説明

レーダ装置

【課題】ウェーブレット変換処理を利用するレーダ装置の規模を縮小すること。
【解決手段】入力信号を分解した後のウェーブレット展開係数wに、検出すべき所望信号と、不要なノイズおよびクラッタ成分とが含まれることに着目し、ウェーブレット展開係数wの軸上でスレショルドによる2値判定を実施することで、所望信号を検出する。すなわち、ウェーブレット展開係数wの軸上でCFARなどによる識別処理を実施することにより、スレショルドを越えた信号を検出信号として目標検出に供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーブレット変換を利用して目標を検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では信号処理分野において、フーリエ変換や離散コサイン変換(DCT)処理に代えてウェーブレット変換処理がよく利用される。例えば非特許文献1に、ウェーブレット変換処理に関する詳細が記述されている。ウェーブレット変換は強度が局所的に分布する信号を効率良く処理できるため、画像処理や音声信号処理、さらにはレーダ装置におけるビデオ信号処理などの種々の分野で応用されている。
【0003】
レーダ装置において、目標からの反射エコーに基づくビデオ信号をフーリエ変換すると周波数軸上のスペクトラムが得られ、これをフィルタリングすると目標成分を抽出することができる。しかしながらフーリエ変換処理では時間に関する情報が失われ、処理効率も良くない。これに対しウェーブレット変換を用いれば、時間に関する情報を残しつつ効率的な処理を行うことができる。時間周波数軸上の成分を得られることから、ウェーブレット変換処理を用いるレーダ装置は、時間周波数フィルタレーダと称されることもある。
【0004】
ところで、既存のこの種のレーダ装置では、ビデオ信号をウェーブレット変換し、ウェーブレット軸上で不要な成分を除去したのち再合成して時間軸上の信号に戻す。そして、この時間軸上の信号をスレショルド検波して目標の有無を判別するようにしている。従ってウェーブレット変換後の再合成処理が必須であり、信号処理の規模が増加するという不具合がある。
【非特許文献1】中野 ほか著「ウェーブレットによる信号処理と画像処理」、共立出版株式会社、pp.49-70(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように既存のレーダ装置においては、ウェーブレット変換処理を用いた場合に、目標抽出後に再合成処理を行うことが必要であり、信号処理回路の負担や装置規模が増大するという不具合がある。
本発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、ウェーブレット変換処理を利用するレーダ装置の規模を縮小することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の一態様によれば、レーダ送受信信号をウェーブレット変換して複数の展開係数ごとの分離成分を生成する変換手段と、前記複数の展開係数のいずれか1の軸上の分離成分を、既定の閾値レベルに基づいて閾値判定して目標を検出する検出手段とを具備することを特徴とするレーダ装置が提供される。
【0007】
このような手段を講じることにより、ウェーブレット変換処理ののち、ウェーブレット展開係数の軸上において目標が検出される。いわば変換処理後のデータを直接用いて、目標が検出される。これにより再変換処理の必要が無くなり、処理の煩雑さや回路規模の増大を軽減することが可能になる。すなわちレーダ装置の実施にあたり、目標を検出する限りにおいてはもとの信号波形を再生する必要は無い。発明者は、音声/画像分野などと異なる、このレーダ信号処理分野に特有の事情に着目し、本発明に係わるレーダ装置を提案するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウェーブレット変換処理を利用するレーダ装置の規模を縮小して提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係わるレーダ装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。図1において、レーダ送受信信号から得られた入力データfはウェーブレット変換部1に入力される。ウェーブレット変換部1は、入力データfを、複数のウェーブレット展開係数上の複数のデータに分離する。各展開係数は時間の次元を持つ。このうちいずれかの展開係数が、展開係数選定部5により選定される。図1では、予め定められた値(プリセット値)Wsの展開係数が選定される。
【0010】
展開係数Ws上のデータはCFAR処理部3に与えられる。CFAR処理部3は既知のCFAR(Constant False Alarm Rate)処理により、既定の閾値レベルに基づくスレショルド検波を施す。ここでスレショルドを越えた信号は、検出器4により目標として検出される。
【0011】
図2は、図1のCFAR処理部3の実施の形態を示す機能ブロック図である。入力されたWs軸上のデータは遅延回路31により遅延されたのち、加算部32および除算部34に分配される。加算部32は一定の期間に渡る複数Nの遅延データを加算したのち平均化処理部33に入力する。平均化処理部33は加算データのN平均値を算出し、除算部34に入力する。除算部34は遅延データとN平均値との除算結果を求め、これをCFAR出力として出力する。CFAR出力をもとに、検出器4による目標検出処理が実施される。
【0012】
図3は、図1のウェーブレット変換部1に入力される入力データfにつき説明するための模式図である。図示するように、入力データfレーダ送受信信号のレンジセルごとに各PRI(パルス繰返し周期)のデータを配列して形成される。入力データfを一般に複素信号f0(I+jQ)とすると、ウェーブレット変換の対象となる入力データfは次式(1)に示す4通りなどを考えることができる。
【数1】

【0013】
この入力データfをウェーブレット変換すると、複数のウェーブレット展開係数wkが算出される。
【0014】
図4は、ウェーブレット変換により得られる展開係数を示す模式図である。図4に示すように、ウェーブレット変換は、入力信号波形をスケーリング係数とウェーブレット展開係数で近似する処理である。スケーリング係数には複数のレベル(1〜j)が有り、レベルにより近似の程度が異なる。またウェーブレット展開係数は、スケーリング係数のレベル間での差に相当する。
【0015】
図5は、ウェーブレット変換処理のフィルタ特性を示す模式図である。レベルの順に、周波数領域は高域から低域へと遷移する。すなわち高域においては短時間のフィルタ特性を持ち、低域に行くほど長時間のフィルタ特性を持つようになる。このフィルタ特性は、非特許文献に示されるように次式(2)で示される。
【数2】

【0016】
式(2)において、wは各レベルjにおける近似関数と実際の波形との差分を表す成分である。よってノイズなどの非定常な信号が存在すると、その成分はwに含まれることになる。
【0017】
図6は、比較のためウェーブレット変換を利用する既存のレーダ装置を示す機能ブロック図である。図6では、ウェーブレット変換により生成された展開係数(w1〜wj)はまず選定処理部2に入力される。選定処理部2は、ノイズが含まれることが予想される展開係数成分を除去した展開係数を逆ウェーブレット変換部11に入力する。逆ウェーブレット変換部11は与えられた展開係数成分を再び周波数成分に戻し、この再変換後のデータを用いてCFAR処理および目標検出処理が実施される。すなわち既存の技術では、入力信号を式(1)および式(2)をもとに分解し、得られた展開係数のうちノイズが含まれることが予想されるw成分を除去した上で、再び式(1)および式(2)による合成処理を施すようにしている。従って再変換を要する分だけ信号処理負担が増え、また、逆ウェーブレット変換部11を要することから回路構成が繁雑になる。
【0018】
これに対して本実施形態では、入力信号を分解した後のウェーブレット展開係数wに、検出すべき所望信号と、不要なノイズおよびクラッタ成分とが含まれることに着目し、ウェーブレット展開係数wの軸上でスレショルドによる2値判定を実施することで、所望信号を検出するようにしている。すなわち、ウェーブレット展開係数wの軸上でCFARなどによる識別処理を実施することにより、スレショルドを越えた信号を検出信号として目標検出に供するようにしている。
このようにしたので、ウェーブレット変換後の再変換処理の必要が無くなり、従って処理手順の煩雑さや回路規模の増大を軽減でき、ウェーブレット変換処理を利用するレーダ装置を簡易な構成で提供することができる。
【0019】
さらに、図1においては、CFAR処理を実施するウェーブレット展開係数として、予め固定的に選定した展開係数(プリセット値)のみを用いることもできる。展開係数は、クラッタやノイズが存在しにくい係数を選定したり、事前に取得したデータを用いて所望信号の存在する可能性の高い係数を選定すればよい。このようにすると、全ての展開係数を対象とするのではなく、対象を絞り込んだCFAR処理を実施することが可能になるので、処理負荷をさらに軽減することができる。
【0020】
[第2の実施形態]
図7は、本発明に係わるレーダ装置の第2の実施の形態を示す機能ブロック図である。本実施形態では、CFAR処理を実施すべき展開係数を適応的に可変するようにする。図7において、ウェーブレット変換部1からの複数の展開係数は、選定処理部2および予測フィルタ6に入力される。
【0021】
予測フィルタ6は例えばα−βフィルタであり、目標の移動につれその目標が存在すると予測される展開係数を予測する。この予測値は選定処理部2に与えられ、選定処理部2は、予測した展開係数Wsを選定してCFAR処理部3に入力する。なお展開係数は目標の速度に対応する量である。
【0022】
α−βフィルタにより予測される展開係数を選定する処理は、選定されるwの展開係数レベルをJsとすると次式(3)により表される。
【数3】

【0023】
このように本実施形態では、目標が存在する展開係数を予測し、その予測値に基づいて展開係数を適応的に可変することが可能になる。この方式は、例えば飛翔体に搭載されるレーダ装置が追尾状態モードであり、検出された展開係数の番号Jmの初期値が決まっている場合に有効である。なお初期値が未定の場合には展開係数を順次変更して、検出した展開係数の番号Jmを初期値として、適用すればよい。このように本実施形態のレーダ装置は、スレショルドを設定すべきウェーブレット係数の軸を予測して、その軸に対してスレショルドを設定することにより目標を検出するようにしている。これにより第1の実施形態により得られる効果に加え、目標の速度変化が大きい場合などにも有効に対処し得るレーダ装置を提供できる。
【0024】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば第2の実施形態においてα−βフィルタに限らず、他のフィルタを用いてもウェーブレット展開係数Jを予測することが可能である。さらに本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。また、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係わるレーダ装置の第1の実施の形態を示す機能ブロック図。
【図2】図1のCFAR処理部3の実施の形態を示す機能ブロック図。
【図3】図1のウェーブレット変換部1に入力される入力データfにつき説明するための模式図。
【図4】ウェーブレット変換により得られる展開係数を示す模式図。
【図5】ウェーブレット変換処理のフィルタ特性を示す模式図。
【図6】比較のためウェーブレット変換を利用する既存のレーダ装置を示す機能ブロック図。
【図7】本発明に係わるレーダ装置の第2の実施の形態を示す機能ブロック図。
【符号の説明】
【0026】
1…ウェーブレット変換部、2…選定処理部、3…CFAR処理部、4…検出器、5…展開係数選定部、6…予測フィルタ、11…逆ウェーブレット変換部、31…遅延回路、32…加算部、33…平均化処理部、34…除算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ送受信信号をウェーブレット変換して複数の展開係数ごとの分離成分を生成する変換手段と、
前記複数の展開係数のいずれか1の軸上の分離成分を、既定の閾値レベルに基づいて閾値判定して目標を検出する検出手段とを具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記検出手段は、予め固定的に設定された1の展開係数の軸上の分離成分を用いて前記閾値判定を実施することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
さらに、前記目標の移動位置を前記レーダ送受信信号に基づいて予測する予測手段と、
この予測手段による予測処理の結果に基づいて、前記複数の展開係数のいずれか1の軸を選択する選択手段とを具備し、
前記検出手段は、この選択手段により選択された軸上の分離成分を用いて前記目標を検出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記検出手段は、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理を実施して前記目標を検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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