説明

レーダ装置および無線伝送特性測定方法

【課題】耐干渉性に優れ、かつ、高速な相関器が不要で回路構成の容易性にも優れた「レーダ装置および無線伝送特性測定方法」を提供する。
【解決手段】装置IDが同相成分と直交成分とで表されたベースバンド信号S(t)を送信信号として利用し、外部の伝送路を介して送られてくる信号を受信した場合、受信した信号と、ベースバンド信号S(t)と周波数軸領域において複素共役の関係にある複素共役信号S*(ω)との相互相関を演算することにより、受信信号に畳み込まれている伝送特性の中から、装置IDとの相関性が高い伝送特性の信号成分を取り出す。このとき、送信信号の直交性により、他のレーダ装置から送信され伝送路を介して受信された信号の伝送特性を相関演算によって排除し、自身のレーダ装置から送信された信号の伝送特性だけを完全に分離して取り出せるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置および無線伝送特性測定方法に関し、特に、信号を出射し対象物から反射してくる信号を受信して所定の処理を行うことによって、当該出射された信号の伝送特性を測定するレーダ装置に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自車の周囲に存在する他車や歩行者等の物体までの距離・相対速度を高精度に計測するセンサとして、ミリ波レーダや赤外線レーダ等のレーダ装置が実用化されてきている。例えばミリ波レーダは、狭い幅のパルスを変調して生成したミリ波を出射し、対象物から反射してきた電波を受信して復調することで、伝搬時間やドップラー効果によって生じる周波数差などを基に、対象物の位置や自車との相対速度を測定する。
【0003】
レーダ方式としては、周波数変調を行う周波数変調方式(具体的には、FM−CW方式や2周波CW方式など)、パルス変調を行うパルス方式、位相変調を行うスペクトラム拡散(SS)方式などが一般的である。例えばFM−CW方式では、周波数変調(FM)された連続波(CW)信号を送受信することにより、自車から周囲の対象物までの距離と相対速度とを同時に測定する。
【0004】
レーダ装置が車両に搭載される場合、当該レーダ装置は、多重波や他レーダ干渉波など、比較的電波環境の悪い状況で使用されることになる。しかしながら、周波数変調方式やパルス方式は、干渉に脆弱という問題がある。例えば、複数の車両が並進している場合、自車から出射した電波の反射波に加え、他車から出射された電波またはその反射波も自車のレーダ装置にて受信される。この場合、レーダ装置では各受信電波が自車からの出射電波によるものか他車からの出射電波によるものかを区別できないため、距離や相対速度の正確な測定ができなくなってしまう。
【0005】
一方、SS方式は、周波数変調方式やパルス方式に比べて、耐干渉性に優れているという特徴を有する。しかしながら、SS方式は、スペクトラム拡散をカバーするだけの広い占有帯域幅が必要で、広い帯域に拡散された信号を短時間で処理するために、高速な相関器が必要となる。そのため、回路構成が複雑になり、コストも増大するという問題がある。車載レーダは民生需要を目的とする一般車両に搭載するため、小型化・簡素化による経済性が求められている。しかし、SS方式ではこの要求に対応することができない。
【0006】
上述した一般的な方式以外に、直交変調を用いて距離を測定する方式も提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、所定の信号を直交変調することによって生成された同相成分と直交成分とが含まれる変調信号を送信し、対象物から反射してきた電波を受信して復調する。そして、同相成分と直交成分のうち一方の成分が他方の成分に漏洩した割合(分離度)を計算して、その計算した分離度を基に、自車から対象物までの距離を推定している。特許文献1では、直交変調の例として、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交波周波数分割多重)を挙げている。なお、以下に説明する本発明のレーダ装置も直交変調を利用するが、伝送特性測定の原理は特許文献1と全く異なっている。
【特許文献1】特開2007−64767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような問題を解決するために成されたものであり、耐干渉性に優れ、かつ、高速な相関器が不要で回路構成の容易性にも優れたレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明では、装置固有の識別情報を直交符号化するとともにOFDM変調して生成した時間軸領域のベースバンド信号S(t)をアップコンバートして外部に送信し、外部の伝送路を介して送られてくる信号を受信する。そして、受信された信号をベースバンドにダウンコンバートするとともにOFDM復調によって周波数軸領域の信号に変換した後、得られた復調信号と、上述した時間軸領域のベースバンド信号S(t)に対して周波数軸領域において複素共役の関係にある複素共役信号S*(ω)との積を演算するようにしている。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した本発明によれば、伝送路上での伝送特性が畳み込まれた信号が受信部にて受信されるが、送信部から送信される信号は装置固有の識別情報という既知の固定情報を直交符号化したベースバンド信号から生成されているため、当該ベースバンド信号に対する既知の複素共役信号をフィルタとする相関演算を行うことによって、受信した信号に畳み込まれている伝送特性の中から、装置固有の識別情報との相関性が高い伝送特性の信号成分を取り出すことができる。ここで、信号の直交性により、他のレーダ装置から送信され伝送路を介して受信された信号の伝送特性は相関演算によって排除され、自身のレーダ装置から送信された信号の伝送特性だけを完全に分離して取り出すことができる。これにより、優れた耐干渉性を実現することができる。
【0010】
また、本発明によれば、受信した信号がベースバンドに周波数変換された後に相関演算が行われるので、ベースバンドの狭帯域で相関演算を行うことができる。これにより、広帯域に拡散された信号を短時間で処理するような高速な相関器は不要となり、回路構成を簡素化することができる。以上により、本発明によれば、耐干渉性に優れ、かつ、高速な相関器が不要で回路構成の容易性にも優れたレーダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態によるレーダ装置の送信側の構成例を示す図である。図2は、本実施形態によるレーダ装置の受信側の構成例を示す図である。図1に示すように、送信側の信号処理系統10は、S(t)記憶部11、直交変調部12および送信部13を備えて構成されている。また、図2に示すように、受信側の信号処理系統20は、受信部21、直交復調部22、FFT処理部23、S*(ω)記憶部24、相関演算部25およびIFFT処理部26を備えて構成されている。
【0012】
図1に示す送信側の信号処理系統10において、S(t)記憶部11は、レーダ装置固有の識別情報を直交符号化するとともにOFDM変調することによって同相成分(I)と直交成分(Q)とで表された時間軸領域のベースバンド信号S(t)をあらかじめ記憶した記録媒体であり、例えばROMあるいはEEPROM等により構成される。このS(t)記憶部11は、本発明の記憶部に相当する。ベースバンド信号S(t)は、図3に示す処理によってあらかじめ生成しておく。
【0013】
図3は、ベースバンド信号S(t)およびこれと周波数軸領域において複素共役の関係を有する複素共役信号S*(ω)を生成する装置の構成例を示す図である。図3において、ベースバンド信号S(t)は、直交符号化部31およびOFDM変調部32の各処理を行うことによって生成する。すなわち、直交符号化部31は、レーダ装置固有の識別情報であるIDを直交符号化することにより、IDを同相成分(I)および直交成分(Q)から成る直交符号に変換する。OFDM変調部32は、直交符号化されたIDを公知の手法によりOFDM変調することにより、時間軸領域で表した変調信号S(t)を生成する。この変調信号S(t)は、変調周波数がベースバンド近辺の低周波領域にあるベースバンド信号である。
【0014】
レーダ装置固有のIDを直交符号化してOFDM変調することにより、OFDM変調されたベースバンド信号S(t)を生成しているが、一般的にはベースバンド信号S(t)は複素数で表される。なお、ここで生成するベースバンド信号S(t)は伝送路に送る前の(伝送路の影響を受ける前の)信号であるから、I成分またはQ成分の値がゼロとなるようにベースバンド信号S(t)を定義しても良い。また、ベースバンド信号S(t)は、I成分またはQ成分の一方のみで表すようにしても良い。
【0015】
以上のように直交符号化部31およびOFDM変調部32によってベースバンド信号S(t)を生成したら、そのベースバンド信号S(t)をS(t)記憶部11に記憶させる。なお、直交符号化部31およびOFDM変調部32を含む装置は、本実施形態のレーダ装置とは別体として構成され、レーダ装置の出荷前にベースバンド信号S(t)を生成する。ベースバンド信号S(t)は、レーダ装置に固有の既知のIDから生成される固定情報であるため、あらかじめ生成してS(t)記憶部11に記憶しておくことが可能である。
【0016】
直交変調部12は、S(t)記憶部11からベースバンド信号S(t)を読み出し、当該読み出したベースバンド信号S(t)を直交変調することによって周波数変換を行う。ここで、直交変調部12は、ベースバンド信号S(t)をRF(Radio Frequency)信号にアップコンバートして送信部13に供給する。送信部13は、図示しないアンテナを備え、直交変調部12により生成された直交変調信号(RF信号)を外部に送信する。
【0017】
図1に示すように、直交変調部12は、ミキサ12a,12b、加算器12cおよび局部発振器(LOSC)12dを備えている。一方のミキサ12aは、S(t)記憶部11から読み出したベースバンド信号S(t)のI成分と、局部発振器12dから出力される同相の局部発振信号とを周波数混合することによって、I成分の信号をRF信号に変換する。すなわち、一方のミキサ12aは、RF周波数帯の局部発振信号をベースバンド信号S(t)のI成分によって変調する。
【0018】
他方のミキサ12bは、S(t)記憶部11から読み出したベースバンド信号S(t)のQ成分と、局部発振器12dから出力される直交の(つまり、同相の局部発振信号から位相が90°ずれた)局部発振信号とを周波数混合することによって、Q成分の信号をRF信号に変換する。すなわち、他方のミキサ12bは、RF周波数帯の局部発振信号をベースバンド信号S(t)のQ成分によって変調する。加算器12cは、2つのミキサ12a,12bから出力されるI成分およびQ成分のRF信号を合成して送信部13に出力する。
【0019】
次いで、図2に示す受信側の信号処理系統20において、受信部21は、図示しないアンテナを備え、レーダ装置の外部の伝送路を介して送られてくる直交変調信号(RF信号)を受信する。受信部21にて受信される直交変調信号は、レーダ装置の周囲にある測定対象物での反射を含む伝送路上での伝送特性f(t)がベースバンド信号S(t)と畳み込み演算されているため、∫f(t−τ)S(τ)dτのような畳み込み積分の形で表現される。
【0020】
なお、受信部21が受信する直交変調信号には、自身のレーダ装置が備える送信部13から送信された直交変調信号が周囲の測定対象物にて反射してきたものの他に、他のレーダ装置から送信された直交変調信号が周囲の測定対象物にて反射あるいは直射してきたものが含まれている場合もある。例えば、近くを並進している自車と他車との双方にレーダ装置が搭載されている場合には、自車のレーダ装置から送信されて周囲の測定対象物にて反射してきた直交変調信号の他に、他車のレーダ装置から送信されて周囲の測定対象物にて反射してきた直交変調信号が受信部21にて受信される。
【0021】
直交復調部22は、受信部21により受信された直交変調信号(RF信号)をベースバンドに復調することによって周波数変換を行う。直交復調部22は、ミキサ22a,22bおよび局部発振器22cを備えている。一方のミキサ22aは、受信部21にて受信した直交変調信号のI成分と、局部発振器22cから出力される同相の局部発振信号とを周波数混合することによって、I成分の信号をベースバンドにダウンコンバートする。他方のミキサ22bは、受信部21にて受信した直交変調信号のQ成分と、局部発振器22cから出力される直交の局部発振信号とを周波数混合することによって、Q成分の信号をベースバンドにダウンコンバートする。
【0022】
FFT処理部23は、本発明のOFDM復調部に相当するものであり、直交復調部22により生成されたIQ成分の復調信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を行い、以下に述べるF(ω)S(ω)の信号を生成する。ここで行うFFT処理は、ベースバンド信号S(t)を生成する際に図3のOFDM変調部32にて行ったOFDM変調に対する公知のOFDM復調処理に相当する。一般に、∫f(t−τ)S(τ)dτのような時間軸処理の畳み込み積分をフーリエ変換すると、周波数軸領域でF(ω)S(ω)のように表現される。よって、FFT処理部23の出力信号は、F(ω)S(ω)の形で表されるOFDM復調信号となる。
【0023】
S*(ω)記憶部24は、時間軸領域で表したベースバンド信号S(t)と複素共役の関係にある周波数軸領域の複素共役信号S*(ω)をあらかじめ記憶した記録媒体であり、例えばROMあるいはEEPROM等により構成される。このS*(ω)記憶部24も、本発明の記憶部に相当する。この複素共役信号S*(ω)は、図3に示す処理によってあらかじめ生成しておく。
【0024】
すなわち、図3において、FFT処理部33は、OFDM変調部32により生成されたベースバンド信号S(t)に対してFFT処理を行うことにより、時間軸領域で表されたベースバンド信号S(t)を周波数軸領域で表したベースバンド信号S(ω)に変換する。複素共役変換部34は、複素数表現されているベースバンド信号S(ω)の虚部の符号を変えることにより、複素共役信号S*(ω)を生成する。
【0025】
以上のように複素共役信号S*(ω)を生成したら、その複素共役信号S*(ω)をS*(ω)記憶部24に記憶させる。なお、上述のように、直交符号化部31、OFDM変調部32の他にFFT処理部33および複素共役変換部34を含む装置は、本実施形態のレーダ装置とは別体として構成され、レーダ装置の出荷前に複素共役信号S*(ω)も生成してS*(ω)記憶部24に記憶しておく。複素共役信号S*(ω)も、レーダ装置に固有の既知のIDから生成される固定情報であるため、あらかじめ生成してS*(ω)記憶部24に記憶しておくことが可能である。
【0026】
相関演算部25は、FFT処理部23により生成されたOFDM復調信号に対して複素共役信号S*(ω)を乗算することにより、自身のレーダ装置が備える送信部13により送信された直交変調信号の伝送特性F(ω)を表した信号を生成する。上述のように、相関演算部25が相関演算に使用する複素共役信号S*(ω)は、S*(ω)記憶部24にあらかじめ記憶されている。すなわち、相関演算部25は、S*(ω)記憶部24から複素共役信号S*(ω)を読み出し、当該読み出した複素共役信号S*(ω)を、F(ω)S(ω)で表されるOFDM復調信号に乗算する。
【0027】
S(ω)とS*(ω)は複素共役の関係にあるから、S(ω)S*(ω)=|S(ω)|2である。また、OFDMは、占有帯域内に含まれる各キャリアのスペクトルを一様にできるという性質を有している。このスペクトルの一様性により、|S(ω)|2=1が成り立つ。これにより、相関演算部25によって行われる相関演算は、
F(ω)S(ω)S*(ω)=F(ω)|S(ω)|2=F(ω)
により表される。つまり、相関演算部25より出力される信号はF(ω)となる。
【0028】
IFFT処理部26は、本発明の周波数時間変換部に相当するものであり、相関演算部25により生成された周波数軸領域の信号F(ω)に対して逆高速フーリエ変換(IFFT)処理を行うことによって、当該周波数軸領域の信号F(ω)を時間軸領域の信号f(t)に変換する。ここで求められる時間軸領域の信号f(t)が、送信部13から送信された直交変調信号の伝送路上での伝送特性、つまり、測定対象物での反射特性である。
【0029】
次に、以上のように構成した本実施形態によるレーダ装置の動作を説明する。図4は、本実施形態によるレーダ装置の動作例を示すフローチャートである。図4において、まず、直交変調部12は、レーダ装置固有のIDがI成分とQ成分とで表されたOFDM変調済みのベースバンド信号S(t)をS(t)記憶部11から読み出し、読み出したベースバンド信号S(t)を直交変調することによってRF信号にアップコンバートする(ステップS1)。そして、送信部13は、直交変調部12により生成された直交変調信号を外部に送信する(ステップS2)。
【0030】
次に、受信部21は、外部の伝送路を介して送られてくる直交変調信号を受信する(ステップS3)。そして、直交復調部22は、受信部21にて受信された直交変調信号(RF信号)を復調することによってベースバンドにダウンコンバートする(ステップS4)。さらに、FFT処理部23は、直交復調部22により生成された復調信号に対してFFT処理を行うことによってOFDM復調信号を生成する(ステップS5)。
【0031】
続いて、相関演算部25は、FFT処理部23により生成されたOFDM復調信号F(ω)S(ω)に対して、ベースバンド信号S(t)と周波数軸領域において複素共役の関係にある複素共役信号S*(ω)を乗算することによって、ステップS2で送信部13より外部に送信された直交変調信号の伝送特性を表した周波数軸領域の信号F(ω)を生成する(ステップS6)。さらに、IFFT処理部26は、相関演算部25により生成された周波数軸領域の伝送特性信号F(ω)に対してIFFT処理を行うことによって、当該周波数軸領域の伝送特性信号F(ω)を時間軸領域の伝送特性信号f(t)に変換する(ステップS7)。
【0032】
以上詳しく説明したように、本実施形態のレーダ装置では、装置固有のIDを直交符号化するとともにOFDM変調して生成したベースバンド信号S(t)をRF信号にアップコンバートして送信する。そして、外部の伝送路を介して送られてくるRF信号を受信した場合、受信したRF信号をベースバンドにダウンコンバートしてFFT(OFDM復調)処理を行う。さらに、FFT処理により得られた信号F(ω)S(ω)と、ベースバンド信号S(t)に対する複素共役信号S*(ω)との相互相関を演算することによって周波数軸領域の伝送特性信号F(ω)を求め、更にこれを時間軸領域の伝送特性信号f(t)に変換するようにしている。
【0033】
このように構成した本実施形態のレーダ装置によれば、伝送路上での伝送特性が畳み込まれた直交変調信号が受信部21にて受信されるが、送信部13から送信される直交変調信号は装置固有のIDという既知の固定情報を直交符号化したベースバンド信号S(t)から生成されている。このため、当該ベースバンド信号S(t)に対する既知の複素共役信号S*(ω)をフィルタとする相関演算を行うことによって、受信した直交変調信号に畳み込まれている伝送特性の中から、装置固有のIDとの相関性が高い伝送特性の信号成分を取り出すことができる。
【0034】
ここで、直交符号化と共にOFDM変調によって生成した直交変調信号の直交性により、他のレーダ装置から送信され伝送路を介して受信された直交変調信号の伝送特性は相関演算によって排除され、自身のレーダ装置から送信された直交変調信号の伝送特性だけを完全に分離して取り出すことができる。これにより、優れた耐干渉性を実現することができる。
【0035】
また、本実施形態のレーダ装置によれば、受信部21にて受信した直交変調信号がベースバンドにダウンコンバートされた後に相関演算が行われるので、ベースバンドの狭帯域で相関演算を行うことができる。これにより、広帯域に拡散された変調信号を短時間で処理するような高速な相関器は不要となり、回路構成を簡素化することができる。FFTやIFFTの処理が必要であるが、そのための構成はICチップへの集積化によって容易に実現できる。
【0036】
以上により、本実施形態によれば、耐干渉性に優れ、かつ、高速な相関器が不要で回路構成の容易性にも優れたレーダ装置を提供することができる。
【0037】
なお、上記実施形態では、ベースバンド信号S(t)をS(t)記憶部11にあらかじめ記憶しておき、複素共役信号S*(ω)をS*(ω)記憶部24にあらかじめ記憶しておく例について説明したが、これに限定されない。例えば、図3に示す構成をレーダ装置が備えるようにし、送信時にはベースバンド信号S(t)を、受信時には複素共役信号S*(ω)をリアルタイムに計算して利用するようにしても良い。ただし、上述したようにこれらは何れも既知の固定情報であるので、あらかじめ求めて記憶部11,24に記憶しておいた方が、演算を簡素化できる点で好ましい。
【0038】
また、上記実施形態では、相関演算部25の後段にIFFT処理部26を設けて、周波数軸領域の伝送特性信号F(ω)を時間軸領域の伝送特性信号f(t)に変換しているが、レーダ装置の構成においてIFFT処理部26は必ずしも必須の構成ではない。例えば、周波数軸領域の伝送特性信号F(ω)をレーダ装置の外部に出力し、これを受け取った電子機器(例えば、自車から対象物までの距離を計算して必要に応じて警告を出力する車載機など)が時間軸領域の伝送特性f(t)を求めるようにしても良い。
【0039】
また、上記実施形態ではOFDM変調を利用しているので、OFDMの特徴であるガードインターバルを利用して、マルチパスの影響を低減させることができる。すなわち、FFT処理を行う対象区間にガードインターバルを付加したトータルの時間が、対象物までの距離や相対速度を測定する時間間隔(レーダ測定距離の2倍相当の伝播時間)の範囲内となるようにガードインターバルを設定することにより、マルチパスの影響を受けずに高精度に伝送特性f(t)を求めることができるようになる。
【0040】
また、上記実施形態では、ベースバンド信号とRF信号との間で周波数を直接変換するダイレクト・コンバージョン方式の構成について説明したが、いったん中間周波数に変換する低IF方式やスーパー・ヘテロダイン方式としても良い。なお、OFDMのようなデジタル変調との相性が良いこと、回路構成を簡素化できることなどの理由から、ダイレクト・コンバージョン方式を採用するのが好ましい。
【0041】
その他、上記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態によるレーダ装置の送信側の構成例を示す図である。
【図2】本実施形態によるレーダ装置の送信側の構成例を示す図である。
【図3】本実施形態によるベースバンド信号およびこれと複素共役の関係にある複素共役信号を生成するための構成例を示す図である。
【図4】本実施形態によるレーダ装置の動作例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
11 S(t)記憶部
12 直交変調部
13 送信部
21 受信部
22 直交復調部
23 FFT処理部
24 S*(ω)記憶部
25 相関演算部
26 IFFT処理部
31 直交符号化部
32 OFDM変調部
33 FFT処理部
34 複素共役変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を出射し対象物から反射してくる信号を受信して所定の処理を行うことによって、当該出射された信号の伝送特性を測定するレーダ装置であって、
装置固有の識別情報がOFDM変調されて同相成分と直交成分とで表された時間軸領域のベースバンド信号S(t)を直交変調することによって周波数変換を行う直交変調部と、
上記直交変調部により生成された直交変調信号を外部に送信する送信部と、
上記外部の伝送路を介して送られてくる直交変調信号を受信する受信部と、
上記受信部により受信された直交変調信号をベースバンドに復調することによって周波数変換を行う直交復調部と、
上記直交復調部により生成された復調信号に対してFFT処理を行うことによってOFDM復調を行うOFDM復調部と、
上記直交変調部により直交変調される上記時間軸領域のベースバンド信号S(t)をFFT処理により周波数軸領域に変換した信号と複素共役の関係にある複素共役信号S*(ω)と、上記OFDM復調部により生成されたOFDM復調信号との積を演算することによって、上記送信部により送信された直交変調信号の伝送特性を表した信号F(ω)を生成する相関演算部とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
上記相関演算部により生成された信号に対して逆FFT処理を行うことによって周波数軸領域の信号を時間軸領域の信号に変換する周波数時間変換部を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
上記時間軸領域のベースバンド信号S(t)をあらかじめ記憶しておく記憶部を更に備え、
上記直交変調部は、上記記憶部から読み出した上記時間軸領域のベースバンド信号S(t)に対して上記直交変調を行うことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
上記記憶部は、上記時間軸領域のベースバンド信号S(t)に加え、上記複素共役信号S*(ω)をあらかじめ記憶しており、
上記相関演算部は、上記記憶部から読み出した上記複素共役信号S*(ω)と、上記OFDM復調部により生成されたOFDM復調信号との積を演算することを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
上記直交変調部は、上記同相成分と上記直交成分とで表された時間軸領域のベースバンド信号S(t)に代えて、上記同相成分または上記直交成分の一方のみで表された時間軸領域のベースバンド信号S(t)を直交変調することによって周波数変換を行うことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
信号を出射し対象物から反射してくる信号を受信して所定の処理を行うことによって、当該出射された信号の伝送特性を測定する無線伝送特性測定方法であって、
装置固有の識別情報がOFDM変調されて同相成分と直交成分とで表された時間軸領域のベースバンド信号S(t)を直交変調することによって周波数変換を行う直交変調ステップと、
上記直交変調ステップで生成された直交変調信号を外部に送信する送信ステップと、
上記外部の伝送路を介して送られてくる直交変調信号を受信する受信ステップと、
上記受信ステップで受信された直交変調信号をベースバンドに復調することによって周波数変換を行う直交復調ステップと、
上記直交復調ステップで生成された復調信号に対してFFT処理を行うことによってOFDM復調を行うOFDM復調ステップと、
上記OFDM復調ステップで生成されたOFDM復調信号と、上記時間軸領域のベースバンド信号S(t)をFFT処理により周波数軸領域に変換した信号と複素共役の関係にある複素共役信号S*(ω)との積を演算することによって、上記送信ステップで外部に送信された直交変調信号の伝送特性を表した信号F(ω)を生成する相関演算ステップとを有することを特徴とする無線伝送特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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