぶ比表面積及び約550ml/100gにまで及ぶDBP数を有する適当な伝導性カーボンブラックが、例えば、Ketjenblack(登録商標)EC300J、Ketjenblack(登録商標)EC600J(Akzoより)、Printex(登録商標)XE(Degussaより)、Black Pearls(登録商標)2000(Cabotより)、またはケッチェンブラック(ライオン(株)製)の名称で、商業的に入手可能である。
【0124】
レリーフ形成層全固形分における(E)光熱変換剤の含有量は、その分子固有の分子吸光係数の大きさにより大きく異なるが、0.01質量%〜20質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.05質量%〜10質量%、特に好ましくは0.1質量%〜5質量%の範囲である。
【0125】
<その他添加剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤は、レーザー彫刻用樹脂組成物により形成された膜を柔軟化する作用を有するものであり、バインダーポリマーに対して相溶性のよいものである必要がある。
可塑剤としては、例えばジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート等や、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)好ましく用いられる。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、彫刻感度向上のための添加剤として、ニトロセルロースや高熱伝導性物質、を加えることがより好ましい。ニトロセルロースは自己反応性化合物であるため、レーザー彫刻時、自身が発熱し、共存する親水性ポリマー等のバインダーポリマーの熱分解をアシストする。その結果、彫刻感度が向上すると推定される。高熱伝導性物質は、熱伝達を補助する目的で添加され、熱伝導性物質としては、金属粒子等の無機化合物、導電性ポリマー等の有機化合物が挙げられる。金属粒子としては、粒径がマイクロメートルオーダーから数ナノメートルオーダーの、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子が好ましい導電性ポリマーとしては、特に共役ポリマーが好ましく、具体的には、ポリアニリン、ポリチオフェンが挙げられる。
また、共増感剤を用いることで、レーザー彫刻用樹脂組成物を光硬化させる際の感度を更に向上させることができる。
更に、組成物の製造中或いは保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが望ましい。
レーザー彫刻用樹脂組成物の着色を目的として染料若しくは顔料等の着色剤を添加してもよい。これにより、画像部の視認性や、画像濃度測定機適性といった性質を向上させることができる。
更に、レーザー彫刻用樹脂組成物の硬化皮膜の物性を改良するために充填剤等の公知の添加剤を加えてもよい。
【0126】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、レーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高いことから、高速でレーザー彫刻を行うことができるので、彫刻時間についても短縮することができる。このような特徴を有する本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、レーザー彫刻が施される樹脂造形物の形成用途に、特に限定なく広範囲に適用することができる。例えば、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物の適用態様として、具体的には、レーザー彫刻により画像形成を行う画像形成材料の画像形成層、凸状のレリーフ形成をレーザー彫刻により行う印刷版原版のレリーフ形成層、凹版、孔版、スタンプ、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、レーザー彫刻により画像形成を行う画像形成材料の画像形成層、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層に、特に好適に用いることができる。
【0127】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記(A)成分と(B)成分と、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を架橋させてなるレリーフ形成層を備える。また該レーザー彫刻用樹脂組成物は、さらに所望により前記(C)重合性化合物、(D)重合開始剤および(E)光熱変換剤を含有するのが好ましい。なおレリーフ形成層は、支持体上に設けられることが好ましい。
本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、支持体上にレーザー彫刻用樹脂組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、光又は熱により硬化された状態のものをいう。該印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
【0128】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要により更に、支持体とレリーフ形成層との間に接着層を、また、レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
【0129】
<レリーフ形成層>
レリーフ形成層は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を架橋させてなる層である。本発明の如き、レーザー彫刻用樹脂組成物として架橋性樹脂組成物を用いると、架橋性のレリーフ形成層が得られる。本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版としては、(A)多官能イソシアナートと(B)特定バインダーポリマーとによる架橋構造に加えて、さらに(C)重合性化合物及び(D)重合開始剤を含有することでさらなる架橋性の機能を付与したレリーフ形成層を有するものが好ましい。
【0130】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させて硬化されたレリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、該硬化されたレリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成してレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0131】
なお、レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記の如き成分を有するレーザー彫刻用樹脂組成物をシート状或いはスリーブ状に成形することで形成することができる。
【0132】
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版に使用しうる支持体について説明する。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版に支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET、PBT、PAN)やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。また、架橋性のレーザー彫刻用樹脂組成物を塗布し、裏面(レーザー彫刻を行う面と反対面であり、円筒状のものも含む)から光又は熱などで硬化させて作成されたレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版においては、硬化したレーザー彫刻用樹脂組成物の裏面側が支持体として機能する為、必ずしも支持体は必須ではない。
【0133】
<接着層>
レリーフ形成層と支持体の間には、両層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。接着層に使用しうる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0134】
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面への傷・凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは25μm〜500μmが好ましく、50μm〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)のようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。レリーフ形成層上に保護フィルムを設ける場合、保護フィルムは剥離可能でなければならない。
【0135】
保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0136】
−レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製方法−
次に、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製方法について説明する。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではないが、例えば、レリーフ形成層用塗布液組成物(レーザー彫刻用樹脂組成物を含有)を調製し、このレリーフ形成層用塗布液組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法が挙げられる。或いはレリーフ形成層用塗布液組成物を、支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して塗布液組成物から溶媒を除去する方法でもよい。
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶媒を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることよって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0137】
レリーフ形成層用塗布液組成物は、例えば、(B)特定バインダーポリマー、及び、任意成分として、光熱変換剤、可塑剤を適当な溶媒に溶解させ、次いで、重合性化合物及び重合開始剤を溶解させ、最後に(A)多官能イソシアナートを添加させることによって製造できる。溶媒成分のほとんどは、レリーフ印刷版原版を製造する段階で除去する必要があるので、溶媒としては揮発しやすい低分子ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン)や低分子エステル(酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート)等を用い、かつ温度を調整するなどして溶媒の全添加量をできるだけ少なく抑えることが好ましい。
【0138】
ここで、本発明において、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版といった場合、前述のように、レリーフ形成層が架橋された状態までを指す。レリーフ形成層を架橋する方法には、レリーフ形成層を活性光線の照射及び/又は加熱により架橋する工程(後述の本発明のレリーフ印刷版の製造方法における工程(1))を行うことが好ましい。
【0139】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の厚さは、架橋の前後において、0.05mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上7mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下である。
【0140】
[レリーフ印刷版及びその製造]
本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製造方法は、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程、を含むことを特徴とする。
また、レリーフ形成層を活性光線の照射及び加熱の少なくとも一方により架橋する工程(以下、適宜「工程(1)」と称する。)、及び架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程(以下、適宜「工程(2)」と称する。)、を含むことが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製造方法により、支持体上にレリーフ層を有する本発明のレリーフ印刷版を製造することができる。
【0141】
<工程(1)>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前述のように、架橋により硬化された状態のレリーフ形成層を有する。このようなレリーフ形成層を得るためには、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を活性光線の照射及び/又は加熱により架橋する工程を用いることが好ましい。
【0142】
活性光線の照射は、レリーフ形成層全面に行うのが一般的である。活性光線としては可視光、紫外光或いは電子線が挙げられるが、紫外光が最も一般的である。レリーフ形成層の支持体側を裏面とすれば、表面に活性光線を照射するだけでもよいが、支持体が活性光線を透過する透明なフィルムならば、更に裏面からも活性光線を照射することが好ましい。表面からの照射は、保護フィルムが存在する場合、これを設けたまま行ってもよいし、保護フィルムを剥離した後に行ってもよい。酸素の存在下では重合阻害が生じる恐れがあるので、レリーフ形成層に塩化ビニルシートを被せて真空引きした上で、活性光線の照射を行ってもよい。
【0143】
レリーフ形成層が熱重合開始剤を含有する場合には(上記の光重合開始剤が熱重合開始剤にもなりえる)、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱することで、レリーフ形成層を架橋することができる(熱により架橋する工程)。加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【0144】
工程(1)におけるレリーフ形成層の架橋方法としは、レリーフ形成層を表面から内部まで均一に硬化(架橋)可能という観点で、熱による架橋の方が好ましい。
レリーフ形成層を架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。
【0145】
<工程(2)>
本発明のレリーフ印刷版の製造方法では、前記した工程(1)の後、(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程を行う。本発明のレリーフ印刷版の製造方法により、支持体上にレリーフ層を有する本発明のレリーフ印刷版を製造することができる。
【0146】
工程(2)は、前記工程(1)で架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋されたレリーフ形成層に対して形成したい画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成する。好ましくは、形成したい画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、レリーフ形成層に対して走査照射する工程が挙げられる。
【0147】
この工程(2)には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、レリーフ形成層中の分子は分子切断或いはイオン化されて選択的な除去、すなわち彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く或いはショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
【0148】
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度でレリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。このような工程(2)に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザーが好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率且つ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。半導体レーザーとしては、吸収極大波長が700nm〜1300nmのものであれば利用可能であるが、800nm〜1200nmのものが好ましく、860nm〜1200nmのものがより好ましく、900nm〜1100nmであるものが特に好ましい。
【0149】
本発明のレリーフ印刷版の製造方法では、工程(2)に次いで、更に、必要に応じて下記工程(3)〜工程(5)を含んでもよい。
工程(3):彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程(リンス工程)。
工程(4):彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程(乾燥工程)。
工程(5):彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程(後架橋工程)。
【0150】
彫刻表面に彫刻カスが付着している場合は、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流す上記工程(3)を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式或いは搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスする工程(3)を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる工程(4)を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる工程(5)を追加してもよい。追加の架橋工程(5)を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0151】
以上のようにして、支持体上にレリーフ層を有する、本発明のレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々のフレキソ印刷適性を満たす観点からは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上7mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下である。
【0152】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。
レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0153】
本発明の製造方法で製造されたレリーフ印刷版は、凸版用印刷機による油性インキやUVインキでの印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。
【実施例】
【0154】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例におけるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に断らない限りにおいて、GPC法で測定した値を表示している。
【0155】
(多官能イソシアナート化合物I−4の合成)
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中にトリメチロールプロパン(東京化成製)50g、1,6−ヘキサンジイソシアナート(東京化成製)188g、2−ブタノン(和光純薬製)300gを入れ、撹拌しながら加熱還流させた。5時間後、2−ブタノンを減圧下で留去することで、多官能イソシアナート化合物I−4(前記した例示化合物I−4)238gを得た。I−4の構造はH−NMRによって同定した。
【0156】
(多官能イソシアナート化合物I−5〜I−15の合成)
多官能イソシアナート化合物I−4のトリメチロールプロパンを対応するアルコール化合物、チオール化合物、またはアミン化合物に変更(使用量は、mol換算でI−4の合成で用いたトリメチロールプロパンと同量)し、1,6−ヘキサンジイソシアナートを対応するジイソシアナート化合物に変更(使用量は、mol換算でI−4の合成で用いた1,6−ヘキサンジイソシアナートと同じ)した以外は、多官能イソシアナート化合物I−4の合成と同様にして合成した。得られた多官能イソシアナート化合物I−5〜I−15(前記した例示化合物I−5〜I−15)の構造はH−NMRによって同定した。
【0157】
[実施例1]
1.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、(B)特定高分子化合物として「デンカブチラール#3000−2」(電気化学工業製、ポリビニルブチラール Mw=9万)50g、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート47gを入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱しポリマーを溶解させた。その後、溶液を40℃にし、さらに(C)重合性化合物(多官能体)としてモノマー(M−1)(下記構造)を15g、重合性化合物(単官能体)としてメタクリル酸ドデシル(日油製、ブレンマーLMA)8g、(D)重合開始剤としてtert-ブチルベンゾイルパーオキシド(日油製、パーブチルZ)を1.6g、(E)光熱変換剤としてケッチェンブラックEC600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製)を1g、を添加して30分間撹拌した。その後、(A)多官能イソシアナートとしてヘキサメチレンジイソシアナート(和光純薬製)(前記した例示化合物I−1)15gを添加し、40℃で10分間攪拌した。この操作により、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液1(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)を得た。
【0158】
【化7】

【0159】
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、上記より得られた架橋性レリーフ形成層用塗布液1をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、70℃のオーブン中で3時間乾燥させて、厚さが凡そ1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1を作製した。
【0160】
3.レリーフ印刷版の作製
得られた原版のレリーフ形成層を80℃で3時間、さらに100℃で3時間加熱してレリーフ形成層を熱架橋した。
架橋後のレリーフ形成層に対し、以下の2種のレーザーにより彫刻した。
炭酸ガスレーザー彫刻機として、レーザー照射による彫刻を、高品位COレーザーマーカML−9100シリーズ(KEYENCE(株)製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版1に、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長 915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
【0161】
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは凡そ1mmであった。
また、レリーフ層のショアA硬度を、前述の測定方法により測定したところ、75°であった。なお、ショア硬度Aの測定は、後述する各実施例及び比較例においても同様に行った。
【0162】
[実施例2〜28、比較例1〜3]
1.レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物の調製
実施例1で用いた(A)多官能イソシアナート、および(B)特定高分子化合物を、下記表1に記載の(A)多官能イソシアナート、(B)特定高分子化合物または比較バインダーポリマー、に代えた以外は、実施例1と同様にして、架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)を調製した。
【0163】
【表1】

【0164】
各実施例及び比較例で使用した上記表1に記載の(A)多官能イソシアナート(I−1〜I−15)は前記した例示化合物であり、(B)特定高分子化合物および比較バインダーポリマーの詳細は以下の通りである。
【0165】
#3000−2:電気化学工業製、ビニルブチラール/ビニルアルコール/酢酸ビニルの共重合体(80/19/1(wt%)、Mw=90000、Tg=68℃)
含OHアクリル樹脂:シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの共重合体(70/30(mol%)、Mw=50000、Tg=80℃)
ノボラック樹脂:オクチルフェノール/ホルムアルデヒド(50/50)から得られるノボラック樹脂(Mw=20000、Tg=80℃)
ポリウレタン:トリレンジイソシアネート/ポリプロピレングリコール(Mw=2000) 50/50から得られるポリウレタン(Mw=90000、Tg=<0℃)
TR2000:JSR製、スチレン−ブタジエン共重合体(Tg=100℃)
ポリメントNK−350:日本触媒製、ポリエチレンイミンを側鎖にグラフトした1級アミノ基含有アルキル系ポリマー(Mw=100000、Tg=40℃)
Poly bd:出光製、水酸基末端ポリブタジエン(数平均分子量2800、Tg=<0℃)
【0166】
(B)特定高分子化合物のTg測定方法
走査型示差熱量計(DSC、TA Instruments製Q2000)の測定パンにサンプルを10mg入れる。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後(1st−run)、0℃まで−10℃/分で冷却する。この後、再度0℃から250℃まで昇温する(2nd−run)。2nd−runでベースラインが低温側から偏奇し始める温度をガラス転移温度(Tg)とする。
【0167】
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
実施例1における架橋性レリーフ形成層用塗布液1を、架橋性レリーフ形成層用塗布液2〜28、比較架橋性レリーフ形成層用塗布液1〜3に各々変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版2〜28及び比較例のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1〜3を得た。
【0168】
3.レリーフ印刷版の作製
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版2〜28、比較例のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1〜3のレリーフ形成層を、実施例1と同様にして、熱架橋した後、彫刻してレリーフ層を形成することにより、実施例のレリーフ印刷版2〜28、比較例のレリーフ印刷版1〜3を得た。
これらのレリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは凡そ1mmであった。
【0169】
4.レリーフ印刷版の評価
以下の項目でレリーフ印刷版の性能評価を行い、結果を表2に記載する。
(4−1)彫刻深さ
実施例のレリーフ印刷版原版1〜28、比較例のレリーフ印刷版1〜3が有するレリーフ形成層をレーザー彫刻して得られたレリーフ層の「彫刻深さ」を、以下のように測定した。ここで、「彫刻深さ」とは、レリーフ層の断面を観察した場合の、彫刻された位置(高さ)と彫刻されていない位置(高さ)との差をいう。本実施例における「彫刻深さ」は、レリーフ層の断面を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK9510((株)キーエンス製)にて観察することにより測定した。彫刻深さが大きいことは、彫刻感度が高いことを意味する。結果は、彫刻に用いたレーザーの種類毎に表2に示す。
【0170】
(4−2)塑性変形率
微小硬度計(テクロック社製、GS-706)にて測定。押し込み荷重300mN、10秒後緩和し押し込み前後の塑性変形率を測定した。
【0171】
(4−3)耐刷性
得られたレリーフ印刷版を印刷機(ITM−4型、伊予機械製作所製)にセットし、インクとして、水性インキ アクアSPZ16紅(東洋インキ)を希釈せずに用いて、印刷紙として、フルカラーフォームM 70(日本製紙製、厚さ100μm)を用いて印刷を継続し、ハイライト1〜10%を印刷物で確認した。印刷されない網点が生じたところを刷了とし、刷了時までに印刷した紙の長さ(メートル)を指標とした。数値が大きいほど耐刷性に優れると評価する。
【0172】
【表2】

【0173】
表2に示されるように、(A)多官能イソシアナートと(B)特定高分子化合物を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を用いて作製された実施例のレリーフ印刷版は、比較例のレリーフ印刷版よりも、レリーフ層の弾性、インク転移性及び耐刷性が良好であり、長期間にわたり優れた印刷性能を発揮することができる。さらに、彫刻深さが大きいことから、彫刻感度が良好であり、製版時の生産性が高いことが判る。
なお、実施例1〜6と実施例7〜15との対比により、(A)多官能イソシアナートとして分子内にS原子を含有するものは、彫刻深さがさらに深くなり、感度が向上していることがわかる。
また、同じレリーフ印刷版原版を用いた場合、ファイバー付き半導体レーザーを備え、光源としてFC−LDを用いた製版装置を用いることで、彫刻深さをさらに改良しうることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を架橋させてなるレリーフ形成層を備えるレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
(Rは水素原子、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基を表す。)
【請求項2】
前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物のガラス転移温度(Tg)が、20℃より高く、かつ200℃以下である請求項1に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項3】
前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、アクリル樹脂およびポリビニルアセタールからなる群より選択される1種以上である請求項1または請求項2に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項4】
前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、ポリビニルブチラールである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項5】
前記(A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物が、2個のイソシアナート基同士を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項6】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、さらに(C)重合性化合物を含有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項7】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、さらに(D)重合開始剤を含有する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項8】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、さらに(E)700nm〜1300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を含有する請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項9】
(A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物と、(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物と、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物。
(Rは水素原子、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、または複素環基を表す。)
【請求項10】
前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物のガラス転移温度(Tg)が、20℃より高く、かつ200℃以下である請求項9に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項11】
前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、アクリル樹脂およびポリビニルアセタールからなる群より選択される1種以上である請求項9または請求項10に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項12】
前記(B)ヒドロキシ基および−NHRからなる群より選択される置換基を1種以上有する高分子化合物が、ポリビニルブチラールである請求項11に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項13】
前記(A)分子内に2個以上のイソシアナート基を有する化合物が、2個のイソシアナート基同士を連結する部位に炭素―硫黄結合を有する請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程、を含むレリーフ印刷版の製造方法。
【請求項15】
前記(1)工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である請求項14に記載のレリーフ印刷版の製造方法。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載のレリーフ印刷版の製造方法により製造された、レリーフ層を有するレリーフ印刷版。
【請求項17】
前記レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である請求項16に記載のレリーフ印刷版。
【請求項18】
前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である請求項16または請求項17に記載のレリーフ印刷版。

【公開番号】特開2010−247527(P2010−247527A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50696(P2010−50696)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】