レーザ加工方法、レーザ加工機
【課題】太陽電池またはエレクトロルミネッセンスデバイスの製造過程における、裏面電極膜及び光電変換層をともに切削除去する加工を支障なく遂行し、透明導電膜等へのダメージを回避する。
【解決手段】最上層にある裏面電極膜3に向けてレーザ光43を照射して少なくとも裏面電極膜3を切削する第一の照射工程と、第一の照射工程にてレーザ光43を照射した箇所の近傍にレーザ光44を照射して裏面電極膜3の下方に残存する光電変換層2を切削する第二の照射工程とを個別に実行することとした。第一の照射工程にて照射するレーザ光43と、第二の照射工程にて照射するレーザ光44とは、波長、出力、パルス幅またはビームプロファイルを相異させることが好ましい。
【解決手段】最上層にある裏面電極膜3に向けてレーザ光43を照射して少なくとも裏面電極膜3を切削する第一の照射工程と、第一の照射工程にてレーザ光43を照射した箇所の近傍にレーザ光44を照射して裏面電極膜3の下方に残存する光電変換層2を切削する第二の照射工程とを個別に実行することとした。第一の照射工程にて照射するレーザ光43と、第二の照射工程にて照射するレーザ光44とは、波長、出力、パルス幅またはビームプロファイルを相異させることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すためのレーザ加工方法、及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、現在実用に供されている太陽電池は、基板上に積層膜、即ち第一の電極膜、発電層(光電変換層、光吸収層)及び第二の電極膜を製膜して構成される。発電層に有機化合物を用いる有機系太陽電池であれば、基板上に透明導電膜、有機半導体膜、裏面電極膜(典型的には、金属膜)をこの順に重ねることとなる。
【0003】
このような積層構造は、ディスプレイや面発光照明等のエレクトロルミネッセンスデバイス(有機発光ダイオード(OLED)、発光ポリマー(LEP)はこれに含まれる)においても同様である。即ち、基板上に透明導電膜、発光層(光電変換層)、裏面電極膜をこの順に重ねる。
【0004】
下記特許文献を参照しつつ、一般的な薄膜太陽電池の製造手順を概説する。まず、透明基板上に第一の電極膜たる透明導電膜を製膜し、この透明導電膜をセル単位に分割する分離溝を形成する(P1加工)。続いて、透明導電膜の上に光電変換層を製膜し、光電変換層に分離溝を形成する(P2加工)。先に透明導電膜に形成した分離溝内には、光電変換層の構成材料が入り込む。さらに、光電変換層の上に第二の電極膜たる裏面電極膜を製膜し、裏面電極膜を光電変換層とともに除去して分離溝を形成する(P3加工)。先に光電変換層に形成した分離溝内には、裏面電極膜の構成材料が入り込む。以上を経て、光起電力素子として機能する複数のセルを直列に接続した構造が完成する。
【0005】
シリコン系太陽電池の製造におけるP3加工では、光電変換層である半導体膜が吸収し得る波長のレーザ光を基板側から、基板を透過させて半導体膜に照射することで、熱現象により裏面電極膜もろとも半導体膜を吹き飛ばして除去することが可能である。
【0006】
これに対し、有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイス等の製造において、上述の手法を以てP3加工を行うことは困難である。従って、裏面電極膜側からレーザ光を照射し、裏面電極膜及び光電変換層を切削除去せざるを得ない。
【0007】
しかしながら、裏面電極膜となる金属膜は、他の層と比較して加工閾値が高い。換言すれば、より強いエネルギを持つレーザ光を照射しないと金属膜を十分に除去することができない。有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイス等の製造において、強いエネルギを持つレーザ光を金属膜に照射して金属膜及び光電変換層を一挙に除去しようとすると、光電変換層だけでなくその下にある透明導電膜の層にまでダメージを与えてしまい、製品の性能を低下させてしまうきらいがある。それ故、従来、レーザ加工機を使用してP3加工を行うことは非現実的との考えが大勢を占めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4563491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すにあたり、最上層のレーザ加工閾値が高い場合における問題を解消しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すためのレーザ加工方法であって、前記複数の層のうちの最上層に向けてレーザ光を照射して少なくとも最上層を除去する第一の照射工程と、前記第一の照射工程にてレーザ光を照射した箇所の近傍にレーザ光を照射して前記最上層の下方に残存する層を除去する第二の照射工程とを含むレーザ加工方法を実施することとした。要するに、レーザ光を敢えて複数回に分けて照射し、複数の層を除去するようにしたのである。
【0011】
前記第一の照射工程にて照射するレーザ光と、前記第二の照射工程にて照射するレーザ光とでは、その波長、出力、パルス幅、繰り返し周波数、ビームプロファイル(レーザビームの投影形状、及び/または、投影形状におけるエネルギ密度分布)または加工速度(加工箇所へのレーザ光の照射時間、若しくはレーザ光を出射する加工ノズルの加工対象物に対する相対的な移動速度)のうち少なくとも一を変更することができる。
【0012】
前記最上層は、例えば金属膜である。既に述べた通り、金属膜はレーザ加工閾値が高い。
【0013】
加工対象物が太陽電池またはエレクトロルミネッセンスデバイスであるならば、最上層である電極膜の下方に存在する層は光電変換層である。
【0014】
本発明は特に、有機系太陽電池または有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造に適している。即ち、本発明の方法を採用すれば、最上層である裏面電極膜(金属膜)及び裏面電極膜の下方に存在する有機薄膜半導体または発光層をともに除去するP3加工を容易に行うことができる
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すにあたり、最上層のレーザ加工閾値が高い場合における問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図2】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図3】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図4】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図5】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図6】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図7】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図8】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法により完成した電池の構造を示す図。
【図9】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法を実施するためのレーザ加工機のレーザ光照射手段を示す図。
【図10】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法を実施するためのレーザ加工機のレーザ光照射手段を示す図。
【図11】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法を実施するためのレーザ加工機の全体の概略構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ加工方法は、有機系太陽電池または有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造を念頭においたものである。図1ないし図7に示す本実施形態の太陽電池の製造方法は、以下の工程を具備する。
(a)第一の電極膜の製膜
(b)第一の電極膜の分離溝形成(P1加工)
(c)光電変換層の製膜
(d)光電変換層の分離溝形成(P2加工)
(e)第二の電極膜の製膜
(f)光電変換層及び第二の電極膜の分離溝形成(P3加工)
図1に示すように、製膜工程(a)では、第一の電極膜たる透明導電膜1を、CVD法等により透明な基板母材0上に蒸着する。透明導電膜は、例えばITO膜や、ZnO等のTCO膜である。但し、太陽電池等の製造用に予め透明導電膜1が製膜されたガラス基板を入手できるのであれば、製膜工程(a)を省略することができる。
【0018】
図2に示すように、レーザ加工工程(b)では、レーザ光41を照射して、透明導電膜1をセル単位に分割する複数本の分離溝11を切削形成する。レーザ光41は、図中左方に示すように基板0側から当該基板0を透過させて透明導電膜1に照射してもよいし、図中右方に示すように膜面側から基板0を透過させず直接透明導電膜1に照射してもよい。
【0019】
レーザ光41は例えば、波長1064nmの近赤外レーザ、波長532nmの緑色レーザ、または波長355nmの紫外レーザとする。レーザ光41のパルス幅は特に限定されず、ピコ秒レーザであってもナノ秒レーザであってもよい。
【0020】
図3に示すように、製膜工程(c)では、光電変換層2を蒸着法やCVD法、塗布法等により透明導電膜1上に製膜する。このとき、光電変換層2の構成材料が、先に透明導電膜1に形成した分離溝11内に入り込む。製造対象の製品が有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイスである場合、光電変換層2は有機化合物半導体または発光ダイオード素子を含んでいる。
【0021】
図4に示すように、レーザ加工工程(d)では、レーザ光42を照射して、光電変換層2をセル単位に分割する複数本の分離溝21を切削形成する。このレーザ光42は、基板0側から当該基板0を透過させて透明導電膜1に照射する。レーザ光41は、図中左方に示すように基板0側から当該基板0及び透明導電膜1を透過させて光電変換層2に照射してもよいし、図中右方に示すように膜面側から基板0を透過させず直接光電変換層2に照射してもよい。
【0022】
レーザ光42は、レーザ加工工程(b)におけるレーザ光41と同様としてよい。
【0023】
図5に示すように、製膜工程(e)では、第二の電極膜たる不透明な裏面電極膜3を、スパッタリング法等により光電変換層2上に蒸着する。このとき、裏面電極膜3の構成材料が、先に光電変換層2に形成した分離溝21内に入り込む。裏面電極膜3は、例えばMo、Ag、Al、Cuその他の金属を素材とする。
【0024】
しかして、図6及び図7に示すように、レーザ加工工程(f)では、レーザ光43、44を照射して、裏面電極膜3及び光電変換層2をセル単位に分割する複数本の分離溝31を切削形成する。本実施形態では、分離溝31を形成するに際して、複数回に分けてレーザ光43、44を積層膜3、2に照射する。図示例では、二度に亘ってレーザ光43、44を照射することとしている。
【0025】
レーザ加工工程(f)のうち、図6に示す第一の照射工程では、レーザ光43を、基板0を透過させるのではなく、積層膜3、2、1が製膜された膜面側から裏面電極膜3に照射して、少なくとも最上層にあたる裏面電極膜3を切削除去する。なお、第一の照射工程では、裏面電極膜3のみを除去してもよいし、図示の通り裏面電極膜3のみならずその下方に位置している光電変換層2を一部除去してもよい。
【0026】
そして、図7に示す第二の照射工程では、レーザ光44を、やはり積層膜3、2、1が製膜された膜面側から、上記第一の照射工程にてレーザ光43を照射した箇所の近傍に照射して、裏面電極膜3の下方に残存する光電変換層2を切削除去する。
【0027】
第一の照射工程にて照射するレーザ光44と、第二の照射工程にて照射するレーザ光43とでは、その波長、出力、パルス幅、繰り返し周波数、ビームプロファイルまたは加工速度のうち少なくとも一を異ならせる。
【0028】
例えば、レーザ光43は波長532nmのレーザとして裏面電極膜3を確実に除去し、レーザ光44は波長1064nmのレーザとして光電変換層2を除去しつつ透明導電膜1や基板母材0にダメージを与えることを回避する。
【0029】
あるいは、レーザ光43の出力またはエネルギ密度を裏面電極膜3を除去するのに十分な程度大きく設定する一方、レーザ光44の出力またはエネルギ密度をレーザ光43に比して小さく設定するようにしてもよい。第一の照射工程と第二の照射工程とでレーザ43、44の出力等を変える場合には、両レーザ43、44の波長は同一であっても構わない。レーザ光43とレーザ光44とでパルス幅を変えることも考えられる。
【0030】
以上の工程(a)ないし(f)を経て、図8中矢印で表しているように電荷の通り道が完成し、複数のセルを直列接続した太陽電池またはエレクトロルミネッセンスデバイスの構造が完成する。
【0031】
本実施形態のレーザ加工方法に含まれる第一の照射工程及び第二の照射工程を実施するためのレーザ加工機は、裏面電極膜3及び光電変換層2をセル単位に分割する分離溝31を形成するためのレーザ光43、44を、積層膜3、2、1の側から照射するレーザ光照射手段を具備する。
【0032】
レーザ光照射手段は、レーザ発振器が発振するレーザを伝搬させる光学系と、光学系を介して供給されるレーザを基板0の被加工面に製膜された積層膜3、2、1に向けてレーザ光43、44として出射させる加工ノズル53とを組み合わせてなる。光学系は、光ファイバ54、ミラー、レンズ等の任意の光学要素を用いて構成することができる。加工ノズル53は、膜面を上にした基板0に対し、基板0の上方から下向きにレーザ光を打ち下ろすものである。
【0033】
加工ノズル53は、基板0に対して相対変位可能に設ける。典型的には、薄膜1、2、3に形成する分離溝11、21、31が延伸するY軸方向に往復走行でき、かつY軸方向とは直交するX軸方向(光起電力素子または発光体として機能するセルが並ぶ方向、セルとセルとを分かつ分離溝11、21、31が並ぶ方向)にピッチ送り移動できるリニアモータ台車等に、加工ノズル53を支持させる。尤も、不動の基板0に対して加工ノズル53をX軸方向及び/またはY軸方向に移動させるのではなく、基板0自体を加工ノズル53に対してX軸方向及び/またはY軸方向に移動させるようにすることも考えられる。
【0034】
第一の照射工程にて照射するレーザ光43と、第二の照射工程にて照射するレーザ光44とを、同一の加工ノズル53から出射させるものとすれば、当該加工ノズル53をY軸方向に沿って基板0の一端側から他端側まで一回走行または走査(スキャン)させることで、レーザ加工工程(f)を完遂して分離溝31を完成させることが可能となる。
【0035】
図9または図10に、加工ノズル53の内部構成例を示す。この加工ノズル53は、光ファイバ54等の光学系により加工ノズル53に供給されたレーザをレーザ光43及びレーザ光44に分光する分光手段531を内部に備えている。
【0036】
図9に示す加工ノズル53の分光手段531は、一方の面532をダイクロイックミラー、他方の面533を全反射ミラーとするようなコーティングを施してなる。周知の通り、ダイクロイックミラー532は、特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するものである。
【0037】
加工ノズル53に接続する光ファイバ54等の光学系は、波長が互いに異なる複数のレーザ光43、44を重畳した重畳光を加工ノズル53まで伝搬させる。加工ノズル53に到達した重畳光は、分光手段531の一方の面532に当たり、特定の波長のレーザ光43(または、レーザ光44)を反射しつつ、その他の波長のレーザ光44(または、レーザ光43)を入射させる。分光手段531内に入射したレーザ光43(または、レーザ光44)は、分光手段531の他方の面533によって反射された後、再び一方の面532に達してそこから外部に出射する。
【0038】
翻って、図10に示す加工ノズル53の分光手段531は、一方の面532を光の一部を反射させるミラー(例えば、半反射ミラー)、他方の面533を全反射ミラーとするようなコーティングを施してなる。
【0039】
図9に示す例とは異なり、加工ノズル53に接続する光ファイバ54等の光学系は、一意の波長のレーザ光を加工ノズル53まで伝搬させる。加工ノズル53に到達したレーザ光は、分光手段531の一方の面532に当たり、一部のレーザ光43を反射しつつ、その残りを入射させる。分光手段531内に入射したレーザ光は、分光手段531の他方の面533によって反射された後、再び一方の面532に達する。そして、一部のレーザ光44が一方の面532から外部に出射し、残りは分光手段の531内に向けて反射される。以降、一方の面532において、一部のレーザ光の出射と残りのレーザ光の反射とが繰り返される。一方の面532において最初に反射されたレーザ光43と比べて、後に一方の面532から出射するレーザ光44はその出力が減衰する。一方の面532が半反射ミラーである場合、レーザ光44の出力はレーザ光43の出力の半分となる。
【0040】
何れにせよ、分光手段531の働きにより、レーザ光43とレーザ光44とで光路が変わり、両者が分光された状態で加工ノズル53から基板0の被加工面に向けて出射することとなる。両レーザ光43、44の光路は、分離溝31の延伸するY軸方向に沿って分離するが、Y軸方向とは直交するX軸方向には偏倚しない。加工ノズル53のレーザ出射口または出射口付近の部位には、レーザ光43を集光してその焦点を裏面電極膜3に合わせる集光レンズ(図示せず)、レーザ光44を集光してその焦点を光電変換層2に合わせる集光レンズ(図示せず)を配設することが望ましい。
【0041】
この加工ノズル53を基板0に対しY軸方向に沿って相対的に走行または走査させるようにすれば、図9または図10に示しているように(加工ノズル53の走行または走査の方向を図中白矢印にて示している)、この加工ノズル53から出射したレーザ光43が裏面電極膜3に照射された後、同加工ノズル53から出射したレーザ光44がかつてレーザ光43が照射された箇所の近傍に照射され、その結果として両レーザ光43、44により裏面電極膜3及び光電変換層2が順次除去され、Y軸方向に伸びる分離溝31が切削される。加工ノズル53の一回の走行または走査で一本の分離溝31が形成されるので、タクトタイムの短縮に大きく奏効する。
【0042】
因みに、上記のレーザ光照射手段を構成する光学系及び加工ノズル53を、工程(b)を実施する(レーザ光41を照射して透明導電膜1に分離溝を形成する)ための光学系及び加工ノズル51と共通化しても構わない。さすれば、工程(b)と工程(f)とを同じレーザ光照射手段によって実施することが可能になる。
【0043】
並びに、上記のレーザ光照射手段を構成する光学系及び加工ノズル53を、工程(d)を実施する(レーザ光42を照射して光電変換層2に分離溝21を形成する)ための光学系及び加工ノズル52と共通化しても構わない。さすれば、工程(d)と工程(f)とを同じレーザ光照射手段によって実施することが可能になる。
【0044】
工程(b)を実施するためのレーザ光照射手段、工程(d)を実施するためのレーザ光照射手段、及び工程(f)を実施するためのレーザ光照射手段は、一機のレーザ加工機に実装することが許される。
【0045】
分離溝11、21、31によって多数のセルを区画する都合上、図11に示しているように、加工ノズル51、52、53はX軸方向に複数基配列させて設置することが望ましい。
【0046】
本実施形態におけるレーザ加工方法では、積層された互いに材質の異なる複数の層3、2をともに除去する加工(f)を施すべく、前記複数の層3、2のうちの最上層3に向けてレーザ光43を照射して少なくとも最上層3を除去する第一の照射工程と、前記第一の照射工程にてレーザ光43を照射した箇所の近傍にレーザ光44を照射して前記最上層3の下方に残存する層2を除去する第二の照射工程とを実施することとした。つまり、レーザ光43、44を複数回に分けて照射し、複数の層3、2を除去するようにした。
【0047】
本実施形態によれば、光電変換層2の下方に存在する他の層即ち透明導電膜1や基板母材0に与えるダメージを抑制ないし回避しながら、加工閾値の高い裏面電極膜3及び加工閾値の低い光電変換層2をともに美麗に切削除去することができ、製品性能に与える熱的影響を最小限に食い止めることが可能となる。さらに、レーザ加工(f)により形成される溝31の溝幅(X軸方向の内寸)の狭小化、溝31の細線化を実現できる。
【0048】
なお、本発明は以上に詳述した各実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、レーザ加工(f)において、レーザ光43の波長または出力等と、レーザ光44の波長または出力等とを相異ならせていたが、両レーザ光43、44の波長、出力、パルス幅、ビームプロファイルをおしなべて一致させることを妨げるものではない。例えば、両レーザ光43、44の波長をともに532nmとし、出力やパルス幅、ビームプロファイルを互いに等しくしても、レーザ加工(f)を成功裏に実施することが可能である。
【0049】
上記実施形態では、レーザ加工(f)において、レーザ光43、44を都合二回に分けて加工対象の層3、2に照射していたが、レーザ光を三回以上に亘って照射するようにしてもよい。その場合にも、一回目に照射するレーザ光、二回目に照射するレーザ光、三回目に照射するレーザ光……の間で、波長、出力、パルス幅またはビームプロファイルを変更することができる。
【0050】
レーザ加工工程(b)、レーザ加工工程(d)、レーザ加工工程(f)の各々で用いるレーザ光41、42、43、44の波長やパルス幅等は、上記実施形態のそれには限定されない。パルスレーザであるか連続波レーザであるかも問われない
第一の電極膜1、光電変換層2及び第二の電極膜3の各材料は、上記実施形態の如きものには限定されない。上記実施形態では有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造を念頭に置いていたが、本発明に係る製造方法及びレーザ加工機をこれ以外の各種製品に適用することは当然に可能である。例えば、光電変換層2がアモルファスシリコン及び/または結晶シリコン(単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコンを包括する概念である)を含んでいるシリコン系太陽電池の製造において、本発明を適用することができる。本発明は、最上層が加工閾値の高い金属膜であり、その下に加工閾値の低い層が存在するような加工対象物において、これらの層を除去する加工(溝の切削や穿孔)に好適である。
【0051】
第一の電極膜1と光電変換層2との間や、光電変換層2と第二の電極膜3との間に、別途中間層を敷設することもあり得る。
【0052】
その他、各部の具体的な構成や工程の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイスその他の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
2…光電変換層
3…第二の電極膜(裏面電極膜、金属膜)
31…分離溝
43…第一の照射工程で照射するレーザ光
44…第二の照射工程で照射するレーザ光
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すためのレーザ加工方法、及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、現在実用に供されている太陽電池は、基板上に積層膜、即ち第一の電極膜、発電層(光電変換層、光吸収層)及び第二の電極膜を製膜して構成される。発電層に有機化合物を用いる有機系太陽電池であれば、基板上に透明導電膜、有機半導体膜、裏面電極膜(典型的には、金属膜)をこの順に重ねることとなる。
【0003】
このような積層構造は、ディスプレイや面発光照明等のエレクトロルミネッセンスデバイス(有機発光ダイオード(OLED)、発光ポリマー(LEP)はこれに含まれる)においても同様である。即ち、基板上に透明導電膜、発光層(光電変換層)、裏面電極膜をこの順に重ねる。
【0004】
下記特許文献を参照しつつ、一般的な薄膜太陽電池の製造手順を概説する。まず、透明基板上に第一の電極膜たる透明導電膜を製膜し、この透明導電膜をセル単位に分割する分離溝を形成する(P1加工)。続いて、透明導電膜の上に光電変換層を製膜し、光電変換層に分離溝を形成する(P2加工)。先に透明導電膜に形成した分離溝内には、光電変換層の構成材料が入り込む。さらに、光電変換層の上に第二の電極膜たる裏面電極膜を製膜し、裏面電極膜を光電変換層とともに除去して分離溝を形成する(P3加工)。先に光電変換層に形成した分離溝内には、裏面電極膜の構成材料が入り込む。以上を経て、光起電力素子として機能する複数のセルを直列に接続した構造が完成する。
【0005】
シリコン系太陽電池の製造におけるP3加工では、光電変換層である半導体膜が吸収し得る波長のレーザ光を基板側から、基板を透過させて半導体膜に照射することで、熱現象により裏面電極膜もろとも半導体膜を吹き飛ばして除去することが可能である。
【0006】
これに対し、有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイス等の製造において、上述の手法を以てP3加工を行うことは困難である。従って、裏面電極膜側からレーザ光を照射し、裏面電極膜及び光電変換層を切削除去せざるを得ない。
【0007】
しかしながら、裏面電極膜となる金属膜は、他の層と比較して加工閾値が高い。換言すれば、より強いエネルギを持つレーザ光を照射しないと金属膜を十分に除去することができない。有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイス等の製造において、強いエネルギを持つレーザ光を金属膜に照射して金属膜及び光電変換層を一挙に除去しようとすると、光電変換層だけでなくその下にある透明導電膜の層にまでダメージを与えてしまい、製品の性能を低下させてしまうきらいがある。それ故、従来、レーザ加工機を使用してP3加工を行うことは非現実的との考えが大勢を占めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4563491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すにあたり、最上層のレーザ加工閾値が高い場合における問題を解消しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すためのレーザ加工方法であって、前記複数の層のうちの最上層に向けてレーザ光を照射して少なくとも最上層を除去する第一の照射工程と、前記第一の照射工程にてレーザ光を照射した箇所の近傍にレーザ光を照射して前記最上層の下方に残存する層を除去する第二の照射工程とを含むレーザ加工方法を実施することとした。要するに、レーザ光を敢えて複数回に分けて照射し、複数の層を除去するようにしたのである。
【0011】
前記第一の照射工程にて照射するレーザ光と、前記第二の照射工程にて照射するレーザ光とでは、その波長、出力、パルス幅、繰り返し周波数、ビームプロファイル(レーザビームの投影形状、及び/または、投影形状におけるエネルギ密度分布)または加工速度(加工箇所へのレーザ光の照射時間、若しくはレーザ光を出射する加工ノズルの加工対象物に対する相対的な移動速度)のうち少なくとも一を変更することができる。
【0012】
前記最上層は、例えば金属膜である。既に述べた通り、金属膜はレーザ加工閾値が高い。
【0013】
加工対象物が太陽電池またはエレクトロルミネッセンスデバイスであるならば、最上層である電極膜の下方に存在する層は光電変換層である。
【0014】
本発明は特に、有機系太陽電池または有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造に適している。即ち、本発明の方法を採用すれば、最上層である裏面電極膜(金属膜)及び裏面電極膜の下方に存在する有機薄膜半導体または発光層をともに除去するP3加工を容易に行うことができる
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すにあたり、最上層のレーザ加工閾値が高い場合における問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図2】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図3】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図4】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図5】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図6】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図7】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法の手順を示す図。
【図8】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法により完成した電池の構造を示す図。
【図9】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法を実施するためのレーザ加工機のレーザ光照射手段を示す図。
【図10】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法を実施するためのレーザ加工機のレーザ光照射手段を示す図。
【図11】同実施形態の薄膜太陽電池の製造方法を実施するためのレーザ加工機の全体の概略構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ加工方法は、有機系太陽電池または有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造を念頭においたものである。図1ないし図7に示す本実施形態の太陽電池の製造方法は、以下の工程を具備する。
(a)第一の電極膜の製膜
(b)第一の電極膜の分離溝形成(P1加工)
(c)光電変換層の製膜
(d)光電変換層の分離溝形成(P2加工)
(e)第二の電極膜の製膜
(f)光電変換層及び第二の電極膜の分離溝形成(P3加工)
図1に示すように、製膜工程(a)では、第一の電極膜たる透明導電膜1を、CVD法等により透明な基板母材0上に蒸着する。透明導電膜は、例えばITO膜や、ZnO等のTCO膜である。但し、太陽電池等の製造用に予め透明導電膜1が製膜されたガラス基板を入手できるのであれば、製膜工程(a)を省略することができる。
【0018】
図2に示すように、レーザ加工工程(b)では、レーザ光41を照射して、透明導電膜1をセル単位に分割する複数本の分離溝11を切削形成する。レーザ光41は、図中左方に示すように基板0側から当該基板0を透過させて透明導電膜1に照射してもよいし、図中右方に示すように膜面側から基板0を透過させず直接透明導電膜1に照射してもよい。
【0019】
レーザ光41は例えば、波長1064nmの近赤外レーザ、波長532nmの緑色レーザ、または波長355nmの紫外レーザとする。レーザ光41のパルス幅は特に限定されず、ピコ秒レーザであってもナノ秒レーザであってもよい。
【0020】
図3に示すように、製膜工程(c)では、光電変換層2を蒸着法やCVD法、塗布法等により透明導電膜1上に製膜する。このとき、光電変換層2の構成材料が、先に透明導電膜1に形成した分離溝11内に入り込む。製造対象の製品が有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイスである場合、光電変換層2は有機化合物半導体または発光ダイオード素子を含んでいる。
【0021】
図4に示すように、レーザ加工工程(d)では、レーザ光42を照射して、光電変換層2をセル単位に分割する複数本の分離溝21を切削形成する。このレーザ光42は、基板0側から当該基板0を透過させて透明導電膜1に照射する。レーザ光41は、図中左方に示すように基板0側から当該基板0及び透明導電膜1を透過させて光電変換層2に照射してもよいし、図中右方に示すように膜面側から基板0を透過させず直接光電変換層2に照射してもよい。
【0022】
レーザ光42は、レーザ加工工程(b)におけるレーザ光41と同様としてよい。
【0023】
図5に示すように、製膜工程(e)では、第二の電極膜たる不透明な裏面電極膜3を、スパッタリング法等により光電変換層2上に蒸着する。このとき、裏面電極膜3の構成材料が、先に光電変換層2に形成した分離溝21内に入り込む。裏面電極膜3は、例えばMo、Ag、Al、Cuその他の金属を素材とする。
【0024】
しかして、図6及び図7に示すように、レーザ加工工程(f)では、レーザ光43、44を照射して、裏面電極膜3及び光電変換層2をセル単位に分割する複数本の分離溝31を切削形成する。本実施形態では、分離溝31を形成するに際して、複数回に分けてレーザ光43、44を積層膜3、2に照射する。図示例では、二度に亘ってレーザ光43、44を照射することとしている。
【0025】
レーザ加工工程(f)のうち、図6に示す第一の照射工程では、レーザ光43を、基板0を透過させるのではなく、積層膜3、2、1が製膜された膜面側から裏面電極膜3に照射して、少なくとも最上層にあたる裏面電極膜3を切削除去する。なお、第一の照射工程では、裏面電極膜3のみを除去してもよいし、図示の通り裏面電極膜3のみならずその下方に位置している光電変換層2を一部除去してもよい。
【0026】
そして、図7に示す第二の照射工程では、レーザ光44を、やはり積層膜3、2、1が製膜された膜面側から、上記第一の照射工程にてレーザ光43を照射した箇所の近傍に照射して、裏面電極膜3の下方に残存する光電変換層2を切削除去する。
【0027】
第一の照射工程にて照射するレーザ光44と、第二の照射工程にて照射するレーザ光43とでは、その波長、出力、パルス幅、繰り返し周波数、ビームプロファイルまたは加工速度のうち少なくとも一を異ならせる。
【0028】
例えば、レーザ光43は波長532nmのレーザとして裏面電極膜3を確実に除去し、レーザ光44は波長1064nmのレーザとして光電変換層2を除去しつつ透明導電膜1や基板母材0にダメージを与えることを回避する。
【0029】
あるいは、レーザ光43の出力またはエネルギ密度を裏面電極膜3を除去するのに十分な程度大きく設定する一方、レーザ光44の出力またはエネルギ密度をレーザ光43に比して小さく設定するようにしてもよい。第一の照射工程と第二の照射工程とでレーザ43、44の出力等を変える場合には、両レーザ43、44の波長は同一であっても構わない。レーザ光43とレーザ光44とでパルス幅を変えることも考えられる。
【0030】
以上の工程(a)ないし(f)を経て、図8中矢印で表しているように電荷の通り道が完成し、複数のセルを直列接続した太陽電池またはエレクトロルミネッセンスデバイスの構造が完成する。
【0031】
本実施形態のレーザ加工方法に含まれる第一の照射工程及び第二の照射工程を実施するためのレーザ加工機は、裏面電極膜3及び光電変換層2をセル単位に分割する分離溝31を形成するためのレーザ光43、44を、積層膜3、2、1の側から照射するレーザ光照射手段を具備する。
【0032】
レーザ光照射手段は、レーザ発振器が発振するレーザを伝搬させる光学系と、光学系を介して供給されるレーザを基板0の被加工面に製膜された積層膜3、2、1に向けてレーザ光43、44として出射させる加工ノズル53とを組み合わせてなる。光学系は、光ファイバ54、ミラー、レンズ等の任意の光学要素を用いて構成することができる。加工ノズル53は、膜面を上にした基板0に対し、基板0の上方から下向きにレーザ光を打ち下ろすものである。
【0033】
加工ノズル53は、基板0に対して相対変位可能に設ける。典型的には、薄膜1、2、3に形成する分離溝11、21、31が延伸するY軸方向に往復走行でき、かつY軸方向とは直交するX軸方向(光起電力素子または発光体として機能するセルが並ぶ方向、セルとセルとを分かつ分離溝11、21、31が並ぶ方向)にピッチ送り移動できるリニアモータ台車等に、加工ノズル53を支持させる。尤も、不動の基板0に対して加工ノズル53をX軸方向及び/またはY軸方向に移動させるのではなく、基板0自体を加工ノズル53に対してX軸方向及び/またはY軸方向に移動させるようにすることも考えられる。
【0034】
第一の照射工程にて照射するレーザ光43と、第二の照射工程にて照射するレーザ光44とを、同一の加工ノズル53から出射させるものとすれば、当該加工ノズル53をY軸方向に沿って基板0の一端側から他端側まで一回走行または走査(スキャン)させることで、レーザ加工工程(f)を完遂して分離溝31を完成させることが可能となる。
【0035】
図9または図10に、加工ノズル53の内部構成例を示す。この加工ノズル53は、光ファイバ54等の光学系により加工ノズル53に供給されたレーザをレーザ光43及びレーザ光44に分光する分光手段531を内部に備えている。
【0036】
図9に示す加工ノズル53の分光手段531は、一方の面532をダイクロイックミラー、他方の面533を全反射ミラーとするようなコーティングを施してなる。周知の通り、ダイクロイックミラー532は、特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するものである。
【0037】
加工ノズル53に接続する光ファイバ54等の光学系は、波長が互いに異なる複数のレーザ光43、44を重畳した重畳光を加工ノズル53まで伝搬させる。加工ノズル53に到達した重畳光は、分光手段531の一方の面532に当たり、特定の波長のレーザ光43(または、レーザ光44)を反射しつつ、その他の波長のレーザ光44(または、レーザ光43)を入射させる。分光手段531内に入射したレーザ光43(または、レーザ光44)は、分光手段531の他方の面533によって反射された後、再び一方の面532に達してそこから外部に出射する。
【0038】
翻って、図10に示す加工ノズル53の分光手段531は、一方の面532を光の一部を反射させるミラー(例えば、半反射ミラー)、他方の面533を全反射ミラーとするようなコーティングを施してなる。
【0039】
図9に示す例とは異なり、加工ノズル53に接続する光ファイバ54等の光学系は、一意の波長のレーザ光を加工ノズル53まで伝搬させる。加工ノズル53に到達したレーザ光は、分光手段531の一方の面532に当たり、一部のレーザ光43を反射しつつ、その残りを入射させる。分光手段531内に入射したレーザ光は、分光手段531の他方の面533によって反射された後、再び一方の面532に達する。そして、一部のレーザ光44が一方の面532から外部に出射し、残りは分光手段の531内に向けて反射される。以降、一方の面532において、一部のレーザ光の出射と残りのレーザ光の反射とが繰り返される。一方の面532において最初に反射されたレーザ光43と比べて、後に一方の面532から出射するレーザ光44はその出力が減衰する。一方の面532が半反射ミラーである場合、レーザ光44の出力はレーザ光43の出力の半分となる。
【0040】
何れにせよ、分光手段531の働きにより、レーザ光43とレーザ光44とで光路が変わり、両者が分光された状態で加工ノズル53から基板0の被加工面に向けて出射することとなる。両レーザ光43、44の光路は、分離溝31の延伸するY軸方向に沿って分離するが、Y軸方向とは直交するX軸方向には偏倚しない。加工ノズル53のレーザ出射口または出射口付近の部位には、レーザ光43を集光してその焦点を裏面電極膜3に合わせる集光レンズ(図示せず)、レーザ光44を集光してその焦点を光電変換層2に合わせる集光レンズ(図示せず)を配設することが望ましい。
【0041】
この加工ノズル53を基板0に対しY軸方向に沿って相対的に走行または走査させるようにすれば、図9または図10に示しているように(加工ノズル53の走行または走査の方向を図中白矢印にて示している)、この加工ノズル53から出射したレーザ光43が裏面電極膜3に照射された後、同加工ノズル53から出射したレーザ光44がかつてレーザ光43が照射された箇所の近傍に照射され、その結果として両レーザ光43、44により裏面電極膜3及び光電変換層2が順次除去され、Y軸方向に伸びる分離溝31が切削される。加工ノズル53の一回の走行または走査で一本の分離溝31が形成されるので、タクトタイムの短縮に大きく奏効する。
【0042】
因みに、上記のレーザ光照射手段を構成する光学系及び加工ノズル53を、工程(b)を実施する(レーザ光41を照射して透明導電膜1に分離溝を形成する)ための光学系及び加工ノズル51と共通化しても構わない。さすれば、工程(b)と工程(f)とを同じレーザ光照射手段によって実施することが可能になる。
【0043】
並びに、上記のレーザ光照射手段を構成する光学系及び加工ノズル53を、工程(d)を実施する(レーザ光42を照射して光電変換層2に分離溝21を形成する)ための光学系及び加工ノズル52と共通化しても構わない。さすれば、工程(d)と工程(f)とを同じレーザ光照射手段によって実施することが可能になる。
【0044】
工程(b)を実施するためのレーザ光照射手段、工程(d)を実施するためのレーザ光照射手段、及び工程(f)を実施するためのレーザ光照射手段は、一機のレーザ加工機に実装することが許される。
【0045】
分離溝11、21、31によって多数のセルを区画する都合上、図11に示しているように、加工ノズル51、52、53はX軸方向に複数基配列させて設置することが望ましい。
【0046】
本実施形態におけるレーザ加工方法では、積層された互いに材質の異なる複数の層3、2をともに除去する加工(f)を施すべく、前記複数の層3、2のうちの最上層3に向けてレーザ光43を照射して少なくとも最上層3を除去する第一の照射工程と、前記第一の照射工程にてレーザ光43を照射した箇所の近傍にレーザ光44を照射して前記最上層3の下方に残存する層2を除去する第二の照射工程とを実施することとした。つまり、レーザ光43、44を複数回に分けて照射し、複数の層3、2を除去するようにした。
【0047】
本実施形態によれば、光電変換層2の下方に存在する他の層即ち透明導電膜1や基板母材0に与えるダメージを抑制ないし回避しながら、加工閾値の高い裏面電極膜3及び加工閾値の低い光電変換層2をともに美麗に切削除去することができ、製品性能に与える熱的影響を最小限に食い止めることが可能となる。さらに、レーザ加工(f)により形成される溝31の溝幅(X軸方向の内寸)の狭小化、溝31の細線化を実現できる。
【0048】
なお、本発明は以上に詳述した各実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、レーザ加工(f)において、レーザ光43の波長または出力等と、レーザ光44の波長または出力等とを相異ならせていたが、両レーザ光43、44の波長、出力、パルス幅、ビームプロファイルをおしなべて一致させることを妨げるものではない。例えば、両レーザ光43、44の波長をともに532nmとし、出力やパルス幅、ビームプロファイルを互いに等しくしても、レーザ加工(f)を成功裏に実施することが可能である。
【0049】
上記実施形態では、レーザ加工(f)において、レーザ光43、44を都合二回に分けて加工対象の層3、2に照射していたが、レーザ光を三回以上に亘って照射するようにしてもよい。その場合にも、一回目に照射するレーザ光、二回目に照射するレーザ光、三回目に照射するレーザ光……の間で、波長、出力、パルス幅またはビームプロファイルを変更することができる。
【0050】
レーザ加工工程(b)、レーザ加工工程(d)、レーザ加工工程(f)の各々で用いるレーザ光41、42、43、44の波長やパルス幅等は、上記実施形態のそれには限定されない。パルスレーザであるか連続波レーザであるかも問われない
第一の電極膜1、光電変換層2及び第二の電極膜3の各材料は、上記実施形態の如きものには限定されない。上記実施形態では有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイスの製造を念頭に置いていたが、本発明に係る製造方法及びレーザ加工機をこれ以外の各種製品に適用することは当然に可能である。例えば、光電変換層2がアモルファスシリコン及び/または結晶シリコン(単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコンを包括する概念である)を含んでいるシリコン系太陽電池の製造において、本発明を適用することができる。本発明は、最上層が加工閾値の高い金属膜であり、その下に加工閾値の低い層が存在するような加工対象物において、これらの層を除去する加工(溝の切削や穿孔)に好適である。
【0051】
第一の電極膜1と光電変換層2との間や、光電変換層2と第二の電極膜3との間に、別途中間層を敷設することもあり得る。
【0052】
その他、各部の具体的な構成や工程の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、有機系太陽電池や有機エレクトロルミネッセンスデバイスその他の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
2…光電変換層
3…第二の電極膜(裏面電極膜、金属膜)
31…分離溝
43…第一の照射工程で照射するレーザ光
44…第二の照射工程で照射するレーザ光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すためのレーザ加工方法であって、
前記複数の層のうちの最上層に向けてレーザ光を照射して少なくとも最上層を除去する第一の照射工程と、
前記第一の照射工程にてレーザ光を照射した箇所の近傍にレーザ光を照射して前記最上層の下方に残存する層を除去する第二の照射工程と
を含むレーザ加工方法。
【請求項2】
前記第一の照射工程にて照射するレーザ光と、前記第二の照射工程にて照射するレーザ光とが、波長、出力、パルス幅、繰り返し周波数、ビームプロファイルまたは加工速度のうち少なくとも一において相異なっている請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記最上層が金属膜である請求項1または2記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記最上層の下方に存在する層が光電変換層である請求項1、2または3記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
加工対象物がシリコン系太陽電池、有機系太陽電池または有機エレクトロルミネッセンスデバイスであり、その最上層である金属膜及び当該最上層の下方に存在する光電変換層をともに除去する請求項4記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載のレーザ加工方法を実施するために用いられるものであって、
前記第一の照射工程にあって前記最上層に向けてレーザ光を照射するレーザ光照射手段、及び、前記第二の照射工程にあって前記第一の照射工程にてレーザ光を照射した箇所の近傍にレーザ光を照射するレーザ光照射手段を具備するレーザ加工機。
【請求項7】
前記第一の照射工程にて照射するレーザ光と、前記第二の照射工程にて照射するレーザ光とが、波長、出力、パルス幅またはビームプロファイルのうち少なくとも一において相異なっている請求項6記載のレーザ加工機。
【請求項8】
前記最上層が金属膜である請求項6または7記載のレーザ加工機。
【請求項1】
積層された互いに材質の異なる複数の層をともに除去する加工を施すためのレーザ加工方法であって、
前記複数の層のうちの最上層に向けてレーザ光を照射して少なくとも最上層を除去する第一の照射工程と、
前記第一の照射工程にてレーザ光を照射した箇所の近傍にレーザ光を照射して前記最上層の下方に残存する層を除去する第二の照射工程と
を含むレーザ加工方法。
【請求項2】
前記第一の照射工程にて照射するレーザ光と、前記第二の照射工程にて照射するレーザ光とが、波長、出力、パルス幅、繰り返し周波数、ビームプロファイルまたは加工速度のうち少なくとも一において相異なっている請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記最上層が金属膜である請求項1または2記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記最上層の下方に存在する層が光電変換層である請求項1、2または3記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
加工対象物がシリコン系太陽電池、有機系太陽電池または有機エレクトロルミネッセンスデバイスであり、その最上層である金属膜及び当該最上層の下方に存在する光電変換層をともに除去する請求項4記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載のレーザ加工方法を実施するために用いられるものであって、
前記第一の照射工程にあって前記最上層に向けてレーザ光を照射するレーザ光照射手段、及び、前記第二の照射工程にあって前記第一の照射工程にてレーザ光を照射した箇所の近傍にレーザ光を照射するレーザ光照射手段を具備するレーザ加工機。
【請求項7】
前記第一の照射工程にて照射するレーザ光と、前記第二の照射工程にて照射するレーザ光とが、波長、出力、パルス幅またはビームプロファイルのうち少なくとも一において相異なっている請求項6記載のレーザ加工機。
【請求項8】
前記最上層が金属膜である請求項6または7記載のレーザ加工機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−18036(P2013−18036A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154230(P2011−154230)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(598072179)株式会社片岡製作所 (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(598072179)株式会社片岡製作所 (24)
【Fターム(参考)】
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