説明

ロボットハンド

【課題】 把持前の各指の各指関節に負荷がかかっていない状態から物体を把持する場合に、各指の各関節の屈曲動作を互いに連動させる。
【解決手段】 ワイヤ34の一端側および他端側のいずれか一方のみが変位することを抑制するブッシュ54を設ける。これにより、把持前の各指部材10に負荷がかかっていない状態から物体を把持する場合に、各指部材の動滑車40が引っ張られたときに、各指部材のワイヤ34の一端側および他端側が一様に変位し、各指部材のリンク材24および各指部材のリンク材30の屈曲動作の連動が保証される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤで駆動する指部材を複数有するロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動自由度および機能が高いロボットハンドとしては、人の手に近い機能の発揮を目的とした各指関節に駆動モータを配置した多指ハンドがある。しかし、部品数が多く、制御も複雑で製作コストが高くなる。
【0003】
一方、最も自由度の低いロボットハンドとして1自由度のグリッパがある。これは産業用ロボットにおいて広く使用されており、これで十分である場合も多いが、物体の形状によって把持状態を変えることはできず、不規則形状の物体把持等には不向きである。不規則物体の把持には不規則形状に馴染むことができるよう機構に柔軟性が必要となる。
【0004】
柔軟性の高い機構を低自由度駆動系で制御する方法として、例えば、4本の指を一つの駆動モータで制御するワイヤ駆動指機構がある(特許文献1)。この機構では、各指へ先端が各々接続された2本のワイヤの中間部へ動滑車を各々懸架し、これらの動滑車を牽引して各指を屈曲させると、各ワイヤは、動滑車の作用により張力が均衡する。このため、把持動作中の物体と指の接触状況によって、各指の負荷が等配分される。
【特許文献1】特開2003−145474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この技術では、把持前の各指の各指関節に負荷がかかっていない状態から物体の把持動作を開始するときには、各指が把持物体と当たる前の指屈曲動作時に、不用意に動滑車が回動し、特定の指関節のみが屈曲動作をするので、適切な物体把持ができない場合がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、把持前の各指の各指関節に負荷がかかっていない状態から物体を把持する場合に、各指の各関節の屈曲動作を互いに連動させることができるロボットハンドを得るのが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係るロボットハンドは、基体に一端部が回動可能に取り付けられた第1リンク材と、前記第1リンク材の他端部に回動可能に取り付けられた第2リンク材と、一端が前記第1リンク材に接続され、他端が前記第2リンク材に接続されて張力によって前記第1リンク材および前記第2リンク材を同一方向へ回動させるワイヤと、前記ワイヤの中間部に懸架されて前記第1リンク材および前記第2リンク材へ前記ワイヤの張力を与える動滑車と、前記動滑車の移動力で前記ワイヤの一端側および前記ワイヤの他端側を均しく変位させる抑制手段と、を有する複数の指部材と、各指部材の前記動滑車を変位させ、各々の前記ワイヤを介して各々の前記第1リンク材及び前記第2リンク材を回動させる駆動手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成では、駆動手段により、各指部材の動滑車が移動し、各指部材のワイヤを介して、各指部材の第1リンク材および第2リンク材が同一方向に回動する。このため、第1リンク材は基体に対して屈曲し、第2リンク材は第1リンク材に対して屈曲する。
【0009】
また、抑制手段は、ワイヤの一端側および他端側を均しく変位させる。このため、把持前の各指部材に負荷がかかっていない状態から物体を把持する場合に、各指部材の動滑車の移動力が、各指部材のワイヤの一端側および他端側へ加わり、各指部材の第1リンク材および第2リンク材の屈曲動作が互いに連動する。
【0010】
本発明の請求項1に記載の第1抑制手段としては、請求項2に記載にように、動滑車の回転軸へ摩擦を生じさせるブッシュとしてもよい。
【0011】
本発明の請求項3に係るロボットハンドでは、請求項1又は請求項2の構成において、前記複数の指部材の各々は、前記第1リンク材に接続された前記ワイヤの一端側の変位を制動する第1制動装置と、前記第2リンク材に接続された前記ワイヤの他端側の変位を制動する第2制動装置と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成では、第1制動装置で、第1リンク材に接続されたワイヤの一端側の変位を制動すれば、各指部材の第1リンク材が屈曲せず、各指部材の第2リンク材のみの屈曲が可能となる。
【0013】
一方、第2制動装置で、第2リンク材に接続されたワイヤの他端側の変位を制動すれば、各指部材の第2リンク材が屈曲せず、各指部材の第1リンク材のみの屈曲が可能となる。
【0014】
このため、第1制動装置および第2制動装置の一方を作用させ、各指部材の第1リンク材および第2リンク材のいずれか一方だけを屈曲させることにより、把持対象である物体の形状や大きさに合わせて、把持しやすいように、各指部材の屈曲姿勢を予め制御することができる。
【0015】
本発明の請求項4に係るロボットハンドでは、請求項3の構成において、前記第1制動装置および前記第2制動装置の各々は、前記ワイヤを制動装置本体へ押し当てる押し当て部材と、前記押し当て部材に中間部が連結され、一端部を支点に他端部が所定方向へ回動することにより、前記ワイヤが前記制動装置本体へ押し当てられる方向へ前記押し当て部材を変位させるてこ部材と、前記てこ部材の他端部に取り付けられ、前記てこ部材の他端部を前記所定方向と反対方向へ付勢するばねと、前記てこ部材の他端部に取り付けられ、電流が供給されて収縮することにより、前記ばねの付勢力に対抗して前記てこ部材の他端部を前記所定方向へ回動させる収縮部材と、前記収縮部材に電流を供給する電源と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成では、収縮部材へ電流を供給し、収縮部材を収縮させ、ばねの付勢力に対抗して、てこ部材の一端部を支点に他端部を所定方向へ回動させ、てこ部材の中間部が連結された押し当て部材を変位させ、ワイヤを制動装置本体へ押し当てる。すなわち、この構成では、てこの原理を利用して押し当て部材を変位させる。
【0017】
このため、てこ部材の力点たる他端部に作用させる力が小さくても、ワイヤを制動させる制動力を大きくできる。また、収縮部材への電流の供給の有無によって、制動装置を作動させるか否かを決定できるので、制動装置の制御が容易となる。
【0018】
本発明の請求項5に係るロボットハンドは、請求項1〜4のいずれか1項の構成において、前記駆動手段からの駆動力を各指部材の動滑車へ伝達し、アウターチューブに通されたインナーワイヤと、前記インナーワイヤと各指部材の動滑車との間に配置され、前記インナーワイヤから伝達される駆動力を減速して、各指部材の動滑車へ伝達する減速機と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成では、アウターチューブに通されたインナーワイヤによって、駆動手段からの駆動力を各指部材の動滑車に伝達する。そのインナーワイヤから伝達される駆動力は、インナーワイヤと各指部材の動滑車との間に配置された減速機によって、減速されて(低速、高トルクの回動エネルギーに変換されて)、各指部材の動滑車に伝達される。
【0020】
このため、減速機から各指部材側のワイヤの張力が増大し、インナーワイヤの張力は高くなることがなく、各指部材の把持力が高められる。従って、インナーワイヤが通されたアウターチューブとインナーワイヤとの間の摩擦が軽減し、そのアウターチューブとインナーワイヤとの間の摩擦に起因するヒステリシス摩擦特性が低減され、滑らかな制御が可能となる。
【0021】
また、インナーワイヤの張力を小さく維持でき、剛性の低いアウターチューブを使用することができるので、そのアウターチューブを設置場所に応じて変形できるので、そのアウターチューブとインナーワイヤとの配設の自由度が増す。
【0022】
本発明の請求項6に係るロボットハンドは、請求項1〜5のいずれか1項の構成において、前記駆動手段は、一の指部材の動滑車へ一端が接続され、他の指部材の動滑車へ他端が接続されて張力によって各指部材の動滑車を変位させる駆動ワイヤと、前記駆動ワイヤの中間部に懸架されて各指部材の動滑車へ前記駆動ワイヤの張力を与える駆動ワイヤ用動滑車と、前記駆動ワイヤ用動滑車の移動力で前記駆動ワイヤの一端側および前記駆動ワイヤの他端側を均しく変位させる駆動ワイヤ抑制手段と、前記駆動ワイヤ用動滑車を変位させ、前記駆動ワイヤを介して各指部材の動滑車を変位させる駆動装置と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
この構成では、駆動装置により、駆動ワイヤ用動滑車が移動し、駆動ワイヤを介して、各指部材の動滑車が変位する。このため、各指部材の第1リンク材および第2リンク材が回動して、各指部材がそれぞれ屈曲する。
【0024】
また、駆動ワイヤ抑制手段は、駆動ワイヤの一端側および他端側を均しく変位させる。このため、把持前の各指部材に負荷がかかっていない状態から物体を把持する場合に、駆動ワイヤ用動滑車の移動力が、駆動ワイヤの一端側および他端側へ加わり、各指部材の屈曲動作が互いに連動する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、上記構成としたので、把持前の各指の各指関節に負荷がかかっていない状態から物体を把持する場合に、各指の各関節の屈曲動作を互いに連動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のロボットハンドに係る実施の形態を図1〜図6に基づき説明する。
【0027】
本実施の形態に係るロボットハンド100は、同一機構からなる指部材10を3本有している(図1,2では、一本の指部材10のみを図示)。最初に、指部材10について説明する。
【0028】
図1(A)、(B)に示すように、指部材10は、ロボットハンド本体(掌に該当する部分)12から立設する互いに平行な二個の基台14を備えている。これらの基台14の先端部の間には、第1シャフト16が掛け渡され、この第1シャフト16の両端は、基台14にそれぞれ固定されている。この第1シャフト16の両端部には、2個のリンク材18の後端部が、それぞれ回動可能に取り付けられている。
【0029】
このリンク材18の後端部には、第1固定滑車20A、20Bが同軸的に固定されている。このため、第1固定滑車20A、20Bとリンク材18とは、一体に回動する。この第1固定滑車20A、20Bが一方(図1(B)においてX方向)に回動すると、リンク材18は基台14に対して傾き、指真直状態(図1(B)の仮想線状態)から屈曲する。この第1固定滑車20A、20Bが他方(図1(B)においてY方向)に回動すると、リンク材18は基台14に対して伸展し、指真直状態へと近づく。
【0030】
また、リンク材18の先端部には、第2シャフト22が掛け渡され、この第2シャフト22の両端は、リンク材18にそれぞれ固定されている。この第2シャフト22の両端部には、2個のリンク材24の後端部が、それぞれ回動可能に取り付けられている。なお、本実施の形態に係るリンク材24は、請求項1に記載の第1リンク材に相当する。
【0031】
このリンク材24の後端部には、第2固定滑車26A、26Bが同軸的に固定されている。このため、第2固定滑車26A、26Bとリンク材24とは、一体に回動する。この第2固定滑車26A、26Bが一方(図1(B)においてX方向)に回動すると、リンク材24はリンク材18に対して傾き、指真直状態(図1(B)の仮想線状態)から屈曲する。この第2固定滑車26A、26Bが他方(図1(B)においてY方向)に回動すると、リンク材24はリンク材18に対して伸展し、指真直状態へと近づく。
【0032】
また、リンク材24の先端部には、第3シャフト28が掛け渡され、この第3シャフト28の両端はリンク材24にそれぞれ固定されている。この第3シャフト28には、リンク材30の後端部が、回動可能に取り付けられている。なお、本実施の形態に係るリンク材30は、請求項1に記載の第2リンク材に相当する。
【0033】
このリンク材30の後端部には、第3固定滑車32A、32Bが同軸的に固定されている。このため、第3固定滑車32A、32Bとリンク材30とは、一体に回動する。この第3固定滑車32A、32Bが一方(図1(B)においてX方向)に回動すると、リンク材30はリンク材24に対して傾き、指真直状態(図1(B)の仮想線状態)から屈曲する。第3固定滑車32A、32Bが他方(図1(B)においてY方向)に回動すると、リンク材30はリンク材24に対して伸展し、指真直状態へと近づく。
【0034】
図1(A)に示すように、第3固定滑車32Aには、ワイヤ34の一端側が一方向(図1(A)において手前側)から巻き掛けられ、ワイヤ34の一端が第3固定滑車32Aに接続固定されている。
【0035】
ワイヤ34の他端側は、下方に延び、第2シャフト22に回動自在に取り付けられたアイドルローラ36の外周一部へ巻き掛けられた後に、第1シャフト16に回動自在に取り付けられたアイドルローラ38の外周一部へ巻き掛けられ、次に、動滑車40へ半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車40を懸架(吊下支持)している。さらに、ワイヤ34の他端側は、第1シャフト16に回動自在に取り付けられたアイドルローラ42の外周一部へ巻き掛けられた後に、第2固定滑車26Bに巻き掛けられ、ワイヤ34の他端は、第2固定滑車26Bに接続固定されている。
【0036】
なお、本実施の形態に係るワイヤ34は、請求項1に記載のワイヤに相当する。また、本実施の形態に係る動滑車40は、請求項1に記載の動滑車に相当する。また、ワイヤ34の巻き掛け方向は、アイドルローラ36、アイドルローラ38、アイドルローラ42、第2固定滑車26Bについては、同一方向(図1(A)において手前側)である。
【0037】
従って、動滑車40が図1の下方へ移動するとワイヤ34の両端に張力が加わり、第3固定滑車32A、第2固定滑車26Bを介してリンク材30及びリンク材24を屈曲方向(図1の反時計方向)へと回動させることになる。
【0038】
また、第1固定滑車20Aには、ワイヤ44の一端側が一方向(図1(A)において手前側)から巻き掛けられ、ワイヤ44の一端が第1固定滑車20Aに接続固定されている。
【0039】
ワイヤ44の他端側は、下方に延び、動滑車46へ半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車46を懸架(吊下支持)し、ワイヤ44の他端は、動滑車40の回転軸に固定されている。
【0040】
従って、動滑車46が図1の下方へ移動すると、ワイヤ44の両端に張力が加わり、第1固定滑車20Aを介してリンク材18を屈曲方向(図1の反時計方向)へと回動させると共に、動滑車40を介してワイヤ34の両端へ張力が加わり、リンク材30、リンク材24を同様に屈曲方向(図1の反時計方向)へと回動させるようになっている。
【0041】
また、第3固定滑車32Aに固定されたワイヤ34の一端は、ワイヤ34に張力が作用した場合にリンク材30を屈曲方向へ回動させる位置であれば、リンク材30に直接固定してもよい。第2固定滑車26Bに固定されたワイヤ34の他端は、同様にリンク材24に直接固定してもよく、同様に第1固定滑車20Aに固定されたワイヤ44の一端は、リンク材18に直接固定してもよい。
【0042】
動滑車46には、動滑車48がフレーム50を介して連結されており、動滑車46と動滑車48とは、一体に上下動変位する。なお、この動滑車48には、後述する第1駆動ワイヤ91が巻き掛けられている。
【0043】
動滑車46、動滑車40が、下方移動時に回動することにより、ワイヤ44の一端側および他端側に作用する張力が均衡するようになっている。
【0044】
さらに、ワイヤ44の他端に固定された動滑車40、動滑車40に巻き掛けられたワイヤ34が下方に変位し、リンク材24およびリンク材30が屈曲する。このとき、動滑車40が回動することにより、ワイヤ34の一端側および他端側に作用する張力が均衡する。
【0045】
すなわち、把持物体の形状や大きさによって変化する把持物体と各リンク材18、24、30との接触圧力に応じて、各リンク材18、24、30が受ける反力が異なる。このため、物体を把持する際は、負荷が大きいリンク材へ接続されたワイヤの下方変位が小さくなり、負荷が小さいリンク材に接続されたワイヤの下方変位が大きくなる。これによって、指部材の特定リンク材に負荷が集中しない。
【0046】
なお、各リンク材18、24、30が屈曲する際は、後述する動滑車49、動滑車47、逆巻きワイヤ45、動滑車41、逆巻きワイヤ35が上昇する。
【0047】
ここで、ワイヤ34およびワイヤ44の一端側および他端側のいずれか一方のみが変位することを抑制する構成(ワイヤ34およびワイヤ44の一端側および他端側を均しく変位させる構成)について説明する。
【0048】
動滑車40の回転軸は、回転抵抗の小さいボールベアリングではなく、回転抵抗の大きいブッシュ(第1抑制手段)54に支持されている。このブッシュ54は、例えば、合成樹脂で製作された円柱形状の軸受であり、軸心部にワイヤ44の一端が固定されている。
このため、回転軸との間の摩擦がボールベアリングの場合よりやや大きくなり、リンク材30、リンク材24が把持する物体から反力をうけていない場合に、ワイヤ34の一端側および他端側のいずれか一方のみが大きく変位することが抑制される。
【0049】
動滑車46の回転軸も同様に、ブッシュ(第2抑制手段)56に支持され、ワイヤ44の一端側および他端側のいずれか一方のみが変位することが抑制され、同様の作用をなす。 この構成により、物体を把持する前の各リンク材18、24、30に負荷がかかっていない状態から物体を把持する過程(以下、アプローチ過程という)において、動滑車48を引っ張り、動滑車46を下方に変位させたときに、ワイヤ44の一端側および他端側がほぼ一様に下方に変位し、さらに、ワイヤ34の一端側および他端側がほぼ一様に下方に変位する。このため、各リンク材18、24、30が互いに連動してほぼ同量だけ屈曲することになる。
【0050】
なお、このように構成した場合は、動滑車40とブッシュ54との間で生じる摩擦分、ワイヤ34の一端側および他端側とに作用する力に不均衡がおき、ワイヤ34の一端側および他端側に作用する力は、完全に均一に配分されるのではなく、近似的に配分されるものとなり、また、動滑車46とブッシュ56との間で生じる摩擦分、ワイヤ44の一端側および他端側に作用する力に不均衡がおき、ワイヤ44の一端側および他端側に作用する力とは、完全に均一に配分されるのではなく、近似的に配分されるものとなる。
【0051】
また、ブッシュで摩擦を付けない場合は、常に、ワイヤ34の一端側および他端側に作用する力が均一になり、ワイヤ44の一端側および他端側に作用する力が均一になるため、把持前から把持状態に移行するときの各リンク材18、24、30の姿勢の変化が大きくなる可能性があるが、本実施の形態では、動滑車40の回転軸とブッシュ54との間、動滑車46の回転軸とブッシュ56との間、に意図的な摩擦を生じさせているので、ワイヤ34の一端側およびワイヤ34の他端側のいずれか一方のみが変位することが抑制され、ワイヤ44の一端側および他端側のいずれか一方のみが変位することが抑制され、把持前から把持状態に移行するときの変化を小さく抑えられる。
【0052】
なお、本実施形態では、動滑車40および動滑車46の回転軸は、それぞれブッシュ54、ブッシュ56に支持されているが、動滑車40および動滑車46の回転軸を支持する支持部としては、ブッシュに限られず、意図的に回転抵抗を大きくするものであれば、他の支持部を用いても良い。
【0053】
また、ワイヤ34、44の一端側および他端側のいずれか一方のみが変位することを抑制する構成としては、物体からの反力がない状態で動滑車40、46の回転を止めて、上下移動のみする円板のように構成し、これによってこの円板の周面をワイヤ34、44がすべり摩擦によって上記実施の形態と同じように、ワイヤ34、44の一端側およびワイヤ34、44の他端側のいずれか一方のみが変位することを抑制してもよい。なお、動滑車40を上下移動のみする円板のように構成した場合も、請求項1にいう動滑車に含まれる。
【0054】
また、第1固定滑車20Aと動滑車46の間には、第1ブレーキ62が設けられ、ワイヤ44の一端側の下方への変位を制動可能となっている。また、動滑車40と動滑車46の間には、第2ブレーキ64が設けられ、ワイヤ44の他端側の下方への変位を制動可能となっている。
【0055】
次に、ブレーキ(第1ブレーキ62、第2ブレーキ64)の構成について、図2に基づき説明する。なお、第2ブレーキ64に代えて第3および第4ブレーキ63、65を用いる場合の第3および第4ブレーキ63、65も以下のように構成される。
【0056】
図2に示すように、ブレーキ62、64は、円盤状のブロック(押し当て部材)66を備え、このブロック66には、ワイヤ34、44の直径よりもわずかに大きな内径の通し溝68が形成され、この通し溝68にワイヤ34、44が通される。ブロック66からロッド(押し当て部材)70が横方向に延び、板状のブレーキ本体(制動装置本体)72に形成された差込孔74に、緩く差し込まれている。ロッド70の先端部には、上下方向に延びるポール(てこ部材)76が回動可能に取り付けられている。ポール76の上端部には、ブレーキ本体72に当接する当接部材78が設けられている。ポール76の下端部には、ブレーキ本体72側から延びるバイアスばね80が連結され、ポール76の下端部を、ブレーキ本体72側に付勢している。
【0057】
さらに、ポール76の下端部には、ブレーキ本体72側とは反対方向へ延び、収縮部材としての形状記憶合金(例えば、バイオメタルファイバ「登録商標」)82が取り付けられ、この形状記憶合金82の一端と他端とには、電源84の電極が接続され、電流の供給が可能となっている。
【0058】
この構成により、ブレーキONの状態にする(ワイヤを制動する)場合は、形状記憶合金82に電流を供給して、形状記憶合金82を収縮させ、バイアスばね80の付勢力に対抗して、ポール76の下端部を右方向に変位させる。そうすると、ポール76の上端部にある当接部材78を支点にしてポール76の下端部が回動し、ロッド70およびブロック66が右方向に移動して、ブロック66とブレーキ本体72の間でワイヤを押さえ込み、ワイヤ34、44の動きを抑止する。
【0059】
ブレーキOFFの状態にする(ワイヤを制動しない)場合は、形状記憶合金82の電流の供給をやめ、形状記憶合金82の収縮を解除する。バイアスばね80の弾性力により、ポール76が元に位置に復帰し、ブロック66の押し付けが解除され、ワイヤ34、44が抵抗無く変位し得るようになる。この方法では大きなブレーキ制動力は得られない場合があるが、ブレーキ62、64の使用を、アプローチ過程に限定すれば十分機能する。
【0060】
これにより、第1ブレーキ62を作用させれば、第1固定滑車20Aと動滑車46との間のワイヤ44は変位しないので、リンク材18は屈曲せず、リンク材24およびリンク材30のみが屈曲し、第2ブレーキ64を作用させれば、動滑車40と動滑車46との間のワイヤ44は変位しないので、リンク材24およびリンク材30は屈曲せず、リンク材18のみが屈曲する。このように構成することで、アプローチ過程において、予め、把持対象となる物体の形状や大きさに合わせて、屈曲するリンク材を選択することができ、物体を把持する前に、リンク材の概略姿勢を決定できる。
【0061】
なお、第2ブレーキ64に代えて、アイドルローラ38と動滑車40との間に第3ブレーキ(第1制動装置)63を設け、アイドルローラ42と動滑車40との間に第4ブレーキ(第2制動装置)65を設け、ワイヤ34の一端側および他端側をそれぞれ、別のブレーキで制動するようにしてもよい。このようにすれば、リンク材30およびリンク材24を別々に屈曲でき、さらに屈曲するリンク材の選択の幅が広がる。
【0062】
以上が、リンク材を屈曲させるための一連の屈曲機構である。
【0063】
一方、リンク材を伸展させる機構では、第3固定滑車32Bに、逆巻きワイヤ35の一端側がワイヤ34とは反対方向(図1において奥側)から巻き掛けられ、逆巻きワイヤ35の一端が第3固定滑車32Bに接続固定されている。
【0064】
逆巻きワイヤ35の他端側は、下方に延び、第2シャフト22に回動自在に取り付けられたアイドルローラ37の外周一部へ巻き掛けられた後に、第1シャフト16に回動自在に取り付けられたアイドルローラ39の外周一部へ巻き掛けられ、次に、ボールベアリングで支持されている動滑車41へ半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車41を懸架(吊下支持)している。さらに、逆巻きワイヤ35の他端側は、第1シャフト16に回動自在に取り付けられたアイドルローラ43の外周一部へ巻き掛けられ後に、第2固定滑車26Aに巻き掛けられ、逆巻きワイヤ35の他端が第2固定滑車26Aに接続固定されている。
【0065】
また、図1(A)において、逆巻きワイヤ35の中間部を切断して図示したが、動滑車41に巻き掛けられる逆巻きワイヤ35のA部分と、アイドルローラ43に巻き掛けられる逆巻きワイヤ35のA部分とは互いに接続し、動滑車41に巻き掛けられる逆巻きワイヤ35のB部分と、アイドルローラ39に巻き掛けられる逆巻きワイヤ35のB部分とは互いに接続している。また、逆巻きワイヤ35の巻き掛け方向は、アイドルローラ37、アイドルローラ39、アイドルローラ43、第2固定滑車26Aについては、同一方向(図1において奥側)である。また、第1固定滑車20Bには、逆巻きワイヤ45の一端側がワイヤ44とは反対方向(図1において奥側)から巻き掛けられ、逆巻きワイヤ45の一端が第1固定滑車20Bに接続固定されている。
【0066】
逆巻きワイヤ45の他端側は、下方に延び、ボールベアリングで支持されている動滑車47へ半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車47を懸架し、逆巻きワイヤ45の他端は、動滑車41の回転軸に固定されている。
【0067】
なお、図1(A)において、第1固定滑車20Bに巻き掛けられる逆巻きワイヤ45のC部分と、動滑車41の回転軸に固定されている逆巻きワイヤ45のC部分と、は接続している。
【0068】
動滑車47には、自由回転する動滑車49がフレーム51を介して連結されており、動滑車47と動滑車49とは、一体に上下動変位する。なお、その動滑車49には、後述する第2駆動ワイヤ89が巻き掛けられる。
【0069】
また、動滑車41、動滑車47、動滑車49は、上下方向に移動可能となっており、動滑車49が下方に引っ張られると、それに連動して動滑車47、逆巻きワイヤ45、動滑車41、逆巻きワイヤ35が下方に移動し、各リンク材18、24、30が伸展する。なお、各リンク材18、24、30が伸展する際は、動滑車48、動滑車46、ワイヤ44、動滑車40、ワイヤ34が上昇する。
【0070】
次に、上述の指部材を3本(指部材1、2、3)有するロボットハンドにおける駆動機構について、図3、4に基づき説明する。
【0071】
図3に示すように、ロボットハンド100は、駆動モータ(駆動装置)86を備えており、駆動モータ86の駆動軸には、駆動プーリ88が固定されている。駆動プーリ88には、インナーワイヤ90が巻き掛けられ、このインナーワイヤ90の一端側および他端側は、それぞれコイル状の蛇腹管(アウターチューブ)92に通された後、減速機(例えば、ハーモニックドライブ「ハ−モニツク・ドライブ・システムズ社の登録商標」)98の入力軸に取り付けられている入力軸プーリ96に巻き掛けられ、ループ状にされている。
【0072】
蛇腹管92は、一端および他端がロボット本体に12にそれぞれ固定され、蛇腹管92に通されているインナーワイヤ90と蛇腹管92とは緊密となっている。このため、インナーワイヤ90は、蛇腹管92の経路を案内されるので、蛇腹管92が屈曲しても、駆動プーリ88からの回転力を入力軸プーリ96へ、確実に伝える。
【0073】
また、減速機98の出力軸には、出力軸プーリ(駆動滑車)97が取り付けられている。図4に示されるように、この出力軸プーリ97には、一方向へ第2駆動ワイヤ89が複数回巻き掛けられ、他方向へ第1駆動ワイヤ91が複数回巻き掛けられた後固定されている。
【0074】
この第1駆動ワイヤ91は、指部材1の屈曲用の動滑車48、ロボットハンド本体12に設けられた基部プーリ(本体滑車)93A、指部材2の屈曲用の動滑車48、ロボットハンド本体12に設けられた基部プーリ(本体滑車)93C、指部材3の屈曲用の動滑車48に、順に巻き掛けられ、第1駆動ワイヤ91の先端は、ハンド本体12に固定されている。
【0075】
一方、第2駆動ワイヤ89は、指部材1の伸展用の動滑車49、ロボットハンド本体12に設けられた基部プーリ(本体滑車)93B、指部材2の伸展用の動滑車49、ロボットハンド本体12に設けられた基部プーリ(本体滑車)93D、指部材3の伸展用の動滑車49に、順に巻き掛けられ、第1駆動ワイヤ91の先端は、ハンド本体12に固定されている。なお、動滑車48、基部プーリ93A〜93Dおよび動滑車49は、ボールベアリング(図示省略)で軸支されている。また、第2駆動ワイヤ89および第1駆動ワイヤ91は、一本の駆動ワイヤで構成されていても構わない。
【0076】
この構成により、駆動モータ86を正転させると、駆動プーリ88、インナーワイヤ90、入力軸プーリ96、減速機98を介して、出力軸プーリ97が正転し、第1駆動ワイヤ91が出力軸プーリ97に巻き取られ、出力軸プーリ97から巻き出されている部分が短くなることにより、指部材1、2、3の各々の動滑車48が下方に移動する。このとき、第2駆動ワイヤ89は巻き戻され、動滑車49は、動滑車48の下方変位分、上方へ変位し、指部材1、2、3の各々のリンク材18,24,30が屈曲する。
【0077】
また、各リンク材にかかる負荷が大きい指部材ほど、動滑車48の下方への変位は小さくなり、各リンク材の屈曲変化は小さく抑えられ、各リンク材にかかる負荷が小さい指部材ほど、動滑車48の下方への変位は大きく小さくなり、各リンク材の屈曲変化も大きくなる。
【0078】
また、上述のように、動滑車48および基部プーリ93A〜93Dは、ボールベアリングで支持されているので、摩擦が小さく、第1駆動ワイヤ91の張力は均衡し、各指部材への駆動トルクが等しくなる。すなわち、各指部材の負荷が等配分される。このため、把持物体に馴染んで負荷を分担した柔軟な把持が可能となる。
【0079】
また、駆動モータ86を逆転させると、駆動プーリ88、インナーワイヤ90、入力軸プーリ96、減速機98を介して、出力軸プーリ97が逆転し、第2駆動ワイヤ89が出力軸プーリ97に巻き取られ、出力軸プーリ97から巻き出されている部分が短くなることにより、指部材1、2、3の各々の動滑車49が下方に移動する。このとき、第1駆動ワイヤ91は巻き戻され、動滑車48は、動滑車49の下方変位分、上方へ変位し、指部材1、2、3の各々のリンク材18,24,30を伸展する。
【0080】
なお、本実施形態では、出力軸プーリ97に、第1駆動ワイヤ91及び第2駆動ワイヤ89が複数回巻き掛けられているが、この構成に加えて又はこの構成に替えて、入力軸プーリ96に巻き掛けられたインナーワイヤ90についても、同様に、駆動プーリ88へ複数回巻き掛けてもよい。すなわち、図4に示すのと同様に、インナーワイヤ90の一端側を駆動プーリ88に一方向へ複数回巻き掛けた後、駆動プーリ88に固定し、インナーワイヤ90の他端側を駆動プーリ88に他方向へ複数回巻き掛けた後、駆動プーリ88に固定してもよい。 この構成によれば、低トルクのところ(減速機の上流側)で正回転、逆回転の範囲を規制できる利点がある。
【0081】
また、各指部材の伸展動作をバイアスばねの付勢力を利用して行う機構が従来からあるが、この機構では、各リンク材18,24,30を屈曲角度が大きくなると、バイアスばねが抵抗になり、把持力が低下する。また、伸展動作の速度がバイアスばねの特性のみによって、決定されるのでその速度の制御ができない。本実施の形態では、駆動モータ86を逆転させることにより、各リンク材18,24,30を伸展させるので、各リンク材18,24,30を屈曲させた場合に把持力が低下することなく、また、各リンク材18,24,30の伸展動作の速度を制御することが容易となる。
【0082】
また、減速機98は、駆動モータ86で駆動されるインナーワイヤ90の下流側に設けられ、インナーワイヤ90を介して伝達される回動力が、低速、高トルクの回動エネルギーに変換されて、動滑車48および動滑車49に伝達される。
【0083】
このため、指部材1、2、3側の第1駆動ワイヤ91および第2駆動ワイヤ89の張力を減速機98で増大させても、インナーワイヤ90の張力は高くなることがなく、各リンク材18、24、30の把持力が高められる。従って、蛇腹管92とインナーワイヤ90との間の摩擦が軽減し、蛇腹管92とインナーワイヤ90との間の摩擦に起因するヒステリシス摩擦特性が低減され、滑らかな制御が可能となる。
【0084】
また、インナーワイヤ90の張力を小さく維持でき、剛性の低い蛇腹管92を使用することができるので、蛇腹管92を設置場所に応じて変形できるので、蛇腹管92とインナーワイヤ90との配設の自由度が増す。
【0085】
次に、指部材を3本(指部材1、2、3)有するロボットハンドにおける上述の駆動機構の他の例について、図5、6に基づき説明する。なお、上述の駆動機構と同一の部分には、同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0086】
図5に示すように、一端側が一方向へ出力軸プーリ97に複数回巻き掛けられた第1駆動ワイヤ91の他端側は、動滑車85が軸支されるフレーム83へ固定されている。動滑車85には、第3駆動ワイヤ81が半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車85を懸架(吊下支持)している。第3駆動ワイヤ81の一端側は、指部材3の屈曲用の動滑車46を軸支するフレーム50へ固定され(図6参照)、第3駆動ワイヤ81の他端側は、動滑車77を軸支するフレーム79へ固定されている。動滑車77には、第4駆動ワイヤ57が半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車77を懸架(吊下支持)している。第4駆動ワイヤ57の一端側は、図6に示すように、指部材2の屈曲用の動滑車46を軸支するフレーム50へ固定され、第4駆動ワイヤ57の他端側は、指部材1の屈曲用の動滑車46を軸支するフレーム50へ固定されている。
【0087】
また、一端側が一方向へ出力軸プーリ97に複数回巻き掛けられた第2駆動ワイヤ89の他端側は、動滑車75が軸支されるフレーム73へ固定されている。動滑車75は、ボールベアリングで支持され、動滑車75には、第5駆動ワイヤ71が半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車75を懸架(吊下支持)している。第5駆動ワイヤ71の一端側は、指部材3の伸展用の動滑車47を軸支するフレーム51へ固定され(図6参照)、第5駆動ワイヤ71の他端側は、動滑車67を軸支するフレーム69へ固定されている。動滑車67は、ボールベアリングで支持され、動滑車67には、第6駆動ワイヤ55が半周に渡って巻き掛けられると共に、この動滑車67を懸架(吊下支持)している。第6駆動ワイヤ55の一端側は、図6に示すように、指部材2の伸展用の動滑車47を軸支するフレーム51へ固定され、第6駆動ワイヤ55の他端側は、指部材1の伸展用の動滑車47を軸支するフレーム51へ固定されている。
【0088】
さらに、動滑車85及び動滑車77の回転軸は、上述の動滑車40のように、それぞれブッシュ61、ブッシュ59で支持されている。
【0089】
この構成により、物体を把持する前の各指部材1、2、3に負荷がかかっていない状態から物体を把持する過程において、出力軸プーリ97で第1駆動ワイヤ91を巻き取り、フレーム83を引っ張り、動滑車85を下方に変位させたときに、第3駆動ワイヤ81の一端側および他端側がほぼ一様に下方に変位し、さらに、第4駆動ワイヤ57の一端側および他端側がほぼ一様に下方に変位する。このため、各指部材1、2、3が互いに連動してほぼ同量だけ屈曲することになる。
【0090】
なお、このように構成した場合は、動滑車85とブッシュ61との間で生じる摩擦分、第3駆動ワイヤ81の一端側および他端側とに作用する力に不均衡がおき、第3駆動ワイヤ81の一端側および他端側に作用する力は、完全に均一に配分されるのではなく、近似的に配分されるものとなり、また、動滑車77とブッシュ59との間で生じる摩擦分、第4駆動ワイヤ57の一端側および他端側に作用する力に不均衡がおき、第4駆動ワイヤ57の一端側および他端側に作用する力とは、完全に均一に配分されるのではなく、近似的に配分されるものとなる。
【0091】
また、ブッシュで摩擦を付けない場合は、常に、第3駆動ワイヤ81の一端側および他端側に作用する力が均一になり、第4駆動ワイヤ57の一端側および他端側に作用する力が均一になるため、把持前から把持状態に移行するときの各指部材1、2、3の姿勢の変化が生ずる可能性があるが、本実施の形態では、動滑車85の回転軸とブッシュ61との間、動滑車77の回転軸とブッシュ59との間、に意図的な摩擦を生じさせているので、第3駆動ワイヤ81の一端側および他端側のいずれか一方のみが変位することが抑制され、第4駆動ワイヤ57の一端側および他端側のいずれか一方のみが変位することが抑制され、把持前から把持状態に移行するときの変化を小さく抑えられる。
【0092】
なお、本実施形態では、動滑車85および動滑車77の回転軸はそれぞれブッシュ61ブッシュ59に支持されているが、動滑車85および動滑車77の回転軸を支持する支持部としては、ブッシュに限られず、意図的に回転抵抗を大きくするものであれば、他の支持部を用いても良い。
【0093】
また、本実施形態に係る第4駆動ワイヤ57は、請求項6の駆動ワイヤに相当し、本実施形態に係る動滑車77は、請求項6の駆動ワイヤ用動滑車に相当し、本実施形態に係るブッシュ59は、請求項6の駆動ワイヤ抑制手段に相当する。本実施形態に係る第3駆動ワイヤ81を、請求項6の駆動ワイヤとみたときは、本実施形態に係る動滑車85は、請求項6の駆動ワイヤ用動滑車に相当し、本実施形態に係るブッシュ61は、請求項6の駆動ワイヤ抑制手段に相当する。
【0094】
次に、上記実施の形態について作用を説明する。
【0095】
駆動モータ86を正転させると、駆動プーリ88、インナーワイヤ90、入力軸プーリ96、減速機98を介して、出力軸プーリ97が正転し、第1駆動ワイヤ91が巻き取られ、出力軸プーリ97から巻き出されている部分が短くなることにより、指部材1、2、3の各々の動滑車48が下方に移動する(図3参照)。動滑車48が下方に移動すると、動滑車48に連結された動滑車46が下方へ変位し、ワイヤ44の一端側および他端側がほぼ一様に下方に変位し、さらに、ワイヤ34の一端側および他端側がほぼ一様に下方に変位する。このため、各指部材の各リンク材18、24、30が互いに連動してほぼ同量だけ屈曲する(図1参照)。
【0096】
また、物体を把持する際は、負荷が大きいリンク材へ接続されたワイヤの下方変位が小さくなり、負荷が小さいリンク材に接続されたワイヤの下方変位が大きくなる。すなわち、各指部材に作用する力が近似的に配分され、把持物体の形状や大きさに対応した柔軟な把持が可能となる。
【0097】
なお、このとき、第2駆動ワイヤ89は巻き戻され、動滑車49は、動滑車48の下方変位分、上方へ変位し、それに連動して、動滑車49、動滑車47、逆巻きワイヤ45、動滑車41、逆巻きワイヤ35が上昇する。
【0098】
駆動モータ86を逆転させると、駆動プーリ88、インナーワイヤ90、入力軸プーリ96、減速機98を介して、出力軸プーリ97が逆転し、第2駆動ワイヤ89が出力軸プーリ97に巻き取られ、出力軸プーリ97から巻き出されている部分が短くなることにより、指部材1、2、3の各々の動滑車49が下方に移動する(図3参照)。動滑車49が下方に移動すると、それに連動して動滑車47、逆巻きワイヤ45、動滑車41、逆巻きワイヤ35が下方に移動し、各指部材の各リンク材18、24、30が伸展する(図1参照)。
【0099】
なお、このとき、第1駆動ワイヤ91は巻き戻され、動滑車48は、動滑車49の下方変位分、上方へ変位し、それに連動して、動滑車46、ワイヤ44、動滑車40、ワイヤ34が上昇する。
【0100】
なお、上記実施の形態では、リンク材24が、請求項1の第1リンク材に相当すると説明したが、リンク材18を請求項1の第1リンク材とみれば、基台14、リンク材24、ワイヤ44、動滑車46、ブッシュ56がそれぞれ、請求項1の基体、第2リンク材、ワイヤ、動滑車、抑制手段に相当し、第1ブレーキ62、第2ブレーキ64がそれぞれ請求項4の第1制動装置、第2制動装置に相当する。
【0101】
また、上記実施の形態では、3つのリンク材が連結された構成について説明したが、本発明の概念としては、上記の実施の形態のように、3つのリンク材が連結された構成に限らず、2つの又は4つ以上のリンク材が連結したものでも良い。
【0102】
例えば、リンク材18、リンク材24のみを設け、ワイヤ44の一端側を第1固定滑車20Aに巻き掛け固定し、ワイヤ44の他端側を第2固定滑車26Bに巻き掛け固定し、逆巻きワイヤ45の一端側を第1固定滑車20Bに巻き掛け固定し、逆巻きワイヤ45の他端側を第2固定滑車26Aに巻き掛け固定する構成が可能である。
【0103】
なお、この場合においては、基台14、リンク材18、リンク材24、ワイヤ44、動滑車46、ブッシュ56がそれぞれ、請求項1の基体、第1リンク材、第2リンク材、ワイヤ、動滑車、抑制手段に相当する。また、第1ブレーキ62、第2ブレーキ64がそれぞれ請求項4の第1制動装置、第2制動装置に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1(A)は、1本の指部材を示す正面図があり、図1(B)は、1本の指部材を示す側面図である。
【図2】図2(A)は、ブレーキを示す左側面図であり、図2(B)は、ブレーキを示す正面図であり、図2(C)は、ブレーキを示す底面図である。
【図3】図3は、本実施の形態に係るロボットハンドの駆動機構を示す図である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る減速機の出力軸プーリへのワイヤの巻き掛け方法を示す図である。
【図5】図5は、本実施の形態に係るロボットハンドの駆動機構の他の例を示す図である。
【図6】図6は、本実施の形態に係るロボットハンドの駆動機構の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
10 指部材
18 リンク材(基体)
24 リンク材(第1リンク材)
30 リンク材(第2リンク材)
34 ワイヤ
40 動滑車
54 ブッシュ(抑制手段)
57 第4駆動ワイヤ(駆動ワイヤ)
59 ブッシュ(駆動ワイヤ抑制手段)
63 第3ブレーキ(第1制動装置)
65 第4ブレーキ(第2制動装置)
66 ブロック(押し当て部材)
70 ロッド(押し当て部材)
76 ポール(てこ部材)
77 動滑車(駆動ワイヤ用動滑車)
80 バイアスばね(ばね)
82 形状記憶合金(収縮部材)
84 電源
86 駆動モータ(駆動装置)
92 蛇腹管(アウターチューブ)
98 減速機
100 ロボットハンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に一端部が回動可能に取り付けられた第1リンク材と、
前記第1リンク材の他端部に回動可能に取り付けられた第2リンク材と、
一端が前記第1リンク材に接続され、他端が前記第2リンク材に接続されて張力によって前記第1リンク材および前記第2リンク材を同一方向へ回動させるワイヤと、
前記ワイヤの中間部に懸架されて前記第1リンク材および前記第2リンク材へ前記ワイヤの張力を与える動滑車と、
前記動滑車の移動力で前記ワイヤの一端側および前記ワイヤの他端側を均しく変位させる抑制手段と、
を有する複数の指部材と、
各指部材の前記動滑車を変位させ、各々の前記ワイヤを介して各々の前記第1リンク材及び前記第2リンク材を回動させる駆動手段と、
を備えたことを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記抑制手段は、前記動滑車の回転軸へ摩擦を生じさせるブッシュであることを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記複数の指部材の各々は、
前記第1リンク材に接続された前記ワイヤの一端側の変位を制動する第1制動装置と、
前記第2リンク材に接続された前記ワイヤの他端側の変位を制動する第2制動装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記第1制動装置および前記第2制動装置の各々は、
前記ワイヤを制動装置本体へ押し当てる押し当て部材と、
前記押し当て部材に中間部が連結され、一端部を支点に他端部が所定方向へ回動することにより、前記ワイヤが前記制動装置本体へ押し当てられる方向へ前記押し当て部材を変位させるてこ部材と、
前記てこ部材の他端部に取り付けられ、前記てこ部材の他端部を前記所定方向と反対方向へ付勢するばねと、
前記てこ部材の他端部に取り付けられ、電流が供給されて収縮することにより、前記ばねの付勢力に対抗して前記てこ部材の他端部を前記所定方向へ回動させる収縮部材と、
前記収縮部材に電流を供給する電源と、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記駆動手段からの駆動力を各指部材の前記動滑車へ伝達し、アウターチューブに通されたインナーワイヤと、
前記インナーワイヤと各指部材の前記動滑車との間に配置され、前記インナーワイヤから伝達される駆動力を減速して、各指部材の前記動滑車へ伝達する減速機と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記駆動手段は、
一の指部材の前記動滑車へ一端が接続され、他の指部材の前記動滑車へ他端が接続されて張力によって各指部材の前記動滑車を変位させる駆動ワイヤと、
前記駆動ワイヤの中間部に懸架されて各指部材の前記動滑車へ前記駆動ワイヤの張力を与える駆動ワイヤ用動滑車と、
前記駆動ワイヤ用動滑車の移動力で前記駆動ワイヤの一端側および前記駆動ワイヤの他端側を均しく変位させる駆動ワイヤ抑制手段と、
前記駆動ワイヤ用動滑車を変位させ、前記駆動ワイヤを介して各指部材の前記動滑車を変位させる駆動装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のロボットハンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−224229(P2006−224229A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39457(P2005−39457)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】