説明

レーザ加工装置

【課題】パルス信号のパルスデューティの変更によりレーザパワーが変更可能なレーザ発振器を備え、レーザ非加工期間において低励起パルス信号でレーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にするレーザ加工装置において、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移した際のレーザ発振器での残留エネルギーによって加工可能なレベルのレーザ光が不用意に出射されるのを(レーザ漏れを)防止することができるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、レーザ加工期間においては設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号でレーザ発振器を駆動し、レーザ非加工期間においては低励起パルス信号でレーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にする。制御装置は制御パルス信号で駆動させている状態からレーザ非加工期間に遷移した際に、低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は下げるパルス信号にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、炭酸ガス(CO2)をレーザ媒質とするレーザ発振器を備え、外部からのパルス信号である励起用制御信号によりレーザ発振器内に電圧を印加することでレーザ媒質を励起することに基づいてレーザ光を発生させるものがある。この種のレーザ加工装置は、レーザ光の出力レベルの変更については、設定されるレーザパワーに応じて、励起用制御信号であるパルス信号のパルスデューティを変更することにより行っている。そして、励起用制御信号においては、以下の制御も行っている。
【0003】
レーザ加工状態になるとき、設定されるレーザパワーに応じたパルスデューティにより、いきなり駆動してもレーザ出力の立上りがそれに応答として追従しないため、立上りが遅くなってしまう。そこで、レーザ非加工状態からレーザ加工状態に遷移する場合の立上りをなるべく早くできるように、励起用制御信号とは別に、補助制御信号としてレーザ発振器内のレーザ媒質を加工不能レベルで励起する、所謂低励起状態を作り出している(例えば特許文献1,2参照)。
【0004】
この場合は、レーザ発振器からは基本的にレーザ光は出射されない。仮にレーザ発振器からレーザ光が出射されたとしてもレーザ発振器は低励起状態でありレーザ加工不能なレベルのレーザ光が出射されている状態なので、実際のレーザ加工は施されない。これによって、立上りに関しては、非加工状態での低励起状態から加工状態での励起状態に早く立上るので応答性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−22250号公報
【特許文献2】特開2004−216428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、励起用制御信号を入力してレーザ加工を実施している状態から非加工状態になる際に、レーザ発振器内で蓄えられたレーザエネルギーが即消滅するわけではなく、暫くレーザ発振器内に残留する。この状態で、レーザ発振器に補助制御信号が入力されると、残留するレーザエネルギーの影響を受け、通常の低励起状態よりも高いレベルでの励起状態を作り出し、その結果、出射されるレーザ光が加工可能レベルのレーザ光となる虞がある。通常は、この補助制御信号はある程度どのレーザ発振器でも不具合を生じないようなパルス幅のパルス信号に調整されているが、レーザ発振器の個体差によってばらつきがあるため、上記問題が発生する場合がある。これを見越して、更に補助制御信号のパルス幅を小さく設定することも考えられるが、そうすると、立上りの部分で本来もっと早く立上るものに対してまで、応答性を犠牲にしなければならなくなる。
【0007】
なお、特許文献2においては、レーザ光の立上りを早くすべく、励起制御信号のパルスデューティを所定期間は設定されるレーザパワーよりも大きいパルスデューティに設定し、段階的に設定されるレーザパワーに応じたパルスデューティに変更しているが、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移する際のレーザ漏れ対策は講じられていない。
【0008】
本発明の目的は、パルス信号のパルスデューティの変更によりレーザパワーが変更可能なレーザ発振器を備え、レーザ非加工期間において低励起パルス信号でレーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にするレーザ加工装置において、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移した際のレーザ発振器での残留エネルギーによって加工可能なレベルのレーザ光が不用意に出射されるのを(レーザ漏れを)防止することができるレーザ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明では、制御パルス信号のパルスデューティの変更によりレーザパワーが変更可能なレーザ発振器と、加工対象物に加工を行うレーザパワーを設定するためのレーザパワー設定手段と、レーザ加工を行うレーザ加工期間においては前記レーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号で前記レーザ発振器を駆動するとともに、レーザ加工を行わないレーザ非加工期間においては前記制御パルス信号に代えて低励起用の低励起パルス信号で前記レーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にする制御手段と、前記レーザ加工期間における前記レーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号で駆動させている状態から前記レーザ非加工期間に遷移した際に、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にして前記制御手段により前記レーザ発振器を駆動させる低励起パルス信号変更手段と、を備えたことを要旨とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、制御手段により、レーザ加工を行うレーザ加工期間においてはレーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号でレーザ発振器が駆動されるとともに、レーザ加工を行わないレーザ非加工期間においては制御パルス信号に代えて低励起用の低励起パルス信号でレーザ発振器がレーザ加工不能レベルの低励起状態にされる。また、低励起パルス信号変更手段により、レーザ加工期間におけるレーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号で駆動させている状態からレーザ非加工期間に遷移した際に、低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも低励起状態よりも下げるパルス信号にして制御手段によりレーザ発振器を駆動させる。これにより、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移した際のレーザ発振器での残留エネルギーによって加工可能なレベルのレーザ光が不用意に出射されるのが(レーザ漏れが)防止される。
【0011】
請求項2に記載のように、請求項1に記載のレーザ加工装置において、前記低励起パルス信号変更手段は、前記低励起パルス信号におけるパルス幅を小さくすることにより、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にするとよい。
【0012】
請求項3に記載のように、請求項1に記載のレーザ加工装置において、前記低励起パルス信号変更手段は、前記低励起パルス信号におけるパルス周期を大きくすることにより、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にするとよい。
【0013】
請求項4に記載のように、請求項1に記載のレーザ加工装置において、前記低励起パルス信号変更手段は、前記低励起パルス信号における最初のパルスを遅らせることにより、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にするとよい。
【0014】
請求項5に記載のように、請求項2に記載のレーザ加工装置において、前記低励起パルス信号変更手段は、前記パルス幅を、前記レーザ非加工期間に遷移してから時間とともに徐々に大きくして前記低励起パルス信号に戻すと、円滑にレーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にすることができる。
【0015】
請求項6に記載のように、請求項3に記載のレーザ加工装置において、前記低励起パルス信号変更手段は、前記パルス周期を、前記レーザ非加工期間に遷移してから時間とともに徐々に小さくして前記低励起パルス信号に戻すと、円滑にレーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にすることができる。
【0016】
請求項7に記載のように、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、前記低励起パルス信号変更手段は、前記レーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じて前記一定期間の長さを変えるとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パルス信号のパルスデューティの変更によりレーザパワーが変更可能なレーザ発振器を備え、レーザ非加工期間において低励起パルス信号でレーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にするレーザ加工装置において、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移した際のレーザ発振器での残留エネルギーによって加工可能なレベルのレーザ光が不用意に出射されるのを(レーザ漏れを)防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態におけるレーザマーキング装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】レーザマーキング装置の概略構成を示すブロック図。
【図3】レーザ発振器の概略構成を示す構成図。
【図4】処理内容を示すフローチャート。
【図5】作用を説明するためのタイミングチャート。
【図6】第1の実施形態のレーザマーキング装置の作用を説明するためのタイミングチャート。
【図7】第1の実施形態のレーザマーキング装置の変形例を説明するためのタイミングチャート。
【図8】第2の実施形態のレーザマーキング装置を説明するためのタイミングチャート。
【図9】第3の実施形態のレーザマーキング装置を説明するためのタイミングチャート。
【図10】別例の処理内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明を炭酸ガスレーザマーキング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
【0020】
図1に示すように、炭酸ガスレーザマーキング装置1はレーザ光Lを出射する装置本体2を備えている。装置本体2にはケーブル3を介してコントローラ4が接続されるとともに、コントローラ4には接続ケーブル5を介してコンソール6が接続されている。そして、炭酸ガスレーザマーキング装置1は、載置台7に載置された加工対象物Wのマーキング面Wa上に所望の文字、図形、記号等(以下、文字等という)をマーキングするようになっている。
【0021】
装置本体2は、略直方体形状に形成された本体部10と、本体部10の長手方向先端側に設けられるヘッド部11とを備えている。ヘッド部11の下面12には、レーザ光Lが出射される窓部13が形成されている。そして、装置本体2は、窓部13が加工対象物Wのマーキング面Waと対向するように設置されている。
【0022】
図2に示すように、装置本体2はレーザ光源としての炭酸ガスレーザ発振器20を備え、炭酸ガスレーザ発振器20からレーザ光Lが出射される。図3に示すように、炭酸ガスレーザ発振器20は、レーザ媒質としての炭酸ガスを封入した放電管21の一端に全反射鏡22が設けられると共に他端に出力鏡23が設けられている。また、放電管21の内部には一対の放電電極24,25が設けられ、カソード側放電電極24とアノード側放電電極25との間には、直流電源26とドライブ回路27とが直列に接続されている。ドライブ回路27は制御パルス信号を入力してカソード、アノードの放電電極24,25間に電圧を印加してレーザ媒質を励起することでレーザ光を発生させる。このとき、レーザ発振器20は、制御パルス信号のパルスデューティの変更によりレーザパワーが変更可能となっている。
【0023】
図2においてレーザ光Lの光路途中には、レーザ発振器20側から順に、ビームエキスパンダ30と、第1及び第2ガルバノミラー40X,40Yとが配設されている。
ビームエキスパンダ30からのレーザ光Lを入射する第1及び第2ガルバノミラー40X,40Yは、それぞれ対応する第1及び第2ガルバノモータ41X,41Yに回動可能に連結駆動されている。第1及び第2ガルバノモータ41X,41Yは、第1及び第2ガルバノミラー40X,40Yを互いに略直交する軸を中心としてそれぞれ回動させるようになっている。そして、第1及び第2ガルバノミラー40X,40Yは、ビームエキスパンダ30からのレーザ光Lを反射し、その出射方向を変更させるようになっている。具体的には、第1ガルバノミラー40Xは、回動して加工対象物Wに向けて照射するレーザ光Lを、そのマーキング面Waの一方向(X方向、図1参照)に走査させるようになっている。また、第2ガルバノミラー40Yは、回動して加工対象物Wに向けて照射するレーザ光Lを、そのマーキング面WaのX方向に対して直交する方向(Y方向、図1参照)に走査させるようになっている。従って、加工対象物Wに向けて照射するレーザ光Lは、第1及び第2ガルバノミラー40X,40Yにより、加工対象物Wのマーキング面Waに対して、X方向及びY方向に走査されるようになっている。
【0024】
コンソール6はレーザパワー設定器6aと表示器6bを備えている。レーザパワー設定器6aはテンキー等を具備しており、レーザパワー設定手段としてのレーザパワー設定器6aにより加工対象物Wに加工を行うレーザパワーを設定することができるようになっている。具体的には、例えば加工対象物の材料が樹脂と金属ではレーザパワーを異ならせ、樹脂では金属に比べてレーザパワーを弱くする。レーザパワー設定器6aによる入力はレーザパワー値を直接入力してもよいし、ボリューム等を回してレーザパワーの大小を入力するものであってもよく、このレーザパワー設定器6aによる入力に応じたレーザ発振器20のレーザパワーにされる。表示器6bにはレーザパワー設定器6aにより入力した値等が表示される。
【0025】
コントローラ4は、炭酸ガスレーザマーキング装置1を統括的に制御する制御装置50と、同制御装置50に接続されたROM等からなるメモリ51とを備えている。メモリ51には、印字される文字等のマーキング情報が記憶されている。このマーキング情報は、文字等を構成する各線分の始点及び終点の座標値、レーザ光Lの照射により形成される線分の太さ等の情報を含む。
【0026】
制御装置50はコンソール6のレーザパワー設定器6aと接続され、制御装置50はレーザパワー設定器6aによるレーザパワーの設定値を入力する。また、制御装置50は、炭酸ガスレーザ発振器20、第1及び第2ガルバノモータ41X,41Yにそれぞれ接続されている。制御装置50は、炭酸ガスレーザ発振器20のドライブ回路27(図3参照)に制御パルス信号を出力してレーザ光Lを出射させ、メモリ51に記憶されたマーキング情報に基づいて第1及び第2ガルバノモータ41X,41Yを駆動制御することでレーザ光Lを2次元的に走査し、加工対象物Wのマーキング面Waに所定の文字等をマーキングするようになっている。
【0027】
次に、このように構成した炭酸ガスレーザマーキング装置1の作用を説明する。
図4は、制御装置50が実行する処理内容を示すフローチャートである。図5は、作用を説明するためのタイミングチャートであり、レーザオン/オフ指令データ、レーザ発振器レーザ出力、パルス信号の波形を示している。この図5は、文字列「AB」をマーキング加工する場合についての説明図となっている。即ち、t1で加工トリガを入力してt2〜t3およびt4〜t5でレーザ光を加工対象物Wに照射して「A」を描画し、さらに、t6〜t7でレーザ光を加工対象物Wに照射して「B」を描画している。一方、t1〜t2、t3〜t4およびt5〜t6では加工用レーザ光を加工対象物Wに照射しない期間である。
【0028】
図5において、制御手段としての制御装置50は、レーザ加工を行うレーザ加工期間においては制御パルス信号でレーザ発振器20を駆動する。詳しくは、レーザパワー設定器6aで設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号でレーザ発振器20を駆動する。図5の場合には、周期TBに対しオン時間が50%、即ち、デューティ50%でマーキング(レーザ加工)が行われる。この周波数fTB(=1/TB)は20kHzである。
【0029】
また、制御装置50は、レーザ加工を行わないレーザ非加工期間においてはティックルパルス信号でレーザ発振器20を低励起状態にする。つまり、制御パルス信号に代えて低励起用の低励起パルス信号(ティックルパルス信号)でレーザ発振器20をレーザ加工不能レベルの低励起状態にする。図5の場合には、非加工時のパルス信号の周波数fTS(=1/TS)は5kHzである。これにより、レーザ出力の立上りについて、非加工状態での低励起状態から加工状態での励起状態に早く立上るので応答性が向上する。
【0030】
炭酸ガスレーザマーキング装置1の主電源がオンされた後においてレーザ発振器20の電源スイッチがオンされると(図5のt0のタイミング)、図4の処理が開始される。まず、制御装置50は、ステップ100において、基本ティックルパルスをレーザ発振器20に出力する。これにより低励起が開始される。
【0031】
そして、制御装置50は、ステップ200で、レーザパワー設定器6aにより設定されたレーザパワー値を読み込む。つまり、レーザパワー設定器6aで設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号でレーザ発振器20を駆動すべくレーザパワー値を読み込む。そして、制御装置50は、ステップ300で、設定パワーに対応するパルスデューティおよび補助ティックルパルス幅をメモリ51から読み出す。引き続き、制御装置50は、ステップ400で加工トリガを入力したか判定し、加工トリガを入力すると(図5のt1のタイミング)、ステップ500に移行する。制御装置50は、ステップ500において、レーザオン指令が出たか判定し、レーザオン指令が出ると(図5のt2のタイミング)、ステップ600に移行する。制御装置50は、ステップ600で、読み出したパルスデューティによりレーザ発振器20を駆動する。これにより、高励起が開始される。
【0032】
そして、制御装置50はステップ700において、レーザオフ指令が出たか判定し、レーザオフ指令が出ると(図5のt3のタイミング)、ステップ800に移行する。制御装置50は、ステップ800で、補助ティックルパルスによりレーザ発振器20を駆動する。これにより、補助励起が行われる。このようにして、レーザオフ指令に基づいて設定レーザパワーに対応する補助ティックルパルスをレーザ発振器20に出力する。
【0033】
さらに、制御装置50はステップ900で一定期間(所定時間)Ttsが経過したか否か判定し、一定期間Ttsが経過していないとステップ800に戻る。一方、制御装置50はステップ900で一定期間Ttsが経過するとステップ1000に移行して基本ティックルパルスに戻す(通常低励起に戻す)。そして、制御装置50は、ステップ1100でレーザ加工終了か否か判定し、レーザ加工終了でないとステップ500に戻る。なお、一定期間(所定時間)Ttsとは例えば700μsecである。
【0034】
レーザ加工終了までの期間において、ステップ500〜ステップ1100の処理が繰り返される。具体的には、図5のt4のタイミングでステップ500からステップ600に移行してステップ600の処理が実行され、図5のt5のタイミングでステップ700からステップ800に移行してステップ800,900,1000の処理が実行される。また、図5のt6のタイミングでステップ500からステップ600に移行してステップ600の処理が実行され、図5のt7のタイミングでステップ700からステップ800に移行してステップ800,900,1000の処理が実行される。
【0035】
このようにして、低励起パルス信号変更手段としての制御装置50は、図4のステップ800,900,1000の処理にて、レーザ加工期間におけるレーザパワー設定器6aで設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号で駆動させている状態からレーザ非加工期間に遷移した際に、ティックルパルス信号を、図6に示すように一定期間Ttsだけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも基本ティックルパルスによる低励起状態よりも下げる補助ティックルパルス信号にしてレーザ発振器20を駆動する。以下、詳しく説明する。
【0036】
図6は、レーザオン/オフ指令データ、レーザ発振器励起用制御信号の波形、レーザ発振器内励起エネルギー状態、レーザ発振器レーザ出力を示している。
図6において、レーザオンでは、即ち、レーザ加工を行うレーザ加工期間においてはレーザパワー設定器6aで設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号でレーザ発振器20を駆動する。レーザオンからオフ指令となると、即ち、レーザ非加工期間に遷移した際に、ティックルパルス信号におけるパルス幅を基本ティックルパルスのパルス幅よりも小さくすることにより、ティックルパルス信号を一定期間Ttsだけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも基本ティックルパルスによる低励起状態よりも下げるパルス信号にする。これにより、レーザ加工期間から非加工状態に遷移した際にレーザ発振器20での残留エネルギーによるレーザ漏れの発生を防止することができる。
【0037】
つまり、図6のレーザ発振器励起用制御信号において破線で示すごとくレーザ非加工期間に遷移した際にティックルパルス信号におけるパルス幅を一定値(基本ティックルパルスのパルス幅)に保持したままであると、レーザ発振器内励起エネルギー状態は破線で示すごとく減衰が遅くなる。その結果、レーザ発振器レーザ出力が破線で示すごとく加工可能レベル閾値よりも高くなり、レーザ光の誤出射が発生してしまう。詳しくは、制御パルス信号を入力してレーザ加工を実施している状態から非加工状態になる際に、レーザ発振器20内で蓄えられたレーザエネルギーが即消滅するわけではなく、暫くレーザ発振器20内に残留し、この状態で、レーザ発振器20に基本ティックルパルス信号が入力されると、残留するレーザエネルギーの影響を受け、通常の低励起状態よりも高いレベルでの励起状態を作り出し、その結果、出射されるレーザ光が加工可能レベルのレーザ光となる。
【0038】
これに対し本実施形態のようにレーザ非加工期間に遷移した際にティックルパルス信号におけるパルス幅を小さくすることによりレーザ発振器20での残留エネルギーによるレーザ漏れの発生を防止することができる。
【0039】
なお、図6においてレーザ発振器レーザ出力について実線で示すレーザ出力レベルは説明のために使用したものであり、加工可能レベル閾値を下回るレーザ光が若干出射される例として示した。補助ティックルパルスはレーザ発振器レーザ出力がゼロとなるように設定されるのが好ましい(後記する図7,8,9も同様である)。
【0040】
本実施形態においては制御装置50が制御手段としても低励起パルス信号変更手段としても機能する。
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0041】
(1)制御装置50により、レーザ非加工期間に遷移した際に、ティックルパルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも基本ティックルパルスによる低励起状態よりも下げるパルス信号にする。具体的には、ティックルパルス信号におけるパルス幅を小さくする。これにより、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移した際のレーザ発振器20での残留エネルギーによって加工可能なレベルのレーザ光が不用意に出射されるのを(レーザ漏れを)防止することができる。
【0042】
(2)補助ティックルパルス信号のパルス幅はレーザパワー設定器6aによるレーザパワー設定値に応じたものであるので、最適なるパルス幅に設定することが可能となる。
本実施形態の変形例として、図7に示すように、補助ティックルパルスを段階的に基本ティックルパルス幅に変化させるようにしてもよい。即ち、パルス幅を、レーザ非加工期間に遷移してから時間とともに徐々に大きくして基本ティックルパルス信号(低励起パルス信号)に戻すようにしてもよい。このようにすると、円滑にレーザ発振器20をレーザ加工不能レベルの低励起状態にすることができる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0043】
図6に代わり本実施形態では図8に示すように、パルス信号変更手段としての制御装置50は、レーザ非加工期間に遷移した際に、ティックルパルス信号におけるパルス周期(パルスの間隔)を大きくする。図8ではパルス周期を基本ティックルパルスのパルス周期TSよりも大きくしてTS1としている。
【0044】
これによりティックルパルス信号を一定期間Ttsだけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも基本ティックルパルスによる低励起状態よりも下げるパルス信号にする。これによって、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移した際のレーザ発振器20での残留エネルギーによって加工可能なレベルのレーザ光が不用意に出射されるのを(レーザ漏れを)防止することができる。
【0045】
ここで、パルス周期を、レーザ非加工期間に遷移してから時間とともに徐々に小さくして基本ティックルパルス信号(低励起パルス信号)に戻すようにしてもよい。このようにすることにより、円滑にレーザ発振器20をレーザ加工不能レベルの低励起状態にすることができる。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0046】
図6に代わり本実施形態では図9に示すように、パルス信号変更手段としての制御装置50は、レーザ非加工期間に遷移した際に、ティックルパルス信号における最初のパルスP1を遅らせる。これによりティックルパルス信号を一定期間Ttsだけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも基本ティックルパルスによる低励起状態よりも下げるパルス信号にする。これによって、レーザ加工状態からレーザ非加工状態に遷移した際のレーザ発振器20での残留エネルギーによって加工可能なレベルのレーザ光が不用意に出射されるのを(レーザ漏れを)防止することができる。
【0047】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
・図9ではレーザ非加工期間に遷移した際のティックルパルス信号の最初のパルスを抜くことにより最初のパルスP1を遅らせたが、これに限ることはなく、ティックルパルス信号の最初と二番目のパルスを抜くことにより最初のパルスP1を遅らせたり、それ以上のパルスを(三番目以降のパルスも)抜くことにより最初のパルスP1を遅らせてもよい。
【0048】
・レーザ非加工期間に遷移した際のパルス波形として、図6に示したパルス幅を小さくするやり方、図8に示したパルス周期を大きくするやり方、図9に示した最初のパルスを遅らせるやり方のうちの2つ又は全部を組み合わせて実施してもよい。
【0049】
・図4に代わり図10の処理を行ってもよい。図4においてはステップ100で(図5のt0のタイミングで)レーザ発振器20の電源オンにて基本ティックルパルス信号の出力を開始(低励起を開始)したが、図10に示すように、ステップ400において加工トリガの入力にて(図5のt1のタイミングで)基本ティックルパルス信号の出力を開始(低励起を開始)してもよい。なお、図10の場合においては、ステップ900で一定期間Tts経過したらステップ400で基本ティックルパルスに戻す(通常低励起に戻す)ことになる。
【0050】
・図4ではソフトによりレーザ非加工期間に遷移した際に低励起パルス信号(ティックルパルス信号)を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は下げるパルス信号にしたが、ハード構成にてレーザ非加工期間に遷移した際に低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は下げるパルス信号にしてもよい。
【0051】
・低励起パルス信号変更手段としての制御装置50は、レーザパワー設定器6aで設定されたレーザパワーと図6等での一定期間Ttsとの関係において、レーザパワーが大きいとTts値も大きくする機能を持たせてもよい。このようにして、レーザパワー設定器6aで設定されたレーザパワーに応じて一定期間の長さを変えるようにしてもよい。この場合、最適化を図ることができる。
【0052】
・炭酸ガスレーザマーキング装置に具体化したが、これに限定されるものではなく他のレーザマーキング装置に具体化してもよい。つまり、炭酸ガスレーザ以外の他の気体ガスレーザ、例えばアルゴンガスレーザや窒素ガスレーザ等であってもよく、また、気体レーザ以外のレーザにも適用可能である。
【0053】
・レーザマーキング装置に具体化したが、これに限定されるものではなく、他のレーザ加工装置、例えばレーザ溶接機、レーザ穴あけ機、レーザ切断機等に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0054】
6a…レーザパワー設定器、20…レーザ発振器、50…制御装置、W…加工対象物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御パルス信号のパルスデューティの変更によりレーザパワーが変更可能なレーザ発振器と、
加工対象物に加工を行うレーザパワーを設定するためのレーザパワー設定手段と、
レーザ加工を行うレーザ加工期間においては前記レーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号で前記レーザ発振器を駆動するとともに、レーザ加工を行わないレーザ非加工期間においては前記制御パルス信号に代えて低励起用の低励起パルス信号で前記レーザ発振器をレーザ加工不能レベルの低励起状態にする制御手段と、
前記レーザ加工期間における前記レーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じたパルスデューティの制御パルス信号で駆動させている状態から前記レーザ非加工期間に遷移した際に、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にして前記制御手段により前記レーザ発振器を駆動させる低励起パルス信号変更手段と、
を備えたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記低励起パルス信号変更手段は、前記低励起パルス信号におけるパルス幅を小さくすることにより、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にすることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記低励起パルス信号変更手段は、前記低励起パルス信号におけるパルス周期を大きくすることにより、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にすることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記低励起パルス信号変更手段は、前記低励起パルス信号における最初のパルスを遅らせることにより、前記低励起パルス信号を一定期間だけ励起エネルギーを無くす又は少なくとも前記低励起状態よりも下げるパルス信号にすることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記低励起パルス信号変更手段は、前記パルス幅を、前記レーザ非加工期間に遷移してから時間とともに徐々に大きくして前記低励起パルス信号に戻すことを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記低励起パルス信号変更手段は、前記パルス周期を、前記レーザ非加工期間に遷移してから時間とともに徐々に小さくして前記低励起パルス信号に戻すことを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記低励起パルス信号変更手段は、前記レーザパワー設定手段で設定されたレーザパワーに応じて前記一定期間の長さを変えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−177524(P2010−177524A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19814(P2009−19814)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000106221)サンクス株式会社 (578)
【Fターム(参考)】