説明

レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法

【課題】膜の破断強度及び水性インキ転移性に優れるレリーフ印刷版を得ることができ、印刷版のレーザー彫刻時に発生する彫刻カスのリンス性及びレーザー彫刻における彫刻感度に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供すること。
【解決手段】(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、(成分B)バインダーポリマーとして、ポリウレタンと、を含有することを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版及びその製造方法、並びに、レリーフ印刷版及びその製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマー等をバインダーとして使用した疎水性のレーザー彫刻型印刷版が用いられている(特許文献1等参照)。彫刻後のカスのリンス性を向上させる技術としては、レリーフ形成層に多孔質無機微粒子を含有させ、該粒子に液状カスを吸着させ、除去性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5798202号明細書
【特許文献2】特開2004−174758号公報
【特許文献3】国際公開第2009/084682号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2、3に記載の従来技術のようにレリーフ形成層に多孔質無機微粒子を含有させるのみでは、彫刻後のカスのリンス性が十分ではなかった。また、かかるレリーフ形成層を彫刻して形成されるレリーフ層は、膜の破断強度やインキ転移性が十分ではなかった。
【0005】
本発明の目的は、膜の破断強度及び水性インキ転移性に優れるレリーフ印刷版を得ることができ、印刷版のレーザー彫刻時に発生する彫刻カスのリンス性及びレーザー彫刻における彫刻感度に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は以下の<1>、<11>〜<14>、<16>及び<19>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>〜<10>、<15>、<17>、<18>、<20>及び<21>と共に以下に記載する。
<1>(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、(成分B)バインダーポリマーとして、ポリウレタンと、を含有することを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物、
<2>前記成分Aが、加水分解性シリル基及びシラノール基を2つ以上有する化合物である上記<1>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<3>前記成分Aの加水分解性シリル基が、アルコキシ基又はハロゲン原子が少なくとも1つSi原子に直接結合した残基である上記<1>又は<2>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<4>前記成分Aが下記式(1)で表される上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
【0007】
【化1】

(式(1)中、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシル基を表す。残りのR1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、1価の有機置換基を表す。)
【0008】
<5>前記成分Bが20℃において液状である上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<6>前記成分Bが、エチレン性不飽和基をポリマーの主鎖末端及び/又は側鎖に有する上記<1>〜<5>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<7>(成分C)前記成分Aの分解反応及び/又は縮合反応を促進する触媒を更に含有する上記<1>〜<6>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<8>(成分D)重合性化合物を更に含有する上記<1>〜<7>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<9>(成分E)重合開始剤を更に含有する上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<10>(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を更に含有する上記<1>〜<9>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<11>上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有することを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<12>上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなり、前記成分Aを反応させて得られる架橋構造を有するレリーフ形成層を備えることを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<13>上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋した架橋レリーフ形成層を有することを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<14>上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むことを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<15>前記架橋工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である上記<14>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<16>上記<1>〜<10>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、並びに、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とするレリーフ印刷版の製版方法、
<17>前記架橋工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である上記<16>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<18>彫刻後の前記レリーフ層表面を水系リンス液によりリンスするリンス工程を更に含む、上記<16>又は<17>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<19>上記<16>〜<18>のいずれか1つに記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有することを特徴とするレリーフ印刷版、
<20>前記レリーフ層の厚さが、0.05mm以上10mm以下である上記<19>に記載のレリーフ印刷版、
<21>前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である上記<19>又は<20>に記載のレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、膜の破断強度及び水性インキ転移性に優れるレリーフ印刷版を得ることができ、印刷版のレーザー彫刻時に発生する彫刻カスのリンス性及びレーザー彫刻における彫刻感度に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、前記レーザー彫刻用樹脂組成物を用いたレリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、それにより得られたレリーフ印刷版を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
(レーザー彫刻用樹脂組成物)
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、(成分B)バインダーポリマーとして、ポリウレタンと、を含有することを特徴とする。なお、本明細書中、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」と同義である。
【0012】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、レーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高く、彫刻カスのリンス性に優れることから、レリーフ層を形成し製版する時間を短縮することができる。このような特徴を有する本発明の樹脂組成物は、レーザー彫刻が施されるレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層用途以外にも、特に限定なく、他の用途にも広範囲に適用することができる。例えば、以下に詳述する凸状のレリーフ形成をレーザー彫刻により行う印刷版原版のレリーフ形成層のみならず、表面に凹凸や開口部を形成する他の材形、例えば、凹版、孔版、スタンプ等、レーザー彫刻により画像形成される各種印刷版や各種成形体の形成に適用することができる。
中でも、適切な支持体上に設けられるレリーフ形成層の形成に適用することが好ましい態様である。
【0013】
なお、本明細書では、レリーフ印刷版原版の説明に関し、バインダーポリマー(成分B)を含有し、レーザー彫刻に供する画像形成層としての、表面が平坦な層であり、かつ未架橋の架橋性層をレリーフ形成層と称し、前記レリーフ形成層を架橋した層を架橋レリーフ層と称し、これをレーザー彫刻して表面に凹凸を形成した層をレリーフ層と称する。
以下、レーザー彫刻用樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0014】
<(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物に用いられる(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物(以下、適宜、「成分A」と称する。)における「加水分解性シリル基」とは、加水分解性を有するシリル基のことであり、加水分解性基としては、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、イソプロペノキシ基等を挙げることができる。シリル基は加水分解してシラノール基となり、シラノール基は脱水縮合してシロキサン結合が生成する。このような加水分解性シリル基又はシラノール基は下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0015】
【化2】

【0016】
前記式(1)中、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシル基を表す。残りのR1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、1価の有機置換基(例えば、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基を挙げることができる。)を表す。
前記式(1)中、ケイ素原子に結合する加水分解性基としては、特にアルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。
アルコキシ基としては、リンス性と耐刷性の観点から、炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましい。より好ましくは炭素数1〜15のアルコキシ基、更に好ましくは炭素数1〜5、特に好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基、最も好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。
また、ハロゲン原子として、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が挙げられ、合成のしやすさ及び安定性の観点で、好ましくはCl原子及びBr原子が挙げられ、より好ましくはCl原子が挙げられる。
【0017】
本発明における成分Aは、前記式(1)で表される基を1つ以上有する化合物であることが好ましく、2つ以上有する化合物であることがより好ましい。特に加水分解性シリル基を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。すなわち、分子内に加水分解性基が結合したケイ素原子を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。成分A中に含まれる加水分解性基が結合したケイ素原子の数は、2以上6以下が好ましく、2又は3が最も好ましい。
前記加水分解性基は1個のケイ素原子に1〜4個の範囲で結合することができ、式(1)中における加水分解性基の総個数は2又は3の範囲であることが好ましい。特に3つの加水分解性基がケイ素原子に結合していることが好ましい。加水分解性基がケイ素原子に2個以上結合するときは、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0018】
前記加水分解性基として好ましく挙げられるアルコキシ基として、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基などを挙げることができる。これらの各アルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよいし、異なるアルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよい。
アルコキシ基の結合したアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基などのジアルコキシモノアルキルシリル基;メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基などのモノアルコキシジアルキルシリル基を挙げることができる。
【0019】
成分Aは、硫黄原子、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、ウレア結合、又は、イミノ基を少なくとも有することが好ましい。
中でも、成分Aは、架橋性の観点から、硫黄原子を含有することが好ましく、また、彫刻カスの除去性(リンス性)の観点から、アルカリ水で分解しやすいエステル結合、ウレタン結合、又は、エーテル結合(特にオキシアルキレン基に含まれるエーテル結合)を含有することが好ましい。
また、本発明における成分Aは、彫刻カスのアルカリリンス性、彫刻感度、及び、破断強度の観点から、(メタ)アクリロイル基を有していない化合物であることが好ましく、エチレン性不飽和基を有していない化合物であることがより好ましく、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基以外の硬化性官能基を有していない化合物であることが更に好ましい。すなわち、本発明において、成分Aでは加水分解性シリル基及び/又はシラノール基のみを硬化性官能基(架橋性基)として機能させることが、彫刻カスのアルカリリンス性、彫刻感度、及び、破断強度の観点から更に好ましい。
【0020】
本発明における成分Aは、複数の前記式(1)で表される基が二価の連結基を介して結合している化合物が挙げられ、このような二価の連結基としては、効果の観点からスルフィド基(−S−)、イミノ基(−N(R)−)、又は、ウレタン結合(−OCON(R)−又は−N(R)COO−)を有する連結基が好ましい。なお、Rは水素原子又は置換基を表す。Rにおける置換基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、又は、アラルキル基が例示できる。
成分Aの合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法により合成することができる。一例として、上記特定構造を有する連結基を含む成分Aの代表的な合成方法を以下に示す。
【0021】
<連結基としてスルフィド基を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてスルフィド基を有する成分A(以下、適宜、「スルフィド連結基含有成分A」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Aと硫化アルカリの反応、メルカプト基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素の反応、メルカプト基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素基を有する成分Aの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Aとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Aとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Aとメルカプト基を有する成分Aの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とメルカプト基を有する成分Aの反応、ケトン類とメルカプト基を有する成分Aの反応、ジアゾニウム塩とメルカプト基を有する成分Aの反応、メルカプト基を有する成分Aとオキシラン類との反応、メルカプト基を有する成分Aとオキシラン基を有する成分Aの反応、及び、メルカプタン類とオキシラン基を有する成分Aの反応、メルカプト基を有する成分Aとアジリジン類との反応等の合成方法が例示できる。
【0022】
<連結基としてイミノ基を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてイミノ基を有する成分A(以下、適宜、「イミノ連結基含有成分A」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素の反応、アミノ基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素基を有する成分Aの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Aとアミン類の反応、アミノ基を有する成分Aとオキシラン類との反応、アミノ基を有する成分Aとオキシラン基を有する成分Aの反応、アミン類とオキシラン基を有する成分Aの反応、アミノ基を有する成分Aとアジリジン類との反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Aとアミン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Aとアミノ基を有する成分Aの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Aの反応、アセチレン性不飽和三重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Aの反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Aと有機アルカリ金属化合物の反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Aと有機アルカリ土類金属化合物の反応、及び、カルボニル化合物とアミノ基を有する成分Aの反応等の合成方法が例示できる。
【0023】
<連結基としてウレタン結合(ウレイレン基)を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてウレイレン基を有する成分A(以下、適宜、「ウレイレン連結基含有成分A」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Aとイソシアン酸エステル類の反応、アミノ基を有する成分Aとイソシアン酸エステルを有する成分Aの反応、及び、アミン類とイソシアン酸エステルを有する成分Aの反応等の合成方法が例示できる。
【0024】
成分Aとしては、下記式(A−1)又は式(A−2)で表される化合物であることが好ましい。
【0025】
【化3】

(式(A−1)及び式(A−2)中、RBはエステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、又は、イミノ基を表し、L1はn価の連結基を表し、L2は二価の連結基を表し、Ls1はm価の連結基を表し、L3は二価の連結基を表し、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、一価の有機置換基を表す。ただし、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシル基を表す。)
【0026】
前記式(A−1)及び式(A−2)におけるR1〜R3は、前記式(1)におけるR1〜R3と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記RBは、リンス性及び膜強度の観点から、エステル結合又はウレタン結合であることが好ましく、エステル結合であることがより好ましい。
前記L1〜L3における二価又はn価の連結基は、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子から構成された基であることが好ましく、炭素原子、水素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子から構成された基であることがより好ましい。前記L1〜L3の炭素数は、2〜60であることが好ましく、2〜30であることがより好ましい。
前記Ls1におけるm価の連結基は、硫黄原子と、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子とから構成された基であることが好ましく、アルキレン基、又は、アルキレン基、スルフィド基及びイミノ基を2以上組み合わせた基であることがより好ましい。前記Ls1の炭素数は、2〜60であることが好ましく、6〜30であることがより好ましい。
前記n及びmはそれぞれ独立に、1〜10の整数であることが好ましく、2〜10の整数であることがより好ましく、2〜6の整数であることが更に好ましく、2であることが特に好ましい。
1のn価の連結基及び/若しくはL2の二価の連結基、又は、L3の二価の連結基は、彫刻カスの除去性(リンス性)の観点から、エーテル結合を有することが好ましく、オキシアルキレン基に含まれるエーテル結合を有することがより好ましい。
式(A−1)又は式(A−2)で表される化合物の中でも、架橋性等の観点から、式(A−1)において、L1のn価の連結基及び/又はL2の二価の連結基が硫黄原子を有する基であることが好ましい。
【0027】
本発明に適用しうる成分Aの具体例を以下に示す。例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)ジエトキシメチルシラン、3−(2−アセトキシエチルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)デカン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ウレア、トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、トリメチルシラノール、ジフェニルシランジオール、トリフェニルシラノール、γ−トリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、ヘキシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。その他にも、以下に示す化合物が好ましいものとして挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。
【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
前記各式中、Rは以下の構造から選択される部分構造を表す。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
前記各式中、Rは以下に示す部分構造を表す。R1は前記したものと同義である。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0035】
【化9】

【0036】
成分Aは、適宜合成して得ることも可能であるが、市販品を用いることがコストの面から好ましい。成分Aとしては、例えば、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)、モメンティブパフォーマンスマテリアルズ(株)、チッソ(株)等から市販されているシラン製品、シランカップリング剤などの市販品がこれに相当するため、本発明の樹脂組成物に、これら市販品を、目的に応じて適宜選択して使用してもよい。
【0037】
本発明における成分Aとして、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物を1種用いて得られた部分加水分解縮合物、又は、2種以上用いて得られた部分共加水分解縮合物を用いることができる。以下、これらの化合物を「部分(共)加水分解縮合物」と称することがある。
部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、膜の相溶性の観点から、ケイ素上の置換基としてメチル基及びフェニル基から選択される置換基を有するシラン化合物であることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが好ましい前駆体として例示される。
この場合、部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)〜100量体、好ましくは2〜50量体、更に好ましくは2〜30量体としたものが好適に使用できるし、2種以上のシラン化合物を原料とする部分共加水分解縮合物を使用することも可能である。
【0038】
なお、このような部分(共)加水分解縮合物は、シリコーンアルコキシオリゴマーとして市販されているものを使用してもよく(例えば、信越化学工業(株)などから市販されている。)、また、常法に基づき、加水分解性シラン化合物に対し当量未満の加水分解水を反応させた後に、アルコール、塩酸等の副生物を除去することによって製造したものを使用してもよい。製造に際しては、前駆体となる原料の加水分解性シラン化合物として、例えば、上記したようなアルコキシシラン類やアシロキシシラン類を使用する場合は、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン等のアルカリ性有機物質等を反応触媒として部分加水分解縮合すればよく、クロロシラン類から直接製造する場合には、副生する塩酸を触媒として水及びアルコールを反応させればよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物における成分Aは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物中に含まれる成分Aの含有量は、固形分換算で、0.1〜80質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%の範囲であり、最も好ましくは5〜30質量%の範囲である。
【0040】
<(成分B)バインダーポリマー>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分B)バインダーポリマー(以下、適宜「成分B」と称する。)として、ポリウレタンを含有する。
成分Aと成分Bとを組み合わせることにより、膜の破断強度と水性インキ適性(耐性)とが向上する。膜の破断強度の向上は、成分Aのアルコキシシリル基と成分Bに含まれるウレタン結合との多点水素結合による擬似架橋構造形成に由来すると推定される。また、水性インキ適性の向上は、成分Bのウレタン結合自体が比較的高極性(親水性)であるため、水性インキとの親和性が高くなることに由来していると推定される。
ポリウレタンは、ポリオールとポリイソシナアネートとの重付加反応により得られるポリマーである。ここで、ポリオールとは、2以上のヒドロキシル基を含有する化合物であり、ポリイソシアネートとは、2以上のイソシアナト基(−NCO)を含有する化合物である。
ポリオールとしては、低分子のポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンジオール、水添ポリブタジエンジオール、ポリカーボネートポリオールが例示でき、分子量及び化学構造を種々変えることができる。
ポリイソシナアネートとしては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族系の化合物を使用することができる。
【0041】
成分Bのバインダーポリマーとして使用するポリウレタンとしては、上記のポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られたポリエステルポリウレタン、上記の水添ポリブタジエンポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られたポリ水添ポリブタジエンポリウレタン、上記のポリカーボネートポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られたポリカーボネートポリウレタン、を好ましく使用することができ、ポリカーボネートポリウレタンをより好ましく使用できる。
【0042】
成分Bは、彫刻カスのリンス性の点で、側鎖にカルボキシル基などの極性基を有することが好ましく、側鎖にカルボキシル基を有することがより好ましい。カルボキシル基のような水素結合性の極性基を分子内に導入することで、ポリウレタン間の相互作用や本願の好ましい態様として使用する無機粒子(例えば、シリカ粒子の表面のシラノール基)との相互作用が増し、結果的にフレキソ印刷版として使用する際の膜の破断強度も向上する。
【0043】
また、不飽和基を含有するポリウレタンを本発明において好ましく使用することができ、エチレン性不飽和基をポリマーの分子末端又は側鎖に有するポリウレタンをより好ましく使用することができる。詳細は後述する。
【0044】
成分Bとして使用するポリウレタンの数平均分子量は、1,000以上30万以下であることが好ましく、5,000以上20万以下であることがより好ましく、10,000以上10万以下であることが更に好ましい。ポリウレタンの数平均分子量が上記の範囲内にあれば、架橋されたレリーフ形成層が強度を保ち、レリーフ印刷板として用いる場合には、繰り返しの使用にも耐えられる耐久性を得ることができる。これと同時に、レーザー彫刻用樹脂組成物の粘度が過度に上昇することもなく、シート状又は円筒状の樹脂硬化物を作製する際に加熱押し出しなどの複雑な加工方法は必要とすることもない。
なお、本発明において、「数平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定して得られ、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0045】
成分Bとして使用するポリウレタンは、ガラス転移温度が20℃以下であることが好ましく、20℃において、液状であることが好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物中に含まれるポリウレタンの含有量は、該樹脂組成物の固形分全質量の10〜90重量%の範囲であることが好ましく、30〜80重量%の範囲であることがより好ましく、40〜75重量%の範囲であることが更に好ましい。上記範囲であると、レリーフ形成層が好適な機械的物性を有することができる。
【0047】
ポリウレタンとして好ましい化合物の具体例としては、脂肪族ポリカーボネートジオールとジイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリカーボネートポリウレタンを分子骨格に有する化合物が挙げられ、分子末端に(メタ)アクリレート基等の重合性不飽和基を更に有する化合物がより好ましい。
【0048】
脂肪族ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ポリ(エチレンカーボネート)ジオール、ポリ(ブチレンカーボネート)ジオール、ポリ(ペンタメチレンカーボネート)ジオール、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール、ポリ((1,9−ノナンジオール;2−メチル−1,8−オクタンジオール)カーボネート)ジオール、1,3−ジオキサン−2−オン,1,6−ヘキサンジオール部位をもったポリマー、炭酸ジメチルエステル,1,6−ヘキサンジオール部位と2−オキセパノン部位とをもったポリマーなどの化合物が挙げられる。
分子内にカーボネート結合を有する化合物の市販品としては、PCDL(登録商標)「L4672」、「T5651」、「T6002」、「T5652」、「T5650J」、「T4671」(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)、クラレポリオール(登録商標)「C−2015N」((株)クラレ製)、プラクセルCD(登録商標)「CD205」、「CD205PL」、「CD205HL」、「CD210」、「CD210PL」、「CD220」、「CD220PL」(以上、ダイセル化学工業(株)製、)、ETERNACOLL(登録商標)「UH」、「UHC」、「UC」、「UM」(以上、宇部興産(株)製)などが挙げられる。
【0049】
ジイソシアネート化合物としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族系のジイソシアネートを使用することができ、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキサン−1,4−ジイル)ジイソシアネート、m−フェニレンビス(1−メチルエタン−1,1−ジイル)ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、m−キシリレンジイルジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイルジイソシアネート、1,6−ジイソシアナト−2,2,4−トリメチルヘキサン、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイルイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイルビス(メチルイソシアネート)、2−メチル−1,4−フェニレンジイソシアネート、4−[(2−イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネート、4,4’−オキシビス(フェニルイソシアネート)、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイルジイソシアネート、ナフタレン−2,7−ジイルイソシアネート、1−メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、2,2’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイルジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸メチル、5−メチル−1,3−フェニレンジイソシアネート、メチレンビス(2,1−フェニレン)ジイソシアネート、4−[(2−イソシアナトフェニル)メチル]フェニルイソシアネート、ジメチルジイソシアナトシラン、2,4,6−トリイソプロピルベンゼン−1,3−ジイルジイソシアネート、2,2−ジメチルペンタン−1,5−ジイルジイソシアネート、4−[(2−イソシアナトフェニル)チオ]フェニルイソシアネート、ウンデカメチレンジイソシアネート、メチレンビス(2−メチル−4,1−フェニレン)ジイソシアネート、アジポイルイソシアネート、4,4’−エチレンビス(1−イソシアナトベンゼン)、1−(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエチリデンビス(4,1−フェニレン)ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,4−フェニレンビス(エチレン)ジイソシアネート、1,4−フェニレンビス(エチレン)ジイソシアネート、1−メチルエチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、スルホニルビス(3,1−フェニレン)ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ペンタンメチレンジイソシアネート、ヘプタン−1,7−ジイルジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0050】
成分Bのポリウレタンの分子末端に(メタ)アクリレート基等の重合性不飽和基を導入するための化合物としては、分子内に重合性不飽和基として(メタ)アクリレート基やビニル基などの官能基と、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基などの官能基を共に有する化合物が挙げられる。
このような化合物の具体例としては、反応性の観点から、2−(メタ)アクリロイルオキシイソシアネート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが好ましい。これらの化合物は、それぞれ、ポリウレタン分子末端にヒドロキシル基又はイソシアナト基を有するポリウレタンとの付加反応により、(メタ)アクリレート基を導入することができる。
【0051】
フレキソ印刷版用途のように柔軟なレリーフ層が必要とされる場合、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、成分Bとして、ポリウレタンのほか、一部、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂を添加することが好ましく、ガラス転移温度が0℃以下の液状樹脂を添加することがより好ましい。このような液状樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポリイソプレンなどの炭化水素類;アジペート、ポリカプロラクトンなどのポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル類;脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサンなどのシリコン類;(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体の重合体、並びにこれらの混合物やコポリマー類が挙げられる。
液状樹脂の含有量は、成分B全体に対して30〜60重量%であることが好ましい。
【0052】
ポリウレタンとしては、熱分解性の高いものを使用することが好ましい。熱分解性の指標としては、不活性ガス雰囲気中でサンプルを加熱した際の重量減少を測定した熱重量分析法のデータを用いることができる。
熱分解性の観点からは、ポリウレタンとして、重量が半減する時点の温度が、150℃〜450℃の範囲であるものが好ましく、180℃〜350℃の範囲であるものがより好ましく、200℃〜330℃の範囲であるものが更に好ましい。また、熱分解が狭い温度範囲で起こるポリウレタンは、熱分解物の消散性が良好であり、彫刻速度が更に高まるので好ましい。その指標として、前記熱重量分析において、重量が初期重量の80%に減少する温度と、重量が初期重量の20%に減少する温度との差が、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることが更に好ましい。
【0053】
成分Bとして使用するポリウレタンとしては、分子内に重合性不飽和基を有していることが好ましく、エチレン性不飽和基を有していることがより好ましく、エチレン性不飽和基をポリマーの主鎖末端及び/又は側鎖に有していることが更に好ましい。
なお、本明細書において、「分子内に重合性不飽和基を有している」とは、ポリマーの主鎖の末端、ポリマーの側鎖の末端や、ポリマーの主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が化学的に結合していることを意味する。
ポリウレタンとしては、1分子あたり平均で0.7以上の重合性不飽和基を有していることが好ましい。重合性不飽和基が1分子あたり平均で0.7以上であれば、樹脂硬化物の機械強度に優れ、耐久性も良好で、特に印刷用基材として繰り返しの使用にも耐えられるのものとなるため好都合である。
樹脂硬化物の機械強度を考慮すると、ポリウレタンにおける重合性不飽和基は、1分子あたり0.7以上が好ましく、1以上であることがより好ましい。
1分子あたりの重合性不飽和基数の上限については特に限定されないが、20以下であることが好ましい。重合性不飽和基が1分子あたり平均で20以下であれば、熱硬化時の収縮を低く抑えることができ、また表面近傍でのクラックなどの発生も抑制することができる。
【0054】
ポリウレタンに重合性不飽和基を導入する方法として、例えば、直接、重合性不飽和基を、ポリウレタンの分子末端又は側鎖に導入する方法が挙げられる。
別法としては、次のような方法が挙げられる。まず、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する化合物に、前記反応性基と結合しうる官能基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行う。次いで、反応によって得られた化合物と、この化合物の末端結合性基と反応する官能基及び重合性不飽和基を有する化合物とを反応させて、高分子反応により、分子末端に重合性不飽和基を導入する。
【0055】
本発明の樹脂組成物において、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物である成分Aと、成分Bとしてのポリウレタンとを併用することによる作用機構は以下のように推定される。
樹脂組成物による膜中において、膜中の水分により、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物である成分Aの自己縮合反応が一部進行し、成分Aによる架橋構造が形成される。その結果、(I)レーザー彫刻により発生する彫刻カスが液状から粉末状になり、アルカリ性洗浄液を用いた場合のみならず、水道水で流すだけで除去可能となるというリンス性向上効果、及び、(II)樹脂組成物を製膜したときの膜の破断強度及び弾性が向上し、塑性変形しにくくなるという効果が得られる。(II)膜の破断強度及び弾性の向上は、本発明の樹脂組成物をレリーフ形成層に適用した場合、形成された印刷版のインキ転移性及び耐刷性が向上するという効果をもたらす。
リンス液としてアルカリ性洗浄液を使用した場合は、成分Bのウレタン結合もアルカリ性洗浄液でのリンスの際に加水分解されて親水性のアルコールを生じるので、このアルコール(の親水性)がリンス性をアシストしていると推定される。
また、本発明の好ましい態様において、成分Aの複数の前記式(1)で表される基を連結する二価の連結基にヘテロ原子を有する場合は、このヘテロ原子に起因して(III)彫刻感度が向上するという効果も得られ、感度向上効果は、特にヘテロ原子としてS原子を含む場合に著しい。
【0056】
(I)リンス性向上効果については、成分Aの自己縮合反応により架橋構造が形成され、成分Aの自己縮合物は、洗浄液、特にアルカリ洗浄液により加水分解されてシラノール基を生じ、結果的に自己縮合物(の熱分解物)を含む彫刻カスは親水性になってリンス性がより向上すると考えられる。アルカリ洗浄液中では、この生じたシラノール基はアルカリ洗浄液中では酸性基として振舞うので、アルカリで中和されることで、リンス性がより向上すると考えられる。
更に、この成分Aが、分子内に炭素と結合するヘテロ原子を有する連結基を持つ場合、ヘテロ原子と隣接する炭素原子は、共有結合電子がヘテロ原子に偏った電子状態をとっており、エネルギー的に解裂しやすい。その結果、レーザー彫刻で熱分解されやすくなり(III)彫刻感度が向上するものと考えられる。
【0057】
(II)膜の破断強度及び弾性の向上効果については、以下のように考えられる。
まず、膜の破断強度の向上については、成分Aの自己縮合反応が一部進行して、Si-Oからなるいわばガラスのような特性を有する高強度の網目構造が形成されたためと考えられる。更に、本発明においては、成分Bとしてポリウレタンが用いられている。ポリウレタンは、水素結合性のウレタン結合を多数有している。このようなウレタン結合が成分Aのアルコキシシリル基やシラノール基と水素結合することで、成分Aと成分Bとが分子レベルで均一に混合される、すなわち、成分Aと成分Bとが相溶している。このような成分Aと成分Bとの相溶も、膜の破断強度を向上する要因の一つであると推定される。
また、膜の弾性の向上は、次のような機構によるゴム弾性の発現に起因するものと考えられる。すなわち、成分Bであるポリウレタンは、比較的ガラス転移温度が低いことでソフトセグメントとして振る舞う。他方、成分Aの自己縮合物、更には後述の成分Dである重合性化合物は、架橋点(いわゆるハードセグメント)として振る舞う。こうして、樹脂組成物を用いて成膜した膜が、ゴムであることの要件であるハードセグメント及びソフトセグメントの兼備、という条件を満たした膜となり、その結果、膜にゴム弾性が発現する。このようなゴム弾性の発現による膜弾性の向上の結果、膜のインク転移性が向上し、例えば、アニロックスローラー上から膜に転写されたインキが印刷物上へ転移する効率が向上すると考えられる。
【0058】
また、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、ポリウレタン以外に、公知のバインダーポリマーを併用してもよい。
【0059】
成分Bの含有量は、レーザー彫刻用樹脂組成物の固形分全質量に対し、5〜95質量%が好ましく、15〜80質量%がより好ましく、20〜65質量%が更に好ましい。
例えば、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した場合、成分Bの含有量を5質量%以上とすることで、得られたレリーフ印刷版を印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、また、95質量%以下とすることで、他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版をフレキソ印刷版とした際においても印刷版として使用するに足る柔軟性を得ることができる。
【0060】
<(成分C)触媒>
本発明の樹脂組成物は、(成分C)成分Aの分解反応及び/又は縮合反応を促進する触媒(以下、適宜、「成分C」と称する。)を含有することが好ましい。成分Cは、シランカップリング反応において一般に用いられる反応触媒であれば、限定なく適用できる。以下、成分Cとして用いることができる代表的な触媒である(成分C−1)酸性又は塩基性触媒、及び、(成分C−2)金属錯体触媒について順次説明する。
【0061】
(成分C−1)酸性又は塩基性触媒
触媒としては、酸性又は塩基性化合物をそのまま用いるか、又は水若しくは有機溶剤などの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒と称する。)を用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸又は塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよい。
酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸、リン酸、ヘテロポリ酸、無機固体酸などが挙げられる。
塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、アミン類、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類酸化物、四級アンモニウム塩化合物、四級ホスホニウム塩化合物などが挙げられる。
【0062】
アミン類としては、(a)ヒドラジン等の水素化窒素化合物;(b)脂肪族アミン、脂環式アミン又は芳香族アミン;(c)縮合環を含む環状アミン;(d)アミノ酸類、アミド類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミド類又はラクタム類等の含酸素アミン;(e)S、Se等のヘテロ原子を有する含ヘテロ元素アミン;が挙げられる。
【0063】
(b)の脂肪族アミンとしては、式(C−1)で表されるアミン化合物が好ましい。
N(Rd1)(Rd2)(Rd3) (C−1)
式(C−1)中、Rd1〜Rd3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖又は分岐を有するアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、環員数3〜10の硫黄原子又は酸素原子を含む複素環(チオフェン)を表し、前記アルキル基、シクロアルキル基は少なくとも1つの不飽和結合を有していてもよい。
式(C−1)で表されるアミン化合物は置換基を有していてもよく、該置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキル基を有する(ジ)アルキルアミノ基、ヒドロキシ基が挙げられる。
前記Rd1〜Rd3のうちの2以上の基が結合してC=N結合を形成してもよい。C=N結合を有するアミン化合物として、グアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが挙げられる。
(b)の脂環式アミンとしては、前記式(C−1)で表される化合物中のRd1〜Rd3のうちの2以上の基が結合した環骨格に窒素原子を含む脂環式アミンが挙げられる。脂環式アミンとしては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、キヌクリジンが挙げられる。
(b)の芳香族アミンとしては、イミダゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピラジン、プリン、キノリン、キナゾリンが挙げられる。芳香族アミンは置換基を有していてもよく、該置換基としては、式(C−1)における置換基が挙げられる。
また、同一又は異なる2個以上の脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミンが結合して、ジアミン、トリアミン等のポリアミンを形成してもよい。ポリアミンとしては、脂肪族アミン同士が結合したポリアミンが好ましく、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0064】
前記(c)縮合環を含む環状アミンとは、少なくとも1つの窒素原子が縮合環を形成する環骨格に含まれる環状アミンであり、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられ、中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。
前記(d)アミノ酸類、アミド類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミド類又はラクタム類等の含酸素アミンとしては、フタルイミド、2,5−ピペラジンジオン、マレイミド、カプロラクタム、ピロリドン、モルホリン、グリシン、アラニン、フェニルアラニンが挙げられる。
なお、(c)及び(d)は式(C−1)で表される化合物における前記置換基を有していてもよく、中でも炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
本発明において、アミン化合物は、(b)、(c)が好ましい。(b)としては、脂肪族アミンが好ましく、脂肪族アミンのポリアミンがより好ましく、ポリエチレンイミンが更に好ましい。(c)としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。
【0065】
熱架橋後の膜強度の観点から、アミンとして好ましいpKaH(共役酸の酸解離定数)の範囲としては7以上が好ましく、より好ましくは10以上である。
【0066】
前記酸性触媒及び塩基性触媒の中でも、膜中での成分Aの分解反応及び/又は縮合反応を速やかに進行させる観点で、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウム p−トルエンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、酢酸、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが好ましく、特に好ましくは、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンである。
【0067】
(成分C−2)金属錯体触媒
本発明において(成分C)触媒として用いられる(成分C−2)金属錯体触媒は、好ましくは、周期律表の2A、3B、4A及び5A族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素化合物から構成されるものである。
更に、構成金属元素の中では、Mg、Ca、St、Baなどの2族元素、Ti、Zrなどの4族元素、V、Nb、Taなどの5族元素、及び、Al、Gaなどの13族元素が好ましく、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。その中でもZr、Al及びTiから得られる錯体が優れており、好ましい(オルトチタン酸エチルなど)。
上記金属錯体の配位子を構成するオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物は、本発明においては、アセチルアセトン、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、2,4−ヘプタンジオンなどのβジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなどのケトエステル類、乳酸、乳酸メチル、サリチル酸、サリチル酸エチル、サリチル酸フェニル、リンゴ酸、酒石酸、酒石酸メチルなどのヒドロキシカルボン酸及びそのエステル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノンなどのケトアルコール類、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチル−モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール類、メチロールメラミン、メチロール尿素、メチロールアクリルアミド、マロン酸ジエチルエステルなどのエノール性活性化合物、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)のメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物が挙げられる。
【0068】
好ましい配位子はアセチルアセトン誘導体であり、アセチルアセトン誘導体は、本発明においては、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物を指す。アセチルアセトンのメチル基に置換する置換基としては、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、アシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、アセチルアセトンのメチレン基に置換する置換基としてはカルボキシル基、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のカルボキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基であり、アセチルアセトンのカルボニル炭素に置換する置換基としては炭素数が1〜3のアルキル基であってこの場合はカルボニル酸素には水素原子が付加して水酸基となる。
【0069】
好ましいアセチルアセトン誘導体の具体例としては、アセチルアセトン、エチルカルボニルアセトン、n−プロピルカルボニルアセトン、i−プロピルカルボニルアセトン、ジアセチルアセトン、1―アセチル−1−プロピオニル−アセチルアセトン、ヒドロキシエチルカルボニルアセトン、ヒドロキシプロピルカルボニルアセトン、アセト酢酸、アセトプロピオン酸、ジアセト酢酸、3,3−ジアセトプロピオン酸、4,4−ジアセト酪酸、カルボキシエチルカルボニルアセトン、カルボキシプロピルカルボニルアセトン、ジアセトンアルコールが挙げられる。中でも、アセチルアセトン及びジアセチルアセトンが特に好ましい。上記のアセチルアセトン誘導体と上記金属元素の錯体は、金属元素1個当たりにアセチルアセトン誘導体が1〜4分子配位する単核錯体であり、金属元素の配位可能の手がアセチルアセトン誘導体の配位可能結合手の数の総和よりも多い場合には、水分子、ハロゲンイオン、ニトロ基、アンモニオ基など通常の錯体に汎用される配位子が配位してもよい。
【0070】
好ましい金属錯体の例としては、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)アルミニウム・アコ錯塩、モノ(アセチルアセトナト)アルミニウム・クロロ錯塩、ジ(ジアセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、トリス(アセチルアセトナト)バリウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、トリス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリス(安息香酸)錯塩、等が挙げられる。これらは水系塗布液での安定性及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、特にエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0071】
本発明の樹脂組成物には、成分Cを1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
樹脂組成物における成分Cの含有量は、レリーフ形成層の全固形分中、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【0072】
<(成分D)重合性化合物>
本発明においては、レリーフ形成層中に架橋構造を形成する観点から、これを形成するために、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分D)重合性化合物(以下、適宜、「成分D」と称する。)を含有することが好ましい。
ここで用いうる重合性化合物は、エチレン性不飽和基を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個、更に好ましくは2個有する化合物の中から任意に選択することができる。また、前記重合性化合物は、成分Bとは異なる化合物であり、分子の末端にエチレン性不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。また、前記重合性化合物の分子量(重量平均分子量)は、5,000未満の化合物であることが好ましい。
前記重合性化合物としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、特開2009−204962号公報の段落0098〜0124に記載のものを例示できる。
【0073】
以下、成分Dとして用いられる、エチレン性不飽和結合を分子内に1つ有する単官能モノマー、及び、同結合を分子内に2個以上有する多官能モノマーについて説明する。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層中には、架橋構造を形成することが必要であることから、多官能モノマーが好ましく使用される。これらの多官能モノマーの分子量は、120〜3,000であることが好ましく、200〜2,000であることがより好ましい。
単官能モノマー及び多官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
【0074】
本発明においては、成分Dとして、彫刻感度向上の観点から、分子内に硫黄原子を有する化合物を用いることが好ましい。
このように分子内に硫黄原子を有する重合性化合物としては、彫刻感度向上の観点から、特に、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有し、そのうち2つのエチレン性不飽和結合間を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する重合性化合物(以下、適宜、「含硫黄多官能モノマー」と称する。)を用いることが好ましい。
【0075】
本発明における含硫黄多官能モノマー中の炭素−硫黄結合を含んだ官能基としては、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホニル、スルホンアミド、チオカルボニル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸、スルファミン酸、チオアミド、チオカルバメート、ジチオカルバメート、又はチオ尿素を含む官能基が挙げられる。
また、含硫黄多官能モノマーにおける2つのエチレン性不飽和結合間を連結する炭素−硫黄結合を含有する連結基としては、−C−S−、−C−SS−、−NH(C=S)O−、−NH(C=O)S−、−NH(C=S)S−、及び−C−SO2−から選択される少なくとも1つのユニットであることが好ましい。
【0076】
また、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1個〜10個が好ましく、1個〜5個がより好ましく、1個〜2個が更に好ましい。
一方、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれるエチレン性不飽和結合部位の数は2つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、架橋膜の柔軟性の観点で、2個〜10個が好ましく、2個〜6個がより好ましく、2個〜4個が更に好ましい。
【0077】
本発明における含硫黄多官能モノマーの分子量としては、形成される膜の柔軟性の観点から、好ましくは120〜3,000であり、より好ましくは120〜1,500である。
また、本発明における含硫黄多官能モノマーは単独で用いてもよいが、分子内に硫黄原子を持たない多官能重合性化合物や単官能重合性化合物との混合物として用いてもよい。
更に、分子内に硫黄原子を有する重合性化合物としては、特開2009−255510号公報に記載のものを例示できる。
【0078】
本発明の樹脂組成物に、含硫黄多官能モノマーをはじめとする重合性化合物を用いることにより、レーザー彫刻用平版印刷版の架橋レリーフ形成層における膜物性、例えば、脆性、柔軟性などを調整することもできる。
また、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物中の成分Dの含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、固形分換算で、5〜60質量%が好ましく、8〜30質量%の範囲がより好ましい。
【0079】
<(成分E)重合開始剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ形成層作製に用いる場合には、更に(成分E)重合開始剤(以下、適宜、「成分E」と称する。)を含有することが好ましく、成分Dと併用することが好ましい。
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、芳香族ケトン類、オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アゾ系化合物等が挙げられる。中でも彫刻感度と、レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、有機過酸化物又はアゾ系化合物がより好ましく、有機過酸化物が特に好ましい。
また、重合開始剤として、特開2008−63554号公報の段落0074〜0118に記載されている化合物が好ましく例示できる。
【0080】
また、好ましい併用成分として、有機過酸化物と光熱変換剤とを組み合わせて用いることで、彫刻感度が極めて高くなるのでより好ましく、有機過酸化物と光熱変換剤であるカーボンブラックとを組み合わせて用いた態様が最も好ましい。
これは、有機過酸化物を用いてレリーフ形成層を熱架橋により硬化させる際、ラジカル発生に関与しない未反応の有機過酸化物が残存するが、残存した有機過酸化物は、自己反応性の添加剤として働き、レーザー彫刻時に発熱的に分解する。その結果、照射されたレーザーエネルギーに発熱分が加算されるので彫刻感度が高くなると推定される。
なお、この効果は、光熱変換剤としてカーボンブラックを用いる場合に著しい。これは、カーボンブラックから発生した熱が有機過酸化物にも伝達される結果、カーボンブラックだけでなく有機過酸化物からも発熱し、成分B等の分解に使用されるべき熱エネルギーの発生が相乗的に生じるためと考えている。
【0081】
本発明における成分Eは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物中の成分Eの含有量は、レリーフ形成層の固形分全質量に対し0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。重合開始剤の含有量を0.01質量%以上とすることで、これを添加した効果が得られ、架橋性レリーフ形成層の架橋が速やかに行われる。また、含有量を10質量%以下とすることで他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版として使用するに足る耐刷性が得られるためである。
【0082】
<(成分F)光熱変換剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、更に、(成分F)光熱変換剤(以下、適宜、「成分F」と称する。)を含有することが好ましい。すなわち、本発明における光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、レーザー彫刻時の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。このため、彫刻に用いるレーザー波長の光を吸収する光熱変換剤を選択することが好ましい。
【0083】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を用いて製造したレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を、700から1,300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合に、光熱変換剤としては、700〜1,300nmに極大吸収波長を有する化合物を用いることが好ましい。
本発明における光熱変換剤としては、種々の染料又は顔料が用いられる。
【0084】
光熱変換剤のうち、染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、700nm〜1,300nmに極大吸収波長を有するものが挙げられ、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、ジインモニウム化合物、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が好ましく挙げられる。本発明において好ましく用いられる染料としては、ヘプタメチンシアニン色素等のシアニン系色素、ペンタメチンオキソノール色素等のオキソノール系色素、フタロシアニン系色素及び特開2008−63554号公報の段落0124〜〔0137に記載の染料を挙げることができる。
【0085】
本発明において使用される光熱変換剤のうち、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。また、顔料としては、特開2009−178869号公報の段落0122〜0125に記載の顔料が例示できる。
これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0086】
カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途(例えば、カラー用、ゴム用、乾電池用など)の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。また、カーボンブラックとしては、特開2009−178869号公報の段落0130〜0134に記載されたものが例示できる。
【0087】
レーザー彫刻用樹脂組成物中おける光熱変換剤の含有量は、その分子固有の分子吸光係数の大きさにより大きく異なるが、該樹脂組成物の固形分全質量の0.01〜30質量%の範囲が好ましく、0.05〜20質量%がより好ましく、0.1〜10質量%が特に好ましい。
【0088】
<無機粒子>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、無機粒子を添加してもよい。
無機粒子を添加することにより、硬化させて得られる樹脂硬化物(架橋レリーフ形成層)の機械的物性の向上、樹脂硬化物表面の濡れ性改善、またレーザー彫刻用樹脂組成物の粘度の調整、樹脂硬化物の粘弾性特性の調整などが可能となる。前記成分A及び成分Bを含む樹脂組成物に、このような無機粒子を添加することにより、樹脂硬化物表面のタックの低減、彫刻カスのリンス性の向上、及びレリーフ印刷板による印刷品質の向上を実現することができる。更に、前記成分Aと無機粒子とを併用することにより、樹脂硬化物よりなる膜の破断強度を向上するとともに、インキ転移性に優れるレリーフ印刷板を得ることができる。
無機粒子の材質は特に限定するものではなく、公知のものを用いることができる。
【0089】
樹脂硬化物の機械的物性を向上させる目的では、窒化珪素、窒化ホウ素、炭化珪素などの剛性の高い無機粒子を用いることが好ましい。
また、得られた樹脂硬化物の耐溶剤特性を向上させる目的で、無機粒子を添加することもできる。
【0090】
レーザー彫刻法により樹脂硬化物層表面又は樹脂硬化物を貫通したパターンを形成する目的のためには、レーザー彫刻時に発生する粘着性の液状カスの吸着除去特性に優れる数平均粒子径が5nm以上10μm以下の多孔質無機粒子又は1次粒子の数平均粒子径が5nm以上100nm以下の無孔質無機粒子を添加することが好ましい。
【0091】
ここで、本発明における「多孔質無機粒子」とは、細孔容積が0.1ml/g以上の無機粒子を意味する。本発明において、細孔容積は、窒素吸着法を用いて、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
多孔質無機粒子の細孔容積の好ましい範囲は、0.1ml/g以上10ml/g以下であり、より好ましくは、0.2ml/g以上5ml/g以下である。細孔容積が0.1ml/g以上である多孔質無機粒子を用いることにより、レーザー彫刻時に発生する粘着性の液状カスの吸収量が十分なものとなる。また、細孔容積が10ml/g以下であることにより、多孔質無機粒子の機械的強度を確保することができる。
多孔質無機粒子の数平均粒径は、100nm以上10μm以下であることが好ましく、300nm以上5μm以下であることがより好ましい。
多孔質無機粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラスなどが挙げられる。
多孔質無機粒子は1種類又は2種類以上のものを併用することができる。
【0092】
また、本発明における「無孔質無機粒子」とは、細孔容積が0.1ml/g未満の微粒子を意味する。
無孔質無機粒子の数平均粒子径は、10nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。
無孔質無機粒子の材質としては、例えば、アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化バナジウム、酸化錫、酸化ビスマス、酸化ゲルマニウム、ホウ素酸アルミニウム、酸化ニッケル、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化鉄、及び酸化セリウムから選択される少なくとも1種類を主成分とすることが好ましい。
無孔質無機粒子は、上記材質を用い、火炎加水分解法、アーク法、プラズマ法、沈降法、ゲル化法、溶融固体法のいずれかの方法で製造される無孔質無機粒子であることが好ましい。火炎加水分解法、アーク法、プラズマ法は、熱分解法又は高熱法(乾式法)とも呼ばれている。また、沈降法、ゲル化法は湿式法とも呼ばれる方法である。これらのうち、乾式法、特に火炎加水分解法によるものが好ましい。
無孔質無機粒子は1種類又は2種類以上のものを併用することができ、また、多孔質無機粒子と併用することもできる。
【0093】
数平均粒子径が上述した範囲内にある多孔質又は無孔質無機粒子を用いた場合、バインダーポリマーと重合性化合物との混合を行う際に、粘度の上昇、気泡の巻き込み、粉塵の大量発生などの不都合を生じることなく、樹脂硬化物表面に凹凸が発生することもない。
なお、無機粒子の数平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。本明細書における無機粒子の数平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した値である。
【0094】
無機粒子の粒子形状は特に限定されるものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、又は表面に突起のある粒子などを使用することができる。特に耐磨耗性の観点からは、球状粒子が好ましい。
また、無機粒子の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機化合物で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化又は疎水性化した粒子を用いることもできる。これらの無機粒子は1種類又は2種類以上のものを選択できる。
【0095】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物に無機粒子を用いる場合、成分B100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、2質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、2質量部以上20質量部以下であることが更に好ましい。
【0096】
<溶媒(溶剤)>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製する際に用いる溶媒は、比較的疎水性の原料とやや極性の高い原料とをバランスよく溶解・混合する観点で、主として非プロトン性の有機溶媒を用いることが好ましい。より具体的には、非プロトン性の有機溶媒/プロトン性有機溶媒=100/0〜50/50(重量比)で用いることが好ましく、より好ましくは100/0〜70/30、特に好ましくは100/0〜90/10である。
非プロトン性の有機溶媒の好ましい具体例は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドである。
プロトン性有機溶媒の好ましい具体例は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールである。
【0097】
<その他の添加剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤は、レーザー彫刻用樹脂組成物により形成された膜を柔軟化する作用を有するものであり、バインダーポリマーに対して相溶性のよいものである必要がある。
可塑剤としては、例えばジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート等や、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)好ましく用いられる。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、彫刻感度向上のための添加剤として、高熱伝導性物質を加えることがより好ましい。高熱伝導性物質は、熱伝達を補助する目的で添加され、熱伝導性物質としては、金属粒子等の無機化合物、導電性ポリマー等の有機化合物が挙げられる。金属粒子としては、粒径がマイクロメートルオーダーから数ナノメートルオーダーの、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子が好ましい導電性ポリマーとしては、特に共役ポリマーが好ましく、具体的には、ポリアニリン、ポリチオフェンが挙げられる。
なお、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、ニトロセルロースを含有しないことが好ましい。
また、共増感剤を用いることで、レーザー彫刻用樹脂組成物を光硬化させる際の感度を更に向上させることができる。
更に、樹脂組成物の製造中又は保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが望ましい。
レーザー彫刻用樹脂組成物の着色を目的として染料若しくは顔料等の着色剤を添加してもよい。これにより、画像部の視認性や、画像濃度測定機適性といった性質を向上させることができる。
更に、レーザー彫刻用樹脂組成物の硬化皮膜の物性を改良するために充填剤等の公知の添加剤を加えてもよい。
【0098】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第1の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第2の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を架橋した架橋レリーフ形成層を有する。
本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、レーザー彫刻用樹脂組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、架橋される前の状態、及び、光又は熱により硬化された状態の両方又はいずれか一方のものをいう。
本発明において「レリーフ形成層」とは、架橋される前の状態の層をいい、すなわち、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、必要に応じ、乾燥が行われていてもよい。
本発明において「架橋レリーフ形成層」とは、前記レリーフ形成層を架橋した層をいう。前記架橋は、熱及び/又は光により行われることが好ましい。また、前記架橋は樹脂組成物が硬化される反応であれば特に限定されず、成分A同士や任意成分である成分D同士、重合性基を有する成分B同士の反応、重合性基を有する成分Bと成分A及び/又は成分Dとの反応による架橋構造を含む概念である。
架橋レリーフ形成層を有する印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
また、本発明において「レリーフ層」とは、レリーフ印刷版におけるレーザーにより彫刻された層、すなわち、レーザー彫刻後の前記架橋レリーフ形成層をいう。
【0099】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記のような成分を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。(架橋)レリーフ形成層は、支持体上に設けられることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要により更に、支持体と(架橋)レリーフ形成層との間に接着層を、また、(架橋)レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
【0100】
<レリーフ形成層>
レリーフ形成層は、前記本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、架橋性の層である。本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版としては、成分Aによる架橋構造及び/又は重合性基を有する成分Bによる架橋構造に加えて、更に(成分D)重合性化合物及び(成分E)重合開始剤を含有することで、さらなる架橋性の機能を付与したレリーフ形成層を有するものが好ましい。
【0101】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を光及び/又は熱により架橋させて架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、架橋レリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成してレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0102】
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記の如き成分を有するレーザー彫刻用樹脂組成物を、シート状又はスリーブ状に成形することで形成することができる。レリーフ形成層は、通常、後述する支持体上に設けられるが、製版、印刷用の装置に備えられたシリンダーなどの部材表面に直接、形成したり、そこに配置して固定化したりすることもでき、必ずしも支持体を必要としない。
以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
【0103】
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PAN(ポリアクリロニトリル))やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PETフィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。
【0104】
<接着層>
レリーフ形成層を支持体上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。
接着層に使用しうる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0105】
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面への傷や凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、25〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えば、PETのようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。保護フィルムは、剥離可能であることが好ましい。
【0106】
保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0107】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法)
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用塗布液組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法が挙げられる。または、レーザー彫刻用樹脂組成物を、支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して樹脂組成物から溶媒を除去する方法でもよい。
中でも、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製造方法であることが好ましい。
【0108】
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶媒を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることによって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0109】
<層形成工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製造方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
レリーフ形成層の形成方法としては、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用樹脂組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法や、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して溶媒を除去する方法が好ましく例示できる。
レーザー彫刻用樹脂組成物は、例えば、成分A及び成分B、並びに、任意成分として、香料、成分C、成分F、無機粒子、及び/又は、可塑剤を適当な溶媒に溶解させ、次いで、成分D及び成分Eを溶解させることによって製造できる。溶媒成分のほとんどは、レリーフ印刷版原版を製造する段階で除去する必要があるので、溶媒としては、揮発しやすい低分子アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコ−ルモノメチルエーテル)等を用い、かつ温度を調整するなどして溶媒の全添加量をできるだけ少なく抑えることが好ましい。
【0110】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における(架橋)レリーフ形成層の厚さは、架橋の前後において、0.05mm以上10mm以下が好ましく、0.05mm以上7mm以下がより好ましく、0.05mm以上3mm以下が更に好ましい。
【0111】
<架橋工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程を含む製造方法であることが好ましい。
【0112】
レリーフ形成層が光重合開始剤を含有する場合には、光重合開始剤のトリガーとなる活性光線をレリーフ形成層に照射することで、レリーフ形成層を架橋することができる。
光は、レリーフ形成層全面に行うのが一般的である。光(「活性光線」ともいう。)としては可視光、紫外光、及び電子線が挙げられるが、紫外光が最も一般的である。レリーフ形成層の支持体等、レリーフ形成層を固定化するための基材側を裏面とすれば、表面に光を照射するだけでもよいが、支持体が活性光線を透過する透明なフィルムであれば、更に裏面からも光を照射することが好ましい。表面からの照射は、保護フィルムが存在する場合、これを設けたまま行ってもよいし、保護フィルムを剥離した後に行ってもよい。酸素の存在下では重合阻害が生じる恐れがあるので、レリーフ形成層に塩化ビニルシートを被せて真空引きした上で、活性光線の照射を行ってもよい。
【0113】
レリーフ形成層が熱重合開始剤を含有する場合には(上記の光重合開始剤が熱重合開始剤にもなり得る。)、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱することで、レリーフ形成層を架橋することができる(熱により架橋する工程)。加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【0114】
レリーフ形成層の架橋方法としは、レリーフ形成層を表面から内部まで均一に硬化(架橋)可能という観点で、熱による架橋の方が好ましい。
レリーフ形成層を架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。未架橋のレリーフ形成層をレーザー彫刻すると、レーザー照射部の周辺に伝播した余熱により、本来意図していない部分が溶融、変形しやすく、シャープなレリーフ層が得られない場合がある。また、素材の一般的な性質として、低分子なものほど固形ではなく液状になり、すなわち粘着性が強くなる傾向がある。レリーフ形成層を彫刻する際に発生する彫刻カスは、低分子の材料を多く用いるほど粘着性が強くなる傾向がある。低分子である重合性化合物は架橋することで高分子になるため、発生する彫刻カスは粘着性が少なくなる傾向がある。
【0115】
前記架橋工程が、光により架橋する工程である場合は、活性光線を照射する装置が比較的高価であるものの、印刷版原版が高温になることがないので、印刷版原版の原材料の制約がほとんどない。
前記架橋工程が、熱により架橋する工程である場合には、特別高価な装置を必要としない利点があるが、印刷版原版が高温になるので、高温で柔軟になる熱可塑性ポリマーは加熱中に変形する可能性がある等、使用する原材料は慎重に選択する必要がある。
熱架橋の際には、熱重合開始剤を加えることが好ましい。熱重合開始剤としては、遊離基重合(free radical polymerization)用の商業的な熱重合開始剤として使用され得る。このような熱重合開始剤としては、例えば、適当な過酸化物、ヒドロペルオキシド又はアゾ基を含む化合物が挙げられる。代表的な加硫剤も架橋用に使用できる。熱架橋性(heat−curable)の樹脂、例えばエポキシ樹脂、を架橋成分として層に加えることにより熱架橋も実施され得る。
【0116】
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、並びに、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含むことが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層を架橋及びレーザー彫刻して得られたレリーフ層を有するレリーフ印刷版であり、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたレリーフ印刷版であることが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、水性インキを印刷時に好適に使用することができる。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法における層形成工程及び架橋工程は、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法における層形成工程及び架橋工程と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0117】
<彫刻工程>
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程を含むことが好ましい。
彫刻工程は、前記架橋工程で架橋された架橋レリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋された架橋レリーフ形成層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、架橋レリーフ形成層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、架橋レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、架橋レリーフ形成層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で架橋レリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
【0118】
彫刻工程に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザー(FC−LD)が好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率且つ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。
半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものが更に好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
【0119】
また、ファイバー付き半導体レーザーは、更に光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、実用レーザー技術 電子通信学会 等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製造方法に好適に使用しうるファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
【0120】
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記リンス工程、乾燥工程、及び/又は、後架橋工程を含んでもよい。
リンス工程:彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程。
乾燥工程:彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程。
後架橋工程:彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程。
前記工程を経た後、彫刻表面に彫刻カスが付着しているため、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流すリンス工程を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0121】
本発明に用いることができるリンス液のpHは9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、11以上であることが更に好ましい。また、リンス液のpHは14以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましく、12.5以下であることが更に好ましい。上記範囲であると、取り扱いが容易である。
リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜、酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
本発明に用いることができるリンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。
また、リンス液は、水以外の溶媒として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶媒を含有していてもよい。
【0122】
リンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。
前記ベタイン化合物としては、下記式(1)で表される化合物及び/又は下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0123】
【化10】

(式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、一価の有機基を表し、R4は単結合、又は、二価の連結基を表し、AはPO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、R5は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、R1〜R3のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよい。)
【0124】
【化11】

(式(2)中、R6〜R8はそれぞれ独立に、一価の有機基を表し、R9は単結合、又は、二価の連結基を表し、BはPO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、R10は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、R6〜R8のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよい。)
【0125】
前記式(1)で表される化合物又は前記式(2)で表される化合物は、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物であることが好ましい。なお、本発明において、アミンオキシド化合物のN=O、及び、ホスフィンオキシド化合物のP=Oの構造はそれぞれ、N+−O-、P+−O-と見なすものとする。
前記式(1)におけるR1〜R3はそれぞれ独立に、一価の有機基を表す。また、R1〜R3のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよいが、環を形成していないことが好ましい。
1〜R3における一価の有機基としては、特に制限はないが、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、アルキル鎖中にアミド結合を有するアルキル基、又は、アルキル鎖中にエーテル結合を有するアルキル基であることが好ましく、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、又は、アルキル鎖中にアミド結合を有するアルキル基であることがより好ましい。
また、前記一価の有機基におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、R1〜R3のうちの2つがメチル基である、すなわち、式(1)で表される化合物がN,N−ジメチル構造を有することが特に好ましい。上記構造であると、特に良好なリンス性を示す。
【0126】
前記式(1)におけるR4は、単結合、又は、二価の連結基を表し、式(1)で表される化合物がアミンオキシド化合物である場合は単結合である。
4における二価の連結基としては、特に制限はないが、アルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有するアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜8のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜3のアルキレン基であることが更に好ましい。
前記式(1)におけるAは、PO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、O-、COO-、又は、SO3-であることが好ましく、COO-であることがより好ましい。
-がO-である場合、R4は単結合であることが好ましい。
PO(OR5)O-及びOPO(OR5)O-におけるR5は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、水素原子、又は、1以上の不飽和脂肪酸エステル構造を有するアルキル基であることが好ましい。
また、R4は、PO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、及び、SO3-を有していない基であることが好ましい。
【0127】
前記式(2)におけるR6〜R8はそれぞれ独立に、一価の有機基を表す。また、R6〜R8のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよいが、環を形成していないことが好ましい。
6〜R8における一価の有機基としては、特に制限はないが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることが好ましく、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることがより好ましい。
また、前記一価の有機基におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、R6〜R8のうちの2つがアリール基であることが特に好ましい。
【0128】
前記式(2)におけるR9は、単結合、又は、二価の連結基を表し、式(2)で表される化合物がホスフィンオキシド化合物である場合は単結合である。
9における二価の連結基としては、特に制限はないが、アルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有するアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜8のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜3のアルキレン基であることが更に好ましい。
前記式(2)におけるBは、PO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、O-であることが好ましい。
-がO-である場合、R9は単結合であることが好ましい。
PO(OR10)O-及びOPO(OR10)O-おけるR10は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、水素原子、又は、1以上の不飽和脂肪酸エステル構造を有するアルキル基であることが好ましい。
また、R9は、PO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、及び、SO3-を有していない基であることが好ましい。
【0129】
式(1)で表される化合物としては、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0130】
【化12】

(式(3)中、R1は一価の有機基を表し、R4は単結合、又は、二価の連結基を表し、AはPO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、R5は、水素原子、又は、一価の有機基を表す。)
【0131】
式(3)におけるR1、A、及び、R5は、前記式(1)におけるR1、A、及び、R5と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0132】
式(2)で表される化合物としては、下記式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0133】
【化13】

(式(4)中、R6〜R8はそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基を表す。ただし、R6〜R8の全てが同じ基となることはない。)
【0134】
前記式(4)におけるR6〜R8はそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基を表し、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることが好ましい。
【0135】
式(1)で表される化合物又は式(2)で表される化合物として具体的には、下記の化合物が好ましく例示できる。
【0136】
【化14】

【0137】
【化15】

【0138】
【化16】

【0139】
【化17】

【0140】
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。更に、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の使用量は、特に限定する必要はないが、リンス液の全質量に対し0.01〜20質量%であることが好ましく、0.05〜10質量%であることがより好ましい。
【0141】
以上のようにして、支持体等の任意の基材表面にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上7mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下である。
【0142】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。
レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0143】
本発明のレリーフ印刷版は、フレキソ印刷機による水性インキでの印刷に特に好適であるが、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。本発明のレリーフ印刷版は、リンス性に優れており彫刻カスの残存がなく、かつ、得られたレリーフ層が弾性に優れるため、水性インク転移性及び耐刷性に優れ、長期間にわたりレリーフ層の塑性変形や耐刷性低下の懸念がなく、印刷が実施できる。
【実施例】
【0144】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例におけるポリマーの数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、GPC法で測定した値を表示している。
【0145】
(合成例1:ポリウレタンPU−1の合成)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えたセパラブルフラスコ中に、ポリカーボネートジオール「PCDL(登録商標)L4672」、旭化成(株)製:数平均分子量1,990、OH価56.4)447.24質量部、トリレンジイソシアナート30.83質量部を入れ、80℃の加温下で約3時間反応させた。その後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート(「MOI」、昭和電工(株)製)14.83質量部を添加し、更に約3時間反応させることで、主鎖末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2個)である数平均分子量約10,000のポリウレタンPU−1を得た。
ポリウレタンPU−1は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0146】
(合成例2:ポリウレタンPU−2の合成)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えたセパラブルフラスコ中に、水添ポリブタジエンジオール(「GI−3000」、日本曹達(株)製:数平均分子量3,940)759.5質量部、トリレンジイソシアナート46.21質量部を入れ、80℃の加温下で約4時間反応させた。その後、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート27.24質量部を添加し、更に約3時間反応させることで、主鎖末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2個)である数平均分子量約10,000のポリウレタンPU−2を得た。
ポリウレタンPU−2は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0147】
(合成例3:ポリウレタンPU−3の合成)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えたセパラブルフラスコ中に、ポリエステルジオール(「P−3010」、(株)クラレ製;数平均分子量3,000)420.2質量部、ポリエーテルジオール(「PL」、三洋化成工業(株)製;数平均分子量2,500)420.2質量部、トリレンジイソシアナート63.22質量部を入れ、80℃の加温下で約4時間反応させた。その後、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート42.07質量部を添加し、更に3時間反応させることで、主鎖末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2個)である数平均分子量約18,000のポリウレタンPU−3を得た。
ポリウレタンPU−3は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0148】
(合成例4:ポリウレタンPU−4の合成)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えたセパラブルフラスコ中に、ポリカーボネートジオール(「PCDL(登録商標)L4672」、旭化成(株)製:数平均分子量1,990、OH価56.4)400質量部、ブレンマーGLM(グリセリンモノメタクリレート;日油(株)製)32質量部、トリレンジイソシアナート30.83質量部を入れ、80℃の加温下で約3時間反応させた。その後、n−ブチルイソシアナート(和光純薬工業(株)製)10.5質量部を添加し、更に約3時間反応させることで、側鎖がメタクリル基(メタクリル基含有量:約1meq/g)である数平均分子量約80,000のポリウレタンPU−4を得た。
【0149】
(合成例5:ポリウレタンPU−5の合成)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えたセパラブルフラスコ中に、ポリプロピレングリコール(和光純薬工業(株)製:数平均分子量2,000)50質量部、1,4−ブタンジオール(和光純薬工業(株)製)120質量部、トリレンジイソシアナート30.83質量部を入れ、80℃の加温下で約3時間反応させた。その後、n−ブチルイソシアナート(和光純薬工業(株)製)10.25質量部を添加し、更に約3時間反応させることで、分子内に重合性不飽和基を有さない数平均分子量約74,000のポリウレタンPU−5を得た。
【0150】
(合成例6:ポリウレタンPU−6の合成)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えたセパラブルフラスコ中に、ポリカーボネートジオール(「PCDL(登録商標)L4672」、旭化成(株)製:数平均分子量1,990、OH価56.4)400質量部、ジメチロールプロピオン酸(東京化成工業(株)製)38質量部、トリレンジイソシアナート30.83質量部を入れ、80℃の加温下で約3時間反応させた。その後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート(「MOI」、昭和電工(株)製)14.83質量部を添加し、更に約3時間反応させることで、側鎖にカルボキシル基を有する数平均分子量約35,000のポリウレタンPU−6を得た。
【0151】
(ポリウレタンPU−7の合成)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えたセパラブルフラスコ中に、水添ポリブタジエンジオール(「GI−3000」、日本曹達(株)製:数平均分子量3,940)759.5質量部、トリメチロールプロパン(和光純薬工業(株)製)3質量部、トリレンジイソシアナート46.21質量部を入れ、80℃の加温下で約4時間反応させた。その後、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート27.24質量部を添加し、更に約3時間反応させることで、側鎖にヒドロキシル基を有する数平均分子量約125,000のポリウレタンPU−7を得た。
【0152】
(実施例1)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
下記に示す配合内容で70℃にて混合し、液状の樹脂組成物を得た。
・成分A KBE−846(信越化学工業(株)製):20質量部
・成分B 合成例1で得たポリウレタンPU−1:70質量部
・成分C 1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)(和光純薬工業(株)製):0.8質量部
・成分D フェノキシエチルメタクリレート(「ライトエステル(登録商標)PO」、共栄社化学(株)製:分子量206):20質量部、及びポリプロピレングリコールモノメタクリレート(「PPM」、日油(株)製:分子量400):10質量部
・成分E t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(「パーブチル(登録商標)E」、日本油脂(株)製):1質量部
・成分F ケッチェンブラックEC600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製):2質量部、
・無機粒子 多孔質性微粉末シリカ(「サイロスフェア(登録商標)C−1504」、富士シリシア化学(株)製:数平均粒子径4.5μm、比表面積520m2/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5質量%、吸油量290ml/100g):5質量部
上記より得られた樹脂組成物に、安定剤として、2,6−ジ−t−ブチルアセトフェノン(「アイオノール(登録商標)CP」、ジャパンケムテック(株)製)0.5質量部を添加して70℃にて更に混合し、レーザー彫刻用樹脂組成物1を得た。
【0153】
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、上記より得られた架橋性レリーフ形成層用塗布液1をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、70℃のオーブン中で3時間乾燥させて、厚さが凡そ1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1を作製した。
【0154】
3.レリーフ印刷版の作製
得られた原版のレリーフ形成層を80℃で3時間、更に100℃で3時間加熱してレリーフ形成層を熱架橋した。
【0155】
架橋後のレリーフ形成層に対し、以下の2種のレーザーにより彫刻した。
(CO2レーザーによる彫刻)
炭酸ガスレーザー彫刻機として、レーザー照射による彫刻を、高品位CO2レーザーマーカML−9100シリーズ(KEYENCE(株)製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版1から保護フィルムを剥離後、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
(FC−LDによる彫刻)
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長 915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
【0156】
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは凡そ1mmであった。
また、レリーフ層のショアA硬度を、前述の測定方法により測定したところ、75°であった。なお、ショア硬度Aの測定は、後述する各実施例及び比較例においても同様に行った。
【0157】
(実施例2〜27、及び、比較例1〜4)
実施例1で用いた(A)〜(F)及び無機粒子を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様な方法により、レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版を、実施例2〜27及び比較例1〜4について、それぞれ得た。
【0158】
なお、実施例19においては、実施例1において得られたレーザー彫刻用樹脂組成物を用いて次のようにしてスリーブ化を行い、円筒状印刷版原版及び円筒状印刷版を作製した。
まず、実施例1において得られたレーザー彫刻用樹脂組成物を窒素ガス中で激しく撹拌し、樹脂組成物中に微細な気泡を形成した。次いで、直径200mmのエアーシリンダーに、内径が同径で厚さ0.45mmのポリエチレン繊維強化プラスチック製のスリーブ(独国、AKL製)を嵌め込み、エアーシリンダーを回転させながら、樹脂組成物を厚さ0.5mmにドクターブレードを用いて塗布した。その後、エアーシリンダーを回転させながら、大気雰囲気下で150℃の恒温槽で30分加熱することにより樹脂組成物を硬化させ、樹脂硬化物からなるクッション層を形成した。
次に、形成したクッション層の上に、エアーシリンダーを回転させながら、実施例1において得られたレーザー彫刻用樹脂組成物を厚さ1.4mmにドクターブレードを用いて塗布した。その後、エアーシリンダーを回転させながら、大気雰囲気下で150℃の恒温槽で30分加熱して、厚さ約1.4mmの熱硬化性樹脂硬化物を得た。その後、研削研磨装置(日本国、テクノ技研(株)製)を用いて、樹脂硬化物表面を研削ホイール(カーボランダム製)で研削し、#1000番のラッピングフィルムで研磨して仕上げ、クッション層を介して樹脂硬化物層を有する円筒状印刷原版を得た。
得られた円筒状印刷原版表面にレーザー彫刻機を用いてパターンを形成し、円筒状印刷版を得た。
【0159】
また、実施例20〜22は、硬化方式として、熱硬化(熱架橋)に代えて、光硬化(光架橋)を用いた。光硬化は次の通り実施した。
実施例20〜22の各実施例において得られた感光性樹脂組成物を厚さ100μmのPETフィルム(東レ(株)製)上に、厚さ3.0mmのシート状に成形し、露光機(「ALF型213E」、旭化成(株)製)を用い、大気中で4000mJの条件で露光した。露光に用いた光は紫外線蛍光灯(「ケミカルランプ」、(株)東芝製:中心波長:370nm)と殺菌灯(「ジャーミサイダルランプ」、(株)東芝製:中心波長:253nm)の光であった。
【0160】
【表1】

【0161】
以下に、表1に記載された(成分A)〜(成分F)及び無機粒子の各成分の化合物名を示す。
<成分A:有機シラン化合物>
A−1:KBE−846(ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、信越化学工業(株)製)
A−2:X−12−965(トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、信越化学工業(株)製)
A−3:KBE−3026(ビス(トリエトキシシリル)エタン、信越化学工業(株)製)
A−4:KBM−503(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)
A−5:KBE−603(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製)
A−6:KBE−403(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製)
A−7:KBE−803(3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製)
A−8:KBM−3063(ヘキシルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)
A−9:SR 2402(構造非開示のメチルメトキシシロキサンオリゴマー、東レ・ダウコーニング(株)製)
A−10:Z−6173(構造非開示のアルキルアルコキシシロキサンオリゴマー、東レ・ダウコーニング(株)製)
【0162】
<成分B:バインダーポリマー>
PU−1〜PU−7:それぞれ合成例1〜7により得たポリウレタンPU−1〜PU−7
NR:天然ゴム(野村貿易(株)製)
【0163】
<成分C:触媒>
C−1:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)(和光純薬工業(株)製)
C−2:リン酸(和光純薬工業(株)製)
【0164】
<成分D:重合性化合物>
D−1:フェノキシエチルメタクリレート(「ライトエステル(登録商標)PO」、共栄社化学(株)製:分子量206)
D−2:ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(「PPM」、日油(株)製:分子量400)
【0165】
<成分E:重合開始剤>
E−1:t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(「パーブチル(登録商標)E」、日本油脂(株)製)
E−2:イルガキュア184(チバガイギー社製)(1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン)
【0166】
<成分F:光熱変換剤>
F−1:ケッチェンブラックEC600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製)
【0167】
<無機粒子>
P(多孔質粒子):多孔質性微粉末シリカ(「サイロスフェア(登録商標)C−1504」、富士シリシア化学(株)製:数平均粒子径4.5μm、比表面積520m2/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5質量%、吸油量290ml/100g)
NP(非多孔質粒子(無孔質粒子)):AEROSIL 200CF(日本アエロジル(株)製)
【0168】
4.レリーフ印刷版の評価
以下の項目でレリーフ印刷版の性能評価を行い、結果を表1に併記する。
【0169】
(4−1)彫刻深さ
各実施例及び比較例のレリーフ印刷版原版が有するレリーフ形成層をレーザー彫刻して得られたレリーフ層の「彫刻深さ」を、以下のように測定した。ここで、「彫刻深さ」とは、レリーフ層の断面を観察した場合の、彫刻された位置(高さ)と彫刻されていない位置(高さ)との差をいう。本実施例における「彫刻深さ」は、レリーフ層の断面を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK9510((株)キーエンス製)にて観察することにより測定した。彫刻深さが大きいことは、彫刻感度が高いことを意味する。結果は、彫刻に用いたレーザーの種類毎に表1に示す。
【0170】
(4−2)リンス性
リンス液は、水、水酸化ナトリウム10重量%水溶液、及び、下記ベタイン化合物(1−B)を混合し、pHが12、かつ、ベタイン化合物(1−B)の含有量がリンス液全体の1質量%になるように調製した。
前記方法にて彫刻した各版材上に作成した上記リンス液を版表面が均一に濡れる様にスポイトで滴下(約100ml/m2)し、1分静置後、ハブラシ(ライオン(株)クリニカハブラシ フラット)を用い、荷重200gfで版と並行に20回(30秒)こすった。その後、流水にて版面を洗浄、版面の水分を除去し、1時間ほど自然乾燥した。
【0171】
【化18】

【0172】
(評価)
<カス除去性>
リンス済み版の表面を倍率100倍のマイクロスコープ(キーエンス(株)製)で観察し、版上の取れ残りカスを評価した。評価基準は以下の通りである。
×:版全面にカスが付着している。
△〜×:版画像凸部に僅かにカスが残っており、また、画像底部(凹部)にカスが残っている。
△:版画像凸部に僅かにカスが残っており、また、画像底部(凹部)に僅かにカスが残っている。
○〜△:画像底部(凹部)に僅かにカスが残っているのみである。
○:まったく版上にカスが残っていない。
【0173】
(4−3)膜の破断強度
各実施例及び比較例のレーザー彫刻用樹脂組成物を硬化させることにより得られる硬化膜(レリーフ層)について、破断強度を次のようにして測定した。
引張り試験機として、(株)島津製作所製Shimadzu AGSH5000を用い、試験片形状はJIS規格記載のダンベル型(横幅の平均:2.25cmとして入力し測定した。)に加工して測定した。測定環境は、温度:約21℃、湿度:60%、引張速度:2mm/分とした。
【0174】
(4−4)水性インキ転移性
得られたレリーフ印刷版を印刷機(ITM−4型、(株)伊予機械製作所製)にセットし、インクとして、水性インキ アクアSPZ16紅(東洋インキ製造(株)製)を希釈せずに用いて、印刷紙として、フルカラーフォームM 70(日本製紙(株)製、厚さ100μm)を用いて印刷を継続し、ハイライト1〜10%を印刷物で確認した。印刷開始から紙の長さ(メートル)が500m及び1,000mにおける印刷物上のベタ部のインキの付着度合いを目視で比較した。
濃度ムラなく均一なものを○、ムラがあるものを×、○と×の中間の程度を△とした。
【0175】
表1に示されるように、(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、(成分B)バインダーポリマーとして、ポリウレタンと、を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を用いて作製された実施例のレリーフ印刷版は、比較例のレリーフ印刷版よりも、リンス性に優れ、製版時の生産性が高いことがわかる。また、レリーフ層の破断強度、及びインク転移性が良好であり、長期間にわたり優れた印刷性能を発揮することができ、更に、彫刻深さが大きいことから、彫刻感度が良好であることがわかる。他方、比較例のレリーフ層では、十分な破断強度を得ることができず、リンス性及び水性インキ転移性のいずれにも劣るものであった。
なお、成分Aとして、分子内にスルフィド基を有する化合物(A−1)、分子内にウレタン結合を有する化合物(A−2)、分子内に加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を2つ有する化合物(二官能シリル化合物)(A−3)、及び、シロキサンオリゴマー(A−9、A−10)はリンス性が良好であることがわかる。
また、同じレリーフ印刷版原版を用いた場合、ファイバー付き半導体レーザーを備え、光源としてFC−LDを用いた製版装置を用いることで、彫刻深さを更に改良しうることがわかる。なお、実施例20〜22においてFC−LDによる彫刻深さが0μmであるのは、当該レーザー光を吸収する成分が樹脂組成物に含有されていないためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、
(成分B)バインダーポリマーとして、ポリウレタンと、を含有することを特徴とする
レーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分Aが、加水分解性シリル基及びシラノール基を2つ以上有する化合物である請求項1に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分Aの加水分解性シリル基が、アルコキシ基又はハロゲン原子が少なくとも1つSi原子に直接結合した残基である請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分Aが下記式(1)で表される請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシル基を表す。残りのR1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、1価の有機置換基を表す。)
【請求項5】
前記成分Bが20℃において液状である請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分Bが、エチレン性不飽和基をポリマーの主鎖末端及び/又は側鎖に有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項7】
(成分C)前記成分Aの分解反応及び/又は縮合反応を促進する触媒を更に含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項8】
(成分D)重合性化合物を更に含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項9】
(成分E)重合開始剤を更に含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項10】
(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を更に含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有することを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなり、前記成分Aを反応させて得られる架橋構造を有するレリーフ形成層を備えることを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋した架橋レリーフ形成層を有することを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、
前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むことを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項15】
前記架橋工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である請求項14に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、
前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、並びに、
前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とする
レリーフ印刷版の製版方法。
【請求項17】
前記架橋工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である請求項16に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項18】
彫刻後の前記レリーフ層表面を水系リンス液によりリンスするリンス工程を更に含む、請求項16又は17に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれか1項に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有することを特徴とするレリーフ印刷版。
【請求項20】
前記レリーフ層の厚さが、0.05mm以上10mm以下である請求項19に記載のレリーフ印刷版。
【請求項21】
前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である請求項19又は20に記載のレリーフ印刷版。

【公開番号】特開2011−136430(P2011−136430A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296115(P2009−296115)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】