説明

レーザ発振器

【課題】 連続発振あるいはパルス発振においてトップハットパターンの分布や基本横モードパターンの出力分布を安定に得られるレーザ発振器を提案する。
【解決手段】 レーザ光が共振器を一周する際に、偏光を保持し、その横モードパターンが回転する光共振器を用いる。そのためには、像回転素子を含むリング共振器か、非平面型リング共振器か、斜交差直角プリズム共振器などである。偏光保持のために、半波長板か、ファラデー回転素子を用いる。また、従来のFP型共振器や平面型リング共振器の光路を交差させ、両者の光路を結合させてもよい。それには、ビームスプリッタを挿入するか、偏光子をビームスプリッタで置き換え、このビームスプリッタで結合する。さらに、上記のレーザ発振器からの左あるいは右回りの旋光性をもつレーザ光を、反射体で共振器内に戻し、そのレーザ発振を抑圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ媒体の励起分布、レーザ媒体の光学的特性分布、あるいは、そのレーザ発振器の光共振器内の光学素子の光学特性が空間的に不均一の場合でも、基本横モードパターン、あるいは、平坦な強度分布、いわゆる、トップハットパターンの出力分布のレーザ光を連続発振でもパルス発振でも安定に得られるレーザ発振器に関している。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーザ発振器の安定型光共振器には、リング共振器やファブリーペロー(FP)共振器が用いられる。これらの共振器の共振モードは、TEMmnと表示されるエルミートガウシャン(Hermite-Gaussian)モードである。円形の外形をなすTEMモードの添え字のmとnは横モードの動径次数と方向次数である。基本横モードのTEM00はガウスビームであり、最良の発振モードとされる。それは、このモードが、最も滑らかな強度分布をもち、収束性が高いからである。
【0003】
TEMモードでは、共振器の両端にある2枚の反射鏡上で、光の波面と鏡面形状が一致する。したがって、回折によるビーム広がりを無視すれば、鏡面上の1点を通る光線は、共振器を往復して、必ず元の点に戻ってくる。言い換えると、共振器内のレーザ光はレーザ光断面内で局在している。また、レーザ発振器に用いられるレーザ媒体の励起分布やレーザ媒体や光学素子の屈折率分布などの空間分布、あるいは熱ひずみから生じる複屈折などは、共振器内レーザ光の振幅位相分布と密接に対応する。
【0004】
上記の様に、レーザ光断面のある部分を通過するレーザ光は、常に同じ部分を通過するので、レーザ媒体や光学素子の空間的光学特性が不均一であると、レーザ光の振幅位相分布もこの影響で不均一になる。これによりレーザ光の波面が歪み、これに対応する高次横モードが共振して高次横モードがレーザ発振してしまう。この様な理由で、レーザ媒体に発生する光学特性の不均一性を極力排除する努力が行われてきた。
【0005】
たとえば固体レーザでは、レーザ媒体は光学的にできるだけ均一であることが求められる。さらに、基本横モード発振を得るためには、レーザロッドの励起分布は、少なくとも平坦かガウス関数型であることが必要である。このため、均一な励起を実現する複雑な励起光源の配置が必要であった。また、固体レーザロッドを強力に光励起すると、不均一な屈折率分布や熱複屈折が発生するので、共振器内の補正光学系によりこれらを補償する必要がある。このため、一般に、固体レーザでは、これらの不均一性に対する補償光学系をレーザ共振器内に配置する事が必要であった。
【0006】
しかも、ガウスビームは、ビーム中心部で強度が最大になるため、レーザ発振器に用いられる光学部品は、そのビーム中心部で損傷しやすい。これが、レーザ光出力を増大できない理由になっていた。つまり、これが基本横モード発振のレーザを大出力化するのを困難にする原因になっていた。
【0007】
さらに均一性を妨げる要因として、固体レーザでは、レーザ媒体の外部から励起光を入射して励起するため、単純な励起光源を用いると中心部よりむしろレーザロッド周辺部で励起密度が高くなりやすいという事がある。しかし、レーザロッド周辺部では、上記の様にレーザビーム強度が低い。このため、励起で蓄積したエネルギーを効率よくレーザ光に変換できず、これが、固体レーザ装置のエネルギー変換効率を高められない原因にもなっていた。
【0008】
上記した安定型FP共振器に対し、不安定FP共振器であるパルスレーザ発振器から得られるレーザ光は、トップハットパターンと呼ばれ、中心から周辺までほぼ平坦な強度分布をもつ。このレーザ光もガウスビーム同様に収束性が高い。しかも、このレーザ光はエネルギーを高くできるので、加工用途や科学研究用途に優れた品質を持っている。非特許文献1にあるように、このモードは光軸付近のTEMモードの光がもとになって発生すると考えられてきた。しかし、非特許文献2、および3に記述されているように最近の研究で、その強度分布はフラクタル性が高いことが示され、非特許文献4では、数値計算で求めたレーザ光強度分布がフラクタル構造を持つことが示された。これからトップハットパターンのレーザ光はTEMモードとは異なると予想されている。不安定共振器レーザ以外でのトップハットパターンの、パルスレーザ発振や連続レーザ発振は、その変換効率やビーム品質や安定性などにおいて、レーザの性能を改善すると期待される。
【0009】
従来は、トップハットパターンのモードを安定に共振器中に存在させることは不可能であった。この訳は、たとえば、ある瞬間に平坦な強度分布のモードが、安定型FP共振器中に発生しても、共振器を1往復しただけで、回折拡がりが起こるため、トップハット形の振幅位相分布は崩壊し、その強度分布を持続的に維持することはできないからである。
【0010】
【非特許文献1】E. A. Sziklas et al., "Mode calculations in unstable resonators with saturable gain, 2:Fast Fourier transform method", Applied Optics Vol. 14(8), pp.1874-1889(1975).
【非特許文献2】G. P. Karman et al., "Fractal modes in unstable resonators", Nature, Vol. 402, p.138(Nov. 11, 1999).
【非特許文献3】G. P. Karman et al., "Fractal structure of eigenmodes of unstable-cavity lasers", Optics Letters, Vol. 23(24), pp.1909-1911(1998).
【非特許文献4】G. S. McDonald et al., "Kaleidoscope laser", Journal of Optical Society of America B, Vol. 17, No. 4, pp. 524-529(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来は、トップハットパターンのモードを安定に共振器中に存在させることは不可能であった。この発明は、連続発振あるいはパルス発振において基本横モードパターンの分布やトップハットパターンの出力分布を安定に得られるレーザ発振器を提案する。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、連続発振あるいはパルス発振で出力されるレーザビームの光強度分布が均一で、励起光からレーザビームへのエネルギー変換効率が高い、レーザ発振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のレーザ発振器は、概略では、レーザ光がリング共振器を一周、あるいは、対向プリズム型共振器を一往復する際に、偏光状態を保持するが、横モードパターンは回転する、という光共振器を備えている。ここで、横モードパターンを回転させるには、レーザ共振器が、像回転素子を含むリング共振器か、非平面型リング共振器か、斜交差対向直角プリズム共振器のうちのひとつであればよい。ただし、これらのレーザ共振器では像回転とともに偏光方向も回転するので、この回転を戻して偏光を保持するには偏光子と半波長板か、あるいは、偏光子とファラデー回転素子の組み合わせを用いる。また、これらの共振器の光路上に励起装置で励起されるレーザ媒体を置くか、レーザ光源からの励起光で励起されるパラメトリック素子を置けば、本発明のレーザ発振器が構成される。あるいは、従来のFP型共振器や平面型リング共振器のレーザ発振器の光路に上記のレーザ共振器の光路を交差させ、両者の光路を結合させることによっても本発明のレーザ発振器を実現することができる。それには、上記のレーザ共振器にビームスプリッタを挿入するか、偏光子をビームスプリッタで置き換え、このビームスプリッタで結合させればよい。これにより、従来のレーザ発振器を用いても、横モードパターンの回転効果による横モード選択の効果と、トップハットパターンの強度分布を示すレーザ発振を得ることができる。さらに、上記のリングレーザ発振器の共振器内に発生する、左回りと右回りに進行するレーザ光の出力の片方を、反射体で共振器内に戻し、戻した進行方向のレーザ発振を抑圧して単一の進行方向の光を出力するレーザ発振を得ることができる。
【0014】
このように、本発明のレーザ発振器は、光共振器の中にレーザ媒体か、パラメトリック増幅素子か、あるいは、ラマン増幅素子などの光増幅素子をもったレーザ発振器であって、(1)前記の光共振器内を伝播するレーザ光の光路は共振器を一周あるいは一往復して偶数回の光反射を含み、(2)上記の光共振器の横モードパターンは、共振器を1周あるいは1往復する毎に回転し、その回転角は1周あるいは1往復あたりゼロ度、90度、180度以外の角度であり、レーザ光が上記の光路の周回数あるいは往復数が増加するに従って累積した回転角は単調に増加あるいは減少し、(3)光路を1周あるいは1往復してレーザ光の偏光状態は保持される偏光保持手段をもった光共振器と光増幅素子を用いる。
【0015】
上記の光増幅素子は、励起装置を備えたレーザ媒体、あるいは、励起装置を備えたレーザ媒体とこれにより増幅されたレーザ光の高調波を発生させる非線形結晶、あるいは、励起装置を備えたレーザ媒体とこれにより増幅されたレーザ光で励起されるパラメトリック光学素子、あるいは、上記の光共振器の外部にあるレーザ光で励起されるパラメトリック光学素子、あるいは、上記のパラメトリック光学素子をラマン増幅素子で置き換えたものである
【0016】
また、上記の光共振器は、それぞれ横モードパターンを回転する機能を有する、像回転素子を含むリング共振器、非平面型リング共振器、あるいは、斜交差直角プリズム共振器、である。
【0017】
光共振器の光路を一周あるいは一往復した光の偏光保持手段として、偏光子が共振器の光路上に設置され、偏光方向は上記の偏光子で決定される。
【0018】
また、光共振器の光路を一周あるいは一往復した光の偏光保持手段として、共振器の光路上にビームスプリッタが設置され、偏光方向はビームスプリッタで分岐された光路上の偏光子かあるいは1軸性光学結晶の固体レーザ媒体で決定される。
【0019】
さらに、光共振器の光路を一周あるいは一往復した光の偏光調節手段として、1/4波長板、1/2波長板、あるいはファラデー回転素子を光路上に設けて偏光方向を調整するものである。
【0020】
また、本発明の光共振器の光路上にビームスプリッタを設けて、本発明の光共振器を従来のレーザ発振器の光共振器と結合させ、レーザ発振器の光増幅部分と本発明の光共振器の横モードパターンを回転させる部分と偏光方向を保持するために調整する部分とをそれぞれいずれかの共振器に配置し、これらの共振器を上記のビームスプリッタで結合させるものである。
【0021】
上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、複数の反射器の反射点間を結ぶ複数の線分状の光路を循環するように連結した光路であり、前記光路は、隣接する2つの平面間で交線をもった複数の平面上に形成された光路である。
【0022】
また、上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、複数の反射器の反射点間を結ぶ複数の線分状の光路を循環するように連結した光路で、1つの平面上にある光路の、そのひとつの線分状の光路を、これにダブプリズムが挿入された上記の光路で置換した光路に等価な光路である。
【0023】
また、上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、2つの平面上の光路を、該2つの平面の交線上に置かれた反射鏡と、前記の2つの平面上の光路を連結する光路移動素子とを用いて循環するように連結したものに等価な光路である。
【0024】
あるいは、上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、互いに平行な複数の平面上の光路を光路移動素子を用いて循環するように連結した光路に等価な光路である。
【0025】
また、本発明は、上記のレーザ共振器の光共振器内の光路上に、レーザ光の光軸付近の光のみを遮蔽するフィルタを挿入したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明においては、同じ機能あるいは類似の機能をもった装置に、特別な理由がない場合には、同じ符号を用いるものとする。
【実施例1】
【0027】
本発明のレーザ発振器の基本構成を備えたリング共振器を図1に示す。このリング共振器は、偏光子3と複数の反射面4aと4bと4cで構成され、その光路9は、紙面上で四角形をしている。また、このリング共振器は、その光路上に置かれた像回転素子6と、半波長板5aと、レンズ7を含んでいる。この共振器とその光路上に置かれたレーザ媒体1と励起装置2で、レーザ発振器が構成される。
【0028】
ここで、像回転素子6は、通過するレーザ光の横モードパターンを光軸の周りに回転させる。像回転素子6として用いることのできる光学素子は、たとえば、内部に1回の反射があり図2に示す構造をもつダブプリズムや、図9に示す2回の反射がある180度折返し直角プリズムである。ダブプリズムは、ブリュースター角で光が通過する入出射面と、1つの内部反射面で構成される。また、半波長板5aの代わりに、ファラデー回転素子や1/4波長板を用いることができる。レンズ7は通常の光共振器と同じく、光共振器を安定型、あるいは不安定型に設定し、ビームウェストやビーム広がり角などの共振光のビームパラメータを制御するためにある。このレンズは、必要に応じて用いればよく、複数用いる場合もある。
【0029】
次に、図1の共振器の光路について説明する。はじめに、図1に向かって右回りに周回するレーザ光の光路を説明する。最初に、偏光子3で反射されて紙面に垂直方向の直線偏光した光から出発する。この光は、レンズ7を通過して収束、あるいは、発散され、レーザ媒体1を通過して増幅される。次に、像回転素子6を通過して、横モードパターンと偏光方向は光軸の周りに回転する。次に、光は半波長板5aを通過して、その偏光方向が紙面に垂直な最初の方向に戻されるように設置する。つまり、偏光子3でレーザ光がすべて反射されるように、半波長板の光学軸の方向を設定しておく。このようにすることによってレーザ光は共振器を一周して、横モードパターンのみが光軸のまわりに回転することになる。
【0030】
ここで、レーザ光が共振器を一周するに当たり、像回転素子6やレーザ媒体1などのすべての光学素子の内部反射を含め、偶数回の反射があるとする。ただし、図1においては、像回転素子6やレーザ媒体1では、内部反射が無い場合として示されている。このように偶数回の反射がある場合、横モードパターンは、共振器を一周して回転したパターンになるが、その際の像は正立像の回転したものである。また上記の様に、偏光方向は保持されている。この光は偏光子3から共振器外に出射することなく、周回を重ねるごとにレーザ媒体1で増幅され、レーザ発振する。左回りの光も共振器外に出射することなく、同等に発振する。
【0031】
ここで、レーザ媒体1は図33に示すようなパラメトリック光学素子1cであってもよい。この素子を組み込んだパラメトリック発振装置を図13に示す。共振器はパラメトリック光学素子で増幅される光に共振している。この素子は励起用レーザ22の光で励起される。この励起光は図のように、励起光を反射し発振光を透過する反射鏡4dでレーザ22から導かれる。反射鏡4dは偏光子で置き換えてもよい。この場合に、励起レーザ光は偏光子で反射されるように直線偏光していればよい。あるいは、本共振器の反射鏡の1つが励起光は透過し、パラメトリック素子で増幅される光は反射する反射鏡で、この反射鏡を通してパラメトリック素子に導かれてもよい。共振器は増幅される光か励起光に共振している。あるいは図14に示すように、励起装置で励起されるレーザ媒体1aとパラメトリック素子1cが本共振器の中にあり、レーザ媒体で増幅された光がパラメトリック光学素子を励起してもよい。上記のパラメトリック素子は高調波発生用の非線形光学結晶か、あるいはラマン増幅素子に置き換えることができる。これによりレーザ光の高調波か、あるいはラマン発振光が発生できる。
【0032】
図1の構成では、レーザ光10を出力するには、半波長板5aの光学軸を上記の位置から光軸の周りに回転させる。すると、半波長板5aを通過した光の偏光方向は、紙面垂直方向から僅かに傾くので、偏光子3を通過できる紙面内の方向に直線偏光した成分が僅かに発生し、その通過光が出力光10となる。半波長板をファラデー回転素子あるいは1/4波長板に置き換えた場合も、偏光反射面で反射した光は、最初の紙面垂直に偏光した光であり、次の周回を繰り返す。この光はレーザ媒体により増幅されて、発振が維持される。同様に、左回りのレーザ光も同時に発振して、偏光子3を通過して出力される。
【0033】
あるいは、半波長板を回転させずに、光共振器の反射面のひとつを半透過面にすれば、この面から右回りと左回りの紙面に垂直に偏光したレーザ光出力が得られる。
【0034】
また、図1に向かって左回りに周回するレーザ光は、紙面内方向に偏光した光成分が偏光子3から出力される。次にこれは反射体8で反射され、偏光子3で反射されることなく共振器内に戻る。この光は右回りに周回するレーザ光になり、その一部は横モード回転と半波長板5aにより、紙面に垂直な偏光の光となる。これにより、左回りのレーザ発振は右回りのレーザ発振に強く結合すると同時に、右回りのレーザ発振の利得が左回りのレーザ発振より増加する。この結果、左回りのレーザ発振は抑圧され、右回りだけの単一方向の発振が達成される。
【0035】
ここで、レーザ光が偏光子3から出力されないように、半波長板5aに上記の回転を加えることはせず、さらに偏光子3を半透過の出力鏡に置き換えてもよい。この場合は、紙面に平行あるいは垂直方向に偏光した光のどちらも共振器を周回することができることは明らかである。したがって、この場合は、上記の半透過鏡から無偏光のレーザ光出力を得ることができる。さらに、この状態から半波長板5aをわずかに回転させると、以下に説明するように基本横モードを含めたすべての横モードが共振できなくなり、レーザ発振が生じなくなる。
【0036】
一般に、光共振器内に安定共振モードが存在する条件は、光が共振器を一周あるいは一往復して、もとの振幅位相分布に一致することであり、これにより光共振器内の振幅位相分布が保存される。一方、上記の光共振器の特徴は、光共振器を周回するレーザ光の横モードパターンが、一周ごとに回転することである。上記の光共振器でもレーザ光の振幅位相分布が保存されなければ共振できない事は明らかである。これについて、図3に示すように横モード回転があると、横基本モードTEM00は一周して元の分布に一致するが、高次横モードは、元の分布に一致しないだけでなく、TEMモードの振幅位相分布とも異なるものになる。
【0037】
この例外は、極めて高次の横モードである。仮に光共振器を一周する際の横モード回転角が15度とすると、図3に示すように、360度を15度で割った数の方向次数のTEM0 24は、一周した分布が元の分布に一致するので共振可能になる。このような高次モードは、極めて大きなビーム広がり角を持つので、通常のビーム広がり角をもつレーザ共振器では共振できない。上記の回転角がさらに小さくなると、共振可能になるのはさらに高次のTEMモードである。逆に回転角が0度と180度ではTEM01モードも共振でき、90度ではさらにTEM02モードも共振できることは明らかである。
【0038】
以上の理由から、本発明では、基本横モード以外の次数の横モードが共振不可能になるという効果から、基本横モードだけをレーザ発振に用いることが極めて容易になる。そのためには、本共振器一周の横モード回転角を、0度と90度と180度を除く角度に設定する。
【0039】
前述したように、偏光子を含まない本発明の像回転型共振器で、共振器を一周した光の偏光方向が元の方向と異なれば、一周した光の振幅位相分布は保存されなくなる。この光は共振器を周回するごとに、偏光方向が一方向に回転し続けるので、共振器内で共振することはできない。この共振器にレーザ媒体を組み合わせても、共振する光モードがないためレーザ発振は生じない。
【0040】
また、FP共振器は、基本的に球面鏡や球面レンズの組合せで構成される。従って、基本的には結像光学系と同一の性質をもつ。そのため、一般に、レーザ光の断面の直交する2方向で共振器の光学的パラメータが異なっていてもよいが、TEMモードは180度の回転である上下左右の反転を行なっても、もとの強度分布に重なる中心対称性がある。たとえば、レーザ共振器内で発振しているガウスビームを右端からさえぎっていくと、横モードパターンは左右両側から欠けていく。
【0041】
本共振器で仮に、一周の横モード回転角が0度、90度、あるいは、180度である場合は、その共振モードの対称性は、FP共振器の中心対称性と同一になり、従来のTEMモードが発振する。しかし、回転角がこれらから離れるにつれて、共振モードの対称性がTEMモードとは異なる回転対称性になり、TEMモードは発振できなくなる。図3に示したように、TEM01モードやTEM02モードは、共振器を一周して180度以外の角度で回転すると、もとの横モードパターンと異なり、発振できない。本共振器で共振できるのは、横モード回転に対して不変な振幅位相分布を持つモードで、ここでは像回転モードと呼ぶことにする。
【0042】
TEMモードから像回転モードへ変化する横モード回転角の境界は、ビーム径や共振器長に依存するが、一般に0度、90度、あるいは、180度の角度からほぼ±0.5度以上離れた角度である。回転角がこれらの角度以上に設定してあると、この共振器の共振モードは、TEMモードの中心対称性とは異なる回転対称性になり、基本横モード以外のTEMモードは共振できなくなる。像回転モードを発振させるためには、横モード回転角がTEMモードの角度領域に入らないように、像回転素子を調節して共振器を構成する必要がある。したがってダブプリズムを用いれば、その像回転角はプリズム回転角の2倍になるので、その内部反射面は、図1の紙面と垂直な面、平行な面、あるいは、45度をなす面から±0.25度以上の角度をなせばよい。
【0043】
このようにして本共振器では、TEM00モードと等価なモードが共振できる。さらに、共振器のビームパラメータを調節することにより、これにモードパターンの外縁からの回折光が重畳して平坦な強度分布になったトップハットパターンのモードが安定に共振できる。これらの光が光増幅素子で増幅され、レーザ出力になって得られる。
【0044】
本発明の共振器では、上記の様に基本モードが選択されやすいというモード選択性と、さらに光路束に光路を均等に分布させることによる平均化効果を利用する。TEM00モード、あるいは、滑らかで均一な強度パターンの良好なレーザ光を得るには、一周あるいは一往復毎のTEMモードの回転角度は大きい必要はなく、共振器の周回ごとに僅かずつ回転して、直前のモードパターンと滑らかに重ね合わさることが好ましい。一周あるいは一往復毎の像回転角度は、概して0度、90度、あるいは180度から±5度以下の角度領域であることが望ましい。
【0045】
本発明の共振器が従来の共振器と異なるのは、その共振モードの横モードパターンが回転することにある。これは、光学素子内の反射点も含めて、共振器の反射点が同一平面に含まれないようにすることで発生することもできる。例えば、ダブプリズムを用いた場合も、プリズム内部の反射点は他の反射点を含む平面内から外れている。この様に、像回転素子がなくとも、ひとつの平面上にない4つ以上の反射点で共振器が構成された非平面型リング共振器であれば、横モードパターンを回転させることができる。また、共振器内の光学素子の屈折面では、光線は方向が変化するが、横モードパターンは回転しないので、屈折面の数は任意とすることができる。
【0046】
さらに、本共振器の横モード回転の効果は、レーザ媒体の励起分布や共振器に挿入された光学素子の光学特性の不均一性で発生するレーザ光の振幅位相分布を平均化させるので、良好な横モードのレーザ光を得られやすくする効果がある。本発明のモード回転機能を組み込んだ共振器があり、その光路上を進むレーザ光が、強く励起された領域が図32に示すように空間的に不均一であるレーザ媒体を通過して増幅されるとする。この通過で強く増幅されたレーザ光の領域は、次の周回では光路のまわりに回転して別の領域が強く増幅される。これを繰り返して、レーザ光の断面全体が平均して増幅されたのと等価になる。
【0047】
これは、たとえば、固体レーザロッドが側面一方向にある励起光源から励起されても、レーザ光から見るとレーザロッドの側面全体に励起光源が分布しているのと等価である。この共振器では、レーザ媒体と光学素子の光学不均一性もこの横モード回転効果により平均化され、レーザ光に与えるその影響はFP共振器におけるものよりはるかに小さくなる。これは本共振器内の光が、そのビーム断面内で空間的に位置を特定できない非局在性が高いことによる。
【実施例2】
【0048】
ひとつの平面上にない複数の反射点からなる非平面型リング共振器の基本構成の例を第4図に示す。この例では、3個の反射鏡4aと4bと4cと偏光子3でリング共振器が形成されている。レーザ発振器はこの共振器と、その光路上に置かれたレーザ媒体1、半波長板5aと、レンズ7、および励起装置2とで構成される。レンズを取り去り、ひとつあるいは複数の反射面を、凹面鏡に置き換えてもよい。
【0049】
次に、この共振器の光路の、一周の横モード回転を、図5で説明する。上記の様に、一周の光路は、4つの反射点を持ち、反射鏡4b上にある反射点は、他の反射点の作る平面より上方にある。ここで、光はこの共振器を、紙面上方から見て右回りに進むものとする。また、横モードの回転角や、面と面のなす角度は、光線の到来方向(進行方向と逆)に向かって左回りを正にして測るものとする。光線の各反射点では、その入射光路と出射光路があり、この2本の線で張られる平面は、各反射における入射面S1、S2、S3、S4である。S1から見てS4はθ1の角度をなし、S2から見てS1はθ2の角度をなす。これと同様に、S3からS2を見たθ3と、S4からS3を見たθ4も定義できる。図に表示した光路配置では、θ1とθ3が正で、θ2とθ4が負の値になる。
【0050】
まず最初に、光路L1上に、入射面S4に、電界ベクトルと平行でS4に垂直な矢印の像F1があるとする。この矢印F1をS1上で見ると、S1の垂線からθ1の角度に傾く。これが反射された矢印F2は、反転されてS1上で見て、その垂線から−θ1の角度に傾く。この矢印F2をS2上から見ると、像は−θ1+θ2の角度に傾く。このように反射して共振器を一周してできる矢印F5の回転角は、θR=θ1−θ2+θ3−θ4になる。また、θ1+θ2+θ3+θ4=0であるので、θR=2(θ1+θ3)である。図5に示した4つの反射面からなる非平面型共振器の配置では、各入射面のなす角度の符号から、光路のわずかな非平面配置でも、効率的な像回転が発生することがわかる。
【0051】
次に、最初の矢印F1が入射面S4の垂直方向から、φ0の角度で傾いているとする。共振器を一周すると、像の傾きφ1は、φ1=φ0+θ1−θ2+θ3−θ4になる。次の一周では、この式のφ1とφ0を、φ2とφ1にそれぞれ入れ変えて、φ2求めると、φ2=φ0+2(θ1−θ2+θ3−θ4)になる。したがって、周回を重ねると、持続的な像回転が起こる。
【0052】
しかし、共振器が奇数個の反射面で構成されている場合は、異なる回転が起こる。たとえば、5個の反射面で共振器が構成されている場合を考える。一周目の像回転角は、φ1=−φ0−θ1+θ2−θ3+θ4−θ5である。次の一周では、上記と同様にして求めると、φ2=φ0となって元に戻るので、持続的に像は回転しない。この場合の一周ごとの像は、偶数回反射の場合とは異なり、左右あるいは上下反転像の回転したものになる。
【0053】
しかし、持続的回転が起こらなくても、TEMモード選択は一周ごとの横モードパターンの回転で決まるので、持続的回転の場合と同様に基本TEMモードが選択されやすいという特性を備えている。
【0054】
これに対して、共振器が偶数個の反射面で構成されている場合で、持続的回転の場合には、光が共振器を周回するにつれて、横モードパターンは光軸を中心に回転し続ける。これにより、共振器内光学部品の光学特性に空間不均一性があっても、これを平均化する効果がより高いことになる。この平均化とモード選択の効果により、たとえレーザ媒体の励起分布が不均一でも、これに関係なく良好な強度分布のレーザ光が得られる。
【0055】
また、この場合には、レーザ光が共振器を一周すると、横モードパターンとともに上記の様に、電界ベクトルが回転することから、偏光方向も回転することがわかる。図4の偏光反射面3は、元の偏光成分を共振器内に維持するとともに、光がレーザ媒体を繰り返し通過して増幅され、レーザ発振を発生させるためにある。また、偏光反射面3を通過する偏光成分は、レーザ出力として利用する。半波長板5aはこの出力結合量を調節するために利用でき、この場合はこのレーザ発振器はいわゆる偏光子結合である。
【0056】
図には示していないが、図4の構成を変更し、偏光反射面3を反射面に置き換え、光路上に偏光子3を置いてもよい。共振器を周回するレーザ光は偏光子3を通過し、これに反射されるレーザ光が出力光になる。共振器中のレンズ7は、一周ごとにレーザ光を収束あるいは発散させるもので、共振器の安定性を決定する働きをするものであり、これを用いない場合でも、Qスイッチ発振のようにレーザ媒体に十分な利得があれば、上記と同様なレーザ発振が起こる。
【実施例3】
【0057】
また、図4の共振器の構成に光路移動素子42を加えると、図6に示すようにより実用的な基本構成が得られる。偏光子3で反射される二つの光路L1とL4は平面S4上にあり、反射面4bで反射される光路L2とL3は平面S2上にある。これらの2つの平面は反射面4aの反射点で交わっている。これらの面をまたがる光路L3とL31の間には、光路移動素子42がおかれている。光路移動素子42は、屈折を利用して光路を平行移動するもので、図8に示す円筒プリズム、図9に示す厚さのあるブリュースター窓、図10に示す2重ウェッジ窓、図11に示す光軸から中心をずらせたレンズ対、図12に示す3角プリズム対などが利用できる。
【0058】
光路移動素子42の内部光路には反射がないので、光路は移動するが、横モードパターンの回転は起こらない。したがって、光路移動素子42の両側の光路L4とL31が光路L1と平行であれば、面S4と面S2のなす角の2倍の角度で、共振器を一周したモードパターンは回転する。
【0059】
図6の共振器の光路移動素子については、図7に示すような屈折によって光路を折り曲げる3角プリズム43に置き換えてもよい。この場合に、光路上の屈折面は無視してよい。共振器を一周した後の像回転角は前記と同様に、反射面での反射の入射面が相互になす角を、順次符合を変えて合計した角度である。
【0060】
さらに、共振器内のレーザ光束を直線エッジの遮蔽板で端から遮っていくと、レーザビームは円形を維持したまま直径が減少していく。これも像回転モードの効果で、レーザ光断面の周囲に多数の直線エッジの板があり、それらが一様にレーザ光の中心へ向かって進むのと等価であるため、レーザ光が円形のまま縮小していくことは明らかである。このため、ビーム径を絞るためには、穴付遮蔽板を用いることなく、直線エッジをもった板のみで、上記の様にして絞ることも可能である。
【実施例4】
【0061】
図15に示した実施例は、偏光子3と反射鏡4aと4bにより構成された3角形のリング共振器を用いた例である。その光路上に、レーザ媒体1と、半波長板5aと5bに両側を挟まれたダブプリズム6aと、レンズ7がある。共振器の他に、左回りのレーザ光出力を共振器に戻す反射鏡8と、レーザ媒体を励起する励起装置2があり、共振器長を調節するPZT素子23が反射鏡4aにつけられ駆動回路24で駆動される。
【0062】
この共振器内の光の周回を次に述べる。最初に、偏光子3から右回りに進む光は、紙面に垂直な直線偏光であり、レンズ7で収束・発散され、レーザ媒体1で増幅される。次に半波長板5bで光の偏光方向を、ダブプリズム6aの内部反射面に垂直になるように回転される。光がダブプリズム6aを通過すると、横モードパターンはダブプリズムの内部反射面の垂線方向に反転するが、偏光方向は変化しない。つぎに半波長板5aで偏光方向は、偏光子3の出力結合が最適になるように、紙面垂直方向から傾いた角度に調整される。紙面内に偏光した光が出力光として、偏光子3から取り出される。偏光子3を反射された光は、次の周回により増幅され、発振が維持される。共振器内の全反射数は4回なので、一周した光の横モードパターンは、元のパターンの正立像の回転したものになる。この光は周回ごとに持続的回転を起こす。
【0063】
ここで、ダブプリズム6aの内部反射面が紙面となす角度が小さければ、偏光方向の回転は小さく、ダブプリズム入出射面での反射損失も無視できるので、半波長板5bは省略することができる。ダブプリズム6aの像回転により、レーザ光は一周ごとに横モードパターンを回転させながら、偏光方向は維持できる。
【0064】
次に、上記の右回りのレーザ光出力を取り出す調整で、左回りの光が共振器内で周回する様子を述べる。半波長板5aが右回りの発振光の最適結合量が得られるように調整されているので、偏光子3を出発した光が半波長板5aを通過すると、その偏光方向はダブプリズム6aの内部反射面に垂直ではない。光がダブプリズム6aを通過すると、その入射面と出射面で反射損失を受けながら、内部反射面の垂直方向に偏光方向とモードパターンが反転される。次に、光は半波長板5bを通過して、偏光方向が回転する。一周した光の偏光方向は、右回りの光が回転した角度と、同じになり、偏光子3を右回りの光が出力されるのと同じ割合で、出力光が出射される。したがって、左回りの光の共振器損失は、右回りの光に比べて、ダブプリズムの反射損失だけ大きいことになる。この共振器損失の差のため、単一方向化発振が可能である。半波長板5aをファラデー回転素子に置き換えれば、さらに効果的に左回りの光の共振損失を増大させることができる。
【0065】
通常の単一方向化リング共振器は、半波長板とファラデー回転素子を用いるが、本実施例では、半波長板と像回転素子であるダブプリズムでよい。強力な磁界を必要とするファラデー素子でなく、軽量小型なダブプリズムが使用できるため、レーザ装置が小型軽量になる。また、レーザの外に磁界がもれることもない。さらに、上記の構成で左回りの出力光を共振器内に戻す反射体8があると、左回りの光が発振しても共振器内に戻され、右回りの発振光の偏光成分へ変換される。この反射体には、反射鏡や、稜線を偏光方向に一致あるいは直交させたポロプリズムなどの偏光を維持できる反射面を持つ反射体が利用できる。右回りの光の利得が上昇し、右回りだけの単一方向化発振が、より効率的に得られる。
【0066】
さらに、レーザ光が偏光子3から出力されないように、半波長板5aの回転を戻し、偏光子3を半透過鏡に置き換えてもよい。この場合は、紙面に平行あるいは垂直方向に偏光した光のどちらも、共振器を周回して、横モードパターンは回転し、偏光は維持される。したがって、この半透過鏡から無偏光の出力レーザ光を得ることができる。
【実施例5】
【0067】
また、図16に、4角形のリング共振器と光路移動素子42を組み合わせた共振器を用いたレーザ発振器の例を示す。偏光子3と反射鏡4aと4bと4cにより、4角形のリングができる。偏光子3と反射鏡4aと4cは紙面内にあり、反射鏡4bは紙面より上方にある。光路L1は光路L3とL31と平行であり、非平面型リング共振器になる。光路上にレーザ媒体1と、レンズ7と、半波長板5aと、偏光子3aと、光路移動素子42がある。共振器外に、偏光子3から出力される左回りのレーザ光を共振器に戻す反射鏡8と、レーザ媒体1を励起する励起装置2がある。
【0068】
偏光子3aは、図15の共振器のダブプリズムの入出射面に相当する。像回転した右回りのレーザ光がこれを無反射で通過するように、この偏光子は光路L4の周りに回転させてある。反射体8で十分な単一方向化発振が行われれば、偏光子3aはなくてもかまわない。
【実施例6】
【0069】
図17にQスイッチレーザの例を示す。これは、図16に示したレーザ発振器にQスイッチ12を挿入し、パルス発振を可能にしたものである。Qスイッチ12は、光音響素子かポッケルスセルであり、駆動回路12aにより駆動される。ポッケルスセルを用いた場合には、ポッケルスセルに分極電圧を印加した状態で、共振器損失が最小になるよう、この条件下でレーザ発振が開始されるように半波長板5aを回転させる。このパルス発振レーザで、共振器内で発振する基本波の高調波を発生させるには、さらに高調波発生用の非線形結晶13を光路上におくことができる。連続波発振レーザで共振器内高調波発生を行いたい場合には、Qスイッチ12を取り去ればよい。
【実施例7】
【0070】
また、図18に示したレーザ装置は、二つの反射面が直角に接合された逆反射器11aと11bを対向させたリング共振器を用いたレーザ発振器である。逆反射器のそれぞれの稜線が互いに平行であれば、共振器の光路はL1、L3a、L31とで構成される平面型リング共振器である。光がこれを一周しても横モードパターンは回転しないので、本発明では、それぞれの反射器の稜線は、ある角度をなし、光路L1とL3とL31で共振器の光路が構成されるようにする。これらの光路は、それぞれの逆反射器の稜線と直交している。光路L3とL31は平行であるが、ずれがあるため、光路移動素子42で接続されている。この構成では、光が共振器を一周して、横モードパターンは回転する。横モードパターンとともに回転した偏光は、半波長板5aで元に戻され、さらに最適出力結合を得るように調整される。
【0071】
ここで用いる逆反射器には、図19に示した180度折返し直角プリズムと半波長板5bの組み合わせを用いることもできる。この半波長板5bは、入射光の偏光方向をプリズムの稜線方向にそろえるためにある。半波長板5bがなければ、直角プリズム内部のフレネル反射によって、稜線方向の偏光成分(S偏光)とこれに直角方向の偏光成分(P偏光)に位相差が発生する。このため、直角プリズムに直線偏光を入射させると、楕円偏光になって出射する。半波長板5bは直角プリズムの入射光をS偏光だけか、P偏光だけにして、楕円偏光化を防止する。
【0072】
上記の様に、直角プリズムと半波長板5bの組み合わせではなく、図20に示した偏波保存プリズムを用いてもよい。このプリズムは2個の直角プリズムを結合した形状をなし、光はその内部で入射角45度の全反射を4回行って出射する。プリズムに入射する光は、必ずS偏光成分とP偏光成分での反射を2回ずつ行うので、位相差は付かない。プリズムが回転すると、直線偏光した入射光は、像と偏光が回転した直線偏光になって出射する。
【実施例8】
【0073】
この共振器構成で逆反射器に直角プリズムを用いた共振器を図21に示す。ここで直角プリズム31aの回転角が小さければ、半波長板5bは省略できる。
【実施例9】
【0074】
さらに図22に示すように、光路移動素子42を省略して、その代わりに直角プリズム31aと31bをx軸の周りに回転させれば、光路L3とL31をレンズ7の位置で交差させることができる。光路L3とL31は平行でないため、レンズ7の中心から外れた位置に光を通過させれば、これらの光路を接続することができる。この共振器は非平面型リング共振器であることは変わりない。
【実施例10】
【0075】
直角プリズムから内部光路付近だけを切り出した台形プリズムでも、図23に示すように非平面型リング共振器を構成することができる。さらに、この台形プリズムを固体レーザロッド1aに置き換えれば、図24に示すように、横モード回転型リング共振器が構成される。さらに、このレーザ媒体を2個用いて、図25に示すような共振器も構成できる。レーザロッド1を通る光路は紙面内にあるが、レーザロッド1aを通る光路は紙面より上方にある。後者の光路を含む平面は紙面と反射鏡4aと偏光子3を結ぶ線上で、紙面と交差する。
【実施例11】
【0076】
図26に示した共振器は、像回転用の直角プリズム31aと、光路移動素子42と、多重光路の固体レーザロッド1aを用いた像回転型共振器である。
【実施例12】
【0077】
図27に示したのは、台形プリズム2個を用いた、いわゆる、自己補償型リング共振器である。台形プリズム31aと31bは、直角プリズムからその内部光路が通らない部分を切り落としてある。これらを切り落とす前の二つのプリズムの稜線が直交しないように、台形プリズム31aを回転させてある。このため光が共振器を一周して、横モードパターンは回転する。直角プリズムの回転のため発生する光路のずれは、光路移動素子42で接続する。この共振器は、共振器の光軸ずれに対して共振光路が損なわれない自己補償型共振器の特徴をもつ。同時に、モードパターンの回転機能も有することが、この共振器の特徴である。
【実施例13】
【0078】
図28に示した共振器21は、斜交差直角プリズムを用いたリング共振器である。これは、従来のリング型レーザ発振器22の共振器にビームスプリッタ19によって結合している。レーザ発振器22は単一方向化素子18によって、左回りのレーザ発振を行っている。共振器21によって像回転機能が組み込まれる。レーザ発振器22はリング型共振器でなく、FP型共振器レーザであってもよい。
【実施例14】
【0079】
図29に示した共振器21は、斜交差直角プリズムを用いた像回転共振器である。ビームスプリッタ19により、FP共振器型レーザ発振器22の共振器と結合している。この結合によってFP共振器に像回転機能が組み込まれ、横モード選択効果を利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のレーザ発振器においては、共振器のモード選択効果があり、出力パターンが平坦で滑らかな強度分布を持つレーザ光が得られ、また、不均一分布を補正する補償光学系を用いることなく、TEM横基本モードを、安定でかつ簡単に発振させることができる。
【0081】
さらに、レーザ媒体の不均一励起分布や光学素子の光学不均一性がある場合でも、レーザ光に対しては横モードパターンの断面全体に平均化された効果しか及ぼさない。逆に言えば、これらの不均一性は、横モードパターンに平均化された効果のみを及ぼす。このため、たとえば、レーザロッドの断面の中心から片方の半分だけが励起される場合でも、発振光に対しては、ビーム断面内の励起の平均しか影響しない。したがって、発振横モードはトップハットパターン形状を保持して、励起の偏りに影響されない。このように、本発明では、従来のように良好な発振横モードを得るための最適な励起分布を発生させる必要がなくなり、励起装置の大幅な簡略化をもたらす。
【0082】
一般に、側面励起された固体レーザロッドではロッド周辺部が最も強く励起されるが、TEMモードの基本横モードのレーザ光は周辺で強度が低いので、この部分でのエネルギー変換効率が低下する。しかし、本発明では、このような不均一な励起分布のレーザロッドであっても、ロッド周辺まで平坦なレーザ光の強度分布を発生できるので、レーザのエネルギー変換効率を高くできる。
【0083】
また、本発明の共振器による、トップハットの強度分布のレーザ光は、ガウスビームのようにビーム中心強度が高くないので光学部品が損傷されにくく、レーザの高出力化に適している。
【0084】
さらに、本共振器のレーザ発振器は、光軸ずれに対しても像回転の効果により、単にビーム径が縮小するだけで、ガウスビームパターン、あるいはトップハットパターンの横モードが維持される効果がある。TEMモードでは、これが直ちに横モードの劣化や光学部品の破壊や出力の減少を起こすのに対して、出力の緩やかな減少のみですむため、レーザの安定性がはるかに高くなる。これはレーザ共振器の調整が、TEMモードでは光波の共振条件が満足される精度に反射鏡を調整することを要求されたのに対し、像回転モードでは幾何光学的に光路が形成される精度に反射鏡を光軸調整すればよいことを意味する。
【0085】
また、本発明では、従来のレーザ発振器と同じく、Qスイッチや、モード同期素子を用いてパルス発振させることや、共振器内波長変換のための非線形光学結晶などの発振制御素子を置いて短波長化を図ることが可能である。
【0086】
本共振器のレーザ発振器で、共振器の光路上に置いたレンズ7が凸レンズであり、その焦点距離が短くなり共振器長に近づいてくると、共振光のビーム広がり角が大きくなる。この場合に、出力光のモードパターンの中心に周囲に比べて高い強度のピークが発生する。これはモードパターンの中心部とその周囲で共振Q値が異なることが原因である。ここで、共振器リング長をL、光速度をc、共振器一周の像回転角をθとする。中心部では光が共振器を一周して元の点に戻るので、共振スペクトルはc/Lの周波数間隔を持つ。これに対し、その周囲の光は共振器を2π/θ回だけ周回して元の点に戻る。従って、その共振スペクトルの周波数間隔は、cθ/2πLになり、明らかに中心部の光の共振間隔よりはるかに狭い間隔である。もし、θ/2πが無理数ならスペクトルは連続スペクトルになる。モードパターンの中心ピークはこのスペクトル構造の違いのため発生する。
【0087】
このピークは発振器の光学素子を損傷するため、ピークの発生を防止することが必要である。それには空間フィルタとして、図30に示す反射率分布の反射鏡を、共振器内の光路上に、反射鏡中心を光軸に一致させて置けばよい。反射率分布は図31に示すようなガウス型の分布でもよい。これにより、中心ピークの位置でレーザ光は遮蔽、あるいは減衰され、ピークの発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明のレーザ発振器の基本構成を備えたリング共振器を示す図である。
【図2】ダブプリズムを示す図である。
【図3】TEMモードの横モードの回転を示す図である。
【図4】実施例2の構成を示す図である。
【図5】一周ごとの光学像の回転を示す図である。
【図6】実施例3の構成を示す図である。
【図7】実施例3の構成の変形例を示す図である。
【図8】円筒プリズムを示す図である。
【図9】ブリュースター窓を示す図である。
【図10】2重ウェッジ窓を示す図である。
【図11】レンズ対を示す図である。
【図12】プリズム対を示す図である。
【図13】パラメトリック発振装置を示す模式図である。
【図14】パラメトリック発振装置を示す模式図である。
【図15】実施例4の構成を示す図である。
【図16】実施例5の構成を示す図である。
【図17】実施例6の構成を示す図である。
【図18】実施例7の構成を示す図である。
【図19】180度折返し直角プリズムと半波長板5bの組み合わせを示す図である。
【図20】偏波保存プリズムを示す図である。
【図21】実施例8の構成を示す図である。
【図22】実施例9の構成を示す図である。
【図23】実施例10の構成を示す図である。
【図24】実施例10の変形例を示す図である。
【図25】実施例10の変形例を示す図である。
【図26】実施例11の構成例を示す図である。
【図27】実施例12の構成例を示す図である。
【図28】実施例13の構成例を示す図である。
【図29】実施例14の構成例を示す図である。
【図30】光学素子の損傷を防止するための空間フィルタの特性を示す図である。
【図31】光学素子の損傷を防止するための空間フィルタの特性を示す図である。
【図32】レーザ媒体の強く励起された領域で増幅されたレーザ光の通過領域を示す図である。
【図33】パラメトリック発振装置に組み込むパラメトリック光学素子を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 レーザ媒体
1a レーザロッド
1b レーザロッドの強く励起された領域
1c パラメトリック光学素子またはラマン増幅素子
2 励起装置
3、3a 偏光子
4a、4b、4c、4d 反射鏡
5a、5b 1/2波長板
6 像回転素子
6a ダブプリズム
7 レンズ
8 反射体
9 光路
10 出力光
11a、11b 逆反射器
12 Qスイッチ
12a 駆動回路
13 非線形結晶
14a、14b 実像
15 空間フィルタ
16 レーザ光源
17 カメラ
18 単一方向化素子
19 ビームスプリッタ
20 出力鏡
21 共振器
22 レーザ発振器
23 PZT素子
24 駆動回路
31a、31b 直角プリズム
41a、41b 台形プリズム
42 光路移動素子
43 3角プリズム
44 高反射膜
45 無反射膜
L1、L2、L3、L31、L3a、L4 光路
S1、S2、S3、S4 反射の入射面
F1、F2、F3、F4、F5 光学像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光共振器内の光路上に光増幅素子を備えたレーザ発振器であって、(1)前記の光共振器内の光路は、共振器一周あるいは一往復当たり偶数回の光反射を含み、(2)上記の光共振器内のレーザ光の横モードパターンは、共振器を1周あるいは1往復する毎に回転し、その回転角はゼロ度、90度、および180度以外であり、その累積した回転角はその周回数あるいは往復数が増加するに従って単調に増加あるいは減少して、(3)レーザ光の偏光方向は共振器を1周あるいは1往復してその偏光方向を保持する偏光保持手段を備えた光共振器と光増幅素子を用いることを特徴とするレーザ発振器。
【請求項2】
光増幅素子は、励起装置を備えたレーザ媒体、あるいは、励起装置を備えたレーザ媒体とこれにより増幅されたレーザ光の高調波を発生させる非線形結晶、あるいは、励起装置を備えたレーザ媒体とこれにより増幅されたレーザ光で励起されるパラメトリック光学素子、あるいは、上記の光共振器の外部にあるレーザ光で励起されるパラメトリック光学素子、あるいは、上記のパラメトリック光学素子をラマン増幅素子で置き換えたものであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
光共振器は、それぞれ、その横モードパターンを回転する、像回転素子を含むリング共振器、非平面型リング共振器、あるいは、斜交差対向直角プリズム共振器、であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
光共振器の光路を一周あるいは一往復した光の偏光保持手段として、偏光子が共振器の光路上に設置され、偏光方向は上記の偏光子で決定されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
光共振器の光路を一周あるいは一往復した光の偏光保持手段として、共振器の光路上にビームスプリッタが設置され、偏光方向はビームスプリッタで分岐された光路上の偏光子、あるいは1軸性光学結晶の固体レーザ媒体で決定されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項6】
光共振器の光路を一周あるいは一往復した光の偏光調節手段として、1/4波長板か、1/2波長板か、あるいはファラデー回転素子を光路上に設けて偏光方向を調整することを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項7】
上記の光共振器の光路上にビームスプリッタを設けて、光増幅素子と、光共振器の横モードパターンを回転させる部分あるいは偏光方向を調整する部分とを、上記のビームスプリッタで結合する事を特徴とする請求項4に記載のレーザ発振器。
【請求項8】
上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、複数の反射器の反射点間を結ぶ複数の線分状の光路を循環するように連結した光路であり、前記光路は、隣接する2つの平面間で交線をもった複数の平面上に形成された光路であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項9】
上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、複数の反射器の反射点間を結ぶ複数の線分状の光路を循環するように連結した光路で、1つの平面上にある光路の、そのひとつの線分状の光路を、これにダブプリズムが挿入された光路で置換した光路に等価な光路であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項10】
上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、2つの平面上の光路を、該2つの平面の交線上に置かれた反射鏡と、前記の2つの平面上の光路を連結する光路移動素子とを用いて循環するように連結したものに等価な光路であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項11】
上記のレーザ発振器の光共振器内の光路は、複数の平面上の光路を光路移動素子を用いて循環するように連結した光路に等価な光路であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項12】
上記のレーザ共振器の光共振器内の光路上に、レーザ光の光軸付近の光のみを遮蔽するフィルタを挿入したことを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のレーザ発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate


【公開番号】特開2006−156782(P2006−156782A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346468(P2004−346468)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】