説明

レーザ溶接用接合継手および接合体

【課題】レーザビームによる被接合部材への入熱過多によって歪みが生じないようにしたレーザ溶接用接合継手及び当該継手によってレーザ溶接された接合体を提供すること。
【解決手段】被接合部材1A,1B同士の接合端面13,14を突き合わせた接合部をレーザ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接によって接合するため、当該被接合部材1A,1Bに形成されたものであって、被接合部材1A,1Bの接合端部には、接合端面13,14が連続するようにレーザ照射面側に突設した凸部15が形成され、該凸部15のレーザ照射面側に溶接溝16が形成されたレーザ溶接用接合継手。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金材からなる被接合部材をレーザ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接するためのレーザ溶接用接合継手に関し、特にレーザビームの入熱過多によって歪みが生じないようにするためのレーザ溶接用接合継手及び当該継手によって溶接された接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車などの車体製造には、例えばアルミ合金板などの被接合部材の接合にMIG溶接や摩擦攪拌接合が使用されている。しかし、MIG溶接は、被接合部材に対する入熱が多くなってしまい、板厚が数ミリの板材を接合するには溶接による歪みへの影響が大きくなってしまう。
これに対して摩擦攪拌接合は、入熱量が少ないため溶接による歪みは小さくて好ましいが、溶接速度がMIG自動溶接と同程度であって高速化することができず、製作コストの低減が困難である。
【0003】
一方、鉄道車両や自動車などの車体製造には、レーザやアーク溶接の他に摩擦攪拌接合なども考えられる。例えば、被接合部材である中空押出形材を使用し、接合体として鉄道車両用構体を構成する場合、その中空押出形材には施工時に回転工具からの負荷に耐え得る接合部の強度・剛性を確保する必要があるため軽量化が困難になる。そこで現在では、高速な接合とそれに伴う接合部への入熱を抑える接合方法としてレーザ溶接、或いはレーザ溶接とTIG溶接やMIG溶接を組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接が期待されている。また、レーザ溶接などでは、接合部の強度確保のための重量増もないため、鉄道車両などの車体軽量化が可能な点でも期待されている。
【特許文献1】特開2005−138153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、レーザを使用した溶接によってアルミニウムやアルミニウム合金を接合する場合、これらは熱伝導率が高いため、接合部に照射したレーザによる熱が接合部を十分に溶かす前に分散してしまう問題があった。すなわち、アルミニウムやアルミニウム合金は低融点であるものの、接合部に熱を十分入れようとすれば被接合部材にエネルギが多く入ってしまい歪みを生じさせることにもなる。また、アルミニウムやアルミニウム合金は高い熱伝達率のほか、レーザビームの反射率も高いため、レーザビームが反射してしまって接合部へエネルギを集中させることが難しいという問題もあった。
【0005】
ところで、レーザ溶接やレーザ・ハイブリッド溶接は、レーザによる接合部への入熱によって接合速度を高めることができるメリットがある。しかし、接合部へのエネルギ集中が困難であると、そうしたメリットも半減してしまうことになる。すなわち、接合部が十分に溶融できるようにレーザビームの送り速度を抑えて十分な時間照射しなければならなくなるからである。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、レーザビームによる被接合部材への入熱過多によって歪みが生じないようにしたレーザ溶接用接合継手及び当該継手によってレーザ溶接された接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレーザ溶接用接合継手は、被接合部材同士の接合端面を突き合わせた接合部をレーザ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接によって接合するため、当該被接合部材に形成されたものであって、前記被接合部材の接合端部には、前記接合端面が連続するようにレーザ照射面側に突設した凸部が形成され、該凸部のレーザ照射面側に溶接溝が形成されたものであることを特徴とする。
また、本発明のレーザ溶接用接合継手は、前記溶接溝が、前記凸部のレーザ照射面側に形成された斜面によって断面がV字形をしたものであることが好ましい。
また、本発明のレーザ溶接用接合継手は、前記被接合部材が、アルミニウム又はアルミニウム合金材からなるものであることが好ましい。
【0008】
本発明の接合体は、接合端面同士を突き合わせた接合部をレーザ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接によって接合するレーザ溶接用接合継手を備えた被接合部材からなるものであって、前記レーザ溶接用接合継手は、前記被接合部材の接合端部には前記接合端面が連続するようにレーザ照射面側に突設した凸部が形成され、該凸部のレーザ照射面側に溶接溝が形成されたものであることを特徴とする。
また、本発明の接合体は、前記被接合部材が、アルミニウム又はアルミニウム合金材からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、凸部にレーザビームが照射されると、レーザビームによる熱の拡散が防止されることによって集中的に加熱され、効率良く接合部の深さ方向に熱が伝わることになり、また、凸部表面の溶接溝に照射されたレーザビームが左右の斜面で反射を繰り返すため、効率良く接合部を加熱することになる。よって、レーザ溶接やレーザ・アークハイブリッド溶接によって接合体を構成する場合、レーザビームによる被接合部材への入熱過多によって歪みが生じないようにすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明に係るレーザ溶接用接合継手および接合体の一実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。先ず図5は、本実施形態のレーザ溶接用接合継手を使用した被接合部材によって構成された鉄道車両構体を示した図である。接合体であるこの鉄道車両用構体80は、左右の面を形成する側構体81と、屋根を形成する屋根構体82と、車体長手方向に対して両端を閉鎖する面を形成する妻構体83と、床面を形成する台枠84とから構成されている。そして、側構体81や屋根構体82は、車体一両分の長さの押出中空形材88が幅方向(図面左右方向、以下同じ)に複数溶接接合されている。なお、接合体は、被接合部材を平板にした外板の鉄道車両用構体や鉄道車両以外であってもよい。
【0011】
ここで、図1は、被接合部材である押出中空形材のレーザ溶接用接合継手を示した図である。この押出中空形材1A,1Bは、押出し成形によって形成されたアルミニウム合金による形材であり、鉄道車両80を構成する押出中空形材88に相当するものである。押出中空形材1A,1Bの左側端部と右側端部とにそれぞれ、図示するレーザ溶接用接合継手が形成されている。押出中空形材1A,1Bは、上面板2と下面板3とが不図示のリブによって連結されたものであり、左右の端部にそれぞれ位置する端部リブ5,6によって幅方向には閉じられた形状になっている。
【0012】
押出中空形材1Aの端部リブ5からは、上面板2と下面板3の延長上にそれぞれ接合突起11,11が突出するように形成され、押出中空形材1Bの端部リブ6からは、接合突起11,11の間に嵌り込むように接合突起12,12が突出して形成されている。従って、押出中空形材1A,1Bを接合する場合には、図示するように接合突起11,11の間に接合突起12,12が嵌め込まれ、接合突起11,11の接合端面13と他方の上面板2及び下面板3の接合端面14とが突き当てられるようになっている。
【0013】
更に本実施形態では、その突き当てられる接合端面13,14部分に凸部15が形成されている。この凸部15は、図面上下方向のレーザ照射面側に突設され、図面を貫く押出中空形材1A,1Bの長手方向に連続して形成されている。従って、このレーザ溶接用接合継手は、レーザ照射部分が他の面よりも隆起した形状の継手になっている。ここで、図2は、レーザ溶接用接合継手の接合部を拡大した図である。押出中空形材1A,1Bは、例えば上面板2や下面板3の板厚t1および接合突起11,12の板厚t2が3mmである。一方、継手に形成された凸部15は、幅bが2mmで、高さhが1mmで形成されている。
【0014】
接合部に凸部15を設けたのは、照射されるレーザビームの熱が集中するようにするためである。凸部15のないフラットな面では、レーザビームの照射によって接合部を加熱しても、熱伝導率の高いアルミでは熱が拡散してしまって、接合部を十分に加熱できないからである。特に、押出中空形材1A,1Bの場合は、レーザが照射される上面板2や下面板3が横に広い板状になっているため熱が逃げやすく、接合部への熱の集中が困難である。
【0015】
ところで、被接合部材がアルミニウムなどの場合、レーザ照射した接合部での熱の集中が困難なのは熱伝達率の高さだけではない。レーザビームの反射率が高いことも問題である。凸部15,15に照射されたとしてもレーザビームが多く反射してしまえば、折角の突起形状もその効果が半減してしまうからである。そこで、本実施形態では、凸部15に加えて更に反射を利用した継手形状になっている。すなわち、凸部15の上面をそれぞれ接合端面13,14側に傾斜させて、反射したレーザビームを接合部に集中させるようにしている。そのため、凸部15の上面は接合端面13,14側に傾斜し、接合時には図示するように接合線に沿ったV字形の溶接溝16が構成されるようになっている。
【0016】
そこで、押出中空形材1A,1Bの継手同士が組み合わされると、接合端面13,14が突き当てられ、レーザ照射面である上面板2や下面板3の表面側で凸部15,15が突き出し、その上面には溶接溝16が現れる。レーザ溶接などに際しては、この凸部15,15の溶接溝16にレーザビームが照射され、同時にシールドガスが噴射される。
なお、溶接方法は、レーザ溶接とMIG溶接を組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接による接合であってもよい。レーザ・アークハイブリッド溶接では、やはり溶接溝16にレーザビームが照射される。そして、進行方向の前方からはシールドガスが供給され、進行方向後方にはMIGトーチによってMIGアークを供給することで溶接が行われる。
【0017】
本実施形態のレーザ溶接用接合継手では、凸部15にレーザビームが照射されると、凸部15が集中的に加熱される。凸部15によって表面が平面方向に連続していないため、レーザビームによる熱の拡散が防止され、効率良く接合部の深さ方向に熱が伝わることになるからである。更に本実施形態では、凸部15の表面にV字形の溶接溝16が構成されているので、照射されたレーザビームが左右の斜面で反射を繰り返すため、効率良く接合部を加熱することになる。つまり、接合部は平面の従来継手に比べ、レーザビームを過度に照射することなく十分な熱を接合部に与えることができる。よって、本実施形態のレーザ溶接用接合継手によれば、レーザ溶接やレーザ・アークハイブリッド溶接によって鉄道車両用構体80などの接合体を構成する場合、レーザビームによる被接合部材への入熱過多による歪の発生を防止して品質を向上させることが可能になる。
【0018】
ところで、前記実施形態では、押出中空形材の継手について説明したが、その他の被接合部材であっても同様にレーザ溶接用接合継手が形成される。図3及び図4は、レーザ溶接用接合継手について他の実施形態を示した図である。
図3は、平板21A,21Bを接合する場合のレーザ溶接用接合継手を示した図である。本実施形態では、突き当てられる接合端面23,24部分に凸部25,26が形成されている。この凸部25,26は、図面上下方向のレーザ照射面側に突設され、図面を貫く押出中空形材21A,21Bの長手方向に連続して形成されている。従って、このレーザ溶接用接合継手もレーザ照射部分が他の面よりも隆起した形状の継手になっている。
【0019】
更に、凸部25,26の表面には溶接溝27が構成されるが、その溶接溝27は、前記実施形態の半分の大きさである。すなわち、一方の凸部25側にのみレーザ照射面側に傾斜面が形成され、他方の凸部26は矩形形状になっている。このように溶接溝は必ずしも左右対称である必要はない。
そこで、本実施形態でもレーザビームが凸部25,26に照射されると、凸部25,26が集中的に加熱され、効率良く接合部の深さ方向に熱が伝わる。そして、溶接溝27によってレーザビームが反射を繰り返すため、効率良く接合部を加熱することができる。よって、レーザ溶接などによって接合体を構成する場合にも、被接合部材への入熱過多による歪の発生を防止して品質を向上させることが可能になる。
【0020】
図4は、平板31A,31Bを接合する場合のレーザ溶接用接合継手を示した図である。本実施形態では接合端部に肉厚部32を設け、突き当てられる接合端面33,34部分に凸部35が形成されている。この凸部35は、図面上下方向のレーザ照射面側に突設され、図面を貫く押出中空形材31A,31Bの長手方向に連続して形成されている。従って、このレーザ溶接用接合継手は、レーザ照射部分が他の面よりも隆起した形状の継手になっている。更に、凸部35の表面には溶接溝36が構成されるが、その溶接溝26は、凸部35のレーザ照射面側に傾斜面が形成され、断面がV字形に形成されている。
【0021】
そこで、本実施形態でもレーザビームが凸部35の特に溶接溝36に照射されると、凸部35が集中的に加熱され、効率良く接合部の深さ方向に熱が伝わる。そして、溶接溝36によってレーザビームが反射を繰り返すため、効率良く接合部を加熱することができる。よって、レーザ溶接などによって接合体を構成する場合にも、被接合部材への入熱過多による歪の発生を防止して品質を向上させることが可能になる。
【0022】
ところで、溶接溝36を形成して溶接しているため、その溶接部にアンダーフィルが生じる問題がある。すなわち、表面に凹みが生じると、そこに応力集中が生じてしまいクラックの発生原因になるおそれがある。この点、本実施形態では、肉厚部32が設けられているため、接合後にこの肉厚部32を切削して平らにする削正を行う。これにより、凹みが生じても簡単な削正作業によって平らな仕上げ面にするため外観が優れたものとなり、加えて溶接部の応力集中を回避することができる。
【0023】
以上、本発明に係るレーザ溶接用接合継手および接合体の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】押出中空形材のレーザ溶接用接合継手を示した図である。
【図2】レーザ溶接用接合継手の接合部を拡大した図である。
【図3】平板のレーザ溶接用接合継手を示した図である。
【図4】アンダーフィルを考慮した平板のレーザ溶接用接合継手を示した図である。
【図5】レーザ溶接用接合継手を使用した被接合部材によって構成された鉄道車両構体を示した図である。
【符号の説明】
【0025】
1A,1B 押出中空形材
2 上面板
3 下面板
5,6 端部リブ
11,12 接合突起
13,14 接合端面
15 凸部
16 溶接溝
80 鉄道車両用構体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材同士の接合端面を突き合わせた接合部をレーザ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接によって接合するため、当該被接合部材に形成されたレーザ溶接用接合継手において、
前記被接合部材の接合端部には、前記接合端面が連続するようにレーザ照射面側に突設した凸部が形成され、該凸部のレーザ照射面側に溶接溝が形成されたものであることを特徴とするレーザ溶接用接合継手。
【請求項2】
請求項1に記載するレーザ溶接用接合継手において、
前記溶接溝は、前記凸部のレーザ照射面側に形成された斜面によって断面がV字形をしたものであることを特徴とするレーザ溶接用接合継手。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するレーザ溶接用接合継手において、
前記被接合部材が、アルミニウム又はアルミニウム合金材からなるものであることを特徴とするレーザ溶接用接合継手。
【請求項4】
接合端面同士を突き合わせた接合部をレーザ溶接又はレーザ・アークハイブリッド溶接によって接合するレーザ溶接用接合継手を備えた被接合部材からなる接合体において、
前記レーザ溶接用接合継手は、前記被接合部材の接合端部には前記接合端面が連続するようにレーザ照射面側に突設した凸部が形成され、該凸部のレーザ照射面側に溶接溝が形成されたものであることを特徴とする接合体。
【請求項5】
請求項4に記載する接合体において、
前記被接合部材が、アルミニウム又はアルミニウム合金材からなるものであることを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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