説明

ロボットの動作制御装置及びプログラム

【課題】ロボットに外力が作用したときに、状況に拘らずロボットの衝撃吸収性能を良好に保持できるとともに、ロボットの動作遅れによる振動の発生を抑制する。
【解決手段】本発明の動作制御装置12では、変位量xを時間tで分数階微分(微分階数r)し、定数Pを乗じた値が、ロボット10に作用した外力に等しくなる関係を維持するように、ロボットアーム11の動作を制御する処理がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの動作制御装置及びプログラムに係り、更に詳しくは、人間と恊働するロボットの可動部が人間に柔らかく接触しながら動作するためのロボットの動作制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者や身体障害者の日々の生活を支援することを目的としたロボットの開発が進められている。当該ロボットは、正確な位置決めが要求される他に、人間に柔らかく接触しながら人間をアシストすることが更に要求される。従来、このようなロボットに対する動作制御としては、ロボットに作用する力に応じ、人間とロボットとの間にバネとダッシュポッドが仮想的に存在するようにロボットを動作させるインピーダンス制御が知られている(特許文献1等参照)。このインピーダンス制御は、一般的に、次式で示されるように、バネで表される弾性要素とダッシュポッドで表される粘性要素とを並列に並べた要素を仮想的に設定し、ロボットに付加された外力による衝撃を緩和するようにロボットを動作させる。
【数1】

ここで、f(t)は時間tの関数で表される前記外力であり、xはロボットの変位、Kは弾性定数、Cは粘性定数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−143704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記インピーダンス制御では、その高周波特性が粘性定数Cを含む粘性項に大きく影響されることから、所定以上の早い速度で人間や物体がロボットに接触した場合に、インピーダンスが急激に上昇してロボットの衝撃緩和動作を阻害し、ロボットに接触した人間や物体に大きな衝撃力を発生させてしまうという不都合がある。また、所定以上の硬さの物体がロボットに接触した場合にも同様の不都合を招来する。更に、ロボットの動作に所定以上の遅れが生じた場合には、前述の粘性項の影響により、ロボットに振動を発生させてしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、ロボットに外力が作用したときに、状況に拘らずロボットの衝撃吸収性能を良好に保持できるとともに、ロボットの動作遅れによる振動の発生を抑制できるロボットの動作制御装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係るロボットの動作制御装置では、時間tの関数で表される外力の大きさをf(t)とし、ロボットの可動部の変位量をxとし、予め設定された定数をPとし、予め設定された微分階数をr(0<r<1)としたときに、変位量xを時間tで分数階微分(微分階数r)し、定数Pを乗じた値が、ロボット10に作用した外力f(t)に等しくなる関係を維持するように、前記可動部の動作を制御する処理がなされるようになっている。
【0007】
なお、本明細書及び本特許請求の範囲において、「分数階微分」とは、非整数階の微分を意味する。当該分数階微分の演算方法としては、例えば、文献(Shantnu Das著,「Functional Fractional Calculus for
system identification and control」(ドイツ),Springer,2007年9月,pp.1−18)に記載された方法が用いられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロボットの動作制御に用いる関係式には、従来のインピーダンス制御の粘性項のような1階微分項と、同弾性項のような0階微分項が混在せずに、非整数階微分した項しか存在しないため、どの周波数領域においても、インピーダンスの上昇がほぼ一定となり、高周波帯でも、インピーダンスをなだらかに上昇させることができる。これにより、所定以上の早い速度で人間や物体がロボットに接触した場合や、所定以上の硬さの物体がロボットに接触した場合でも、インピーダンスの急激な上昇を抑制し、ロボットの衝撃緩和動作を良好に保持することができる。また、同様に、ロボットの動作に所定以上の遅れが生じた場合にも、ロボットの振動の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る動作制御装置が適用されたロボットの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1には、本発明に係る動作制御装置が適用されたロボットの概略構成図が示されている。この図において、ロボット10は、可動部を構成するロボットアーム11と、ロボットアーム11の動作を制御する動作制御装置12とを備えて構成されている。
【0012】
前記ロボットアーム11は、図示省略したモータを含む各種部材によって所定空間内の動作が可能となっている。このロボットアーム11は、公知の機構により構成されており、本発明の本質部分ではないため、詳細な説明を省略する。
【0013】
前記動作制御装置12は、CPU等の演算処理装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成され、当該コンピュータを以下の各手段として機能させるためのプログラムがインストールされている。
【0014】
この動作制御装置12は、ロボットアーム11を目標とする所望の状態に動作させる目標動作制御手段14と、ロボット10に外力が作用したときに、当該外力の影響を緩和するようにロボットアーム11を動作させる衝突吸収制御手段15とを備えている。
【0015】
前記衝突吸収制御手段15では、ロボット10の所定部位に設けられた図示しない力センサで外力の大きさが計測されると、当該外力の大きさに応じ、以下の式で表される関係が成立するように、ロボットアーム11の動作を制御する。
【数2】

ここで、f(t)は、時間tの関数で表される外力の大きさであり、xは、ロボットアームの変位量であり、Pは、予め設定された定数であり、rは、微分階数である。なお、定数Pは、所望とするロボットの硬さに応じて定められる。微分階数rは、0<r<1の範囲内で設定され、例えば、r=0.15を挙げることができる。
つまり、ここでは、変位量xを時間tで分数階微分(微分階数r)し、定数Pを乗じた値が外力に等しくなる関係を維持するように、ロボットアーム11の動作を制御する処理がなされる。
【0016】
本発明者らは、従来のインピーダンス制御(以下、単に「従来の制御」と称する。)がなされるロボットと、本実施形態の衝突吸収制御手段15による制御(以下、単に「本実施形態の制御」と称する。)がなされるロボット10とについて、数理シミュレーションにより、所定の物体をロボットに衝突させたときの影響を確認した。すなわち、ここでは、所定の関係式を設定し、ロボットに衝突させる物体の速度や物体の硬さを変えるとともに、ロボットの動作に遅れを発生させて、従来の制御と本実施形態の制御との効果の差を確認した。このシミュレーションによる演算によれば、本実施形態の制御は、所定以上の速度で物体がロボットに接触したときや、所定以上の硬さの物体がロボットに接触したときでも、従来の制御に比べ、ロボットに発生する衝撃力が低下される結果となった。また、ロボットの動作に所定以上の遅れが存在したときでも、本実施形態の制御の方が、従来の制御よりもロボットに発生する振動が抑制される結果となった。
【0017】
なお、本発明における動作制御装置12によるロボット制御は、前記実施形態に例示したロボットアーム11の制御に限定されるものではなく、種々の構成の可動部に対する動作制御に適用することが可能である。
【0018】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0019】
10 ロボット
11 ロボットアーム(可動部)
12 動作制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットに作用する外力の大きさに応じて、当該ロボットの可動部の動作を制御する動作制御装置において、
時間tの関数で表される前記外力の大きさをf(t)とし、前記可動部の変位量をxとし、予め設定された定数をPとし、予め設定された微分階数をr(0<r<1)としたときに、分数階微分による以下の関係式
【数1】

が成立するように、前記外力の大きさに応じて前記可動部を動作制御することを特徴とするロボットの動作制御装置。
【請求項2】
ロボットに作用する外力の大きさに応じて、当該ロボットの可動部の動作を制御する動作制御装置のプログラムにおいて、
時間tの関数で表される前記外力の大きさをf(t)とし、前記可動部の変位量をxとし、予め設定された定数をPとし、予め設定された微分階数をr(0<r<1)としたときに、分数階微分による以下の関係式
【数2】

が成立するように、前記外力の大きさに応じて前記可動部を動作制御する処理を、前記動作制御装置のコンピュータに実行させることを特徴とする動作制御装置のプログラム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−45684(P2012−45684A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191601(P2010−191601)
【出願日】平成22年8月29日(2010.8.29)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】