説明

レーダ装置

【課題】2個の受信機を用いモノパルス処理により測角を行う従来のレーダ装置は、ビーム幅内に目標が2個あると、2目標からの信号が位相情報を保持のまま加算されて受信されるため、各目標の振幅情報が失われ、正しい測角値が得られない。
【解決手段】目標からの反射信号を夫々のアンテナを介して受信し、アナログ/デジタル変換する複数の受信機と、各受信機で任意の同一時刻に受信された複数の受信信号と、前記時刻とは異なる時刻において、同時に各受信機で受信された複数の受信信号を用い、前記目標の振幅と、前記目標の位相と、前記同一受信機における異なる時刻間の前記目標の位相の変化量と、前記目標の角度で決定される空間位相を求め、この空間位相から前記目標を測角する測角処理装置を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の受信機を用いて目標の測角を行うレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数、例えば2個の受信機を用いて測角を行う従来のレーダ装置で用いられる処理としてモノパルス処理がある。モノパルス処理は、2個のアンテナを配置し、それらに対応した2個の受信機から構成される受信系を有している。2個のアンテナパターンの和をΣビーム、差をΔビームとし、ΔビームとΣビームの比は角度に対してほぼ直線になることを利用して、アンテナビーム幅以下の精度で目標の測角を行う処理である。モノパルス処理に関する従来技術としては、非特許文献1に記載のものがある。
【0003】
【非特許文献1】Samuel M.Sherman,“Monopulse Principles and Techniques,” Artech House,INC,ISBN 0-89006-137-8, 1984.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、モノパルス処理ではアンテナビーム幅内に目標が2個ある場合に、大きな測角誤差が生じる課題がある。以下にその原理を簡単に説明する。
【0005】
ビーム幅内に目標が2個ある場合、ΣビームとΔビームには、2目標からの信号が位相情報を保持したまま足しあわされた信号が受信される。そのため、各目標の振幅情報が失われ、モノパルス処理を適用しても正しい測角値を得ることができなくなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために案出されたものであり、複数個の受信機を用いてアンテナビーム幅内の複数目標の測角を行うレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレーダ装置は、目標で反射された送信信号を入射する複数のアンテナと、
この複数のアンテナに入射された反射信号を夫々受信しアナログ/デジタル変換する複数の受信機と、
前記各受信機で任意の同一時刻に受信された複数の受信信号と、前記時刻とは異なる時刻において、同時に前記各受信機で受信された複数の受信信号を用い、前記目標の振幅と、前記目標の位相と、前記同一受信機における異なる時刻間の前記目標の位相の変化量と、前記目標のアンテナに対する角度で決定される空間位相を求め、この空間位相から目標のアンテナに対する角度求める測角処理装置を具備する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るレーダ装置によれば、目標からの反射信号を夫々のアンテナを介して受信し、アナログ/デジタル変換する複数の各受信機で出力された任意の同一時刻に受信された複数の受信信号と、前記時刻とは異なる時刻において、同時に受信された複数の受信信号を測角処理装置で入力し、この測角処理装置は前記目標の振幅と、前記目標の位相と、前記同一受信機における異なる時刻間の前記目標の位相の変化量と、前記目標の角度で決定される空間位相を求め、この空間位相から前記目標を測角するので、ビーム幅内の複数目標の角度を少ない演算量で求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のレーダ装置における測角処理方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本発明のレーダ装置における測角処理方法は、2つの受信機、及び異なる時刻の受信信号を利用し、2目標の振幅、位相、空間位相、及び2目標のドップラー周波数による位相変化量について方程式を作り、それを解くことで2目標の角度を求めることができる。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるレーダ装置の構成図である。図1を用いて各構成要素の機能について説明する。送信機1から信号が発生され、前記発生された信号は送受切替器2a、2bを通じてそれぞれアンテナ3a、3bから送信信号が空間に出力される。
【0011】
目標からの反射信号は、アンテナ3a、3bそれぞれで受信される。アンテナ3a、3bで受信された信号は、送受切替器2a、2bを通じ、それぞれ受信機4a、4bへ出力される。
【0012】
受信機4a、4bへ入力された受信信号は、受信機4a、4bで位相検波が行われ、アナログ/デジタル変換(A/D変換)され、測角処理装置5へ出力される。
【0013】
測角処理装置5へ入力された受信信号は、以下の通り処理される。
図2に測角処理装置5の処理手順のブロック図を示す。ある時刻tでアンテナ3a、3bで受信され、測角処理装置5に入力された受信信号をx1,t及びx2,tと定義する。f1,f2は目標1、2におけるドップラー周波数とすると、x1,t及びx2,tは次式(1)、(2)で表される。
【0014】
【数1】

【0015】
時刻t=0では式(1)、 (2)は式(3)、 (4)で表され、前記時刻t=0とは異なる時刻t=Tsでは、式(1)、 (2)は式(5)、 (6)で表される。
【0016】
【数2】

【0017】
但し、g1,2は目標1、2の複素振幅、2πf1Ts,2πf2Tsは目標1、2のドップラー周波数による位相変化量、α1,α2は目標1、2の角度φ1,φ2 と、アンテナ3aとアンテナ3bとの間隔d及び波長λで決定される空間位相であり、式(7)、 (8)で表される。
【0018】
【数3】

【0019】
前記8個の未知数に対し、式(3)、 (4)、 (5)、 (6)の4つの複素方程式(8つの実方程式)が存在するため、前記方程式の解は一意に存在する。α1,α2の解は式(9)、 (10)で表される。
【0020】
【数4】

【0021】
前記方程式の解の内、α1,α2から式(11)、 (12)を用いて目標の角度φ1,φ2を求めることができる。
【0022】
【数5】

【0023】
このように、本実施の形態1を用いることにより、2つの受信機を有するレーダ装置において、2目標の角度を求めることができる。
【0024】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2におけるレーダ装置の構成図である。図3を用いて各構成要素の機能について説明する。実施の形態2の構成は、図1に示す実施の形態1の構成における、受信機4a、4bと測角処理装置5の間に、フーリエ変換装置6a、6bと検出装置7a、7bを付加したものである。以下では、フーリエ変換として、FFT (Fast Fourier Transform) を用いた場合の処理を示す。
【0025】
受信機4a、4bから出力された受信信号は、それぞれフーリエ変換装置6a、6bへ出力される。
【0026】
図4にフーリエ変換としてFFTを用いた場合の処理を示す。フーリエ変換装置6a、6bは、時刻t=0から時刻t=Tsの間と、時刻t=Tsから時刻t=2Ts間の受信機4a、4bからの入力信号に対して、それぞれFFT処理を行う。その結果をそれぞれ検出装置7a、7bへ出力する。
【0027】
検出装置7a、7bでは、フーリエ変換装置6a、6bからの入力信号から目標信号を検出する。検出された目標信号の振幅、位相をx1,0,x2,0,x1,Ts,x2Tsとして、測角演算処理装置5へ出力され、測角演算処理装置5で測角処理が行われる。
【0028】
また、図5にフーリエ変換装置6a、6bにおける別の処理方法を示す。サンプリング間隔TでA/D変換された受信機4a、4bからの入力信号を、奇数点ごと、及び偶数点ごとにFFTを行い、検出装置7a、7bへ出力する。
【0029】
このように、本実施の形態においては、FFT処理を行うフーリエ変換装置6a、6bを実施の形態1に追加した構成とした。フーリエ変換は、信号対雑音比を改善する効果を有するため、測角精度向上の効果がある。また、信号の振幅を平均する効果も有しているため、信号対雑音比の改善と同様に測角精度向上の効果がある。
【0030】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3におけるレーダ装置の構成図である。図6を用いて各構成要素の機能について説明する。実施の形態3の構成は、実施の形態2の構成図(図3)において、受信機4a、4bからの信号を合成するビーム合成装置8と、前記ビーム合成装置8の後段にフーリエ変換装置6cと、前記フーリエ変換装置6cの後段に検出装置9を新たに加え、実施の形態2の構成図(図3)における検出装置7a、7bを省いた構成である。
【0031】
受信機4a、4bから出力された受信信号は、それぞれフーリエ変換装置6a、6bとビーム合成装置8へ出力される。
【0032】
ビーム合成装置8では、受信機4a、4bからの入力信号を合成する。例えば受信機4aからの入力信号と受信機4bからの入力信号を加算しビームを合成する。合成された信号はフーリエ変換装置6cへ出力される。
【0033】
フーリエ変換装置6cでは、ビーム合成装置8からの入力信号に対しFFT処理を行う。フーリエ変換装置6cでは、フーリエ変換装置6a、6bの様に異なる時間でFFT処理を行わず、観測された全時間分のデータに対しFFT処理を行う。FFT処理後のデータは検出装置9へ出力される。
【0034】
検出装置9では、フーリエ変換装置6cからの入力信号に対して目標検出処理を行う。目標が検出された時のドップラー周波数等の情報を、測角処理装置5へ出力する。
【0035】
測角処理装置5では、前記検出装置9から入力されたドップラー周波数等の情報を用い、フーリエ変換装置6a、6bから入力された信号から、目標の信号成分を抽出し、測角処理を行う。
【0036】
このように、本実施の形態においては、実施の形態2の構成図(図3)において、受信機4a、4bからの信号を合成するビーム合成装置8と、前記ビーム合成装置8の後段にフーリエ変換装置6cと、前記フーリエ変換装置6cの後段に検出装置9を新たに加え、実施の形態2の構成図(図3)における検出装置7a、7bを省いた構成とした。
【0037】
ビーム合成装置8でアンテナ3a、3bで受信された信号を合成して信号対雑音比を改善することができる。またフーリエ変換装置6cでは観測された全時間分のデータに対しFFTを行うため、信号対雑音比を改善することができ、検出装置9における検出性能が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のパルスレーダ装置は、例えば、目標とする航空機を追尾する装置や航空管制レーダ等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態1におけるレーダ装置の構成図である。
【図2】実施の形態1のレーダ装置における測角処理装置の処理手順を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態2におけるレーダ装置の構成図である。
【図4】フーリエ変換装置にFFTを用いた場合の処理説明図である。
【図5】にフーリエ変換装置の別処理方法を示す処理説明図である。
【図6】本発明の実施の形態3におけるレーダ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0040】
1;送信機、2a、2b;送受切替器、3a、3b;アンテナ、4a、4b;受信機、5;測角処理装置、6a、6b、6c;フーリエ変換装置、7a、7b;検出装置、8;ビーム合成装置、9;検出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標で反射された送信信号を入射する複数のアンテナと、
この複数のアンテナに入射された反射信号を夫々受信しアナログ信号をデジタル信号に変換する複数の受信機と、
前記各受信機で任意の同一時刻に受信された複数の受信信号と、
前記時刻とは異なる時刻において、同時に前記各受信機で受信された複数の受信信号を用い、
前記目標の振幅と、
前記目標の位相と、
前記同一受信機における異なる時刻間の前記目標の位相の変化量と
前記目標の前記アンテナに対する角度で決定される空間位相を求め、
この空間位相から目標の前記アンテナに対する角度求める測角処理装置
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記各受信機と測角処理装置との間に、
各受信機からの信号をフーリエ変換し、測角処理装置へ出力するフーリエ変換装置
を具備することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記フーリエ変換装置は、異なる時刻における複数の前記受信信号をフーリエ変換することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記フーリエ変換装置は、
前記受信信号のサンプル点の奇数点ずつフーリエ変換を行う機能と、
前記受信信号のサンプル点の偶数点ずつフーリエ変換を行う機能
を有することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記フーリエ変換装置の出力から目標信号を検出し、この目標信号の値を前記測角処理装置に出力する検出装置
を具備することを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記各受信機からの信号を合成するビーム合成装置と、前記ビーム合成装置からの信号をフーリエ変換するフーリエ変換装置と、前記フーリエ変換装置の後段に前記フーリエ変換装置の出力から目標信号を検出し、検出した周波数情報を前記測角処理装置へ出力する検出装置を具備することを特徴とする請求項3、4の何れか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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