説明

ロボットハンド用の被着装置

【課題】小さい物や紙などの薄い物を容易に掴むことのできるロボットハンドを提供すること。
【解決手段】関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に被着し、指または全体で物を把持するロボットハンド用の被着装置において、指部分に吸引口11〜14を有し、ロボットハンドの骨格部に着脱可能な柔軟素材からなる被着部材と、被着部材に埋め込まれ、一端が吸引口に接続されるチューブ15〜18と、チューブの他端に接続され、吸引口からの吸引によって物を吸いつける吸引ポンプ21〜24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に被着し、指部分で小さい物や薄い物を掴むためのロボットハンド用の被着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットハンドは、腕や指の曲げ伸ばしを行う多関節機構により、人の腕や手に近い動作が可能になっている(特許文献1)。また、指先で物を掴む動作も可能になっており、指の動きや把持力の調整によって柔らかい物も掴むことができるようになってきた。
【0003】
また、ロボット本体に柔軟素材でできた外皮を着脱自在に被着させ、人間に親近感を与えるとともに可動部に与える負荷を軽減する被着構造が提案されている(特許文献2)。特許文献2では、柔軟素材として布生地、毛皮、スポンジ、エラストマーなどが想定されている。
【0004】
また、ロボット本体上に被せる柔軟素材で皮膚を形成し、当該皮膚中に圧力センサシートを配置し、検知した圧力に反応して所定の動作をさせるロボットが提案されている(特許文献3)。なお、特許文献3では、柔軟素材として発砲ウレタンとシリコンゴムの積層構造が想定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のロボットハンドは、人型ロボットであっても、人の手と同じような形状で、人の手と同じように動作させることは困難であった。特に、従来のロボットハンドで関節機構を微細に制御しても、小さい物や紙などの薄い物を掴むことは極めて困難であった。
【0006】
ところで、介護の現場で介護に用いるロボットハンドとしては、小さい物や薄い物を掴むなどの繊細な動作とともに、少なくとも表面が金属やプラスチックなどではなく柔軟素材が望ましい。しかし、特許文献2および特許文献3に記載のものは、ロボット本体に柔軟素材の外皮(皮膚)を被せるものであって、ロボットハンドの繊細な動作を補助するような使い方は想定されていない。
【0007】
本発明は、ロボットハンドの骨格部に被着する被着部材を利用して指部分で小さい物や薄い物を掴むことを容易にするロボットハンド用の被着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に被着し、指または全体で物を把持するロボットハンド用の被着装置において、指部分に吸引口を有し、ロボットハンドの骨格部に着脱可能な柔軟素材からなる被着部材と、被着部材に埋め込まれ、一端が吸引口に接続されるチューブと、チューブの他端に接続され、吸引口からの吸引によって物を吸いつける吸引ポンプとを備える。
【0009】
また、指部分に吸引口を複数設け、指先部分の吸引口および指の腹部分の吸引口を別系統のチューブおよび吸引ポンプに接続し、互いに独立に吸引する構成としてもよい。
【0010】
本発明のロボットハンド用の被着装置において、親指と他の指の所定の関節部分に配置され、指を伸ばしたときと曲げたときの違いを検出するセンサと、センサで検知した情報からロボットハンドが指部分で物を掴む動作として検出し、この物を掴む動作に連動して吸引ポンプの吸引動作を開始する制御を行う制御手段とを備えてもよい。
【0011】
また、吸引ポンプは、逆回転により吸引口からの排気が可能な構成としてもよい。
【0012】
本発明のロボットハンド用の被着装置において、親指と他の指の各指先に埋め込み、磁力によって親指と他の指の各指先を互いに圧着させる磁石を備え、親指と他の指の各指先部分で、磁力による指先の圧着力と吸引により物を把持する構成としてもよい。
【0013】
また、親指の磁石と他の指の磁石は、各指先が対向する所定の位置で引力が生じ、各指先をずらしたときに斥力が生じるように双方の磁石のN極とS極の位置を設定する構成とてしもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のロボットハンド用の被着装置は、指部分に設けた吸引口に引圧を発生させることにより、小さい物や薄い物を容易に吸引して掴み上げることができる。なお、これらの物を吸いつける動作は、指先で小さい物や薄い物を把持するための前段階の動作として有用である。
【0015】
また、本発明のロボットハンド用の被着装置は、指の関節部分に配置したセンサを用い、ロボットハンドが指部分で物を掴む動作を検出し、さらにその動作に連動して吸引部に引圧を発生させることにより、小さい物や薄い物を掴み、把持する動作をスムーズに行うことができる。
【0016】
また、本発明のロボットハンド用の被着装置は、指先に磁石を配置することにより指先の圧着力を高め、小さい物や薄い物を把持しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のロボットハンド用の被着装置の実施例1を説明する図である。
【図2】本発明のロボットハンド用の被着装置の実施例2を説明する図である。
【図3】本発明のロボットハンド用の被着装置の実施例3を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明のロボットハンド用の被着装置の実施例1を示す。
ロボットハンドは、人の手の骨、関節、筋肉、腱に対応する関節機構を含む骨格部があり、関節機構の駆動により手首や指の曲げ伸ばしが可能になっている。図1では、ロボットハンドの関節機構を含む骨格部は省略し、この骨格部に被着させた状態の本発明のロボットハンド用の被着装置10の外観およびその内部の一部を示す。
【0019】
本発明のロボットハンド用の被着装置10は、柔軟性のある高分子ポリマー(エラストマー)、シリコン、ウレタンなどの柔軟素材を用いた手袋状のものであり、骨格部に被着させたときに人の手の形状になり、かつ人の手に近い感触が得られ、また後述する各部材を埋設できる十分な厚さになるように金型成形される。ここでは、親指と人指し指の2本の指のみを示すが、3本以上の指が存在するロボットハンドに適用してもよい。
【0020】
被着装置10には、各指先部分にそれぞれ吸引口11,12が設けられ、各指の腹部分にそれぞれ吸引口13,14が設けられる。ここでは、各指の腹部分の吸引口13,14としてそれぞれ3箇所設けている。指ごとの吸引口11〜14は、それぞれ独立した系統のチューブ15〜18を介して吸引ポンプ21〜24に接続される。なお、チューブ15〜18の材質は湾曲可能な柔軟性と吸引可能な強度があればよいが、例えば関節部を除いてウレタンまたはテフロン(登録商標)チューブを用い、関節部は伸縮するシリコンチューブを用いるなどの複合形態であってもよい。また、チューブ15〜18は、被着装置10を金型成形する際に予め所定の位置に埋め込んでおく。
【0021】
吸引ポンプ21〜24を稼働させると、各吸引口11〜14の引圧によって例えば紙などの薄い物を吸いつけることができる。例えば、手を開いた状態では指の腹部分の吸引口13,14で薄い物を吸いつけ、物を掴もうとして指を曲げた状態では、指先部分の吸引口11または吸引口12で薄い物を吸いつけながら両指先で挟む動作が可能である。
【0022】
図1のように2本の指先が圧着する状態では、その指先間に薄い物を挟んで把持することができるが、薄い物を挟む前に各指の吸引口11〜14で薄い物を吸いつけることにより、容易に薄い物を指先で把持する状態にもっていくことができる。すなわち、人の指先を例えば湿らせて紙等を掴みやすくする動作を吸引口11〜14の引圧で実現している。
【0023】
なお、吸引口11〜14につながる吸引ポンプ21〜24のすべてを同時に稼働させる必要はなく、後述する指の動きに連動して物を掴む動作に最適な吸引口に対応する吸引ポンプを選択的に稼働させるようにしてもよい。また、例えば親指以外の4指の指先の吸引口のように、薄い物を吸引する際の動作として一体的に機能する場合には、それらの吸引口を1つの吸引ポンプに分岐接続するようにしてもよい。
【0024】
また、吸引ポンプの稼働を止めることにより、吸引口の引圧がなくなって物を引き離すことができるが、さらに吸引ポンプを逆回転させて吸引口から排気することにより、指先に吸いついていた物を容易に引き離すことができる。
【実施例2】
【0025】
図2は、本発明のロボットハンド用の被着装置の実施例2を示す。ここでは、ロボットハンドの指先で物を掴む動作を検出し、その動作に連動して物を掴む指先の吸引口に引圧が生じるように吸引ポンプを制御する構成について説明する。
【0026】
図において、ロボットハンドの指の内側の関節部には、指を動かす力や角度の変化を検出する角度センサ25を配置する。角度センサ25は、ロボットハンドの指先で物を掴もうとする際に指を曲げたときの関節部の角度情報をケーブル26を介して制御部27に伝達する。制御部27は、さらに吸引ポンプ21〜24および図示しない電源と電気的に接続され、吸引ポンプ21〜24の稼働状態を個別に制御可能な構成である。制御部27は、角度センサ25から指を曲げたときの関節部の角度情報を入力したときに、物を掴もうとする動作とともに対応する指を判断し、例えばその指先の吸引口11,12に引圧が生じるように対応する吸引ポンプ21,22を稼働させる制御を行う。これにより、物を掴む動作に連動して対応する吸引口に引圧を生じさせ、先に物を吸いつけることにより掴みやすくすることができる。
【0027】
また、制御部27は、角度センサ25からの角度情報により手を開いた状態であることを検出すると、指の腹部分の吸引口13,14で薄い物を吸いつけことを想定し、その吸引口13,14に引圧が生じるように対応する吸引ポンプ23,24を稼働させる制御を行う。これにより、例えば机上や床などにある紙などをまず引き上げ、掴みやすくすることができる。
【0028】
また、例えば角度センサ25で検出される角度に応じて、例えば手を開いている状態と物を掴もうとして指を曲げている状態を判断できるが、さらに角度の値に応じて指の状態を細かく判断し、各吸引ポンプの稼働状態をオンオフとともに引圧を調整する制御に利用してもよい。
【0029】
また、図2では、人指し指の第2関節に角度センサ25を配置する例を示したが、人指し指の各関節や複数の指の関節部にそれぞれ角度センサ25を配置し、制御部27がそれぞれの角度情報から5指の状態を総合的に判断し、物を掴むために最適な吸引口に引圧が生じるような制御を行うようにしてもよい。
【0030】
また、角度センサ25に代えて、指を曲げたときの圧力を指の動作として検出する圧力センサや、指を伸ばしたときと曲げたときの距離の違いを磁気で検出する磁気センサを用いてもよい。また、ロボットハンド自体が備えている内界センサを本発明の被着装置で利用するようにしてもよい。
【実施例3】
【0031】
図3は、本発明のロボットハンド用の被着装置の実施例3を示す。ここでは、親指と他の指の各指先の圧着力を高めるために磁石を用いる構成について説明する。
【0032】
図において、親指と他の指の各指先に埋め込む磁石31,32は、指先同士が所定の位置関係になったときに一方のN極と他方のS極が対向する位置になるように配置される。例えば、親指の指先の磁石31を棒状または板状とし、かつ指先端に対してN極、S極が横向きになるように埋め込む。人指し指の指先の磁石32を棒状または球状とし、かつ指先端に対してN極、S極が縦向きになるように埋め込む。そして、親指と人指し指の各指先が対向するときに、磁石31のS極と磁石32のN極が対向するように配置する。これにより、その位置では磁石の引力が働いて親指と人指し指の各指先の圧着力が高まり、さらに指先をずらしたときに磁石31のN極と磁石32のN極が対向して磁石の斥力が働き、指先を容易に引き離すことができる。
【0033】
また、指先の磁石を電磁石とし、図2に示す制御部27の制御によりオンとしたときに発生する磁力により、指先の圧着力を高めるようにしてもよい。なお、電磁石をオフとすることにより、磁力はなくなるので指先の圧着力を容易に開放することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のロボットハンド用の被着装置は、ロボットハンドの骨格部に柔軟素材の外皮を被着させるとともに、その被着装置内に吸引手段や磁石等を埋め込むことにより、小さい物や薄い物などを把持することが容易になる。これにより、小さい物や薄い物を掴むなどの繊細な動作が必要な例えば介護の現場で、介護に用いるロボットハンドとして有用である。
【符号の説明】
【0035】
10 ロボットハンド用の被着装置
11〜14 吸引口
15〜18 チューブ
21〜24 吸引ポンプ
25 角度センサ
26 ケーブル
27 制御部
31,32 磁石
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特許第3511088号公報
【特許文献2】特許第3357948号公報
【特許文献3】特許第3706113号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節機構によって指の曲げ伸ばしが可能なロボットハンドの骨格部に被着し、指または全体で物を把持するロボットハンド用の被着装置において、
指部分に吸引口を有し、前記ロボットハンドの骨格部に着脱可能な柔軟素材からなる被着部材と、
前記被着部材に埋め込まれ、一端が前記吸引口に接続されるチューブと、
前記チューブの他端に接続され、前記吸引口からの吸引によって物を吸いつける吸引ポンプと
を備えたことを特徴とするロボットハンド用の被着装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットハンド用の被着装置において、
前記指部分に前記吸引口を複数設け、指先部分の吸引口および指の腹部分の吸引口を別系統の前記チューブおよび前記吸引ポンプに接続し、互いに独立に吸引する構成である
ことを特徴とするロボットハンド用の被着装置。
【請求項3】
請求項1に記載のロボットハンド用の被着装置において、
前記親指と他の指の所定の関節部分に配置され、指を伸ばしたときと曲げたときの違いを検出するセンサと、
前記センサで検知した情報から前記ロボットハンドが指部分で前記物を掴む動作として検出し、この物を掴む動作に連動して前記吸引ポンプの吸引動作を開始する制御を行う制御手段と
を備えたことを特徴とするロボットハンド用の被着装置。
【請求項4】
請求項1に記載のロボットハンド用の被着装置において、
前記吸引ポンプは、逆回転により前記吸引口からの排気が可能な構成である
ことを特徴とするロボットハンド用の被着装置。
【請求項5】
請求項1に記載のロボットハンド用の被着装置において、
親指と他の指の各指先に埋め込み、磁力によって親指と他の指の各指先を互いに圧着させる磁石を備え、
前記親指と他の指の各指先部分で、前記磁力による指先の圧着力と前記吸引により前記物を把持する構成である
ことを特徴とするロボットハンド用の被着装置。
【請求項6】
請求項5に記載のロボットハンド用の被着装置において、
前記親指の磁石と前記他の指の磁石は、各指先が対向する所定の位置で引力が生じ、各指先をずらしたときに斥力が生じるように双方の磁石のN極とS極の位置を設定する構成である
ことを特徴とするロボットハンド用の被着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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