説明

レーダ装置

【課題】励起波の揺らぎが変化しても、励起波と変調波との同期関係を保ち、充分な送信波を出力できるレーダ装置を提案する。
【解決手段】周期的に繰り返される各送信周期のそれぞれにおいて、送信波を送信するレーダ装置であって、さらにマスタータイミング制御回路を備え、前記マスタータイミング制御回路は、n番目(nは正の整数)の送信周期について、基準タイミングと励起波との間の経過時間を演算し、また、(n+1)番目の送信周期について、励起波と変調波が、互いに重なった所定の同期関係を保つように、n番目の送信周期における前記経過時間に応じて、励起トリガ信号の発生タイミングを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周期的に繰り返し与えられる各送信周期のそれぞれにおいて、送信波を送信するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置として、周期的に繰り返される各送信周期のそれぞれにおいて、送信波を送信するレーダ装置が知られている。この種のレーダ装置は、目標に向けて前記送信波を繰り返し放射し、目標で反射された反射波を繰り返し受信することにより、目標までの距離の変化を認識し、また目標を追尾することができる。
【0003】
下記特許文献には、目標までの距離が、送信波の揺らぎに依存して誤認されるのを防止するために、送信波を受けて受信部に受信トリガ信号を供給するレーダ装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−208832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この種のレーダ装置では、送信出力部に励起波と変調波とが供給され、これらの励起波と変調波とが互いに重なった同期関係にあるときに、送信出力部が送信波を出力するように構成されるので、例えば励起波の揺らぎが変化し、励起波と変調波との同期関係が崩れると、送信波が低下し、充分な送信波を出力できない問題がある。
【0006】
この発明は、このような問題を改善することのできるレーダ装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるレーダ装置は、励起トリガ信号に基づき励起波を発生する送信励起部、変調トリガ信号に基づき変調波を発生する送信変調部、および前記励起波と変調波を受けそれらが重なった同期関係にあるときに送信波を出力する送信出力部を備え、周期的に繰り返される各送信周期のそれぞれにおいて、前記送信波を送信するレーダ装置であって、さらにマスタータイミング制御回路を備え、前記マスタータイミング制御回路は、n番目(nは任意の正の整数)の送信周期について、基準タイミングと前記励起波との間の経過時間を演算し、また、(n+1)番目の送信周期について、前記励起波と変調波が前記同期関係を保つように、前記n番目の送信周期における前記経過時間に応じて、前記励起トリガ信号の発生タイミングを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によるレーダ装置では、マスタータイミング制御回路が、n番目(nは任意の正の整数)の送信周期について、その基準タイミングと前記励起波との間の経過時間を演算し、また、(n+1)番目の送信周期について、励起波と変調波が重なった同期関係を保つように、前記n番目の送信周期における前記経過時間に応じて、前記励起トリガ信号の発生タイミングを調整するので、例えばn番目の送信周期で励起波に揺らぎの変化が発生しても、(n+1)番目の送信周期では、励起波と変調波との同期関係を保つことができ、充分な送信波を出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下この発明のいくつかの実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明によるレーダ装置の実施の形態1を示すブロック図である。この実施の形態1のレーダ装置は、ライダー装置とも呼ばれるレーザレーダ装置である。この実施の形態1のレーザレーダ装置は、図1に示すように、送信励起部10と、送信変調部20と、送信出力部30と、送受切替部40と、望遠鏡50と、受信部60と、さらにマスタータイミング制御回路70を備えている。
【0011】
図1に示すレーザレーダ装置は、時間間隔tの送信周期Tを繰り返し、この各送信周期Tのそれぞれにおいて、望遠鏡50から送信波Wtを目標に向けて放射し、この送信波Wtが目標で反射された受信波Wrを望遠鏡50で受信し、受信部60で処理することにより、目標までの距離を算出し、また目標を追尾する機能を持つ。繰り返される送信周期Tのそれぞれの時間間隔tは、すべて同じとされる。
【0012】
送信励起部10は、光源部11と、発振部12と、Qスイッチ部13を有するレーザ共振部であり、各送信周期Tのそれぞれにおいて、励起波Wpを発生する。励起波Wpは、この実施の形態1ではレーザ光である。光源部11は発振部12に光結合され、またQスイッチ部13は発振部12に光結合され、このQスイッチ部13から励起波Wpを出力する。Qスイッチ部13には、マスタータイミング制御回路70から励起トリガ信号Spが供給される。この励起トリガ信号Spは、Qスイッチ部13に対するトリガパルス信号であり、電気信号である。この励起トリガ信号Spも、各送信周期Tのそれぞれにおいて、Qスイッチ部13に供給される。
【0013】
各送信周期Tのそれぞれにおいて、光源部11からの入力光により発振部12が励起状態となっている状態で、Qスイッチ部13に励起トリガ信号Spを与えると、発振部12が共振状態となり、発振部12が高出力のレーザ光を励起波Wpとして発生し、この励起波WpがQスイッチ部13を通じて出力される。発振部12の共振状態は、励起トリガ信号Spの消滅に伴ない基底状態に戻り、励起波Wpも消滅する。
【0014】
励起波Wpの具体例について説明する。実施の形態1では、送信周期Tは例えば4キロヘルツの繰り返し周波数を持つ。励起トリガ信号Spは、送信周期Tと同じ4キロヘルツの繰り返し周波数を持ち、各送信周期Tのそれぞれにおいて、Qスイッチ部13に供給される。励起トリガ信号Spのパルス幅は、各送信周期Tで一定とされ、この励起トリガ信号Spのパルス幅は1〜2マイクロ秒に設定される。励起波Wpは、例えば1ミクロンの波長を有し、その周波数は3テラヘルツである。この励起波Wpは、励起トリガ信号Spのパルス幅とほぼ等しいパルス幅の中で、1ミクロンの波長を持って、繰り返し発生される。
【0015】
送信変調部20は、光源部21と、変調部22と、増幅部23を有し、各送信周期Tのそれぞれにおいて、変調波Wmを発生する。変調波Wmも、この実施の形態1では、レーザ光である。光源部21は変調部22に光結合され、また変調部22は増幅部23に光結合され、この増幅部23から変調波Wmが出力される。変調部22には、マスタータイミング制御回路70から変調トリガ信号Smが供給される。この変調トリガ信号Smは、変調部22に対するトリガパルス信号であり、電気信号である。この変調トリガ信号Smも、各送信周期Tのそれぞれにおいて、変調部22に供給される。
【0016】
各送信周期Tのそれぞれにおいて、変調トリガ信号Smを変調部22に供給し、変調部22を駆動する。光源部21から出力されたレーザ光が、変調部22において、変調トリガ信号Smに基づきパルス状に変調され、この変調部22からのパルス状のレーザ光が増幅部23で増幅され、変調波Wmとして出力される。
【0017】
変調波Wmの具体例について説明する。変調トリガ信号Smは、送信周期Tと同じ4キロヘルツの繰り返し周波数で、各送信周期Tのそれぞれにおいて変調部22に供給される。変調トリガ信号Smのパルス幅は、各送信周期Tで一定とされ、この変調トリガ信号Smのパルス幅は1〜2マイクロ秒に設定される。変調波Wmは、例えば1.5ミクロンの波長を有し、その周波数は2テラヘルツである。この変調波Wmは、変調トリガ信号Smのパルス幅とほぼ等しいパルス幅の中で、1.5ミクロンの波長を持って、繰り返し発生される。
【0018】
各送信周期Tのそれぞれにおいて、送信出力部30は、送信励起部10から励起波Wpを受け、また送信変調部20から変調波Wmを受け、送信波Wtを出力する。実施の形態1では、送信出力部30はパラメトリック増幅器を用いて構成される。この送信出力部30は、励起波Wpと変調波Wmとが同期関係、具体的には、励起波Wpのパルス幅PWpと変調波Wmとが、時間軸上で重なって入力されたときに、送信波Wtを発生する。励起波Wpと変調波Wmとが、時間軸上で完全に重なれば、最大の送信波Wtが出力される。励起波Wpと変調波Wmとが、時間軸上で部分的に重なれば、低下した送信波Wtが発生する。もし、励起波Wpと変調波Wmとの同期関係がずれて、励起波Wpと変調波Wmとが、時間軸上で重ならないようになれば、送信波Wtは出力されない。
【0019】
送信波Wtは、変調波Wmを励起波Wpで増幅した結果として、送信出力部30から出力される。したがって、送信波Wtの送信波長は、変調波Wmの波長1.5ミクロンに等しく、これは光源部21で発生したレーザ光の波長に等しい。
【0020】
送受切替部40は、送信入力端41と、送受入出力端42と、受信出力端43を有する。送信入力端41は送信出力部30に光結合され、送受入出力端42は望遠鏡50に光結合され、また受信出力端43は、受信部60に光結合される。望遠鏡50は、アンテナと同様に機能し、各送信周期Tのそれぞれにおいて、送信出力部30からの送信波Wtを目標に向けて放射し、またこの送信波Wtに基づく受信波Wrを受信する。受信波Wrは、送受切替部40の送受入出力端42と受信出力端43を介して、受信部60に供給される。受信部60は、受信波Wrを電気信号に変換した上で、受信信号処理を行ない、目標までの距離を算出し、また目標を追尾するための追尾信号を発生する。
【0021】
マスタータイミング制御回路70は、この発明によるレーダ装置における特徴的な回路である。このマスタータイミング制御回路70は、n番目(nは任意の正の整数)の送信周期Tnについて、その基準タイミングt0と励起波Wtとの間の経過時間ttnを演算し、また、(n+1)番目の送信周期T(n+1)について、励起波Wpと変調波Wmが、互いに完全に重なった所定の同期関係を保つように、前記n番目の送信周期Tnにおける経過時間ttnに応じて、励起トリガ信号Spの発生タイミングを調整する。
【0022】
マスタータイミング制御回路70は、検波器71と、クロック信号発生回路72と、変調トリガ信号Smを発生する変調トリガ回路73と、励起トリガ信号Spを発生する励起トリガ回路74と、演算回路75と、同期調整回路76を含む。検波器71は、各送信周期Tのそれぞれにおいて、送信励起部10から出力される励起波Wpを受け、この励起波Wpを電気信号に変換し、励起出力信号Spoを発生する。クロック信号発生回路72は、所定周期のクロック信号Scを発生する。変調トリガ回路73は、クロック信号発生回路72からクロック信号Scを受け、各送信周期Tのそれぞれにおいて、その基準タイミングt0から所定の設定時間tsが経過したタイミングで、変調トリガ信号Smを発生する。設定時間tsは、クロック信号Scに基づいて設定され、各送信周期Tで一定であり、送信周期Tn、T(n+1)でも一定である。このように変調トリガ信号Smが、各送信周期Tのそれぞれで、基準タイミングt0から一定の設定時間tsの後に発生されることにより、各送信波Wtの送信タイミングも、各送信周期Tで一定となり、受信波Wrの受信処理を正確に行なうことができる。
【0023】
演算回路75は、検波器71から励起出力信号Spoを受け、クロック信号発生回路72からクロック信号Scを受ける。この演算回路75は、n番目の送信周期Tnについて、その基準タイミングt0から励起出力信号Spoが発生するまでの経過時間ttnをクロック信号Scに基づいて演算し、この経過時間ttnを表わす経過時間信号Sttを発生する。各送信周期Tでは、送信周期Tn、T(n+1)でも、それぞれのエンドタイミングでは、クロック信号Scによりリセットされる。
【0024】
同期調整回路76は、演算回路75から経過時間信号Sttを受け、クロック信号発生回路72からクロック信号Scを受け、また変調トリガ回路73から変調トリガ信号Smを受ける。この同期調整回路76は、(n+1)番目の送信周期T(n+1)について、励起波Wpと変調波Wmとが、互いに完全に重なった所定の同期間隔を保つように、その基準タイミングt0から励起トリガ信号Spを発生させるまでの調整時間ta(n+1)を、送信周期Tnにおける経過時間ttnに基づいて調整する。
【0025】
図2は、実施の形態1の動作説明用波形図であり、2つの連続するn番目(nは任意の正の整数)の送信周期Tnと、それに続く(n+1)番目の送信周期T(n+1)について、各部分の波形を示す。この図2に示す2つの送信周期Tn、T(n+1)は、各送信周期Tの中の任意の相連続する2つの送信周期に該当する。図2(a)は変調トリガ信号Smを、図2(b)は変調波Wmを、図2(c)は励起トリガ信号Spを、図2(d)はQスイッチ部13の動作波形を、図2(e)は励起波Wpを、図2(f)は励起出力信号Spoを、図2(g)は受信波Wrをそれぞれ示す。
【0026】
図2において、各送信周期T、具体的には、送信周期Tnと送信周期T(n+1)の各基準タイミングt0は、各送信周期Tのスタートタイミングである。前述の通り、各送信周期T、具体的には、送信周期Tn、T(n+1)の時間間隔tは、それぞれ互いに等しく、例えば250マイクロ秒とされる。変調トリガ信号Smは、図2(a)に示すように、送信周期Tn、T(n+1)の各基準タイミングt0から所定の設定時間tsを経過したタイミングで、変調トリガ回路73から変調部22に供給される。設定時間tsは、例えば15マイクロ秒で、各送信周期Tについて一定とされ、送信周期Tn、T(n+1)でも一定とされる。変調波Wmは、図2(b)に示すように、各送信周期T、具体的には、送信周期Tn、T(n+1)のそれぞれにおいて、変調トリガ信号Smから所定の遅延時間tmの後に、発生する。遅延時間tmは、変調部22および増幅部23における遅れ時間であり、各送信周期T、具体的には送信周期Tn、T(n+1)のそれぞれで互いに等しい固定値である。
【0027】
送信周期Tn、T(n+1)のそれぞれにおいて、基準タイミングt0から、トータル時間t1=ts+tmの経過後に、変調波Wmが発生する。この変調波Wmと励起波Wpとが時間軸上で完全に重なれば、送信波Wtは最も大きくなる。
【0028】
励起トリガ信号Spは、図2(c)に示すように、送信周期Tn、T(n+1)のそれぞれにおいて、その基準タイミングt0から調整時間tan、ta(n+1)の後に、Qスイッチ部13に供給される。Qスイッチ部13は、図2(d)に示すように、送信周期Tn、T(n+1)において、励起トリガ信号SpがQスイッチ部13に供給されてから所定の遅延時間tqの後に、動作する。この遅延期間tpは、各送信周期Tで一定であり、送信周期Tn、T(n+1)でも一定である。励起波Wpは、図2(e)に示すように、送信周期Tn、T(n+1)において、Qスイッチ部13の動作から、さらに、揺らぎ時間tbの後に発生する。この揺らぎ時間tbは、送信励起部10の発振の揺らぎであり、各送信周期Tで変動する値である。
【0029】
励起波Wpが変調波Wmと時間軸上で重なる期間に、送信出力部30から送信波Wtが出力される。励起出力信号Spoは、図2(f)に示すように、励起波Wpと同じタイミングで検波器71から出力される。
【0030】
演算回路75は、送信周期Tn、T(n+1)のそれぞれについて、基準タイミングt0から励起出力信号Spoが発生するまでの経過時間ttn、tt(n+1)を、クロック信号Scに基づいて演算し、これらの経過時間ttn、tt(n+1)を表わす経過時間信号Sttを発生する。送信周期Tnにおける経過時間ttnは、次の式(1)で表わすことができる。
ttn=tan+tq+tb (1)
【0031】
同期調整回路76は、送信周期Tnにおける経過時間ttnを表わす経過時間信号Sttに基づき、次の(2)式で表わされる調整時間値Δtを演算する。
Δt=ttn−ts−tm (2)
ttnは、演算回路75から供給される経過時間信号Sttによって与えられ、tsは、変調トリガ回路73から供給される変調トリガ信号Smによって与えられ、またtmは、固定値であり、同期調整回路76内で記憶される。
【0032】
この同期調整回路76によって演算された調整時間値Δtは、送信周期Tnに続く次の送信周期T(n+1)において、励起トリガ信号Spの発生タイミングを調整する。具体的には、送信周期T(n+1)において、図2(c)に示す調整時間ta(n+1)、すなわち基準タイミングt0と励起トリガ信号Spとの間の調整時間ta(n+1)が、次の(3)式にしたがって調整される。
ta(n+1)=ta−Δt (3)
【0033】
この同期調整回路76による調整時間ta(n+1)の調整に基づき、送信周期T(n+1)では、図2(b)に示す変調波Wmと、図2(e)に示す励起波Wpとがほぼ完全に重なり、最大の送信波Wtを送信することができる。
【0034】
図2では、送信周期Tnにおいて、揺らぎ時間tbが増大し、この揺らぎ時間tbの増大に伴なって、送信周期Tnにおける経過時間ttnが大きくなり、変調波Wmの終わりの部分に励起波Wpが重なるようになった場合を示すが、送信周期T(n+1)では、調整時間ta(n+1)の調整により、変調波Wmと励起波Wpがほぼ完全に重なるように、励起トリガ信号Spの発生タイミングが調整され、送信波Wtが最大となる。
【0035】
受信波Wrは、図2(g)に示すように、内部反射波Wr1と、目標からの目標反射波Wr2を含む。内部反射波Wr1は、望遠鏡50から放射された送信波Wtが、直接望遠鏡50の漏れ込む内部反射波と、送受切替部40において送信波Wtが直接受信出力端43に漏れ込む内部反射波を含む。受信部60は、内部反射波Wr1を除き、目標反射波Wr2を処理し、目標までの距離を算出し、また目標の追尾信号を発生する。
【0036】
以上のように、実施の形態1のレーザレーダ装置では、マスタータイミング制御回路70が、n番目(nは任意の正の整数)の送信周期について、その基準タイミングt0と励起波Wpとの間の経過時間を演算し、また、(n+1)番目の送信周期について、励起波Wpと変調波Wmが、互いにほぼ完全に重なった所定の同期関係を保つように、前記n番目の送信周期における前記経過時間に応じて、励起トリガ信号Spの発生タイミングを調整するので、例えばn番目の送信周期で励起波Wpに揺らぎが変化しても、(n+1)番目の送信周期では、励起波Wpと変調波Wmとの間に、それらがほぼ完全に重なった所定の同期関係を保つことができ、充分な送信波を出力することができる。
【0037】
なお、図2に送信周期Tnについて、n=1のとき、換言すれば、レーザレーダ装置の最初の送信周期T1では、その前に送信周期T0が存在しないため、その前の送信周期T0で、基準タイミングt0と励起波Wpとの間の経過時間を求めることができない。このため最初の送信周期T1では、調整時間ta1の調整を行なうことができず、変調波Wmと励起波Wpとを、所定の同期関係に制御することができないが、n=2以降のすべての送信周期Tでは、1つ前の送信周期Tnにおける前記経過時間に応じて、送信周期T(n+1)における励起トリガ信号Spの発生タイミングを調整するので、自動的に、変調波Wmと励起波Wpとが、互いにほぼ完全に重なった同期関係を保つことができる。最初の送信周期T1では、調整時間ta1は初期値として、変調波Wmと励起波Wpとが、少なくとも一部で重なるような値とされる。
【0038】
実施の形態2.
図3は、この発明によるレーダ装置に実施の形態2を示すブロック図であり、図4は実施の形態2の動作説明用波形図である。この実施の形態2のレーダ装置も、実施の形態1と同じレーザレーダ装置である。実施の形態2のレーザレーダ装置は、図3に示すように、実施の形態1におけるマスタータイミング制御回路70をマスタータイミング制御回路70Aに代えたものである。この実施の形態2におけるマスタータイミング制御回路70Aは、実施の形態1におけるマスタータイミング制御回路70に、さらに、受信トリガ回路77を追加したものである。その他においては、実施の形態2は実施の形態1と同じに構成される。図4の動作説明用波形図でも、図4(a)〜(g)の各波形は、図2(a)〜(g)と同じであり、図2に比較して、図4(h)(i)を追加したものとしている。
【0039】
受信トリガ回路77は、検波器71から励起出力信号Spoを受け、この励起出力信号Spoに基づき、図4(h)に示す受信トリガ信号Srを発生し、この受信トリガ信号Srを受信部60に供給する。この受信トリガ信号Srは電気パルス信号であり、受信波Wrを電気信号に変換した受信信号をゲートする。この受信トリガ信号Srは、図4(h)に示すように、励起出力信号Spoから所定遅れ時間trの後に発生される。この遅れ時間trは、各送信周期Tにおいて、一定の値であり、図4(h)に示すように、受信波Wrに含まれる内部反射波Wr1を除去し、目標反射波Wr2を通過させて出力する時間に設定される。目標反射波Wr2は、図4(i)に示すように、受信トリガ信号Srのパルス幅内で出力される。
【0040】
受信部60は、受信トリガ信号Srに基づいて、この受信トリガ信号Srの立ち上がり時点tr1から目標反射波Wr2が得られるまでの時間に基づいて、目標までの距離を算出する。受信トリガ信号Srの立ち上がり時点tr1は、励起出力信号Spoに基づいて決定されるので、励起送信部10の揺らぎ時間tbが変化しても、その影響を受けない。したがって、実施の形態2によれば、励起送信部10の揺らぎ時間tbの変化と関係なく、目標までの距離を、より正確に算出することができる。
【0041】
実施の形態3.
図5は、この発明によるレーダ装置の実施の形態3を示すブロック図である。この実施の形態3のレーダ装置は、クライストロンを用いて送信波Wtを発生するレーダである。この実施の形態3のレーダ装置は、送信励起部110と、送信変調部120と、送信出力部130と、送受切替部140と、アンテナ150と、受信部160と、マスタータイミング制御回路70Bを有する。
【0042】
図5に示すレーダ装置は、時間間隔tの送信周期Tを繰り返し、この各送信周期Tのそれぞれにおいて、アンテナ150から送信波Wtを目標に向けて放射し、この送信波Wtに基づく受信波Wrをアンテナ150で受信し、受信部160で処理することにより、目標までの距離を算出し、また目標を追尾する機能を持つ。繰り返される送信周期Tのそれぞれの時間間隔tは、すべて同じとされる。
【0043】
送信励起部110は、高圧電源部111を有し、各送信周期Tのそれぞれにおいて、励起波Wpを発生する。励起波Wpは、この実施の形態3では高圧励起電圧である。高圧電源部111には、マスタータイミング制御回路70Bから励起トリガ信号Spが供給される。この励起トリガ信号Spは、高圧電源部13に対するトリガパルス信号であり、電気信号である。この励起トリガ信号Spも、各送信周期Tのそれぞれにおいて、高圧電源部111に供給される。
【0044】
各送信周期Tのそれぞれにおいて、高圧電源部111に励起トリガ信号Spを与えると、高圧電源部111は、高圧励起電圧を励起波Wpとして発生する。励起波Wpは、励起トリガ信号Spの消滅に伴ない消滅する。
【0045】
実施の形態3の励起波Wpの具体例について説明する。実施の形態3において、送信周期Tは、例えば1キロヘルツの繰り返し周波数を持つ。励起トリガ信号Spは、送信周期Tと同じ1キロヘルツの繰り返し周波数を持ち、各送信周期Tのそれぞれにおいて、高圧電源部111に供給される。励起トリガ信号Spのパルス幅は、各送信周期Tで一定とされ、この励起トリガ信号Spのパルス幅は、例えば1マイクロ秒に設定される。励起波Wpは、励起トリガ信号Spのパルス幅とほぼ等しいパルス幅を持って、1キロヘルツの周波数で繰り返し発生される。
【0046】
送信変調部120は、高周波電源121と、変調部122とを有し、各送信周期Tのそれぞれにおいて、変調波Wmを発生する。変調波Wmは、この実施の形態3では、高周波電気信号である。高周波電源121は、変調部122に高周波的に結合され、この変調部122から変調波Wmが出力される。変調部122には、変調トリガ信号Smが供給される。この変調トリガ信号Smは、変調部122に対するトリガパルス信号であり、電気信号である。この変調トリガ信号Smも、各送信周期Tのそれぞれにおいて、変調部122に供給される。
【0047】
各送信周期Tのそれぞれにおいて、変調トリガ信号Smを変調部122に供給し、この変調トリガ信号Smにより、高周波電源121からの高周波信号を変調する。高周波電源121から出力された高周波信号が、変調部122において、変調トリガ信号Smに基づきパルス状に変調され、この変調部122からのパルス状の変調波が変調波Wmとして出力される。
【0048】
実施の形態3における変調波Wmの具体例について説明する。変調トリガ信号Smは、送信周期Tと同じ1キロヘルツの繰り返し周波数で、各送信周期Tのそれぞれにおいて変調部122に供給される。変調トリガ信号Smのパルス幅は、各送信周期Tで一定とされ、この変調トリガ信号Smのパルス幅は、例えば1マイクロ秒に設定される。高周波電源121からの高周波信号は、例えば5ギガヘルツの周波数とされ、この高周波信号が、1マイクロ秒のパルス幅を持った変調トリガ信号Smで変調される。変調波Wmは、変調トリガ信号Smのパルス幅とほぼ等しいパルス幅の中で、5ギガヘルツの周波数を持って、繰り返し発生される。
【0049】
各送信周期Tのそれぞれにおいて、送信出力部130は、送信励起部110から励起波Wpを受け、また送信変調部120から変調波Wmを受け、送信波Wtを出力する。実施の形態3では、送信出力部130はクライストロンを用いて構成される。この送信出力部130は、励起波Wpと変調波Wmとが、互いに重なった同期関係、具体的には、励起波Wpと変調波Wmとが、時間軸上で重なったときに、送信波Wtを発生する。励起波Wpと変調波Wmとが、時間軸上で完全に重なれば、最大の送信波Wtが出力される。励起波Wpと変調波Wmとが、時間軸上で部分的に重なれば、低下した送信波Wtが出力される。もし、励起波Wpと変調波Wmとの同期関係が崩れ、励起波Wpと変調波Wmとが、時間軸上で重ならないようになれば、送信波Wtは出力されない。
【0050】
送信波Wtは、変調波Wmを励起波Wpで増幅した結果として、送信出力部130から出力される。したがって、送信波Wtの送信周波数は、変調波Wmの周波数に等しく、これは高周波電源121で発生した高周波信号の周波数に等しい。
【0051】
送受切替部140は、実施の形態3では、サーキュレータを用いて構成され、送信入力端141と、送受入出力端142と、受信出力端143を有する。送信入力端141は送信出力部130に高周波的に結合され、送受入出力端142はアンテナ150に高周波的に結合され、また受信出力端143は、受信部160に高周波的に結合される。アンテナ150は、各送信周期Tのそれぞれにおいて、送信出力部130からの送信波Wtを目標に向けて放射し、またこの送信波Wtに基づく受信波Wrを受信する。受信波Wrは、送受切替部140の送受入出力端142と受信出力端143を介して、受信部60に供給される。受信部160は、受信波Wrの信号処理を行ない、目標までの距離を算出し、また目標を追尾するための追尾信号を発生する。
【0052】
マスタータイミング制御回路70Bは、検波器71Bと、クロック信号発生回路72と、変調トリガ回路73と、励起トリガ回路74と、演算回路75と、同期調整回路76を有する。検波器71Bは、送信出力部130から出力される高周波の送信波Wtを受けて、励起出力信号Spoを発生する。実施の形態3では、送信波Wtは、高周波電源121からの高周波信号を変調トリガ信号Smで変調し、その変調波Wmを励起波Wpで増幅することにより発生されるので、励起波Wpは送信波Wtと同じタイミングで発生する。したがって、送信波Wtを検波する検波器71Bから、励起出力信号Spoを発生することができる。クロック信号発生回路72、変調トリガ回路73、励起トリガ回路74、演算回路75、および同期調整回路76は、実施の形態1と同じに構成される。各部の動作波形も、図2(a)〜(g)に示す波形と同じである。
【0053】
この実施の形態3でも、マスタータイミング制御回路70Bが、n番目(nは任意の正の整数)の送信周期について、その基準タイミングt0と励起波Wpとの間の経過時間を演算し、また、(n+1)番目の送信周期について、励起波Wpと変調波Wmが、互いにほぼ完全に重なった所定の同期関係を保つように、前記n番目の送信周期における前記経過時間に応じて、励起トリガ信号Spの発生タイミングを調整するので、例えばn番目の送信周期で励起波Wpに揺らぎが変化しても、(n+1)番目の送信周期では、励起波Wpと変調波Wmとの間に、前記所定の同期関係を保つことができ、充分な送信波を出力することができる。
【0054】
実施の形態4.
図6は、この発明によるレーダ装置に実施の形態4を示すブロック図である。この実施の形態4のレーダ装置も、実施の形態3と同じクライストロンを用いた送信出力回路130を備えたレーダ装置である。この実施の形態4のレーダ装置は、図6に示すように、実施の形態3におけるマスタータイミング制御回路70Bをマスタータイミング制御回路70Cに代えたものである。この実施の形態4におけるマスタータイミング制御回路70Cは、実施の形態3におけるマスタータイミング制御回路70Bに、さらに、受信トリガ回路77を追加したものである。その他においては、実施の形態4は実施の形態3と同じに構成される。この実施の形態4の各部の動作波形は、図4(a)〜(i)に示す波形と同じになる。
【0055】
受信トリガ回路77は、検波器71Bから励起出力信号Spoを受け、この励起出力信号Spoに基づき、図4(h)に示す受信トリガ信号Srを発生し、この受信トリガ信号Srを受信部160に供給する。この受信トリガ信号Srは電気パルス信号であり、受信波Wrに基づく受信信号をゲートする。この受信トリガ信号Srは、図4(h)に示すように、励起出力信号Spoから所定遅れ時間trの後に発生される。この遅れ時間trは、各送信周期Tにおいて、一定の値であり、図4(h)に示すように、受信波Wrに含まれる内部反射波Wr1を除去し、目標反射波Wr2を通過出力する時間に設定される。目標反射波Wr2は、図4(i)に示すように、受信トリガ信号Srのパルス幅内で出力される。
【0056】
受信部160は、受信トリガ信号Srに基づいて、この受信トリガ信号Srの立ち上がり時点tr1から目標反射波Wr2が得られるまでの時間に基づいて、目標までの距離を算出する。受信トリガ信号Srの立ち上がり時点tr1は、励起出力信号Spoに基づいて決定されるので、励起送信部10の揺らぎ時間tbが変化しても、その影響を受けない。したがって、実施の形態4によれば、励起送信部10の揺らぎ時間tbの変化と関係なく、目標までの距離を、より正確に算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明によるレーダ装置は、周期的に繰り返し与えられる各送信周期のそれぞれにおいて、送信波を送信するレーダ装置に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明によるレーダ装置の実施の形態1を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1の動作説明用波形図である。
【図3】この発明によるレーダ装置の実施の形態2を示すブロック図である。
【図4】実施の形態2の動作説明用波形図である。
【図5】この発明によるレーダ装置の実施の形態3を示すブロック図である。
【図6】この発明によるレーダ装置の実施の形態4を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0059】
10、110:送信励起部、20、120:送信変調部、30、130:送信出力部、
40、140:送受切替部、50:望遠鏡、150:アンテナ、
60、160:受信部、 70、70A、70B、
70C:マスタータイミング制御回路、73:変調トリガ回路、
74:励起トリガ回路、75:演算回路、76:同期調整回路、
77:受信トリガ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起トリガ信号に基づき励起波を発生する送信励起部、変調トリガ信号に基づき変調波を発生する送信変調部、および前記励起波と変調波を受けそれが重なった同期関係にあるときに送信波を出力する送信出力部を備え、周期的に繰り返される各送信周期のそれぞれにおいて、前記送信波を送信するレーダ装置であって、さらにマスタータイミング制御回路を備え、前記マスタータイミング制御回路は、n番目(nは任意の正の整数)の送信周期について、基準タイミングと前記励起波との間の経過時間を演算し、また、(n+1)番目の送信周期について、前記励起波と変調波が前記同期関係を保つように、前記n番目の送信周期における前記経過時間に応じて、前記励起トリガ信号の発生タイミングを調整することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーダ装置であって、前記マスタータイミング制御回路は、前記励起トリガ信号を発生する励起トリガ回路と、前記変調トリガ信号を発生する変調トリガ回路と、前記経過時間を演算する演算回路と、前記n番目の送信周期における前記経過時間に応じて前記(n+1)番目の励起トリガ信号の発生タイミングを調整する同期調整回路を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のレーダ装置であって、さらに前記送信波が目標で反射された反射波を受信する受信部と、この受信部に受信トリガ信号を供給する受信トリガ回路を有し、前記受信トリガ回路が、前記励起波を受け、前記励起波に基づいて前記受信トリガ信号を前記受信部に供給することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1記載のレーダ装置であって、前記送信出力部が、光パラメトリック増幅器を用いて構成されたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1記載のレーダ装置であって、前記送信出力部がクライストロンを用いて構成されたことを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−232642(P2008−232642A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68492(P2007−68492)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】