レーザ式ガス分析計
【課題】周囲温度の変化が大きい環境においても安定的かつ正確にガス濃度を測定可能としたレーザ式ガス分析計を提供する。
【解決手段】周波数変調方式のレーザ式ガス分析計であって、信号処理回路が、受光部の出力信号から2倍波信号の振幅を検出する同期検波回路と、その出力信号に存在するガス吸収波形から測定対象ガスの濃度を検出する演算部と、を備える。また、演算部208eは、ガス吸収波形の最大値と最小値との差分から測定対象ガスの濃度を検出する機能を有し、レーザ駆動信号発生部204sから出力されるトリガ信号を時間的な基準として、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存可能であり、これらのタイミングに基づいてガス吸収波形の最大値及び最小値を検出する。更に、前記タイミングを、周囲温度に基づいて補正可能とする。
【解決手段】周波数変調方式のレーザ式ガス分析計であって、信号処理回路が、受光部の出力信号から2倍波信号の振幅を検出する同期検波回路と、その出力信号に存在するガス吸収波形から測定対象ガスの濃度を検出する演算部と、を備える。また、演算部208eは、ガス吸収波形の最大値と最小値との差分から測定対象ガスの濃度を検出する機能を有し、レーザ駆動信号発生部204sから出力されるトリガ信号を時間的な基準として、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存可能であり、これらのタイミングに基づいてガス吸収波形の最大値及び最小値を検出する。更に、前記タイミングを、周囲温度に基づいて補正可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば煙道内のガスや排ガスなどの各種ガスの濃度をレーザ光により測定するレーザ式ガス分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体状のガス分子には、それぞれ固有の光吸収スペクトルがあることが知られている。例えば、図8はNH3(アンモニア)ガスの吸収スペクトラム例である。
レーザ式ガス分析計は、レーザ光の特定波長の吸収量が測定対象ガスの濃度に比例することを利用した分析計であり、ガス濃度の測定方法としては、2波長差分方式と周波数変調方式とに大別される。このうち、本発明は周波数変調方式を用いたレーザ式ガス分析計に関するものである。
【0003】
まず、周波数変調方式を用いた従来のレーザ式ガス分析計の測定原理を説明する。
図9は、周波数変調方式の原理図を示しており、例えば特許文献1に記載されているものである。周波数変調方式のレーザ式ガス分析計では、中心周波数fc、変調周波数fmで半導体レーザの出射光を周波数変調し、測定対象のガスに照射する。ここで、周波数変調とは、半導体レーザに供給するドライブ電流の波形を正弦波状にすることである。
半導体レーザは、図10,図11に示すようにドライブ電流や温度によって発光波長が変化するので、周波数変調を行うことにより、ドライブ電流の変調に伴って発光波長が変調されることになる。
【0004】
図9に示したように、ガスの吸収線は変調周波数に対してほぼ2次関数となっているので、この吸収線が弁別器の役割を果たし、受光部では変調周波数fmの2倍の周波数の信号(2倍波信号)が得られる。ここで、変調周波数fmは任意の周波数でよいため、例えば変調周波数fmを数kHz程度に選ぶと、ディジタル信号処理装置(DSP)または汎用のプロセッサを用いて、2倍波信号の抽出等の高度な信号処理を行うことが可能になる。
また、受光部によりエンベロープ検波を行えば、振幅変調による基本波を推定することができる。この基本波の振幅と前記2倍波信号の振幅との比を位相同期させて検出することにより、距離に関係なく測定対象ガス濃度に比例した信号を得ることができる。
【0005】
この周波数変調方式では、半導体レーザの種類の中でも、分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)を用いて単一波長のレーザ光のみを出射し、ガス濃度を測定する場合が多い。この場合、DFBレーザが発光するスペクトル線幅の方が測定対象ガスの吸収線幅よりも小さいため、DFBレーザの発光波長を測定対象ガスの吸収波長に合わせる必要がある。
その方法として、測定対象ガスと同じガス成分を予め封入した参照ガスセルを用いて、DFBレーザの発光波長を温度によって制御する方法が用いられている。
上述したような検出原理を用いた従来技術としては、例えば特許文献2に記載されたガス濃度測定装置がある。
【0006】
図12は、特許文献2に記載されたガス濃度測定装置の全体的な構成を示している。
このガス濃度測定装置1は、主として、光源ユニット2、測定光集光部3、測定光増幅部4、受信信号検出部5、校正信号生成部6、基本波信号増幅器7Aと2倍波信号増幅器7Bとからなる参照信号増幅部7、信号微分検出器8Aと信号同期検出器8Bとからなる参照信号検出部8、波長安定化制御回路9、温度安定化PID回路10、電流安定化回路11、測定/校正切替部12、演算部13から構成されている。
【0007】
光源ユニット2は、前述の測定対象ガス特有の吸収線に合致した波長のレーザ光を発生するものであり、図13に示すように、金属パッケージからなる箱型形状のケース本体26の内部に、半導体レーザモジュール21、参照ガスセル22、光検出器(受光部)23が収容されている。
半導体レーザモジュール21のケース21a内には、図14に示すように、周波数変調されたレーザ光を両面から出射する半導体レーザ(レーザダイオード)24が配設されている。図13に示す如く、ケース21aからはコネクタ25aを備えた光ケーブル25が延びており、半導体レーザ24から出射される一方の光が、光ケーブル25を介して図12の測定光集光部3から外部(測定対象ガスの雰囲気)に出射される。
【0008】
図13において、ケース本体26の底面には、冷却用フィン27が取り付けられたペルチェ素子等の温度制御素子(図示せず)が配置されている。この温度制御素子によって動作温度を一定温度に制御することで、発振波長が制御される。
また、図14に示すように、半導体レーザ24の前後両側の光軸上には、出射光を集光するための平坦面を持たない非球面レンズ29a,29bが配設されている。これらの非球面レンズ29a,29bを集光用レンズとして使用することにより、半導体レーザ24に光が反射して戻るのを防止している。
【0009】
図14に示す如く、半導体レーザ24の前後両側の光軸上で非球面レンズ29a,29bの外側には、光アイソレータ30a,30bが配設されている。
これらの光アイソレータ30a,30bは、90°の偏波面の光のみを通す偏光子と45°の偏波面の光のみを通す検光子との間に配置された結晶に磁力を印加することで、結晶中を透過する光の偏波面を回転させて偏光子での反射光の通過を阻止し、半導体レーザ24に反射光が戻るのを防止している。
【0010】
図13,図14において、半導体レーザ24の後側の光路上に配置された参照ガスセル22は、測定光発振波長の安定化や測定対象ガス濃度の校正用に用いられる。この参照ガスセル22において、空洞の金属胴22aの対向面に光を通過させる貫通穴が形成され、金属胴22aの内部に参照ガスが封入された後、貫通穴がガラス窓22bによって封止されている。
参照ガスセル22は、内径の長さが予め決められており、封入される参照ガスは、測定対象ガスの測定場所の環境とほぼ等しい組成、圧力とされている。例えば、測定場所の環境が空気であれば、参照ガスはエアバランス、すなわち空気と同じ組成であり、圧力も1気圧となっている。
【0011】
参照ガスセル22は、非球面レンズ29bの後側の後方出射光が入射しやすい位置に固定される。参照ガスセル22を通過したレーザ光は、その後側に配設された光検出器23によって受光検出される。
なお、上記参照ガスセル22は、半導体レーザ24への戻り光を低減するため、光が通過する両端面が斜め(例えば出射光軸に対して約6°)に形成されている。
【0012】
図12において、測定光集光部3は、半導体レーザ24からの光を外部に出射し、測定対象となるガス配管などから反射した測定光をレンズ31により集光する。そして、測定光集光部3は、集光した光を光検出器32により検出して電気信号に変換する。
測定光増幅部4はプリアンプによって構成されており、光検出器32にて検出した光電流を電圧に変換し、増幅して出力する。また、測定光増幅部4では、受信信号検出部5が検出する基本波位相敏感検波信号(f信号:以下、基本波信号と略称する)と2倍波位相敏感検波信号(2f信号:以下、2倍波信号と略称する)とがほぼ同じレベルになるように、基本波信号、2倍波信号のそれぞれについて最適増幅度が設定されている。
【0013】
受信信号検出部5は、測定/校正切替部12が測定光増幅部4側に切り替えられているときに、測定光増幅部4からの測定光信号を処理し、基本波信号(f信号)、2倍波信号(2f信号)、及び、2f/f信号を検出する。
また、受信信号検出部5は、測定/校正切替部12が校正信号生成部6側に切り替えられているときに、校正信号生成部6からの信号を処理し、校正用基本波信号(rf信号)、校正用2倍波信号(r2f信号)、及び、r2f/rf信号を検出する。
上記構成では、参照ガスセル22を用いて半導体レーザ24の発光波長を制御している。また、光検出器32の出力からガス濃度を示す2f信号を抽出することにより、測定対象ガスの濃度を測定している。
【0014】
【特許文献1】特開平7−151681号公報(段落[0005]、図4等)
【特許文献2】特開2001−235418号公報(段落[0012]〜[0024]、図2,図11等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
周波数変調方式のレーザ式ガス分析計では、前述したように、レーザの発光波長を測定対象ガスの吸収波長に合わせる必要がある。
そのためには、特許文献2に示されるように、測定対象ガスと同じガスを封入した参照ガスセルが必要であるが、参照ガスセルへの封入が不可能または困難なガスについては、その濃度の検出が困難である。
【0016】
また、参照ガスセルを用いるために参照ガスセル自体のガス漏れも考慮しなくてはならず、測定対象ガスが腐食性ガスであるHCl等の場合、これと同じ参照ガスがガス漏れすると周囲の光学部品が劣化する。更に、振動の影響による軸ズレや参照ガスセルの破損の影響も考慮しなくてはならず、参照ガスセルを用いること自体が好ましくない。
また、参照ガスセルを用いてレーザの発光波長を特定波長に固定するとしても、PID制御等により温度調整を行って特定波長に固定する安定性が要求される。しかし、通常のDFBレーザ素子の発光波長は100pm/℃程度の温度依存性を持っているので、吸収線幅が40pm程度しかないアンモニアなどを検出するには1pm以下の波長安定性、つまり、0.01℃以下の温度安定化が必要となる。
【0017】
近年、例えば、リニアテクノロジー社や、マキシム社からPID制御用ICが提供されており、これらのICの温度調整安定性は0.001℃〜0.01℃となっている。しかし、上記の温度範囲はサーミスタが埋め込まれた部分であり、DFBレーザ素子に対するものではない。
半導体レーザ素子の周囲温度が一定でない場合、発光波長が変動するため、半導体レーザ素子の発光波長を測定対象ガスの吸収波長に合わせて測定すること自体に問題があり、従来技術では長期的な安定性の向上や測定精度の向上が難しい。
更に、測定対象ガスと参照ガスセル内に封入されたガス成分とが同一でも、実際に測定するガスの吸収幅や波長は若干変動する。また、参照ガスの温度と測定対象ガスの温度とが異なる場合は、レーザの発光波長を測定対象ガスの吸収波長に完全に一致させることが困難である。
【0018】
以上まとめれば、従来技術では参照ガスセルを用いて測定対象ガスの吸収波長にレーザの発光波長を合致させる必要があり、その波長安定性が測定性能に影響する。
また、HClやHFなどの腐食性ガスの参照ガスセルを製作するためには、ガス封入設備も高価となり、測定可能なガス成分が参照ガスセルの製作可否によって制約されるという問題もある。
レーザ式ガス分析計によってガス濃度を測定するには、前述のように吸収波長の一致した光を出射するレーザ素子が必要であるが、この条件に合うレーザ素子が存在しても参照ガスセルが製作できなければ、分析計としての実現は不可能である。更に、参照ガスセルからのガス漏れ対策をする必要があるなど、装置構成上も好ましくなかった。
【0019】
そこで、本発明の目的は、測定対象ガスの吸収波長すなわちレーザ素子の発光波長を走査するための参照ガスセルを不要とし、装置を単純化してコストを低減すると共に、発光波長を特定波長に安定化させる必要をなくして、ガス濃度を高精度に測定可能としたレーザ式ガス分析計を提供することにある。
【0020】
更に、この種のガス分析計は、屋外に設置されると共に高温の煙道内に設置される場合もある。このような設置環境では、ガス分析計の周囲温度が大きく変動するため、レーザ素子の温度が周囲温度の変化に影響されて発光波長がずれることがある。この発光波長のずれにより、ガス吸収波形を正確に検出することができなくなり、結果としてガス濃度測定値に誤差が発生するという問題がある。
従って、本発明の他の目的は、特に周囲温度の変化が大きい環境においても安定的かつ正確にガス濃度を測定可能としたレーザ式ガス分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、請求項1に係るレーザ式ガス分析計は、周波数変調されたレーザ光を出射する光源部と、この光源部からの出射光をコリメートする光学系と、この光学系から測定対象ガスが存在する空間を介して伝播された透過光を集光する光学系と、この光学系により集光された光を受光する受光部と、この受光部の出力信号を処理する信号処理回路とを備え、前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記光源部における変調信号の2倍周波数成分の信号を検出して測定対象ガスの濃度を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記光源部が、測定対象ガスの吸収波長を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とする波長走査駆動信号と前記発光波長を変調するための高周波変調信号とを合成してレーザ駆動信号として出力するレーザ駆動信号発生部と、このレーザ駆動信号発生部から出力された前記レーザ駆動信号を電流に変換する電流制御部と、この電流制御部から出力された電流が供給される前記レーザ素子と、このレーザ素子の温度を安定化させる温度安定化手段と、を備え、かつ、
前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記2倍周波数成分の信号の振幅を検出する同期検波回路と、この同期検波回路の出力信号に存在するガス吸収波形から測定対象ガスの濃度を検出する演算部と、を備えたレーザ式ガス分析計において、
前記演算部は、前記ガス吸収波形の最大値と最小値との差分から測定対象ガスの濃度を検出する機能を備えると共に、前記レーザ駆動信号発生部から出力されるトリガ信号を時間的な基準として、前記ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存可能であり、これらのタイミングに基づいて前記ガス吸収波形の最大値及び最小値を検出するものである。
【0022】
請求項2に係るレーザ式ガス分析計は、請求項1に記載したレーザ式ガス分析計において、周囲温度を検出する感温素子と、この感温素子により検出した周囲温度に基づいて前記演算部に保存されている前記タイミングを補正する温度補正手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、参照ガスセルが不要になるため装置構成の単純化、低コスト化が可能であると共に、レーザ素子の発光波長を固定する必要がないため検出感度が安定化し、測定精度が向上するという効果が得られる。
また、演算部が、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存しておき、これらのタイミングに基づいて前記最大値及び最小値を検出すると共に、レーザ素子の周囲温度を感温素子により検出し、その検出温度に基づいて前記タイミングを補正することにより、周囲温度の変化が大きい環境においてもガス吸収波形の最大値及び最小値を確実に検出してガス濃度を安定的かつ正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1はこの実施形態の全体的な構成を示している。図1において、フランジ201a,201bは、例えば、測定対象ガスが内部を通過する煙道などの配管の壁101a,101bに、溶接等によって固定されている。一方のフランジ201aには、取付座202aを介して、有底円筒状のカバー203aが取り付けられている。
【0025】
カバー203aの内部には光源部204が配置されており、光源部204から出射したレーザ光は、コリメートレンズ205を含む光学系によって平行光にコリメートされる。コリメートされた光は、フランジ201aの中心を通って壁101a,101bの内部(煙道内部)へ入射される。前記平行光は、壁101a,101bの内部にある測定対象ガスを透過する際に吸収を受ける。
【0026】
他方のフランジ201bには、取付座202bを介して有底円筒状のカバー203bが取り付けられている。煙道内部を通過した平行光は、カバー203b内部の集光レンズ206により集光されて受光部207により受光される。この光は、受光部207により電気信号に変換され、後段の信号処理回路208に入力される。
【0027】
次に、図2は前記光源部204の構成を示している。
この光源部204は、波長走査駆動信号発生部204aと、高周波変調信号発生部204bと、からなるレーザ駆動信号発生部204sを備えている。
波長走査駆動信号発生部204aは、測定対象ガスの吸収波長を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とし、高周波変調信号発生部204bは、測定対象ガスの吸収波長を検出するために、例えば10kHz程度の正弦波で波長を周波数変調する。
これらの信号発生部204a,204bの出力信号をレーザ駆動信号発生部204s内で合成することにより、レーザ駆動信号が生成される。
レーザ駆動信号発生部204sから出力されたレーザ駆動信号は電流制御部204cにより電流に変換され、半導体レーザからなるレーザ素子204eに供給される。
【0028】
レーザ素子204eに近接して、温度検出素子としてのサーミスタ204fが配置され、サーミスタ204fにはペルチェ素子204gが近接して配置されている。
ペルチェ素子204gは、サーミスタ204fの抵抗値が一定値になるように温度制御部204dによってPID(比例・積分・微分)制御され、結果としてレーザ素子204eの温度を安定化させるためのものである。
【0029】
前記波長走査駆動信号発生部204aの出力信号は、図3に示すように、一定周期で繰り返されるほぼ台形波状の信号である。
図3において、吸収波長を走査する信号S2は、電流制御部204cを介してレーザ素子204eに供給される電流の大きさを直線的に変える部分である。この信号S2によってレーザ素子204eの発光波長を徐々にずらしていき、例えばアンモニアガスであれば、0.2nm程度の線幅を走査可能としている。
図3における信号S1は、吸収波長は走査しないがレーザ素子204eは発光させておくオフセット部分であり、レーザ素子204eの発光が安定するスレッショルド電流値以上の値にしておく。
更に、信号S3は駆動電流をほぼ0にした部分である。
【0030】
次に、図4は、図1における信号処理回路208の構成を周辺回路と共に示した図である。
図4において、受光部207は例えばフォトダイオードによって構成されており、レーザ素子204eの発光波長に感度を持つ受光素子が使用される。
受光部207の出力は電流信号であり、この電流信号はI/V変換器208aにより電圧信号に変換され、発振器208cからの2f信号(2倍波信号)が加えられる同期検波回路208bに入力され、出射光の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみが抽出される。同期検波回路208bの出力信号は、ノイズ除去用のフィルタ208dを介してCPU等の演算部208eに送られる。
【0031】
前記同期検波回路208bからの出力信号の波形の一例を、図5に示す。
図5は、測定環境の周囲温度Taが25℃,−20℃,60℃における信号波形である。図のA部が測定対象ガスにより吸収を受けた吸収波形であり、この吸収波形の最大値と最小値との差(ガス吸収波形の振幅)から測定対象ガスの濃度を検出することができる。
ここで、図5から明らかなように、周囲温度Taが大きく変動すると、レーザ素子204eの温度が周囲温度Taの影響を受けて変動することにより発光波長がずれるため、結果としてガス吸収波形の発生位置(最大値及び最小値が発生するタイミング)がずれてしまう。
【0032】
前述したように、ペルチェ素子204gを用いた温度制御によりレーザ素子204eは所定温度になるように考慮されているが、ペルチェ素子204gによるレーザ素子204eの制御温度と周囲温度Taとの間に大きな差が発生した場合、レーザ素子204eは周囲温度Taの影響を受けて発光波長がずれる現象が発生する。
そこで、この実施形態では、予め実験的に求められる周囲温度Taと図5におけるガス吸収波形の位置ずれ量dtとの関係から、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを温度補正する手段を設けている。
【0033】
すなわち、図4において、例えばレーザ素子204e(図2参照)に近接して設置されたサーミスタ等の感温素子209からの出力信号に基づいて、温度検出回路208fが周囲温度Taを測定する。周囲温度Taとガス吸収波形の位置ずれ量dt(つまり、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングのずれ量)の関係は実験的に求めることができ、図6に示すように、周囲温度Taに対してほぼ直線関係にあることが分かっている。この直線の傾きδを、温度補正係数として演算部208e内に予め保存しておく。また、演算部208eには装置校正時の周囲温度Tbも予め保存しておく。
そして、演算部208eは、現在の周囲温度Taと校正時の周囲温度Tb及び温度補正係数δを用いて、数式1によりガス吸収波形の位置ずれ量dtを求める。
[数式1]
dt=δ×(Tb−Ta)
【0034】
こうして求めた位置ずれ量dtを、数式2,3に示す如く、演算部208eに予め保存されている吸収波形の最大値が発生するタイミングdmax及び最小値が発生するタイミングdminに加算または減算することで、周囲温度によるガス吸収波形の位置ずれの影響を補正する。なお、dmax’,dmin’はそれぞれ補正後の最大値発生タイミング、最小値発生タイミングを示す。
[数式2]
dmax’=dmax+dt
[数式3]
dmin’=dmin+dt
また、演算部208eに予め保存されている前記タイミングdmax,dminは、レーザ駆動信号発生部204s内の波長走査駆動信号発生部204aから出力されるパルス状のトリガ信号S4を時間的な基準として検出されたものである。
【0035】
演算部208eは、こうして補正されたガス吸収波形の最大値及び最小値の発生タイミングdmax’,dmin’に基づき、ガス吸収波形の最大値及び最小値を検出し、最大値と最小値との差を検出することで、周囲温度が大きく変動するような環境においても、ガス濃度を安定的かつ正確に測定することができる。
【0036】
ここで、前述した如く、演算部208eには波長走査駆動信号発生部204aからのトリガ信号S4が入力されており、このトリガ信号S4は、図7に示す如く、波長走査駆動信号の1周期に同期して波長走査駆動信号発生部204aから出力されるパルス状の信号である。このトリガ信号S4は、例えば、レーザ素子204eの駆動電流をゼロにするような波長走査駆動信号のタイミング(信号S3の発生タイミング)に同期して発生させれば良い。
【0037】
トリガ信号S4は波長走査駆動信号の一周期に同期しているので、トリガ信号S4と同期検波回路208bの出力信号Sbとの間には一定の時間的な相関関係がある。つまり、ある基準温度のもとで、トリガ信号S4のタイミングに対してガス吸収波形やその最大値及び最小値が発生するタイミングdmax,dminは予めほぼ正確に検出可能であるため、前述した数式2,3により演算される補正後のタイミングdmax’,dmin’も正確なものとなる。
従って、本実施形態によれば、ガス吸収波形の最大値及び最小値の温度補正を正確に行うことができ、結果として、これらの最大値と最小値との差からガス濃度を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図である。
【図2】図1における光源部の構成図である。
【図3】図2における波長走査駆動信号発生部の出力信号波形図である。
【図4】図1における信号処理回路の構成を周辺回路と共に示した図である。
【図5】ガス吸収波形の位置ずれを示す図である。
【図6】周囲温度とガス吸収波形の位置ずれ量との関係を示す図である。
【図7】図4の信号処理回路に送られるトリガ信号の説明図である。
【図8】NH3ガスの吸収スペクトラム例である。
【図9】周波数変調方式の原理図である。
【図10】ドライブ電流による半導体レーザの発光波長の変化を示す図である。
【図11】温度による半導体レーザの発光波長の変化を示す図である。
【図12】特許文献2に記載されたガス濃度測定装置の全体的な構成図である。
【図13】図12における主要部の構成図である。
【図14】図13における主要部の構成図である。
【符号の説明】
【0039】
101a,101b:壁
201a,201b:フランジ
202a,202b:取付座
203a,203b:カバー
204:光源部
204a:波長走査駆動信号発生部
204b:高周波変調信号発生部
204c:電流制御部
204d:温度制御部
204e:レーザ素子
204f:サーミスタ
204g:ペルチェ素子
204s:レーザ駆動信号発生部
205:コリメートレンズ
206:集光レンズ
207:受光部
208:信号処理回路
208a:I/V変換器
208b:同期検波回路
208c:発振器
208d:フィルタ
208e:演算部
208f:温度検出回路
209:感温素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば煙道内のガスや排ガスなどの各種ガスの濃度をレーザ光により測定するレーザ式ガス分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体状のガス分子には、それぞれ固有の光吸収スペクトルがあることが知られている。例えば、図8はNH3(アンモニア)ガスの吸収スペクトラム例である。
レーザ式ガス分析計は、レーザ光の特定波長の吸収量が測定対象ガスの濃度に比例することを利用した分析計であり、ガス濃度の測定方法としては、2波長差分方式と周波数変調方式とに大別される。このうち、本発明は周波数変調方式を用いたレーザ式ガス分析計に関するものである。
【0003】
まず、周波数変調方式を用いた従来のレーザ式ガス分析計の測定原理を説明する。
図9は、周波数変調方式の原理図を示しており、例えば特許文献1に記載されているものである。周波数変調方式のレーザ式ガス分析計では、中心周波数fc、変調周波数fmで半導体レーザの出射光を周波数変調し、測定対象のガスに照射する。ここで、周波数変調とは、半導体レーザに供給するドライブ電流の波形を正弦波状にすることである。
半導体レーザは、図10,図11に示すようにドライブ電流や温度によって発光波長が変化するので、周波数変調を行うことにより、ドライブ電流の変調に伴って発光波長が変調されることになる。
【0004】
図9に示したように、ガスの吸収線は変調周波数に対してほぼ2次関数となっているので、この吸収線が弁別器の役割を果たし、受光部では変調周波数fmの2倍の周波数の信号(2倍波信号)が得られる。ここで、変調周波数fmは任意の周波数でよいため、例えば変調周波数fmを数kHz程度に選ぶと、ディジタル信号処理装置(DSP)または汎用のプロセッサを用いて、2倍波信号の抽出等の高度な信号処理を行うことが可能になる。
また、受光部によりエンベロープ検波を行えば、振幅変調による基本波を推定することができる。この基本波の振幅と前記2倍波信号の振幅との比を位相同期させて検出することにより、距離に関係なく測定対象ガス濃度に比例した信号を得ることができる。
【0005】
この周波数変調方式では、半導体レーザの種類の中でも、分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)を用いて単一波長のレーザ光のみを出射し、ガス濃度を測定する場合が多い。この場合、DFBレーザが発光するスペクトル線幅の方が測定対象ガスの吸収線幅よりも小さいため、DFBレーザの発光波長を測定対象ガスの吸収波長に合わせる必要がある。
その方法として、測定対象ガスと同じガス成分を予め封入した参照ガスセルを用いて、DFBレーザの発光波長を温度によって制御する方法が用いられている。
上述したような検出原理を用いた従来技術としては、例えば特許文献2に記載されたガス濃度測定装置がある。
【0006】
図12は、特許文献2に記載されたガス濃度測定装置の全体的な構成を示している。
このガス濃度測定装置1は、主として、光源ユニット2、測定光集光部3、測定光増幅部4、受信信号検出部5、校正信号生成部6、基本波信号増幅器7Aと2倍波信号増幅器7Bとからなる参照信号増幅部7、信号微分検出器8Aと信号同期検出器8Bとからなる参照信号検出部8、波長安定化制御回路9、温度安定化PID回路10、電流安定化回路11、測定/校正切替部12、演算部13から構成されている。
【0007】
光源ユニット2は、前述の測定対象ガス特有の吸収線に合致した波長のレーザ光を発生するものであり、図13に示すように、金属パッケージからなる箱型形状のケース本体26の内部に、半導体レーザモジュール21、参照ガスセル22、光検出器(受光部)23が収容されている。
半導体レーザモジュール21のケース21a内には、図14に示すように、周波数変調されたレーザ光を両面から出射する半導体レーザ(レーザダイオード)24が配設されている。図13に示す如く、ケース21aからはコネクタ25aを備えた光ケーブル25が延びており、半導体レーザ24から出射される一方の光が、光ケーブル25を介して図12の測定光集光部3から外部(測定対象ガスの雰囲気)に出射される。
【0008】
図13において、ケース本体26の底面には、冷却用フィン27が取り付けられたペルチェ素子等の温度制御素子(図示せず)が配置されている。この温度制御素子によって動作温度を一定温度に制御することで、発振波長が制御される。
また、図14に示すように、半導体レーザ24の前後両側の光軸上には、出射光を集光するための平坦面を持たない非球面レンズ29a,29bが配設されている。これらの非球面レンズ29a,29bを集光用レンズとして使用することにより、半導体レーザ24に光が反射して戻るのを防止している。
【0009】
図14に示す如く、半導体レーザ24の前後両側の光軸上で非球面レンズ29a,29bの外側には、光アイソレータ30a,30bが配設されている。
これらの光アイソレータ30a,30bは、90°の偏波面の光のみを通す偏光子と45°の偏波面の光のみを通す検光子との間に配置された結晶に磁力を印加することで、結晶中を透過する光の偏波面を回転させて偏光子での反射光の通過を阻止し、半導体レーザ24に反射光が戻るのを防止している。
【0010】
図13,図14において、半導体レーザ24の後側の光路上に配置された参照ガスセル22は、測定光発振波長の安定化や測定対象ガス濃度の校正用に用いられる。この参照ガスセル22において、空洞の金属胴22aの対向面に光を通過させる貫通穴が形成され、金属胴22aの内部に参照ガスが封入された後、貫通穴がガラス窓22bによって封止されている。
参照ガスセル22は、内径の長さが予め決められており、封入される参照ガスは、測定対象ガスの測定場所の環境とほぼ等しい組成、圧力とされている。例えば、測定場所の環境が空気であれば、参照ガスはエアバランス、すなわち空気と同じ組成であり、圧力も1気圧となっている。
【0011】
参照ガスセル22は、非球面レンズ29bの後側の後方出射光が入射しやすい位置に固定される。参照ガスセル22を通過したレーザ光は、その後側に配設された光検出器23によって受光検出される。
なお、上記参照ガスセル22は、半導体レーザ24への戻り光を低減するため、光が通過する両端面が斜め(例えば出射光軸に対して約6°)に形成されている。
【0012】
図12において、測定光集光部3は、半導体レーザ24からの光を外部に出射し、測定対象となるガス配管などから反射した測定光をレンズ31により集光する。そして、測定光集光部3は、集光した光を光検出器32により検出して電気信号に変換する。
測定光増幅部4はプリアンプによって構成されており、光検出器32にて検出した光電流を電圧に変換し、増幅して出力する。また、測定光増幅部4では、受信信号検出部5が検出する基本波位相敏感検波信号(f信号:以下、基本波信号と略称する)と2倍波位相敏感検波信号(2f信号:以下、2倍波信号と略称する)とがほぼ同じレベルになるように、基本波信号、2倍波信号のそれぞれについて最適増幅度が設定されている。
【0013】
受信信号検出部5は、測定/校正切替部12が測定光増幅部4側に切り替えられているときに、測定光増幅部4からの測定光信号を処理し、基本波信号(f信号)、2倍波信号(2f信号)、及び、2f/f信号を検出する。
また、受信信号検出部5は、測定/校正切替部12が校正信号生成部6側に切り替えられているときに、校正信号生成部6からの信号を処理し、校正用基本波信号(rf信号)、校正用2倍波信号(r2f信号)、及び、r2f/rf信号を検出する。
上記構成では、参照ガスセル22を用いて半導体レーザ24の発光波長を制御している。また、光検出器32の出力からガス濃度を示す2f信号を抽出することにより、測定対象ガスの濃度を測定している。
【0014】
【特許文献1】特開平7−151681号公報(段落[0005]、図4等)
【特許文献2】特開2001−235418号公報(段落[0012]〜[0024]、図2,図11等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
周波数変調方式のレーザ式ガス分析計では、前述したように、レーザの発光波長を測定対象ガスの吸収波長に合わせる必要がある。
そのためには、特許文献2に示されるように、測定対象ガスと同じガスを封入した参照ガスセルが必要であるが、参照ガスセルへの封入が不可能または困難なガスについては、その濃度の検出が困難である。
【0016】
また、参照ガスセルを用いるために参照ガスセル自体のガス漏れも考慮しなくてはならず、測定対象ガスが腐食性ガスであるHCl等の場合、これと同じ参照ガスがガス漏れすると周囲の光学部品が劣化する。更に、振動の影響による軸ズレや参照ガスセルの破損の影響も考慮しなくてはならず、参照ガスセルを用いること自体が好ましくない。
また、参照ガスセルを用いてレーザの発光波長を特定波長に固定するとしても、PID制御等により温度調整を行って特定波長に固定する安定性が要求される。しかし、通常のDFBレーザ素子の発光波長は100pm/℃程度の温度依存性を持っているので、吸収線幅が40pm程度しかないアンモニアなどを検出するには1pm以下の波長安定性、つまり、0.01℃以下の温度安定化が必要となる。
【0017】
近年、例えば、リニアテクノロジー社や、マキシム社からPID制御用ICが提供されており、これらのICの温度調整安定性は0.001℃〜0.01℃となっている。しかし、上記の温度範囲はサーミスタが埋め込まれた部分であり、DFBレーザ素子に対するものではない。
半導体レーザ素子の周囲温度が一定でない場合、発光波長が変動するため、半導体レーザ素子の発光波長を測定対象ガスの吸収波長に合わせて測定すること自体に問題があり、従来技術では長期的な安定性の向上や測定精度の向上が難しい。
更に、測定対象ガスと参照ガスセル内に封入されたガス成分とが同一でも、実際に測定するガスの吸収幅や波長は若干変動する。また、参照ガスの温度と測定対象ガスの温度とが異なる場合は、レーザの発光波長を測定対象ガスの吸収波長に完全に一致させることが困難である。
【0018】
以上まとめれば、従来技術では参照ガスセルを用いて測定対象ガスの吸収波長にレーザの発光波長を合致させる必要があり、その波長安定性が測定性能に影響する。
また、HClやHFなどの腐食性ガスの参照ガスセルを製作するためには、ガス封入設備も高価となり、測定可能なガス成分が参照ガスセルの製作可否によって制約されるという問題もある。
レーザ式ガス分析計によってガス濃度を測定するには、前述のように吸収波長の一致した光を出射するレーザ素子が必要であるが、この条件に合うレーザ素子が存在しても参照ガスセルが製作できなければ、分析計としての実現は不可能である。更に、参照ガスセルからのガス漏れ対策をする必要があるなど、装置構成上も好ましくなかった。
【0019】
そこで、本発明の目的は、測定対象ガスの吸収波長すなわちレーザ素子の発光波長を走査するための参照ガスセルを不要とし、装置を単純化してコストを低減すると共に、発光波長を特定波長に安定化させる必要をなくして、ガス濃度を高精度に測定可能としたレーザ式ガス分析計を提供することにある。
【0020】
更に、この種のガス分析計は、屋外に設置されると共に高温の煙道内に設置される場合もある。このような設置環境では、ガス分析計の周囲温度が大きく変動するため、レーザ素子の温度が周囲温度の変化に影響されて発光波長がずれることがある。この発光波長のずれにより、ガス吸収波形を正確に検出することができなくなり、結果としてガス濃度測定値に誤差が発生するという問題がある。
従って、本発明の他の目的は、特に周囲温度の変化が大きい環境においても安定的かつ正確にガス濃度を測定可能としたレーザ式ガス分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、請求項1に係るレーザ式ガス分析計は、周波数変調されたレーザ光を出射する光源部と、この光源部からの出射光をコリメートする光学系と、この光学系から測定対象ガスが存在する空間を介して伝播された透過光を集光する光学系と、この光学系により集光された光を受光する受光部と、この受光部の出力信号を処理する信号処理回路とを備え、前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記光源部における変調信号の2倍周波数成分の信号を検出して測定対象ガスの濃度を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記光源部が、測定対象ガスの吸収波長を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とする波長走査駆動信号と前記発光波長を変調するための高周波変調信号とを合成してレーザ駆動信号として出力するレーザ駆動信号発生部と、このレーザ駆動信号発生部から出力された前記レーザ駆動信号を電流に変換する電流制御部と、この電流制御部から出力された電流が供給される前記レーザ素子と、このレーザ素子の温度を安定化させる温度安定化手段と、を備え、かつ、
前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記2倍周波数成分の信号の振幅を検出する同期検波回路と、この同期検波回路の出力信号に存在するガス吸収波形から測定対象ガスの濃度を検出する演算部と、を備えたレーザ式ガス分析計において、
前記演算部は、前記ガス吸収波形の最大値と最小値との差分から測定対象ガスの濃度を検出する機能を備えると共に、前記レーザ駆動信号発生部から出力されるトリガ信号を時間的な基準として、前記ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存可能であり、これらのタイミングに基づいて前記ガス吸収波形の最大値及び最小値を検出するものである。
【0022】
請求項2に係るレーザ式ガス分析計は、請求項1に記載したレーザ式ガス分析計において、周囲温度を検出する感温素子と、この感温素子により検出した周囲温度に基づいて前記演算部に保存されている前記タイミングを補正する温度補正手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、参照ガスセルが不要になるため装置構成の単純化、低コスト化が可能であると共に、レーザ素子の発光波長を固定する必要がないため検出感度が安定化し、測定精度が向上するという効果が得られる。
また、演算部が、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存しておき、これらのタイミングに基づいて前記最大値及び最小値を検出すると共に、レーザ素子の周囲温度を感温素子により検出し、その検出温度に基づいて前記タイミングを補正することにより、周囲温度の変化が大きい環境においてもガス吸収波形の最大値及び最小値を確実に検出してガス濃度を安定的かつ正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1はこの実施形態の全体的な構成を示している。図1において、フランジ201a,201bは、例えば、測定対象ガスが内部を通過する煙道などの配管の壁101a,101bに、溶接等によって固定されている。一方のフランジ201aには、取付座202aを介して、有底円筒状のカバー203aが取り付けられている。
【0025】
カバー203aの内部には光源部204が配置されており、光源部204から出射したレーザ光は、コリメートレンズ205を含む光学系によって平行光にコリメートされる。コリメートされた光は、フランジ201aの中心を通って壁101a,101bの内部(煙道内部)へ入射される。前記平行光は、壁101a,101bの内部にある測定対象ガスを透過する際に吸収を受ける。
【0026】
他方のフランジ201bには、取付座202bを介して有底円筒状のカバー203bが取り付けられている。煙道内部を通過した平行光は、カバー203b内部の集光レンズ206により集光されて受光部207により受光される。この光は、受光部207により電気信号に変換され、後段の信号処理回路208に入力される。
【0027】
次に、図2は前記光源部204の構成を示している。
この光源部204は、波長走査駆動信号発生部204aと、高周波変調信号発生部204bと、からなるレーザ駆動信号発生部204sを備えている。
波長走査駆動信号発生部204aは、測定対象ガスの吸収波長を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とし、高周波変調信号発生部204bは、測定対象ガスの吸収波長を検出するために、例えば10kHz程度の正弦波で波長を周波数変調する。
これらの信号発生部204a,204bの出力信号をレーザ駆動信号発生部204s内で合成することにより、レーザ駆動信号が生成される。
レーザ駆動信号発生部204sから出力されたレーザ駆動信号は電流制御部204cにより電流に変換され、半導体レーザからなるレーザ素子204eに供給される。
【0028】
レーザ素子204eに近接して、温度検出素子としてのサーミスタ204fが配置され、サーミスタ204fにはペルチェ素子204gが近接して配置されている。
ペルチェ素子204gは、サーミスタ204fの抵抗値が一定値になるように温度制御部204dによってPID(比例・積分・微分)制御され、結果としてレーザ素子204eの温度を安定化させるためのものである。
【0029】
前記波長走査駆動信号発生部204aの出力信号は、図3に示すように、一定周期で繰り返されるほぼ台形波状の信号である。
図3において、吸収波長を走査する信号S2は、電流制御部204cを介してレーザ素子204eに供給される電流の大きさを直線的に変える部分である。この信号S2によってレーザ素子204eの発光波長を徐々にずらしていき、例えばアンモニアガスであれば、0.2nm程度の線幅を走査可能としている。
図3における信号S1は、吸収波長は走査しないがレーザ素子204eは発光させておくオフセット部分であり、レーザ素子204eの発光が安定するスレッショルド電流値以上の値にしておく。
更に、信号S3は駆動電流をほぼ0にした部分である。
【0030】
次に、図4は、図1における信号処理回路208の構成を周辺回路と共に示した図である。
図4において、受光部207は例えばフォトダイオードによって構成されており、レーザ素子204eの発光波長に感度を持つ受光素子が使用される。
受光部207の出力は電流信号であり、この電流信号はI/V変換器208aにより電圧信号に変換され、発振器208cからの2f信号(2倍波信号)が加えられる同期検波回路208bに入力され、出射光の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみが抽出される。同期検波回路208bの出力信号は、ノイズ除去用のフィルタ208dを介してCPU等の演算部208eに送られる。
【0031】
前記同期検波回路208bからの出力信号の波形の一例を、図5に示す。
図5は、測定環境の周囲温度Taが25℃,−20℃,60℃における信号波形である。図のA部が測定対象ガスにより吸収を受けた吸収波形であり、この吸収波形の最大値と最小値との差(ガス吸収波形の振幅)から測定対象ガスの濃度を検出することができる。
ここで、図5から明らかなように、周囲温度Taが大きく変動すると、レーザ素子204eの温度が周囲温度Taの影響を受けて変動することにより発光波長がずれるため、結果としてガス吸収波形の発生位置(最大値及び最小値が発生するタイミング)がずれてしまう。
【0032】
前述したように、ペルチェ素子204gを用いた温度制御によりレーザ素子204eは所定温度になるように考慮されているが、ペルチェ素子204gによるレーザ素子204eの制御温度と周囲温度Taとの間に大きな差が発生した場合、レーザ素子204eは周囲温度Taの影響を受けて発光波長がずれる現象が発生する。
そこで、この実施形態では、予め実験的に求められる周囲温度Taと図5におけるガス吸収波形の位置ずれ量dtとの関係から、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを温度補正する手段を設けている。
【0033】
すなわち、図4において、例えばレーザ素子204e(図2参照)に近接して設置されたサーミスタ等の感温素子209からの出力信号に基づいて、温度検出回路208fが周囲温度Taを測定する。周囲温度Taとガス吸収波形の位置ずれ量dt(つまり、ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングのずれ量)の関係は実験的に求めることができ、図6に示すように、周囲温度Taに対してほぼ直線関係にあることが分かっている。この直線の傾きδを、温度補正係数として演算部208e内に予め保存しておく。また、演算部208eには装置校正時の周囲温度Tbも予め保存しておく。
そして、演算部208eは、現在の周囲温度Taと校正時の周囲温度Tb及び温度補正係数δを用いて、数式1によりガス吸収波形の位置ずれ量dtを求める。
[数式1]
dt=δ×(Tb−Ta)
【0034】
こうして求めた位置ずれ量dtを、数式2,3に示す如く、演算部208eに予め保存されている吸収波形の最大値が発生するタイミングdmax及び最小値が発生するタイミングdminに加算または減算することで、周囲温度によるガス吸収波形の位置ずれの影響を補正する。なお、dmax’,dmin’はそれぞれ補正後の最大値発生タイミング、最小値発生タイミングを示す。
[数式2]
dmax’=dmax+dt
[数式3]
dmin’=dmin+dt
また、演算部208eに予め保存されている前記タイミングdmax,dminは、レーザ駆動信号発生部204s内の波長走査駆動信号発生部204aから出力されるパルス状のトリガ信号S4を時間的な基準として検出されたものである。
【0035】
演算部208eは、こうして補正されたガス吸収波形の最大値及び最小値の発生タイミングdmax’,dmin’に基づき、ガス吸収波形の最大値及び最小値を検出し、最大値と最小値との差を検出することで、周囲温度が大きく変動するような環境においても、ガス濃度を安定的かつ正確に測定することができる。
【0036】
ここで、前述した如く、演算部208eには波長走査駆動信号発生部204aからのトリガ信号S4が入力されており、このトリガ信号S4は、図7に示す如く、波長走査駆動信号の1周期に同期して波長走査駆動信号発生部204aから出力されるパルス状の信号である。このトリガ信号S4は、例えば、レーザ素子204eの駆動電流をゼロにするような波長走査駆動信号のタイミング(信号S3の発生タイミング)に同期して発生させれば良い。
【0037】
トリガ信号S4は波長走査駆動信号の一周期に同期しているので、トリガ信号S4と同期検波回路208bの出力信号Sbとの間には一定の時間的な相関関係がある。つまり、ある基準温度のもとで、トリガ信号S4のタイミングに対してガス吸収波形やその最大値及び最小値が発生するタイミングdmax,dminは予めほぼ正確に検出可能であるため、前述した数式2,3により演算される補正後のタイミングdmax’,dmin’も正確なものとなる。
従って、本実施形態によれば、ガス吸収波形の最大値及び最小値の温度補正を正確に行うことができ、結果として、これらの最大値と最小値との差からガス濃度を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図である。
【図2】図1における光源部の構成図である。
【図3】図2における波長走査駆動信号発生部の出力信号波形図である。
【図4】図1における信号処理回路の構成を周辺回路と共に示した図である。
【図5】ガス吸収波形の位置ずれを示す図である。
【図6】周囲温度とガス吸収波形の位置ずれ量との関係を示す図である。
【図7】図4の信号処理回路に送られるトリガ信号の説明図である。
【図8】NH3ガスの吸収スペクトラム例である。
【図9】周波数変調方式の原理図である。
【図10】ドライブ電流による半導体レーザの発光波長の変化を示す図である。
【図11】温度による半導体レーザの発光波長の変化を示す図である。
【図12】特許文献2に記載されたガス濃度測定装置の全体的な構成図である。
【図13】図12における主要部の構成図である。
【図14】図13における主要部の構成図である。
【符号の説明】
【0039】
101a,101b:壁
201a,201b:フランジ
202a,202b:取付座
203a,203b:カバー
204:光源部
204a:波長走査駆動信号発生部
204b:高周波変調信号発生部
204c:電流制御部
204d:温度制御部
204e:レーザ素子
204f:サーミスタ
204g:ペルチェ素子
204s:レーザ駆動信号発生部
205:コリメートレンズ
206:集光レンズ
207:受光部
208:信号処理回路
208a:I/V変換器
208b:同期検波回路
208c:発振器
208d:フィルタ
208e:演算部
208f:温度検出回路
209:感温素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調されたレーザ光を出射する光源部と、この光源部からの出射光をコリメートする光学系と、この光学系から測定対象ガスが存在する空間を介して伝播された透過光を集光する光学系と、この光学系により集光された光を受光する受光部と、この受光部の出力信号を処理する信号処理回路とを備え、前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記光源部における変調信号の2倍周波数成分の信号を検出して測定対象ガスの濃度を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記光源部が、測定対象ガスの吸収波長を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とする波長走査駆動信号と前記発光波長を変調するための高周波変調信号とを合成してレーザ駆動信号として出力するレーザ駆動信号発生部と、このレーザ駆動信号発生部から出力された前記レーザ駆動信号を電流に変換する電流制御部と、この電流制御部から出力された電流が供給される前記レーザ素子と、このレーザ素子の温度を安定化させる温度安定化手段と、を備え、かつ、
前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記2倍周波数成分の信号の振幅を検出する同期検波回路と、この同期検波回路の出力信号に存在するガス吸収波形から測定対象ガスの濃度を検出する演算部と、を備えたレーザ式ガス分析計において、
前記演算部は、前記ガス吸収波形の最大値と最小値との差分から測定対象ガスの濃度を検出する機能を備えると共に、前記レーザ駆動信号発生部から出力されるトリガ信号を時間的な基準として、前記ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存可能であり、これらのタイミングに基づいて前記ガス吸収波形の最大値及び最小値を検出することを特徴とするレーザ式ガス分析計。
【請求項2】
請求項1に記載したレーザ式ガス分析計において、
周囲温度を検出する感温素子と、
この感温素子により検出した周囲温度に基づいて前記演算部に保存されている前記タイミングを補正する温度補正手段と、
を備えたことを特徴とするレーザ式ガス分析計。
【請求項1】
周波数変調されたレーザ光を出射する光源部と、この光源部からの出射光をコリメートする光学系と、この光学系から測定対象ガスが存在する空間を介して伝播された透過光を集光する光学系と、この光学系により集光された光を受光する受光部と、この受光部の出力信号を処理する信号処理回路とを備え、前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記光源部における変調信号の2倍周波数成分の信号を検出して測定対象ガスの濃度を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記光源部が、測定対象ガスの吸収波長を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とする波長走査駆動信号と前記発光波長を変調するための高周波変調信号とを合成してレーザ駆動信号として出力するレーザ駆動信号発生部と、このレーザ駆動信号発生部から出力された前記レーザ駆動信号を電流に変換する電流制御部と、この電流制御部から出力された電流が供給される前記レーザ素子と、このレーザ素子の温度を安定化させる温度安定化手段と、を備え、かつ、
前記信号処理回路が、前記受光部の出力信号から前記2倍周波数成分の信号の振幅を検出する同期検波回路と、この同期検波回路の出力信号に存在するガス吸収波形から測定対象ガスの濃度を検出する演算部と、を備えたレーザ式ガス分析計において、
前記演算部は、前記ガス吸収波形の最大値と最小値との差分から測定対象ガスの濃度を検出する機能を備えると共に、前記レーザ駆動信号発生部から出力されるトリガ信号を時間的な基準として、前記ガス吸収波形の最大値及び最小値が発生するタイミングを予め検出して保存可能であり、これらのタイミングに基づいて前記ガス吸収波形の最大値及び最小値を検出することを特徴とするレーザ式ガス分析計。
【請求項2】
請求項1に記載したレーザ式ガス分析計において、
周囲温度を検出する感温素子と、
この感温素子により検出した周囲温度に基づいて前記演算部に保存されている前記タイミングを補正する温度補正手段と、
を備えたことを特徴とするレーザ式ガス分析計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−19780(P2010−19780A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182520(P2008−182520)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
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