説明

レーダ装置

【課題】絶対位相を求めることにより位相変化を補正する手段を備えたレーダ装置。
【解決手段】図1は、レーダ装置の受信チャンネル部を示すブロック図である。信号線路L1、L2、L5、L6から入力する信号は位相が同期している。信号線路L1より入力した周波数77GHzの信号を、信号線路L6より入力した周波数5MHzの信号を用いてオンオフ変調させる。その後信号線路L2より入力した周波数77GHzの信号とミキサ13で混合し、信号線路L5より入力した周波数5MHzの信号を用いて直交復調し、位相値を検出する。反射波の受信による受信信号の検出位相から、この位相値を引くことで位相値を補正している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時劣化や温度変化に起因する位相変化を補正する手段を備えたレーダ装置に関するもので、絶対位相を求めることにより位相変化を補正する手段を備えたレーダ装置である。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置において、対象物までの方向を測る方法の1つに、複数のアンテナで受信した信号間の位相差を用いるものがある。送信アンテナにより放射された送信信号が目標物により反射され、その反射された送信信号を複数の受信アンテナにより受信する。そして、各受信アンテナで受信した受信信号の位相差から目標物の方向を求めることができる。
【0003】
そのようなレーダ装置では、レーダ装置のチャンネルを構成する部品の特性のばらつきがあり、また、経時変化や温度変化を起こすため、チャンネル内で位相が変化してしまう。そのため、各受信アンテナ間の位相差も経時変化して誤差が生じ、目標物までの方向の測定結果にも誤差が生じてしまう。
【0004】
このような位相変化を補正する方法として、特許文献1、特許文献2が知られている。
図8は、特許文献1に記載のレーダ装置である。受信アンテナは正面に対して対称に配置されている。このレーダ装置では、変調した補正用信号を線路L10を通してチャンネルCH10、CH20に入力し、低雑音増幅器LNA10、LNA20により増幅され、ミキサMIX3、MIX4で発振器OSC6からの信号と混合され中間周波数に変換されたのち、チャンネルCH10のフェイズシフタPS1を調整することで位相を補正している。したがって、補正の対象となっているのは、低雑音増幅器LNA10、LNA20とミキサMIX3、MIX4である。この方法では、発振器OSC1、5、6、7間での位相の同期を取っていないが、ミキサMIX3、MIX4は同じ発振器OSC6から、ミキサMIX5、MIX6は同じ発振器OSC7からの信号と混合しているので、チャンネルCH10、CH20の相対的な位相差は正しく求めることができ、この相対的な位相差をゼロになるよう調整することで経時変化や温度変化による位相変化を補正できる。また、特許文献1では、この相対的な位相差をゼロに補正する方法として、フェイズシフタを用いずに、直接、信号処理手段P1において補正データを求め、メモリに格納し、その補正データを用いて位相差を補正する方法も記載されている。
【0005】
また、図9は、特許文献2に記載のレーダ装置である。アンテナR×1を基準として、アンテナR×1と各アンテナR×2〜R×(n)との位相差の実測値φ2〜φ(n)と、レーダ装置の出荷時に測定される初期位相差Δ2〜Δ(n)から、低雑音増幅器LNA1〜LNA(m)の温度変化、経時変化による位相変化Δ’1〜Δ’(m)を求めている。そして、Δ’1〜Δ’(m)の値を元に位相補正している。つまり、補正の対象となっているのは、低雑音増幅器LNA1〜LNA(m)の位相変化である。
【0006】
このように、特許文献1、特許文献2に記載の位相補正方法は、各チャンネルの相対位相から位相差の変化を求め、その値を用いて位相を補正している。
【特許文献1】特開2003−248054
【特許文献2】特開2001−166029
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、各チャンネル間で搬送波の位相を合わせるために発振器OSC6から各受信チャンネルのミキサまでの長さを揃える必要がある。たとえば、図10のように線路を分岐させて長さを揃える方法では、受信チャンネルが多い場合には、発振器OSC8(図8のOSC6に対応)から各受信チャンネルのミキサまでの長さが等しい正確な分岐をさせることが難しく、また、場所をとるため実装が容易ではない。さらに、発振器OSC6は出力電力の大きいものが必要となる。同様に、補正用信号を供給する線路L10の長さも各チャンネル間で等しくする必要がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法では、初期位相差を検出する必要があり、通常はレーダ装置の出荷時に検査官によるスイッチ操作等により、基準となる目標物からの反射波を用いてアンテナ間の初期位相差を検出している。このように特許文献2では、出荷時にキャリブレーション操作が必要な点が問題となる。
【0009】
そこで本発明の目的は、出荷時のキャリブレーション操作が必要なく、各チャンネル間で発振器からミキサまでの線路の長さを揃える必要のない、位相変化を補正することができる手段を備えたレーダ装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、送信信号に基づく電波を目標物に対して放射する送信チャンネルと、その反射波を受信して受信信号を得る複数の受信チャンネルとを有し、目標物の方位を測定するレーダ装置において、受信信号を送信信号により復調してIF周波数のIF信号に変換するためのミキサと、IF信号に変換するための第1搬送波を入力するミキサに接続された変換用線路と、IF信号を処理する信号処理装置と、各受信チャンネルに、補正用信号を接続点から入力するための補正用線路と、補正用信号がミキサにより変換されたIF信号を第2搬送波により直交復調して補正位相を検出する位相検出手段とを有し、補正用信号と第1搬送波と第2搬送波は、位相が同期していて、補正用信号の周波数と第1搬送波の周波数の差が、第2搬送波の周波数と等しい信号であって、受信チャンネルが受信した反射波の受信信号に対する検出位相を、位相検出手段において検出された補正位相だけ補正する位相補正手段を有することを特徴とするレーダ装置である。
【0011】
ここで、検出位相とは、目標物からの反射波を受信チャンネルが受信し、その受信信号の位相が位相検出手段により求められたときの位相をいう。また、補正位相とは、補正用信号を入力した場合に位相検出手段により求められる位相で、検出位相を補正するための位相をいう。
【0012】
補正用信号と第1搬送波と第2搬送波は位相が同期しているため、補正用線路の接続点における補正用信号に含まれる第1搬送波の位相と、ミキサに入力される第1搬送波の位相の位相差(以下、この位相差を「第1搬送波位相差」という)がゼロである場合は、補正位相は補正用線路の接続点からミキサの出力までの間の各受信チャンネルの位相遷移(絶対位相)となる。第1搬送波位相差がゼロでない場合は、第2の発明のように、補正用線路と変換用線路の長さの差と第1搬送波の周波数とから第1搬送波位相差を求め、それを記憶しておき、その第1搬送波位相差を用いて補正位相値を補正し、絶対位相を求めることができる。
【0013】
そのため、受信信号の復調搬送波のミキサ入力点での位相が各受信チャンネルで等しいならば、検出位相から、上記の様にして求めた絶対位相を減算するだけで、受信チャンネルの増幅器やミキサによる位相特性(温度変化、経時変化も含む)を補償することができる。
【0014】
補正用線路の受信チャンネルへの接続位置は、その接続位置より下流側に経時変化や温度変化による位相変化の大きい部分が含まれるような接続位置であるとよい。また、接続位置は、受信点に近いほど望ましい。受信点から接続位置までの位相変化量を小さくでき、より正確に補正できる。受信アンテナに接続することも可能である。
【0015】
また、各受信チャンネルにおける補正位相は絶対位相として、各チャンネルで独立に測定される。そのため、各受信チャンネルへ入力される第1搬送波の位相が各受信チャンネル間で同期している必要はない。よって従来のように変換用線路や補正用線路を分岐させて長さを揃える必要がなく、各変換用線路の長さは異なっていてもよい。
【0016】
位相補正手段としては、位相を検出する手段において検出された位相値が所定値となるように、誤差をフェイズシフタにフィードバックし、フェイズシフタに補正を加える方法も可能である。また、送信信号はモノパルスやFM−CWでもよい。
【0017】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、補正用信号と第1搬送波はPLLを用いて位相が同期されることを特徴とするレーダ装置である。このとき、第2搬送波もPLLを用いて同期されてもよいが、コスタス方式を用いてもよい。
【0018】
第4の発明は、第1の発明または第2の発明において、第1搬送波と第2搬送波は、PLLを用いて位相が同期されていて、補正用信号は、第1搬送波により第2搬送波をオンオフ変調したものであることを特徴とするレーダ装置である。補正用信号を別途作り出す必要がないため、より簡単に同期をとることができる。
【0019】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれかの発明において、各受信チャンネルは第1搬送波を増幅する増幅器を有し、第1搬送波はこれらの増幅器を介して複数の受信チャンネルへ供給されることを特徴とするレーダ装置である。上述のように、各受信チャンネルごとに変換用線路の長さと補正用線路の長さが等しく第1搬送波位相差がゼロであれば、補正位相は線路長に影響を受けないので、第1搬送波をアンプで分岐させて、他の受信チャンネルへ供給させることができる。
【0020】
第6の発明は、第5の発明において、各受信チャンネルの増幅器の位相遷移量を測定する回路を各受信チャンネルごとに設け、補正位相を位相遷移量だけ補正することを特徴とするレーダ装置である。
【0021】
受信信号を復調するときの復調搬送波を第1搬送波を供給する線路と同一線路によりミキサに供給する場合には、各チャンネル間での復調搬送波の相対的な位相関係が分かっていないと、正確に目標物の方向を確定することができない。そこで、各チャンネルの復調搬送波の位相を記憶しておき、補正位相からさらにその位相遷移量を減算する。
【0022】
また、本発明はミリ波レーダ装置に適用できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1の発明から第4の発明によると、受信信号の復調搬送波のミキサ入力点での位相が各受信チャンネルで等しい場合、検出位相から補正位相を減算するだけで、受信チャンネル内の増幅器やミキサによる位相変化(温度変化、経時変化も含む)を補償することができる。補正用信号と第1搬送波と第2搬送波の位相が同期しているため、各受信チャンネルの補正用線路の接続点からミキサまでの位相変化を絶対的に求めることができる。そのため、受信チャンネルごとに位相を補正することができる。また、補正を随時行うことで目標物の方位検出の精度を高めることができ、出荷時に初期位相を求めて補正する必要もない。また、第1搬送波位相差が分かればよいので、各受信チャンネル間で補正用線路および変換用線路の長さを揃える必要がない。したがって、第5の発明のように増幅器を使用することができ、高出力の発振器を用いる必要がない。また、第6の発明のように、復調搬送波の各チャンネル間の位相で補正することでより正確に角度を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施例を図を参照しながら説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明によるレーダ装置の受信チャンネル部を示したブロック図であり、レーダ装置は、図2のブロック図のように送信チャンネルCH6と受信チャンネルCH1〜CH5とレーダ信号処理装置1からなる。受信チャンネルCH1〜CH5はすべて図1に示すように同一の構成である。この実施例1のレーダ装置は、送信チャンネルCH6から送信された送信信号が目標物により反射され、その反射された信号を受信チャンネルCH1〜CH5が受信し、その受信信号の位相差をもって目標物の方位を測定することができるものである。
【0026】
以下の説明では、受信チャンネルCH1〜CH5のすべてに同様に説明が適用されるものである。
【0027】
受信チャンネル部は、図1のように、受信アンテナ10、導波路11、低雑音増幅器12、ミキサ13、IFフィルタ14、A/D変換器15と、位相測定部2から成り、この順番に接続されている。導波路11と低雑音増幅器12をつなぐ信号線路L3には、スイッチ17を有する位相補正用の信号線路(補正用線路)L1が接続位置pにおいて接続し、ミキサ13には、周波数変換用(復調)の第1搬送波を伝搬させる信号線路(変換用線路)L2が接続している。また、A/D変換器15は信号線路L4を通してレーダ信号処理装置1に接続し、位相測定部2もレーダ信号処理装置1に接続している。また、スイッチ17には信号線路L6が接続している。ここで、各受信チャンネルCH1〜CH5で第1搬送波位相差はレーダ信号処理装置1のメモリに記憶されている。第1搬送波位相差とは、接続位置pにおける第1搬送波の位相と、ミキサ13入力点での第1搬送波の位相の位相差のことである。第1搬送波位相差は、主として信号線路L1と信号線路L2の長さの差によって生じる。信号線路L1、L2の経時劣化、温度変化はごくわずかであり、したがって、位相の変化も極小さいものとする。
【0028】
位相測定部2は、同期復調をおこなう直交復調部であり、位相を測定することができる。位相測定部2は、ミキサ20、ミキサ21、π/2移相器22、位相検出器23とから成る。また、復調用の信号線路L5がミキサ21、π/2移相器22、位相検出器23に接続され、π/2移相器22はミキサ20に接続している。図1では位相測定部2はブロック図で示しているが、実際はデジタル回路またはコンピュータによる処理装置である。なお、位相測定部2をアナログ処理する回路とする場合には、A/D変換器15は必要ない。
【0029】
このレーダ装置では、信号線路L1、L2、L5、L6より信号を入力することで、接続位置pから、ミキサ13とIFフィルタ14間の線路上の位置qまでの遷移位相を検出し、その位相値を用いてレーダ信号処理装置1にてアンテナ10での受信信号の検出位相を補正している。信号線路L1からの入力信号(補正用信号)は、受信アンテナ10の真正面に位置する擬似目標物からの反射信号を受信した信号と見なせる。ここで、接続位置pから位置qまでの位相値を求めるためには、信号線路L1、L2、L5、L6より入力する信号は、位相が同期されている必要がある。
【0030】
そこで、信号線路L1、L2、L5、L6より入力する信号の位相を同期するために、図3のブロック図に示す位相同期回路3のようにPLLを用いる。この位相同期回路3は、位相比較器24、ループフィルタ25、VCO(電圧制御発振器)26、1/M分周器27、水晶振動子からなる基準発振器28、で構成されている。基準発振器28からの信号をこの位相同期回路3を用いてVCO26の出力信号を信号線路L1、L2への入力信号とし、1/M分周器27から位相比較器24へフィードバックされる信号を取り出し信号線路L5、L6への入力信号とする。こうすることで信号線路L1、L2、L5、L6への入力信号の位相を同期させることができる。なお、実施例1では基準発振器28の周波数は5MHzとし、信号線路L1、L2への入力信号の周波数は77GHzとした。そのため、信号線路L5、L6への入力信号の周波数は基準発振器28の周波数と同じ5MHzで、Mの値は15400となる。なお、VCO26の出力信号は、アンプにより分岐されて受信チャンネルCH1〜CH5へ供給される。
【0031】
次に、実施例1のレーダ装置による位相補正について詳しく説明する。
信号線路L1に入力された周波数77GHzの第1搬送波は、スイッチ17により信号線路L6に入力された周波数5MHzの信号とON/OFF変調される。変調されて得られた補正用信号は、信号線路L1を通り、信号線路L3を通り、低雑音増幅器12により増幅された後、ミキサ13により、信号線路L2に入力された周波数77GHzの信号(第1搬送波)と混合され同期検波される。その後IFフィルタ14で周波数5MHzの信号のみを通し、A/D変換器15でデジタル信号に変換し、位相測定部2に送られる。
【0032】
ここで、接続位置pでの変調された補正用信号に含まれる第1搬送波の位相をβとし、信号線路L2へ入力された第1搬送波の、信号線路L2とミキサ13の接続位置での位相をαとし、伝送路の位相遷移がないとすると、IFフィルタ14により出力される信号は周波数5MHzで位相β−αの信号となる。さらに、接続位置pから位置qまでの絶対位相をΔとし、これを考慮すると、IFフィルタ14により出力される信号は周波数5MHzで位相β−α+Δの信号である。
【0033】
位相測定部2では、A/D変換器15から送られてきた周波数5MHz、位相β−α+Δのデジタル信号が、信号線路L5に入力された周波数5MHzの信号(第2搬送波)とミキサ21により混合し、また、第2搬送波をπ/2移相器22により位相をπ/2変化させた信号とミキサ20により混合することで、直交復調され、ミキサ20、21から出力された2信号の成分(I、Q成分)から位相検出器23により求めると、補正位相β−α+Δを求めることができる。ただし、この補正位相には、接続位置pでの補正用信号に含まれる第1搬送波の位相と、信号線路L2とミキサ13の接続位置での第1搬送波の位相の位相差(第1搬送波位相差)β−αが含まれる。この第1搬送波位相差β−αをあらかじめ測定してレーダ信号処理装置1内のメモリに記憶しておき、補正位相β−α+Δを第1搬送波位相差β−αを用いて補正すると、補正位相は接続位置pから位置qまでの絶対位相Δと等しくなり、より精度がよくなる。第1搬送波位相差β−αは、信号線路L1、信号線路L2の長さの差に起因するので、各チャンネルごとに信号線路L1と信号線路L2の長さを等しくすれば、ゼロとすることができる。信号線路L1とL2の長さは各受信チャンネルにおいては等しくし、各チャンネル間では異なっていてもよい。補正位相Δは、レーダ信号処理装置1内のメモリに記憶される。
【0034】
一方、送信チャンネルCH6から位相γ0 の電波が放射され、アンテナ10が位相δの反射波を受信し、ミキサ13で位相τの復調搬送波と混合したと仮定すると、検出位相δ+γ0 −τ+Δが求められる。この検出位相δ+γ0 −τ+Δから補正位相Δを引く処理をレーダ信号処理装置1にて行うと、位相δ+γ0 −τが求まる。
【0035】
実際に角度を求めるのに必要となるのは、各チャンネル間での位相差、つまり、δの差である。受信チャンネルCH1、CH2での上記補正後の位相をそれぞれδ1 +γ0 −τ1 、δ2 +γ0 −τ2 とすると、その差は、(δ2 −δ1 )−(τ2 −τ1 )となる。
【0036】
したがって、τの値を補正するには、(1)各受信チャンネルのτの値を等しくする(各受信チャンネルの発振器からミキサまでの線路長を同一にしておく)、(2)各受信チャンネルのγ0 −τの値を測定し記憶しておく、(3)各受信チャンネル間ごとのτの差を測定し記憶しておく、の3つの方法がある。(2)、(3)の方法は、線路長を同一にしなくてもよいし、増幅器を用いて復調搬送波を他の受信チャンネルに配分することができることに利点がある。
【0037】
この3つの方法のいずれかでτの値を補正すると、δの差を正確に求めることができるので、精度よく受信信号の到来角度を求めることができる。
【0038】
以上の補正では、接続位置pをアンテナ10に近い位置にすることで、アンテナ10から接続位置p間の位相遷移を小さくできるのでより正確に補正することができる。特に、接続位置pがアンテナ10であればさらに正確である。また、各受信チャンネルにおいて、アンテナ10から接続位置pまでの距離を同一にしておくと、各受信チャンネルでのアンテナ10から接続位置p間の位相遷移が等しくなるので、位相差にはその位相遷移が効いてこないため正確に補正できる。また、各受信チャンネルで接続位置pが異なるのであれば、それによる位相差で補正位相をさらに補正すればよい。
【実施例2】
【0039】
実施例2は、実施例1において、位相測定部2を、図4に示す位相補正部4に置き換えたものである。A/D変換器15から送られてきたデジタル信号は、位相補正部4により処理される。位相検出器23により求められた補正位相Δのデータをフェイズシフタ29にフィードバックさせ、出力がゼロとなるように位相を補正している。したがって、データ処理装置1には位相補正済みのデジタル信号が信号線路L4を通して送られる。
【実施例3】
【0040】
実施例3は、図5のブロック図に示すように、実施例1とはスイッチ17および信号線路L6を有さない点が異なる。信号線路L1への入力信号(補正用信号)と信号線路L2への入力信号(第1搬送波)は周波数が異なり、かつ位相が同期している必要があるので、図6のブロック図に示す位相同期回路5のように2つのPLLを用いる。この位相同期回路5は、位相比較器24a、24b、ループフィルタ25a、25b、VCO(電圧制御発振器)26a、26b、1/M1 分周器27a、1/M2 分周器27b、水晶振動子からなる基準発振器28、で構成されている。VCO26aからの出力信号は、信号線路L2への入力信号とされ、1/M1 分周器27aから位相比較器24aへフィードバックされる。この信号を取り出し、信号線路L5への入力信号とし、VCO26bからの出力信号を信号線路L1への入力信号とすることで、補正用信号と第1搬送波の位相を同期させている。また、M1 とM2 の値を変えることで、信号線路L1への入力信号と信号線路L2への入力信号の周波数が異なるようにしている。
【0041】
実施例3では基準発振器28の周波数は実施例1と同様5MHzとし、信号線路L1への入力信号の周波数は77.005GHz、信号線路L2への入力信号の周波数は77GHzとした。したがって、信号線路L5への入力信号(第2搬送波)の周波数は5MHzであり、M1 の値は15400、M2 の値は15401となる。
【実施例4】
【0042】
実施例4は、信号線路L2への入力信号をアンプにより分岐させて入力する例で、図7では受信チャンネルCH1〜CH5のうち受信チャンネルCH1、2についての接続を示している。2つの受信チャンネル部は実施例1と同様のものであり、位相測定部2についても同様であるので省略してある。第1搬送波は、信号線路L1aへの入力とアンプ18aへの入力に分岐されている。アンプ18aへ入力された第1搬送波は、信号線路L1a、L2aへ入力される信号と、受信チャンネルCH2へ入力される信号に分岐されている。受信チャンネルCH2へ入力される信号は、信号線路L1bへ入力される信号とアンプ18bに入力される信号に分岐され、アンプ18bに入力された信号は、信号線路L1b、L2bへ入力される信号と、図示していない受信チャンネルCH3に入力される信号へ分岐されている。また、信号線路L1aにはスイッチ40a、41a、信号線路L1bにはスイッチ40b、41bが設置され、導通と遮断を切り換えることができる。
【0043】
受信チャンネルCH1において、スイッチ40aにより導通、スイッチ41aにより遮断した状態で測定した補正位相と、スイッチ40aにより遮断、スイッチ41aにより導通した状態で測定した補正位相を比較すると、アンプ18aによる位相変化が求められる。アンプ18bによる位相変化も同様にして求められる。
【0044】
検出位相を求める際には、スイッチ40a、41a、40b、41bを遮断し、第1搬送波の代わりに復調搬送波を入力する。復調搬送波としては、FM−CWであれば周波数が鋸歯状波で周波数変調された信号が用いられ、モノパルスレーダであれば第1搬送波と同じ信号が用いられる。
【0045】
各受信チャンネルのミキサ13に入力する第1搬送波のチャンネル間の相対位相をηとする。各受信チャンネル間で信号線路L2が等しいとすると、ηは、各受信チャンネルのアンプ18による位相変化に比例する。他の位相値は実施例1と同様の位相値を仮定すると、実施例4の受信チャンネルCH1において検出位相から補正位相を引いた値として位相δ+γ0 −ηが求まる。ここからさらにηの値を用いて補正することで、実施例1と同様に位相δ+γ0 が求まる。各受信チャンネル間で信号線路L2の長さが等しくない場合には、各受信チャンネル間ごとに線路長差に応じた位相差も含めてηをあらかじめ求め、記憶しておく。
【0046】
このように、実施例4ではアンプの位相変化を求めることができるので、アンプにより分岐させる構成をとることができる。したがって、高出力の発振器を用いる必要がなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、自動車用ミリ波レーダ装置などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1のレーダ装置の受信チャンネル部を示すブロック図。
【図2】実施例1のレーダ装置を示すブロック図。
【図3】実施例1の位相同期回路を示すブロック図。
【図4】実施例2の位相補正部を示すブロック図。
【図5】実施例3のレーダ装置の受信チャンネル部を示すブロック図。
【図6】実施例3の位相同期回路を示すブロック図。
【図7】実施例4の信号をアンプにより分岐させる例を示すブロック図。
【図8】特許文献1に記載のレーダ装置を示すブロック図。
【図9】特許文献2に記載のレーダ装置を示すブロック図。
【図10】発振器からの線路の分岐を示す図。
【符号の説明】
【0049】
1:レーダ信号処理装置
2:位相測定部
3、5:位相同期回路
4:位相補正部
10:受信アンテナ
12:低雑音増幅器
13、20、21:ミキサ
17、40a、40b、41a、41b:スイッチ
22:π/2移相器
23:位相検出器
24、24a、24b:位相比較器
25、25a、25b:ループフィルタ
26、26a、26b:VCO
27:1/M分周器
27a:1/M1 分周器
27b:1/M2 分周器
28:基準発振器
29:フェイズシフタ
L1〜L5:信号線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号に基づく電波を目標物に対して放射する送信チャンネルと、その反射波を受信して受信信号を得る複数の受信チャンネルと、を有し、目標物の方位を測定するレーダ装置において、
前記受信信号を前記送信信号により復調してIF周波数のIF信号に変換するためのミキサと、
前記IF信号に変換するための第1搬送波を入力する前記ミキサに接続された変換用線路と、
前記IF信号を処理する信号処理装置と、
各前記受信チャンネルに、補正用信号を接続点から入力するための補正用線路と、
前記補正用信号が前記ミキサにより変換された前記IF信号を第2搬送波により直交復調して補正位相を検出する位相検出手段と、を有し、
前記補正用信号と前記第1搬送波と前記第2搬送波は、位相が同期していて、前記補正用信号の周波数と前記第1搬送波の周波数の差が、前記第2搬送波の周波数と等しい信号であって、
前記受信チャンネルが受信した前記反射波の受信信号に対する検出位相を、前記位相検出手段において検出された補正位相だけ補正する位相補正手段を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
各前記受信チャンネルの前記補正用線路の長さと前記変換用線路の長さの差に基づく、前記接続点での前記補正用信号と前記ミキサでの前記第1搬送波の位相差を各前記受信チャンネルごとに記憶する手段を有し、前記補正位相は前記位相差により補正されることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記補正用信号と前記第1搬送波は、PLLを用いて位相が同期されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記第1搬送波と前記第2搬送波は、PLLを用いて位相が同期されていて、
前記補正用信号は、前記第1搬送波により前記第2搬送波をオンオフ変調したものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
各前記受信チャンネルは、前記第1搬送波を増幅する増幅器を有し、前記第1搬送波は、これらの増幅器を介して複数の前記受信チャンネルへ供給されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
各前記受信チャンネルの前記増幅器の位相遷移量を測定する回路を各前記受信チャンネルごとに設け、前記補正位相を前記位相遷移量だけ補正することを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−39490(P2008−39490A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211456(P2006−211456)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】