説明

ロッドのシール構造

【課題】ロッドのシール構造において、磁気粘性流体中の磁性粒子によるロッドパッキンの摩耗を抑制すること。
【解決手段】磁気粘性流体を封入したシリンダチューブ10と、シリンダロッドの外周面20Aとの隙間をシールするロッドパッキン42を備えるものを前提とする。ロッドパッキン42よりもシリンダチューブ10の中側においてシリンダチューブ10とシリンダロッドの外周面20Aとの間に磁性粒子の通過を規制する磁性粒子規制装置60を備える。磁性粒子規制装置60は、シリンダチューブ10とシリンダロッドの外周面20Aとの間に、軸方向にスペースをあけて嵌め込まれた各一対の磁性板61と、各一対の磁性板の間の内径側のスペースSに磁路を形成するように設けられた永久磁石62と、を有する。また、シリンダロッド20の少なくとも外周面20Aが非磁性体とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば磁気粘性流体を封入したシリンダ型ダンパーのように、磁気粘性流体を封入した容器と、その容器を貫通して往復動するロッドとの隙間をシールする、ロッドのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体は、磁化可能な金属粒子(以下「磁性粒子」という。)を分散媒に分散させてなる液体である。この磁気粘性流体は、磁場の作用のないときには流体として機能する一方、磁場を作用させたときには、磁性粒子がクラスターを形成して液体が増粘し、液体の内部応力が増大する。その内部応力の増大により磁気粘性流体は、剛体のように機能してせん断流れや圧力流れに対して抗力を示すようになる。
【0003】
従来より、磁気粘性流体を用いたシリンダ型ダンパーが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。この種のダンパーによれば、磁性流体に与える磁場に応じて所望の粘度を発現させることができるため、効果的に制動対象物の運動エネルギーを磁気粘性流体に吸収させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−19741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気粘性流体を用いたダンパーでは、一般的な作動油を用いたダンパーと同様に、内部の磁気粘性流体が外部に漏出しないよう、シリンダチューブとシリンダロッドの外周面との隙間をシールするシール部材が設けられる。一般的な作動油を用いたダンパーでは、シール部材としてゴム製のロッドパッキンが用いられているが、磁気粘性流体を作動油として用いたダンパーでは、磁気粘性流体中の磁性粒子によって、ロッドパッキンが摩耗し、液密性が損なわれることが懸念される。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、磁気粘性流体を封入した容器(例えば、シリンダチューブ)と、その容器を貫通して往復動するロッド(例えば、シリンダロッド)の表面との隙間をシールするシール部材を備える、ロッドのシール構造において、磁気粘性流体中の磁性粒子によるシール部材の摩耗を抑制することができる、ロッドのシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロッドのシール構造(第1の発明)は、磁気粘性流体を封入した容器と、該容器に往復動可能に挿通されたロッドの外周面との隙間をシールするシール部材を備えるものを前提とし、前記シール部材よりも容器中側において前記容器と前記ロッドの外周面との間に磁性粒子の通過を規制する磁性粒子規制装置を備えるものである。この磁性粒子規制装置は、前記容器と前記ロッドの外周面との間に、軸方向にスペースをあけて嵌め込まれた一対の環状の磁性板と、前記一対の磁性板の間の内径側のスペースに磁路を形成するように設けられた磁場発生部材と、を有するものである。また、前記ロッドの少なくとも外周面が非磁性体とされている。
【0008】
かかる構成を備えるロッドのシール構造によれば、磁場発生部材によって、一対の磁性板の間の内径側のスペースに磁路が形成されるため、当該スペースに存在する磁気粘性流体中の磁性粒子がクラスターを形成して増粘し、この増粘部分がシールとして機能する。すなわち、磁性粒子が、磁性粒子規制装置とロッドの外周面との隙間を通過してシール部材側へ移動しようとしても上記増粘部分が当該磁性粒子の通過を規制するように働く。また、ロッドの少なくとも外周面が非磁性体からなることから、ロッドには前記磁場発生部材による磁路が形成されず、ロッドの外周面に磁性粒子が吸着しにくくなっている。このため、ロッドの往復動作に対する磁気粘性流体よる抵抗が低く抑えられる。
【0009】
前記磁場発生部材は、例えば、前記一対の磁性板の間において磁極が当該一対の磁性板の側面の外径側にそれぞれ接するように配設され、内径が当該一対の磁性板の内径より大きく形成された環状の永久磁石である(第2の発明)。
【0010】
前記磁性粒子規制装置は、軸方向に連なって複数設けられており、前記各磁場発生部材の磁極の向きが隣接する磁場発生部材の磁極の向きと相反しているものであることが望ましい(第3の発明)。
【0011】
かかる構成を備えるロッドのシール構造によれば、磁性粒子規制装置が軸方向に連なって複数設けられているので、シール部材へ到達する磁性粒子をより一層少なくすることができる。
【0012】
第3の発明において、隣接する磁性粒子規制装置が、それらの磁場発生部材の間に配置される磁性板として1枚の磁性板を共有しているものであってもよい。
【0013】
第3の発明において、隣接する磁性粒子規制装置の隣り合う磁性板の間に非磁性板が介在していてもよい。
【0014】
第3の発明において、隣接する磁性粒子規制装置の隣り合う磁性板同士の合わせ面とこれらの各磁性板の内径面との交差部位にアール加工又は面取り加工が施されているものであってもよい。
【0015】
既述のロッドのシール構造において、例えば、前記容器をシリンダチューブとし、前記ロッドをシリンダロッドとし、前記シール部材をロッドパッキンとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のロッドのシール構造によれば、磁気粘性流体中の磁性粒子がシール部材に到達し難くなるので、磁性粒子によるシール部材の摩耗が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るロッドのシール構造を備えるシリンダ装置を示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図2において、磁性板、永久磁石、シリンダロッドおよびシリンダチューブの断面に施していたハッチングを省略し、永久磁石の磁極の位置に文字「S」、「N」を付した図である。
【図4】図2に対応する図面であって、「他の実施形態1」に係るロッドのシール構造を示す断面図である。
【図5】図2に対応する図面であって、「他の実施形態1」に係るロッドのシール構造を示す断面図である。
【図6】図2に対応する図面であって、「他の実施形態2」に係るロッドのシール構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態に係るロッドのシール構造を備えるシリンダ装置100を示す断面図である。図2は図1のA部拡大図である。本実施形態では、シリンダ装置100の一実施形態として直動式のダンパーを例に挙げて説明する。
【0019】
シリンダ装置100は、磁気粘性流体50を封入した容器としてのシリンダチューブ10と、このシリンダチューブ10に往復動可能に挿通されたシリンダロッド20と、シリンダチューブ10内に摺動自在に設けられたピストン30と、シール部材としてのロッドパッキン42とを備えている。シリンダ装置100は、シリンダチューブ10内に封入された磁気粘性流体50の粘度を変化させて、ダンパーとしての減衰力を変化させるため、当該磁気粘性流体50に対して磁場を与える磁場発生装置(図示せず)も備えている。なお、この磁場発生装置は、後述する磁性粒子規制装置60に含まれる磁場発生部材(永久磁石62)とは別異のものである。
【0020】
シリンダチューブ10には、例えば先端が閉塞し、基端にシリンダロッド20の挿通孔11が形成された筒体が用いられている。このシリンダチューブ10の基端部の内周面12(挿通孔11)には、ロッドパッキン42等を装着するためのシール溝44〜46が形成されている。なお、シリンダチューブ10には、ステンレス鋼(SUS304)等の非磁性体が用いられることが望ましい。
【0021】
シリンダロッド20には、例えば中実円柱部材が用いられ、その先端部付近にピストン30が連結されている。このピストン30は、シリンダチューブ10内を往復動するものであり、このピストン30によりシリンダチューブ10内が2室に区画されている。これらの2室は図示しない細長い通路にて連通されてシリンダ装置100をダンパーとして機能させるようになっている。なお、シリンダロッド20には、ステンレス鋼等の非磁性体が用いられている。但し、シリンダロッド20の全体が非磁性体であることは必ずしも要求されず、少なくともその外周面20Aが非磁性体であればよい。例えば、非磁性体の被膜をロッドの外周面に形成したものを上記シリンダロッド20として採用してもよい。
【0022】
シリンダチューブ10の基端部の内周面12に形成されたシール溝44〜46には、シリンダチューブ10の中側から順にバッファリング41、ロッドパッキン42、ダストシール43が装着されている。バッファリング41は、ロッドパッキン42への異物の侵入を規制するためなどに設けられている。ロッドパッキン42は、シリンダチューブ10の基端部の内周面12とシリンダロッド20の外周面20Aとの隙間をシールするシール部材である。図1ではロッドパッキン42は、バックアップリング47とともにシール溝45に嵌着されている。ロッドパッキン42には、一般に、ニトリルゴム、ウレタンゴムなどの合成樹脂が用いられる。ダストシール43は、外部からシリンダチューブ10内へゴミ、粉塵などの異物が侵入するのを防止するために設けられている。なお、ダストシール41が設けられる位置は、後述する磁性粒子規制装置60よりもシリンダチューブ10の中側(ピストン30側)であってもよい。
【0023】
バッファリング41、ロッドパッキン42等よりもシリンダチューブ10の中側において、シリンダチューブ10とシリンダロッド20の外周面20Aとの間に、磁性粒子規制装置60が設けられている。この磁性粒子規制装置60は、ロッドパッキン42側への磁性粒子の移動を規制するために設けられている。
【0024】
以下、上記磁性粒子規制装置60について更に詳しく説明する。図2に示すように、磁性粒子規制装置60は、シリンダロッド20の軸方向にスペースZをあけて嵌め込まれた環状の磁性板61と、磁性板61同士の間の内径側のスペースに磁路を形成するように設けられた磁場発生部材としての永久磁石62とを備えている。
【0025】
上記磁性板61は、シリンダチューブ10の内周面とシリンダロッド20の外周面20Aとの間に嵌め込まれており、2枚一対で1つの磁路を形成する。対をなす各2枚の磁性板61,61の間の外径側には、環状の永久磁石62が挟み込まれている。図2に示す例では磁性粒子規制装置60が、軸方向に連なって複数設けられており、隣接する2つの磁性粒子規制装置60,60は、それらの永久磁石62,62の間に配置される磁性板として1枚の磁性板61を共有している。つまり、当該1枚の磁性板61内には2つの磁路が形成されるようになっている。
【0026】
永久磁石62は、その磁極が磁性板61,61の側面の外径側に接するように配設されており、各永久磁石62の磁極の向きは、隣接する他の永久磁石62の磁極の向きと相反するように設置されている。また、永久磁石62の内径D1は、シリンダロッド20の外径D2および磁性板61の内径D3より大きくなっている。これにより、各一対の磁性板61,61と、シリンダロッド20の外周面20Aと、永久磁石62の内周面62Aとに囲まれたスペースZが形成されている。なお、永久磁石62の磁極を磁性板61,61の側面の外径側に接するように配置するのは、各磁性板61,61の間の内径側のスペースZに磁路を形成させるためである。
【0027】
以下、磁性粒子規制装置60の作用について図3を参照しながら説明する。図3は、図2において、説明の便宜上、磁性板61、永久磁石62、シリンダロッド20およびシリンダチューブ10の断面に施していたハッチングを省略し、永久磁石62の磁極の位置に文字「S」、「N」を付した図である。
【0028】
図3に示すように、磁性粒子規制装置60においては、磁性板61の側面の外径側に接する永久磁石62によって、磁性板61,61同士の間の内径側の各スペースZに磁路Yが形成される。このため、各スペースZに存在する磁気粘性流体中の磁性粒子がクラスターを形成して増粘し、この増粘部分がシールとして機能する。すなわち、磁性粒子規制装置60とシリンダロッド20の外周面20Aとの隙間をロッドパッキン42側へ磁性粒子が通過しようとしても上記スペースZに形成された磁気粘性流体の増粘部分がその通過を規制するように働く。
【0029】
また、磁性粒子規制装置60とシリンダロッド20の外周面20Aとの隙間をロッドパッキン42側へ磁性粒子が通過しようとしても、当該磁性粒子は、永久磁石62により磁化された磁性板61に吸着される。この吸着作用も磁性粒子の通過を規制するように働く。
【0030】
ところで、シリンダロッド20の外周面20Aが非磁性体からなることにより、その外周面20Aに磁性粒子が吸着しにくくなっている。このため、磁性粒子がシリンダロッド20の外周面20Aに付着してロッドパッキン42まで運搬される可能性が少なくなっている。しかも、シリンダロッド20の外周面20Aのごく近傍では、磁気粘性流体が増粘し難いことから、磁気粘性流体がシリンダロッド20の往復動作の抵抗として作用しにくくなっている。
【0031】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係るロッドのシール構造によれば、磁気粘性流体中の磁性粒子がロッドパッキン42に到達し難くなっており、磁性粒子によるロッドパッキン42の摩耗が抑制される。
【0032】
<他の実施形態1>
既述の実施形態では、隣接する磁性粒子規制装置60,60が、それらの永久磁石62,62の間に配置された1枚の磁性板61を共有していたが、図4に示すように、隣接する磁性粒子規制装置60,60が、それらの永久磁石62,62の間に配置される磁性板61として各別に磁性板61,61を有するものとしてもよい。この場合、互いに重なり合っている磁性板61,61にそれぞれ各1本の磁路Yが形成され、スペースZにおける磁束密度の増大が期待できる。スペースZにおける磁束密度が増大すれば、磁気粘性流体の増粘によるシール効果の増大および磁性板61による吸着効果の増大が期待できる。
【0033】
隣接する磁性粒子規制装置60,60に形成される2つの磁路Yどうしの干渉を防止するために、重なり合っている磁性板61,61どうしの合わせ面61Aと内径面61Bとの交差部位のエッジ部61a(図4参照)に、アール加工を施して、図5に示すようにしてもよい。あるいは、アール加工の代わりに面取り加工を施してもよい。
【0034】
<他の実施形態2>
図6に示すように、隣接する磁性粒子規制装置60,60の間にそれぞれ環状の非磁性板63(ハッチングで示す板材)を介在させてもよい。これにより、隣接する磁性粒子規制装置60,60に形成される2つの磁路Yどうしの干渉がより確実に防止され、スペースZにおけるさらなる磁束密度の増大が期待できる。なお、図6に示す非磁性板63は、磁性板61と同じ内外径を有する環状のものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、例えば、磁気粘性流体を用いた直動型のダンパーのシリンダロッドのシール構造として適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 シリンダチューブ(容器)
20 シリンダロッド(ロッド)
20A シリンダロッドの外周面(ロッドの外周面)
42 ロッドパッキン(シール部材)
50 磁気粘性流体
60 磁性粒子規制装置
61 磁性板
61A 合わせ面
61B 内径面
62 永久磁石(磁場発生部材)
63 非磁性板
Z スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気粘性流体を封入した容器と、該容器に往復動可能に挿通されたロッドの外周面との隙間をシールするシール部材を備える、ロッドのシール構造において、
前記シール部材よりも容器中側において前記容器と前記ロッドの外周面との間に磁性粒子の通過を規制する磁性粒子規制装置を備え、
前記磁性粒子規制装置は、
前記容器と前記ロッドの外周面との間に、軸方向にスペースをあけて嵌め込まれた一対の環状の磁性板と、
前記一対の磁性板の間の内径側のスペースに磁路を形成するように設けられた磁場発生部材と、
を有するものであり、
前記ロッドの少なくとも外周面が非磁性体とされた、ことを特徴とするロッドのシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のロッドのシール構造において、
前記磁場発生部材は、前記一対の磁性板の間において磁極が当該一対の磁性板の側面の外径側にそれぞれ接するように配設され、内径が当該一対の磁性板の内径より大きく形成された環状の永久磁石である、ことを特徴とするロッドのシール構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロッドのシール構造において、
前記磁性粒子規制装置は、軸方向に連なって複数設けられており、
前記各磁場発生部材の磁極の向きが隣接する磁場発生部材の磁極の向きと相反している、ことを特徴とするロッドのシール構造。
【請求項4】
請求項3に記載のロッドのシール構造において、
隣接する磁性粒子規制装置が、それらの磁場発生部材の間に配置される磁性板として1枚の磁性板を共有している、ことを特徴とするロッドのシール構造。
【請求項5】
請求項3に記載のロッドのシール構造において、
隣接する磁性粒子規制装置の隣り合う磁性板の間に非磁性板が介在している、ことを特徴とするロッドのシール構造。
【請求項6】
請求項3に記載のロッドのシール構造において、
隣接する磁性粒子規制装置の隣り合う磁性板同士の合わせ面とこれらの各磁性板の内径面との交差部位にアール加工又は面取り加工が施されていることを特徴とするロッドのシール構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のロッドのシール構造において、
前記容器はシリンダチューブであり、前記ロッドはシリンダロッドであり、前記シール部材はロッドパッキンである、ことを特徴とするロッドのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−193755(P2012−193755A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56168(P2011−56168)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】