説明

ロボットハンドの被着装置および着脱方法

【課題】ロボットハンドの骨格部への着脱を容易にし、かつ装置個々の識別を可能にするロボットハンドの被着装置を提供すること。
【解決手段】関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部11に被着し、指または全体で物を把持するロボットハンドの被着装置10において、ロボットハンドの骨格部に着脱可能な柔軟素材からなり、指先または手の平の所定位置の表面に装置個々の識別に用いる固有の凹凸形状を有するディンプル模様が形成された構成である。また、ロボットハンドの骨格部と被着装置の内面との空間部分に、有機溶剤に溶解し有機溶剤の揮発によって固まる性質の高分子樹脂PVBを充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に着脱可能な手袋状のものであり、かつ装置個々の識別を可能にするロボットハンドの被着装置および着脱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットハンドは、腕や指の曲げ伸ばしを行う多関節機構により、人の腕や手に近い動作が可能になっている(特許文献1)。また、指先で物を掴む動作も可能になっており、指の動きや把持力の調整によって柔らかい物も掴むことができるようになってきた。
【0003】
また、ロボット本体に柔軟素材でできた外皮を着脱自在に被着させ、人間に親近感を与えるとともに可動部に与える負荷を軽減する被着構造が提案されている(特許文献2)。ここで用いる柔軟素材としては、布生地、毛皮、スポンジ、エラストマー、合成ゴムなどが想定されている。
【0004】
また、ロボット本体上に被せる柔軟素材で疑似的な皮膚を形成し、当該皮膚中に圧力センサシートを配置し、検知した圧力に反応して所定の動作をさせるロボットが提案されている(特許文献3)。なお、特許文献3では、柔軟素材として発砲ウレタンとシリコンゴムの積層構造が想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3511088号公報
【特許文献2】特許第3357948号公報
【特許文献3】特許第3706113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のロボットハンドは、人型ロボットであっても、人の手と同じような形状で、人の手と同じように動作させることは困難であった。特に、従来のロボットハンドで関節機構を微細に制御しても、小さい物や紙などの薄い物を掴むことは極めて困難であった。そこで、ロボットハンドの骨格部に被せて用いる手袋状の被着装置として、ロボットハンドの指部分に吸引口を設け、この吸引口に小さい物や薄い物を吸引して掴み上げる吸引機構を備えることが検討されている。
【0007】
また、従来のロボットハンドは、ロボット本体に柔軟素材の外皮(皮膚)を被せるものであっても、その表面温度は周辺温度と同じであり人間の手のような温もり(体温)がないために、人からみるとまさに冷たいロボットであった。そこで、ロボットハンドの動作時に加温し、さらに香りや音声を発生させることができるロボットハンドの被着装置も検討されている。
【0008】
このようなロボットハンドの被着装置は、ロボットハンドの骨格部に装着、固定、取り外しが容易である必要がある。また、着脱自在な被着装置は、製造管理や運用管理のためにも装置個々の識別ができるようにしておくことが望ましい。
【0009】
本発明は、ロボットハンドの骨格部への着脱を容易にし、かつ装置個々の識別を可能にするロボットハンドの被着装置および着脱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に被着し、指または全体で物を把持するロボットハンドの被着装置において、ロボットハンドの骨格部に着脱可能な柔軟素材からなり、指先または手の平の所定位置の表面に装置個々の識別に用いる固有の凹凸形状を有するディンプル模様が形成された構成である。
【0011】
装置内部に、外部から読み取り可能で、装置個々の識別に用いる固有の識別情報を有するICタグを埋め込んだ構成としてもよい。
【0012】
ロボットハンドの骨格部と被着装置の内面との空間部分に、有機溶剤に溶解し有機溶剤の揮発によって固まる性質の高分子樹脂を充填する構成としてもよい。
【0013】
第2の発明は、関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に請求項1または請求項2に記載の被着装置を着脱する着脱方法において、ロボットハンドの骨格部に被着装置を装着し、ロボットハンドの骨格部と被着装置の内面との空間部分に、有機溶剤に溶解し有機溶剤の揮発によって固まる性質の高分子樹脂を充填し、有機溶剤が揮発して高分子樹脂が固まることによりロボットハンドの骨格部に被着装置を固定し、被着装置の一部または全部を有機溶剤に浸し、高分子樹脂を溶解させてロボットハンドの骨格部から被着装置を取り外す。
【発明の効果】
【0014】
本発明のロボットハンドの被着装置は、ロボットハンドの骨格部に着脱自在であるとともに、ディンプル模様やICタグの識別情報により装置個々の識別が可能になる。
【0015】
また、本発明のロボットハンドの被着装置および着脱方法は、有機溶剤に溶解し有機溶剤の揮発によって固まる性質の高分子樹脂を用いることにより、被着装置をロボットハンドの骨格部に装着して固定し、また取り外しが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のロボットハンドの被着装置の実施例1の構成例および着脱方法を示す図である。
【図2】本発明のロボットハンドの被着装置の実施例2の構成例を示す図である。
【図3】本発明のロボットハンドの被着装置の実施例2の他の構成例を示す図である。
【図4】本発明のロボットハンドの被着装置の実施例3の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明のロボットハンドの被着装置の実施例1の構成例および着脱方法を示す。
図1において、ロボットハンドは、人の手の骨、関節、筋肉、腱に対応する関節機構を含む骨格部11があり、関節機構の駆動により手首や指の曲げ伸ばしが可能になっている。ここでは、ロボットハンドの関節機構を含む骨格部11を簡略化して記載し、この骨格部11に被着させた状態の本発明のロボットハンドの被着装置10の外観およびその内部の一部を示す。また、ここでは親指と人指し指の2本の指のみを示すが、3本以上の指が存在するロボットハンドに適用してもよい。
【0018】
被着装置10は、柔軟性のある高分子ポリマー(エラストマー)、シリコン、ウレタンなどの柔軟素材を用いた手袋状のものであり、骨格部11に被着させたときに人の手の形状になり、かつ人の手に近い感触が得られ、また後述する各部材を埋設できる十分な厚さになるように金型成形される。
【0019】
この被着装置10をロボットハンドの骨格部11に装着し、ロボットハンドの骨格部11と被着装置の内面12との空間部分に固定部材13として、エタノールなどの有機溶剤に溶解した高分子樹脂、例えばPVB(ポリビニルブチラール)を充填する。PVBは、有機溶剤が揮発すると固まる性質があるため、金型成形されるエラストマーのように高熱を加えずに固めることができる。これにより、ロボットハンドの骨格部11に装着した被着装置10を確実に固定することができる。なお、骨格部11に例えば滑り止めとして逆毛ワイヤを巻き付けておくことにより、PVBが固まったときにさらに被着装置10を骨格部11に固定しやすくすることができる。
【0020】
また、被着装置10の一部(手首部分)または全部を有機溶剤または有機溶剤を含む水に浸し、被着装置10を固定しているPVBを溶解させることにより、被着装置10をロボットハンドの骨格部11から容易に取り外すことができる。なお、PVBが溶解している状態では、滑り止めとしての逆毛ワイヤは機能せず、被着装置10を取り外すときの支障にはならない。
【実施例2】
【0021】
図2は、本発明のロボットハンドの被着装置の実施例2の構成例を示す。
図2において、被着装置10の指先または手の平の所定位置の表面には、各被着装置に固有の凹凸形状を有するディンプル模様14が形成される。このディンプル模様14は指紋や掌紋のような溝であってもよい。このディンプル模様14を判別することにより、被着装置10をロボットハンドに装着した状態でも取り外した状態でも、各被着装置の個々の識別が可能となる。
【0022】
なお、ディンプル模様14は、例えば有機溶剤に溶かしたPVBを指先等に塗布し、有機溶剤の揮発によって乾いたときにできる凹凸模様を用いてもよい。このときのディンプル模様は化学反応によって個々に異なる形状になるので、被着装置10の個々の識別に用いることができる。また、被着装置10のメーカーごとに、ディンプル模様14としてPVBを塗布する位置や色を登録し、装置個々の識別要素の一つとして用いてもよい。
【0023】
また、図3に示すように、吸引機構を備える被着装置10にも本実施例の適用が可能である。すなわち、被着装置10の各指先の突端部分にそれぞれ吸引口21,22を設け、各指先の腹部分にそれぞれ吸引口23,24を設け、指ごとの吸引口21〜24をそれぞれ独立した系統のチューブ25〜28を介して吸引ポンプ31〜34に接続し、吸引ポンプ31〜34の稼働によって吸引口21〜24に物を吸いつける構成とした場合に、吸引口21〜24をディンプル模様14の一部として形成してもよい。
【実施例3】
【0024】
図4は、本発明のロボットハンドの被着装置の実施例3の構成例を示す。
図4において、被着装置10の指先内部または手の平内部に、外部から読み取り可能な固有の識別情報を有するICタグ41を埋め込み、そのICタグ41の識別情報を被着装置10の個々の識別に用いてもよい。なお、ICタグ41の情報とディンプル模様14との組み合わにより、被着装置10を個々に識別してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のロボットハンドの被着装置および着脱方法は、ロボットハンドの骨格部に着脱かつ固定が容易であり、さらに装置個々の識別が容易であるので、いろいろな機能を含むロボットハンドの被着装置として個々に流通させる場合に便利である。
【符号の説明】
【0026】
10 被着装置
11 骨格部
12 被着装置の内面
13 固定部材
14 ディンプル模様
21〜24 吸引口
25〜28 チューブ
31〜34 吸引ポンプ
41 ICタグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に被着し、指または全体で物を把持するロボットハンドの被着装置において、
前記ロボットハンドの骨格部に着脱可能な柔軟素材からなり、指先または手の平の所定位置の表面に装置個々の識別に用いる固有の凹凸形状を有するディンプル模様が形成された構成である
ことを特徴とするロボットハンドの被着装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットハンドの被着装置において、
装置内部に、外部から読み取り可能で、装置個々の識別に用いる固有の識別情報を有するICタグを埋め込んだ構成である
ことを特徴とするロボットハンドの被着装置。
【請求項3】
請求項1に記載のロボットハンドの被着装置において、
前記ロボットハンドの骨格部と前記被着装置の内面との空間部分に、有機溶剤に溶解し有機溶剤の揮発によって固まる性質の高分子樹脂を充填する構成である
ことを特徴とするロボットハンドの被着装置。
【請求項4】
関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に請求項1または請求項2に記載の被着装置を着脱する着脱方法において、
前記ロボットハンドの骨格部に前記被着装置を装着し、
前記ロボットハンドの骨格部と前記被着装置の内面との空間部分に、有機溶剤に溶解し有機溶剤の揮発によって固まる性質の高分子樹脂を充填し、
有機溶剤が揮発して高分子樹脂が固まることにより前記ロボットハンドの骨格部に前記被着装置を固定し、
前記被着装置の一部または全部を前記有機溶剤に浸し、前記高分子樹脂を溶解させて前記ロボットハンドの骨格部から前記被着装置を取り外す
ことを特徴とするロボットハンドの被着装置の着脱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−207962(P2010−207962A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56655(P2009−56655)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】