説明

レーザ重ね溶接継手の強度評価方法

【課題】有限要素法を用いたレーザ重ね溶接継手の強度評価方法を提供する。
【解決手段】以下の手順によりレーザ重ね溶接継手の強度評価を行う。手順1:レーザ重ね溶接継手を構成する上下の金属板とレーザ溶接部のFEMモデルを作成する。手順2:前記モデルで構造解析を行い、前期金属板をモデル化したシェル要素と前記レーザ溶接部をモデル化したシェル要素の共有節点の位置で、前記金属板のシェル要素から応力を算出する。手順3:算出された前記応力から評価応力を算出し、端部を除いたレーザ溶接部の評価応力分布を求める。手順4:前記評価応力分布からレーザ溶接部端部の評価応力を外挿により求めて、溶接部全長の評価応力分布を作成し、強度評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有限要素法を用いたレーザ重ね溶接継手の強度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は主に生産コスト上のメリットから自動車車体の一部に組立て溶接法として適用されている。
【0003】
非特許文献1は、自動車車体の組立て溶接法として、更に、レーザ溶接の適用範囲を拡大する場合、レーザ溶接部の強度特性を解明する必要性を指摘し、レーザ重ね継手の継手強度を予測する手法において溶接ビードの寸法と継手強度(引張剪断強度)との関係について力学的モデルを用いて述べている。
【0004】
一般的に、強度評価を行う場合、有力な手段として有限要素法を用いることが多い。特許文献1には自動車車体のスポット溶接部の疲労寿命予測法が述べられている。スポット溶接部の有限要素法解析用シェルモデル(以下、FEMモデル)を形成し、荷重データを与えることで有限要素法線形弾性解析を行い、スポット溶接部の6分力と節点変位を求めている。
【0005】
また、特許文献2は、建設機械のフロント構造物等における疲労寿命を推定する方法に関し、有限要素法で求めた応力値を部材S−N線図に代入して求める際、溶接形状によって変化する切欠き係数で前記応力値を補正することが述べられている。
【0006】
構造物の応力集中部における局所形状に応じて設定された応力集中率と構造物の疲労寿命評価線図を予め記憶し、この応力集中率と疲労寿命評価線図、および有限要素法による応力解析値に基づいて各局所形状に対応した疲労寿命を評価する。例えば、有限要素法による応力解析値は隅肉溶接、突合せ溶接の溶接止端部に相当する位置のシェル要素の応力とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3842621号公報
【特許文献2】特許第3842621号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】宮崎等「レーザ重ね継手の引張せん断強度」新日鉄技報第385号2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、レーザ溶接重ね継手の継手強度の解明が進められているが、適用範囲拡大のため、疲労特性などの強度評価も重要で、有限要素法を適用した高精度評価技術の確立が要望されている。
【0010】
有限要素法で算出する応力は要素重心における応力であるため、FEMモデルのシェル要素のメッシュ寸法の採り方によって、溶接線(止端部)から要素重心までの距離が変化することから、計算される応力値も大きく異なり安定した精度の高い強度評価ができていなかった。
【0011】
なお、特許文献1記載の方法は、疲労亀裂の発生位置をT字、十字、突合せ継手の溶接止端部としたもので、上下の板が重ね合わさって接触しているところの板表面から亀裂が生じるレーザ重ね溶接継手にそのまま適用することはできない。
【0012】
そこで、本発明は、有限要素法を用いてレーザ重ね溶接継手の応力分布を精度よく求め、引張り剪断強度、疲労特性などの強度評価を行うレーザ重ね溶接継手の強度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.以下の手順を備えることを特徴とする有限要素法によるレーザ重ね溶接継手の強度評価方法。
手順1:レーザ重ね溶接継手を構成する上下の金属板とレーザ溶接部のFEMモデルを作成する。
手順2:前記モデルで構造解析を行い、前期金属板をモデル化したシェル要素と前記レーザ溶接部をモデル化したシェル要素の共有節点の位置で、前記金属板のシェル要素から応力を算出する。
手順3:算出された前記応力から評価応力を算出し、端部を除いたレーザ溶接部の評価応力分布を求める。
手順4:前記評価応力分布からレーザ溶接部端部の評価応力を外挿により求めて、溶接部全長の評価応力分布を作成し、強度評価を行う。
2.前記共有節点それぞれの評価応力は、前記共有節点につながる前記金属板をモデル化したシェル要素から得られる主応力の絶対値が最大値であることを特徴とする1に記載のレーザ重ね溶接継手の強度評価方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、FEMモデルのシェル要素のメッシュ寸法によらず精度良くレーザ重ね溶接継手の溶接部の評価応力を求めることが可能なため、有限要素法を用いた強度評価の精度を高めることができ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】レーザ重ね溶接継手を説明する図。
【図2】レーザ溶接継手のFEMモデルの一例で拡大された溶接部近傍を示す図。
【図3】構造解析で得られる共有節点位置の主応力のうち絶対値が最大である主応力の分布を示す図。
【図4】図3の評価応力分布から溶接部の端部となる共有節点における評価応力を外挿により求めて作成した溶接部全長の評価応力分布を示す図。
【図5】実施例(FEMモデル)。
【図6】実施例(4ケースのFEMモデルで得られる共有節点位置の評価応力分布を示す図)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、FEMモデルの弾塑性解析よるレーザ重ね溶接継手の溶接始終端部における評価応力を、その前後までの評価応力分布から外挿して求めることを特徴とする。以下、図面を適宜参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
本発明は、まず、レーザ重ね溶接継手を構成する上下の金属板とレーザ溶接部のFEMモデルを作成する(手順1)。図1はレーザ重ね溶接継手を説明する図で、上板(薄板A)と下板(薄板B)の重ね合わせ部をレーザ溶接する。レーザ溶接は貫通溶接で、上板(薄板A)と下板(薄板B)の外表面のそれぞれに溶接ビード(以下、溶接部)が形成される。
【0018】
FEMモデルは通常の溶接部の有限要素解析に用いられるシェル要素を用いて作成する。
図2は、レーザ溶接継手の溶接部近傍を拡大したもののFEMモデルの一例で、上板(薄板A)または下板(薄板B)およびレーザ溶接部をシェル要素でモデル化したものを示す。
レーザ溶接部は板状で、上板(薄板A)または下板(薄板B)に対し直立した板状とし、その下部は上板(薄板A)または下板(薄板B)と共有節点を有するとした。
【0019】
次に、前記FEMモデルを用いて、荷重を与えた場合の構造解析を行い、レーザ溶接の端部となる共有節点を除いた、他の共有節点について、薄板のシェル要素から主応力を求める。一つの共有節点には薄板B(A)をモデル化した複数のシェル要素がつながり、それぞれのシェル要素から共有節点位置での主応力が得られるが、そのうちで絶対値が最大のものをその共有節点の評価応力とする。そして、溶接部端部を除いた溶接部の評価応力分布を求める(手順2、3)。
【0020】
図3に、評価応力を共有節点位置の絶対値が最大である主応力とした場合の評価応力分布を示す。図における主応力はレーザー溶接部のシェル要素が存在する薄板B(A)の表面での値である。
【0021】
最後に、図4に示すように、評価応力分布から溶接部の端部となる共有節点における評価応力を外挿により求め、溶接部全長の評価応力分布を作成する。得られた評価応力分布を用いて強度評価を行う(手順4)。強度評価は、引張剪断強度、疲労強度などの評価が対象となる。
【実施例】
【0022】
板厚0.7mmの薄板(幅40mm、全長145mm)の一部を重ね合わせて作成したレーザ溶接重ね継手をFEMモデル化し、引張荷重を負荷した場合の応力解析を行った。
【0023】
レーザ溶接部は溶接長10mmで引張荷重方向と直角となるように貫通溶接を行ったものとした。
【0024】
FEMモデル化はシェル要素寸法を0.5mm、1mm、1.25mm、2.5mmとする4ケースについて実施した。
【0025】
図5にFEMモデルの一例を、図6に4ケースについて共有節点位置の評価応力分布を示す。シェル要素寸法が異なってもレーザ溶接部の端に対応する位置を除いて応力分布はよく一致している。得られた評価応力分布からレーザ溶接部端での評価応力を外挿すればシェル要素寸法にかかわらずその値は一致することが認められる。
【0026】
すなわち、本発明によれば、FEMモデルのシェル要素寸法によらず、同じ評価応力分布が得られるので、当該評価応力分布を用いれば安定した強度評価が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の手順を備えることを特徴とする有限要素法によるレーザ重ね溶接継手の強度評価方法。
手順1:レーザ重ね溶接継手を構成する上下の金属板とレーザ溶接部をシェル要素でモデル化する。
手順2:前記モデルで構造解析を行い、前期金属板をモデル化したシェル要素と前記レーザ溶接部をモデル化したシェル要素の共有節点の位置で、前記金属板のシェル要素から応力を算出する。
手順3:算出された前記応力から評価応力を算出し、端部を除いたレーザ溶接部の評価応力分布を求める。
手順4:前記評価応力分布からレーザ溶接部端部の評価応力を外挿により求めて、溶接部全長の評価応力分布を作成し、強度評価を行う。
【請求項2】
前記共有節点それぞれの評価応力は、前記共有節点につながる前記金属板をモデル化したシェル要素から得られる主応力の絶対値が最大値であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ重ね溶接継手の強度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−198164(P2012−198164A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63680(P2011−63680)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】