説明

レーダ装置

【課題】レーダ装置の構成を変更することなく、運用状況に応じてレーダ性能を自由に可変することができる。
【解決手段】レーダ装置は、複数のアンテナ素子をアレイ状に配列したアレイアンテナ11と、複数のアンテナ素子のそれぞれに設けられる複数の送受信モジュール12と、アレイアンテナによるビーム走査を制御する走査制御器14と、送受信モジュールに送信信号を供給する送信制御器21と、所定の条件にしたがってレーダ方程式に関するパラメータを選択し、パラメータの値に基づいて送信制御部21及び走査制御部14の少なくとも一方を制御するレーダ制御器24とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクティブフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブフェーズドアレイアンテナは、アンテナ素子ごとに分散した送受信モジュールを有するアンテナであり、各アンテナ素子からの送信電力の総和が実際の送信電力となる。この送受信モジュールは、能動素子を有するために他の構成品に比べて故障頻度が高い。このため、従来、アクティブフェーズドアレイアンテナを採用したレーダ装置では、送受信モジュールが複数個故障してもレーダ装置の運用を停止することなく、要求されるレーダ性能(例えば、最大探知距離や目標の観測精度)を維持できるように、予め想定される故障数分を補うだけの送受信モジュールをアンテナに備えていた。
【0003】
なお、本願に関連する公知文献として次のようなものがある(例えば、特許文献1又は2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−248476号公報
【特許文献2】特開平04−166782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来技術では、送受信モジュールの故障に対応するために、予備の送受信モジュールを予めアンテナに配置していることから、コストの上昇や消費電力の増加を招いていた。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、レーダ装置の構成を変更することなく、運用状況に応じてレーダ性能を自由に可変することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様は、複数のアンテナ素子をアレイ状に配列したアレイアンテナと、前記複数のアンテナ素子のそれぞれに設けられる複数の送受信モジュールと、前記アレイアンテナによるビーム走査を制御する走査制御部と、前記送受信モジュールに送信信号を供給する送信制御部と、所定の条件にしたがってレーダ方程式に関するパラメータを選択し、前記パラメータの値に基づいて前記送信制御部及び前記走査制御部の少なくとも一方を制御する制御部とを具備するレーダ装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
したがってこの発明によれば、レーダ装置の構成を変更することなく、運用状況に応じてレーダ性能を自由に可変することができるレーダ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るレーダ装置の一実施形態を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に係るレーダ装置の一実施形態を示す構成図である。
このレーダ装置は、空中線装置1と信号処理装置2とを有する。空中線装置1は、アンテナ素子11と送受信モジュール12とを複数アレイ状に配置したアクティブフェーズドアレイアンテナである。空中線装置1は、さらに、信号分配回路13と、走査制御器14と、送受信RF信号分配合成器15とを備える。信号分配回路13は、送受信モジュール12に制御信号や送信RF信号の分配供給を行い、受信RF信号の信号合成を行う。走査制御器14は、送信制御器21からのアンテナ制御信号及び送信パルス幅制御信号に基づいて、信号分配回路13に制御信号を供給する。送受信RF信号分配合成器15は、送信RF信号の分配供給と受信RF信号の信号合成とを行う。
【0011】
信号処理装置2は、送信制御器21と、受信信号処理器22と、送受信モジュール故障判定器23と、レーダ制御器24とを備える。送信制御器21は、デジタルデータである送信種信号から送信RF信号への周波数変換などを行い、空中線装置1へ供給する送信RF信号を生成する。受信信号処理器22は、空中線装置1からの受信RF信号を周波数変換し、I/Q検波やパルス圧縮、MTI処理等、いわゆるレーダ装置の信号処理を行う。送受信モジュール故障判定器23は、空中線装置1からの送受信モジュール点検信号(BIT RF信号)が入力され、点検信号により送受信モジュール12の正常/異常判定を行う。レーダ制御器24は、レーダ装置の送受信動作を制御する。なお、レーダ制御器24は、ビームケジューリング機能を有しており、本発明の特徴である送受信モジュール12の故障状況に応じた送信パルス幅や変調帯域幅等の制御を行う。
【0012】
次にこのように構成されたレーダ装置の動作について説明する。
送受信モジュール故障判定器23は、送受信モジュール12の送信出力レベルの低下や受信利得の低下、さらには設定位相の異常がないかを全ての送受信モジュール12に対して判定する。これらの異常が発生すると、目標からの反射電力の低下やアンテナ指向性の劣化が生じ、最大探知距離や目標の観測精度等の要求されるレーダ性能を満足できなくなる。このため、レーダ制御器24は、上記判定の結果より送受信モジュール12の故障状況(故障数など)を把握し、下記の(1)式により表されるレーダ方程式にもとづき適切なシステムパラメータを導出し、各構成品に与える制御信号へ反映する。
【数1】

【0013】
レーダ制御器24は、最大探知距離の性能を維持するためのパラメータとして、(1)式より送信パルス幅τ、信号処理利得Gsを構成するパルス積分数nと変調帯域幅Δfを選択する。例えば、送受信モジュール12の送信出力が低下した場合、(1)式の送信尖頭電力Ptの低下や送信アンテナ利得Gtの低下が生じ、要求される最大探知距離を満たさなくなる。この場合、レーダ制御器24は、上記パラメータのうち、送信パルス幅τ、パルス積分数n、及び変調帯域幅Δfの値を、全て、何れか、または組み合わせで大きくし、(1)式により所望の最大探知距離を得られるようにする。
【0014】
送信パルス幅τ及び変調帯域幅Δfを大きくするには、送信パルス幅τをこれまでより長く、変調帯域幅Δfをこれまでよりも広く設定すればよい。レーダ制御器24は、予めデジタルデータにてメモリ(図示せず)に記憶された数種類の送信種信号から選択して、送信制御器21へ出力する。もしくは、レーダ制御器24は、必要となる送信パルス幅τ、変調帯域幅Δfを求め、この送信種信号をデジタルデータとして算出することも可能であり、これらの結果を送信制御器21へ出力する。
【0015】
また、パルス積分数nを大きくするにはパルス積分数を増加させればよく、レーダ制御器24は、これまでより同一方向に多くの送信パルス数を出力するようビームスケジューリングする必要がある。送信パルス数を増加させるには、例えば、以下の(1)〜(4)の手法がある。
【0016】
(1)ビームスキャンレートを遅くして、これまでより多くの送信パルスを同一方向に出力する。
【0017】
(2)送受信モジュール12のON/OFFにより、アンテナパターンのビーム幅を広くして、捜索ビーム方向の間隔を広げることで、同一方向にこれまでより多くの送信パルスを出力する。ただし、ビーム幅が広がることにより探知距離の劣化や目標の観測精度の劣化が生じる。
【0018】
(3)例えば、方位方向にビームスキャンしている場合は、この方位方向のスキャン範囲を狭く制限して、同一方向にこれまでより多くの送信パルスを出力する。
【0019】
(4)受信期間を短く制限して、送信パルスの繰返し周期を早くすることで、これまでより多くの送信パルスを同一方向に出力する。
【0020】
以上述べたように、上記実施形態では、アクティブフェーズドアレイアンテナを採用したレーダ装置において、送受信モジュール12の故障が発生した場合に、この故障数に応じて送信パルス幅や変調帯域幅等のシステムパラメータを適切に可変するようにしている。これにより、故障数を想定した予備の送受信モジュールをアンテナに備えることなく、かつ消費電力の増加を招くことなく、要求されるレーダ性能を維持することができるレーダ装置を実現できる。
【0021】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、図1のような受信信号のアナログ合成方式のアンテナについて説明したが、DBF(Digital Beam Forming)方式のアンテナにしても良い。また、上記(1)式において、Gsの算出式はパルス圧縮を行うことを前提に定義したが、パルス圧縮を行わないレーダ装置にも適用できる。この場合、Gs=nとして、可変パラメータから変調帯域幅Δfは削除する。
【0022】
また、送受信モジュール12の故障がなくても、レーダ運用において探知距離を向上させる必要が生じた際に、送信パルス幅τ、パルス積分数n、変調帯域幅Δfの全て、何れか、または組み合わせで適切に大きくすることで探知距離を向上させることができる。この場合、上記実施形態の図1において、信号処理装置2から送受信モジュール故障判定器23を除外して構成することができる。
【0023】
同様に、レーダ運用においてより小さい目標を捜索または追跡する必要が生じた際に、送信パルス幅τ、パルス積分数n、変調帯域幅Δfの全て、何れか、または組み合わせで適切に大きくすることで対応することができる。
【0024】
同様に、レーダ運用において距離分解能を向上させる必要が生じた際に、変調帯域幅Δfを適切に広くすることで1/Δfから求まる距離分解能を向上させることができる。
【0025】
したがって、上記実施形態によれば、従来のように送受信モジュールの故障分を補うための予備をアンテナに備える必要なく、故障した場合においてもシステムパラメータを適切に可変することで、要求されるレーダ性能を維持することが可能となる。これにより、送受信モジュールを必要最小限の数量で構成でき、コスト低減及び消費電力低減を実現できる。また、レーダ装置の構成を変えることなく、システムパラメータを適切に可変することを可能としたため、探知距離の向上、より小さい目標の検出、距離分解能の向上といった、レーダ性能の向上が運用状況に応じて自由に可変することができる。
【0026】
すなわち、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…空中線装置、2…信号処理装置、11…アンテナ素子、12…送受信モジュール、13…信号分配回路、14…走査制御器、15…送受信RF信号分配合成器、21…送信制御器、22…受信信号処理器、23…送受信モジュール故障判定器、24…レーダ制御器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子をアレイ状に配列したアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子のそれぞれに設けられる複数の送受信モジュールと、
前記アレイアンテナによるビーム走査を制御する走査制御部と、
前記送受信モジュールに送信信号を供給する送信制御部と、
所定の条件にしたがってレーダ方程式に関するパラメータを選択し、前記パラメータの値に基づいて前記送信制御部及び前記走査制御部の少なくとも一方を制御する制御部と
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送受信モジュールの故障を判定する判定部をさらに具備し、
前記制御部は、前記所定の条件と前記判定部による判定結果とをもとにレーダ方程式に関するパラメータを選択することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記パラメータは、送信パルス幅、信号処理利得を構成するパルス積分数及び変調帯域幅のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記所定の条件は、最大探知距離、目標の観測精度、及び距離分解能のうち少なくとも1つに関する要求を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のレーダ装置。

【図1】
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