レーザー溶接方法及びレーザー溶接装置
【課題】上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板について、二枚の金属板間の隙間が大きな場合でも上側金属板側から下側金属板への溶融金属の垂下を良好に行わせて、上下の金属板の連結の確実性を向上可能なレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置を提供する。
【解決手段】上側金属板W1及びフィラーワイヤXの溶融金属Wyに下向きのローレンツ力Frが作用するように、金属板W1表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界Hを形成した状態で、溶融金属Wyに磁界Hの方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流Iを流し、溶融金属Wyを隙間Zを越えて下方に垂下させる。
【解決手段】上側金属板W1及びフィラーワイヤXの溶融金属Wyに下向きのローレンツ力Frが作用するように、金属板W1表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界Hを形成した状態で、溶融金属Wyに磁界Hの方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流Iを流し、溶融金属Wyを隙間Zを越えて下方に垂下させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下に重ね合わされた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下に重ね合わされた平板状の二枚の金属板の溶接方法として、レーザー溶接が利用されつつある。このレーザー溶接は、二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して移動させることにより、上下の金属板のレーザー光被照射部位を溶融させて線状の溶接ビードを形成させるものである。
【0003】
その場合に、二枚の金属板における対向する面は一般に完全な平面ではないので、二枚の金属板間には隙間が生じると共に、その隙間の大きさも溶接経路上において一様でなく、その結果、例えば隙間が大きい箇所において上側金属板の溶融金属が隙間を越えて下側金属板に接触する状態まで垂下せず、上下の金属板が連結されない溶接不良を生じることがあった。
【0004】
この問題に対処可能な技術として、特許文献1には、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給することにより、金属板だけでなくフィラーワイヤを溶融させて、すなわち溶融金属を増加させて、該溶融金属が隙間を越えて下側金属板に接触する状態まで垂下しやすくし、これにより上下の金属板が連結されない溶接不良を防止するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−66268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に記載のもののようにフィラーワイヤを供給した場合でも、本願発明者の実験等に基づく知見によれば、隙間が大きい場合には、溶融金属が表面張力等により下側の金属板まで垂下せず、上下の金属板が連結されないことがあることがわかっている。
【0007】
そこで、本発明は、二枚の金属板間の隙間が大きな場合でも上側金属板側から下側金属板への溶融金属の垂下を良好に行わせて、上下の金属板の連結の確実性を向上可能なレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接方法であって、上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融工程と、該溶融工程で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下工程とを有していることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のレーザー溶接方法において、前記溶接工程の実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像工程と、該撮像工程で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出工程と、該溶融池幅検出工程で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定工程と、該判定工程で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整工程とを有していることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接装置であって、上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融手段と、該溶融手段で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下手段とを有していることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載のレーザー溶接方法において、前記溶接手段による溶接実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像手段と、該撮像手段で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出手段と、該溶融池幅検出手段で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定手段と、該判定手段で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整手段とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
次に、本発明の効果について説明する。
【0014】
まず、請求項1に記載の発明によれば、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光が照射されつつ該レーザ光が所定の移動経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動しながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤが供給されて、上側の金属板のレーザー光被照射部が溶融して上下に貫通する溶融穴部が形成されつつ前記フィラーワイヤの端部が溶融する。そして、これらの溶融金属により前記溶融穴部の移動経路後方に溶融池が形成される。
【0015】
その場合に、本発明においては、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、前記溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流が流されることにより、これらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用して、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下が促進される。したがって、溶融金属による上下の金属板の連結の確実性が向上する。
【0016】
ここで、ローレンツ力とは、周知であるが念のために説明しておくと、図11に示すように、磁界H中において該磁界Hに直交する方向の電流Iを導体に流すことにより、該導体に作用する前記磁界H及び電流Iの両者に直交する向きの力Frである。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、溶接実行中、上側の金属板側から前記溶融池が撮像され、この撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅が検出される。そして、検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かが判定され、連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記ローレンツ力の大きさが、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整されることとなる。その場合に、本発明においては、実際の溶融池の生成状態を画像に基づいて正確に把握し、その把握した状態に応じて連結状態の良否を判定するので、正確な判定を行うことができる。つまり、良好な品質の溶接を行うことができるようになる。なお、撮像及び判定を非常に短い周期で繰り返し行えば、連結状態が良好でないと判定されても即座に調整されることとなり、その結果、連結状態が良好でないと判定された部分においてもその後垂下する溶融金属により連結状態が改善されることとなる。
【0018】
また、請求項3、4に記載の発明によれば、レーザー溶接装置において請求項1、2に記載の作用、効果が得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザー溶接装置の外観斜視図である。
【図2】レーザー溶接装置の制御構成図である。
【図3】溶接状態良好のときにおける溶接部の断面写真である。
【図4】撮像装置により、レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍を撮像した画像例である。
【図5】レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す斜視図である。
【図6】(a):レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す平面図である。(b):(a)図のA−A断面図である。
【図7】(a):図6(b)のB−B断面図、(b):図6(b)のC−C断面図、(c):図6(b)のD−D断面図、(d):図6(b)のE−E断面図、(e):図6(b)のF−F断面図、(f):図6(b)のG−G断面図である。
【図8】(a):溶接状態が良好でないときにおける図6(b)と同断面位置における断面図、(b):溶融金属にローレンツ力を作用させたときの効果を示す図6(b)と同断面位置における断面図である。
【図9】コントローラによる溶接制御を示すフローチャートである。
【図10】溶接状態が良好でないときにおける図5相当の写真である。
【図11】ローレンツ力の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザー溶接方法、及びレーザー溶接装置について説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1の外観斜視図である。このレーザー溶接装置1は、レーザー光LB(レーザービーム)を発生するレーザーヘッド2と、該レーザーヘッド2からのレーザー光被照射位LにフィラーワイヤXを供給するフィラーワイヤ供給装置3と、レーザーヘッド2及びフィラーワイヤ供給装置3を支持すると共にワークWに対して移動させる移動装置4とを有している。なお、この例においては、ワークWは、全体的に平板状の金属板W1と下方に膨らんた断面ハット状の金属板W2とで構成されている。金属板W1,W2の端部(フランジ)は複数のクランプ5…5により把持されているが、金属板W1,W2の精度上、対向する面の間に隙間Zが生じている。
【0022】
レーザーヘッド2は、例えばYAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを利用して構成されていると共に、レーザー出力が可変とされている。レーザー光の焦点位置は可変であるが、本実施の形態においては上側金属板W1の上面に設定されている。
【0023】
フィラーワイヤ供給装置3は、レーザー光LBの被照射部位Lの前方近傍に先端が位置するように前傾姿勢で配置されたワイヤ供給ノズル11(図5参照)と、フィラーワイヤXが巻回されたワイヤロール12と、モータ15(図2参照)により駆動され、該ワイヤロール12からフィラーワイヤXを繰り出す繰り出しローラ13と、該繰り出しローラ13とワイヤ供給ノズル11との間に設けられ、前記繰り出しローラ13により繰り出されたフィラーワイヤXを前記ノズル11まで誘導するチューブ14とを有している。モータ15は、回転速度の制御が可能なサーボモータにより構成され、これにより、被溶接部位へのワイヤXの供給量が調整可能になっている。
【0024】
移動装置4は、前記レーザーヘッド2及びフィラーワイヤ供給装置3が取り付けられた支持部材21と、該支持部材21の下端部に取り付けられた台状部材22と、工場床等に配設され、前記台状部材を摺動可能に支持するレール部材23と、前記台状部材22をレール部材23に沿って移動させる移動機構(図示せず)とを有している。このように移動させる移動機構は公知のものにより種々構成可能であり説明は省略するが、駆動源は回転速度の制御が可能なサーボモータ24(図2参照)により構成され、これによりレーザーヘッド11及びフィラーワイヤ供給装置3のワークWに対する移動速度が調整可能になっている。
【0025】
また、レーザー溶接装置1は、フィラーワイヤXを加熱するフィラーワイヤ加熱装置6を有している。このフィラーワイヤ加熱装置6は、フィラーワイヤXに通電することにより、該ワイヤXに生じるジュール熱で該ワイヤXを加熱するものであり、移動装置4の支持部材21に固定された加熱電源装置31と、該加熱電源装置31の正極と前記ワイヤ供給ノズル11とを接続するノズル接続ケーブル32と、前記移動装置4の支持部材21に図示しない連結手段を介して支持されると共に先端部が前記上側金属板Z1上面に押し付けられるように付勢された端子部材33と、該端子部材33と前記加熱電源装置31の負極とを接続する端子接続ケーブル34とを有し、加熱電源装置31から流れた電流が、端子接続ケーブル34、端子部材33、金属板W1,W2、フィラーワイヤX、ノズル11、ノズル接続ケーブル32を介して、加熱電源装置31に戻るようになっている。その場合に、前述したフィラーワイヤXと端子部材33との位置関係上、図5、図6に示すように、電流Iは、金属板W1,W2表面及び前記溶接経路Rにほぼ平行に、かつ溶融池(溶融金属Wy)を通って流れることとなる。
【0026】
ここで、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1は、レーザー被照射部L近傍に磁界を発生させる電磁石装置40を有している。この電磁石装置40は、端部が下端に位置する略逆U字状の鉄心41と、該鉄心41に巻回されたコイル42と、該コイル42の一端が正極に、他端が負極に接続され、該コイル42に通電する電磁石用電源装置43とを有し、鉄心41の図1における右側の端部にN極が、また左側の端部にS極が形成されるようにコイル42の巻き方向が設定されている。鉄心41は、N極及びS極を構成する一対の端部が、前記溶接経路Rを挟んで対向して配置されていると共に、これらの端部を結んだ線が平面視で前記溶接経路Rに直交するように配設されている。また、鉄心41は、移動装置4の支持部材21に図示しない連結手段を介して上下に移動可能に連結されていると共に、鉄心41の両端部の外側部にはそれぞれローラ44,44が回動可能に設けられており、これにより、鉄心41及びコイル42は、鉄心41の両端部が上側金属板W1の上面に対して一定の間隔を保った状態で、前記移動装置4によるレーザーヘッド2の移動に追随して同方向に移動するようになっている。
【0027】
このような電磁石装置40によれば、図5、図6に示すように、前記レーザー光照射部位L及びその近傍には、その移動に追随して前記金属板W1,W2面にほぼ平行でかつ前記溶接経路Rにほぼ直交する磁界Hが常に形成されることとなる。
【0028】
また、溶融金属Wyを流れる電流Iは、磁界Hの方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向に流れることとなる。したがって、電流Iの方向と磁界Hの方向との関係から溶融金属Wyには下向きのローレンツ力Frが作用するることとなる。
【0029】
図2に示すように、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1には、溶接制御を行うコントロールユニット7と、前記移動装置4の支持部材21に固定され、前記ワークWの被溶接部位L及びその近傍を上方から撮像する撮像装置8とが備えられている。
【0030】
撮像装置8は、例えば所定周期毎に画像を取得可能な(動画を取得可能な)CCDカメラにより構成され、取得された画像はその都度コントロールユニット7に出力される。なお、移動装置4の支持部材21には、上側の金属板W1におけるレーザー光被照射部位L及びその近傍を照明するランプ9が設けられている。このランプ9は、溶接経路Rを挟んで撮像装置8とは反対側に配設され、前記レーザー光被照射部位L及びその近傍を斜め上方から照明している。また、このランプ9としては例えばキセノンランプが使用可能である。
【0031】
コントロールユニット7は、画像が入力される都度画像を解析すると共に、その解析結果に基づいて、前記レーザーヘッド2に出力制御信号を、前記移動装置4のモータ24に回転速度制御信号を、前記フィラーワイヤ供給装置10のモータ15に回転速度制御信号を、電磁石装置40の電磁石用電源装置43に電流制御信号を、フィラーワイヤ加熱装置6の加熱電源装置31に電流制御信号をそれぞれ出力するようになっている。
【0032】
図3は、隙間Zが生じた二枚の金属板W1,W2をフィラーワイヤXを供給しながら溶接した場合に、良好な溶接強度が得られたワークについての幅方向断面写真(一例)である。この写真からわかるように、二枚の金属板W1,W2は溶融金属が固化して形成されたビードWBを介して連結される。また、このビードWBの幅方向左右には、上下の金属板W1,W2のそれぞれに金属組織変化が生じた熱影響部WC1,WC2(ビードWBの左右において白っぽく変色している間の部分)が存在している。なお、図3は、一例であり、上下の金属板W1,W2の板厚がそれぞれ1.6mm、隙間Zが1.3mmで、レーザー出力6kw、レーザービーム径0.6mm、フィラーワイヤXの直径0.9mm、フィラーワイヤXの供給速度9.5m/min、溶接速度1.5m/minの場合のものである。
【0033】
ここで、本願発明者は、前記撮像装置8により、図1に示すようなワークWについて、フィラーワイヤXに電流は流しているが前述の磁界を形成していない環境下において、図4に示すような、溶接中における被溶接部位L及びその周辺の可視画像(動画)を取得し、この画像を分析した。この分析によれば、磁界を形成していない環境下では、上下の金属板W1,W2の溶接は図5〜図7に示すように行われていると考えられる。
【0034】
まず、図5により概要について説明すると、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間Zが生じた金属板W1,W2の上側の金属板W1の上面(表面)に向けてレーザーヘッド2からレーザー光LBを照射しつつ、レーザー光LB(レーザヘッド2)を溶接経路Rに沿ってこれら二枚の金属板W1,W2に対して矢印αで示すように移動させながら、レーザー光LBの被照射部位Lにその移動に端部が追随するようにワイヤ供給ノズル11からフィラーワイヤXを供給して、上側の金属板W1のレーザー光被照射部位Lを溶融させて上下に貫通する溶融穴部WKを形成しつつ前記フィラーワイヤXの端部を溶融させる。そして、これらの溶融金属は溶融穴部に貯留されてなる溶融池WYを溶接経路R後方に形成しつつこれらの溶融金属を前記隙間Zを越えて下方に垂下する。そして、これにより上下の金属板W1,W2が連結されると共に、溶融池WYの後方には溶融金属が固化したビードWBが形成される。
【0035】
詳しく説明すると、図6、図7(a)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの前方近傍では、上側の金属板W1におけるレーザー光中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。また、溶融金属Wyの周囲には、該溶融金属Wyから伝達される熱により金属組織変化が生じた熱影響部WC1が生じている。WKは、レーザー光LBにより金属がプラズマ状態となり、その圧力により溶融金属Wyを周囲に押しやって形成された溶融穴部(キーホール)であり、この図にはその前部があらわれている。
【0036】
図6、図7(b)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBc位置においては、溶融穴部WKは上側の金属板W1を貫通して下側の金属板W2に達している。そして、下側の金属板W2においても、レーザー光中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。上側の金属板W1の溶融金属Wyは下側金属板W2側へ垂下している。下側金属板W2の溶融金属Wyの周囲には熱影響部WC2が生じている。
【0037】
図6、図7(c)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcの後方近傍では、上側金属板W1の溶融金属Wyがさらに下方へ垂下し、上側金属板W1と下側金属板W2とを連結している。なお、この連結部分は、溶融池WYの前部でもある。
【0038】
図6(b)、図7(d)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりも後方位置においては、溶融金属Wyが、先に形成されていた溶融穴部に貯留されることにより溶融池WYが形成されている。
【0039】
図6(b)、図7(e)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりもさらに後方位置においては、溶融池WYの溶融金属Wyが下側から固化し始めており、さらに後方においては、図7(f)に示すように、溶融池WYの溶融金属が上から下まで全て固化している。
【0040】
ところで、図8(a)(図7(d)の断面位置に対応する)に示すように、両金属板W1,W2間の隙間Zが大きい場合には、上側金属板W1の溶融金属Wyが図7の場合と同程度垂下しても下側の金属板W2に接触できず、その結果、上下の金属板W1,W2が連結されない場合がある。本願発明者の実験等に基づく知見によれば、この原因は、溶融金属Wyに表面張力により塊化作用が生じていることにより重力だけでは表面張力に対抗して溶融金属Wyが十分に下方に垂下することができないことと考えられる。
【0041】
そこで、本願発明者は、レーザー光被照射部L近傍に前述のような電磁石装置40を設けたものである。これによれば、溶融金属Wyには、下向きの力として、重力だけでなく図8(a)に示すように下向きのローレンツ力Frが作用するので、表面張力に抗して溶融金属Wyを垂下させて、図8(b)に示すように、上側金属板W1と下側金属板W2とを溶融金属Wyで連結させることが可能となる。
【0042】
また、図7(b)、(c)、(d)の段階においても、ローレンツ力Frを作用させることにより、溶融金属Wyによる上下の金属板W1,W2の連結の確実性を一層向上させることができる。なお、この場合、前述の図8(a)から図8(b)の状態に移行させるのに必要な強さのローレンツ力Frは必要ない。
【0043】
ここで、本願発明者に実験等の基づく知見によれば、図8(a)のように溶融金属Wyが十分に下方に垂下しない場合には、溶融金属Wyの熱は上側金属板W1の幅方向に伝達されるしかなく、その結果、溶融金属Wyの幅が拡大し、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以上の幅になることがわかっている。逆に言えば、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以上の幅となっているような場合には、両金属板W1,W2が溶融金属Wyにより連結されていないものと推定される。
【0044】
そこで、本実施の形態においては、前記撮像装置8により上側の金属板W1側から、溶融池WYにおける前記溶融穴部WKの近傍部分を撮像すると共に、その撮像データをコントロールユニット7により画像解析して、前記溶融池WYの生成状態(溶融池WYの幅dy等)を分析し、その分析結果に基づいてローレンツ力Frの強さを調整するようにしている。
【0045】
図9は、コントロールユニット7で行われるこの制御の一例を示すフローチャートである。なお、このフローチャートによる制御は、所定周期で繰り返し実行される。なお、所定周期は例えば10msというごく短い周期に設定されている。
【0046】
まず、ステップS1で、撮像装置8で取得された最新の画像データを入力する。
【0047】
次に、ステップS2で、この入力された画像データを画像解析して、溶接経路R上におけるレーザー光中心LBcから所定距離da(図6参照)後方位置での溶融池WYの幅dyを検出する。ここで、この所定距離daは、レーザー光中心LBcからできるだけ近く、かつ溶融穴部WKの前後長が多少変動した場合でも溶融池WYが確実に存在する一方でできるだけ溶融穴部WKの近くとなる距離に設定されており、例えばレーザー光LBのビーム径rb(上側金属板W1の表面位置における径)の2倍〜3倍の距離とされている。
【0048】
また、金属板W1における溶融池WY部分の検出は、例えば、上側金属板W1表面と溶融池WYの色彩差、輝度差等に基づいて検出することができる。また、溶融池WYはその側方部分と比較して著しく温度が高くなっているので、赤外線領域の画像データを取得して上側金属板W1上面の温度分布を検出し、この温度分布に基づいて温度が溶融温度以上となっている部分を抽出することにより、溶融池WYの検出を行うこともできる。
【0049】
次に、ステップS3において、ステップS2で検出された溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下か否かを判定する。すなわち、上下の金属板W1,W2の連結状態が良好か否かを判定する。そして、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下のときは(YES)、ステップS4で、基準溶接条件を維持する。なお、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下のときにおいては、連結状態が基本的に良好と推定されるので、ローレンツ力Frの強さは、要求する溶融金属Wyの垂下の確実性の程度にあわせて任意に設定すればよい。一方、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下でなくなったときは(NO)、ステップS5に進む。
【0050】
ステップS5では、電磁石装置40のコイル42の通電電流を、溶融池WYの幅dyが5倍以下のときよりも増加させて、下向きのローレンツ力Frを強くする。このときのローレンツ力Frの強さは、隙間Zの大きさが想定最大値のときに、溶融金属Wyの表面張力に抗して該溶融金属Wyを重力とで下側金属板Z2まで垂下させることができる強度に設定すればよい。なお、この強度は実験等で取得すればよい。これによれば、該溶融金属Wyが下方に垂下しやすくなり、図8(b)に示すように、上下の金属板W1の溶融金属Wyが隙間Zを超えて下側金属板Z2の溶融金属Wyに連結される。そして、これにより、溶融金属Wyの熱が下側金属板W2に伝達され、上側金属板W1の溶融池WYの幅dyが適正化(縮小)されることとなる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1によれば、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間Zが生じた平板状の二枚の金属板W1,W2のうちの上側の金属板W1表面に向けてレーザー光LBが照射されつつ該レーザ光LBが所定の移動経路Rに沿ってこれら二枚の金属板W1,W2に対して相対的に移動しながら、レーザー光LBの被照射部位Lにその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤXが供給されて、上側の金属板W1のレーザー光被照射部位Lが溶融して上下に貫通する溶融穴部WKが形成されつつXの端部が溶融する。そして、これらの溶融金属Wyにより溶融穴部WKの移動経路R後方に溶融池WYが形成される。
【0052】
その場合に、本実施の形態においては、前記金属板W1,W2表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界Hを形成した状態で、前記溶融金属Wyに前記磁界Hの方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流Iが流されることにより、これらの溶融金属Wyに下向きのローレンツ力Frが作用して、該溶融金属Wyの前記隙間Zを越えた下方への垂下が促進される。したがって、溶融金属Wyによる上下の金属板W1,W2の連結連結の確実性が向上する。
【0053】
また、溶接実行中、上側の金属板W1側から前記溶融池WYにおける溶融穴部WK近傍部分が撮像されると共に、この撮像データに基づいて溶融池WYの生成状態を分析することにより前記二枚の金属板W1,W2の連結状態が良好か否かが判定され、連結状態が良好でないときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力Frの大きさが、前記電流Iの大きさまたは前記磁界Hの大きさを調整することにより調整されることとなる。特に、本発明においては、実際の溶融池WYの生成状態を画像に基づいて正確に把握し、その把握した状態に応じて連結状態の良否を判定するので、正確な判定を行うことができる。つまり、良好な品質の溶接を行うことができるようになる。また、撮像及び判定を非常に短い周期で繰り返し行われるので、連結状態が良好でないと判定されても即座に調整されることとなり、その結果、連結状態が良好でないと判定された部分においてもその後垂下する溶融金属Wyにより連結状態が改善されることとなる。
【0054】
また、従来、溶接されたワークの溶接部の検査は該ワークを切断したりタガネを打ち込むことにより行われていたが、この方法の場合、溶接結果がNGの場合、該ワークが無駄になることもあった。しかし、本発明によれば、溶接中に検出された状況に応じてほぼリアルタイムで調整が行われるので、ワークの溶接NGが防止されると共に、切断やタガネ打ち込みによる検査が不要となる。
【0055】
なお、前記実施の形態では、ローレンツ力Frの調整を電磁石装置40のコイル42の通電電流を調整することにより、すなわち磁界Hを調整することにより行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィラーワイヤ加熱装置6によるフィラーワイヤXへの通電電流を調整することにより、すなわち溶融金属Wyに流す電流Iの大きさを調整することにより行ってもよい。なお、この場合、フィラーワイヤXが該電流Iにより溶融しない範囲で調整を行う必要がある。
【0056】
また、前記実施の形態では、ローレンツ力Frの大きさを溶融池WYの幅dyに基づいて変更するようにしたが、溶融池WYの幅dyにかかわらず、ステップS5で説明した強さのローレンツ力Frを作用させるようにしてももちろんよい。また、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下のときには、上下の金属板W1,W2の連結状態が良好と推定されるので、磁界Hの発生を停止してローレンツ力Frを生じさせないようにしてもよい。この場合、磁界Hの発生のための電力を削減することができる。
【0057】
また、本発明における電流の方向及び磁界の方向は、前記実施の形態に記載のものに限定されるものでない。すなわち、本発明は、金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流すことにより、溶融金属に下向きのローレンツ力を作用させることができるものであり、この条件に合致するものを広く含む。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、二枚の金属板間の隙間が大きな場合でも上側金属板側から下側金属板への溶融金属の垂下を良好に行わせて、上下の金属板の連結の確実性を向上可能なレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置を提供することができ、自動車産業の他、二枚の金属板の溶接が必要となる産業において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1 レーザー溶接装置(溶融手段)
7 コントロールユニット(溶融池幅検出手段、判定手段、調整手段)
8 撮像装置(撮像手段)
40 電磁石装置(垂下手段)
dy 溶融池の幅
Fr ローレンツ力
H 磁界
I 電流
L レーザー光被照射部
LB レーザー光
R 溶接経路
rb レーザービーム径
W1 上側の金属板
W2 下側の金属板
WK 溶融穴部
WY 溶融池
Wy 溶融金属
X フィラーワイヤ
Z 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下に重ね合わされた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下に重ね合わされた平板状の二枚の金属板の溶接方法として、レーザー溶接が利用されつつある。このレーザー溶接は、二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して移動させることにより、上下の金属板のレーザー光被照射部位を溶融させて線状の溶接ビードを形成させるものである。
【0003】
その場合に、二枚の金属板における対向する面は一般に完全な平面ではないので、二枚の金属板間には隙間が生じると共に、その隙間の大きさも溶接経路上において一様でなく、その結果、例えば隙間が大きい箇所において上側金属板の溶融金属が隙間を越えて下側金属板に接触する状態まで垂下せず、上下の金属板が連結されない溶接不良を生じることがあった。
【0004】
この問題に対処可能な技術として、特許文献1には、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給することにより、金属板だけでなくフィラーワイヤを溶融させて、すなわち溶融金属を増加させて、該溶融金属が隙間を越えて下側金属板に接触する状態まで垂下しやすくし、これにより上下の金属板が連結されない溶接不良を防止するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−66268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に記載のもののようにフィラーワイヤを供給した場合でも、本願発明者の実験等に基づく知見によれば、隙間が大きい場合には、溶融金属が表面張力等により下側の金属板まで垂下せず、上下の金属板が連結されないことがあることがわかっている。
【0007】
そこで、本発明は、二枚の金属板間の隙間が大きな場合でも上側金属板側から下側金属板への溶融金属の垂下を良好に行わせて、上下の金属板の連結の確実性を向上可能なレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接方法であって、上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融工程と、該溶融工程で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下工程とを有していることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のレーザー溶接方法において、前記溶接工程の実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像工程と、該撮像工程で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出工程と、該溶融池幅検出工程で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定工程と、該判定工程で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整工程とを有していることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接装置であって、上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融手段と、該溶融手段で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下手段とを有していることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載のレーザー溶接方法において、前記溶接手段による溶接実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像手段と、該撮像手段で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出手段と、該溶融池幅検出手段で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定手段と、該判定手段で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整手段とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
次に、本発明の効果について説明する。
【0014】
まず、請求項1に記載の発明によれば、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光が照射されつつ該レーザ光が所定の移動経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動しながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤが供給されて、上側の金属板のレーザー光被照射部が溶融して上下に貫通する溶融穴部が形成されつつ前記フィラーワイヤの端部が溶融する。そして、これらの溶融金属により前記溶融穴部の移動経路後方に溶融池が形成される。
【0015】
その場合に、本発明においては、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、前記溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流が流されることにより、これらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用して、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下が促進される。したがって、溶融金属による上下の金属板の連結の確実性が向上する。
【0016】
ここで、ローレンツ力とは、周知であるが念のために説明しておくと、図11に示すように、磁界H中において該磁界Hに直交する方向の電流Iを導体に流すことにより、該導体に作用する前記磁界H及び電流Iの両者に直交する向きの力Frである。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、溶接実行中、上側の金属板側から前記溶融池が撮像され、この撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅が検出される。そして、検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かが判定され、連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記ローレンツ力の大きさが、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整されることとなる。その場合に、本発明においては、実際の溶融池の生成状態を画像に基づいて正確に把握し、その把握した状態に応じて連結状態の良否を判定するので、正確な判定を行うことができる。つまり、良好な品質の溶接を行うことができるようになる。なお、撮像及び判定を非常に短い周期で繰り返し行えば、連結状態が良好でないと判定されても即座に調整されることとなり、その結果、連結状態が良好でないと判定された部分においてもその後垂下する溶融金属により連結状態が改善されることとなる。
【0018】
また、請求項3、4に記載の発明によれば、レーザー溶接装置において請求項1、2に記載の作用、効果が得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザー溶接装置の外観斜視図である。
【図2】レーザー溶接装置の制御構成図である。
【図3】溶接状態良好のときにおける溶接部の断面写真である。
【図4】撮像装置により、レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍を撮像した画像例である。
【図5】レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す斜視図である。
【図6】(a):レーザー溶接中における金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す平面図である。(b):(a)図のA−A断面図である。
【図7】(a):図6(b)のB−B断面図、(b):図6(b)のC−C断面図、(c):図6(b)のD−D断面図、(d):図6(b)のE−E断面図、(e):図6(b)のF−F断面図、(f):図6(b)のG−G断面図である。
【図8】(a):溶接状態が良好でないときにおける図6(b)と同断面位置における断面図、(b):溶融金属にローレンツ力を作用させたときの効果を示す図6(b)と同断面位置における断面図である。
【図9】コントローラによる溶接制御を示すフローチャートである。
【図10】溶接状態が良好でないときにおける図5相当の写真である。
【図11】ローレンツ力の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザー溶接方法、及びレーザー溶接装置について説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1の外観斜視図である。このレーザー溶接装置1は、レーザー光LB(レーザービーム)を発生するレーザーヘッド2と、該レーザーヘッド2からのレーザー光被照射位LにフィラーワイヤXを供給するフィラーワイヤ供給装置3と、レーザーヘッド2及びフィラーワイヤ供給装置3を支持すると共にワークWに対して移動させる移動装置4とを有している。なお、この例においては、ワークWは、全体的に平板状の金属板W1と下方に膨らんた断面ハット状の金属板W2とで構成されている。金属板W1,W2の端部(フランジ)は複数のクランプ5…5により把持されているが、金属板W1,W2の精度上、対向する面の間に隙間Zが生じている。
【0022】
レーザーヘッド2は、例えばYAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを利用して構成されていると共に、レーザー出力が可変とされている。レーザー光の焦点位置は可変であるが、本実施の形態においては上側金属板W1の上面に設定されている。
【0023】
フィラーワイヤ供給装置3は、レーザー光LBの被照射部位Lの前方近傍に先端が位置するように前傾姿勢で配置されたワイヤ供給ノズル11(図5参照)と、フィラーワイヤXが巻回されたワイヤロール12と、モータ15(図2参照)により駆動され、該ワイヤロール12からフィラーワイヤXを繰り出す繰り出しローラ13と、該繰り出しローラ13とワイヤ供給ノズル11との間に設けられ、前記繰り出しローラ13により繰り出されたフィラーワイヤXを前記ノズル11まで誘導するチューブ14とを有している。モータ15は、回転速度の制御が可能なサーボモータにより構成され、これにより、被溶接部位へのワイヤXの供給量が調整可能になっている。
【0024】
移動装置4は、前記レーザーヘッド2及びフィラーワイヤ供給装置3が取り付けられた支持部材21と、該支持部材21の下端部に取り付けられた台状部材22と、工場床等に配設され、前記台状部材を摺動可能に支持するレール部材23と、前記台状部材22をレール部材23に沿って移動させる移動機構(図示せず)とを有している。このように移動させる移動機構は公知のものにより種々構成可能であり説明は省略するが、駆動源は回転速度の制御が可能なサーボモータ24(図2参照)により構成され、これによりレーザーヘッド11及びフィラーワイヤ供給装置3のワークWに対する移動速度が調整可能になっている。
【0025】
また、レーザー溶接装置1は、フィラーワイヤXを加熱するフィラーワイヤ加熱装置6を有している。このフィラーワイヤ加熱装置6は、フィラーワイヤXに通電することにより、該ワイヤXに生じるジュール熱で該ワイヤXを加熱するものであり、移動装置4の支持部材21に固定された加熱電源装置31と、該加熱電源装置31の正極と前記ワイヤ供給ノズル11とを接続するノズル接続ケーブル32と、前記移動装置4の支持部材21に図示しない連結手段を介して支持されると共に先端部が前記上側金属板Z1上面に押し付けられるように付勢された端子部材33と、該端子部材33と前記加熱電源装置31の負極とを接続する端子接続ケーブル34とを有し、加熱電源装置31から流れた電流が、端子接続ケーブル34、端子部材33、金属板W1,W2、フィラーワイヤX、ノズル11、ノズル接続ケーブル32を介して、加熱電源装置31に戻るようになっている。その場合に、前述したフィラーワイヤXと端子部材33との位置関係上、図5、図6に示すように、電流Iは、金属板W1,W2表面及び前記溶接経路Rにほぼ平行に、かつ溶融池(溶融金属Wy)を通って流れることとなる。
【0026】
ここで、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1は、レーザー被照射部L近傍に磁界を発生させる電磁石装置40を有している。この電磁石装置40は、端部が下端に位置する略逆U字状の鉄心41と、該鉄心41に巻回されたコイル42と、該コイル42の一端が正極に、他端が負極に接続され、該コイル42に通電する電磁石用電源装置43とを有し、鉄心41の図1における右側の端部にN極が、また左側の端部にS極が形成されるようにコイル42の巻き方向が設定されている。鉄心41は、N極及びS極を構成する一対の端部が、前記溶接経路Rを挟んで対向して配置されていると共に、これらの端部を結んだ線が平面視で前記溶接経路Rに直交するように配設されている。また、鉄心41は、移動装置4の支持部材21に図示しない連結手段を介して上下に移動可能に連結されていると共に、鉄心41の両端部の外側部にはそれぞれローラ44,44が回動可能に設けられており、これにより、鉄心41及びコイル42は、鉄心41の両端部が上側金属板W1の上面に対して一定の間隔を保った状態で、前記移動装置4によるレーザーヘッド2の移動に追随して同方向に移動するようになっている。
【0027】
このような電磁石装置40によれば、図5、図6に示すように、前記レーザー光照射部位L及びその近傍には、その移動に追随して前記金属板W1,W2面にほぼ平行でかつ前記溶接経路Rにほぼ直交する磁界Hが常に形成されることとなる。
【0028】
また、溶融金属Wyを流れる電流Iは、磁界Hの方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向に流れることとなる。したがって、電流Iの方向と磁界Hの方向との関係から溶融金属Wyには下向きのローレンツ力Frが作用するることとなる。
【0029】
図2に示すように、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1には、溶接制御を行うコントロールユニット7と、前記移動装置4の支持部材21に固定され、前記ワークWの被溶接部位L及びその近傍を上方から撮像する撮像装置8とが備えられている。
【0030】
撮像装置8は、例えば所定周期毎に画像を取得可能な(動画を取得可能な)CCDカメラにより構成され、取得された画像はその都度コントロールユニット7に出力される。なお、移動装置4の支持部材21には、上側の金属板W1におけるレーザー光被照射部位L及びその近傍を照明するランプ9が設けられている。このランプ9は、溶接経路Rを挟んで撮像装置8とは反対側に配設され、前記レーザー光被照射部位L及びその近傍を斜め上方から照明している。また、このランプ9としては例えばキセノンランプが使用可能である。
【0031】
コントロールユニット7は、画像が入力される都度画像を解析すると共に、その解析結果に基づいて、前記レーザーヘッド2に出力制御信号を、前記移動装置4のモータ24に回転速度制御信号を、前記フィラーワイヤ供給装置10のモータ15に回転速度制御信号を、電磁石装置40の電磁石用電源装置43に電流制御信号を、フィラーワイヤ加熱装置6の加熱電源装置31に電流制御信号をそれぞれ出力するようになっている。
【0032】
図3は、隙間Zが生じた二枚の金属板W1,W2をフィラーワイヤXを供給しながら溶接した場合に、良好な溶接強度が得られたワークについての幅方向断面写真(一例)である。この写真からわかるように、二枚の金属板W1,W2は溶融金属が固化して形成されたビードWBを介して連結される。また、このビードWBの幅方向左右には、上下の金属板W1,W2のそれぞれに金属組織変化が生じた熱影響部WC1,WC2(ビードWBの左右において白っぽく変色している間の部分)が存在している。なお、図3は、一例であり、上下の金属板W1,W2の板厚がそれぞれ1.6mm、隙間Zが1.3mmで、レーザー出力6kw、レーザービーム径0.6mm、フィラーワイヤXの直径0.9mm、フィラーワイヤXの供給速度9.5m/min、溶接速度1.5m/minの場合のものである。
【0033】
ここで、本願発明者は、前記撮像装置8により、図1に示すようなワークWについて、フィラーワイヤXに電流は流しているが前述の磁界を形成していない環境下において、図4に示すような、溶接中における被溶接部位L及びその周辺の可視画像(動画)を取得し、この画像を分析した。この分析によれば、磁界を形成していない環境下では、上下の金属板W1,W2の溶接は図5〜図7に示すように行われていると考えられる。
【0034】
まず、図5により概要について説明すると、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間Zが生じた金属板W1,W2の上側の金属板W1の上面(表面)に向けてレーザーヘッド2からレーザー光LBを照射しつつ、レーザー光LB(レーザヘッド2)を溶接経路Rに沿ってこれら二枚の金属板W1,W2に対して矢印αで示すように移動させながら、レーザー光LBの被照射部位Lにその移動に端部が追随するようにワイヤ供給ノズル11からフィラーワイヤXを供給して、上側の金属板W1のレーザー光被照射部位Lを溶融させて上下に貫通する溶融穴部WKを形成しつつ前記フィラーワイヤXの端部を溶融させる。そして、これらの溶融金属は溶融穴部に貯留されてなる溶融池WYを溶接経路R後方に形成しつつこれらの溶融金属を前記隙間Zを越えて下方に垂下する。そして、これにより上下の金属板W1,W2が連結されると共に、溶融池WYの後方には溶融金属が固化したビードWBが形成される。
【0035】
詳しく説明すると、図6、図7(a)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの前方近傍では、上側の金属板W1におけるレーザー光中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。また、溶融金属Wyの周囲には、該溶融金属Wyから伝達される熱により金属組織変化が生じた熱影響部WC1が生じている。WKは、レーザー光LBにより金属がプラズマ状態となり、その圧力により溶融金属Wyを周囲に押しやって形成された溶融穴部(キーホール)であり、この図にはその前部があらわれている。
【0036】
図6、図7(b)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBc位置においては、溶融穴部WKは上側の金属板W1を貫通して下側の金属板W2に達している。そして、下側の金属板W2においても、レーザー光中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。上側の金属板W1の溶融金属Wyは下側金属板W2側へ垂下している。下側金属板W2の溶融金属Wyの周囲には熱影響部WC2が生じている。
【0037】
図6、図7(c)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcの後方近傍では、上側金属板W1の溶融金属Wyがさらに下方へ垂下し、上側金属板W1と下側金属板W2とを連結している。なお、この連結部分は、溶融池WYの前部でもある。
【0038】
図6(b)、図7(d)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりも後方位置においては、溶融金属Wyが、先に形成されていた溶融穴部に貯留されることにより溶融池WYが形成されている。
【0039】
図6(b)、図7(e)に示すように、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりもさらに後方位置においては、溶融池WYの溶融金属Wyが下側から固化し始めており、さらに後方においては、図7(f)に示すように、溶融池WYの溶融金属が上から下まで全て固化している。
【0040】
ところで、図8(a)(図7(d)の断面位置に対応する)に示すように、両金属板W1,W2間の隙間Zが大きい場合には、上側金属板W1の溶融金属Wyが図7の場合と同程度垂下しても下側の金属板W2に接触できず、その結果、上下の金属板W1,W2が連結されない場合がある。本願発明者の実験等に基づく知見によれば、この原因は、溶融金属Wyに表面張力により塊化作用が生じていることにより重力だけでは表面張力に対抗して溶融金属Wyが十分に下方に垂下することができないことと考えられる。
【0041】
そこで、本願発明者は、レーザー光被照射部L近傍に前述のような電磁石装置40を設けたものである。これによれば、溶融金属Wyには、下向きの力として、重力だけでなく図8(a)に示すように下向きのローレンツ力Frが作用するので、表面張力に抗して溶融金属Wyを垂下させて、図8(b)に示すように、上側金属板W1と下側金属板W2とを溶融金属Wyで連結させることが可能となる。
【0042】
また、図7(b)、(c)、(d)の段階においても、ローレンツ力Frを作用させることにより、溶融金属Wyによる上下の金属板W1,W2の連結の確実性を一層向上させることができる。なお、この場合、前述の図8(a)から図8(b)の状態に移行させるのに必要な強さのローレンツ力Frは必要ない。
【0043】
ここで、本願発明者に実験等の基づく知見によれば、図8(a)のように溶融金属Wyが十分に下方に垂下しない場合には、溶融金属Wyの熱は上側金属板W1の幅方向に伝達されるしかなく、その結果、溶融金属Wyの幅が拡大し、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以上の幅になることがわかっている。逆に言えば、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以上の幅となっているような場合には、両金属板W1,W2が溶融金属Wyにより連結されていないものと推定される。
【0044】
そこで、本実施の形態においては、前記撮像装置8により上側の金属板W1側から、溶融池WYにおける前記溶融穴部WKの近傍部分を撮像すると共に、その撮像データをコントロールユニット7により画像解析して、前記溶融池WYの生成状態(溶融池WYの幅dy等)を分析し、その分析結果に基づいてローレンツ力Frの強さを調整するようにしている。
【0045】
図9は、コントロールユニット7で行われるこの制御の一例を示すフローチャートである。なお、このフローチャートによる制御は、所定周期で繰り返し実行される。なお、所定周期は例えば10msというごく短い周期に設定されている。
【0046】
まず、ステップS1で、撮像装置8で取得された最新の画像データを入力する。
【0047】
次に、ステップS2で、この入力された画像データを画像解析して、溶接経路R上におけるレーザー光中心LBcから所定距離da(図6参照)後方位置での溶融池WYの幅dyを検出する。ここで、この所定距離daは、レーザー光中心LBcからできるだけ近く、かつ溶融穴部WKの前後長が多少変動した場合でも溶融池WYが確実に存在する一方でできるだけ溶融穴部WKの近くとなる距離に設定されており、例えばレーザー光LBのビーム径rb(上側金属板W1の表面位置における径)の2倍〜3倍の距離とされている。
【0048】
また、金属板W1における溶融池WY部分の検出は、例えば、上側金属板W1表面と溶融池WYの色彩差、輝度差等に基づいて検出することができる。また、溶融池WYはその側方部分と比較して著しく温度が高くなっているので、赤外線領域の画像データを取得して上側金属板W1上面の温度分布を検出し、この温度分布に基づいて温度が溶融温度以上となっている部分を抽出することにより、溶融池WYの検出を行うこともできる。
【0049】
次に、ステップS3において、ステップS2で検出された溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下か否かを判定する。すなわち、上下の金属板W1,W2の連結状態が良好か否かを判定する。そして、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下のときは(YES)、ステップS4で、基準溶接条件を維持する。なお、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下のときにおいては、連結状態が基本的に良好と推定されるので、ローレンツ力Frの強さは、要求する溶融金属Wyの垂下の確実性の程度にあわせて任意に設定すればよい。一方、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下でなくなったときは(NO)、ステップS5に進む。
【0050】
ステップS5では、電磁石装置40のコイル42の通電電流を、溶融池WYの幅dyが5倍以下のときよりも増加させて、下向きのローレンツ力Frを強くする。このときのローレンツ力Frの強さは、隙間Zの大きさが想定最大値のときに、溶融金属Wyの表面張力に抗して該溶融金属Wyを重力とで下側金属板Z2まで垂下させることができる強度に設定すればよい。なお、この強度は実験等で取得すればよい。これによれば、該溶融金属Wyが下方に垂下しやすくなり、図8(b)に示すように、上下の金属板W1の溶融金属Wyが隙間Zを超えて下側金属板Z2の溶融金属Wyに連結される。そして、これにより、溶融金属Wyの熱が下側金属板W2に伝達され、上側金属板W1の溶融池WYの幅dyが適正化(縮小)されることとなる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態に係るレーザー溶接装置1によれば、上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間Zが生じた平板状の二枚の金属板W1,W2のうちの上側の金属板W1表面に向けてレーザー光LBが照射されつつ該レーザ光LBが所定の移動経路Rに沿ってこれら二枚の金属板W1,W2に対して相対的に移動しながら、レーザー光LBの被照射部位Lにその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤXが供給されて、上側の金属板W1のレーザー光被照射部位Lが溶融して上下に貫通する溶融穴部WKが形成されつつXの端部が溶融する。そして、これらの溶融金属Wyにより溶融穴部WKの移動経路R後方に溶融池WYが形成される。
【0052】
その場合に、本実施の形態においては、前記金属板W1,W2表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界Hを形成した状態で、前記溶融金属Wyに前記磁界Hの方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流Iが流されることにより、これらの溶融金属Wyに下向きのローレンツ力Frが作用して、該溶融金属Wyの前記隙間Zを越えた下方への垂下が促進される。したがって、溶融金属Wyによる上下の金属板W1,W2の連結連結の確実性が向上する。
【0053】
また、溶接実行中、上側の金属板W1側から前記溶融池WYにおける溶融穴部WK近傍部分が撮像されると共に、この撮像データに基づいて溶融池WYの生成状態を分析することにより前記二枚の金属板W1,W2の連結状態が良好か否かが判定され、連結状態が良好でないときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力Frの大きさが、前記電流Iの大きさまたは前記磁界Hの大きさを調整することにより調整されることとなる。特に、本発明においては、実際の溶融池WYの生成状態を画像に基づいて正確に把握し、その把握した状態に応じて連結状態の良否を判定するので、正確な判定を行うことができる。つまり、良好な品質の溶接を行うことができるようになる。また、撮像及び判定を非常に短い周期で繰り返し行われるので、連結状態が良好でないと判定されても即座に調整されることとなり、その結果、連結状態が良好でないと判定された部分においてもその後垂下する溶融金属Wyにより連結状態が改善されることとなる。
【0054】
また、従来、溶接されたワークの溶接部の検査は該ワークを切断したりタガネを打ち込むことにより行われていたが、この方法の場合、溶接結果がNGの場合、該ワークが無駄になることもあった。しかし、本発明によれば、溶接中に検出された状況に応じてほぼリアルタイムで調整が行われるので、ワークの溶接NGが防止されると共に、切断やタガネ打ち込みによる検査が不要となる。
【0055】
なお、前記実施の形態では、ローレンツ力Frの調整を電磁石装置40のコイル42の通電電流を調整することにより、すなわち磁界Hを調整することにより行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィラーワイヤ加熱装置6によるフィラーワイヤXへの通電電流を調整することにより、すなわち溶融金属Wyに流す電流Iの大きさを調整することにより行ってもよい。なお、この場合、フィラーワイヤXが該電流Iにより溶融しない範囲で調整を行う必要がある。
【0056】
また、前記実施の形態では、ローレンツ力Frの大きさを溶融池WYの幅dyに基づいて変更するようにしたが、溶融池WYの幅dyにかかわらず、ステップS5で説明した強さのローレンツ力Frを作用させるようにしてももちろんよい。また、溶融池WYの幅dyがレーザービーム径rbの5倍以下のときには、上下の金属板W1,W2の連結状態が良好と推定されるので、磁界Hの発生を停止してローレンツ力Frを生じさせないようにしてもよい。この場合、磁界Hの発生のための電力を削減することができる。
【0057】
また、本発明における電流の方向及び磁界の方向は、前記実施の形態に記載のものに限定されるものでない。すなわち、本発明は、金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流すことにより、溶融金属に下向きのローレンツ力を作用させることができるものであり、この条件に合致するものを広く含む。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、二枚の金属板間の隙間が大きな場合でも上側金属板側から下側金属板への溶融金属の垂下を良好に行わせて、上下の金属板の連結の確実性を向上可能なレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置を提供することができ、自動車産業の他、二枚の金属板の溶接が必要となる産業において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1 レーザー溶接装置(溶融手段)
7 コントロールユニット(溶融池幅検出手段、判定手段、調整手段)
8 撮像装置(撮像手段)
40 電磁石装置(垂下手段)
dy 溶融池の幅
Fr ローレンツ力
H 磁界
I 電流
L レーザー光被照射部
LB レーザー光
R 溶接経路
rb レーザービーム径
W1 上側の金属板
W2 下側の金属板
WK 溶融穴部
WY 溶融池
Wy 溶融金属
X フィラーワイヤ
Z 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接方法であって、
上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融工程と、
該溶融工程で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下工程とを有していることを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載のレーザー溶接方法において、
前記溶接工程の実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像工程と、
該撮像工程で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出工程と、
該溶融池幅検出工程で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定工程と、
該判定工程で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整工程とを有していることを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項3】
上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接装置であって、
上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融手段と、
該溶融手段で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下手段とを有していることを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載のレーザー溶接方法において、
前記溶接手段による溶接実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像手段と、
該撮像手段で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出手段と、
該溶融池幅検出手段で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定手段と、
該判定手段で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整手段とを有していることを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項1】
上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接方法であって、
上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融工程と、
該溶融工程で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下工程とを有していることを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載のレーザー溶接方法において、
前記溶接工程の実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像工程と、
該撮像工程で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出工程と、
該溶融池幅検出工程で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定工程と、
該判定工程で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整工程とを有していることを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項3】
上下に重ね合わされた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接装置であって、
上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザ光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させながら、レーザー光の被照射部位にその移動に端部が追随するようにフィラーワイヤを供給して、上側の金属板のレーザー光被照射部を溶融させて上下に貫通する溶融穴部を形成すると共に前記フィラーワイヤの端部を溶融させることにより、これらの溶融金属が前記溶融穴部に貯留されてなる溶融池を溶接経路後方に形成する溶融手段と、
該溶融手段で生成されたこれらの溶融金属に下向きのローレンツ力が作用するように、前記金属板表面にほぼ平行でかつ平面視で所定方向を向く磁界を形成した状態で、該溶融金属に前記磁界の方向に対して平面視で左回りにほぼ90度回転させた方向の電流を流し、該溶融金属の前記隙間を越えた下方への垂下を促進させる垂下手段とを有していることを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載のレーザー溶接方法において、
前記溶接手段による溶接実行中、上側の金属板側から前記溶融池を撮像する撮像手段と、
該撮像手段で撮像された撮像データに基づいて前記溶融池の幅を検出する溶融池幅検出手段と、
該溶融池幅検出手段で検出された溶融池の幅に基づいて前記二枚の金属板の連結状態が良好か否かを判定する判定手段と、
該判定手段で連結状態が良好でないと判定されたときは、連結状態が良好となるように、前記記ローレンツ力の大きさを、前記電流の大きさまたは前記磁界の大きさを調整することにより調整する調整手段とを有していることを特徴とするレーザー溶接方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図3】
【図4】
【図10】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図3】
【図4】
【図10】
【公開番号】特開2010−188350(P2010−188350A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32232(P2009−32232)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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