説明

レーザー溶接方法及びレーザー溶接装置

【課題】溶接終了時に、フィラーワイヤと金属板とを良好に切り離すことができるレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置を提供する。
【解決手段】二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板表面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光Aを照射して溶融池を形成するとともに、該溶融池における前記レーザー光の被照射部よりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤBを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接において、溶接終了時に、フィラーワイヤにレーザー光を照射することができるようにレーザーヘッド10を移動させ、フィラーワイヤに前記レーザーヘッドから前記所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光を照射し、フィラーワイヤにレーザー光を照射した状態でフィラーワイヤを溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し、フィラーワイヤと金属板とを切り離す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下に重ね合わせられた平板状の二枚の金属板のレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置に関し、金属溶接技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下に重ね合わされた二枚の金属板の溶接として、レーザー溶接が利用されつつある。このレーザー溶接は、二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して移動させることにより、二枚の金属板を溶融させて線状の溶接ビードを形成させるものである。
【0003】
また、レーザー光が照射される被照射部にフィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接することにより、金属板だけでなくフィラーワイヤも溶融させて、すなわち溶融金属を増加させて、二枚の金属板を連結させることも知られている。
【0004】
このようにレーザー光の被照射部にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接する際には、溶接終了時に、フィラーワイヤと溶接部とが接続され、該ワイヤを無理に引き離したときに、ワイヤの先端部に溶接部の金属固化物が玉状に付着したり溶接部に穴部が形成されたりするという溶接不良を生じる場合がある。
【0005】
これに対処するものとして、例えば特許文献1には、突き合わせ部にフィラーワイヤを供給しながらレーザー溶接するものであるが、溶接が終了してレーザー光の照射を停止したときにフィラーワイヤに所定の電流を流してフィラーワイヤを切断することが開示されている。また、例えば特許文献2には、レーザー照射停止タイミングよりも前のタイミングでフィラーワイヤの供給を停止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−235088号公報
【特許文献2】特開2001−198689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、レーザー光が照射される被照射部にフィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた平板状の二枚の金属板をレーザー溶接する場合、金属板とフィラーワイヤとをレーザー光によって溶融させることから、フィラーワイヤの溶融にエネルギーが消費されて金属板の溶融が不十分となることがある。
【0008】
これに対して、二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射することにより金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成し、この溶融池にフィラーワイヤをレーザー光の被照射部よりも溶接進行方向後方に供給することで、レーザー光のエネルギーがフィラーワイヤの溶融に消費されることなく、金属板の溶融に利用することが可能であると考えられる。
【0009】
また、上下に重ね合わせられた平板状の二枚の金属板をレーザー溶接する場合、二枚の金属板における対向する面は一般に完全な平面ではないので、二枚の金属板間には少なからず隙間が生じることとなるが、フィラーワイヤを溶融池に供給する前記方法によれば、二枚の金属板の間の対向する面に隙間が生じている場合においても、フィラーワイヤを用いて二枚の金属板を連結させることができると考えられる。
【0010】
しかしながら、フィラーワイヤを溶融池に供給しながら上下に重ね合わせられた平板状の二枚の金属板をレーザー溶接する場合には、フィラーワイヤが溶融池に供給されていることから、溶接終了時に、該ワイヤが溶融池の溶融金属が凝固して形成される溶接部に固着し、無理に引き離したときに、前述の場合と同様に、ワイヤの先端部に溶接部の金属固化物が玉状に付着したり溶接部に穴部が形成されたりするという溶接不良を生じることになる。
【0011】
そこで、本発明は、前記技術的課題に鑑みてなされたもので、フィラーワイヤを溶融池に供給しながら二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接において、溶接終了時に、フィラーワイヤと金属板とを良好に切り離すことができるレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本願の請求項1に係る発明は、上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するとともに、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部よりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、溶接終了時に、レーザー光を照射するレーザーヘッドを、前記フィラーワイヤにレーザー光を照射することができるように移動させる第1ステップと、前記フィラーワイヤに前記レーザーヘッドから前記所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光を照射する第2ステップと、前記フィラーワイヤに前記レーザー光を照射した状態で前記フィラーワイヤを前記溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し、前記フィラーワイヤと前記金属板とを切り離す第3ステップと、を備えている、ことを特徴としたものである。
【0013】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のレーザー溶接方法において、前記第1ステップでは、前記レーザー光の被照射部が前記フィラーワイヤの前記溶融池への進入部分を含むように前記レーザーヘッドを移動させる、ことを特徴としたものである。
【0014】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項2に記載のレーザー溶接方法において、前記第1ステップにおいて、前記レーザーヘッドを前記フィラーワイヤ側に平行移動させる又は回転移動させる、ことを特徴としたものである。
【0015】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するレーザーヘッドと、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部よりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤを供給可能に構成されると共に前記フィラーワイヤを前記溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し可能に構成されたワイヤ供給手段と、を備え、フィラーワイヤを溶融池に供給しながら二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、溶接終了時に、前記フィラーワイヤにレーザー光を照射することができるようにレーザーヘッドの移動を制御し、前記フィラーワイヤに前記レーザーヘッドから前記所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光を照射するように前記レーザーヘッドの作動を制御し、前記フィラーワイヤに前記レーザー光を照射した状態で前記フィラーワイヤを前記溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し、前記フィラーワイヤと前記金属板とを切り離すように前記ワイヤ供給手段の作動を制御する制御手段をさらに備えている、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本願の請求項1に係る発明によれば、上側の金属板表面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光を照射して形成された溶融池にレーザー光の被照射部よりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接において、溶接終了時に、フィラーワイヤにレーザー光を照射することができるようにレーザーヘッドを移動させ、フィラーワイヤにレーザーヘッドから前記所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光を照射し、フィラーワイヤにレーザー光を照射した状態で、フィラーワイヤを溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し、フィラーワイヤと金属板とを切り離す。
【0017】
これにより、溶接終了時に、エネルギー密度を低下させたレーザー光によってフィラーワイヤのみを溶融させて切り離すことができるので、ワイヤの先端部に溶接部の金属固化物が玉状に付着したり溶接部に穴部が形成されたりするという溶接不良が生じることを防止することができ、フィラーワイヤと金属板とを良好に切り離すことができる。また、溶接終了時に、フィラーワイヤを引き戻しながらレーザー光が照射されるので、ワイヤが切り離される際にワイヤの先端部が先細り状になる場合があるが、かかる場合においても、ワイヤを次の溶接に有効に使用することが可能である。
【0018】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、レーザー光の被照射部がフィラーワイヤの溶融池への進入部分を含むようにレーザーヘッドを移動させるので、前記効果をより具体的に実現することができる。
【0019】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、レーザーヘッドをフィラーワイヤ側に平行移動させる又は回転移動させるので、比較的簡単な装置を用いてレーザーヘッドを移動させることが可能であり、前記効果を有効に得ることができる。
【0020】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、レーザー溶接装置において、本願の請求項1に記載の発明と同様の作用、効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザー溶接装置の要部外観図である。
【図2】同溶接装置の制御システム図である。
【図3】(a):定常溶接中における金属板のレーザー光被照射部及びその近傍の状態を示す平面図である。(b):(a)図のX−X断面図である。
【図4】溶接終了時の制御を示すタイムチャートである。
【図5】定常溶接終了時及び溶接終了時の制御の第1ステップの説明図である。
【図6】溶接終了時の制御の第2ステップ及び第3ステップの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザー溶接方法及びレーザー溶接装置について、添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザー溶接装置1の要部を示し、このレーザー溶接装置1は、レーザー光Aを照射するレーザーヘッド10と、フィラーワイヤBを供給するワイヤ供給手段としてのワイヤ供給装置20と、フィラーワイヤBの加熱装置30とを有し、上下に重ね合わされた平板状の二枚の金属板W1、W2に対し、上方からレーザー光Aを照射すると共に、上側の金属板W1におけるレーザー光被照射部xの近傍に、加熱されたフィラーワイヤBを供給するようになっている。
【0024】
ここで、金属板W1、W2は、クランプ装置2により重ね合わされた状態で固定されているが、両金属板W1、W2の間には、誇張して示すように、面精度に起因する隙間wが生じている。
【0025】
レーザーヘッド10及びワイヤ供給装置20は、溶接ロボット3のアーム3aに固着されたベース板4に取り付けられ、該アーム3aの移動により、金属板W1、W2に対して矢印aで示す溶接進行方向に移動し、上側の金属板W1の上面に対するレーザー光Aの被照射部x及びフィラーワイヤBの供給位置yを同方向aに移動させることにより、上下の金属板W1、W2を所定の溶接経路に沿って溶接することができるようになっている。
【0026】
レーザーヘッド10は、例えばYAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを利用して構成され、レーザー出力の制御、及び内蔵された光学部材12(図5及び図6参照)の移動によるレーザー光Aの焦点位置の制御が可能とされている。前述したように、レーザーヘッド10はベース板4に取り付けられているが、より詳しくは、ベース板4に、レーザーヘッド回動駆動機構12(図2参照)によってベース板4に対して回動可能に構成される回動軸11が取り付けられ、この回動軸11にレーザーヘッド10が固定して取り付けられている。これにより、レーザーヘッド回動駆動機構12の作動を制御することで、レーザーヘッド10から照射されるレーザー光Aの被照射部xの制御が可能とされている。
【0027】
ワイヤ供給装置20は、ワイヤ供給ユニット21と、レーザーヘッド10よりも溶接進行方向後方に配置されたワイヤ供給ノズル22と、を有し、ワイヤ供給ユニット21におけるワイヤ供給モータ23(図2参照)によってフィラーワイヤBが巻回されたワイヤロール24からフィラーワイヤBを繰り出し、ワイヤ供給ノズル22を通過させて、上側の金属板W1の上面の所定位置に所定角度で供給するようになっている。ワイヤ供給モータ23は、回転速度や回転方向の制御が可能とされ、これにより、ワイヤ供給装置20は、フィラーワイヤBの供給量が調整可能に構成されるとともに、ワイヤロール24からフィラーワイヤBを供給可能に、且つワイヤロール24へフィラーワイヤBを引き戻し可能に構成されている。
【0028】
ワイヤ加熱装置30は、フィラーワイヤBに通電することにより生じるジュール熱で該ワイヤBを加熱するもので、加熱電源装置31と、加熱電源装置31とワイヤ供給ノズル22とを接続するノズル側ケーブル32と、加熱電源装置31とクランプ装置2とを接続するクランプ側ケーブル33とを有する。
【0029】
そして、ノズル側ケーブル32及びワイヤ供給ノズル22を介してワイヤ供給ノズル22内に保持されたフィラーワイヤBに電圧を印加すると、フィラーワイヤBが上側の金属板W1に接触した状態で、クランプ側ケーブル33、クランプ装置2及び上側の金属板W1を介して加熱電源装置31とフィラーワイヤBとが電気的に接続されることにより、フィラーワイヤBがワイヤ供給ノズル22内の電圧印加位置から先端までの範囲で通電され、その範囲がジュール熱によって加熱されるようになっている。
【0030】
また、このレーザー溶接装置1はコントロールユニット40を有し、図2に示すように、コントロールユニット40からの制御信号により、レーザーヘッド10のレーザー出力やレーザー光Aの焦点位置の制御、ワイヤ供給装置20におけるワイヤ供給モータ23の回転速度や回転方向の制御、レーザーヘッド10を回転移動させるレーザーヘッド回動駆動機構12の制御、ワイヤ加熱装置30によるフィラーワイヤBへの電圧の印加制御、及び溶接ロボット3の制御等を行うようになっている。
【0031】
そして、定常溶接時には、コントロールユニット40により、レーザー光Aの焦点は、上側の金属板W1表面にフォーカス状態、すなわち上側の金属板W1に最も効率よくエネルギーが伝達される状態に制御され、また、レーザーヘッド10は、図1に示すように、レーザー光Aを上側の金属板W1に略垂直方向に照射することができるように制御される。なお、レーザー光Aの出力、フィラーワイヤBの送り速度や加熱のための電流値、ロボットアーム3aの移動速度(溶接速度)等は、適切に設定される。
【0032】
これにより、定常溶接時、ロボットアーム3aの移動に伴って、両金属板W1、W2が所定の溶接経路に沿って溶接されることになる。
【0033】
ここで、定常溶接時の状態を説明すると、図3に示すように、隙間wが生じた状態で上下に重ね合わされた平板状の二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1の上面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光Aを照射し、少なくとも上側の金属板W1のレーザー光被照射部xを溶融させ、溶融した金属Wbが貯留されてなる溶融池WBを少なくとも上側の金属板W1の上面から下面にわたって形成する。本実施形態では、定常溶接時にレーザー光Aが照射されるレーザー光Aの被照射部位xは、レーザー光Aにより金属がプラズマ状態となり、その圧力により溶融金属Wbを周囲に押しやってキーホールWaが形成される。そして、レーザー光Aを溶接進行方向aに移動することにより、レーザー光Aの被照射部xよりも溶接進行方向後方側にわたって溶融池WBが形成されることとなる。
【0034】
また、これと並行して、予め通電により加熱されたフィラーワイヤBを、端部がレーザー光Aの被照射部xから溶接進行方向後方に所定距離zを隔てて溶融池WBに進入するように溶融池WBに供給し、通電による加熱と溶融池WBに貯留されている溶融金属Wbの熱とにより該フィラーワイヤBの端部を溶融させ、上側の金属板W1における溶融池WB内の溶融金属の量を増量する。
【0035】
これにより、増量された溶融金属の自重や、フィラーワイヤBの端部を溶融池WBに進入させる際の押圧力f等により、上下の金属板W1、W2の間の隙間wへの溶融金属Wbの進入が促進されることになり、上側の金属板W1と下側の金属板W2とが溶融金属Wbにより連結されることとなる。そして、溶融池WBの溶融金属Wbが凝固して、非溶融状態の溶接部WCが形成されることとなる。
【0036】
このようにして、定常溶接時、フィラーワイヤBを溶融池WBに供給しながら上下に重ね合わせられた平板状の二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するレーザー溶接においては、前述したように、フィラーワイヤBが溶融池WBに供給されていることから、溶接終了時に、フィラーワイヤBを引き戻しても溶融池WBの溶融金属Wbが凝固して形成される溶接部WCに固着し、無理に引き離すと、該ワイヤBの先端部に溶接部WCの金属固化物が玉状に付着したり溶接部WCに穴部が形成されたりするという溶接不良を生じることとなる。
【0037】
そこで、溶接終了時において、フィラーワイヤBを良好に金属板W1、W2から切り離すため、コントロールユニット40は、レーザーヘッド10や、ワイヤ供給装置20に対し、定常溶接時とは異なる制御を行うようになっており、次に、この溶接終了時の制御を、図4のタイムチャートと図5及び図6の各ステップの状態説明図とを用いて説明する。
【0038】
前述したように、定常溶接時には、レーザーヘッド10から上側の金属板W1表面にフォーカス状態、すなわち上側の金属板W1に最も効率よくエネルギーが伝達されるように、焦点を該金属板W1の上面に設定した状態で所定のエネルギー密度を有するレーザー光Aを照射し、少なくとも上側の金属板W1を溶融させて溶融金属Wbが貯留されてなる溶融池WBを形成するとともに、この溶融池WBにおけるレーザー光Aの被照射部xよりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤBを供給する。このフィラーワイヤBには電圧が印加されており、フィラーワイヤBは通電により加熱された状態で溶融池Wbに供給される。これにより、フィラーワイヤBを溶融池WBに供給しながら所定の溶接経路に沿って二枚の金属板W1、W2がレーザー溶接される。
【0039】
そして、所定の溶接経路に沿ったレーザー溶接を行い、定常溶接を終了する際には、レーザー光Aの照射とフィラーワイヤBの溶融池WBへの供給とを停止するとともに、フィラーワイヤBへの電圧印加とロボットアーム3aの移動とを停止する。定常溶接の終了時には、図5(a)に示すように、フィラーワイヤBが溶融池WBに供給されており、レーザーヘッド10は、該レーザーヘッド10からレーザー光Aを照射したときにフィラーワイヤBを照射しない位置に制御されている。
【0040】
本実施形態では、溶接終了時に、先ず、第1ステップとして、レーザーヘッド回動駆動機構12によるレーザーヘッド10の移動を制御し、レーザーヘッド10をフィラーワイヤB側に、すなわち溶接進行方向後方側に所定角度回転移動させ、図5(b)に示すように時計回り方向に回転移動させる。このとき、レーザーヘッド10は、フィラーワイヤBにレーザー光Aを照射することができるように、より具体的にはレーザー光Aの被照射部xがフィラーワイヤBの溶融池WBへの進入部分を含むように回転移動される。本実施形態では、レーザーヘッド10の光軸ACが溶融池WBへのフィラーワイヤBの進入部分に一致するように移動される。
【0041】
次に、第2ステップとして、図6(a)に示すように、レーザーヘッド10の作動を制御し、レーザーヘッド10の光学部材12を光軸ACに沿って移動させ、フィラーワイヤBにレーザーヘッド10からレーザー光Aを照射したときにフィラーワイヤBが照射される位置においてデフォーカス状態、すなわちフィラーワイヤBが照射される位置が最も効率よくエネルギーが伝達される位置からずれている状態となるように焦点を移動させる。これにより、フィラーワイヤBにレーザーヘッド10からレーザー光Aを照射したときに定常溶接時における所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光を照射することができる。
【0042】
そして、レーザーヘッド10からフィラーワイヤBに定常溶接時における所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光Aを照射する。第1ステップにおいて、レーザーヘッド10は、その光軸ACが溶融池WBへのフィラーワイヤBの進入部分に一致するように移動され、レーザー光Aを照射したときにレーザー光Aの被照射部xがフィラーワイヤBの溶融池WBへの進入部分を含むように移動されているので、フィラーワイヤBは、溶融池WBへの進入部分においてレーザー光Aの照射を受けることとなる。なお、図4では、定常溶接時において上側の金属板W1の表面に照射されるレーザー光Aのエネルギーを「HI」として表し、第2ステップ及び第3ステップにおいてフィラーワイヤBに照射されるレーザー光Aのエネルギーを「LOW」として表している。
【0043】
次に、第3ステップとして、図6(b)に示すように、第2ステップにおいてレーザー光AをフィラーワイヤBに照射した状態で、ワイヤ供給装置20のワイヤ供給モータ23の作動を制御し、フィラーワイヤBを溶融池WBへの供給方向と反対方向にワイヤリール24に引き戻し、フィラーワイヤBと金属板W1、W2とを切り離す。フィラーワイヤBは、溶融池WBへの進入部分においてエネルギー密度が低下されたレーザー光Aの照射を受けながら引き戻され、上側の金属板W1の上面近傍においてレーザー光Aによって溶断され、フィラーワイヤBと金属板W1、W2とを良好に切り離すことができる。
【0044】
本実施形態に係るレーザー溶接装置1にはまた、フィラーワイヤBの溶融池WBへの進入部分近傍を撮像する図示しない撮像装置が備えられ、レーザー溶接装置1は、前記撮像装置によって撮像された画像を画像処理してフィラーワイヤBが金属板W1、W2と切り離されたか否かが検出することができるようになっており、図4では、このフィラーワイヤBと金属板W1、W2とが切り離された時間をt1として表している。そして、フィラーワイヤBが金属板W1、W2と切り離された後、所定位置までフィラーワイヤBを引き戻すように時間t2までフィラーワイヤBが引き戻される。
【0045】
一方、レーザーヘッド10から照射されるレーザー光Aは、フィラーワイヤBが時間t1において金属板W1、W2と切り離された後、所定時間経過した時間t3において照射が停止される。これにより、フィラーワイヤBが溶断されて金属板W1、W2側にフィラーワイヤBの一部が残った場合にも、フィラーワイヤBを溶融させることができ、未溶融のワイヤBが金属板W1、W2に残存することを防止することができる。
【0046】
なお、第3ステップの後には 次の溶接加工のために、レーザーヘッド10が定常溶接時の状態に移動され、すなわちフィラーワイヤ10側と反対側である溶接進行方向前方側に回転移動されるとともに、レーザーヘッド10の光学部材12が定常溶接時の状態に移動され、その後に、ロボットアーム3aが次の溶接加工のための所定位置に移動される。
【0047】
本実施形態では、第1ステップにおいて、レーザー光AをフィラーワイヤBに照射することができるようにレーザーヘッドBをフィラーワイヤB側に回転移動させているが、レーザーヘッド10をベース板4に対して平行移動可能に構成し、レーザー光AをフィラーワイヤBに照射することができるようにレーザーヘッド10をフィラーワイヤB側に、すなわち溶接進行方向後方に平行移動させるようにすることも可能である。
【0048】
このように、本実施形態においては、上側の金属板W1表面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光Aを照射して形成された溶融池WBにレーザー光Aの被照射部xよりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤBを供給し、二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接するレーザー溶接において、溶接終了時に、フィラーワイヤBにレーザー光Aを照射することができるようにレーザーヘッド10を移動させ、フィラーワイヤBにレーザーヘッド10から前記所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光Aを照射し、フィラーワイヤBにレーザー光Aを照射した状態で、フィラーワイヤBを溶融池WBへの供給方向と反対方向に引き戻し、フィラーワイヤBと金属板W1、W2とを切り離す。
【0049】
これにより、溶接終了時に、エネルギー密度を低下させたレーザー光AによってフィラーワイヤBのみを溶融させて切り離すことができるので、ワイヤBの先端部に溶接部WCの金属固化物が玉状に付着したり溶接部WCに穴部が形成されたりするという溶接不良が生じることを防止することができ、フィラーワイヤBと金属板W1、W2とを良好に切り離すことができる。また、溶接終了時に、フィラーワイヤBを引き戻しながらレーザー光Aが照射されるので、ワイヤBが切り離される際にワイヤBの先端部が先細り状になる場合があるが、かかる場合においても、ワイヤBを次の溶接に有効に使用することが可能である。
【0050】
また、第1ステップでは、レーザーヘッド10をフィラーワイヤB側に平行移動させる又は回転移動させるので、比較的簡単な装置を用いてレーザーヘッド10を移動させることが可能であり、前記効果を有効に得ることができる。
【0051】
前述した実施形態では、レーザーヘッド10の光学部材12を光軸ACに沿って移動させ、定常溶接時には上側の金属板W1の上面にフォーカス状態でレーザー光Aを照射し、溶接終了時の第2ステップ及び第3ステップにはフィラーワイヤBにデフォーカス状態でレーザー光Aを照射し、溶接終了時に定常溶接時よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光AをフィラーワイヤBに照射しているが、レーザーヘッド10から照射されるレーザー光Aの出力を変えることにより、溶接終了時に定常溶接時よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光AをフィラーワイヤBに照射するようにすることも可能である。
【0052】
この場合、溶接終了時に、定常溶接時よりも出力が低下されたレーザー光Aが照射されるので、フィラーワイヤBのみを溶融させて金属板W1、W2と切り離すことができるとともに、レーザー光Aによって金属板W1、W2がさらに溶融されて穴部が形成されることを防止することができる。
【0053】
なお、図5及び図6では、溶接終了時の第1ステップ、第2ステップ及び第3ステップにおいて溶融池WBを同一形状で表しているが、定常溶接終了時にレーザー光Aの照射を停止した時点から溶融池WBはその周囲から凝固することとなるが、かかる場合においても、本実施形態に係るレーザー溶接では、エネルギー密度を低下させたレーザー光AによってフィラーワイヤBのみを溶融させて切り離すことができるので、フィラーワイヤBと金属板W1、W2とを良好に切り離すことができる。
【0054】
本発明は、例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明は、フィラーワイヤを溶融池に供給しながら上下に重ね合わされた二枚の金属板をレーザー溶接する場合に、溶接終了時に、フィラーワイヤと金属板とを良好に切り離すことができ、もって、この種の溶接を行う例えば自動車産業等において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0056】
1 レーザー溶接装置
10 レーザーヘッド
20 ワイヤ供給装置
40 コントロールユニット
A レーザー光
B フィラーワイヤ
W1 上側の金属板
W2 下側の金属板
WB 溶融池
Wb 溶融金属
WC 溶接部
w 隙間
x レーザー光被照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するとともに、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部よりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤを供給し、二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、溶接終了時に、
レーザー光を照射するレーザーヘッドを、前記フィラーワイヤにレーザー光を照射することができるように移動させる第1ステップと、
前記フィラーワイヤに前記レーザーヘッドから前記所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光を照射する第2ステップと、
前記フィラーワイヤに前記レーザー光を照射した状態で前記フィラーワイヤを前記溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し、前記フィラーワイヤと前記金属板とを切り離す第3ステップと、
を備えている、ことを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載のレーザー溶接方法において、
前記第1ステップでは、前記レーザー光の被照射部が前記フィラーワイヤの前記溶融池への進入部分を含むように前記レーザーヘッドを移動させる、
ことを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項3】
前記請求項2に記載のレーザー溶接方法において、
前記第1ステップにおいて、前記レーザーヘッドを前記フィラーワイヤ側に平行移動させる又は回転移動させる、
ことを特徴とするレーザー溶接方法。
【請求項4】
上下に重ね合わせられた状態で対向する面の間に隙間が生じた平板状の二枚の金属板のうち上側の金属板表面に所定のエネルギー密度を有するレーザー光を照射し、前記金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成するレーザーヘッドと、前記溶融池における前記レーザー光の被照射部よりも溶接進行方向後方にフィラーワイヤを供給可能に構成されると共に前記フィラーワイヤを前記溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し可能に構成されたワイヤ供給手段と、を備え、フィラーワイヤを溶融池に供給しながら二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、
溶接終了時に、前記フィラーワイヤにレーザー光を照射することができるようにレーザーヘッドの移動を制御し、前記フィラーワイヤに前記レーザーヘッドから前記所定のエネルギー密度よりもエネルギー密度を低下させたレーザー光を照射するように前記レーザーヘッドの作動を制御し、前記フィラーワイヤに前記レーザー光を照射した状態で前記フィラーワイヤを前記溶融池への供給方向と反対方向に引き戻し、前記フィラーワイヤと前記金属板とを切り離すように前記ワイヤ供給手段の作動を制御する制御手段をさらに備えている、
ことを特徴とするレーザー溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−62728(P2011−62728A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215746(P2009−215746)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】