説明

ロボットティーチング棒

【課題】ロボット塗装において、スプレーガンを使用して塗装ロボットの近距離塗装のティーチングを行う場合に、吹き付け距離の近距離設定が容易に行えると共に、万一塗装物と接触した場合においても、塗装物の破損/落下・コンベアの損傷、あるいはスプレーガンの損傷・ロボットの故障・ティーチング棒の折損等の異常を生じてしまうことのないティーチング棒を提供する。
【解決手段】ロボット塗装時のスプレーガンの先端に取り付けするためのホルダーに棒状の可撓性部材をスプレーパターンの中心方向を示すように取り付けた。また、前記可撓性部材が片側に等間隔に突起部を形成した樹脂製の帯状体を該突起部同士が噛み合うように折り曲げて棒状にした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗装ロボットで塗装を行う前の段階で、塗装ロボットに対して塗装物を塗装する時の吹き付け距離や吹き付け手順を記憶させるためのティーチング作業時に使用するティーチング棒に関する。
【0002】
【従来の技術】塗装ロボットで塗装を行う場合には、塗装ロボットの先端に取り付けたスプレーガンを作業者が直接動かしたり、ティーチング装置で間接的に動かしながら塗装物に対するスプレーガンの吹き付け距離の設定・スプレーパターンの方向設定・スプレーガンの移動スピード・吹き付け順序および吹き付けのON/OFF設定を行って、塗装手順を塗装ロボットに教示して記憶させるティーチング作業が必要である。そして、ティーチング作業では塗装ロボットの先端に取り付けたスプレーガンの先端にティーチング棒を取り付けることによって、スプレーガンの吹き付け距離とスプレーパターンの中心位置とを目視確認しながら設定する。
【0003】従来、ティーチング棒53には講演会や説明会等で壁面やボード等の資料を指す為のいわゆる「差し棒」を利用していた。「差し棒」50は図5に示すように径の異なる金属筒を組み合わせて無段階に伸縮可能に構成されていて、縮めた長さが約150mmで最大長さは約500mmに延長できる。「差し棒」50はホルダー2に差し込まれ、固定ネジ2aで固定されている。ホルダー2の内部にはスプレーガンの先端部に取付けるための取付穴2bが形成されていて、取付穴2bにはスプレーガンの先端ネジ部に押入して固定させるためのOリング4が還装されている。そして、一般的なエアースプレーガンや静電スプレーガンでは、吹き付け距離が200〜300mmであって、塗装部位に応じて吹き付け距離を変化させながらティーチング作業を行うが、「差し棒」を使用すると無段階に伸縮可能であるので自由に吹き付け距離の設定が可能である。
【0004】ティーチング作業時には、図3のように塗装物を停止させた状態で人がロボット11をゆっくり動作させながら差し棒50と塗装物12との間に目視で5mm程度のほぼ一定の空間を保たせながらティーチング作業を行うが、ティーチング作業の後で、塗装ロボットを再生させて吹き付け距離等や塗装手順に問題点・異常点が無いかどうかを作業時のスピードで再生させながら確認を行う。そして、一般的にはコンベアで搬送されている塗装物の動きを演算処理して、コンベアの動くスピードに追従しながらティーチング作業で塗装ロボットに覚え込ませた動作を再生する。
【0005】ティーチング作業では、作業効率を追求する結果として塗装ロボットの動作性能の限界に近い動作を求めたり、ある動作から次の動作に移る段階で最短移動時間を求める結果として無理な動作設定をした場合には、しばしばティーチング棒が塗装物に接触してしまうトラブルが発生するので、都度ティーチングを修正してロボットの塗装動作を完成させて行く。そして、「差し棒」50は無段階に伸縮可能であるので、接触に対して若干の対応力を有してはいるが、ロボット塗装では主に「差し棒」50が塗装物の表面を横移動するため、「差し棒」50が塗装物に接触してしまった場合には、「差し棒」50の破損・塗装物の破損・コンベアの損傷あるいはロボットの故障等の異常が発生してしまう場合が多かった。
【0006】一方、近年の地球環境保護の高まりに従って塗装方法も大きな変化が求められ、その1方法として低圧スプレーガンが利用されるようになってきた。ロボット塗装に使用される低圧スプレーガンの代表例としてはアネスト岩田(株)のLPA形の低圧自動スプレーガンがあって、従来形の自動スプレーガンであるWA−100形・LA−90形に比較して空気キャップの内部圧力が0.07Mpaと約1/4であって、塗料ミストの飛散低減と塗着効率の20〜30%向上が図れる性能を有している。
【0007】この低圧スプレーガンにおいては吹き付け距離を短くする必要があって、従来形のスプレーガンの吹き付け距離200〜250mmに対して、吹き付け距離は150〜200mmと短くなる。さらに、近年生産が増大している携帯電話やノート形パソコンの塗装では、マグネシウム合金製の筐体用の塗料が高価であることから70〜130mm程度まで塗装距離を短くして塗着効率を上げる塗装方法が一般化している。
【0008】この結果、塗装距離を70〜130mm程度にした場合には、ロボット塗装のティーチング作業で従来使用している「差し棒」を短くさせても150mmの長さであるため、長すぎて使用できない問題が生じてしまう。また、この「差し棒」に替えて70〜130mm程度の非可撓性の棒材を使用した場合には収縮しろや屈曲性が無く、塗装物に接触してしまった場合に棒材の破損・塗装物の破損/落下・コンベアの損傷、あるいはロボットの故障等の異常を生じてしまう状況にあった。
【0009】また、塗装距離を70〜130mm程度にした場合には、従来の塗装距離が長い場合に比較して塗装距離の誤差を小さくする必要が有るため、棒材の先端と塗装物との距離を極力近づけてティーチング作業する必要がある。この結果、非可撓性の棒材を使用した場合には、ティーチング作業時に棒材が塗装物に接触してしまって棒材の破損・塗装物の破損/落下・コンベアの損傷、あるいはロボットの故障等の異常を生じ易くなる状況にあった。同様に、棒材の先端と塗装物との距離をより近づけた状況でロボットの再生動作を行うため、従来にも増して再生時に棒材が塗装物に接触し易い状況にもなっていた。
【0010】これらの解決策として、図4のようにホルダー2に同軸状に交点52を形成するように複数のレーザ光の投光器51を取り付けた方法もあって、従来のように差し棒の先端と塗装物との距離を目視で一定に保つ必要はなく、塗装物表面に交点を合わせることによって吹き付け距離を維持することができるが、複雑な凹凸の塗装物の場合には交点5が激しく変化するため必ずしも使い易いものではなかった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、スプレーガンを使用して塗装ロボットの近距離塗装のティーチングを行う場合に、吹き付け距離の近距離設定が容易に行えると共に、万一塗装物と接触した場合においても、塗装物の破損/落下・コンベアの損傷、あるいはスプレーガンの損傷・ロボットの故障・ティーチング棒の折損等の異常を生じてしまうことのないティーチング棒を提供することを課題としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】第1の発明では、ロボット塗装時のスプレーガンの吹き付け距離や塗装手順をロボットに教示する場合に使用するティーチング棒であって、該スプレーガンの先端に取り付けするためのホルダーに棒状の可撓性部材をスプレーパターンの中心方向を示すように取り付けたことを特徴としている。第2の発明では、前記可撓性部材が片側に等間隔に突起部を形成した樹脂製の帯状体を該突起部同士が噛み合うように折り曲げて棒状にした。
【0013】
【発明の実施形態】図1は本発明のティーチング棒をスプレーガンの先端に取り付けた図。図2(A)は片側に等間隔に突起部を形成した樹脂製の帯状体を示す正面図・平面図・側面図で、図2(B)はこの帯状体を折り曲げて棒状にホルダーに取り付けた図。図3はロボット先端にティーチング棒を固定したスプレーガンを取り付けて、ティーチングを行っている状態を示す図である。
【0014】図1は本発明のティーチング棒13aをスプレーガン1に取り付けた実施例で、スプレーガン1は先端のネジ部6から空気キャップが取り外されていて、替わりにネジ部6へホルダー2が差し込まれて抜け止めの役目をしたOリング4で取り付けられ、さらにホルダーの中心部には棒3が取り付けられている。棒3は形状記憶合金の線材や径が約6mmのウレタンゴム棒等の可撓性部材を使用することによって、万一この棒3が塗装物に接触してしまった場合でも、棒が容易に曲がることができるので塗装物の破損・コンベアの損傷あるいはロボットの故障等のトラブルが回避される。また、棒3として円筒状バネ等の他の可撓性を有する棒状部材を使用しても良く、可撓性によって同様の効果が得られるものであるが、再生時に塗装作業と同じ早さでロボットが動作した場合の反転・停止等に大きな振れが生じないように、適度な剛性を有していることが望ましい。
【0015】図2(B)は他の実施例のティーチング棒13bを示す図で、他の部材8aをガイド7に介してホルダー2に取り付けた図で、図2(A)はこのホルダー2の先端に取り付ける棒に利用する部材8aを示す図である。部材8aは帯状体9の片面の両端に突起部10が櫛状に形成されていて、例えば板金製箱の出入り口穴で電気配線の保護に使用する為に出入り口穴に取り付けるゴムブッシュに替わって使用される「フリーブッシュ」品川商工(株)・SG32形であって、ナイロン樹脂成型品であるので容易に折り曲げが可能であり、図2(B)のように突起部10同士が噛み合うように折り曲げて棒状にホルダー2に取り付けた実施例である。この場合、適度な剛性と可撓性を持つため、万一この部材8が塗装物に接触してしまった場合でも、部材8が容易に曲がるので塗装物の破損・コンベア損傷あるいはロボットの故障等のトラブルが回避される。また、部材8は市販の長尺品で長さをナイフ等で切って容易に調節できるので、塗装部位に応じて長さを調節した部材8を差し替え交換することが可能である。
【0016】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
(1)ホルダーの先端に取り付ける棒が容易に曲がるので塗装物の破損・コンベアの損傷、あるいはロボットの故障等のトラブルが回避される。
(2)ホルダーの先端に取り付ける棒の長さをナイフ等で切って容易に調節できるので、塗装部位に応じて長さを調節して差し替え交換することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で、可撓性の棒を先端に取り付けたティーチング棒をスプレーガンの先端に取り付けた図。
【図2】図2(A)は本発明の他の実施例に使用する部材例を示す図で、片側に等間隔に突起部を形成した樹脂製の帯状体を示す正面図・平面図・側面図であり、図2(B)はこの帯状体を折り曲げて棒状にホルダーに取り付けた図。
【図3】図3はロボット先端にティーチング棒を固定したスプレーガンを取り付けて、ティーチングをおこなっている状態を示す図。
【図4】ホルダーに同軸状に交点を形成するように複数のレーザ光の投光器を取り付けた状態を示す図。
【図5】径の異なる金属筒を組み合わせて無段階に伸縮可能な構成の「差し棒」をティーチング棒とした状態を示す図。
【符号の説明】
1 スプレーガン
2 ホルダー
2a 固定ねじ
2b 取付け穴
3 棒
4 Oリング
8,8a 部材
9 帯状体
10 突起部
11 ロボット
12 塗装物
13a,13b ティーチング棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】ロボット塗装時のスプレーガンの吹き付け距離や塗装手順をロボットに教示する場合に使用するティーチング棒であって、該スプレーガンの先端に取り付けるためのホルダーに棒状の可撓性部材をスプレーパターンの中心方向を示すように取り付けたことを特徴とするティーチング棒。
【請求項2】前記可撓性部材が片側に等間隔に突起部を形成した樹脂製の帯状体を該突起部同士が噛み合うように折り曲げて棒状にしたことを特徴とする請求項1に記載のティーチング棒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−79481(P2002−79481A)
【公開日】平成14年3月19日(2002.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−270874(P2000−270874)
【出願日】平成12年9月7日(2000.9.7)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】