説明

レーザ顕微鏡装置

【課題】検出される蛍光の強度低下を抑制しつつ、広帯域かつ高分解能な分光を安定的に行うことができるレーザ顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】極短パルスレーザ光を走査させるXYガルバノミラー11と、XYガルバノミラー11により走査された極短パルスレーザ光を標本Aに照射する一方、標本Aにおいて極短パルスレーザ光の多光子吸収により発生した蛍光を集光する対物レンズ15と、対物レンズ15により集光された蛍光を極短パルスレーザ光の光路から分岐させるダイクロイックミラー14と、ダイクロイックミラー14により分岐された蛍光の光路に設けられ、平行間隔を空けて配置され対向面に反射膜が設けられた光学部材41,42を有するエタロン型の分光素子40と、分光素子40内の光学部材間の光路長を調節する圧電素子43と、分光素子40により分光された蛍光を検出する光検出器25とを備えるレーザ顕微鏡装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光物質を標本に添加し、特定の波長を有するレーザ光を標本に照射して、多光子励起効果により標本において発生した蛍光を観察する多光子励起型のレーザ顕微鏡装置が知られている。このようなレーザ顕微鏡装置において、最適な励起波長での標本観察を行うためには、蛍光物質の分光特性を予め把握しておくことが重要となる。
【0003】
分光の方法として、バンドパスフィルタ等の干渉フィルタを使用する方法が知られているが、分光域が狭帯域であったり、分光分解能が悪い問題がある。一方で、入射スリットと回折格子またはプリズムとを組み合わせた方法が知られているが、この方法では、上記問題は解決されるものの、蛍光の強度が大きく低下してしまう問題がある。
【0004】
これらに対し、従来、レーザ光の入射位置によって切り出す波長が異なるグラディエーションフィルタを分光フィルタとして採用したレーザ顕微鏡装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このレーザ顕微鏡装置は、組み合わせるフィルタの枚数を少なくすることで、広帯域かつ高分解能な分光を図ったものである。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0017197号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に開示されているレーザ顕微鏡装置では、グラディエーションフィルタを瞳投影面に設置しているため、スキャン角度によってフィルタへの入射角度が大きく変化してしまい、フィルタ分光特性の角度依存性により、光の波長が誤って検出されてしまうという不都合があった。一方、結像面にフィルタを設置すると、スキャン角度や蛍光散乱光によってフィルタへの入射位置が変化してしまい、グラディエーションフィルタ分光特性の入射位置依存性により、光の波長が誤って検出されてしまうという不都合があった。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、検出される蛍光の強度低下を抑制しつつ、広帯域かつ高分解能な分光を安定的に行うことができるレーザ顕微鏡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、極短パルスレーザ光を走査させる光走査手段と、該光走査手段により走査された極短パルスレーザ光を標本に照射する一方、標本において極短パルスレーザ光の多光子吸収により発生した蛍光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより集光された蛍光を前記光走査手段よりも標本側で前記極短パルスレーザ光の光路から分岐させる光分岐手段と、該光分岐手段により分岐された蛍光の光路に設けられ、平行間隔を空けて配置され対向面に反射膜が設けられた複数の光学部材を有するエタロン型の分光素子と、該分光素子内の光学部材間の光路長を調節する光路長調節手段と、前記分光素子により分光された蛍光を検出する検出手段とを備えるレーザ顕微鏡装置を採用する。
【0008】
本発明によれば、光走査手段により走査された極短パルスレーザ光を標本に照射することで多光子吸収により発生した蛍光は、対物レンズにより集光され、光分岐手段により分岐される。このように分岐された蛍光は、エタロン型の分光素子を透過し、検出手段により検出される。この際、エタロン型の分光素子において、平行間隔を空けて配置された光学部材間の光路長を光路長調節手段により調節することで、蛍光の光成分を波長毎に分離することができ、広帯域かつ高分解能な分光が可能となる。
【0009】
上記発明において、前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な結像面を作る結像レンズを備え、前記分光素子が、前記結像面の近傍に設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、蛍光の主光線が光軸と略平行となる、いわゆる略テレセントリック光学系において、エタロン型の分光素子により分光を行うことができ、エタロン型の分光素子への入射角度による分光特性への影響を無くし、安定した分光を実現することができる。
【0010】
上記発明において、前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な結像面を作る結像レンズと、前記対物レンズの瞳面をリレーする瞳投影レンズとを備え、前記分光素子が、前記瞳投影レンズにより投影された瞳投影面の近傍に設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、スキャンによりエタロン型の分光素子への入射角度が変化した場合にも、スキャン角度に応じてエタロン型の分光素子内の光学部材間の光路長を光路長調節手段により調節することができ、蛍光の光成分を波長毎に分離することが可能となる。
【0011】
上記発明において、前記光走査手段による極短パルスレーザ光の走査に同期して前記分光素子内の光学部材間の光路長を変化させることとしてもよい。
このようにすることで、光走査手段による極短パルスレーザ光のスキャン角度に応じてエタロン型の分光素子内の光学部材間の光路長を光路長調節手段により調節することができ、蛍光の光成分を波長毎に分離することが可能となる。
【0012】
上記発明において、前記光路長調節手段が、前記複数の光学部材の間に設けられた圧電素子であることとしてもよい。
このようにすることで、圧電素子に電圧を印加することにより光学部材を駆動して、エタロン型の分光素子内の光学部材間の光路長を調節することができ、蛍光の光成分を波長毎に分離することが可能となる。
【0013】
上記発明において、前記光路長調節手段が、前記分光素子を光軸に直交する軸線回りに回転させる回転機構であることとしてもよい。
このようにすることで、回転機構により分光素子を光軸に直交する軸線回りに回転させて、エタロン型の分光素子内の光学部材への入射角度を調節することができ、蛍光の光成分を波長毎に分離することが可能となる。
【0014】
上記発明において、前記対物レンズと前記分光素子との間に、極短パルスレーザ光を遮断するフィルタが設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、エタロン型の分光素子に入射させる光から、標本において反射した極短パルスレーザ光をフィルタにより遮断することができ、蛍光分光の精度を向上させることが可能となる。
【0015】
上記発明において、前記光路長調節手段により前記分光素子内の光学部材間の光路長を変化させながら前記検出手段により蛍光を検出して、異なる波長ごとに蛍光画像を取得する分光画像取得手段を備えることとしてもよい。
光路長調節手段によりエタロン型の分光素子内の光学部材間の光路長を変化させながら検出手段により蛍光を検出し、分光画像取得手段によりその都度蛍光画像を取得することで、波長の異なる複数の分光画像を取得することができる。
【0016】
上記発明において、予め取得された蛍光物質の蛍光分光特性に基づいて、前記分光画像取得手段により取得された異なる波長ごとの蛍光画像をアンミキシングした画像を生成するアンミキシング画像生成手段を備えることとしてもよい。
予め取得された蛍光物質の蛍光分光特性に基づいて、分光画像取得手段により取得された複数の分光画像をアンミキシング画像生成手段により演算処理することで、蛍光物質の種類ごとに分離したアンミキシング画像を生成することができ、多重染色を行った場合にも同時に複数の蛍光物質を観察することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、検出される蛍光の強度低下を抑制しつつ、広帯域かつ高分解能な分光を安定的に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1は、図1に示されるように、極短パルスレーザ光を出射する図示しないレーザ光源と、レーザ光源からの極短パルスレーザ光を標本Aに照射するレーザ光照射系10と、レーザ光照射系10により極短パルスレーザ光を照射することで標本Aにおいて発生した蛍光を検出する観察光学系20とを備えている。
【0019】
レーザ光照射系10は、レーザ光源からの極短パルスレーザ光を標本A上で2次元走査するXYガルバノミラー(光走査手段)11と、XYガルバノミラー11を通過した極短パルスレーザ光を対物レンズ瞳面16に投影する瞳投影レンズ12および結像レンズ13と、投影された極短パルスレーザ光を透過させるダイクロイックミラー(光分岐手段)14と、ダイクロイックミラー14を透過した極短パルスレーザ光を標本A上に集光する対物レンズ15とを備えている。
【0020】
XYガルバノミラー11は、例えばアルミコートされた一対のガルバノミラー(図示略)を有しており、該一対のガルバノミラーの角度を変化させ、ラスタスキャン方式で駆動されるようになっている。これにより、レーザ光源からの極短パルスレーザ光を標本A上において2次元的に走査させることができるようになっている。
【0021】
対物レンズ15は、極短パルスレーザ光を標本A上に集光する一方、標本Aにおいて発生した蛍光を集光するようになっている。
ダイクロイックミラー14は、極短パルスレーザ光を透過させる一方、標本Aにおいて発生し対物レンズ15により集光された蛍光を観察光学系20に向けて反射することで、極短パルスレーザ光の光路から標本Aからの蛍光を分岐するようになっている。
【0022】
観察光学系20は、ダイクロイックミラー14により分岐された蛍光を結像させる結像レンズ22と、対物レンズ瞳面16を瞳投影面27に投影する瞳投影レンズ24と、瞳投影レンズ24により投影された蛍光を検出する光検出器(検出手段)25と、光検出器25により検出された蛍光から画像を生成する画像生成部(分光画像取得手段、アンミキシング画像生成手段)26と、ダイクロイックミラー14と結像レンズ22との間に設けられたフィルタ21と、結像レンズ22と瞳投影レンズ24との間の結像面付近に設けられたエタロン型の分光素子40とを備えている。
【0023】
フィルタ21は、標本Aにおいて発生しダイクロイックミラー14により分岐された蛍光を透過させる一方、標本Aにおいて反射および散乱した極短パルスレーザ光を遮断するようになっている。
光検出器25は、例えば光電子増倍管(PMT:Photo Multiplier Tube)であり、検出した光を光電変換して得られた電気信号を画像生成部26に出力するようになっている。
【0024】
エタロン型の分光素子40は、平行間隔を空けて配置され、対向面に反射膜が設けられた複数の光学部材41,42と、光学部材41と光学部材42との間に設けられた圧電素子(光路長調節手段)43とを備えている。エタロン型の分光素子40は、圧電素子43に電圧が印加されることで光学部材41,42が駆動され、光学部材41と光学部材42との間隔が調節されるようになっている。
【0025】
図2は、エタロン型の分光素子40における標本Aからの蛍光の多光束干渉の様子を示している。エタロン型の分光素子40において、以下の(1)式に従って標本Aからの蛍光は分光される。
2nd・cosθ=mλ・・・(1)
ここで、nは光学部材41と光学部材42との間の媒体の屈折率、dは光学部材41と光学部材42との間隔、θは蛍光の入射角、mは回折次数、λは波長を表している。
【0026】
図3は、エタロン型の分光素子40の透過強度スペクトルを示している。図3において、FSR(Free Spectral Range)は、スペクトル幅を有する光をエタロン型の分光素子40に入射させた場合に、隣り合う回折次数のスペクトルが重ならない領域、すなわち分光が可能な波長範囲を示している。また、FWHM(Full Width Half Maximum)は、いわゆる半値全幅であり、スペクトルピークの1/2の透過強度となる際のスペクトル幅である。上記のFSRおよびFWHMは、エタロン型の分光素子40に固有の値であり、光学部材41と光学部材42との間隔を変化させることで、透過強度がピークとなる波長が変化する。したがって、光学部材41,42の間隔を調節することで、エタロン型の分光素子40は、透過させる光の波長帯域を変化させることができ、蛍光の光成分を波長帯域毎に分離することが可能となる。
【0027】
画像生成部26は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)であり、極短パルスレーザ光の標本A面上での集光位置と光検出器25により検出された蛍光強度とを対応付けて記憶することにより、2次元的な蛍光画像を生成するようになっている。
また、画像生成部26は、光検出器25により検出された標本Aの分光特性を基に、光検出器25により予め検出された蛍光物質の蛍光分光特性をアンミキシングして分光画像を生成するようになっている。これにより、多重染色を行った場合にも同時に複数の蛍光物質を観察することができる。
【0028】
また、観察光学系20は、フィルタ21と結像レンズ22との間に挿脱可能に設けられたフィルタ分光ユニット30を備えている。
フィルタ分光ユニット30は、フィルタ21を透過した蛍光を偏向する反射ミラー31と、反射ミラー31により偏向された蛍光の一部を透過させる一方で他を反射するダイクロイックミラー32と、ダイクロイックミラー32を透過した蛍光を集光する集光レンズ34と、集光レンズ34により集光された蛍光を検出する光検出器35と、ダイクロイックミラー32と集光レンズ34との間に設けられたバンドパスフィルタ33とを備えている。また、フィルタ分光ユニット30は、ダイクロイックミラー32により反射された蛍光を集光する集光レンズ37と、集光レンズ37により集光された蛍光を検出する光検出器38と、ダイクロイックミラー32と集光レンズ37との間に設けられたバンドパスフィルタ36とを備えている。
【0029】
上記の観察光学系20において、アンミキシング画像を取得したい場合には、フィルタ分光ユニット30をフィルタ21と結像レンズ22との間から抜いて、エタロン型の分光素子40を透過した蛍光を光検出器25により検出し、光検出器25により検出された蛍光に基づいて画像生成部26により蛍光画像を生成する。一方、明るい画像を取得したい場合には、フィルタ分光ユニット30をフィルタ21と結像レンズ22との間に挿入して、フィルタ21を透過した蛍光を光検出器35および光検出器38により検出し、これら光検出器により検出された蛍光に基づいて画像生成部26により蛍光画像を生成する。
【0030】
上記のように構成された本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1の作用について以下に説明する。
まず、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を用いて、アンミキシング画像を取得する場合、すなわち光検出器25により標本Aからの蛍光を検出する場合について説明する。
図示しないレーザ光源を作動させて極短パルスレーザ光を射出させ、極短パルスレーザ光をXYガルバノミラー11に入射させる。XYガルバノミラー11では、極短パルスレーザ光を標本A上において2次元的に走査させる。このように走査された極短パルスレーザ光は、瞳投影レンズ12および結像レンズ13を経てダイクロイックミラー14を透過し、対物レンズ瞳面16および対物レンズ15に入射し、標本A上に集光される。
【0031】
標本A上の対物レンズ15の焦点面においては、極短パルスレーザ光の光子密度が高くなり、多光子励起効果が発生して標本A内の蛍光物質が励起され、蛍光が発生する。発生した蛍光は、対物レンズ15により集光され、ダイクロイックミラー14により観察光学系20に分岐される。
【0032】
観察光学系20により分岐された蛍光は、フィルタ21を透過して、結像レンズ22により結像されるとともに、エタロン型の分光素子40に入射される。
エタロン型の分光素子40に入射した蛍光は、光学部材41と光学部材42との間で反射を繰り返し、前述の(1)式に従って分光される。ここで、エタロン型の分光素子40は、略テレセントリック光学系となる位置に設けられているため、エタロン型の分光素子40への入射角θは略0度であり、cosθは1となる。したがって、エタロン型の分光素子40に入射した蛍光は、以下の(2)式に従って分光される。
2nd=mλ・・・(2)
ここで、nは光学部材41と光学部材42との間の媒体の屈折率、dは光学部材41と光学部材42との間隔、mは回折次数、λは波長を表している。
【0033】
エタロン型の分光素子40を透過した蛍光は、瞳投影レンズ24により対物レンズ瞳面16が瞳投影面27に投影され、光検出器25により検出される。このように光検出器25により検出された蛍光の強度情報と、XYガルバノミラー11による極短パルスレーザ光の標本A面上における照射位置とを対応づけて記憶することで、画像生成部26により蛍光画像を構築することが可能となる。さらに、(2)式において、光学部材41と光学部材42との間隔dと、光検出器25により検出された蛍光の強度情報とを対応付けて記憶することで、分光蛍光画像を構築することが可能となる。また、この分光蛍光画像を基に、予め検出された蛍光物質の分光特性をアンミキシングして、アンミキシング画像を構築することが可能となる。
【0034】
具体的には、エタロン型の分光素子40において、圧電素子43により光学部材41と光学部材42との間の光路長を変化させながら光検出器25により蛍光を検出し、画像生成部26によりその都度蛍光画像を取得することで、波長の異なる複数の分光画像を取得することができる。また、予め取得された蛍光物質の蛍光分光特性に基づいて、取得された複数の分光画像を画像生成部26により演算処理することで、蛍光物質の種類ごとに分離されたアンミキシング画像を生成することができ、多重染色を行った場合にも同時に複数の蛍光物質を観察することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を用いて、明るい画像を取得する場合、すなわち光検出器35および光検出器38により標本Aからの蛍光を検出する場合について説明する。
前述したアンミキシング画像を取得する場合と同様に、極短パルスレーザ光を標本Aに照射することで発生した蛍光は、対物レンズ15により集光され、ダイクロイックミラー14により観察光学系20に分岐される。
【0036】
観察光学系20により分岐された蛍光は、フィルタ21を透過して、結像レンズ22との間に挿入されたフィルタ分光ユニット30に導光される。
フィルタ分光ユニット30に導光された蛍光は、反射ミラー31により偏向された後、その一部がダイクロイックミラー32を透過する一方で、その他はダイクロイックミラー32により反射される。
【0037】
ダイクロイックミラー32を透過した蛍光は、バンドパスフィルタ33を透過した後、集光レンズ34により集光され、光検出器35により検出される。
ダイクロイックミラー32により反射された蛍光は、バンドパスフィルタ36を透過した後、集光レンズ37により集光され、光検出器38により検出される。
【0038】
このように光検出器35および光検出器38により検出された蛍光の強度情報と、XYガルバノミラー11による極短パルスレーザ光の標本A面上における照射位置とを対応づけて記憶することで、画像生成部26によりフィルタ分光波長域の蛍光に基づいて生成された明るい蛍光画像を構築することが可能となる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、エタロン型の分光素子40において、圧電素子43により光学部材41,42の間隔を調節することで、透過させる光の波長帯域を変化させることができ、広帯域かつ高分解能な分光が可能となる。
また、エタロン型の分光素子40を結像レンズ22と瞳投影レンズ24との間の結像面付近に設けることで、蛍光の主光線が光軸と略平行となる、いわゆる略テレセントリック光学系において分光を行うことができ、XYガルバノミラー11による極短パルスレーザ光の走査が行われた場合にもエタロン型の分光素子40への蛍光の入射角度の変化を抑制し、その分光特性への影響を少なくして安定した分光を実現することができる。
【0040】
なお、本実施形態の第1の変形例として、図4に示すように、エタロン型の分光素子40に代えて、光学部材41と光学部材42との間隔を固定した状態で、光学部材41および光学部材42を一体的に光軸に直交する軸線回りに回転させるθx軸回転ステージ(回転機構)51を備えるエタロン型の分光素子50を採用することとしてもよい。
【0041】
上記構成を有するレーザ顕微鏡装置2によれば、θx軸回転ステージ51により光学部材41および光学部材42を一体的に光軸に直交する軸線回りに回転させることで、蛍光の入射角θを変化させ、前述の(1)式におけるcosθの値を変化させることができる。これにより、エタロン型の分光素子50は、透過させる光の波長帯域を変化させることができ、蛍光の光成分を波長帯域毎に分離することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態の第2の変形例として、図5に示すように、エタロン型の分光素子40と同様の構成を有する2つのエタロン型の分光素子40a,40bを採用することとしてもよい。
ここで、図6はエタロン型の分光素子40a,40bのそれぞれの透過強度スペクトルを示している。これらの透過強度スペクトルを合成すると、図7に示すような透過強度スペクトルが得られる。
【0043】
このように、2つのエタロン型の分光素子を用いることで、FSR(Free Spectral Range)を大きくすることができ、分光が可能な波長範囲を広く確保することができる。つまり、本変形例に係るレーザ顕微鏡装置3によれば、前述のレーザ顕微鏡装置1のエタロン型の分光素子40に比べて、ギャップ間隔を広く確保することができるため、エタロン型の分光素子の製作を容易なものとすることができる。
【0044】
なお、エタロン型の分光素子40a,40bに代えて、図8に示すように、平行間隔を空けて配置され、対向面に反射膜が設けられた光学部材61,62,63と、これら光学部材の間に設けられた圧電素子64,65とを備えるエタロン型の分光素子60を採用することとしてもよい。
また、本変形例において、2つのエタロン型の分光素子40a,40bを採用した例を説明したが、3個以上のエタロン型の分光素子を採用することとしてもよい。
【0045】
また、本実施形態の第3の変形例として、図9に示すように、エタロン型の分光素子40を瞳投影レンズ24と光検出器25との間の瞳投影面27に設けることとしてもよい。ただし、この場合には、エタロン型の分光素子40に入射する蛍光は、略テレセントリック光学系となっていないため、XYガルバノミラー11のスキャン角度に応じて圧電素子43を駆動させ、光学部材41,42の間隔を調節する必要がある。これにより、エタロン型の分光素子40は、透過させる光の波長帯域を変化させることができ、蛍光の光成分を波長帯域毎に分離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1のエタロン型の分光素子の多光束干渉を説明する図である。
【図3】図1のエタロン型の分光素子の透過強度スペクトルである。
【図4】図1の第1の変形例の全体構成を示すブロック図である。
【図5】図1の第2の変形例の全体構成を示すブロック図である。
【図6】図5のエタロン型の各分光素子の透過強度スペクトルである。
【図7】図6の透過強度スペクトルを合成した状態を説明する図である。
【図8】変形例として示すエタロン型の分光素子の概略図である。
【図9】図1の第3の変形例の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
A 標本
1,2,3,4 レーザ顕微鏡装置
10 レーザ光照射系
11 XYガルバノミラー
12 瞳投影レンズ
13 結像レンズ
14 ダイクロイックミラー
15 対物レンズ
16 対物レンズ瞳面
20 観察光学系
21 フィルタ
22 結像レンズ
24 瞳投影レンズ
25 光検出器
26 画像生成部
27 瞳投影面
30 フィルタ分光ユニット
40,40a,40b,50,60 エタロン型の分光素子
41,41a,41b 光学部材
42,42a,42b 光学部材
43,43a,43b 圧電素子
51 θx軸回転ステージ
61,62,63 光学部材
64,65 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極短パルスレーザ光を走査させる光走査手段と、
該光走査手段により走査された極短パルスレーザ光を標本に照射する一方、標本において極短パルスレーザ光の多光子吸収により発生した蛍光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより集光された蛍光を前記光走査手段よりも標本側で前記極短パルスレーザ光の光路から分岐させる光分岐手段と、
該光分岐手段により分岐された蛍光の光路に設けられ、平行間隔を空けて配置され対向面に反射膜が設けられた複数の光学部材を有するエタロン型の分光素子と、
該分光素子内の光学部材間の光路長を調節する光路長調節手段と、
前記分光素子により分光された蛍光を検出する検出手段とを備えるレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な結像面を作る結像レンズを備え、
前記分光素子が、前記結像面の近傍に設けられている請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な結像面を作る結像レンズと、
前記対物レンズの瞳面をリレーする瞳投影レンズとを備え、
前記分光素子が、前記瞳投影レンズにより投影された瞳投影面の近傍に設けられている請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項4】
前記光走査手段による極短パルスレーザ光の走査に同期して前記分光素子内の光学部材間の光路長を変化させる請求項3に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項5】
前記光路長調節手段が、前記複数の光学部材の間に設けられた圧電素子である請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項6】
前記光路長調節手段が、前記分光素子を光軸に直交する軸線回りに回転させる回転機構である請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項7】
前記対物レンズと前記分光素子との間に、極短パルスレーザ光を遮断するフィルタが設けられている請求項1から請求項6のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項8】
前記光路長調節手段により前記分光素子内の光学部材間の光路長を変化させながら前記検出手段により蛍光を検出して、異なる波長ごとに蛍光画像を取得する分光画像取得手段を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項9】
予め取得された蛍光物質の蛍光分光特性に基づいて、前記分光画像取得手段により取得された異なる波長ごとの蛍光画像をアンミキシングした画像を生成するアンミキシング画像生成手段を備える請求項8に記載のレーザ顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−96913(P2010−96913A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266543(P2008−266543)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】