レーダ装置
【課題】アンテナアレイの探知領域にグレーティングローブが発生せず、高い角度分解能を持ち、物標の方位を高精度に探知できるレーダ装置の提供を図る。
【解決手段】レーダ装置50は、アンテナ素子2A〜2Eを不等間隔に配列したアンテナアレイ10と、アンテナ素子2A〜2Eを切り換えながら選択するスイッチ回路3とを備え、スイッチ回路3が選択したアンテナ素子から探知信号の送信を行う。スイッチ回路3は、アンテナ素子間の配置間隔の比と等しい時間間隔の比で、アンテナ素子を切り換える。
【解決手段】レーダ装置50は、アンテナ素子2A〜2Eを不等間隔に配列したアンテナアレイ10と、アンテナ素子2A〜2Eを切り換えながら選択するスイッチ回路3とを備え、スイッチ回路3が選択したアンテナ素子から探知信号の送信を行う。スイッチ回路3は、アンテナ素子間の配置間隔の比と等しい時間間隔の比で、アンテナ素子を切り換える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の衝突防止用等に用いられるFM−CW方式のレーダ装置、特にアンテナアレイを用いたレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、FM−CW方式等を用いた自動車搭載型のレーダ装置が各種考案されている。
【0003】
特許文献1には、複数の送信用のアンテナ素子が第1の間隔で等間隔に配置され、複数の受信用のアンテナ素子が第2の間隔で等間隔に配置されたFM−CW方式のレーダ装置が開示されている。
【0004】
図1は特許文献1に係る従来例1のレーダ装置のブロック図である。このレーダ装置は、等間隔3dで配列された送信用のアンテナ素子102A〜102Cをスイッチ回路103Aで切り換えながら探知信号を送信する。また、等間隔dで配列された受信用のアンテナ素子101A〜101Cをスイッチ回路103Bで切り換えながら物標で反射した探知信号を受信する。(以下、送信用のアンテナ素子と受信用のアンテナ素子との組み合わせをチャンネルCHと称する。)このレーダ装置では、各チャンネルで受信する探知信号の受信位相差に基づいて物標方位角を探知する。
【0005】
図2はこの従来例1のレーダ装置における、探知信号の周波数変調のタイミングと各アンテナ素子の動作タイミングとの関係を示すタイミングチャートである。このレーダ装置では、探知信号の受信をアンテナ素子(RX)101Aにより行っている間に、アンテナ素子(TX)102A〜102Cを順に切り換えながら探知信号を送信する。次に、探知信号の受信をアンテナ素子(RX)101Bに切り換え、再びアンテナ素子(TX)102A〜102Cを順に切り換えながら探知信号を送信する。次に、探知信号の受信をアンテナ素子(RX)101Cに切り換え、再びアンテナ素子(TX)102A〜102Cを順に切り換えながら探知信号を送信する。
【0006】
この従来例1のレーダ装置では、探知信号の周波数変調の周期に同期してチャンネルを切り換え、探知信号の1周期分の送受信を行っていた。この場合、各アンテナ素子は探知信号の周波数変調周期の整数倍だけ時間差を持って動作する。
【0007】
物標が相対速度を持つ場合、アンテナ素子の動作切り換えの間に物標が移動してチャンネルCH1〜CH9の探知信号を反射する物標位置がチャンネルCH1〜CH9ごとに異なるものとなる。そこで従来例1のレーダ装置では、ビート信号のフーリエ変換により計測した物標の相対速度に基づいて物標の移動による誤差を補正し、物標の方位を高精度に探知していた。
【0008】
また、レーダ装置に用いられるアンテナアレイとして、複数のアンテナ素子を不等間隔に配列したアンテナアレイが非特許文献2に開示されている。このような複数のアンテナ素子を不等間隔に配列したアンテナアレイは、探知範囲に所謂グレーティングローブが発生せず、偽像を観測することが無いことで知られている。
【0009】
図3は非特許文献2に係る従来例2のアンテナアレイの配置図である。従来例2のアンテナアレイは、5つのアンテナ素子201A〜201E、を1次元に配列したものである。アンテナ素子201Aとアンテナ素子201B〜201Eとの組み合わせの配置間隔は順に8×λ/2,15×λ/2,19×λ/2,26×λ/2となるようにされている。
【特許文献1】特許第3368874号公報
【非特許文献2】中澤利之他 「不等間隔アレーを用いた方位推定」電子情報通信学会論文誌B2000/6 Vol.J83−B No.6 pp.845−851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来例1のレーダ装置に用いられているアンテナアレイでは、複数のアンテナ素子が等間隔で配置される。このようなアンテナアレイでは、アンテナ素子の配置間隔が探知信号の半波長よりも短いと、探知範囲にグレーティングローブが発生せず偽像を検知することがないという利点がある。一方、アンテナは一般的に開口面が大きいほど角度分解能が向上する。従ってアンテナアレイにおいてアンテナ素子数が一定の場合、アンテナ素子の配置間隔を大きくすればするほど角度分解能が向上する。従って、アンテナ素子の配置間隔が探知信号の半波長よりも短いとレーダ装置の角度分解能が著しく低下し、略同一方位の複数の物標のそれぞれのスペクトラムピークを分離できないことがあった。
【0011】
例えば、−5°,−2°,15°の3方位に物標が存在する環境下で方位探知を行う場合、図4(A)に示すように複数のアンテナ素子を比較的短い間隔で配置すると、同図(B)に示すように15°方位の物標によるピークスペクトラム強度は他の物標によるピークスペクトラム強度から分離できても、−5°および−2°の方位の物標によるピークスペクトラム強度が重なり、−5°および−2°の方位の物標それぞれのスペクトラムピークを分離できず、−5°および−2°の方位の物標を1つの物標としてしか観測できないことがあった。
【0012】
ここで、アンテナ素子の配置間隔を探知信号の半波長よりも長くし、アンテナアレイの開口面を大きくすることで、レーダ装置の角度分解能を高め、略同一方位にある複数の物標であっても複数の物標それぞれのスペクトラムピークを分離することが可能になる。しかしながらその場合、アンテナアレイの探知範囲に所謂グレーティングローブが発生し、実際の物標とは異なる位置に偽像を観測してしまうことがあった。
【0013】
例えば、−5°,−2°,15°の3方位に物標が存在する環境下で方位探知を行う場合、図5(A)に示すように複数のアンテナ素子を比較的広い間隔で配置すると、−5°,−2°,15°それぞれの方位の物標のスペクトラムピークを分離して、それぞれの物標の方位を観測できる。しかしながら、グレーティングローブが生じ、この例では実際の物標の方位とは異なる−14°および24°,27°の方位に偽像を観測してしまうことがあった。
【0014】
このように従来例1のレーダ装置では、高い角度分解能とグレーティングローブの抑制とを同時に満足することが困難であった。そこで、従来例1のレーダ装置でも従来例2のように複数のアンテナ素子を不等間隔に配列することで、グレーティングローブを抑制することが考えられる。
【0015】
しかしながら、複数のアンテナ素子を切り換えて動作させるレーダ装置で複数のアンテナ素子を不等間隔に配列すると、グレーティングローブは抑制できるが、アンテナを切り換えている間に物標が移動することによる探知信号の位相差の補正が困難になり、レーダ装置の角度分解能が著しく低下し、物標の方位を高精度に探知することが困難になる問題が生じる。
【0016】
そこで本発明は、上述の問題を解決することを目的とし、探知範囲にグレーティングローブが発生せず、角度分解能が高いレーダ装置の提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明のレーダ装置は、複数のアンテナ素子を配列したアンテナアレイと、前記アンテナアレイのアンテナ素子を切り換えて選択するアンテナ選択手段と、を備え、前記アンテナ選択手段が選択したアンテナ素子から探知信号の送信または受信を行うレーダ装置において、前記アンテナアレイは、いずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔と他のいずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔とが異なるものであり、前記アンテナ選択手段は、アンテナ素子を切り換える時間間隔の比を、切り換えるアンテナ素子間の配置間隔の比と等しくしたものである。
【0018】
この構成では、アンテナ選択手段によりチャンネルを切り換える時間間隔の比を、切り換えるアンテナ素子間の配置間隔の比と等しくするので、アンテナアレイを構成するアンテナ素子の配置間隔が不等間隔であっても、アンテナ素子の切り換えの間の物標の移動によって生じる探知信号の受信位相変化が、切り換えられるアンテナ素子の配置間隔に応じたものとなる。したがって、各チャンネルの探知信号の受信位相差の比がアンテナ素子の配置間隔の比に応じたものになる。これにより、複数のアンテナ素子を切り換えて動作させるレーダ装置で複数のアンテナ素子を不等間隔に配列した場合であっても、アンテナ素子の配置間隔の比に基づいてデータの補正を行うことで、高い分解能で物標の方位を探知することが可能になる。
【0019】
また、この発明の前記アンテナアレイは、前記探知信号の波長をλ、前記探知信号から探知可能な方位角の範囲をΔθとしたときの、各アンテナ素子の配置間隔の最大公約数dが、
【0020】
【数1】
を満足するものである。
【0021】
この構成では、各アンテナ素子の配置間隔が最大公約数dの整数倍であれば、方位角探知範囲にグレーティングローブが発生しない。したがって、偽像が生じない。
【0022】
また、この発明のレーダ装置は、前記アンテナアレイの各アンテナ素子を介して送信または受信した探知信号の位相差から、物標の方位を探知する方位探知手段を備える。
【0023】
この構成では、物標が相対速度を持たないものであれば、高い角度分解能で物標の方位を正確に探知できる。また、物標が相対速度をもっていても、一定の方位ずれが生じた状態ではあるが、高い角度分解能で物標の方位を探知できる。
【0024】
また、この発明のレーダ装置は、前記物標の相対速度を検知する速度検知手段と、前記速度検知手段により検知した相対速度から前記方位探知手段により探知した方位の補正を行う方位補正手段と、を備える。
【0025】
この構成では、別途物標の相対速度を検知することにより、その相対速度に基づいて物標の方位角の補正が可能になる。したがって、相対速度を持つ物標からであっても、高い角度分解能で物標の方位を正確に探知できる。
【発明の効果】
【0026】
この発明のレーダ装置は、高い角度分解能を持ち、アンテナアレイの探知領域にグレーティングローブが発生しないものである。したがって高い分解能で物標の方位を高精度に探知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置について、図を参照して説明する。
図6は、本実施形態のレーダ装置50の主要部の構成を示すブロック図である。
本実施形態のレーダ装置50は、受信アンテナ1、送信用のアンテナアレイ10、スイッチ回路3、電圧制御発振器(VCO)4、分岐回路5、LNA6、ミキサ7、IFアンプ8、信号処理回路9を備える。
【0028】
アンテナアレイ10は、同一の指向性パターンを有するアンテナ素子2A〜2Eを一直線上に順に配列した送信用のものであり、アンテナ素子2A〜2Eは、アンテナの正面方向が一致するように、また、アンテナ素子2A〜2Eの間隔が不等間隔になるように配置したものである。本実施形態ではアンテナ素子2A−2B間の配置間隔を送信する探知信号の波長λと等しくし、各アンテナ素子2A〜2Eの隣接する間隔の比が「1:1:3:5」となるように配置している。
【0029】
このアンテナ素子2A〜2Eは、スイッチ回路3により順に選択され、選択されたアンテナ素子は、探知信号を外部の探知領域に放射(送信)する。なお、以下の説明ではアンテナ素子2A〜2Eを介して送信する探知信号をそれぞれチャンネルCH1〜CH5の探知信号とする。
【0030】
このアンテナアレイ10は、例えば、マイクロストリップアンテナアレイや、導波管スロットアンテナ等により実現する。マイクロストリップアンテナアレイの場合を具体的に説明すると、誘電体基板上に等間隔に配列された複数のパッチアンテナをマイクロストリップラインにより接続したものを1単位とし、この単位アンテナを前記間隔を隔てて並列に配置したものである。単位アンテナはそれぞれアンテナ素子2A〜2Eに対応し、それぞれの単位アンテナはスイッチ回路3を介して送信機に接続される。
【0031】
スイッチ回路3は、信号処理回路9からの切り換え信号に応じてVCO4とアンテナ素子2A〜2Eを接続し、VCO4から出力された探知信号をアンテナ素子2A〜2Eに与える。
【0032】
VCO4は、信号処理回路9から与えられる変調電圧に応じて、例えば、76GHz帯の探知信号を発生する。この際、VCO4には、スイッチ回路3が信号処理回路9から与えられる切り換え信号に同期したタイミングで、三角波状に電圧値が変動する変調電圧が与えられる。VCO4は、この変調電圧に応じて、前記タイミングから所定周波数範囲内で三角波状に周波数変調する探知信号を発生する。
【0033】
分岐回路5は、VCO4から出力された探知信号を、スイッチ回路3に与えるとともに、その一部をローカル信号として、ミキサ7に与える。
【0034】
また、受信アンテナ1は、受信時に探知領域内の物標に反射して得られる探知信号を受信する。受信アンテナ1はその探知信号をLNA6に与える。
【0035】
LNA6は、入力された探知信号を増幅してミキサ7に出力し、ミキサ7は、LNA6から入力される探知信号と分岐回路5から入力されるローカル信号とをミキシングして、IFビート信号を生成する。IFアンプ8は、IFビート信号を増幅して信号処理回路9に出力する。
【0036】
信号処理回路9は、入力されるIFビート信号に基づいて、既知のFM−CW方式の演算を用い、IFビート信号をフーリエ変換することで、本装置から探知信号を反射した物標までの距離と、本装置と探知信号を反射した物標との相対速度とを算出する。また、信号処理回路9は、そのピークとなる周波数成分から、Beamformer法やCapon法などの到来方位推定アルゴリズムを用いて到来方位(=物標の方位)を算出する。到来方位推定アルゴリズムについては後述する。
【0037】
以上により本実施形態のレーダ装置50を構成する。
【0038】
ここで、各アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔について詳細に説明する。
各アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔は、間隔の最大公約数をdとしたときに、アンテナ素子2A−2B間がd、アンテナ素子2B−2C間がd、アンテナ素子2C−2D間が3d、アンテナ素子2D−2E間が5dとなるように配置し、アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔の比を「1:1:3:5」としている。なお、ここでの間隔の最大公約数dは、送信する探知信号の波長λと等しくしている。この配置間隔は、−30°〜30°の方位角範囲においてグレーティングローブが発生しない条件を満たすものである。この条件は、探知信号の波長をλ、前記探知信号から探知可能な方位角の範囲をΔθとしたときの、各アンテナ素子2A〜2Eの隣接する間隔の最大公約数dが、
【0039】
【数2】
を満足するというものである。
【0040】
一般に、等間隔に配置されたアンテナアレイでのグレーティングローブが生じる角度 θgmは、物標が存在する本来の方位角をθ0、アンテナ素子の間隔をdとした場合、
【0041】
【数3】
の関係を満足する。ここで、探知可能な方位角の範囲に対して、
【0042】
【数4】
という制限を加える。このとき、式(2)および式(3)から、
【0043】
【数5】
が成り立つ。これは、グレーティングローブが、探知可能な方位角の範囲内には生じないことを意味する。つまり、探知可能な方位角範囲内の任意の角度θ0に対して、
【0044】
【数6】
が成り立つようにアンテナ素子の間隔dを決定すれば、探知可能な方位角の範囲内にグレーティングローブが生じない。
探知可能な方位角の範囲を−Δθ/2〜Δθ/2とすると、
【0045】
【数7】
であるから、
【0046】
【数8】
を満たすようにアンテナ素子の間隔を決定すればよいことになる。
【0047】
例えば探知範囲Δθをアンテナ正面方向から±20°とする場合、この探知範囲内でグレーティングローブが生じないようにするには、上式で探知範囲Δθに40°を代入するとよい。この場合、アンテナ素子の配置間隔dは1.46λ以下である。
【0048】
本実施形態のレーダ装置50では、アンテナ素子の配置間隔の最大公約数dを上記条件の配置間隔dよりも小さく設定することで、探知範囲内にグレーティングローブが発生しないよう定めたものである。
【0049】
このように配置したアンテナ素子2A〜2Eを用いることで、このレーダ装置ではグレーティングローブが発生しない。なお、非特許文献2などに記載された他の条件に基づいてアンテナ素子の配置間隔を設定しても、本発明は好適に実施できる。
【0050】
ここで、本実施形態の構成における、探知信号の周波数変調のタイミングと各アンテナ素子の動作のタイミングの関係を図7にタイミングチャートとして示す。
【0051】
信号処理回路9は、切り換え信号によるアンテナの切り換え間隔を、アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔に従って切り換える。本実施形態では、アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔の比を「1:1:3:5」となるように配置しているので、切り換え信号の出力間隔も「1:1:3:5」となるように出力する。
【0052】
即ち、アンテナ素子2Aを選択している時間をTとしたときに、スイッチ回路3はこの切り換え信号に従って、アンテナ素子2Aを時間T選択し、次にアンテナ素子2Bを時間T選択し、次にアンテナ素子2Cを時間3T選択し、次にアンテナ素子2Dを時間5T選択し、最後にアンテナ素子2Eを選択する。
【0053】
なお、上記はアンテナ素子の切り換えの一例を示したものである。本実施例の効果を得るためには基本的に測定間隔をアンテナ素子の配置間隔に比例させればよく、上記した例のようにアンテナ素子2Cを時間3T選択することは、必ずしも必要ではない。
【0054】
また、VCO4は、各アンテナ素子2A〜2Eが選択されたタイミングから三角波状の周波数変調を行う。この周波数の変調時間は、各アンテナ素子2A〜2E選択される最も短い時間Tより更に短いものである。まず、アンテナ素子2Aが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、次にアンテナ素子2Aが選択されてから時間T経過後のアンテナ素子2Bが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、次にアンテナ素子2Bが選択されてから時間T経過後のアンテナ素子2Cが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、次にアンテナ素子2Cが選択されてから時間3T経過後のアンテナ素子2Dが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、最後にアンテナ素子2Dが選択されてから時間5T経過後のアンテナ素子2Eが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行う。このようなサイクルを繰り返すことで、VCO4は探知信号を発生する。
【0055】
物標が静止している場合、図8に示すように各アンテナ素子2A〜2Eが前述の間隔で配置されていることにより、各アンテナ素子2A〜2Eを介して送信される各チャンネルCH1〜CH5の探知信号は、受信位相差が「2πd(sinθ)/λ」(=l)の整数倍として受信される。なお、λは探知信号の波長であり、θは探知信号の入射角、すなわち、アンテナ正面方向に対して探知信号が成す角である。
【0056】
具体的には、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH2の探知信号は受信位相差「2πd(sinθ)/λ」(=l)で受信される。また、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH3の探知信号は受信位相差「4πd(sinθ)/λ」(=2l)で受信される。また、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH4の探知信号は受信位相差「10πd(sinθ)/λ」(=5l)で受信される。また、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH5の探知信号は受信位相差「20πd(sinθ)/λ」(=10l)で受信される。
【0057】
このようにチャンネルCH1〜CH5それぞれの探知信号の受信位相差は、物標が静止している場合、受信位相差lの整数倍となり、その比は、「1:2:5:10」と成る。
【0058】
ここで、図9(A)および図9(B)を用いて、物標が移動している(相対速度をもつ)場合に、本実施形態のレーダ装置のように不等間隔の時間に探知信号を送信する際の受信位相差と、比較対象として等間隔の時間に探知信号を送信する際の受信位相差との比較を行う。探知信号の到来方位に物標が相対速度Vをもつ場合、同図(A)、(B)いずれのタイミングで探知信号を送信しても、タイミングごとに物標の位置が変化する。しかしながら同図(B)に示す比較対象のように時間Tで等間隔に探知信号を送信する場合、それぞれの時間Tには物標が距離VTだけ探知信号の方位に進み、その位置で探知信号を反射する。一方、同図(A)に示す本実施形態のように各アンテナ素子2A〜2Eの切り換えのタイミングが、前述のように不均一なタイミングである場合、そのタイミングの比に従った距離だけ物標が探知信号の方位に進み、その位置で探知信号を反射する。
【0059】
したがって、探知信号の到来方位に物標が相対速度Vをもつ場合、チャンネルCH1〜CH5それぞれの探知信号は、送信されるタイミングに従った位置で反射されたものとなり、タイミングにより異なる受信位相で受信される。この受信位相差は、各チャンネルの探知信号における物標までの距離の差に比例したものとなり、同図(A)に示す本実施形態のレーダ装置における受信位相差の比は、「1:2:5:10」と成る。一方、同図(B)に示す比較対象の場合の受信位相差の比は、「1:1:1:1」と成る。
【0060】
これにより本実施形態のレーダ装置では、アンテナアレイの各アンテナ素子2A〜2Eを介した探知信号(各チャンネルCH1〜CH5の探知信号)が、アンテナ素子2A〜2Eの位置の違いによる受信位相差と、物標の移動によって生じる反射位置の違いによる受信位相差とを合成した受信位相差で受信される。本実施形態のレーダ装置では、アンテナ素子2A〜2Eの位置の違いによる受信位相差の比も、物標の移動によって生じる反射位置の違いによる受信位相差の比も、両者ともに「1:2:5:10」と成る。したがって、各アンテナ素子の受信位相はアンテナ素子の間隔に比例し、物標の方位に対する各アンテナ素子の受信位相の変化はアンテナ素子の配置間隔に比例した不等位相間隔となる。
【0061】
この不等位相間隔の受信位相に基づいて、本実施形態のレーダ装置では、物標からの反射信号の到来方位推定を行う。
ここで、Beamformer法による到来方位推定アルゴリズムについて説明する。
アンテナアレイの出力電力Poutは次式で求められる。
【0062】
【数9】
Wはウェイトベクトルであり、Rxxは相関行列であり、X(t)は複素入力ベクトルである。Eはアンサンブル平均を求める操作を表す。添え字Hは複素共役を表す。
【0063】
Beamformer法による到来方位推定アルゴリズムでは、上記ウェイトベクトルWを次式のように設定することでビームを走査し、アレーの出力電力Poutのピークから到来方位を求める。
【0064】
【数10】
ここで、添え字Tは転置を表す。また、dkは1番目のアンテナ素子からk番目のアンテナ素子までの間隔を表す。
このように、到来方位推定アルゴリズムにおけるウェイトベクトルWは、間隔dkを定数にもつθの関数となる。
【0065】
したがって、本実施形態のレーダ装置のように各アンテナ素子の受信位相の変化が間隔dkに比例した不等位相間隔であっても、正しい角度スペクトラムが得られる。(ただし、物標が相対速度をもつ場合、方位角のずれが生じる。)
なお、Capon法の場合は、ウェイトベクトルがθとRxx−1の関数となるが、Beamformer法と同様に出力電力Poutが求められ、正しい角度スペクトラムが得られる。
【0066】
このように本発明によれば、物標が相対速度を持ち、移動することにより生じる受信位相差の変化は、アンテナ素子の配置位置の違いによる受信位相差と等価となり、本来の方位角による受信位相差に、配置間隔の比と同じ比に設定された相対速度による受信位相差が合成される結果、物標の方位は、本来の方位角に加えて相対速度に比例したずれを伴って検出される。
【0067】
なお、この相対速度に比例したずれは、別途相対速度を求めれば補正が可能である。例えば相対速度の求め方としては、FM−CW方式のレーダ装置における探知信号の上り/下り各々の周波数変調区間で現れるピーク周波数差から得られるドップラシフト分、あるいは過去の検出結果の履歴をトレースして得られる一定時間あたりの距離変化、またはアンテナを順次切り換えていき再度同じアンテナを選択した際の前回との受信位相差等、様々なものを用いて算出でき、どのような算出方法を用いてもよい。また、特許文献1に記載された方法であっても良い。
【0068】
以上のように、本実施形態のレーダ装置は、アンテナ素子の配置間隔とその切り換え時間間隔を不等間隔とし、アンテナの開口面を拡大することによって高い角度分解能を実現し、また、アンテナアレイの探知領域にグレーティングローブが発生しない。したがって本実施形態のレーダ装置によれば物標の方位を高精度に探知できる。
【0069】
ここで、本実施形態のレーダ装置により相対速度を持つ物標の方位探知を行った実験結果について説明する。ここでは本実施形態のレーダ装置との比較対象として、不等間隔に配置したアンテナ素子を切り換える時間間隔を等間隔にしたレーダ装置により物標の方位探知を行った実験結果も示す。
【0070】
図10(A)に示すように両実験に用いたアンテナアレイは各アンテナ素子が「1:1:3:5」の配置間隔であり、最小間隔が探知信号の波長λに等しいものである。実験1は本実施形態のレーダ装置を用いたものであり、図10(B)に示すように「1:1:3:5」の時間間隔で各アンテナ素子の切換を行った。また実験2は比較対象のレーダ装置を用いたものであり、図10(B)に示す「1:1:1:1」の時間間隔で各アンテナ素子の切換を行った。なお、ここで示す各実験は、−5°,−2°,15°の3方位に物標が存在する環境下で行った。また、Capon法を用いて到来方位推定を行った結果である。
【0071】
実験1と実験2とによる実験結果を図11に示す。本実施形態のレーダ装置により物標の方位探知を行った実験結果は同図(A)に示す。また、比較対象のレーダ装置により物標の方位探知を行った実験結果は同図(B)に示す。
【0072】
本実施形態のレーダ装置を用いた実験1によれば、一定の方位ずれを持った状態ではあるものの3方位のスペクトラムピークが正しく得られる。この方位ずれは、既に述べたよう、別途物標の相対速度を求めれば容易に補正可能であり、問題とならない。
【0073】
ところが比較対象のレーダ装置を用いた実験2によれば、スペクトラムピークがはっきりと現れない。特に近接した方位である−5°,−2°の方位の物標からのスペクトラムピークを分離できず、これらの方位のスペクトラムピークが正しく得られない。
【0074】
このような比較対象のレーダ装置においてスペクトラムピークを得ることができない問題は、この比較対象のレーダ装置では、物標の方位に依存した受信位相の変化はアンテナの間隔に比例して不等間隔で生じるのに対し、物標の相対速度に依存した受信位相変化は、各アンテナ素子を選択する時間間隔に比例して一定間隔で生じるためであり、両者の受信位相変化が合成された状態として得られる探知信号では、到来方位推定アルゴリズムが正しい結果を算出できない。
【0075】
一方、本実施形態のレーダ装置では、方位に依存した受信位相の変化と、切り換え時間差に依存した受信位相の変化が各アンテナ素子で同じ比率となるようにするために、計測時間間隔をアンテナの配置間隔に比例する時間間隔に設定する。したがって各アンテナ素子間で、速度に依存した受信位相の変化は、方位角に依存した受信位相の変化と同じ比率になり、両者の受信位相変化が合成された状態として得られる探知信号から、到来方位推定アルゴリズムが正しい結果を算出できる。
【0076】
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置について、図を参照して説明する。
図12は、本実施形態のレーダ装置100の主要部の構成を示すブロック図である。
【0077】
本実施形態のレーダ装置100は、受信用のアンテナアレイ60、送信用アンテナ51、スイッチ回路53、電圧制御発振器(VCO)54、分岐回路55、LNA56、ミキサ57、IFアンプ58、信号処理回路59を備える。
【0078】
このレーダ装置100は、受信用のアンテナとしてアンテナアレイ60を用いる点で第1の実施形態と異なる。
【0079】
アンテナアレイ60は、同一の指向性パターンを有するアンテナ素子52A〜52Eを一直線上に順に配列した受信用のものであり、アンテナ素子52A〜52Eは、アンテナの正面方向が一致するように、また、アンテナ素子52A〜52Eの間隔が不等間隔になるように配置したものである。本実施形態ではアンテナ素子52A−52B間の配置間隔を送信する探知信号の波長λと等しくし、各アンテナ素子52A〜52Eの隣接する間隔の比が「1:1:3:5」となるように配置している。
【0080】
このアンテナ素子52A〜52Eは、スイッチ回路53により順に「1:1:3:5」の時間間隔で選択され、選択されたアンテナ素子は、物標で反射した探知信号を受信する。
【0081】
スイッチ回路53は、信号処理回路59からの切り換え信号に応じてアンテナ素子52A〜52EとLNA56を接続し、アンテナ素子52A〜52Eで受信した探知信号をLNA56に与える。
【0082】
分岐回路55は、VCO54から出力された探知信号を、送信アンテナ51に与えるとともに、その一部をローカル信号として、ミキサ57に与える。
【0083】
また、送信アンテナ51は、分岐回路55から入力された探知信号を送信する
以上により本実施形態のレーダ装置100を構成する。本実施形態のレーダ装置100も第1の実施形態のレーダ装置と同様にアンテナ素子の配置間隔とその切り換え時間間隔を不等間隔とし、アンテナの開口面を拡大することによって高い角度分解能を実現し、また、アンテナアレイの探知領域にグレーティングローブが発生しない。したがって本実施形態のレーダ装置によれば物標の方位を高精度に探知できる。
【0084】
なお、以上の実施形態で示した以外にも多様な構成に本発明は実施できる。例えば、アレイアンテナをアンテナ素子が2次元に配列されたものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】従来例1のレーダ装置の構成を説明する図である。
【図2】従来例1のレーダ装置における探知信号とアンテナ素子切り換えのタイミングを説明するタイミングチャートである。
【図3】従来例2のレーダ装置のアンテナアレイの配置を説明する図である。
【図4】アンテナアレイを狭い等間隔配置とした場合の方位探知性能を説明する図である。
【図5】アンテナアレイを広い等間隔配置とした場合の方位探知性能を説明する図である。
【図6】第1の実施形態のレーダ装置の構成を説明する図である。
【図7】第1の実施形態のレーダ装置における探知信号とアンテナ素子切り換えのタイミングを説明するタイミングチャートである。
【図8】第1の実施形態のレーダ装置における各チャンネルの探知信号について説明する図である。
【図9】第1の実施形態のレーダ装置における各タイミングでの探知信号について説明する図である。
【図10】実験に用いたアンテナアレイの構成を説明する図である。
【図11】実験結果を示す図である。
【図12】第2の実施形態のレーダ装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0086】
1−受信アンテナ
51−送信アンテナ
2,52,101A,102A,201A,201B−アンテナ素子
3,53,103A,103B−スイッチ回路
4,54,104−VCO
5,55,105−分岐回路
6,56,106−LNA
7,57,107−ミキサ
8,58,108−IFアンプ
9,59−信号処理回路
10,60−アンテナアレイ
50,100−レーダ装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の衝突防止用等に用いられるFM−CW方式のレーダ装置、特にアンテナアレイを用いたレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、FM−CW方式等を用いた自動車搭載型のレーダ装置が各種考案されている。
【0003】
特許文献1には、複数の送信用のアンテナ素子が第1の間隔で等間隔に配置され、複数の受信用のアンテナ素子が第2の間隔で等間隔に配置されたFM−CW方式のレーダ装置が開示されている。
【0004】
図1は特許文献1に係る従来例1のレーダ装置のブロック図である。このレーダ装置は、等間隔3dで配列された送信用のアンテナ素子102A〜102Cをスイッチ回路103Aで切り換えながら探知信号を送信する。また、等間隔dで配列された受信用のアンテナ素子101A〜101Cをスイッチ回路103Bで切り換えながら物標で反射した探知信号を受信する。(以下、送信用のアンテナ素子と受信用のアンテナ素子との組み合わせをチャンネルCHと称する。)このレーダ装置では、各チャンネルで受信する探知信号の受信位相差に基づいて物標方位角を探知する。
【0005】
図2はこの従来例1のレーダ装置における、探知信号の周波数変調のタイミングと各アンテナ素子の動作タイミングとの関係を示すタイミングチャートである。このレーダ装置では、探知信号の受信をアンテナ素子(RX)101Aにより行っている間に、アンテナ素子(TX)102A〜102Cを順に切り換えながら探知信号を送信する。次に、探知信号の受信をアンテナ素子(RX)101Bに切り換え、再びアンテナ素子(TX)102A〜102Cを順に切り換えながら探知信号を送信する。次に、探知信号の受信をアンテナ素子(RX)101Cに切り換え、再びアンテナ素子(TX)102A〜102Cを順に切り換えながら探知信号を送信する。
【0006】
この従来例1のレーダ装置では、探知信号の周波数変調の周期に同期してチャンネルを切り換え、探知信号の1周期分の送受信を行っていた。この場合、各アンテナ素子は探知信号の周波数変調周期の整数倍だけ時間差を持って動作する。
【0007】
物標が相対速度を持つ場合、アンテナ素子の動作切り換えの間に物標が移動してチャンネルCH1〜CH9の探知信号を反射する物標位置がチャンネルCH1〜CH9ごとに異なるものとなる。そこで従来例1のレーダ装置では、ビート信号のフーリエ変換により計測した物標の相対速度に基づいて物標の移動による誤差を補正し、物標の方位を高精度に探知していた。
【0008】
また、レーダ装置に用いられるアンテナアレイとして、複数のアンテナ素子を不等間隔に配列したアンテナアレイが非特許文献2に開示されている。このような複数のアンテナ素子を不等間隔に配列したアンテナアレイは、探知範囲に所謂グレーティングローブが発生せず、偽像を観測することが無いことで知られている。
【0009】
図3は非特許文献2に係る従来例2のアンテナアレイの配置図である。従来例2のアンテナアレイは、5つのアンテナ素子201A〜201E、を1次元に配列したものである。アンテナ素子201Aとアンテナ素子201B〜201Eとの組み合わせの配置間隔は順に8×λ/2,15×λ/2,19×λ/2,26×λ/2となるようにされている。
【特許文献1】特許第3368874号公報
【非特許文献2】中澤利之他 「不等間隔アレーを用いた方位推定」電子情報通信学会論文誌B2000/6 Vol.J83−B No.6 pp.845−851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来例1のレーダ装置に用いられているアンテナアレイでは、複数のアンテナ素子が等間隔で配置される。このようなアンテナアレイでは、アンテナ素子の配置間隔が探知信号の半波長よりも短いと、探知範囲にグレーティングローブが発生せず偽像を検知することがないという利点がある。一方、アンテナは一般的に開口面が大きいほど角度分解能が向上する。従ってアンテナアレイにおいてアンテナ素子数が一定の場合、アンテナ素子の配置間隔を大きくすればするほど角度分解能が向上する。従って、アンテナ素子の配置間隔が探知信号の半波長よりも短いとレーダ装置の角度分解能が著しく低下し、略同一方位の複数の物標のそれぞれのスペクトラムピークを分離できないことがあった。
【0011】
例えば、−5°,−2°,15°の3方位に物標が存在する環境下で方位探知を行う場合、図4(A)に示すように複数のアンテナ素子を比較的短い間隔で配置すると、同図(B)に示すように15°方位の物標によるピークスペクトラム強度は他の物標によるピークスペクトラム強度から分離できても、−5°および−2°の方位の物標によるピークスペクトラム強度が重なり、−5°および−2°の方位の物標それぞれのスペクトラムピークを分離できず、−5°および−2°の方位の物標を1つの物標としてしか観測できないことがあった。
【0012】
ここで、アンテナ素子の配置間隔を探知信号の半波長よりも長くし、アンテナアレイの開口面を大きくすることで、レーダ装置の角度分解能を高め、略同一方位にある複数の物標であっても複数の物標それぞれのスペクトラムピークを分離することが可能になる。しかしながらその場合、アンテナアレイの探知範囲に所謂グレーティングローブが発生し、実際の物標とは異なる位置に偽像を観測してしまうことがあった。
【0013】
例えば、−5°,−2°,15°の3方位に物標が存在する環境下で方位探知を行う場合、図5(A)に示すように複数のアンテナ素子を比較的広い間隔で配置すると、−5°,−2°,15°それぞれの方位の物標のスペクトラムピークを分離して、それぞれの物標の方位を観測できる。しかしながら、グレーティングローブが生じ、この例では実際の物標の方位とは異なる−14°および24°,27°の方位に偽像を観測してしまうことがあった。
【0014】
このように従来例1のレーダ装置では、高い角度分解能とグレーティングローブの抑制とを同時に満足することが困難であった。そこで、従来例1のレーダ装置でも従来例2のように複数のアンテナ素子を不等間隔に配列することで、グレーティングローブを抑制することが考えられる。
【0015】
しかしながら、複数のアンテナ素子を切り換えて動作させるレーダ装置で複数のアンテナ素子を不等間隔に配列すると、グレーティングローブは抑制できるが、アンテナを切り換えている間に物標が移動することによる探知信号の位相差の補正が困難になり、レーダ装置の角度分解能が著しく低下し、物標の方位を高精度に探知することが困難になる問題が生じる。
【0016】
そこで本発明は、上述の問題を解決することを目的とし、探知範囲にグレーティングローブが発生せず、角度分解能が高いレーダ装置の提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明のレーダ装置は、複数のアンテナ素子を配列したアンテナアレイと、前記アンテナアレイのアンテナ素子を切り換えて選択するアンテナ選択手段と、を備え、前記アンテナ選択手段が選択したアンテナ素子から探知信号の送信または受信を行うレーダ装置において、前記アンテナアレイは、いずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔と他のいずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔とが異なるものであり、前記アンテナ選択手段は、アンテナ素子を切り換える時間間隔の比を、切り換えるアンテナ素子間の配置間隔の比と等しくしたものである。
【0018】
この構成では、アンテナ選択手段によりチャンネルを切り換える時間間隔の比を、切り換えるアンテナ素子間の配置間隔の比と等しくするので、アンテナアレイを構成するアンテナ素子の配置間隔が不等間隔であっても、アンテナ素子の切り換えの間の物標の移動によって生じる探知信号の受信位相変化が、切り換えられるアンテナ素子の配置間隔に応じたものとなる。したがって、各チャンネルの探知信号の受信位相差の比がアンテナ素子の配置間隔の比に応じたものになる。これにより、複数のアンテナ素子を切り換えて動作させるレーダ装置で複数のアンテナ素子を不等間隔に配列した場合であっても、アンテナ素子の配置間隔の比に基づいてデータの補正を行うことで、高い分解能で物標の方位を探知することが可能になる。
【0019】
また、この発明の前記アンテナアレイは、前記探知信号の波長をλ、前記探知信号から探知可能な方位角の範囲をΔθとしたときの、各アンテナ素子の配置間隔の最大公約数dが、
【0020】
【数1】
を満足するものである。
【0021】
この構成では、各アンテナ素子の配置間隔が最大公約数dの整数倍であれば、方位角探知範囲にグレーティングローブが発生しない。したがって、偽像が生じない。
【0022】
また、この発明のレーダ装置は、前記アンテナアレイの各アンテナ素子を介して送信または受信した探知信号の位相差から、物標の方位を探知する方位探知手段を備える。
【0023】
この構成では、物標が相対速度を持たないものであれば、高い角度分解能で物標の方位を正確に探知できる。また、物標が相対速度をもっていても、一定の方位ずれが生じた状態ではあるが、高い角度分解能で物標の方位を探知できる。
【0024】
また、この発明のレーダ装置は、前記物標の相対速度を検知する速度検知手段と、前記速度検知手段により検知した相対速度から前記方位探知手段により探知した方位の補正を行う方位補正手段と、を備える。
【0025】
この構成では、別途物標の相対速度を検知することにより、その相対速度に基づいて物標の方位角の補正が可能になる。したがって、相対速度を持つ物標からであっても、高い角度分解能で物標の方位を正確に探知できる。
【発明の効果】
【0026】
この発明のレーダ装置は、高い角度分解能を持ち、アンテナアレイの探知領域にグレーティングローブが発生しないものである。したがって高い分解能で物標の方位を高精度に探知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置について、図を参照して説明する。
図6は、本実施形態のレーダ装置50の主要部の構成を示すブロック図である。
本実施形態のレーダ装置50は、受信アンテナ1、送信用のアンテナアレイ10、スイッチ回路3、電圧制御発振器(VCO)4、分岐回路5、LNA6、ミキサ7、IFアンプ8、信号処理回路9を備える。
【0028】
アンテナアレイ10は、同一の指向性パターンを有するアンテナ素子2A〜2Eを一直線上に順に配列した送信用のものであり、アンテナ素子2A〜2Eは、アンテナの正面方向が一致するように、また、アンテナ素子2A〜2Eの間隔が不等間隔になるように配置したものである。本実施形態ではアンテナ素子2A−2B間の配置間隔を送信する探知信号の波長λと等しくし、各アンテナ素子2A〜2Eの隣接する間隔の比が「1:1:3:5」となるように配置している。
【0029】
このアンテナ素子2A〜2Eは、スイッチ回路3により順に選択され、選択されたアンテナ素子は、探知信号を外部の探知領域に放射(送信)する。なお、以下の説明ではアンテナ素子2A〜2Eを介して送信する探知信号をそれぞれチャンネルCH1〜CH5の探知信号とする。
【0030】
このアンテナアレイ10は、例えば、マイクロストリップアンテナアレイや、導波管スロットアンテナ等により実現する。マイクロストリップアンテナアレイの場合を具体的に説明すると、誘電体基板上に等間隔に配列された複数のパッチアンテナをマイクロストリップラインにより接続したものを1単位とし、この単位アンテナを前記間隔を隔てて並列に配置したものである。単位アンテナはそれぞれアンテナ素子2A〜2Eに対応し、それぞれの単位アンテナはスイッチ回路3を介して送信機に接続される。
【0031】
スイッチ回路3は、信号処理回路9からの切り換え信号に応じてVCO4とアンテナ素子2A〜2Eを接続し、VCO4から出力された探知信号をアンテナ素子2A〜2Eに与える。
【0032】
VCO4は、信号処理回路9から与えられる変調電圧に応じて、例えば、76GHz帯の探知信号を発生する。この際、VCO4には、スイッチ回路3が信号処理回路9から与えられる切り換え信号に同期したタイミングで、三角波状に電圧値が変動する変調電圧が与えられる。VCO4は、この変調電圧に応じて、前記タイミングから所定周波数範囲内で三角波状に周波数変調する探知信号を発生する。
【0033】
分岐回路5は、VCO4から出力された探知信号を、スイッチ回路3に与えるとともに、その一部をローカル信号として、ミキサ7に与える。
【0034】
また、受信アンテナ1は、受信時に探知領域内の物標に反射して得られる探知信号を受信する。受信アンテナ1はその探知信号をLNA6に与える。
【0035】
LNA6は、入力された探知信号を増幅してミキサ7に出力し、ミキサ7は、LNA6から入力される探知信号と分岐回路5から入力されるローカル信号とをミキシングして、IFビート信号を生成する。IFアンプ8は、IFビート信号を増幅して信号処理回路9に出力する。
【0036】
信号処理回路9は、入力されるIFビート信号に基づいて、既知のFM−CW方式の演算を用い、IFビート信号をフーリエ変換することで、本装置から探知信号を反射した物標までの距離と、本装置と探知信号を反射した物標との相対速度とを算出する。また、信号処理回路9は、そのピークとなる周波数成分から、Beamformer法やCapon法などの到来方位推定アルゴリズムを用いて到来方位(=物標の方位)を算出する。到来方位推定アルゴリズムについては後述する。
【0037】
以上により本実施形態のレーダ装置50を構成する。
【0038】
ここで、各アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔について詳細に説明する。
各アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔は、間隔の最大公約数をdとしたときに、アンテナ素子2A−2B間がd、アンテナ素子2B−2C間がd、アンテナ素子2C−2D間が3d、アンテナ素子2D−2E間が5dとなるように配置し、アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔の比を「1:1:3:5」としている。なお、ここでの間隔の最大公約数dは、送信する探知信号の波長λと等しくしている。この配置間隔は、−30°〜30°の方位角範囲においてグレーティングローブが発生しない条件を満たすものである。この条件は、探知信号の波長をλ、前記探知信号から探知可能な方位角の範囲をΔθとしたときの、各アンテナ素子2A〜2Eの隣接する間隔の最大公約数dが、
【0039】
【数2】
を満足するというものである。
【0040】
一般に、等間隔に配置されたアンテナアレイでのグレーティングローブが生じる角度 θgmは、物標が存在する本来の方位角をθ0、アンテナ素子の間隔をdとした場合、
【0041】
【数3】
の関係を満足する。ここで、探知可能な方位角の範囲に対して、
【0042】
【数4】
という制限を加える。このとき、式(2)および式(3)から、
【0043】
【数5】
が成り立つ。これは、グレーティングローブが、探知可能な方位角の範囲内には生じないことを意味する。つまり、探知可能な方位角範囲内の任意の角度θ0に対して、
【0044】
【数6】
が成り立つようにアンテナ素子の間隔dを決定すれば、探知可能な方位角の範囲内にグレーティングローブが生じない。
探知可能な方位角の範囲を−Δθ/2〜Δθ/2とすると、
【0045】
【数7】
であるから、
【0046】
【数8】
を満たすようにアンテナ素子の間隔を決定すればよいことになる。
【0047】
例えば探知範囲Δθをアンテナ正面方向から±20°とする場合、この探知範囲内でグレーティングローブが生じないようにするには、上式で探知範囲Δθに40°を代入するとよい。この場合、アンテナ素子の配置間隔dは1.46λ以下である。
【0048】
本実施形態のレーダ装置50では、アンテナ素子の配置間隔の最大公約数dを上記条件の配置間隔dよりも小さく設定することで、探知範囲内にグレーティングローブが発生しないよう定めたものである。
【0049】
このように配置したアンテナ素子2A〜2Eを用いることで、このレーダ装置ではグレーティングローブが発生しない。なお、非特許文献2などに記載された他の条件に基づいてアンテナ素子の配置間隔を設定しても、本発明は好適に実施できる。
【0050】
ここで、本実施形態の構成における、探知信号の周波数変調のタイミングと各アンテナ素子の動作のタイミングの関係を図7にタイミングチャートとして示す。
【0051】
信号処理回路9は、切り換え信号によるアンテナの切り換え間隔を、アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔に従って切り換える。本実施形態では、アンテナ素子2A〜2Eの配置間隔の比を「1:1:3:5」となるように配置しているので、切り換え信号の出力間隔も「1:1:3:5」となるように出力する。
【0052】
即ち、アンテナ素子2Aを選択している時間をTとしたときに、スイッチ回路3はこの切り換え信号に従って、アンテナ素子2Aを時間T選択し、次にアンテナ素子2Bを時間T選択し、次にアンテナ素子2Cを時間3T選択し、次にアンテナ素子2Dを時間5T選択し、最後にアンテナ素子2Eを選択する。
【0053】
なお、上記はアンテナ素子の切り換えの一例を示したものである。本実施例の効果を得るためには基本的に測定間隔をアンテナ素子の配置間隔に比例させればよく、上記した例のようにアンテナ素子2Cを時間3T選択することは、必ずしも必要ではない。
【0054】
また、VCO4は、各アンテナ素子2A〜2Eが選択されたタイミングから三角波状の周波数変調を行う。この周波数の変調時間は、各アンテナ素子2A〜2E選択される最も短い時間Tより更に短いものである。まず、アンテナ素子2Aが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、次にアンテナ素子2Aが選択されてから時間T経過後のアンテナ素子2Bが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、次にアンテナ素子2Bが選択されてから時間T経過後のアンテナ素子2Cが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、次にアンテナ素子2Cが選択されてから時間3T経過後のアンテナ素子2Dが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行い、最後にアンテナ素子2Dが選択されてから時間5T経過後のアンテナ素子2Eが選択されるタイミングから三角波状の周波数変調を行う。このようなサイクルを繰り返すことで、VCO4は探知信号を発生する。
【0055】
物標が静止している場合、図8に示すように各アンテナ素子2A〜2Eが前述の間隔で配置されていることにより、各アンテナ素子2A〜2Eを介して送信される各チャンネルCH1〜CH5の探知信号は、受信位相差が「2πd(sinθ)/λ」(=l)の整数倍として受信される。なお、λは探知信号の波長であり、θは探知信号の入射角、すなわち、アンテナ正面方向に対して探知信号が成す角である。
【0056】
具体的には、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH2の探知信号は受信位相差「2πd(sinθ)/λ」(=l)で受信される。また、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH3の探知信号は受信位相差「4πd(sinθ)/λ」(=2l)で受信される。また、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH4の探知信号は受信位相差「10πd(sinθ)/λ」(=5l)で受信される。また、チャンネルCH1の探知信号に対してチャンネルCH5の探知信号は受信位相差「20πd(sinθ)/λ」(=10l)で受信される。
【0057】
このようにチャンネルCH1〜CH5それぞれの探知信号の受信位相差は、物標が静止している場合、受信位相差lの整数倍となり、その比は、「1:2:5:10」と成る。
【0058】
ここで、図9(A)および図9(B)を用いて、物標が移動している(相対速度をもつ)場合に、本実施形態のレーダ装置のように不等間隔の時間に探知信号を送信する際の受信位相差と、比較対象として等間隔の時間に探知信号を送信する際の受信位相差との比較を行う。探知信号の到来方位に物標が相対速度Vをもつ場合、同図(A)、(B)いずれのタイミングで探知信号を送信しても、タイミングごとに物標の位置が変化する。しかしながら同図(B)に示す比較対象のように時間Tで等間隔に探知信号を送信する場合、それぞれの時間Tには物標が距離VTだけ探知信号の方位に進み、その位置で探知信号を反射する。一方、同図(A)に示す本実施形態のように各アンテナ素子2A〜2Eの切り換えのタイミングが、前述のように不均一なタイミングである場合、そのタイミングの比に従った距離だけ物標が探知信号の方位に進み、その位置で探知信号を反射する。
【0059】
したがって、探知信号の到来方位に物標が相対速度Vをもつ場合、チャンネルCH1〜CH5それぞれの探知信号は、送信されるタイミングに従った位置で反射されたものとなり、タイミングにより異なる受信位相で受信される。この受信位相差は、各チャンネルの探知信号における物標までの距離の差に比例したものとなり、同図(A)に示す本実施形態のレーダ装置における受信位相差の比は、「1:2:5:10」と成る。一方、同図(B)に示す比較対象の場合の受信位相差の比は、「1:1:1:1」と成る。
【0060】
これにより本実施形態のレーダ装置では、アンテナアレイの各アンテナ素子2A〜2Eを介した探知信号(各チャンネルCH1〜CH5の探知信号)が、アンテナ素子2A〜2Eの位置の違いによる受信位相差と、物標の移動によって生じる反射位置の違いによる受信位相差とを合成した受信位相差で受信される。本実施形態のレーダ装置では、アンテナ素子2A〜2Eの位置の違いによる受信位相差の比も、物標の移動によって生じる反射位置の違いによる受信位相差の比も、両者ともに「1:2:5:10」と成る。したがって、各アンテナ素子の受信位相はアンテナ素子の間隔に比例し、物標の方位に対する各アンテナ素子の受信位相の変化はアンテナ素子の配置間隔に比例した不等位相間隔となる。
【0061】
この不等位相間隔の受信位相に基づいて、本実施形態のレーダ装置では、物標からの反射信号の到来方位推定を行う。
ここで、Beamformer法による到来方位推定アルゴリズムについて説明する。
アンテナアレイの出力電力Poutは次式で求められる。
【0062】
【数9】
Wはウェイトベクトルであり、Rxxは相関行列であり、X(t)は複素入力ベクトルである。Eはアンサンブル平均を求める操作を表す。添え字Hは複素共役を表す。
【0063】
Beamformer法による到来方位推定アルゴリズムでは、上記ウェイトベクトルWを次式のように設定することでビームを走査し、アレーの出力電力Poutのピークから到来方位を求める。
【0064】
【数10】
ここで、添え字Tは転置を表す。また、dkは1番目のアンテナ素子からk番目のアンテナ素子までの間隔を表す。
このように、到来方位推定アルゴリズムにおけるウェイトベクトルWは、間隔dkを定数にもつθの関数となる。
【0065】
したがって、本実施形態のレーダ装置のように各アンテナ素子の受信位相の変化が間隔dkに比例した不等位相間隔であっても、正しい角度スペクトラムが得られる。(ただし、物標が相対速度をもつ場合、方位角のずれが生じる。)
なお、Capon法の場合は、ウェイトベクトルがθとRxx−1の関数となるが、Beamformer法と同様に出力電力Poutが求められ、正しい角度スペクトラムが得られる。
【0066】
このように本発明によれば、物標が相対速度を持ち、移動することにより生じる受信位相差の変化は、アンテナ素子の配置位置の違いによる受信位相差と等価となり、本来の方位角による受信位相差に、配置間隔の比と同じ比に設定された相対速度による受信位相差が合成される結果、物標の方位は、本来の方位角に加えて相対速度に比例したずれを伴って検出される。
【0067】
なお、この相対速度に比例したずれは、別途相対速度を求めれば補正が可能である。例えば相対速度の求め方としては、FM−CW方式のレーダ装置における探知信号の上り/下り各々の周波数変調区間で現れるピーク周波数差から得られるドップラシフト分、あるいは過去の検出結果の履歴をトレースして得られる一定時間あたりの距離変化、またはアンテナを順次切り換えていき再度同じアンテナを選択した際の前回との受信位相差等、様々なものを用いて算出でき、どのような算出方法を用いてもよい。また、特許文献1に記載された方法であっても良い。
【0068】
以上のように、本実施形態のレーダ装置は、アンテナ素子の配置間隔とその切り換え時間間隔を不等間隔とし、アンテナの開口面を拡大することによって高い角度分解能を実現し、また、アンテナアレイの探知領域にグレーティングローブが発生しない。したがって本実施形態のレーダ装置によれば物標の方位を高精度に探知できる。
【0069】
ここで、本実施形態のレーダ装置により相対速度を持つ物標の方位探知を行った実験結果について説明する。ここでは本実施形態のレーダ装置との比較対象として、不等間隔に配置したアンテナ素子を切り換える時間間隔を等間隔にしたレーダ装置により物標の方位探知を行った実験結果も示す。
【0070】
図10(A)に示すように両実験に用いたアンテナアレイは各アンテナ素子が「1:1:3:5」の配置間隔であり、最小間隔が探知信号の波長λに等しいものである。実験1は本実施形態のレーダ装置を用いたものであり、図10(B)に示すように「1:1:3:5」の時間間隔で各アンテナ素子の切換を行った。また実験2は比較対象のレーダ装置を用いたものであり、図10(B)に示す「1:1:1:1」の時間間隔で各アンテナ素子の切換を行った。なお、ここで示す各実験は、−5°,−2°,15°の3方位に物標が存在する環境下で行った。また、Capon法を用いて到来方位推定を行った結果である。
【0071】
実験1と実験2とによる実験結果を図11に示す。本実施形態のレーダ装置により物標の方位探知を行った実験結果は同図(A)に示す。また、比較対象のレーダ装置により物標の方位探知を行った実験結果は同図(B)に示す。
【0072】
本実施形態のレーダ装置を用いた実験1によれば、一定の方位ずれを持った状態ではあるものの3方位のスペクトラムピークが正しく得られる。この方位ずれは、既に述べたよう、別途物標の相対速度を求めれば容易に補正可能であり、問題とならない。
【0073】
ところが比較対象のレーダ装置を用いた実験2によれば、スペクトラムピークがはっきりと現れない。特に近接した方位である−5°,−2°の方位の物標からのスペクトラムピークを分離できず、これらの方位のスペクトラムピークが正しく得られない。
【0074】
このような比較対象のレーダ装置においてスペクトラムピークを得ることができない問題は、この比較対象のレーダ装置では、物標の方位に依存した受信位相の変化はアンテナの間隔に比例して不等間隔で生じるのに対し、物標の相対速度に依存した受信位相変化は、各アンテナ素子を選択する時間間隔に比例して一定間隔で生じるためであり、両者の受信位相変化が合成された状態として得られる探知信号では、到来方位推定アルゴリズムが正しい結果を算出できない。
【0075】
一方、本実施形態のレーダ装置では、方位に依存した受信位相の変化と、切り換え時間差に依存した受信位相の変化が各アンテナ素子で同じ比率となるようにするために、計測時間間隔をアンテナの配置間隔に比例する時間間隔に設定する。したがって各アンテナ素子間で、速度に依存した受信位相の変化は、方位角に依存した受信位相の変化と同じ比率になり、両者の受信位相変化が合成された状態として得られる探知信号から、到来方位推定アルゴリズムが正しい結果を算出できる。
【0076】
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置について、図を参照して説明する。
図12は、本実施形態のレーダ装置100の主要部の構成を示すブロック図である。
【0077】
本実施形態のレーダ装置100は、受信用のアンテナアレイ60、送信用アンテナ51、スイッチ回路53、電圧制御発振器(VCO)54、分岐回路55、LNA56、ミキサ57、IFアンプ58、信号処理回路59を備える。
【0078】
このレーダ装置100は、受信用のアンテナとしてアンテナアレイ60を用いる点で第1の実施形態と異なる。
【0079】
アンテナアレイ60は、同一の指向性パターンを有するアンテナ素子52A〜52Eを一直線上に順に配列した受信用のものであり、アンテナ素子52A〜52Eは、アンテナの正面方向が一致するように、また、アンテナ素子52A〜52Eの間隔が不等間隔になるように配置したものである。本実施形態ではアンテナ素子52A−52B間の配置間隔を送信する探知信号の波長λと等しくし、各アンテナ素子52A〜52Eの隣接する間隔の比が「1:1:3:5」となるように配置している。
【0080】
このアンテナ素子52A〜52Eは、スイッチ回路53により順に「1:1:3:5」の時間間隔で選択され、選択されたアンテナ素子は、物標で反射した探知信号を受信する。
【0081】
スイッチ回路53は、信号処理回路59からの切り換え信号に応じてアンテナ素子52A〜52EとLNA56を接続し、アンテナ素子52A〜52Eで受信した探知信号をLNA56に与える。
【0082】
分岐回路55は、VCO54から出力された探知信号を、送信アンテナ51に与えるとともに、その一部をローカル信号として、ミキサ57に与える。
【0083】
また、送信アンテナ51は、分岐回路55から入力された探知信号を送信する
以上により本実施形態のレーダ装置100を構成する。本実施形態のレーダ装置100も第1の実施形態のレーダ装置と同様にアンテナ素子の配置間隔とその切り換え時間間隔を不等間隔とし、アンテナの開口面を拡大することによって高い角度分解能を実現し、また、アンテナアレイの探知領域にグレーティングローブが発生しない。したがって本実施形態のレーダ装置によれば物標の方位を高精度に探知できる。
【0084】
なお、以上の実施形態で示した以外にも多様な構成に本発明は実施できる。例えば、アレイアンテナをアンテナ素子が2次元に配列されたものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】従来例1のレーダ装置の構成を説明する図である。
【図2】従来例1のレーダ装置における探知信号とアンテナ素子切り換えのタイミングを説明するタイミングチャートである。
【図3】従来例2のレーダ装置のアンテナアレイの配置を説明する図である。
【図4】アンテナアレイを狭い等間隔配置とした場合の方位探知性能を説明する図である。
【図5】アンテナアレイを広い等間隔配置とした場合の方位探知性能を説明する図である。
【図6】第1の実施形態のレーダ装置の構成を説明する図である。
【図7】第1の実施形態のレーダ装置における探知信号とアンテナ素子切り換えのタイミングを説明するタイミングチャートである。
【図8】第1の実施形態のレーダ装置における各チャンネルの探知信号について説明する図である。
【図9】第1の実施形態のレーダ装置における各タイミングでの探知信号について説明する図である。
【図10】実験に用いたアンテナアレイの構成を説明する図である。
【図11】実験結果を示す図である。
【図12】第2の実施形態のレーダ装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0086】
1−受信アンテナ
51−送信アンテナ
2,52,101A,102A,201A,201B−アンテナ素子
3,53,103A,103B−スイッチ回路
4,54,104−VCO
5,55,105−分岐回路
6,56,106−LNA
7,57,107−ミキサ
8,58,108−IFアンプ
9,59−信号処理回路
10,60−アンテナアレイ
50,100−レーダ装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を配列したアンテナアレイと、前記アンテナアレイのアンテナ素子を切り換えて選択するアンテナ選択手段と、を備え、前記アンテナ選択手段が選択したアンテナ素子から探知信号の送信または受信を行うレーダ装置において、
前記アンテナアレイは、いずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔と他のいずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔とが異なるものであり、
前記アンテナ選択手段は、アンテナ素子を切り換える時間間隔の比を、切り換えるアンテナ素子間の配置間隔の比と等しくしたものであるレーダ装置。
【請求項2】
前記アンテナアレイは、前記探知信号の波長をλ、前記探知信号から探知可能な方位角の範囲をΔθとしたときの、各アンテナ素子の配置間隔の最大公約数dが、
【数1】
を満足するものである請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記アンテナアレイの各アンテナ素子を介して送信または受信した各探知信号の受信位相差から、物標の方位を探知する方位探知手段を備える請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記物標の相対速度を検知する速度検知手段と、前記速度検知手段により検知した相対速度から前記方位探知手段により探知した方位の補正を行う方位補正手段と、を備える請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項1】
複数のアンテナ素子を配列したアンテナアレイと、前記アンテナアレイのアンテナ素子を切り換えて選択するアンテナ選択手段と、を備え、前記アンテナ選択手段が選択したアンテナ素子から探知信号の送信または受信を行うレーダ装置において、
前記アンテナアレイは、いずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔と他のいずれかの隣接するアンテナ素子間の配置間隔とが異なるものであり、
前記アンテナ選択手段は、アンテナ素子を切り換える時間間隔の比を、切り換えるアンテナ素子間の配置間隔の比と等しくしたものであるレーダ装置。
【請求項2】
前記アンテナアレイは、前記探知信号の波長をλ、前記探知信号から探知可能な方位角の範囲をΔθとしたときの、各アンテナ素子の配置間隔の最大公約数dが、
【数1】
を満足するものである請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記アンテナアレイの各アンテナ素子を介して送信または受信した各探知信号の受信位相差から、物標の方位を探知する方位探知手段を備える請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記物標の相対速度を検知する速度検知手段と、前記速度検知手段により検知した相対速度から前記方位探知手段により探知した方位の補正を行う方位補正手段と、を備える請求項3に記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−333656(P2007−333656A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168102(P2006−168102)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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