説明

ロキソプロフェンを含有する抗アデノウイルス剤

【課題】新規な抗アデノウイルス剤及びその医薬組成物を提供する。
【解決手段】
本発明は、ロキソプロフェンの優れた抗アデノウイルス作用を新規に見出したものであり、アデノウイルスの感染(アデノウイルス感染症)によって発症する疾病、すなわち、夏風邪、プール熱及び角結膜炎等の予防及び/又は治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アデノウイルス剤、並びに、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェニルプロピオン酸系の非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤(以下、NSAIDと称す)の一種であるロキソプロフェンは、体内で活性代謝物に変換されて解熱鎮痛消炎作用を示すプロドラッグ型薬剤であるため、NSAIDの主要な副作用である消化管障害が軽減され安全性が高い(例えば、非特許文献1参照)。さらに、比較的即効性もあることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
ロキソプロフェンは、イブプロフェンやアセトアミノフェンと同様に、急性上気道炎における解熱・鎮痛の適応を有する(例えば、非特許文献3参照)が、これはあくまでもNSAIDの解熱および抗炎症作用を利用した対症療法として処方されるものである。
【0004】
急性上気道炎とは、感冒(風邪、普通感冒、風邪症候群とも言う)、インフルエンザ、咽頭炎、鼻炎・副鼻腔炎、扁桃炎、中耳炎、急性気管支炎等をさす(例えば、非特許文献4参照)。中でも、感冒は、主にライノウイルスやコロナウイルス等のウイルス感染によって発症するが、これらの感冒ウイルスを根治する薬はまだない。一方、アデノウイルスの感染(アデノウイルス感染症)によって発症する疾病として夏風邪、プール熱又は角結膜炎等が知られているが、同様に根治する薬はまだない。そのため、いずれの疾病においても、くしゃみ、鼻水、鼻閉、喉痛、咳、発熱、頭痛等の症状をへの対照療法が中心となり(例えば、非特許文献5参照)、くしゃみ・鼻水等には抗ヒスタミン剤や抗コリン剤、鼻閉には交感神経刺激剤、咳には鎮咳剤、喉痛・発熱・頭痛にはNSAIDが症状に応じて処方されている。
【0005】
これまでに、ロキソプロフェンの抗ウイルス作用は知られておらず、抗アデノウイルス作用についても不明であった。
【0006】

【非特許文献1】薬理と治療、Vol.16 No.2(1988)p611〜619
【非特許文献2】クリニカ、Vol.31 No.1(2004)p38〜41
【非特許文献3】日本医薬品集 医療薬 2007年版 じほう、2006、2612頁
【非特許文献4】PHYSICIANS’THERAPY MANUAL, Vol.9 2(1) 1998
【非特許文献5】J-Medical医学辞典“普通感冒”[2007年3月27日検索] <http://www.j-medical.net/sick/archives/2005/05/post_37.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述のように現在ウイルスが原因となって発症する疾病を根治する薬剤が知られていないという状況を鑑み、このような問題点を解決すべく長年にわたり新規抗ウイルス剤の開発研究を鋭意継続して行ってきた。
【0008】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、長年にわたり鋭意研究を行った結果、ロキソプロフェンに優れた抗アデノウイルス作用が発現するという驚くべき効果を見出した。その結果、ロキソプロフェンがアデノウイルスの感染(アデノウイルス感染症)によって発症する疾病、すなわち、夏風邪、プール熱又は角結膜炎等のの予防及び/又は治療のための医薬組成物として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】

すなわち、本発明は、(1)ロキソプロフェンを含有する抗アデノウイルス剤であり、好適には、
(2)(1)に記載の抗アデノウイルス剤を含有するアデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物、
(3)(2)に記載の抗アデノウイルス剤を含有する夏風邪、プール熱又は角結膜炎の予防及び/又は治療のための医薬組成物、
(4)さらに、その他の解熱鎮痛剤、中枢神経興奮剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤、抗コリン剤、ビタミン剤、生薬及び生薬抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する(2)〜(3)のいずれか1項に記載の医薬組成物及び
(5)ロキソプロフェンが、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物である(2)〜(4)のいずれか1項に記載の医薬組成物である。
【0011】
また、本発明は、(6)哺乳動物に、ロキソプロフェンの有効量を投与し、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療をする方法も提供する。
【0012】
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ロキソプロフェンの優れた抗アデノウイルス作用を新規に見出したものであり、アデノウイルスの感染(アデノウイルス感染症)によって発症する疾病、すなわち、夏風邪、プール熱及び角結膜炎等の予防及び/又は治療に有用である。
【0014】
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においてロキソプロフェンとは、ロキソプロフェン又はその塩(含水塩を含む)であり、好適には、ロキソプロフェンナトリウムであり、さらに好適には、ロキソプロフェンナトリウム・2水和物である。
【0016】
本発明の抗アデノウイルス剤及び/又は医薬組成物は、アデノウイルスに感染する怖れのある患者、又はアデノウイルスに感染した患者に投与するものである。アデノウイルスを起因とする疾患としては、例えば、夏風邪、プール熱及び角結膜炎等を挙げることができる。従って、本発明の抗アデノウイルス剤及び/又医薬組成物は、これらの疾患の患者に投与されるのが好ましい。
【0017】
ロキソプロフェンは第15改正日本薬局方に収載されている。
【0018】
また、ロキソプロフェンのその他の塩、水和物は、公知の方法で製造することができる。
【0019】
ロキソプロフェンの1回投与量は、適応症や年齢により異なるが、通常、20mg乃至180mgであり、これを1日に、1乃至3回投与する。
【0020】
固形製剤の場合において含有されるロキソプロフェンの含有量は、通常、10mg乃至400mgであり、好適には、20mg乃至180mgである。
【0021】
本発明の抗アデノウイルス剤及び/又は医薬組成物は、上述のロキソプロフェンの他に、更に、(1)その他の解熱鎮痛剤、(2)中枢神経興奮剤、(3)抗ヒスタミン剤、(4)抗炎症剤、(5)鎮咳剤、(6)去痰剤、(7)気管支拡張剤、(8)抗コリン剤、(9)ビタミン剤、(10)生薬及び生薬抽出物等を本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0022】
具体的には、
(1)アスピリン、アスピリンアルミニウム、サザピリン、エテンザミド、サリチルアミド、イブプロフェン、アセトアミノフェン、イソプロピルアンチピリン等の解熱鎮痛剤、
(2)カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン、テオフィリン、アミノフィリン、ジプロフィリン等の中枢神経興奮剤、
(3)マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、フマル酸クレマスチン、マレイン酸カルビノキサミン、メキタジン、酒石酸アリメマジン、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸トリプロリジン、塩酸アゼラスチン、塩酸エピナスチン等の抗ヒスタミン剤、
(4)塩化リゾチーム、ブロメライン、セラペプターゼ、セミアルカリプロティナーゼ、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸アンモニウム等の抗炎症剤、
(5)リン酸ジヒドロコデイン、リン酸コデイン、塩酸ノスカピン、ノスカピン、臭化水素酸デキストロメトルファン、デキストロメトルファンフェノールフタリン塩、リン酸ジメモルファン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸エプラジノン等の鎮咳剤、
(6)塩酸L−エチルシステイン、グアヤコールスルホン酸カリウム、クレゾール酸カリウム、グアイフェネシン、塩酸ブロムヘキシン、カルボシステイン、フドステイン、塩酸アンブロキソール等の去痰剤、
(7)メチルエフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸メトキシフェナミン、塩酸トリメトキノール、塩酸フェニルプロパノールアミン、プソイドエフェドリン等の気管支拡張剤、
(8)ベラドンナ(総)アルカロイド、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、臭化水素酸スコポラミン、ロートエキス、臭化ブチルスコポラミン、臭化メチルベナクチジウム、臭化チメピジウム、ピレンゼピン等の抗コリン剤、
(9)ビタミンA 、肝油、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、アスコルビン酸カルシウム、ビタミンD、ビタミンE、コハク酸トコフェロールカルシウム等のビタミン剤、
(10)地黄、ケイヒ、ゴオウ、ショウキョウ、キキョウ、マオウ、カンゾウ、キョウニン、ハンゲ、シャゼンソウ、セネガ、サイコ、ブクリョウ、シンイ等の生薬およびこれら生薬の抽出物(エキス、チンキ等)等、
を挙げることができるが、上記のもののみに限定されるべきものではない。
【0023】
これらの具体的な剤形としては、例えば、錠剤、細粒剤(散剤を含む)、カプセル、液剤(シロップ剤を含む)等をあげることができ、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
【0024】
上記各剤形において、その剤形に応じ、通常使用される各種添加剤を使用することもできる。例えば、賦形剤、安定化剤、コーテイング剤、滑沢剤、吸着剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、着色剤、pH調節剤及び香料等を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
【0025】
【実施例】
【0026】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0027】

(実施例1)錠剤
(1)成分
(表1)
1乃至2錠中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物 60
乳糖 120
ステアリン酸マグネシウム 2
トウモロコシデンプン 50
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0028】

(実施例2)細粒剤
(1)成分
(表2)
1包中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物 60
乳糖 100
ステアリン酸マグネシウム 4
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造する。
(実施例3)カプセル剤
(1)成分
(表3)
1乃至2カプセル中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物 60
乳糖 25
ステアリン酸マグネシウム 3
トウモロコシデンプン 40
ヒドロキシプロピルセルロース 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造した後、カプセルに充てんして硬カプセル剤を製造する。
(実施例4)シロップ剤
(1)成分
(表4)
30mL中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物 60
安息香酸ナトリウム 100
ポリビニルアルコール 20
白糖 800
精製水 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「シロップ剤」の項に準じてシロップ剤を製造した後、褐色ガラス瓶に充てんしてシロップ剤を製造する。
【0029】

(試験例)抗アデノウイルス効果試験
(1)被験物質
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物は三共(株)製のものを使用した。被験物質は、日本薬局方注射用水を用いて5mg/1.0mL/Kgになるように調製し、注射器及び胃ゾンデを用いて強制経口投与した。
(2)動物
C57BL/6NCrlCrlj雌マウス(日本チャールス・リバー社製)3週齢を購入し、温度23±3℃、湿度55±10%、照明時間8時〜20時に制御されたP3施設にて、オートクレーブ滅菌したポリカーボネート製飼育ケージに5匹ずつ入れて飼育した。飼料は実験動物用特殊固形飼料(CRF−1、オリエンタル酵母工業社製)および水フィルターを通した水道水をオートクレーブ滅菌したポリカーボネート製給水瓶にいれ、それぞれ自由に摂取させた。
【0030】
馴化終了後、至近時の体重をもとに1群16匹に群分けして次の2つの群で行った。1群は陽性対照群(アデノウイルス摂取かつ被験物質非投与)、2群は被験物質投与群(アデノウイルス摂取かつ被験物質投与)とした。なお、陰性対照群(アデノウイルス未摂取かつ被験物質非投与)については、先行試験により生存率100%が確認済みのため今回の試験では省略した。
(3)使用ウイルス
使用したアデノウイルス種類は、Mouse adenovirus strain FL(MAV FL)で、American Type Culture Collection(ATCC)から購入した。5週齢で腹腔内投与とした。投与濃度(Tissue Culture Infectious Dose:TCID50/10μL)は1×10であった。
【0031】
ATCCより購入した細胞を培養し、顕微鏡下でモノレイヤー状態を確認後、ウイルスを加え、Cytopathic Effect(CPE)を顕微鏡下で確認した。培養上清を回収し−80℃以下で保存した。
(4)試験方法
アデノウイルス接種の2週間前から接種後10日目まで、1日1回、計24回、被験物質を胃ゾンデと注射器を用いて強制経口投与した。
【0032】
被験物質投与2週目に、予試験にて死亡例が認められた濃度のウイルスを、腹腔内に接種した。接種後10日間観察してマウスの生存率を以下の式により算出して求めた。
【0033】
ウイルス感染後のマウス生存率(%)=100×[生存マウス数/総マウス数(16匹)]

(5)試験結果
得られた生存率の結果を図1に示す。
【0034】
表5は、アデノウイルス感染後10日目における生存率の結果である。
【0035】

(表5)
群 感染の有無 ロキソプロフェン 生存率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
被験物質投与群 感染 投与 81.3
陽性対照群 感染 非投与 46.7
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
表5より、アデノウイルスに感染したマウスにおいて、ロキソプロフェンの投与により生存率が顕著に改善することが認められた。
【0036】

図1は、横軸にウイルス感染からの経過日数を、縦軸に生存率(%)の推移を記したグラフである。図1より、ロキソプロフェンの投与により生存率の顕著な改善が認められた。
【0037】
以上のことから、ロキソプロフェンが優れた抗アデノウイルス作用を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、ロキソプロフェンの優れた抗アデノウイルス作用を新規に見出したものであり、アデノウイルスの感染(アデノウイルス感染症)によって発症する疾病、すなわち、夏風邪、プール熱及び角結膜炎等の予防及び/又は治療に有用である。
【0039】
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】アデノウイルス感染からの経過日数と、生存率の推移との関係を記したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロキソプロフェンを含有する抗アデノウイルス剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗アデノウイルス剤を含有するアデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の抗アデノウイルス剤を含有する夏風邪、プール熱又は角結膜炎の予防及び/又は治療のための医薬組成物。
【請求項4】
さらに、その他の解熱鎮痛剤、中枢神経興奮剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張剤、抗コリン剤、ビタミン剤、生薬及び生薬抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項2〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ロキソプロフェンが、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物である請求項2〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
哺乳動物に、ロキソプロフェンの有効量を投与し、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療をする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−285475(P2008−285475A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99934(P2008−99934)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】