説明

レーザ顕微鏡装置

【課題】誘導ラマン散乱イメージングおよび多光子励起の蛍光のイメージングを同一の装置において両立することを可能とし、種々のイメージング方法により標本のイメージングを行う。
【解決手段】標本中の分子の特定の分子振動の周波数Ωに略等しい周波数差Ω′を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光L1′,L2′を2つの光路L1,L2に導光し、導光されてきたパルスレーザ光106、107を合波する合波手段108と、一方に周波数分散調節手段109と、他方にパルスレーザ光変調手段110と、前記合波手段108により合波された前記2つのパルスレーザ光を標本中に集光し、標本中の分子の特定の分子振動から発生した誘導ラマン散乱を前記パルスレーザ変調部の変調に同期して検出する変調信号検出手段117と、を有することを特徴とするレーザ顕微鏡装置101を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導ラマン散乱過程を利用して特定の分子をイメージングするレーザ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光と分子との相互作用の1つに誘導ラマン散乱がある。誘導ラマン散乱は3次の非線形光学効果の1つであり、光と分子の分子振動とが相互作用することにより、該分子振動の振動エネルギーだけずれた光が散乱されること(ラマン散乱)を基にする過程である。この誘導ラマン散乱過程を利用することで、蛍光色素や蛍光タンパクといったプローブを用いることなく標本中の分子を無染色にイメージングできる顕微鏡の1つに、誘導ラマン散乱顕微鏡というものがある(例えば、非特許文献1)。
【0003】
誘導ラマン散乱顕微鏡では、標本中の分子の特定の分子振動からの誘導ラマン散乱に起因する信号を検出し、描画コントラストとして用いることで標本中の分子を無染色にイメージングすることが可能となる。さらには、誘導ラマン散乱に利用する分子の特定の分子振動を選択することで、標本中の種々の分子を無染色にイメージングすることも原理上可能となる。
【0004】
この誘導ラマン散乱顕微鏡の原理を詳細に述べる。通常、誘導ラマン散乱を発生させるための励起光として、周波数(波長と同義)の異なる2つのパルスレーザ光を用いる。2つのパルスレーザ光の周波数差を標本中の分子の特定の分子振動の周波数に一致するように調節する。こうした状態で、2つのパルスレーザ光を標本中に集光することで、標本中の分子の特定の分子振動に起因した誘導ラマン散乱が発生する。
【0005】
誘導ラマン散乱は、励起光として用いた2つのパルスレーザ光のうち、周波数の高い(波長の短い)パルスレーザ光(ポンプ光)のエネルギーの一部が、周波数の低い(波長の長い)パルスレーザ光(ストークス光)に移動したと考えることができる。このエネルギーの移動の際に、標本中の特定の分子振動が介在していると見なすことができる。このエネルギーの移動は、ポンプ光の強度減少(誘導ラマンロス:ΔIraman_loss)およびストークス光強度増加(誘導ラマンゲイン:Δiraman_gain)として下記の式1のように定式化されている。ここでNは誘導ラマンに寄与する分子数、σは分子のラマン散乱断面積、Ipump, Istokesはそれぞれポンプ光とストークス光の強度である。
【0006】
〔数1〕
誘導ラマンゲイン ΔIraman_gain = NxσxIpump x Istokes
誘導ラマンロス ΔIraman_loss = - NxσxIpump x Istokes
【0007】
上記説明のとおり、誘導ラマン散乱顕微鏡では、ポンプ光またはストークス光の強度変化(誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロス)を検出し、描画コントラストとして用いることで標本中の分子を無染色にイメージングすることが可能となる。このことは、誘導ラマン散乱顕微鏡が、蛍光顕微鏡において励起光と異なる周波数を持つ蛍光を検出するように分光選択的に検出することができないことを意味する。
【0008】
ここで、非特許文献1にも示されているように、従来、誘導ラマン散乱イメージングを行うためのパルスレーザ光としては、比較的狭い周波数帯域を有した2つの異なる周波数を有するピコ秒パルスレーザが用いられている。これら2つのピコ秒パルスレーザ光の周波数差が、標本の分子の特定の分子振動の周波数に一致するように調節した状態で標本面に集光する。このとき、焦点面近傍に広がる光子密度が高い極めて狭い空間において、強い誘導ラマン散乱が発生し、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスを検出することで標本の分子のイメージングを行うことができる。
【0009】
一方で、標本の特定分子にあらかじめ所定の蛍光物質をラベリングしておき、フェムト秒パルスレーザ光を標本面に集光することで、焦点面近傍に広がる極めて狭い空間において光子密度を高めて蛍光物質を多光子励起し、鮮明な蛍光画像を得ることができる多光子励起型のレーザ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Science 322,1857(2008)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−243641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
誘導ラマン散乱顕微鏡において、比較的周波数帯域が狭い(または、パルス幅が広い)ピコ秒パルスレーザ光が用いられている(例えば、非特許文献1)。これは、標本中の分子の特定の分子振動からの誘導ラマンを効率的に発生させるためである。というのも、周波数帯域が広いパルスレーザ光を用いた場合、2つのパルスレーザ光のエネルギーを、分子の特定の分子振動からの誘導ラマン散乱の発生に効率的に利用できないためである。周波数帯域が広いパルスレーザ光を用いた場合、2つのパルスレーザ光の周波数差の中に、分子の特定の分子振動の周波数に一致しない成分も含まれる。これら分子の特定の分子振動の周波数に一致しない成分は、該分子振動からの誘導ラマン散乱の発生に寄与しない。
【0013】
一方、多光子励起型のレーザ顕微鏡においては、蛍光の励起効率をより高め、かつ、標本に与えるダメージをより軽減してイメージングを行うことを目的として、周波数スペクトル帯域が広い(または、パルス幅が極端に狭い)フェムト秒レーザ光が使用される。さらには、標本中においてフーリエ限界パルスに近い状態となるように集光することで、蛍光の励起効率をより高めることが可能となる。
【0014】
上記理由から、誘導ラマン散乱顕微鏡と多光子励起型のレーザ顕微鏡の両観察方法は、使用するパルスレーザ光の仕様が相違しており、同一のレーザ顕微鏡装置によって達成することが困難である。ところが、種々の分子は異なる分子情報を総合的に評価しなければ正確な分類等の評価ができない場合があり、同一の装置内で同じ標本から多様な分子情報を得ることが望ましい。
【0015】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、誘導ラマン散乱イメージングおよび多光子型(多光子過程を有する)の観察(例えば蛍光イメージング)を同一の装置において両立することを可能とし、種々の観察方法により標本を観察することができるレーザ顕微鏡装置を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、標本中の分子が低濃度であっても高感度に分子振動をイメージングでき、これにより蛍光等の他のイメージングと併用して多様で且つ高感度な検出情報を提供できるレーザ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するために、本発明者らは、誘導ラマン散乱を用いたイメージングのための光学系と、他の組合せが有望なイメージング用の光学系とを共通の構成で実施できるだけではなく使用するレーザ光の仕様を共通化することもできる構成を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、周波数分散量調節手段により、導光される2つの各パルスレーザ光に、周波数分散を与えることができる。周波数分散を与えることで、各パルスレーザ光の周波数成分を時間軸上に分散させることができる。このため、フェムト秒パルスレーザ光のように比較的広い周波数帯域を有するパルスレーザ光であっても、与える周波数分散量を適切に調節することで、時間軸上の各時刻において、比較的狭い周波数帯域を有している状態を作ることができる。さらには、導光される2つのパルスレーザ光の周波数分散量を調節することで、時間軸上の各時刻において、2つのパルスレーザ光の周波数差を任意に調節することが可能となる。また、適切に与える周波数分散量を調節することで、2つのパルスレーザ光の周波数差を常に一定に保つことも可能となる。ここで、「周波数分散量」のことを「チャープ」と一般的に呼ばれることもある。
【0017】
このように2つのパルスレーザ光の周波数差を調節した状態で、標本面上に集光することにより、標本中に含まれる分子のうち2つのパルスレーザ光の周波数差と等しい周波数を持つ分子振動において誘導ラマン散乱が発生する。このとき、2つのパルスレーザ光の周波数差を調節することで2つのパルスレーザ光のエネルギーを誘導ラマン散乱に効率的に利用することができる。もちろん、適切に与える周波数分散量を調節し、2つのパルスレーザ光の周波数差が一定となる場合、最も効率よく2つのパルスエネルギーを誘導ラマン散乱用いることができる。
【0018】
先述のとおり、誘導ラマン散乱顕微鏡では、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスを検出することでイメージングを行う。2つのパルスレーザ光うち周波数が高いパルスレーザ光の強度の減分(ポンプ光)、または、他方のパルスレーザ光の強度の増分(ストークス光)を検出する(式1参照)。通常、誘導ラマン散乱によるポンプ光またはストークス光の強度の増減は微小であるため、該強度の増減がポンプ光やストークス光のレーザノイズなどに埋もれる恐れがある。そこで、該増減を高感度に検出するために、パルスレーザ光変調手段により、パルスレーザ光に一定の周波数で変調を加える。該変調を加えることで、標本中の特定の分子において発生する誘導ラマン散乱も同様に変調される。結果として、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスによるポンプ光またはストークス光の強度の増減も同様に変調される。この変調されたポンプ光またはストークス光の強度の増減を、変調信号検出手段において、パルスレーザ光変調手段の変調周波数に同期した形で検出する。
【0019】
以上の説明のように、フェムト秒パルスレーザ光のような周波数帯域が比較的広いパルスレーザ光を用いた場合においても、効率的に誘導ラマン散乱光を発生させることが可能となる。
【0020】
一方、フェムト秒レーザのような周波数帯域が比較的広いパルスレーザ光を利用した場合、2つのパルスレーザ光のうちいずれか一方を標本中に集光することにより、多光子蛍光観察や第2光調波観察を行うことが可能となる。つまり、1台のレーザ顕微鏡装置により、誘導ラマン散乱観察、多光子観察、第二高調波観察を行うことが可能となる。
【0021】
上記発明においては、パルスレーザ光変調手段がパルスレーザ光の位相を変調することであっても良い(ここで言う「位相」とは、パルスレーザ光の時間的タイミングを調節するような位相量も含む)。一方のパルスレーザ光の位相を適切に調節することで、2つのパルスレーザ光が「時間的に重なった状態」と「重ならない状態」との間で変調(位相変調)することが可能となる。これにより、誘導ラマン散乱による誘導ラマンゲイン、誘導ラマンロスの強度も同様に変調(強度変調)される。この強度変調された誘導ラマンゲイン、誘導ラマンロスを捉えることで誘導ラマン散乱イメージングを行う。こうすることで、パルスレーザ光に対しては位相変調を与えるため、パルスレーザ光の強度は変化しない。このため、誘導ラマン散乱イメージングに加えて、多光子蛍光イメージングや第二高調波イメージングを行う場合、それぞれのイメージングに影響を与えることなく同時観察することが可能となる。
【0022】
上記発明においては、パルスレーザ光変調手段がパルスレーザ光の強度を変調することであっても良い。一方のパルスレーザ光の強度を適切に変調することで、標本中の分子の特定の分子振動から発生する誘導ラマン散乱による誘導ラマンゲイン、誘導ラマンロスの強度も同様に変調される。この強度変調された誘導ラマンゲイン、誘導ラマンロスを捉えることで誘導ラマン散乱イメージングを行う。こうすることで、パルスレーザ光の強度変調量を制御することにより、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの変調量も自由に調節することが可能となる。このため、誘導ラマン散乱イメージングを行う標本中の分子振動の種類や標本の環境に応じて、変調量を自由に調節することが可能となる。
【0023】
さらに、上記発明においては、1ピコ秒以下のパルス幅を有するフェムト秒パルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源と、該パルスレーザ光源から発せられたフェムト秒パルスレーザ光を前記2つの光路に分岐する分岐手段と、前記分岐手段により分岐された2つの光路のいずれか一方の光路に設けられ、該2つの光路を導光されるフェムト秒パルスレーザ光に標本中の分子の特定の分子振動の周波数に略等しい周波数差を与える周波数変換手段と、を備えていても良い。
【0024】
このようにすることで、単一のレーザ光源から発生したフェムト秒パルスレーザ光を分岐し、一方の光路において、標本中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を与えるように、フェムト秒パルスレーザ光の周波数を周波数変換手段によって変換し、2つの異なる周波数をもつパルスレーザ光を得ることができる。これにより、2つの周波数の異なるパルスレーザ光のレーザ光源を共通化して装置構成を簡略化しまたシステムの構成コストを下げることができる。
【0025】
さらに、上記発明においては、前記2つの光路の少なくとも一方に、2つの光路に導光されるパルスレーザ光の標本面 上におけるパルスレーザ光の時間的タイミングを調節することができるパルスタイミング調節手段を備えていても良い。
【0026】
こうすることで一方のパルスレーザ光に対して、他方のパルスレーザ光の時間的タイミングを調整することで、2つのパルスレーザ光の周波数差を2つのパルスレーザ光の周波数帯域内において任意に調整することが可能となる。これにより、標本面上において2つのパルスレーザ光のタイミングを調整し、標本中の分子の特定の振動周波数に一致させるように2つのパルスレーザ光のタイミングを調整することができる。これにより、効率的に誘導ラマン散乱を発生させることが可能となる。また、周波数差を任意に調整することができるため、標本中の分子の別の振動周波数に一致させることも可能となる。
【0027】
また、上記発明においては、前記周波数変換手段が光学非線形ファイバであってもよい。周波数変換手段として光学非線形ファイバを用いることにより、簡易かつ安価に、周波数分散が与えられた広い周波数帯域を有するパルスレーザ光を得ることが可能となる。また、用いる光学非線形ファイバの種類を選定することにより、さまざまな周波数スペクトル成分および帯域を有するパルスレーザ光を得ることができる。このため、標本中の分子のさまざまな振動周波数に一致させるように、2つのパルスレーザ光の周波数差を調節することが可能となる。
【0028】
また、上記発明においては、前記パルスレーザ光変調手段が、電気光学効果を有する電気光学変調素子から構成されていてもよい。このようにすることで、電気光学変調素子の駆動を制御することにより、簡便かつ容易に、パルスレーザ光の位相(偏光)を制御、変調することができる。さらには、該電気光学変調素子を通過した位相(偏光)が制御されたパルスレーザ光を偏光子に通過させてもよい。こうすることで、簡便かつ容易に、パルスレーザ光の強度を制御、変調することが可能となる。
【0029】
また、上記発明においては、前記パルスレーザ光変調手段が、音響光学効果を有する音響光学変調素子から構成されていてもよい。このようにすることで、音響光学素子の駆動を制御することにより、簡便かつ容易に、パルスレーザ光の強度を制御、変調することが可能となる。こうすることで、簡便かつ容易に、パルスレーザ光の強度を制御、変調することが可能となる。
【0030】
また、上記発明においては、前記周波数分散調節手段を、前記レーザ光源と前記分岐手段の間に配置してもよい。このようにすることで、周波数変換手段に入射するパルスレーザ光の周波数分散量を、周波数変換手段における周波数変換効率が最も高くなるように調節できるようになる。
【0031】
また、上記発明においては、前記周波数分散調節手段が、標本において略フーリエ限界パルスとなるように分散量を設定する構成であるのが好ましい。このようにすることで、誘導ラマン散乱イメージングの実行と同時機または順次(または交互)に、多光子励起型の蛍光イメージングおよび/または第二高調波イメージングのような、異なる分子情報が得られる異種のイメージングを一緒に且つ効果的に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、誘導ラマン散乱観察および多光子蛍光の観察を同一の装置において、両立することを可能とし、種々の観察方法により標本を観察することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置101について、図1〜図6を参照して以下に説明する。本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置101は、図1に示されるように、レーザ光源装置102と、該レーザ光源装置102からレーザ光を標本Aに照射し、標本Aを観察するための顕微鏡本体103とから構成されている。レーザ光源装置102と顕微鏡本体103とは、コンピュータ131と互いに接続しており、顕微鏡本体に内蔵された光検出装置119が取得したイメージング用データを演算したり画像処理することで、顕微鏡イメージを形成したり、顕微鏡装置に関するあらゆる制御を行なうものである。コンピュータ131は、レーザ光源装置102および/または顕微鏡本体103の動作を制御する制御手段としても機能する。ここで、レーザ顕微鏡装置101は、レーザ光源装置102と顕微鏡本体103とが一体化した構成であってもよく、或いは顕微鏡本体103に対しシステムの一部としてユニット化されて接続するような構成であってもよい。同様に、コンピュータ131および/または表示手段であるディスプレイ132は、顕微鏡本体103に内臓された構成であったり、或いは顕微鏡本体103に対しシステムの一部としてユニットされ、接続することで顕微鏡本体103および/またはレーザ光源装置102と相互に連携するような構成であってもよい。
【0034】
レーザ光源装置102は、フェムト秒パルスレーザ光を出射する単一のレーザ光源104と、該レーザ光源104から発せられたフェムト秒パルスレーザ光を2つに分岐するビームスプリッタ105と、該ビームスプリッタ105により分岐された2つのフェムト秒パルスレーザ光L1、L2をそれぞれ導光する2つの光路106と光路107と、該2つの光路106と光路107を導光する2つのパルスレーザ光L1′,L2′を合波する合波装置108とを備えている。
【0035】
第1の光路106には、フェムト秒パルスレーザ光L1に与える周波数分散量を調節可能な周波数分散調節装置(周波数分散調節手段)109およびパルスレーザ光変調装置(パルスレーザ光変調手段)110設けられている。第2の光路107には、フェムト秒パルスレーザ光L2の周波数を変換するフォトニッククリスタルファイバ(周波数変換手段)111と、フォトニッククリスタルファイバ111を通過後に、パルスレーザ光のL2′の光路長を調節する光路長調節装置(パルスタイミング調整手段)112とが設けられている。
【0036】
周波数分散調節装置109は、例えば、固定長のガラス等の分散媒質(図示略)を備えている。分散媒質の長さを適切に選択することで、周波数分散調節装置109を通過したフェムト秒パルスレーザ光L1'に与える周波数分散量を選択することができる。
【0037】
パルスレーザ光変調装置110については、図2を用いて詳細に説明する。図2に示されているように、パルスレーザ光変調装置は、電気光学効果を有する電気光学変調素子201と、該電気光学変調素子201を通過したパルスレーザ光L10を分岐する偏光ビームスプリッタ202と、該偏光ビームスプリッタ202により分岐されたパルスレーザ光L11、L12をそれぞれ導光する光路203、204と、該2つの光路を導光する2つのパルスレーザ光L11′、L12′の該偏光ビームスプリッタ202通過後の光路を共通にするための、ミラーで構成されるリフレクタ205、206と、該2つの光路203, 204の光路中に設けられている1/2波長板207、208と、リフレクタ205、206の位置が光軸に沿って調整可能な光路長変更用ステージ209, 210を備えている。
【0038】
このような構成において、電気光学変調素子201に印加する電圧値を適切に選択し、かつ、印加する電圧値を一定の変調周波数Fmodで変調することで、電気光学変調素子201を通過するパルスレーザ光L10の偏光方向が90度回転するようにパルスレーザ光L10の位相を変調する。また、パルスレーザ光L10の偏光方向と偏光ビームスプリッタ202の偏光特性を考慮し、適切に偏光ビームスプリッタ202を配置することで、パルスレーザ光L10の偏光状態に応じて偏光ビームスプリッタ202により、パルスレーザ光L10が通過する光路が光路203、204に偏光状態に応じて切替わる。光路203、204のそれぞれの光路中のパルスレーザ光L11、L12は、半波長板207または208により、偏光方向が90度回転された後、リフレクタ205または206により光路が偏向され、再びビームスプリッタを通過した後、共通の光路211に導光される。
【0039】
光路211のパルスレーザ光L1′には、2つの光路203と204の光路長差に相当する位相シフトを与えることができる。図3に示されているように、パルスレーザ光の様子を時間波形と光の周波数を用いて表示するスペクトルグラムで説明すると、パルスレーザ光L1′には該位相シフト量に相当する光学時間遅延Δtが与えられ、かつ、該光学時間遅延は変調周波数Fmodで変調された状態となっている。
【0040】
さらには、光路長変更用ステージ209、210を光軸に沿って双方向に移動させて光路203、204の光路長を変更することで、パルスレーザ光L1′に与える光学時間遅延Δtの量を調節することが可能となっている。
【0041】
フォトニッククリスタルファイバ111は、通過させるフェムト秒パルスレーザ光L2の周波数帯域を変更または拡大させるためのものである。また、フォトニッククリスタルファイバ111を通過したパルスレーザ光L2’は、フォトニッククリスタルファイバ111の種類および通過させるフェムト秒パルスレーザ光L2の条件に応じた周波数分散をもった状態となっている。
【0042】
パルスタイミング調節手段112は、例えば、ミラー(リフレクタ)により構成される(図示略)。少なくとも2組以上のリフレクタを用いてパルスレーザ光L2′の光路を折り返し、少なくとも2組以上のリフレクタの間隔を調節することでパルスレーザ光L2′の光路長を変化させることができる。これによって、パルスレーザ光L2′のパルスレーザ光の時間的タイミングを調整することができる。
【0043】
本発明の第1の実施形態においては、パルスタイミング調節手段112により、2つの光路106,107を通過して合波装置108に入射されるパルスレーザ光L1′,L2′の時間的なタイミングを調節し、標本A面上において2つのパルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω′を、標本Aの分子の特定の分子振動の周波数Ωに一致させることができる。これにより、効率的に誘導ラマン散乱を発生させることが可能となる。また、周波数差Ω’を任意に調整することができるため、標本A中の分子の他の分子振動の周波数に一致させることも可能となる。標本Aは、顕微鏡本体103に標本保持手段として設けられた標本ステージ120上に、図示しない適宜の収容部材(例えば、スライドガラス、マイクロプレートのウェル、培養用シャーレ)を交換可能にマウントすることで、観察用光路による光走査範囲内に保持される。収容部材を用いる代わりに、標本ステージ120上に標本としての生物個体を観察視野中に動かないように固定器具により固定してイメージングすることでもよい。かかる標本ステージ120は、通常の顕微鏡と同様にXYZ方向に標本Aを位置決めすることで観察視野を変更したり適切な基準位置に位置合わせするために駆動(手動または自動)される。
【0044】
顕微鏡本体103は、例えば、レーザ走査型顕微鏡であって、レーザ光源装置102から出射されたパルスレーザ光L3を2次元的に走査するスキャナ113およびレンズ群114と、前記スキャナ113により走査されたパルスレーザ光L3を標本A面に集光する集光レンズ115と、標本Aにおいて発生した誘導ラマン散乱による誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスを、集光レンズ115とは異なる方向で検出するための集光レンズ116と変調信号検出装置(変調信号検出手段)117と、標本Aから発生したパルスレーザ光L3とは異なる周波数(波長)を有する光を集光レンズ115で集光し検出するための、ダイクロイックミラー118と光検出装置119とを備えている。
【0045】
変調信号検出装置(変調信号検出手段)117は、変調周波数Fmodで変調された光信号を検出することが可能なフォトディテクタと、変調信号Fmodに同期して変調された光信号のみを検出するロックインアンプとを備えている(図示略)。ここで、ロックインアンプは変調信号の周波数に応じた検出を行なうような調整が可能であり、分子の種類ごとに検出感度が高まるような、誘導ラマン散乱の検出感度調節手段として機能している。
【0046】
ここで、一般的に分子のラマン散乱断面積σは小さいため、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスによるポンプ光またはストークス光の強度変化も微弱になる。このため、ポンプ光、ストークス光の強度変化から誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスを検出する際、励起光のレーザノイズなどに信号が埋もれる場合がある。そこで、本発明では、ポンプ光またはストークス光のいずれか一方の強度を一定の周波数で変調し、該周波数に同期して変化する誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスをロックインアンプで同期検出している。また、同期検出した信号を増幅することで、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスを高感度に検出することが可能となる。
【0047】
ロックインアンプ以外の感度調節手段としては、いわゆるスペクトルアナライザが挙げられる。このように、本発明ではロックアンプやスペクトルアナライザのようなラマン散乱光感度調節手段を具備することで、目的の分子が標本中に低濃度で存在している場合や、生体組織のように目的の分子が生体の深部に有る場合や、生体中の他の光散乱性物質(例えば脂質)により目的の分子からの信号が低下し易い場合や、励起光等の他の光信号が検出ノイズとなり得るような場合等においても、ラマン散乱に特有の検出信号を高S/Nまたは高感度で検出することができるので、同一の標本に対して他の光学的観察手段(例えば、蛍光観察用顕微鏡や高調波観察用顕微鏡)を同時または併用して検出するのに非常に都合がよい。
【0048】
図1において、符号120は標本ステージ、符号121はミラーである。また、例えば、標本Aにおいて発生した蛍光は、前記集光レンズ115により集光され光検出器119で検出されてもよい。
【0049】
また、本発明の第1の実施形態においては、周波数分散調節装置109は、該周波数分散調節装置109を通過したパルスレーザ光L1′が、標本A面上において略フーリエ限界パルスとなるように分散量を設定できるようになっている。これにより、レーザ光源104から標本Aまでの全光路において生じる周波数分散によりフェムト秒パルスレーザ光L1のパルス幅の広がりを補償することができ、標本A上に集光される時点でのフェムト秒パルスレーザ光が、略フーリエ限界に近いパルス幅を達成することができるようになっている。
【0050】
このように構成された本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置101の作用について以下に説明する。
【0051】
本第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置101を使用して、誘導ラマン散乱による標本Aの観察を行うには、レーザ光源104を作動させてフェムト秒パルスレーザ光を出射させる。レーザ光源104から発せられたフェムト秒パルスレーザ光は、ビームスプリッタ105により2つの光路106,107に分岐される。
【0052】
第1の光路106に分岐されたフェムト秒パルスレーザ光L1は、第1の光路106上に配置されている周波数分散調節装置109を通過することにより、周波数分散量が与えられる。一方、第2の光路107に分岐されたフェムト秒パルスレーザ光L2は、ミラー121によって偏向された後、フォトニッククリスタルファイバ111を通過することにより、第1の光路6のフェムト秒パルスレーザ光L1に比べて周波数スペクトルが変更または拡大された広帯域光(パルスレーザ光L2′)となる。また、同時に、パルスレーザ光L2′にはフォトニッククリスタルファイバ111を通過したことによる所定の周波数分散が与えられる。
【0053】
周波数分散調節装置109によりパルスレーザ光L1′に与えられる初期の周波数分散量とフォトニッククリスタルファイバ110を通過することによりパルスレーザ光L2’に与えられる周波数分散量とが相違する場合、図4(a)のスペクログラムに図示されているように、時間軸上におけるパルスレーザ光L1′、L2′の周波数の傾き(チャープレート)が相違する。この場合、2つの光路106,107を通過してきたパルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω′は、時間軸上の各時刻において異なっており一定に保たれていない。この状態においては、パルスレーザ光L1′、L2′のエネルギーを、標本A中の分子の特定の分子振動Ωの誘導ラマン散乱の発生に効率的に利用できない。
【0054】
そこで、本発明の第1の実施形態においては、周波数分散調節装置109を作動させて、第1の光路106を通過するパルスレーザ光L1′に与える分散量が、第2の光路7のフォトニッククリスタルファイバ111を通過したパルスレーザ光L2′に与えられる分散量と標本A面上において略同等となるように調節する。すなわち、図4(a)のパルスレーザ光L1′のチャープレートCRの矢印P1に示されるように、時間軸方向の周波数分布の傾きを変化させる。
【0055】
2つのパルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω′を時間軸上で一定に保った状態でも、パルスレーザ光L1′,L2′のパルスの時間的タイミングによっては、図4(b)に示されるように、パルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω′が標本A中の分子の特定の振動周波数Ωに一致しない場合がある。そこで、本発明の第1の実施形態においては、パルスタイミング調節手段112を作動させて、第2の光路107を通過するパルスレーザ光L2′の光学遅延を調節する。すなわち、図4(b)の矢印P2で示されるように、パルスレーザ光L2′の時間的なパルスタイミングを調節する。
【0056】
これにより、図4(c)に示されるように、合波装置108に到達する2つの光路106および光路107のパルスレーザ光L1′、L2′の周波数分散量と周波数差Ω′が調節される。その後、パルスレーザ光L1′,L2′は、合波装置108によって合波され、パルスレーザ光L3となる。またパルスタイミング調節手段112により、パルスレーザ光L1′、L2′の周波数差Ω′を任意に調整することが可能となる。したがって、標本A面上において2つのパルスレーザ光L1′、L2′の時間的なパルスタイミングを調整し、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωに一致させるよう2つのパルスレーザ光のパルスタイミングを調節することができる。
【0057】
合波装置108は、パルスレーザ光L1′,L2′を合波し、パルスレーザ光L3′を生成する。このとき、パルスレーザ光L1′,L2′のそれぞれの光軸を一致させ、集光レンズ115により標本Aに集光されるパルスレーザ光L1′,L2′の焦点が、空間的に重なるように調節することができる。これにより、顕微鏡本体103内において、スキャナ113およびレンズ群114により、標本A面上に集光されるパルスレーザ光L1′,L2′の焦点を、空間的に重なった状態で2次元的に走査する系を容易に構成することができ、イメージングの際に画像取得を容易に行うことができる。
【0058】
このように合波されたパルスレーザ光L3は、顕微鏡本体103に入射され、スキャナ113によって2次元的に走査された後、レンズ群114と集光レンズ115を介して標本A面上に集光される。これにより、パルスレーザ光L3が集光された各位置において、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωにおいて誘導ラマン散乱を発生させることができる。
【0059】
また、パルスレーザ光変調装置110を通過したパルスレーザ光L1′に、一定の周波数Fmodで位相変調を与える。パルスレーザ光変調装置110において与える位相シフト量を適切に調整することで、図5に示されるように、2つのパルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω′が、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωに一致している共鳴状態と、一致していない非共鳴状態との間での変調が可能となる。共鳴状態では、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωにおける誘導ラマンが励起され、誘導ラマンゲインまたはロスが発生する。一方、非共鳴状態では誘導ラマンが励起されず、誘導ラマンゲインまたはロスも発生しない。結果として、誘導ラマンゲインまたはロスが変調周波数Fmodで変調されることになる。
【0060】
標本Aにおいて発生した誘導ラマン散乱による誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの検出は、標本Aを挟んで集光レンズ115とは反対側に配置された集光レンズ116によって集光され、変調信号検出装置117で検出される。そして、パルスレーザ光L3の標本A面上での集光位置の座標と、第2の光検出器116により検出された誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの強度とを対応づけて記憶し、誘導ラマン散乱の2次元的なイメージングが行える。
【0061】
また、合波装置108以降の光学系により、パルスレーザ光L1′,L2′の周波数分散量が変化した場合や時間的なパルスタイミングが変化した場合は、標本A面上において再度、パルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω′が標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωに一致するように、周波数分散量と時間的なパルスタイミングを調節してもよい。
この場合において、本実施形態によれば、2つの光路106,107のパルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω’は、時間軸上の各時刻においても、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωに一致しているため、パルスレーザ光L1′,L2′のエネルギーを効率的に標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωの誘導ラマン散乱の発生に利用することができる。このように誘導ラマン散乱を発生させ、誘導ラマンゲインまたはロスにパルスレーザ光L3の強度変化を検出し、時間的に積算することにより、明るい誘導ラマン散乱光イメージを得ることができる。
【0062】
また、本発明の第1の実施形態においては、周波数分散調節装置109を作動させることにより、図6(a)に矢印P3に示すように、第1の光路106を通過するパルスレーザ光L1′に与える周波数分散量を調節し、図6(b)に示すように、パルスレーザ光L1′が標本A面において略フーリエ限界パルスに近づくようにパルスレーザ光L1′の周波数分散量を設定することができる。その結果、このように設定されたパルスレーザ光L1′を集光レンズ115により標本Aに集光することで、標本Aにおける集光位置において多光子励起による蛍光を効率よく発生させることができる。このとき、パルスレーザ光変調装置110の動作を停止させてもよい。
【0063】
この場合において、標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ115によって集光された後、ダイクロイックミラー118によって分岐されて光検出器装置119により検出される。そして、パルスレーザ光L1′の標本A面上での集光位置の座標と、第1の光検出器119により検出された蛍光強度とを対応づけて記憶することにより、2次元的な多光子蛍光画像を得ることができる。
【0064】
また、多光子励起型の蛍光イメージングと同様の条件で、第二高調波イメージングも行うことができる。このように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置100によれば、誘導ラマン散乱イメージング、多光子励起型の蛍光イメージングおよび第二高調波イメージングを切り替えて効率よく行うことができる。すなわち、1台のレーザ顕微鏡装置101により、誘導ラマン散乱イメージングの実行と同時機または順次(または交互)に、多光子励起型の蛍光イメージングおよび/または第二高調波イメージングのような、異なる分子情報が得られる異種のイメージングを一緒に且つ効果的に行うことができ、マルチモーダルイメージングを達成することができる。
【0065】
また、多光子励起型の蛍光または第二高調波の励起効率が多少低くなってもよい場合は、上記のイメージングを切替えることなく同時にイメージングすることも可能である。また、光検出装置119を多光子励起型の蛍光、第二高調波のいずれかの光を検出する検出装置として割り当ててもよい。また、光検出装置が不足する場合は新たに追加してもよい。
【0066】
この場合において、レーザ光源104としてフェムト秒パルスレーザ光を発生するレーザ光源を用意すれば足り、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるために新たにピコ秒パルスレーザ光を発生させるレーザ光源が不要なため、装置を簡易かつ安価に構成することができる。また、周波数変換手段として、フォトニッククリスタルファイバ111を使用するので、装置をさらに簡易かつ安価に構成することができる。また、パルスタイミング調節手段112も、ミラー(リフレクタ)により構成されるため、装置をさらに簡易かつ安価に構成することができる。
【0067】
また、本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置101によれば、パルスタイミング調節手段112によって、2つの光路106と光路107を通過するパルスレーザ光L1′,L2′のパルスタイミングを調節し、パルスレーザ光L1′,L2′それぞれの周波数スペクトル帯域内で周波数差Ω’を自由に調節することが可能である。このため、パルスレーザ光L1′,L2′の周波数差Ω’は、標本A中の分子の特定の振動周波数Ωに略一致する程度でよく正確な周波数差である必要はない。
【0068】
つまり、フォトニッククリスタルファイバ111を通過することによるフェムト秒パルスレーザ光L2の周波数スペクトル帯域の変更または拡大も正確である必要はない。パルスタイミング調節手段112により、標本A中の分子の特定の振動周波数Ωに精度よく一致させることができ、最も効率よく標本A中の分子の特定の振動周波数Ωからの誘導ラマン散乱を発生させ、効率よく誘導ラマン散乱イメージングを行うことができる。
【0069】
また、本発明の第1の実施形態においては、パルスレーザ光変調装置110は、パルスタイミング調節装置112を兼ねてもよい。つまり、パルスレーザ光L2′の時間的タイミングを調節するかわりに、図2に示されているステージ209かつ/または210の位置を調節し、パルスレーザ光L1′の時間的タイミングを調節することによりすることにより行ってもよい。こうする事で、パルスタイミング調整装置112を取除くことができ、構成を簡潔にし、操作を簡便にすることが可能となる。
【0070】
パルスタイミング調節手段112は、例えば、ミラー(リフレクタ)により構成される(図示略)。少なくとも2組以上のリフレクタを用いてパルスレーザ光L2′の光路を折り返し、少なくとも2組以上のリフレクタの間隔を調節することでパルスレーザ光L2′の光路長を変化させることができる。これによって、パルスレーザ光L2′のパルスレーザ光の時間的タイミングを調整することができる。
【0071】
このようにして得られた誘導ラマン散乱イメージと、他の顕微観察装置で得られた異種の分子イメージとを共通のコンピュータ131を経て共通のディスプレイ132に表示される。ここで、コンピュータは、光検出装置119から送出される各種イメージング情報に基づいて異なる分子情報を組み合せた総合評価を実行してその評価結果をディスプレイ132に表示することもできる。また、これら複数の異なる種類のイメージを、コンピュータ131による画像処理を通じてオーバーレイ(または重畳、合成、並列)してディスプレイ132に表示することも可能である。ここでさらに、誘導ラマン散乱イメージは分子振動を検出する他の検出手法に比べて有意に高感度ないし高S/N比の分子情報を提供するので、本発明のレーザ顕微鏡装置101によって初めて兼用され得るようになった他の光学的観察手段(例えば、蛍光観察用顕微鏡や高調波観察用顕微鏡)による異種のイメージと共に、ディスプレイ132上でオーバーレイ表示することで異種情報を複合した複合画像を形成したり或いはコンピュータ131内で一緒に画像処理して合成画像を形成するのが容易である。複合画像や合成画像は、誘導ラマン散乱による分子振動に関する情報と上記の他の光学的観察手段による異種の分子情報との組合せで決まる表現形式(例えば色調、濃淡、明度、輝度、分類名称など)をコンピュータ131により決定して、決定された表現形式により擬似的に表現した擬似画像であってもよい。こうすることで、多様な分子情報を一度に確認および/または評価する方法を提供したことに等しい態様となる。
【0072】
さらに、生体のように時系列でイメージデータが変化し得る標本に関しては、コンピュータ131が時系列で複数枚のイメージデータ(画像情報)を取得するように顕微鏡装置101を制御すると共に、時系列のイメージデータをディスプレイ132に表示させるようにする。従って、誘導ラマン散乱による分子振動の情報だけでなく、分子振動以外の異種の分子情報を反映するイメージングデータについても時系列で複数枚の画像を取得するようにして同様にディスプレイ132に表示させるようにすることで、生体分子等の動きが有る分子変化の違いをディスプレイ132を通じてモニタリングすることとなり、2次元(XY領域)または3次元(XYZ領域)の情報に限らず、異種の分子情報の時間的変化から種々の有用な評価結果を得ることが可能となる。
【0073】
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について、図7〜8を参照して説明する。本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置701が第1の実施形態と異なる点は、パルスレーザ光変調装置710の構成、それに伴う作用・効果である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置701について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる上述の点について主に説明する。
【0074】
本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置701は、図7に示されるように、レーザ光源装置702と、レーザ光源装置702からのパルスレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体703とを備えている。
【0075】
パルスレーザ光変調装置710は、電気光学効果を有する電気光学変調素子で構成される(図示略)。電気光学変調素子に印加する電圧を一定の周波数Fmodで変調し、該電気光学変調素子を通過するレーザ光L1′の偏光状態を該変調周波数Fmodで変調する。さらに、印加する電圧値を適切に調整することでパルスレーザ光L1′に与える位相量を調整し、パルスレーザ光L1′の偏光とパルスレーザ光L2′の偏光とが、互いに「平行な状態(L1′//L2′)」と「垂直な状態(L1′⊥L2′)」との間で変調できる。その他の構成は第1の実施形態と同様である
【0076】
このように構成された本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置701の作用について以下に説明する。第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる部分について主に説明する。
【0077】
本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置701では、合波装置108以降のパルスレーザ光L3を標本Aに照射することにより、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωにおいて誘導ラマン散乱が発生する。このとき、パルスレーザ光L1′の偏光がパルスレーザ光L2′の偏光と「平行な状態(L1′//L2′)」と「垂直な状態(L1′⊥L2′)」となるように、パルスレーザ光変調装置710によりパルスレーザ光L1′の位相を変調する。このとき、図8に示すとおり、パルスレーザ光L1′およびL2′が標本A中に照射されることで、標本A中の分子の特定の分子振動における誘導ラマン散乱の励起も変調され、結果的に誘導ラマンロスおよび誘導ラマンゲインも変調される。
【0078】
該パルスレーザ光L1′の位相変調による、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの強度の変調量は、標本A中の分子の特定の分子振動の偏光解消度ρ(0≦ρ≦0.75)に依存している。偏光解消度がより小さい場合(ρ→0)、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの変調量がより大きくなる傾向にある。
【0079】
標本Aにおいて発生した誘導ラマン散乱による誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの検出は、第1の実施形態の場合と同様に、変調信号検出装置117において誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの強度を検出し、標本の二次元的な誘導ラマン散乱のイメージングが行える。
【0080】
この場合において、パルスレーザ光変調装置710は、電気光学効果を有する電気光学変調素子を用意すれば足り、パルスレーザ光の位相変調のために複雑な光学系が不要なため、装置を安価かつ簡易に構成することができる。
【0081】
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について、図9〜10を参照して説明する。本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置901が第1および第2の実施形態と異なる点は、パルスレーザ光変調装置910の構成と、それに伴う作用・効果が異なる点である。なお、本実施形態においては、コンピュータ131およびディスプレイ132の説明は上述した他の実施形態と同じ構成とし、図示を省略する。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置901について、第1および第2の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる上述の点について主に説明する。
【0082】
本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置901は、図9に示されるように、レーザ光源装置902と、レーザ光源装置からのレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体903とを備えている。
【0083】
本発明の第3の実施形態において、パルスレーザ光変調装置910は、音響光学効果を有する音響光学変調素子で構成される(図示略)。この音響光学変調素子に一定の変調周波数Fmodで電圧を印加することで、音響光学変調素子を通過するパルスレーザ光L1′の強度が該変調周波数Fmodで変調される。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0084】
このように構成された本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置901の作用について以下に説明する。第1および2の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる部分について主に説明する。
【0085】
本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置901では、合波装置108以降のパルスレーザ光を標本Aに照射することにより、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωにおいて誘導ラマン散乱が発生する。このとき、パルスレーザ光L1′の強度をある一定値と略0との間で強度変調する。このとき、図10に示すとおり、パルスレーザ光L1′およびL2′が標本A中に照射されることで、標本A中の分子の特定の分子振動における誘導ラマン散乱の励起も変調され、結果的に誘導ラマンロスおよび誘導ラマンゲインも変調される。
【0086】
標本Aにおいて発生した誘導ラマン散乱による誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの検出は、第1の実施形態の場合と同様に、変調信号検出装置117において誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスの強度を検出し、標本の二次元的な誘導ラマン散乱のイメージングが行える。
【0087】
この場合において、パルスレーザ光変調装置910は、音響光学効果を有する音響光学変調素子を用意すれば足り、パルスレーザ光の強度変調するために複雑な光学系が不要なため、装置を安価かつ簡易に構成することができる。
【0088】
また、本発明の第3の実施形態に係るパルスレーザ光変調装置910は、電気光学効果を有する電気光学変調素子および偏光素子により構成されていてもよい(図示略)。この場合、電気光学変調素子に印加する電圧値と周波数を適切に制御することにより、該電気光学変調素子を通過するパルスレーザ光L1の偏光状態を変調することが可能となる。このとき、該電気光学返答素子の後段に偏光子を設けることで、偏光子を通過できるパルスレーザ光L1の成分が、パルスレーザ光L1の偏光状態に応じて変化する。つまり、電気光学変調素子および偏光子を適切に配置することで、パルスレーザ光L1′の強度を変調することが可能となる。
【0089】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0090】
周波数分散調節装置109は、例えば、固定長の分散媒質を複数用意し、それらを適宜切り替えて、パルスレーザ光L1′に与える周波数分散量が変更できるような構成でもよい。
【0091】
また、周波数分散調節装置109は、例えば、相互の間隔を調節可能な一対のプリズム(図示略)と、ミラー(図示略)とを備えていてもよい。1対のプリズムを通過したパルスレーザ光L1は、ミラーによって折り返された後に再度プリズム対を通過し同一の光路106上に戻されるようになっている。この場合に、プリズムの間隔を調節することにより、周波数分散調節装置109を通過するパルスレーザ光L1′に与える周波数分散量を調節することができるようになっている。また、上記プリズムの代わりに回折格子を用いてもよい。
【0092】
また、周波数分散調節装置109は、例えば、板厚の変化する楔状のガラス板のように所定の周波数分散特性を有する材質からなる部材であってもよい。部材が本来持つ周波数分散特性により、部材を通過するパルスレーザ光L1に所定の周波数分散を与えることができる。また、パルスレーザ光L1の通過する位置の部材の厚みを変化させることにより、与える周波数分散量が調節できる。
【0093】
また、周波数分散調節装置109は、所望の分散量を得るように調製された光ファイバであってもよい。部材が本来持つ周波数分散特性により、部材を通過するパルスレーザ光L1に所定の周波数分散を与えることができる。また、光ファイバの長さを変えることで、パルスレーザ光L1の通過する位置の部材の厚みを変化させることにより、与える周波数分散量が調節できる。
【0094】
また、周波数変換装置111としてフォトニッククリスタルファイバの代わりに、同様の機能・作用を持つ、バルク、薄膜、フィルム、フォトニック結晶構造体のいずれかを用いても良い。
【0095】
また、パルスレーザ光を発生する単一のレーザ光源104と、光路106と光路107に分岐するビームスプリッタ105を用いたが、これに代えて、各光路106と光路107にそれぞれ1台ずつレーザ光源104を取り付けることにしてもよい。この場合、各レーザ光源104は互いにパルスタイミングの同期がとれている必要がある。
【0096】
また、周波数分散量調節装置109は、第2の光路107に設けられていてもよいし、両光路106、107のそれぞれ設けられていてもよい。特に、周波数分散調節装置を両光路106、107に設けることで、両光路106、107を通過してくるパルスレーザ光L1′,L2′の周波数分散量を調節し所望の周波数分解能に調節することが可能となる。
【0097】
また、周波数量分散調節装置109がレーザ光源104とビームスプリッタ105との間に追加で設けられていてもよい。こうすることで、分岐された2つのパルスレーザ光L1とL2に対して等しく周波数分散を与えることが可能となる。これにより、周波数変換装置111に入射するパルスレーザ光L2の周波数分散量を、周波数変換装置111における周波数変換効率が最も高くなるように調節することが可能となる。ここで、光学的な分岐手段(例えばビームスプリッタ)により形成する分岐光路の本数は2つに限らず、マルチビーム化した場合、4以上の偶数本であってもよい。ここで、分岐光路が奇数本であっても、一部の光路を共用するようにしたり、標本に対して必要な照射を奇数本で可能にするならば、本発明で分岐が必要な場合の光路は、2以上の任意の本数であってよい。
【0098】
また、周波数分散量調節装置109において、パルスレーザ光L1′およびL2′のチャープレートを略一致させず、パルスレーザ光L1′とL2′の周波数差Ω′に一定量の幅を与えてもよい。その場合、誘導ラマン散乱の発生効率は低下するが、標本A周囲の環境変化の影響により、標本A中の分子の特定の分子振動の周波数Ωが変化した場合においても、誘導ラマン散乱イメージングを行うことが可能である。更には、標本Aの分子の異なる分子振動を同時にイメージングすることも可能となる。
【0099】
また、周波数分散量調節装置109において、パルスレーザ光L1′およびL2′のチャープレートを略一致させず、パルスレーザ光L1′とL2′の周波数差Ω′に一定量の幅を与えてもよい場合、周波数分散調節装置109は、パルスレーザ光L1の周波数帯域の所望の周波数帯域のみを透過させる分光フィルタ(バンドパスフィルタ)であってもよい(図示略)。こうすることで、分光フィルタの透過特性を適切に選択することにより、パルスレーザ光L1′とL2′の周波数差Ω′幅を、簡便かつ容易に切替えることができる。また、複数の分光フィルタを容易し、それらを切替えるようにしておくことで、パルスレーザ光L1′とL2′の周波数差Ω′幅も切替えることが可能となる(図示略)。
【0100】
また、変調信号検出装置117は、集光レンズ115に対して標本Aを挟んで反対側に設置されているが、集光レンズ115と同じ側に設置されていてもよい。こうするこことで、生体組織切片などの分厚い標本の誘導ラマン散乱イメージングを行うことが可能となる。
【0101】
また本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものであるが、その応用分野は、細胞や組織
等の生体試料あるいは生体以外の有機・無機等の試料を標本ステージ上で顕微観察する通常の顕微鏡装置に限定されず、人体や動物等生体をin−vivo観察する、あるいは構造物を非破壊で観察するための内視鏡的顕微観察装置にも適用されるものである。従って、本発明におけるレーザ顕微装置とは、レーザ光を照明光とする任意の顕微観察(顕微鏡と共通する拡大光学系を用いて所望の拡大画像を提供する観察)を含むものであり、本発明はレーザ光を用いる顕微観察により多様な情報を得る技術として大いなる貢献を果たすものである。
【0102】
とくに本発明によれば、上述した構成を有することにより、同じ標本上ないし標本中の特定の分子について、誘導ラマン散乱により標本を走査した走査イメージと、多光子励起蛍光および/または第二次高調波による標本を走査した走査イメージとを画像処理したり位置合わせする際に互いのイメージデータの対応付けが容易に行なえるので、走査範囲内の各種分子に関する異種の分子情報に基づく合成画像を用いた観察や総合評価を正確に行なうことができる。
【0103】
ここにおいて、本発明は、上述したレーザ顕微鏡装置を用いた分子情報の評価方法または該評価結果の表示方法という他の観点による発明も包含している。かかる評価方法には、上述した実施形態の装置を使用して実行した光信号の光学的処理の工程に加えて、例えば、標本を照射して得られる誘導ラマン散乱による画像データと、同時または連続して同じ標本から得た多光子励起蛍光および/または第二次高調波による画像データとを各種分子の分布位置ごとに画像処理し、画像処理した情報を標本の観察画像として並列ないし合成して表示したり、分子情報の組合せとして標本を分類する工程が含まれる。
【0104】
また、本発明は、誘導ラマン散乱を発生させるための光源または照射光として、周波数スペクトル帯域が広い(または、パルス幅が極端に狭い)成分からなる光を使用することができる。従って、本発明は、広帯域の光源または照射光を用いることが望ましいあらゆる用途の光学的装置(光ピックアップ、光加工、光治療等を含む)にとって、光源および/または照射光学系を共用できる安価な光学装置ないし光学システムも提供する。さらに、本発明によれば、広帯域の光源または照射光を使用しているにも拘わらず、誘導ラマン散乱による検出すべき光信号を最も高感度で検出されるように周波数分散量を調節したり、所望の分子の振動周波数に応じて最も高感度で検出されるように感度調整したりする構成を有しているので、検出すべき分子が標本等の対象に低濃度(または極微量)しか分布していない場合にも比較的高速にイメージデータを得ることができる。このことから、広帯域の光源または照射光を使用するような他の高感度なイメージングにおいて時系列な画像を得る動作速度をなるべく低下させることなく、本発明による誘導ラマン散乱イメージングを同時機または交互に行なうことが可能である。
【0105】
さらに、本発明は、これら表示または分類に含まれる各工程を上述したレーザ顕微鏡装置101、701、901において実行させるためのソフトウェアまたは制御用の電気的プログラムも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の1実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1のパルスレーザ光変調装置の構成を示している。
【図3】図2のパルスレーザ光変調装置の2つの光路を導光されるパルスレーザ光の状態をスペクトログラム(時間―周波数)で示した図である。
【図4】図1のレーザ顕微鏡装置の2つの光路を導光されるパルスレーザ光の状態をスペクトログラムで示すグラフであり、周波数の時間分布を示すグラフであり、(a)周波数分散量調節前、(b)周波数分散量調節後、(c)時間的なパルスタイミング量調整後、をそれぞれ示している。
【図5】図1のレーザ顕微鏡装置の2つの光路を導光されるパルスレーザ光のスペクトログラムを示す図であり、パルスレーザ光変調装置により位相変調されたパルスレーザ光により誘導ラマン散乱の発生が変調を受ける状態を示している。
【図6】図1のレーザ顕微鏡装置の導光されるパルスレーザ光のスペクトログラムを示す図であり、多光子励起蛍光イメージングにおけるパルスレーザ光の周波数分散量の(a)調整前、(b)調節後のそれぞれの状態を示している。
【図7】本発明の2実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図8】図7のレーザ顕微鏡装置の2つの光路を導光されるパルスレーザ光と、標本Aに照射した後の2つのパルスレーザ光の状態を示した図であり、パルスレーザ光の位相変調により、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスが変調周期に応じて変調されていることを示している。
【図9】本発明の3実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図10】図8のレーザ顕微鏡装置の2つの光路を導光されるパルスレーザ光と、標本Aに照射した後の2つのパルスレーザ光の状態を示した図であり、パルスレーザ光の強度変調により、誘導ラマンゲインまたは誘導ラマンロスが変調周期に応じて変調されていることを示している。
【符号の説明】
【0107】
101、701、901・・・レーザ顕微鏡装置
102、702、902・・・レーザ光源装置
103、703、903・・・顕微鏡本体
104 ・・・レーザ光源
105 ・・・ビームスプリッタ(分岐手段)
106、107、203、204、211 ・・・光路
108・・・ 合波装置(合波手段)
109 ・・・周波数分散調節装置(周波数分散調節手段)
110、710、910・・・パルスレーザ光変調装置(パルスレーザ光変調手段)
111・・・ フォトニッククリスタルファイバ(周波数変換手段)
112・・・パルスタイミング調節手段
113・・・スキャナ
114・・・レンズ群
115、116・・・集光レンズ
117・・・変調信号検出装置(変調信号検出手段)
118・・・ダイクロイックミラー
119・・・光検出装置
120・・・標本ステージ
121・・・ミラー
131・・・コンピュータ
132・・・ディスプレイ
201・・・電気光学変調素子
202 ・・・偏光ビームスプリッタ
205、206・・・リフレクタ
207、208・・・1/2波長板
209、210・・・光路長変更用ステージ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本中の分子の特定の分子振動の周波数に略等しい周波数差を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光を導光する2つの光路と、
該2つの光路を導光されてきたパルスレーザ光を合波する合波手段と、
前記2つの光路の少なくとも一方に設けられ、前記2つの光路を導光されるパルスレーザ光の周波数分散量を調節する周波数分散調節手段と、
前記2つの光路の少なくとも一方に設けられ、前記2つの光路を導光されるパルスレーザ光を変調するパルスレーザ光変調手段と、
前記合波手段により合波された前記2つのパルスレーザ光を標本中に集光し、標本中の分子の特定の分子振動から発生した誘導ラマン散乱を前記パルスレーザ変調部の変調に同期して検出する変調信号検出手段と、
を有することを特徴とするレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記パルスレーザ光変調手段が、前記パルスレーザ光の位相を変化させることで変調することを特徴とする請求項1記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
前記パルスレーザ光変調手段が、前記パルスレーザ光の強度を変化させることで変調することを特徴とする請求項1記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項4】
1ピコ秒以下のパルス幅を有するフェムト秒パルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源と、
該パルスレーザ光源から発せられたフェムト秒パルスレーザ光を前記2つの光路に分岐する分岐手段と、
前記分岐手段により分岐された2つの光路のいずれか一方の光路に設けられ、該2つの光路を導光されるフェムト秒パルスレーザ光に標本中の分子の特定の分子振動の周波数に略等しい周波数差を与える周波数変換手段と、
を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項5】
前記2つの光路の少なくとも一方に、2つの光路に導光されるパルスレーザ光の標本面上におけるパルスレーザ光の時間的タイミングを調節することができるパルスタイミング 調節手段を備える請求項1から請求項4いずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項6】
前記周波数変換手段が非線形ファイバである請求項4に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項7】
前記パルスレーザ光変調手段が、電気光学効果を有する電気光学変調素子からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項8】
前記パルスレーザ光変調手段が、音響光学効果を有する音響光学変調素子からなることを特徴とする請求項3に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項9】
前記周波数分散調節手段を、前記レーザ光源と前記分岐手段の間に配置したことを特徴とする請求項4または5に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項10】
前記周波数分散調節手段が、標本において略フーリエ限界パルスとなるように分散量を設定する請求項1から請求項8いずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−158413(P2011−158413A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21838(P2010−21838)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】